Loading AI tools
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による肺炎等(COVID-19)の世界的流行 ウィキペディアから
新型コロナウイルス感染症の世界的流行(しんがたコロナウイルスかんせんしょうのせかいてきりゅうこう、英語: COVID-19 pandemic)は、2019年末より始まったSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) を病原体として急性呼吸器疾患等を引き起こす新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミック(世界的流行)である。
流行状況を示した世界地図(適宜更新)
感染者 100,000人以上
感染者 10,000–99,999人
感染者 1,000–9,999人
感染者 100–999人
感染者 10–99人
感染者 1–9人 | |
2020年1月12日 - 3月2日にCOVID-19患者が確認された地域の感染拡大を示す地図 | |
疾病 | 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) |
---|---|
ウイルス株 | SARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) |
最初の発生 |
中華人民共和国 湖北省武漢市 北緯30度37分11秒 東経114度15分28秒 |
場所 | 全世界 |
初発症例 |
2019年11月17日 (5年4日間) | から今
確定症例数 | 606,040,583人以上[1] |
回復者数 | 581,552,248人以上[1] |
死者数 | 6,488,426人以上[1] |
感染地域 | 230の国と地域[1] |
外部リンク | COVID-19 – WHO |
全世界が感染症の危険に晒されたことで、世界規模のロックダウンや入国制限、国際行事の延期や縮小など、人類が過去に経験していない事態に陥った。パンデミックを収束させるために実施されたロックダウンなどの反グローバリゼーション、反民主主義的な側面を持つ政策により、行動の自由は大きく後退し、経済活動は大幅に縮小した。このため、世界の経済状態は一変した[2]。流行により生活のオンライン化が進んだが、外食、観光、レジャー、興行、運輸などはオンライン化できず、廃業が数多く確認された。従って、ワクチン接種により行動の自由を回復することが急務となっているほか、新しい生活様式(ウィズコロナ)への適応も行われている[3][4]。
SARS-CoV-2が研究途上のウイルスであるため、COVID-19ワクチンの普及以後も普通の風邪のように扱って良いか不明であり、事態は一進一退を続けている。また、長期間続く恐れのある後遺症 (Long COVID) なども懸念されている。2022年8月時点で、感染は230の国と地域で起きており、感染者は6億人以上、死者は640万人を超えている[1][5][6]。なお2021年5月には、当時の公式推定の2倍以上となる約690万人が全世界で死亡しているとする分析結果をワシントン大学が発表した[7][8][9]。世界保健機関 (WHO) は、1918年のスペインかぜを超える人類史上最悪クラスのパンデミックとして事態を重く受け止めている[10]。2019年から2021年までの世界の平均寿命は2歳短くなった[11]。
2019年11月22日に中華人民共和国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が初めて確認された[12]。新型コロナウイルスの特徴はこれまでの重症急性呼吸器症候群 (SARS) や中東呼吸器症候群 (MERS) 等と同様と思われていたが、過去にない潜伏性の高さから、人類の経済活動を利用して急速に感染を拡大し、2020年1月30日に世界保健機関 (WHO) は6回目となる「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」を宣言した[13]。2月28日にはこの疾患が世界規模で流行する危険性について最高レベルの「非常に高い」と評価し[14]、3月11日、テドロス・アダノムWHO事務局長はパンデミック(世界的流行)相当との認識を表明した[15][16]。
パンデミック発生以降、未曾有の事態に情報が錯綜し、世界各地で人種差別、イデオロギーの対立などの問題が顕在化した。特に感染被害の大きいアメリカ合衆国では、感染元と見られる中華人民共和国への反中感情が悪化するなど国際情勢にも大きな変化をもたらした。
新型コロナウイルスの流入を防ぐために世界各国は入国制限を掛けたが、自覚症状が乏しいなどの高い潜伏性を持つ新型コロナウイルスは各国の水際対策を潜り抜けて180以上の国と地域に影響を及ぼし、全世界で大規模な流行が発生した[17]。これにより、世界各地で相次いでロックダウン(都市封鎖・移動制限)が実施され、需要やサプライチェーンを阻害したことで、コロナ・ショックと呼ばれる社会・経済的影響を引き起こした。特に、デジタル化できない事業に対する大幅な需要減[注 1]とサプライチェーンの混乱は実体経済に深刻なダメージを与えた。コロナ・ショック前後の社会を区別するため、『ビフォーコロナ』『アンダーコロナ』『ウィズコロナ』『アフターコロナ』『ポストコロナ』などの用語もある[19]。その後、経済活動と感染拡大防止の両立が試行されるも、世界各国の対応は難航しており、多くの国が経済活動を再開した結果、全世界の感染者数は再び指数関数的に伸び始めた。現在もなお、感染症流行の収束の見通しは立っていない。
