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港湾・河川・湖沼などで両岸を往復して客や荷物を運ぶ船及び航路 ウィキペディアから
渡し船(わたしぶね)とは、港湾・河川・湖沼などで両岸を往復して客や荷物を運ぶ船及び航路のことである。渡船(とせん)とも言う。また、渡し船に乗り降りするところを渡し場(わたしば)、渡船場(とせんじょう、とせんば)などという。
広義の「渡し船」には、離島との航路などや、釣り客を沖の独立した防波堤や岩礁へ運ぶ渡船業、リゾート企業などが顧客専用として運用するものも含まれる。
本項では狭義の渡し船として、「比較的狭い距離の対岸同士を渡し、庶民の日常の交通手段や観光に利用され、公共性の高いもの」について述べる。大型かつ航路の長いものはフェリーを、単純な対岸往復でなく、河川や運河の流れに沿って複数の船着場を行き来する船は水上バスを参照のこと。なお、フェリーと渡し船を呼び分ける文化は日本以外にはあまり存在しないため、各国語版へのリンクはフェリーのほうを主に参照されたい。
中世以前は架橋技術の未発達により、渡船に頼る比重が高かった。江戸時代の幕藩体制においても、架橋が困難な地点や、関所など軍事的理由で架橋が許されなかった地点を中心に渡船が行われた。また、地形が山がちなことや、軍事的理由から車輪の利用が発達しなかった事によって発生する水運の優位性もあり、渡船は全国各地で行われた。
道路が整備され、また車両が普及するなどして陸運が発達すると、水運の至便性よりも洪水忌避が重要となり、堤防の建設などによって生活と水辺は切り離されてゆく傾向にある。また、架橋技術や隧道等土木技術の発達も水運の重要性を低下させる。これらの理由により渡船は徐々に廃止され、21世紀初頭の日本では観光用ないしは、港湾・河川等においての船舶交通量が多いため、架橋により通過する船舶の交通量を確保できない場合や遠方の離島との間など架橋が困難ないしは、架橋するだけ交通量が確保できない、橋があっても歩行者・自転車の通行が困難な事例など特別な事情がある場合に限られている。
万葉集に、渡良瀬川を渡る古河の渡し(茨城県古河市・埼玉県向古河)がうたわれている。隅田の渡し(東京都台東区橋場・荒川区南千住)、多摩川を渡る関戸の渡し(東京都多摩市)、丸子の渡し(神奈川県川崎市・東京都大田区)なども古代から知られている。
また、旧渡良瀬川を渡る房川渡し(埼玉県久喜市・茨城県古河市・五霞町元栗橋)、旧入間川(現荒川)を渡る川口の渡し(埼玉県川口市)、旧利根川を渡る川口の渡し(埼玉県加須市)も江戸時代以前から知られている。
江戸時代、東海道の馬入川(現在の相模川)の例でいうと、人を20人まで乗せる小船、馬を乗せる馬船、大型で荷物を運べる平田船が常備されていた[1]。
渡し舟の中には釣り客を岩礁や沖の堤防に運ぶもの、島に立地する旅館に利用客を輸送する私設のものもあるが、性格が異なるため本項では取り上げない。 本項では例外を除き陸路でも迂回でき、かつ季節運航等遊覧性の高い渡し船も記載する。
道路または架橋の代替(または補完)として運航されており、無料で利用可能な航路も存在する。
観光目的での運航が多く、そのほとんどは有料である。
渡れる場所には、渡や津の名が見られる。風陵渡(風陵津)は、古代において黄河を渡る最大の渡し場である。そのことから紀元前の古国時代(伝説時代)から20世紀の日中戦争まで幾度も戦争が行われ、兵家必争之地と呼ばれる交通の要衝地であった。
ベトナムでは、主に南部のメコンデルタ地方を中心に多くの渡船が存在する。この地方ではメコン川が多くの支流に分かれ、農業用・輸送用の水路も網の目のように張り巡らされている。このため船による輸送が活発で、橋をかけることや、そのために高い堤防を造成することが逆に交通の不効率化を招く場所が極めて多い。とはいえ、オートバイや自転車が庶民の基本的な交通手段であることも事実であるため、渡船は生活に欠かせないものとなっている。
また、21世紀になってカントー橋やラックミエウ橋が掛けられるまで、交通の大動脈である国道一号線でのバスやトラックでの大規模輸送であっても、大型の渡船が利用された。
このようにベトナムの渡船は基本的に車両での乗船を考慮する必要があるため、輸送量の多い場所ではデッキがそのまま波止場の地面とひとつながりになる船体形状のものが多い。また、河川の流れが極めて緩やかなため、安定性に注意を払う必要が低く、喫水の浅く底が平たい、ある意味一枚の「床」のような形状のものが見られる。
陸上の交通路がきわめて貧弱で、かつ山岳が多く川の流れが急なラオスにおいては、「対岸へ渡す」船ではなく、川を斜めに渡って乗客を運ぶ渡船が主流である。このため船体は極めて細長い形状である。
タイの地方ではベトナム同様のオートバイ利用者向けの渡船も見られるが、陸上交通の充実した首都バンコクにおいては、主に徒歩客、特に観光客のためのものが主流である。バンコク都内を南北に流れるチャオプラヤー川では、チャオプラヤー・エクスプレス(水上バスに分類される)のような川を上下するもののほかに、対岸同士にあるワット・アルンとワット・ポーを結ぶ渡船などが存在する。
また、ミャンマーとの国境を形成するクラ地峡には海上の国境を超える渡し船が多く運行されている。これらは公営のものではなく企業とも呼べない個人経営のものばかりのため、料金交渉が必要であり、事故が起きてもほとんど保障は得られない。メコン川でのラオス国境にも同様なものがあるが、こちらは運賃が決まっており、個人ではなく企業経営のものが多い。
マレーシアも陸上交通が充実しており、自動車の普及率も高いことから渡船は地方の観光地に多い。サラワク州のクチンでは、市街を南北に分けるサラワク川支流の中心部は景観維持のために橋がかかっておらず、徒歩客むけの多くの渡船が早朝から夜遅くまで行き交う。
ドバイを東西に流れるドバイ・クリークでは「アブラ(Abra)」と呼ばれる木製の渡し船が昔から利用されており、現代では観光客向けに運航されている。なお運賃は伝統により1ディルハムとなっている。
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