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バラ目バラ科の植物、およびその果実 ウィキペディアから
ナシ(梨)は、バラ科ナシ属の植物、もしくは果物として食用にされるその果実のこと。
ナシ Pyrus pyrifolia | ||||||||||||||||||||||||||||||
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ナシの木(品種は豊水) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai (1926)[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ナシ(梨) | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Nashi Pear Sand Pear Russet apple pear Japanese pear[3] |
主なものとして、和なし(日本なし、Pyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri ) 、洋なし(西洋なし、P. communis )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの和なしを指し、本項でもこれについて説明する。他のナシ属はそれぞれの項目を参照のこと。
ナシ(和なし、日本なし)は、日本の本州、四国、九州に生育する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を原種とし、改良・作出された栽培品種群のことである[4]。果物としてなじみがあり、よく知られるものに、二十世紀、長十郎、幸水、豊水、新高、あきづきなどの品種がある。
高さ15メートル (m) ほどの落葉高木であるが、栽培では棚状にして低木に仕立てられる[5]。樹皮は灰褐色で縦に裂ける[5]。一年枝は緑褐色で有毛ときに無毛で、短枝も多い[5]。冬芽は鱗芽で、長卵形や円錐形で暗赤褐色をしており、7 - 10枚つく芽鱗の先が尖る[5]。枝先には頂芽がつき側芽が枝に互生し、頂芽は側芽よりも大きい[5]。葉は長さ12センチメートル (cm) 程の卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。葉痕は三角形やV形で、維管束痕が3個つく[5]。
花期は4月ごろで、葉の展開とともに5枚の白い花弁からなる花を付ける。8月下旬から11月ごろにかけて、黄褐色または黄緑色でリンゴに似た直径10 - 18 cm程度の球形の果実がなり、食用とされる。果肉は白色で、甘く果汁が多い。リンゴやカキと同様、尻の方が甘みが強く、一方で芯の部分は酸味が強いためあまり美味しくない。水気が多くてシャリシャリ、サクサクとした独特の食感がナシの特徴だが[4]、これは石細胞と呼ばれるものによる[6]。石細胞とは、ペントサンやリグニンという物質が果肉に蓄積することで細胞壁が厚くなったものである[6]。洋なしは和なしよりも石細胞の量が少ないために、洋梨と和梨とでは食感に大きな差が生じる。
野生のもの(ヤマナシ)は直径が概ね2 - 3 cm程度と小さく、果肉が硬く味も酸っぱいため、あまり食用には向かない。ヤマナシは人里付近にしか自生しておらず、後述のように本来日本になかった種が、栽培されていたものが広まったと考えられている。なお、日本に原生するナシ属にはヤマナシの他にもミチノクナシ(イワテヤマナシ) (Pyrus ussuriensis var. ussuriensis) 、アオナシ(Pyrus ussuriensis var. hondoensis、和なしのうち二十世紀など果皮が黄緑色のものを総称する青梨とは異なることに注意)、マメナシ (Pyrus calleryana) がある。
ナシの語源には諸説ある。
また、ナシという名前は「無し」に通じることからこれを嫌って、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という呼称が用いられることがある(忌み言葉)[7]。一方で「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、鬼門の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良さを願う利用法も存在する。
英語圏では多くの呼び名がある。