2023年5月5日にWHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」を終了し、「緊急事態から、他の感染症への対応と並行して流行を制御する局面に移った」としつつも[20]、「いま、どの国でも起こり得る最悪な事態は、今回の知らせを理由に警戒を緩め、構築したシステムを解体、あるいは国民にCOVID-19を心配する必要はないというメッセージを発信することだ」と警戒の継続を呼びかけている[21]。感染症法上の位置付けが5類感染症に変更されたことで感染者の全数把握が廃止され、微増傾向が続いており、エンデミック化が進んでいると見られることから引き続き政府や専門家は注意を呼びかけている[22]。
SARS-CoV-2と呼ばれるコロナウイルスは、武漢市の武漢華南海鮮卸売市場で初めて同定された[23]。SARS-CoV-2は、空気感染を主体とし、咳やくしゃみで出た呼吸器飛沫、接触による感染など、生物の種に限らず幅広く感染する[24][25]。感染から発症までの時間は通例5日であるが、人によって2日から14日までの幅がある[25][26]。
症状としては発熱、咳、息切れ、味覚または嗅覚の異常、寒気や悪寒、頭痛、のどの痛み、筋肉の痛みなどを伴うことがある[25][26][27]。しかし、「したたかなウイルス」と言われる[28]ように、宿主に感染を把握され難くするような特性を示し、ウイルスが非常に拡散しやすい上に、突然死にも繋がりやすい。感染しても無症状のまま感染の自覚に乏しい(ウイルスのキャリアとなる)ことも多い。合併症としては、肺炎や急性呼吸窮迫症候群などを伴うことがある。酸素マスクを装着するには数時間必要であるため、自覚症状が出ていない段階で感染者が医療機関に行く必要があるが、医療関係者でも自覚症状が無ければ重症化しているかどうかは判断し難い。しかし、無自覚なまま血中酸素濃度が危険な水準まで低下し、息苦しさが現れてから病院に駆け込んでも酸素マスクの装着が間に合わず呼吸不全で死亡する例が多い[29]。
SARS-CoV-2に対しては特効のある抗ウイルス薬が存在せず、研究が進められている。臨床では、症状管理および支持療法を主眼とした取り組みが行われている。推奨されている予防策としては、手洗い、病気にかかっている人との距離を保つこと、さらに感染が疑われる場合には14日間の隔離および経過観察を取ることなどが挙げられる[25]。
PCR検査で陽性反応が出て入院し、その後の検査で陰性となり症状も落ち着いたため退院したが、最初の発症から2週間以上経過して、再び検査で陽性となった事例も出てきており、SARS-CoV-2の再活性化か別の型の再感染の可能性が指摘されている[30][31]。2020年末以降、世界各地で変異株が報告されており、以前のウイルスよりも感染力が強まったことが確認されている[32][33]。
COVID-19ワクチンの開発手法には、技術的ブレイクスルーがあった。ワクチン開発には数年から10年掛かることが珍しくなく、薬理的にも開発には困難が伴い、これまで疾病の発見からワクチンの開発まで数十年以上が経過しているものもある。また、未だにワクチン開発が成功していないHIVやマラリア、種々の事情からワクチン開発を断念したSARS等の感染症もある[34]。
2020年、アメリカ合衆国の製薬企業のファイザーとモデルナは、RNAワクチンという新技術によって、従来の常識を覆してワクチン開発の期間を大幅に短縮できると主張したが、大規模な接種実施はCOVID-19のワクチンが初である。同年11月時点で両社のCOVID-19ワクチンは最速での実用化となる見通しで、良好な治験結果も併せて、世界から最有力と考えられている。11月17日、モデルナは、開発中のワクチンについて94.5%の有効性があるとする暫定的な結果を発表した[35]。11月18日、ファイザーは、開発中のワクチンについて95%の有効性があるとする最終的な分析結果を発表した[36]。12月8日、英国で一般向けのCOVID-19ワクチン接種が開始された。日本では2021年2月に承認され、2月下旬から医療従事者、3月下旬から高齢者、その後基礎疾患のある人などに優先接種が行われた[37]。RNAワクチンの主成分であるRNAは保存を考えた場合には崩壊しやすいため、超低温度でのコールドチェーンの技術開発も急がれている。
COVID-19については感染者の把握が困難であり、前述のファイザーとモデルナのRNAワクチンでも終生免疫ができるわけではない。また、2020年末より世界各地で変異株の出現が見られることから、引き続き社会距離拡大戦略の実施や追加のワクチン接種が必要になる[38]。
2019年12月下旬、中華人民共和国の武漢市で原因不明の肺炎の集団感染が発生したことが保健当局によって報告された。最初の患者群は主に武漢華南海鮮卸売市場との関連がみられたため、ウイルスは動物原性感染したものと考えられている[23]。この感染を引き起こしたウイルスは、コウモリコロナウイルス[39]、センザンコウコロナウイルス[40]、およびSARSコロナウイルス (SARS-CoV)[41] と密接な関連のある新たなウイルスとして、後にSARS-CoV-2と命名された[42]。このウイルスはキクガシラコウモリ属のコウモリに由来するものと信じられている[43]。それ以前の12月1日に、武漢華南海鮮卸売市場への曝露歴も、新型ウイルスが検出された最初のクラスターの残りの40人との接触歴もない人において、最初の症状が発生したことが報告されていたことも後に判明した[44]。この最初のクラスターのうち、3分の2は生鮮市場との関連がみられ、生きた動物を売っていたこともわかった[44]。
一方、2020年11月に学術雑誌「Tumori Journal」で発表されたイタリアの国立がん研究所の研究によると、2019年9月から2020年3月までに採取した肺がん検査受診者(959人)の血液検体の11.6%(111人)から新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) に特異的な抗体が検出されており、2019年9月に採取した検体でも14%(23人)から検出された。このことから、前述の症例より前から世界にウイルスが広まっていた可能性がある[45][46][47][48]。
