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ウィキメディアの一覧記事 ウィキペディアから
日本の世界遺産(にっぽんのせかいいさん、にほんのせかいいさん)はユネスコに26件登録されており、文化遺産が21件、自然遺産が5件である。
画像 | ID | 登録名 | 登録年 | 所在地 | 登録基準 | 備考 |
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660 | 法隆寺地域の仏教建造物 | 1993年 | 奈良県 | (1), (2), (4), (6) | ||
661 | 姫路城 | 1993年 | 兵庫県 | (1), (4) | ||
688 | 古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市) | 1994年 | 京都府 滋賀県 | (2), (4) | ||
734 | 白川郷・五箇山の合掌造り集落 | 1995年 | 岐阜県 富山県 | (4), (5) | ||
775 | 原爆ドーム | 1996年 | 広島県 | (6) | 負の世界遺産 | |
776 | 厳島神社 | 1996年 | 広島県 | (1), (2), (4), (6) | ||
870 | 古都奈良の文化財 | 1998年 | 奈良県 | (2), (3), (4), (6) | ||
913 | 日光の社寺 | 1999年 | 栃木県 | (1), (4), (6) | ||
972 | 琉球王国のグスク及び関連遺産群 | 2000年 | 沖縄県 | (2), (3), (6) | ||
1142 | 紀伊山地の霊場と参詣道 | 2004年 | 和歌山県 奈良県 三重県 | (2), (3), (4), (6) | 文化的景観 2016年に軽微な変更 | |
1246 | 石見銀山遺跡とその文化的景観 | 2007年 | 島根県 | (2), (3), (5) | 文化的景観 産業遺産 2010年に軽微な変更 | |
1277 | 平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群― | 2011年 | 岩手県 | (2), (6) | ||
1418 | 富士山―信仰の対象と芸術の源泉 | 2013年 | 静岡県 山梨県 | (3), (6) | ||
1449 | 富岡製糸場と絹産業遺産群 | 2014年 | 群馬県 | (2), (4) | 産業遺産 近代化遺産 | |
1484 | 明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 | 2015年 | 山口県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 鹿児島県 岩手県 静岡県 | (2), (4) | 産業遺産 近代化遺産 稼働遺産 | |
1321 | ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献- | 2016年 | 東京都 | (1), (2), (6) | 現代建築 国境を越える世界遺産 | |
1535 | 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 | 2017年 | 福岡県 | (2), (3) | ||
1495 | 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 | 2018年 | 長崎県 熊本県 | (3) | ||
1593 | 百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群- | 2019年 | 大阪府 | (3), (4) | ||
1632 | 北海道・北東北の縄文遺跡群 | 2021年 | 北海道 青森県 岩手県 秋田県 | (3), (5) | ||
1698 | 2024年 | 新潟県 | (4) | 産業遺産 |
まだ、日本には自然遺産かつ文化遺産の特徴を持つ遺産は存在していない。
なし
現在、47都道府県中28都道府県(北海道、青森県、岩手県、秋田県、栃木県、群馬県、東京都、新潟県、富山県、山梨県、岐阜県、静岡県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、島根県、広島県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県)に世界遺産がある。
なし
日本政府は、登録の前提となる暫定リストに文化遺産4件をリファレンスナンバー(Ref No.[注 2])順に掲載している[3]。英語名は世界遺産センターの暫定リスト[3]、日本語名は文化遺産については文化遺産オンライン[2]による。
画像 | 日本語名 (リスト記載名・英語) | 記載年月 Ref No. | 備考 |