日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代ごろとされ[8]、登呂遺跡などから多数食用にされたとされる根拠の種子などが見つかっている。ただし、それ以前の遺跡などからは見つかっていないこと、野生のナシ(山梨)の自生地が人里周辺のみであることなどにより、アジア大陸から人の手によって持ち込まれたと考えられている。文献に初めて登場するのは『日本書紀』であり、持統天皇の693年の詔において五穀とともに「桑、苧、梨、栗、蕪菁」の栽培を奨励する記述[9]がある。
記録上に現れるナシには巨大なものがあり、5世紀の中国の歴史書『洛陽伽藍記』には重さ10斤(約6キログラム)のナシが登場し、『和漢三才図会』には落下した実にあたって犬が死んだ逸話のある「犬殺し」というナシが記述されている[10][11]。
江戸時代には栽培技術が発達し、日本で最古の梨栽培指南書 新潟市有形文化財に指定されている阿部源太夫著「梨栄造育秘鑑」[12]では100を超す品種が果樹園で栽培されていたと記録がある。松平定信が記した『狗日記』によれば、「船橋のあたりいく。梨の木を、多く植えて、枝を繁く打曲て作りなせるなり。かく苦しくなしては花も咲かじと思ふが、枝のびやかなければ、花も実も少しとぞ。」と記載があり、現在の市川市から船橋市にかけての江戸近郊では、江戸時代後期頃には、既に梨の栽培が盛んだった事がわかっている。
明治時代には、現在の千葉県松戸市において二十世紀が、現在の神奈川県川崎市で長十郎がそれぞれ発見され、その後、長らくナシの代表格として盛んに生産されるようになる。一時期は日本の栽培面積の8割を長十郎で占めるほどであった。また、それまでは晩生種ばかりだったのだが、多くの早生種を含む優良品種が多数発見され、盛んに品種改良が行われた。
20世紀前半は、二十世紀と長十郎が生産量の大半を占めていたが、太平洋戦争後になると1959年に幸水、1965年に新水、1972年に豊水の3品種(この3品種をまとめて「三水」と呼ぶこともある)が登場し普及した。そのため、現在では長十郎の生産はかなり少なくなっている。
ナシの種子は乾燥に弱く、播種の際には注意を要する。発芽後は植木鉢へ移して個別に栽培し、十分に生育してから圃場へ移す。定植された苗は長さ数cmにもなる棘を付けるが、これはバラ科としての形態形質の一端である。ちなみに、この棘はナシの幼若期に特有のものであり、花芽形成が始まる頃に伸びる枝には棘がない。
ナシの花弁は通常白色、5枚の離弁が基本であるが、色や花弁数には変異がある。また、おしべは約20本、花柱は5本である。ナシは本来虫媒花であるが、自家不和合性(同じ品種間では結実しない性質)が強く、栽培される場合には経済的な理由から他品種の花粉によって人工受粉が行われる。雌蕊(めしべ)の柱頭に付着した花粉は発芽し、花粉管を伸長して胚珠に到達、重複受精を行う。果実の育成は植物ホルモンの影響を受ける為、人工的にこれを添加する事も行われる。また、結実数が多すぎる(着果過多)場合には、商品となる果実の大きさを維持する為に摘果が行われる。
ナシは種子植物であり、果実内には一個 - 十数個の種子が形成される。天然では鳥などにより種子が散布されるが、改良品種で種子繁殖が行われる事は稀であり、通常は接ぎ木によって増やされる。台木には和なしの他、マンシュウマメナシやチュウゴクナシ、マルバカイドウも用いられる。
また、本来ナシは高さ10メートル程になる高木だが、果樹栽培の際には台風などの風害を避けるため、十分な日照を確保するために、棚仕立て(平棚に枝を誘導し、枝を横に広げる矮性栽培方法)が用いられる。
因子型 | 品種 |
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S1S2 | 赤穂、独逸、早玉 |
S1S4 | 八雲、翠星 |
S1S5 | 明月、市原早生 |
S1S6 | 今村秋 |
S2S3 | 長十郎、青長十郎、青竜、武蔵 |
S2S4 | 二十世紀、六月、早生長十郎、菊水、祇園、早生二十世紀 |
S2S5 | 須磨、駒沢、愛宕 |
S3S4 | 筑水、秋麗、なつしずく、あきづき、香麗、なつみず |
S3S5 | 丹沢、豊水、あけみず |
S3S9 | 新高 |
S4S5 | 早生赤、太白、幸水、新水、旭、多摩、秀玉、喜水、王秋 |
S4S9 | 新興、新星 |
S5S7 | 晩三吉 |
ナシは同じ品種間で結実しない(自家不和合性)だけでなく、違う品種間でも結実しない(交配不親和性)組み合わせが多い。これらはS因子という遺伝子によるもので、S1 - S9の9種類が存在する。通常の細胞には2つのS因子があり、花粉や卵細胞はそのいずれか一方を持つ。受粉時に雌蕊のS因子の一方と花粉のS因子とが一致した場合には、S因子が一致する花粉管のRNAが分解される。これは雌蕊側のS-RNase(S因子産物)の働きによるもので、結果として花粉管が伸長せずに受精に至らず、結実しないのである。