2020年1月31日、世界保健機関 (WHO) は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC) を宣言した[49]。WHOのテドロス・アダノム[疑問点]事務局長は2月24日の時点で、世界の他の地域でこの疾病の市中感染が持続している可能性があったにもかかわらず、「かなりの数の症例を回避するため」と、ウイルスに対する中国の対応への賞賛を維持していた[50]。
3月20日には、WHOの事務局長談話において「喫煙は重症化リスクを高める」との発表を行っている[51]。
2021年12月現在、COVID-19が原因で、500万人以上の死亡者が出ている[1]。中国の国家衛生健康委員会によると、死亡した人の大多数は高齢者であった。死亡者の約80%は60歳以上の高齢者で、75%は心血管疾患や糖尿病などの持病があった[56]。COVID-19で死亡した人に関して、症状を発症してから死亡するまでの日数は6日から41日までの範囲であり、中央値は14日であることが示されている[26]。
2020-2021年の2年間の世界各国の超過死亡率を研究したWHO(世界保健機関)の推定は、全世界のCOVID-19による死亡数が542万人に対し、超過死亡者数はその約3倍弱の1483万人だった[57][58][59][60]。
パンデミックにより、人々の心の健康は著しく悪化している[62]。抑うつの有病率はOECD諸国において倍増した[62]。人々が最も精神的苦痛を感じたのは、2020年3-4月であった[62]。脳にとって、パンデミックによる制御の喪失は特に強力なタイプのストレスを生み出し、リスクを正確に評価する能力を損なう可能性がある[63]。COVID-19パンデミックへの過度の心配がある場合、過去の成功に焦点を当てることによって、より良い意思決定を行うことができる[64]。
国 | COVID-19前 | 2020年 |
---|---|---|
日本 | 7.9 | 17.3 |
韓国 | — | 36.6 |
オーストリア | 7.7 | 21.0 |
ベルギー | 9.5 | 20.0 |
チェコ | 10.0 | 11.8 |
フランス | 4.0 | 19.9 |
ギリシャ | 4.7 | 22.8 |
イタリア | 5.5 | 17.3 |
スペイン | — | 18.7 |
スウェーデン | 10.8 | 30.0 |
英国 | 9.7 | 19.2 |
カナダ | 4.0 | 10.0 |
米国 | 6.6 | 23.5 |
メキシコ | 3.0 | 27.6 |
オーストラリア | 10.4 | 27.6 |
この節の加筆が望まれています。 |
2020年6月時点の情報として、「デジタル伝染病学」に基づいたボストン大学のイレーン・ゾイジーらの研究チームが、2018年1月から2020年4月に撮影された武漢市の衛星写真111枚の分析結果やインターネット検索エンジン百度での特定の症状が検索された頻度などから、COVID-19の症状とされる「下痢」の検索数が8月に急増しており、8月には新型コロナウイルスの流行が始まっていた可能性があるとともに、下痢が「市中感染において重要な役割を果たした可能性がある」[65]と指摘した。しかし同研究では、COVID-19によるものかどうか、何ら客観的な事実は判明していない[66]。
イタリア国立がん研究所の研究によると、2019年9月から2020年3月までに肺がん検査を受診した受診者から採取した血液を調べたところ、11.6%の受診者から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に特異的な抗体が検出されこのうち、4%は2019年9月、30%は2020年2月に採取された検体から新型ウイルスの抗体が出来ていたことが検出され、後に武漢で報告された症例より前から世界にウイルスが広まっていた可能性があることが後に発表された[67][68]。ただし、このイタリア国立がん研究所の研究には批判が集まっており、「たとえ2019年9月にイタリアで新型コロナウイルスが存在していたとしても、必ずしもそこが起源だということにはならない」という指摘もある[69]。
世界的に防疫体制が敷かれ、武漢市に対して各国民を帰還させるチャーター便が送られると共に中国以外の国では中国を経由しているクルーズ客船から下船できない乗客も現れた(以降参照)。SARS-CoVが流行した2003年時点よりもグローバル化が進み、SARS-CoV-2感染者に無症状の場合も多いという特徴もあって、防疫が難しく、SARS-CoV-2は急速に世界中に広まって行った。また、ネットとマスメディア双方が「コロナ」の話題で埋め尽くされ、不正確な情報が大量に飛び交う「インフォデミック」状態に陥った[82]。困窮状態にある消費者心理に付け込んだ、生活必需品の高額転売なども起きた[83]。
敬称は省略するものとする。
(英数字・五十音順)
初期の感染の中心地とされる武漢華南海鮮卸売市場は名目上は水産物専門の市場であるが、記者の調査によると様々な野生動物も同地で取引・処理されていた[288]。鍾南山や中国科学院の研究グループによると、今回もSARSと同じく感染源がコウモリであり、タケネズミ・アナグマ・ヘビ・センザンコウなどの野生動物を介在して人に感染したと見られるとされている[289][290][291]。感染経路は他のコロナウイルスと同じく飛沫感染(結膜を通じて感染したケースあり[292])と接触感染であるが、エアロゾル感染の可能性もあるとみられる[293]。
しかし、2020年2月24日には中国科学院など中国政府系の研究機関が、発生源が武漢市の海鮮市場ではない可能性を示す研究結果を公表した。12カ国から集められたウイルスの遺伝子データの解析の結果、複数のタイプが見つかり、それぞれの拡散状況などから、ウイルスは他の地域で発生し、その後、武漢市の海鮮市場で拡散した可能性があるとし、2019年12月8日と2020年1月6日の2回、大きな拡散があり、2019年11月下旬か12月の初めには、すでにヒトからヒトへの感染が起きていた可能性を指摘した[294]。また、湖北省武漢の当局は、これまで最も早く発症(2019年12月8日)したとされていた患者は武昌区に住んでおり、感染源と指摘された海鮮市場に行っていなかったことが明らかになった[295]。