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古都鎌倉の神社・寺院ほか | 1992年10月 Ref No.370 | 「武家の古都・鎌倉」として2012年に推薦されたが、翌年、第37回世界遺産委員会での審議前に「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げた。勧告内容を是正するためのコンセプト修正には相当な時間を要するため、2019年11月に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が文化庁に提出する推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表した。規模は縮小するが基礎研究と文化財調査および整備事業は継続され、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにされた[4]。 | |
Temples, Shrines and other structures of Ancient Kamakura | |||
彦根城 | 1992年10月 Ref No.374 | 姫路城や法隆寺とともに日本で最初の暫定リスト掲載物件となって以来、四半世紀以上を経て、2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[5]、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになり[6]、2021年・2022年と相次いで推薦書原案を提出したが[7][8]、2023年審査予定だった佐渡島の金山が書類不備のため1年順延となったため2024年審査候補の選定は行われないこととなった[9]。2023年7月4日に文化審議会が彦根城の扱いについて、同年から運用が始まった事前評価制度を利用する方針を示した。これは推薦物件の学術的価値を審査する諮問機関(文化遺産の場合はイコモス)が推薦希望物件を推薦前に調査して是正指摘事項などを指導することで登録しやすくするもの。但し、推薦には向かないと示唆される可能性もあり、そうなると推薦は絶望的になる。同年の事前評価制度への申込期限が9月15日で、そこから各種調査調整や制度上の都合もあり、登録審査に漕ぎ着けるには最低でも4年を擁し、最短でも2027年になる[10]。2024年10月9日、事前評価制度の結果が公表され、一定の評価は得られたが、単独ではなく類似する国宝木造天守と連携するシリアルノミネーションが望ましいとの指摘もあった[11]。 | |
Hikone-Jo(castle) | |||
飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群 | 2007年1月 Ref No.5097 | 2022年の登録審査を目指し2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[12]、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになり、2021年・2022年と相次いで推薦書原案を提出したが[13][14]、2023年審査予定だった佐渡島の金山が書類不備のため1年順延となったため2024年審査候補の選定は行われないこととなった[9]。2023年7月4日、文化審議会は追加の法的保護体制強化やなどを理由に2023年の推薦は行わず、2024年に推薦し2026年の登録を目指すとした[15]。 | |
Asuka-Fujiwara: Archaeological sites of Japan’s Ancient Capitals and Related Properties | |||
平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡張) | 2012年9月 Ref No.5760 | 2008年の「登録延期」決議で除外された柳之御所遺跡・達谷窟・白鳥舘遺跡・長者ヶ原廃寺跡・骨寺村荘園遺跡(一関本寺の農村景観)の拡大登録を目指している。 | |
Hiraizumi - Temples, Gardens and Archaeological Sites Representing the Buddhist Pure Land(extension) |
なし
なし
外国から、越境遺産(国境を越える世界遺産)の共同提案の可能性が打診されている事例もある。
文化庁は2006年と2007年に文化遺産候補を全国から公募した。その中には「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、「「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」のように、すでに世界遺産に登録されているものもあり、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」のように暫定リストに記載済みのものもある。また、「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」は「萩城下町」として「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に組み込まれて世界遺産に登録されている。その一方で、暫定リスト入りを果たしていない提案も以下のように多く残っている(カッコ内の年は最初に提案された年)[21][22]。以下の提案は文化審議会によって評価や課題が示されている[23]。