ナシの栽培は古くからあったが、品種名が文献に現れるのは江戸幕府が行った特産品調査(1735年)である。当時既に150もの品種が記録されている。品種改良は20世紀初め頃から行われるようになった。2020年現在では幸水、豊水への寡占化が進み、両種だけで収穫量の65%を占める[13]。その他の品種を含めても、現在栽培されるのはいずれも19世紀後半 - 21世紀前半に発見あるいは交配された品種である。
ナシの品種は、果皮の色から黄褐色の赤梨系と、淡黄緑色の青梨系に分けられる[14]。多くの品種は赤梨系で、青梨系の品種は二十世紀、八雲、菊水、新世紀、秋麗、瑞秋(二十一世紀梨)など少数である。この色の違いは、果皮のコルク層によるもので、青梨系の果皮はクチクラ層に覆われており黄緑色となるが、赤梨系の品種では初夏にコルク層が発達し褐色となる。
和梨と洋梨を問わず、ナシの品種は、果皮の色から大きく4つに分けられる。幸水梨などの赤茶色系のラセットタイプ(Russet pear)、リンゴのように赤い赤色系のレッドタイプ(Red pear)、中国梨のように黄色い黄色系のイエロータイプ(Yellow pear)、二十世紀梨などの青色系のグリーンタイプ(Green pear)などがある。レッドタイプとイエロータイプの中間種でピンクタイプなども存在する。
幸水(こうすい)は赤梨系の早生種で、和なし生産の39%を占める最も生産量の多い品種である[13]。なし農林3号。
農研機構(旧園芸試験場)が1941年に菊水に早生幸蔵を掛け合わせて作り、1959年に命名・発表された。早生種の中でも特に収穫時期が早く、8月中旬から下旬である[14]。ただし、収穫時期が短い。赤梨系だが中間色(中間赤梨)と言い、若干黄緑色の地色が出る。酸味は少なく糖度が高い[14]。果肉は柔らかく果汁も多い[14]。早生種としては平均的な方だが、日持ちが短い。
豊水(ほうすい)は赤梨系の中生種で、和なし生産の26%を占める生産量第2位の品種である。なし農林8号。
農研機構(旧果樹試験場)によって1954年に作られ、1972年に命名された。糖度が高いが、ほどよく酸味もある濃厚な味が特徴。300 - 400 gと幸水よりやや大きめで、果汁が多い[8]。また、日持ちも幸水よりは長い[8]。長らくリ-14号と八雲の交配種とされていたが、2003年に農研機構のDNA型鑑定によって幸水とイ-33の交配種であると発表された。
新高(にいたか)は赤梨系の晩生種で、和なし生産の9%を占める生産量第3位の品種である。
菊地秋雄が東京府立園芸学校の玉川果樹園で天の川と長十郎を交配させて作った品種で、1927年に命名された。名前の由来は当時日本で一番高い山であった台湾の新高山(玉山)より[15]。当時の命名基準では国内の地名を用いることになっており、優れた品種であることから、日本で一番高い山の名称を用いたという[注 1]。収穫時期は、10月中旬から11月中旬。500グラム - 1キログラム程度の大型の品種で、果汁が多く、歯ごたえのある食感で、味は酸味が薄く甘い[8]。洋なしほどではないが芳香もある。比較的日持ちが良い。
あきづきは赤梨系の中生種[3]で、和なし生産の6%を占める生産量第4位の品種である。なし農林19号。
162-29(新高と豊水の交配種)に幸水を掛け合わせ、2001年に品種登録された。名前は収穫期が秋であることと、豊円形の果実を月に見立てて命名された。500グラム程度の大玉で、収穫時期は9月頭から10月上旬。糖度は12度程度と豊水と同等だが、酸味がほとんどないため非常に甘く感じる。果肉は柔らかいが適度なシャリ感もある。生産者視点でも黒班病に対する抵抗性や、豊水の後に出荷できるなどのメリットが多く、近年全国的に生産量が急増している。
二十世紀(にじっせいき)[16][17]は青梨系の中生種で、和なし生産の5%を占める生産量第5位の品種である[13]。また、鳥取県産なしの8割を占める。300g前後の中玉[8]。
青梨系の代表品種で、一般的な唯一の青梨。1888年に千葉県大橋村(現在の松戸市)で、当時13歳の松戸覚之助が、親類宅のゴミ捨て場に生えていたものを発見、移植して育てた。覚之助はこれを「新太白」と名付けたが、実がなった1898年に渡瀬寅次郎によって、来たる新世紀(20世紀)における代表的品種になるであろうとの観測と願望を込めて新たに命名された[18][19]。その後、1904年に北脇永治によって鳥取県に導入され、鳥取県の特産品となった。同県倉吉市には専門のミュージアム「鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館」(倉吉パークスクエア内)があり、花は鳥取県の県花に指定されている。