1月24日、伝染病の患者を収容する武漢金銀潭医院および中国呼吸系統疾病臨床医学研究中心の研究グループは医学誌『ランセット』で最初の41人の感染者を研究する論文を発表した。論文によると、病原体のウイルスはヒトからヒトへの感染(ヒト - ヒト感染)は明らかで、発症初期に発熱の症状がない例もある[296]。また、そのうち27人は華南海鮮卸売市場に行ったことがあったが、12月1日に発症した最初の患者は華南海鮮卸売市場へ行ったことがない[297]。なお、最初の41人の感染者の死亡率は15%であり、SARSと同じレベルである[298]。
同じ日付の香港大学袁国勇教授の論文によると、広東省深圳市に居住する一家6人で武漢市に行ったのち、5人の感染が確認された。うち1人はさらに深圳で現地の1人を感染させた。また、この5人の感染者のうち、1人の子供は感染しながら発症しなかったため、知らずに周りの人を感染させた可能性も高いと見られる[299]。
集団感染の事例としては、さっぽろ雪まつりでの屋台[300]、住宅設備展示会(北海道北見市)[301]、病院(東京[302]、相模原市[303][304])、和歌山県湯浅町での院内感染[305]、大阪のライブハウス[306][307][308]、ライブバー(北海道)[309]、名古屋市ではスポーツクラブ(感染36人)と福祉施設(感染45人)でクラスターが発生した[310]。
2020年3月3日には、日本の集団感染9件では、そこからつながりのある感染者数が80人以上になることがわかった[301]。これは調査対象となった感染者260人のうち約30%を占める[301]。
韓国での感染者の行動履歴の事例では、はじめにキリスト教会で集団感染が発生し、うち一人が老人福祉施設の食堂で食事をして5人が感染。さらにその福祉施設会員の感染が病院で確認され、さらにその病院で院内感染が発生した[311]。
10人以上への感染拡大の感染源となった患者をスーパー・スプレッダーという[312]。韓国のMERS流行では特定の数名がスーパースプレッダーで、1人から86人に感染させた患者もいた[313]。
日本での新型コロナウイルス感染者の8割は他人に感染させていないが、残りの2割が1人以上の人に感染させており、1人から9人へ感染させた事例(屋形船)や、1人から12人へ感染させた事例(スポーツジム)もある[314]。感染症専門医忽那賢志もスーパースプレッダーにならないためには密集空間を避けるべきだとしている[313]。
2月7日、武漢大学病院で検出された感染者のうち4割は、同大学病院で院内感染したと発表された[315]。患者138人のうち41%(57人)が院内感染で、17人が入院患者、40人が医療スタッフだった[316]。
韓国でも慶尚北道の病院で院内感染が発生した[316][317]。
日本の病院でも、牧田総合病院(東京都大田区)[302]、相模原中央病院[303]、相模原協同病院[304]、済生会有田病院(和歌山県湯浅町)[305]、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市[318])などで院内感染が発生し、一時的に休診となった。
感染が拡大するに従い、世界各国で旅行制限、検疫、外出禁止令などの公衆衛生上の対応が取られた。感染源となった武漢をはじめとする地域がロックダウン(都市封鎖)されたり、各地で様々な外出禁止措置が取られたりしたほか、感染者を含む乗客を乗せた英国船籍のクルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス号」が日本近海で検疫を受けたり、イタリアでも全土で移動制限措置が取られたりした[319][320]。一部の空港や鉄道駅では、体温チェックや健康状態の申告書の提出を求めるなどのスクリーニング方法が実施され始めている[321]。また、市中感染が進行中の地域への渡航に対する注意・警戒情報(自粛要請・中止勧告含む)の発令や実際に感染地域からの渡航を制限・停止するなど渡航規制の強化、さらにEUなどで国境を封鎖する国も出てきている[322][323]。
医薬品を使わない対策・介入 (Nonpharmaceutical Interventions, NPIs) は、集団感染緩和策 (Community Mitigation) とも呼ばれ、以下の対策、予防が含まれる[330]。
- 学校、職場、イベント、集会など日頃集団が密集するような空間で、相互に間隔を置く。
- 閉鎖 (Closures)
- 学校、職場、イベント、スポーツ、宗教的な集会、フェスティバル、会議など人が集まる場所の閉鎖。
- 検疫の強化、水際対策
- 個人レベルでの予防対策
- (2020年日本での感染例から厚労省は、密集した空間などでクラスターが発生したため、換気を良くする、お互いの距離を 1 - 2 mあける、近距離での会話や高唱を避けるよう勧告した)
新型ウイルスに対して人間は免疫を持っていないので感染が拡大するが、ワクチンが使用できない場合はNPIsは感染を制御する有効な方法とされる[330]。これまでの疫学解析で、最も有効な対策の組み合わせを最適なタイミングで実施することでかなりの程度被害が抑えられる[331]。
厚生労働省は2020年3月1日、これまでの日本の集団感染(クラスター)事例にスポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどがあったとし、換気が悪く、人が密集して過ごす空間、不特定多数の人が接触する場所に行くことを避けるよう勧告した[332]。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は3月9日、これまで集団感染が確認された場所は、1.換気の悪い密閉空間[注 3]、2.多くの人が密集、3.近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声という3つが重なった場であり、このような場所を避けるよう勧告した[334]。同会議は集団感染を防ぐために以下を強く推奨した[334]。
