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普段生活している家とは別に気候や風景のよい土地、温泉地などに作られた一戸建ての家 ウィキペディアから
別荘(べっそう、英語:cottage、villa、ラテン語:vīlla)とは、普段生活している家とは別に、比較的短期的な避暑・避寒・保養・休養などの目的で気候や風景のよい土地、温泉地などに作られた一戸建ての家。本質は日常生活を送る住居ではなく、余暇のためのレジャー施設である。
別荘を所有することは、古くはヨーロッパにおいても貴族など一部権力者の特権であった。しかし18世紀後半のフランス革命を発端として、19世紀後半にかけて各国で近代ブルジョア社会の機運が高まっていくと、ヨーロッパ諸国では一般市民が財を成すことも可能になっていった。これら有産階級の人々は、かつて貴族が行なっていた風習を模倣し始め、その一つである別荘も所有するようになった。
また当時の音楽家や画家、小説家といった芸術家も、作品によって得た財産から別荘を所有し、思索の場として使用することがあった。例として音楽家では、ヨハネス・ブラームス、グスタフ・マーラー、ヨハン・シュトラウス2世、リヒャルト・シュトラウス、セルゲイ・ラフマニノフ、ピョートル・チャイコフスキーなどが知られる。
またヨーロッパでは長期休暇や引退後の生活を別荘で送ることが多い。
イタリア語には避暑のために郊外の別荘で過ごすvilleggiaturaという言葉がある[1]。もともとバカンスはごく限られた人の特権であったが、1930年代に有給休暇が導入されたため一般に広まった[1]。
バカンスの過ごし方は多様で、自由に移動しながら旅行を楽しむ人もいれば、バカンス用賃貸マンションなどに滞在する人もおり、移動を好まない人は山や海沿いなどに邸宅を購入することもある[1]。
日本では古くは別業(べつぎょう)とも呼ばれ、天皇や貴族の邸宅を都の郊外の風光明媚な地に別業(天皇の場合は離宮)を置く例があった。平安京(京都)では、嵯峨・白河・鳥羽・宇治・山崎周辺などが有名であった。そのほとんどは現在失われてしまったが、平等院や大覚寺のように別業・離宮の一部に由来する寺院が存在している。
明治時代、布教や技術発展のために来日した宣教師やお雇い外国人が本州各地に避暑地・別荘地を開拓、その後政治家・財閥・華族等のエスタブリッシュメントが彼らを真似て西洋風の別荘レジャーを楽しむようになり、学者や文化人など西洋文化の洗礼を受けた層も別荘を求めるようになった。関東地方では湘南の鎌倉(鎌倉山が有名)・江の島・葉山・大磯など、近畿地方では北摂の宝塚・箕面、また須磨・芦屋(六麓荘町が有名)生駒山系など、海や山を近くに臨めるような地や、郊外の里山・丘陵地・農村などを選んで大構えの別荘・別邸を設け、個人の余暇のほか、接待、また隠居所などとして使用したが、これらは大半が東京・大阪の都市近郊交通網の発達に伴い両大都市圏の膨張・都市化の波に飲み込まれ、戦後までに大半が通勤住宅地化し別荘地ではなくなっている。六甲山・中禅寺湖(日光)・箱根・軽井沢・御殿場などの高原・山岳地帯も明治時代に外国人によって避暑地・別荘地として開拓されたが、こちらは多くが都市化の波に飲み込まれず、未だ別荘地としての命脈を保っている。なかでも軽井沢は、別荘地としての開拓の早さもさることながら、別荘地の量的発展、つまり別荘戸数の増加が、他に類例がないほど早く、明治期の時点で既に全国で最も別荘(外国人別荘)の多い地域となった(人気と知名度はその後も途絶えることなく、現在でも最も有名な別荘地として知られている)[2]。なお数奇な歴史を持つ別荘地として南禅寺界隈別荘群(京都市)や高畑界隈(奈良市)があり、こちらも別荘地として現在まで存続している。
大正時代には、前述の軽井沢・箱根などに、大手資本が広大な山林・原野を取得し別荘地開発を行い、レジャー用の贅沢品の一種として別荘が一般に販売されるようになった。当初は山荘・別邸というより手狭で簡易な山小屋程度の物が多かったが、都市部の富裕層を中心に人気を呼んだ。戦後もこの流れが続き、軽井沢・箱根をはじめ、蓼科・野尻湖・山中湖・那須・清里・房総・伊豆高原・伊豆半島・伊豆諸島など、大都市圏から離れた山間部や海岸の別荘地が開発された。
バブル景気の際にはリゾートマンションが相次いで建てられたり、大洋村など別荘地ではなかったところにまで開発の手が伸びた。本来の利用目的ではなく、投資・投機目的をうたって各地で開発・分譲が行われた例も数多い。このためバブル期に開発された別荘地は元々の条件が悪く利用価値の低い場所や、道路すら造成されず整備自体がろくに行われていないような土地もあり、バブル崩壊とともに売却されたり、放置されて荒地・廃屋となったりしている物件も見られる。原野商法やそれに近い詐欺的手法で辺鄙な場所の土地や建物を売り付けた例も少なくない。