なお、「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」の無形文化財の要素については、無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の構成資産となった。また、ユネスコの遺産事業とは異なるが、日本遺産に組み込まれた例に四国霊場や足利学校および「水戸藩の学問・教育遺産群」と「近世岡山の文化・土木遺産群」の構成資産候補から弘道館・閑谷学校の指定があり[注 4]、阿蘇は世界ジオパークおよび世界農業遺産、宇佐・国東は世界農業遺産、松島は世界で最も美しい湾クラブに登録されるなど、異なる枠組みで評価されている要素を含む物件もある。
自然遺産の候補については、2003年に環境省と林野庁が主催する「世界自然遺産候補地に関する検討会」でリストアップと検証が行われ、その中から、有力候補として知床、小笠原諸島、奄美・琉球が選定された[25][注 7]。その過程で漏れた候補は以下の通りである(「比較対象」は、審議の際に、候補地よりも優越するとして挙げられた他国の世界遺産などであり、選定された3件のみが他国の世界遺産よりも優越する可能性を指摘された)[26]。
なお、2013年に環境省が検討会にリストアップした候補地(自然遺産に登録された物件を除く)に対し、その後の活動状況や現在も世界遺産を目指す意思があるのかなどの意識調査を実施している[27]。
名称 | 所在地 | 分野 | 比較対象 | 国際的要素 |
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利尻・礼文・サロベツ原野 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | カムチャツカの火山群 | サロベツ原野はラムサール条約登録地。 |
大雪山 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | カムチャツカの火山群 トンガリロ国立公園 シホテアリニ山脈中央部 | |
阿寒・屈斜路・摩周 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | イエローストーン国立公園 ンゴロンゴロ保全地域 | 阿寒湖はラムサール条約登録地。 |
日高山脈 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | シホテアリニ山脈中央部 | |
早池峰山 | 東北地方 岩手県 | 夏緑樹林(東アジア) | (該当多し) | |
飯豊・朝日連峰 | 東北・中部 山形県・新潟県・福島県 | 夏緑樹林(東アジア) | 白神山地 | |
奥利根・奥只見・奥日光 | 東北・中部・関東 福島県・栃木県・群馬県・新潟県 | 夏緑樹林(東アジア) | カムチャツカの火山群 白神山地 | 「尾瀬」「奥日光の湿原」はラムサール条約登録地。「只見」は生物圏保存地域。 |
北アルプス | 中部地方 新潟県・富山県・長野県・岐阜県 | 夏緑樹林(東アジア) | カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 ヨセミテ国立公園 | |
富士山 | 中部地方 静岡県・山梨県 | 常緑樹林(日本) | キリマンジャロ国立公園 ハワイ火山国立公園 グヌン・ムル国立公園 | 文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」としては世界遺産リストに登録された。 |
南アルプス | 中部地方 長野県・山梨県・静岡県 | 常緑樹林(日本) | カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 | 「南アルプス」は生物圏保存地域。 |
祖母山・傾山・大崩山、九州中央山地と周辺山地 | 九州地方 大分県・宮崎県・熊本県 | 常緑樹林(日本) | ガラホナイ国立公園 マデイラ島の照葉樹林 | 「祖母・傾・大崩」は生物圏保存地域。 |
阿蘇山 | 九州地方 熊本県 | 常緑樹林(日本) | イエローストーン国立公園 ンゴロンゴロ保全地域 | 「阿蘇ジオパーク」は世界ジオパーク。 |
霧島山 | 九州地方 宮崎県・鹿児島県 | 常緑樹林(日本) | カムチャツカの火山群 ハワイ火山国立公園 | |
伊豆七島 | 関東地方 東京都 | 常緑樹林(日本) | ハワイ火山国立公園 | |
三陸海岸 | 東北地方 岩手県・宮城県 | 海岸地形 | グロス・モーン国立公園 ドーセットと東デヴォンの海岸 | |
山陰海岸 | 近畿・中国地方 京都府・兵庫県・鳥取県 | 海岸地形 | グロス・モーン国立公園 ジャイアンツ・コーズウェーとコーズウェー海岸 | 「山陰海岸ジオパーク」は世界ジオパーク。 |
ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内組織「日本イコモス国内委員会」は2017年に、将来的に世界遺産になる可能性がある日本の20世紀遺産を選定している。
同委員会の岡田保良副委員長(国士舘大教授)は2018年2月8日に宮崎県庁で行われた講演の中で、「政府が選定する国内の推薦候補地について、2019年度までに追加など見直し作業を行う可能性がある」との見解を示したが[28]、実現しなかった。
さらに同委員会は上掲文化遺産推薦に向けた公募の内、「松島の貝塚群」は「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」に加えることを検討すべきと示唆したり、松本城は暫定リスト掲載の彦根城や公募に名乗りを上げなかった犬山城と合わせて既登録の姫路城への「近世日本の木造天守閣式城郭」といったような枠組みでの拡張登録にすべきとしている[23]。
また、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子は黒部ダム[29]、そして日本イコモス国内委員会委員長・文化審議会世界遺産特別委員会委員長を務めた西村幸夫と元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎らも黒部に加え立山の砂防システムの登録の可能性を公言しており、立山の自然環境を含めれば複合遺産の可能性もあると示唆している[30]。特に西村は今後の日本の世界遺産について、ユネスコが認める保存活用事例(アダプティブユースや遺産と創造性)も勘案しつつ、近代化遺産・産業遺産や稼働遺産としての土木(土工)構築物、戦後建築に移行せざるをえないのではないかと言及[31][注 8]。また、特定地域の文化財を推すのではなく、例えば各地の日本庭園や茶室などを一つのテーマとするオールジャパン体制のシリアルノミネーションも有効とする[32]。
2023年7月4日に文化審議会が彦根城と飛鳥・藤原の取り扱いについての方向性を示した際、2030年代の登録候補となるものの選定を始めるとし[15]、2024年になり文化審議会世界文化遺産部会の下に「今後の我が国の世界文化遺産の候補として暫定一覧表に記載することが適当と考えられれる資産の具体的な検討を行うためのワーキンググループ」を設置した[33]。
既存登録地の京都ではかねてから古都京都の文化財の拡張登録が取り沙汰されているほか、群馬で富岡製糸場と絹産業遺産群の拡張登録や、和歌山でも紀伊山地の霊場と参詣道の再拡張登録(未登録の紀伊路)を目指す動きもある。
自然遺産に関しては、日本の世界遺産条約締約作業に携わった筑波大学の吉田正人が、上記の「自然遺産推薦に向けた選定」は気候と地形に応じた植生を基にユネスコと自然遺産諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が重視する生物多様性や固有種生態系を中心としたものであると指摘した。その観点からすれば「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」をもって打ち止めの感はあるが、(1)ユネスコとIUCNが推奨する海洋域への展開として除外された奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の海洋域や小笠原諸島の海洋域への拡張登録、(2)登録基準viiiが示す「地球の歴史」については第1に地質分野として生物圏が評価された小笠原諸島の中から西之島だけ分離独立させることの現実性[注 9]、第2に太平洋プレート・北米プレート・ユーラシアプレート・フィリピン海プレートの4つが衝突する上に形成された弧状列島の特異さと地震や火山にみられる現在進行形の地質活動が物語るダイナミックな地球の胎動を表現すること、また第3に公海の世界遺産への注目を受けた海底域からの世界遺産推薦の可能性を挙げ、日本海溝や伊豆・小笠原海溝などのプレート境界線、その延長線上に位置する小笠原諸島-伊豆諸島-伊豆半島-丹沢山地を一体的に捉えた視点の検討を提唱する[34]。
加えて吉田は、1982年にIUCNが発行した『世界の優れた自然地域』(The World's Greatest Natural areas)に将来の自然遺産候補として阿寒国立公園・日光国立公園・富士箱根伊豆国立公園が上げられており、いずれも「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上(そじょう)した後、日光は日光の社寺として、富士山も富士山-信仰の対象と芸術の源泉として文化遺産に鞍替えして登録された点に着目すると文化的景観の要素も含む複合遺産の可能性も示唆し、日光は男体山や中禅寺湖から流れ落ちる華厳滝など自然崇拝の要素、富士山は前述の海底から地上に至る地質活動の終着点として、さらに阿寒湖界隈はアイヌ文化との密接な関係を備えるとした[34][注 10]。