3月12日、第一種感染症指定医療機関である都立駒込病院の今村顕史感染症科長は、現在の日本の状況では流行を抑えるために一番重要なのはクラスター(感染集団)対策であるとする[335]。クラスターの中で複数の人に感染を広げている人が見つかったら、徹底的に接触者(濃厚接触者)を調べるとする[335]。ジムに通っていた陽性者で、濃厚接触者数が約1,400人となった例があった[335]。
3月19日に専門家会議は、現状は持ちこたえているが、あるとき突然爆発的に患者が急増(「オーバーシュート」)して、医療が提供できなくなれば、強硬なロックダウン措置(都市封鎖・店舗閉鎖・外出自粛など)を取らざるを得なくなると懸念した[336]。その上で引き続き、集団感染(クラスター)の早期発見、重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保を維持し、また各地域は感染状況に応じて、密閉空間でのイベントや集会(3つの条件の重なる場所)など感染リスクの高いものは徹底的に回避しながら、感染が拡大していない地域においては感染リスクの低い活動から徐々に解除することもありえるとした[336]。
上記までの見解を踏まえ、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部では、リスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善するため、多数の人が利用する商業施設等においてどのような換気を行えば良いのかについて、有識者の意見を聴取しつつ、文献、国際機関の基準、国内法令基準等を考察し、推奨される換気の方法として、「「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法」を取りまとめた。
3月28日、新型コロナウイルス感染症対策本部より、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が発表され、この中で感染者を抑えること、医療提供体制や社会機能を維持することが重要であり、「3つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、疫学調査等によるクラスター発生の封じ込めが推進された[337]。なお、この三つの密のある空間は「3密」と表現され[338]、広報されている[339]。
日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は3月2日に「感染症のなかには、大多数の人々が感染することによって、感染の連鎖が断ち切られ、感染していない人を保護する仕組みが機能できる」として集団免疫の考えに言及した[340]。
集団免疫は、市中感染が拡大する以前の隔離政策、またワクチンがない場合の対策として見なされている[340]。
新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである、ヒトコロナウイルスOC43について、集団免疫が成立しているかもしれないという説がある[341]。このウイルスは、19世紀末に100万人が死亡した大流行の元凶の可能性があるが[342]、現在では季節性の風邪に過ぎない。
3月12日、英国政府は集団免疫で対策すると表明した[340]。
3月14日、イギリスの科学者は「社会距離戦略の即時実施提言」を発表し、政府の対応は不十分で、もっと厳しい「社会距離戦略」を速やかに実施すれば、国内の感染拡大を劇的に遅らせ、数万人の命を救うと主張した (3月16日迄に501人署名)[343][344]。また現時点で『集団免疫』を追求するのは有効ではないとした[344]。バーミンガム大学のウィレム・ファン・シャイク教授(微生物学)は、集団免疫の効果を目指すには、国内だけで3600万人が感染し回復しなくてはならないが、その人的コストの予測は不可能で、数万人から数十万人が死亡するとし、「NHSがパンクしてしまわないよう、数百万人の感染が長期間にわたり散発的に起きるように流行期間を引き伸ばすしかない」と述べた[344]。
イギリス保健省は「集団感染は、我々の行動計画の一部ではなく、感染症流行の自然な副産物だ。人命を救い、最も弱い立場の人たちを守り、NHSの負担を軽減することが、私たちの目標だ」とし、「感染対策はすでに封じ込めフェーズを過ぎて、感染拡大を遅らせる段階にきている」「今後数カ月の間に国内の免疫力がどういうレベルになるか、予測できている」と反論した[344]。
流行の発生を受けて、シェンゲン圏内のほとんどの国と地域[345]、およびアルメニア[346]、オーストラリア[347]、インド[348]、イラク[349]、インドネシア[350]、カザフスタン[351]、クウェート[352]、マレーシア、モルディブ、モンゴル、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、スリランカ、台湾[353]、ベトナム[354]、およびアメリカ合衆国[355] が、中国市民や最近中国を訪問した者に対する一時入国禁止や、中国市民に対する査証(ビザ)の発行停止および査証発行要件の強化を実施した[356]。
サモアに至っては、中国での滞在歴がある自国民の入国さえも拒否し、適法性を巡って広く非難を呼んだ[357]。
欧州連合 (EU) はシェンゲン協定を一時効力停止してイタリアとの間に国境管理を導入する考えを拒否した[358][359]。
日本からの渡航者に対し入国制限をしている国が2020年3月27日時点で176カ国・地域、世界の約9割に相当し、2月25日時点の7カ国から25倍となった[360]。また、3月31日時点で日本はアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国を渡航中止勧告と入国拒否の対象国に指定することを決定した[361]。2021年「オミクロン株」が流行した時には全世界から外国人の新規入国を停止した[362]。