バブル期以降、一部の別荘地はなお活況を維持しているものの、ニーズの変化や長期間に及ぶ個人消費の落ち込みなどから日本全体においては旧来型の浮世離れした避暑や別荘レジャーは終息に向かいつつある。バブル期にみだりに開発を行った新興別荘地は廃れた。大方の別荘は値崩れしている上に売れず、衰退する別荘地も増えている。またレジャーの多様化により別荘を取り巻く環境も変化しており、所有する別荘同士を交換し海外の高級別荘へのロングステイを楽しむ、といったホームエクスチェンジの様な新たな別荘活用法を模索する所有者も増えてきている。新幹線の開業や自家用車の普及、商業施設の充実などにより、一部の別荘地では観光地化して別荘利用者以外の層を誘客している場所もある。
別荘地に定住・移住する層も現れ、レジャーではなく田舎暮らし向けの林間住宅地と化し始めている事例や、大都市に比較的近い地域では単なる郊外住宅地・ベッドタウンとなっている場所も見られる。一部の別荘地所在自治体では別荘地に定住・移住する層の転入により人口が増加しているほか、自治体全体では人口が減少しているにもかかわらずその自治体内の別荘地やリゾートマンションの住民は増えているという例もある。ただ別荘利用者などの定住・長期滞在はリタイア組が多くを占めており、他地域からの転入者によって予測以上の高齢化が進んでいる。レジャー施設であるという別荘の本質から言えば別荘地ではあり得ないはずの医療・介護などの問題が起きている。低収入且つ生活力に乏しく、日常の移動も容易ではない高齢者が、公共サービスの提供やライフラインの維持管理において一般住宅地と同一ではない別荘地に集住することによるスラム化の懸念など、これまでには想定されていなかった課題が生じている。スラム化防止や健全な風俗の維持、良好な環境の保全のため自治体の休養地、学校・宗教団体など公益法人の厚生施設、企業の保養所として先に分譲し、残った小型の区画を個人に割り当てる販売方法をとる業者や、民泊利用や貸別荘の営業に規制を掛ける方針を明示した別荘地所在自治体も現れている。
管理上次のような問題もある。
また各別荘地では所轄の郵便局が配達の便宜上別荘や別荘地内を区分し、個々の別荘に「ハウス番号」等と呼ばれる数字やアルファベットなどを付けており、宅配業者などもこれを利用している。別荘にも住居表示のように掲げられているが、これらは住居表示に関する法律とは無関係の記号であり、住民基本台帳法上の住所・地番とも異なる。
別荘の本質は日常生活を送る住居ではなく、余暇のためのレジャー施設である。税制上も「生活に通常必要でない資産」、即ちゴルフ会員権、競走馬、宝石、貴金属、骨董品等と同様の贅沢品としてとして取り扱われ、「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産」として定義されている。しかし夏や冬の間だけ過ごしたり、長期休暇中のみ使用するといった一時滞在のための施設ではなく、週末に郊外で生活するためのものや、遠距離通勤者が職場の近くに身を置くための仮住まいといった、日常生活上長期間継続して反復される滞在に使用される物件については「セカンドハウス」として生活必需品の取り扱いが受けられる場合がある。これは家族が離れ離れになって暮らす単身赴任の解消、二拠点居住・二拠点生活(デュアルライフ)のようなライフスタイルの多様化、1992年(平成4年)の農林水産省による「グリーンツーリズム」提唱などの諸政策を反映したものである。
週末に生活するための住居の中には、単なる郊外ではなく、風光明媚な地や農山漁村、温泉地などで山歩き、散策、湯治、園芸、魚釣り、マリンスポーツなど田舎暮らしを楽しむため、つまり本質においてはレジャー施設と大差ないものとしてとして使われている例もあるが、ひと月に一度1泊2日以上過ごす物件についてはこれを「セカンドハウス」と認定している。自治体に「セカンドハウス」であると認められた住居は、不動産取得税、固定資産税、都市計画税の軽減など税制上優遇される場合がある。これは別荘地に建っているか否かといった立地を問うものではなく、日常の用途に充てられていれば「セカンドハウス」として扱われるが、その要件は自治体の定めるところによる。
2019年に総務省が発表したデータによれば、別荘の所有率は普通世帯全体のわずか0.7%となっている[3]。また2008年に同じく総務省が発表したデータによれば、年収2000万円以上のいわゆる富裕層世帯においても、別荘所有率は7.6%という割合に留まっている[4]。ただしこれらの割合は、普通世帯の世帯員が現在居住している住宅又は住宅以外の建物のほかに住宅を所有(共有の場合を含む)している場合のみを表しており、法人名義の住宅は含まれていないため、実際よりも過小な数値になっている可能性はある。
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