新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年に開催予定であった第44回世界遺産委員会が延期となったため、文化庁文化審議会世界文化遺産部会は2022年に審査を受ける国内候補選定を行わないことにし[35]、2023年審査分選定も例年の7月には行わず2021年中に結論を出すと先延ばしにした。
このような社会情勢に加え、ユネスコと世界遺産委員会が世界遺産に求める条件が多様化したこと(以下に列挙)などをうけ、2020年10〜11月にかけて文化審議会世界文化遺産部会は今後の世界遺産の在り方について協議を始めた[38]。
近年、ユネスコ・世界遺産委員会は、災害等を含めた管理体制と被災時における適正な復旧手法の事前構築、緩衝地帯を含めた景観保護や開発の監視・規制[39]、世界遺産管理のエッセンシャルワーカーとしてのサイトマネージャーの育成、文化遺産維持に必要な文化資材の確保、遺産の価値や意義の周知徹底[注 11]、保存活動への地域コミュニティの関与、世界遺産が与える地域貢献の具体案、観光公害対策[注 12]を求めるようになり、こうした条件に対応できる物件・地域(自治体等の地方行政機関)でなければ世界遺産の候補とすることは難しいとした。
また物件そのものも、ユネスコや諮問機関がこれまで行ってきたテーマ研究に基づく「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」[注 13]から選定すべきとし、これは前述の西村の意見とも合致しているほか、イコモスによる「遺産としての農村景観に関する原則」[40]に基づき地域多様性を反映する一般家屋や集落景観の可能性も示唆。
文化ナショナリズムが台頭していることをうけ、国際軋轢(あつれき)を生まない物件にする配慮も必要とする。
さらに、国連機関の一員であるユネスコは、国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから持続可能な開発のための文化を採択し、持続可能な開発を世界遺産にも反映させるべく求めるようになり、今後の世界遺産登録を目指す際には官民一体となった対応が不可欠とされる。SDGs目標11「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」の第4項に「世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する」と明記されており、特に世界遺産候補地周辺での開発は慎重かつ国際ルールに則った適切なもので実施しなければならない。
こうしたことを踏まえ、2021年1月21日に開催した文化審議会世界文化遺産部会は新たに推薦されるべき候補として、
という指標を示した。
また2021年2月4日の同部会では、トランスバウンダリー(国境を超える遺産)での国際協調も重視するとし[41]、ユネスコの求めに沿った複数の都道府県をまたぐシリアル・ノミネーションの増加を指摘。2005年、2006年のように単体の自治体推挙による公募制は採らないこと(シリアル・ノミネーションの優位性を示唆)や各既登録地の拡張登録を模索すること、自然との共生や相互作用を意識して自然面での保護根拠にエコパークやジオパークを充てる試みなどを決めた[42]。
3月30日の最終部会では、前回で単独自治体推挙による公募制を採らないとしたことをうけ、新候補地の選定方法として、文化審議会と外部有識者による書類審査・現地調査・ヒアリングで、前述の諸条件を満たし証明してるかを検証するとし[43]、文化庁幹部は「有力候補を一本釣りする」としている[44]。
さらに2021年に順延開催された第44回世界遺産委員会において、世界遺産保全に気候変動対策を盛り込むことが決定し、新規推薦に際して遺産影響評価(HIA)として被害想定シミュレーションと対策案を盛り込むことが義務付けられ、対応が求められる[45]。
一方、自然遺産に関しては、生物多様性条約において生態系保全のため2030年まで国際社会が取り組むべき行動指針として、全世界の陸海域の30%を生物・生態系保護区にするという目標が定められ(2010年制定の愛知目標では陸域の17%、海域の10%と設定)、各国の制度下で国立公園や国営保護区を積極的に設けるよう求める方向性が示され、ユネスコとしても世界遺産に登録枠を設けることができないか検討することになったことから、その可能性を追求する余地も出てきた[46][注 14]
世界遺産の推薦は2020年から文化遺産・自然遺産を問わず審議対象は一国一件に限られるようになり、全体審議数も35件までとして登録数の少ない国を優先するため推薦物件が多い場合には日本からの推薦が受理されない可能性もあるなど(2021年第44回世界遺産委員会での新規登録で日本は25件となり保有数で世界11位になった)、一層狭き門となるつつある状況に加え、正式推薦に先立ち「潜在的顕著な普遍的価値(POUV)」などを書面審査する「事前評価」制度を導入することが決まり、推薦書作成に際してさらに手間と時間を要するようになり、これにも対応しなければならない[47]。
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