韓国は2020年4月から投資、貿易、人道上に限りビザを発給し入国を制限した。2022年の6月から観光ビザの発給を再開し[363]、同月8日ワクチン未接種者にかされていた隔離措置を解除した[364]。
アメリカは3月13日にシェンゲン協定締結国26カ国に対し30日間の入国禁止を実施、16日には制限をアイルランドとイギリスにも拡大した[365][366]。19日にはアメリカの全国民に海外渡航の中止を求める勧告を出した[367]。2021年10月、アメリカはワクチン接種を条件に入国制限を緩和した[368]。
北朝鮮は1月21日(武漢の都市閉鎖は同23日)に中国からの旅行客の受け入れを中止し、事実上の国境封鎖を行った[369]。
武漢市および湖北省で公共交通が封鎖されたため、いくつかの国は、中国当局による離着陸許可を得て、チャーター便を手配して同地域から自国民および外交職員を本国へ避難させることを計画した。カナダ、アメリカ合衆国、日本、インド、フランス、オーストラリア、スリランカ、ドイツ、およびタイは、早くから自国民の避難を計画していた[370]。一方、パキスタンは中国から自国民を避難させないと言明した[371]。2020年2月7日、ブラジルは34名のブラジル人や家族、および4名のポーランド人、1名の中国人、1名のインド人を避難させた。このポーランド人、中国人、インド人は、ブラジル機が本国へ向かう途中に降り立ったポーランドで降機した。本国に帰国したブラジル国民はブラジリア近くの軍基地で検疫された[372][373]。同日、215名のカナダ人が中国の武漢からカナダ軍基地トレントンへ避難(176名は第1便、39名は米国政府がチャーターした第2便)し、2週間検疫された。2月11日、別の便で185名のカナダ人が武漢からカナダ軍基地トレントンに到着した。オーストラリア当局は2月3日と4日に277名の国民を検疫施設に転用したクリスマス島にある収容所に避難させ、そこで14日間待機させた[374][375][376]。ニュージーランドの避難者を乗せた航空便(オーストラリアおよび太平洋諸国の市民も搭乗)は2月5日にオークランドに到着し、オークランドの北、ファンガパラオアにある海軍基地で検疫された[377]。アメリカ合衆国はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号に乗船しているアメリカ人を避難させると発表した[378]。2月21日、「ダイヤモンド・プリンセス」号から避難した129名のカナダ人を乗せた航空機がオンタリオ州トレントンに到着した[379]。インド政府は国民をイランから避難させるため、空軍を向かわせる予定であることを発表した[380]。
世界各国で集団感染を防ぐために学校や大学が閉鎖され、少なくとも15億人の児童・生徒・学生が影響を受けた[411][412]。
また、国連教育科学文化機関 (UNESCO) は、世界各国で学校を閉鎖していることによる教育の中断を懸念し、遠隔学習プログラムの実施を推奨している[413]。
中国では、厳格な行動制限などで完全な封じ込めをはかるゼロコロナ政策を実施した[431][432][433]。
2020年1月時点では、中国の対策は2003年のSARS流行時と比較して、一部の外国の首脳らから称賛された[457]。トランプ米大統領[458] や、ドイツのイェンス・シュパーン保健相は中国の懸命な対策とその透明性はSARSの時とは大きな違いがあると賞賛した[459][460]。シンガポールのハリマ・ヤコブ大統領、リー・シェンロン首相、ロシアのプーチン大統領らは「迅速で断固とした対応」を賞賛した[461][462]。
WHOは、テドロス・アダノム事務局長が「中国の流行管理に対するアプローチを信頼している」と表明し、一般の人々に対しては「冷静さを保つ」よう呼びかけ、中国当局の流行への対処および封じ込めの取り組みを称賛した[519]。WHOは、2003年のSARS流行時に中国当局が情報を秘密にしたことによって、流行の予防および封じ込めの取り組みが遅れた結果、非難されたことと対照して、現在の危機的状況について、中央政府が「定期的に情報を更新したことによって、旧正月の休日に入る前にパニックを回避した」と述べた[520]。
2020年1月23日、中央当局が武漢の公共交通機関の運行禁止措置の実施を決定したことに反応して、WHOのガウデン・ガレア中国代表はたしかにWHOが推奨していることではないとしつつ、「交通機関が最も集中しているこの地域で流行を封じ込めるために積極的な関与をした非常に重要な指示だった」と話し、この禁止措置について「公衆衛生の歴史上、前例のない試み」と呼んだ[520]。また、中国でのヒトからヒトへの感染は主に家族や患者の治療にあたる医療従事者にとどまっているほか、中国の外ではヒトからヒトへの感染が確認されていないことなどから、このケースが現時点では「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」には該当しないとしたが、中国政府に対し、感染源や感染経路の特定をWHOなどと協力して行うよう求めた[521]。
1月24日、WHOは最新の報告書を発表し、ベトナムのケースについてヒトからヒトへの感染が起きたとみられると明らかにした。同じくコロナウイルスで過去に流行したMERSやSARSと同じように、咳やくしゃみなどで飛び散る飛沫や直接的な接触などで感染する可能性があるとして対策を呼びかけている[522]。