発祥の地は後に「二十世紀が丘梨元町」と名付けられ、覚之助の業績を記念している[18]が、発祥の松戸市を含む関東地方では幸水や豊水が主で、現在殆ど栽培されなくなっている。二十世紀梨の原木は1935年(昭和10年)に国の天然記念物に指定されたが、1947年(昭和22年)に枯死しており、原木の一部が松戸市立博物館に展示されている(松戸市指定有形文化財)[20]。松戸市の二十世紀が丘梨元町にある二十世紀公園には二十世紀梨誕生の地の碑がある(松戸市指定文化財)[21]。
果皮は黄緑色、甘みと酸味のバランスが良いすっきりした味わいで、果汁が多い[19]。収穫時期が比較的遅く、(水分の多い)梨の需要が見込まれる夏・初秋に収穫できないのが欠点でもある。自家受粉が出来ない(これは二十世紀に限らず)、黒斑病に非常に弱いといった欠点を改良した品種もある(後述)。
ナシは沖縄県を除く日本各地、北海道南部(但し、北部でも栽培収穫の例がある)から鹿児島県まで広く栽培されており、31都府県で累年統計をとっている。そのため、主産県でも収穫量におけるシェアはそれほど高くなく、上位10県合計でも全体の7割弱である。産地は東日本と九州地方に集中しており、特に関東地方で半数を超える。土壌は火山灰土、砂地などが栽培適地となっているほか、風害の影響を受けやすいため、盆地や山間の扇状地に産地が発達している。
なお、主要産地の地方自治体ではナシの大敵である赤星病対策として、ビャクシン類の植栽を規制する条例を設けているところが多い。
2018年の各県の和梨収穫量は、1位から順に、千葉県、茨城県、栃木県、福島県、鳥取県、長野県だった[33]。これらの県の収穫量はそれぞれ1万トンを超え、千葉県の収穫量は3万400トン(13%)だった。
和なし収穫量上位10県における、和梨合計と主要品種の収穫量・シェアを以下に示す。(出典:農林水産省統計情報、2006年)
和なし合計 | 幸水 | 豊水 | 二十世紀 | 新高 | ||||||
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収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | |
全国合計 | 290,900 t | 98,300 t | 87,300 t | 39,000 t | 32,300 t | |||||
千葉県 | 34,900 t | 12% | 14,500 t | 15% | 12,300 t | 14% | 217 t | 1% | 6,000 t | 19% |
茨城県 | 29,200 t | 10% | 12,600 t | 13% | 12,600 t | 14% | 15 t | 0% | 3,000 t | 9% |
鳥取県 | 23,400 t | 8% | 778 t | 1% | 1,480 t | 2% | 18,400 t | 47% | 360 t | 1% |
福島県 | 22,300 t | 8% | 9,000 t | 9% | 8,390 t | 10% | 2,620 t | 7% | 1,220 t | 4% |
長野県 | 19,400 t | 7% | 5,410 t | 6% | 4,500 t | 5% | 4,970 t | 13% | 201 t | 1% |
栃木県 | 19,200 t | 7% | 7,270 t | 7% | 8,710 t | 10% | 2 t | 0% | 1,380 t | 4% |
新潟県 | 15,500 t | 5% | 3,370 t | 3% | 2,480 t | 3% | 2,290 t | 6% | 3,130 t | 10% |
埼玉県 | 11,900 t | 4% | 6,600 t | 7% | 3,620 t | 4% | 2 t | 0% | 1,180 t | 4% |
熊本県 | 11,200 t | 4% | 2,600 t | 3% | 3,380 t | 4% | 227 t | 1% | 3,840 t | 12% |
福岡県 | 10,300 t | 4% | 4,970 t | 5% | 3,570 t | 4% | 303 t | 1% | 818 t | 3% |
ナシの主な利用法は食用で、調理加工に不向きな特性があるのでほぼ生食に限られる。旬の時期は、和梨が9 - 10月ごろ、洋梨は10 - 12月ごろとされる[8]。一般的なナシの剥き方はリンゴに類似したもので、縦に8等分などして、皮を剥き中心部を取り除く方法である。また、シロップ漬けの缶詰にも利用されるが、ナシ単独の缶詰が売られていたり、それを食したりすることは稀であり、他の果物と混ぜてミックスフルーツとして販売・食用とされることが多い。シャリシャリとした独特の食感があり、これはリグニンやペントサンなど「石細胞」によりもたらされる[6]。この細胞は、食物繊維と同じ働きがあり、整腸作用がある[6]。なめらかな食感を持つ洋梨とは対照的であり、英語では、洋梨をバターペア(バターの梨)、日本梨をサンドペアー(砂の梨)と呼ぶ[6]。