1月31日、中国国外でヒトからヒトへの感染が確認され、その他の国々で感染者数が増加したことを受けて、WHOは流行事態に関して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」を宣言した。2009年の豚インフルエンザの世界的流行時に初めて発動されてから6度目となるPHEICの宣言となった。テドロス事務局長はPHEICについて、今回の事例では「中国における不信任決議ではなかった」が、全世界的な、特に強固な医療体制が整っていない低・中所得諸国への感染拡大のリスクがあるため、宣言に至ったことを明らかにした[49][523]。渡航制限の実施に対しては、「国際的な旅行および通商に不必要に干渉する方法をとる理由はない」とし、「WHOは貿易および移動を制限することは推奨しない」と述べた[524]。一部報道ではWHOはテドロス事務局長の出身地が中国から多額の援助を受けているエチオピアであるため、中国の措置を称賛して出入国制限を勧告しないなど後手に回り[525]、さらに空路による感染防止に関する情報を加盟国に提供している国際機関であるICAOも柳芳事務局長が中国出身ということで、WHOとともに国際機関への中国の影響力によって排除された台湾(中華民国)が「エアポケット」(空白地帯)になっていると報じられた[526]。
2月2日、WHOは世界的に伝染病が流行するパンデミックのように誤った情報が拡散される「インフォデミック」が新型コロナウイルスに便乗して起きているとする注意喚起を行った[24]。
2月3日、WHOの報道官は中国に多国籍の専門家チームが派遣されることを発表した[527]。
2月5日、WHOは、たとえウイルスが現れたとしてもウイルスに感染した人を検出する体制が整っていない低所得諸国の体制整備が喫緊の課題であるとして、それらの国々の戦略的な感染防止のための基金に6億7500万ドルを寄付するよう、国際社会に向けて呼びかけた。さらにテドロス事務局長は、「我々の強さは最も弱い人々との絆によって決まる」と述べ、国際社会に対して「今日投資することです。さもなくば、後々より多く支払うことになるでしょう」との声明を発表した[528]。
2月11日、WHOは記者会見で、疾病の名称をCOVID-19と定めたと発表した。同日発表された別の声明で、テドロス事務局長は国連のアントニオ・グテーレス事務総長と短い話をして「国連の総力を挙げて対応にあたる」との同意を得たことを明らかにした。その結果、国連の危機管理チームが立ち上げられ、国際連合機関全体の対応の調整を図り、WHOはチームが「医療対応に焦点を絞れるようにし、他方で他の機関がその専門的知識をもって、流行が世界の社会、経済および開発にもたらす幅広い影響に立ち向かうことができる」ようにした[529]。
2月14日、WHOの主導で、中国との合同ミッションチームが立ち上げられ、国際的なWHOの専門家が現地に入り、中国国内の流行管理を支援し、ワークショップを開催して「疾病の重症度および伝染性」を評価し、国家級の重要な機関との会合を持ち、野外視察を指導し、「都市部と農村部を含む、省級および県級での流行対応活動の影響」を評価した[530]。
2月24日、WHOは「パンデミックとは呼ばない」事を発表した[531]。
2月25日、WHOは「世界は起こり得る新型コロナウイルスのパンデミックへの備えをますます進めるべきである」と宣言し、現時点の流行状況をパンデミックと呼ぶには時期尚早だが、それでもなお、諸国はそれへの「備えをするべき局面に」あると述べた[532]。イランで新型コロナウイルスの流行が拡大している事例に対しては、同日WHOが合同ミッションチームをイランに派遣し、同国の状況を見極めると発表した[533]。
2月28日、WHOの当局者は全世界規模での新型コロナウイルスの脅威の評価が「高い」から警戒・危険度評価基準のうち最高レベルの「非常に高い」に引き上げられることを発表した。WHOの緊急事態プログラムの統括責任者を務めるマイク・ライアンが声明で、「ここに地球上の全ての政府が行うべき、現実を把握する方法がある。目を覚ますこと、準備をすることだ。(政府の皆様方は)近づいて来ているであろう、このウイルスに備えておく必要がある。(皆様方には)自国民に対する義務があり、世界に対して準備を整えておく義務がある」と警鐘を鳴らし、正しい対応策をとれば世界を救うことができ、「最悪の事態」を回避することができると呼びかけた。さらに、ライアンは現在のデータでは公衆衛生当局者が全世界的なパンデミックを宣言する正当な根拠にはならないと述べ、パンデミック宣言は「我々が本来認めているとおり、地球上のすべての人間がウイルスに曝されている」という意味になるだろうと話した[534]。
3月6日、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの違いについてまとめた報告書を発表した[535][536]。
3月11日、WHOのテドロス事務局長はこの流行事態についてパンデミック(世界的流行)相当との見解を初めて示した[15][16]。
2023年5月5日、新型コロナウイルス感染症に関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)の宣言を終了すると発表した[537]。
2020年1月中旬に発行された旅行医学専門誌『Journal of Travel Medicine』上では、国際航空旅客動態を分析することにより、感染拡大経路パターンの予測を立てた記事が掲載された。それによると、国際航空運送協会 (IATA) が公表した2018年の旅客動態データに基づき、武漢からの旅客量が最も多い20都市の中で、バンコク・香港・東京および台北が上位4都市に挙げられている。インドネシアのバリ州は感染症への対応能力が最も低い地域とされ、日本の東京と大阪市およびオーストラリアのシドニーとメルボルンは対応能力が最も高い都市とみなされている[538][539]。
1月24日(アメリカ時間)、イギリスのランカスター大学とグラスゴー大学、そしてアメリカのフロリダ大学の研究者からなる研究チームが2月4日までに武漢だけで、感染者が35万人を超える可能性 (164,602人から351,396人)を示した科学論文を発表した[540][541]。また、同研究チームは、武漢で感染したと診断された患者は実際の感染者数の5.1%だという。つまり、感染者の95%は感染したと診断されていない、もしくは自覚のない患者ということになる。さらに同研究チームは、1人の感染者が他の人に伝染させる可能性のある人数を3.6人から4.0人と予測。WHOの1.4人から2.5人という予測より遥かに多い。