加工品としては清涼飲料水や、ゼリー、タルトなどの洋菓子に利用されているが、洋梨と比べるとそれらを見かける機会は少ない。料理に用いられることは冷麺の具として用いる以外ほぼないが、産地などでは梨カレーなどといったレシピも開発されている[61]。
ナシはポリフェノール系化合物による褐変を起こしやすい食材であり、食塩水につけるなどの方法がとられる[62]。フルーツサラダに加える場合は食塩水に代えて他の果物の缶詰内にある果汁を使用することもできる[62]。
ナシはタンパク質分解酵素を持っているため、生の状態ですり下ろしたものを焼肉やプルコギなどの漬け込みだれとして利用するレシピがある。
一大産地の千葉県鎌ケ谷市、白井市では1980年代末に梨ワイン、梨ブランデーを商品化した。このほか、千葉県いすみ市、埼玉県久喜市、秋田県男鹿市でも梨ワインが生産されている[注 2]。
洋梨は、果実酒(ペアサイダー)、蒸留酒(ブランデー)などに利用されているが、和なしでの梨ワイン、梨ブランデーの生産は、現在、日本のみである。
2010年代より、二十世紀梨の産地である鳥取県や隣接する兵庫県但馬地方において、「梨のスパークリングワイン」の名称で和梨のシードル(ペアサイダー)も商品化されている。千葉県鎌ケ谷市でも2012年から、豊水を原料とするスパークリングワインが商品化された(1980年代末から商品化されている梨ワインの原料は幸水)。
和梨および洋梨の発泡酒は、酒税法第3条によると、発泡性酒類のその他の発泡性酒類に分類される。
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 180 kJ (43 kcal) |
11.3 g | |
デンプン 正確性注意 | 8.3 g |
食物繊維 | 0.9 g |
0.1 g | |
飽和脂肪酸 | (0.01) g |
一価不飽和 | (0.02) g |
多価不飽和 | (0.02) g |
0.3 g | |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(2%) 0.02 mg |
ナイアシン (B3) |
(1%) 0.2 mg |
パントテン酸 (B5) |
(3%) 0.14 mg |
ビタミンB6 |
(2%) 0.02 mg |
葉酸 (B9) |
(2%) 6 µg |
ビタミンC |
(4%) 3 mg |
ビタミンE |
(1%) 0.1 mg |
ミネラル | |
カリウム |
(3%) 140 mg |
カルシウム |
(0%) 2 mg |
マグネシウム |
(1%) 5 mg |
リン |
(2%) 11 mg |
亜鉛 |
(1%) 0.1 mg |
銅 |
(3%) 0.06 mg |
他の成分 | |
水分 | 88.0 g |
水溶性食物繊維 | 0.2 g |
不溶性食物繊維 | 0.7 g |
ビオチン(B7) | 0.5 µg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[64]。廃棄部位: 果皮及び果しん部 | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
糖度は11 - 14%程度で、糖分としてはショ糖、果糖、ソルビトール、ブドウ糖(多い順)を含む。酸度は0.1%程度で、リンゴ酸やクエン酸などである[8]。
和梨・洋梨ともに果物としてはビタミンをほとんど含まず、栄養学的な価値は高くない。果物の多くがそうであるように、ナシのほとんどは水分で可食部100 gあたり88 g含まれる。食物繊維は可食部100 gあたり0.9 g含まれる。カリウム(可食部100 gあたり140 mg)は、血液中のナトリウムイオンの増加を防ぎ、高血圧予防に良い[8]。ソルビトールは甘く冷涼感のある糖アルコールで、便秘の予防に効果がある[8]。洋なしではこれによって追熟が起きる。アスパラギン酸はアミノ酸の一種で、疲労回復効果がある。タンパク質分解酵素プロテアーゼの働きで消化を助けたり、肉料理において肉を柔らかくしたりする効果がある。
ナシの花を愛でて、俳句や短歌の素材として詠まれる例は少なくないといわれる[4]。
江戸時代に現在の岐阜県、美濃加納藩主などを務めた永井家の一族家紋として梨紋の図柄が使われた。
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