2月4日、東北大学医学系研究科教授で医師の押谷仁が「中国が初期対応としてSARS流行時と同等の対策をとったが、疫学的特徴が異なるために感染が広がったのではないか」と推測し、現状では封じ込め対策よりも被害を抑える行動にシフトすること、中国やWHOへの批判は利益がなく国際社会が協力すべきだという意見を表明している[542]。
1929年の世界恐慌以来の大きな世界経済の後退であるコロナ・ショックが起きた[543][544][545][546]。経済的な打撃は大きく、国際通貨基金 (IMF) は、2020年の世界GDP成長率が-4.4%になるという予測を発表した[547]。この負の成長率は2008年のリーマン・ショック時の-0.1%を遥かに超える値で、1929年の世界恐慌(当時の世界GDP成長率は-15.0%)以来の大恐慌となり、各界でコロナ・ショックとも称された[543][544][545][546]。金融市場のみが混乱したリーマン・ショックよりも、実体経済が破壊され、民間企業、特に中小企業で倒産・解雇・雇止め・賃下げ・賞与減が相次いでいるという意味ではコロナ・ショックの方が性質が悪いと言われている。感染拡大は加速し続けているため経済回復の目処が立っていない。
この状況下で、20世紀末から順次整備されてきたオンライン環境を使ったシャットイン・エコノミー(家に閉じこもる経済)の実践が開始され、外出時はソーシャル・ディスタンスを確保するなど、世界経済はITを最大限活用する方向に変化して行った[548]。デジタル化の急進によりオンラインサービスを提供するIT企業の業績は伸長しており、新型コロナウイルスは期せずして経済におけるゲームチェンジャーとなった。例えばIT業界トップ企業群と言われるGAFAMの内、マイクロソフトは2020年4〜6月期でAzure関連の売上高は47%増加、Xbox関連の売上高は64%増加、Surface関連の売上高は28%増加した[549]。この収支報告の中で、同社CEOのサティア・ナデラは「COVID-19は私たちの仕事と生活のあらゆる側面に影響を与え、この2か月間で2年分のデジタルトランスフォーメーションが見られた」と述べている[550]。また、インターネット・インフラへの高負荷発生が報告されており、緊急時におけるインターネット・インフラの重要性が明らかとなった。世界最大のコンテンツデリバリネットワークによりインターネット通信量の15〜30%を取り仕切っているとされるアカマイ・テクノロジーズは、Webのトラフィックが最大で前年比2倍にも増加したことを確認しており、未経験のトラフィック量であるが遅延なくコンテンツ配信が行えているとのことである[551][注 4]。この経済活動の変化は、政財界でニューノーマルとして認識された。
東アジア系外国人などに対する排外感情および人種差別の事例や[553][554]、主にSNSを中心にオンラインメディアで、ウイルスに関する事実無根の憶測や陰謀論の拡散など関連した誤情報などの事例が報告されている[555]。この現象について、WHOは「インフォデミック (infodemic)」という新語を提唱し、注意喚起を行っている[24]。
時期により、2019年までのBeforeコロナ[556]、2020年以降コロナ収束までのWithコロナ[557]、コロナ収束後のAfterコロナ[558] と分類されるような経済システムの変化が予測されている。Withコロナの時代において、社会が混乱状態に陥ったが、これをチャンスと捉え、平時では時間が掛かる入学・入社時期の変更[559]、手続きの簡素化[560]、デジタルトランスフォーメーションを加速する動きがある[561]。また、従来存在しなかった、シャットイン・エコノミーの出現が確認されている[548]。シャットイン・エコノミーでは、デリバリーやオンラインに依存した経済活動となり、物理的な要素が重要な殆どの文化が存亡の危機に陥った[562]。
新型コロナウイルスからの緊急避難の過程で下記のような変化が起きた。
1918年から1921年にかけて世界で流行したスペイン風邪の記録資料「流行性感冒: 「スペイン風邪」大流行の記録」が2020年4月30日までWebで無料公開され、重版された[563]。同書は内務省衛生局が1921年に作成したものである。
世界各国が緊急事態であると認識し、国民に対する行動制限を行った。日本では史上初めて緊急事態宣言が発出される事態となった。当初は2020年4月7日(東京都など1都1府5県が指定され、4月16日に対象地域を全国に拡大)から5月6日までの1か月の期間を設定していたが、収束の傾向が見えず、ワクチンによる集団免疫も確立されていないことから、期間延長の議論が政府内で開始され[564]、4月29日には全国知事会の会合で、東京都をはじめ大半の知事から緊急事態宣言の延長を求める声が相次いだ。政府の専門家会議も非公式会合で、「全国を対象に引き続き宣言を延長すべきだ」という認識で一致した。4月30日には安倍首相が記者会見で「5月7日からかつての日常に戻ることは困難」として、宣言を延長する意向を表明した[565]。政府は対象地域を全国としたまま、1か月程度延長する方向で調整を進め、5月1日の専門家会議で現況の分析や判断基準の明確化を行った後、宣言が失効する直前の5月4日に延長期間を5月31日までと決定し、公表した。その後緊急事態宣言の一部解除を5月14日と5月21日に行い、5月25日に全面解除された。
パンデミックの間は、とにかく、人々の運動習慣が変化する。例えば、本来30分散歩する習慣が15分の習慣になったり、買い物に行く習慣が宅配になったり、友達と散歩する習慣がなくなったり、旅行に慎重になったりと、パンデミックによって運動量が減ることも研究されている[566]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.