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ウイルス感染症の一種 ウィキペディアから
風邪(かぜ、common cold, nasopharyngitis, rhinopharyngitis, acute coryza, a cold)とは、原因の80 - 90 %がウイルスの上気道感染症であり、主な影響は鼻に現れる[1][2]。咽喉、副鼻腔、喉頭も影響を受ける可能性がある[3]。症状はたいてい感染後2日以内に発生する[3]。症状としては、咳、咽頭痛、くしゃみ、鼻水、鼻閉、頭痛、発熱、嗄声などが現れる[4][5]。患者の多くは回復まで大抵7 - 10日間を要し[4]、一部の症状は3週間まで継続しうる[6]。他に健康に問題がある患者は、肺炎に進行する可能性がある[4]。
多くの場合、単に風邪と言えば急性上気道炎(普通感冒)を指し、西洋医学あるいは日本の医学で厳密には[7]「かぜ症候群」と呼ばれ、日本でも症状を指す言葉である[8]。俗称として、消化器のウイルス感染によって、嘔吐・下痢・腹痛など、腹部症状と上記全身症を来した状態を、「感冒性胃腸炎」「お腹の風邪」(もしくは胃腸かぜ、一部地方では腸感冒、ガストロ)と呼ぶこともある。
成人は平均して年間2 - 3回の風邪にかかり、児童ではそれ以上である[4]。風邪に対してワクチンはない。最も一般的な予防法は、手洗いの実施、洗っていない手で目・鼻・口を触らない、病人と同じ空間にいないことである[4]。いくつかの根拠は、マスクの使用を支持している[9]。
風邪の直接的な治療法は存在せず、罹患期間を短縮させる方法もないが[1][4]、不快な症状は対症療法で緩和可能であり、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) は治療の助けとなる[10]。病原がウイルスで細菌の二次感染が無い場合は、抗生物質を使用せず[11][12]、総合感冒薬の使用も支持されない[3][13]。
症状は、咳嗽(咳、症例の50 %[2])[1][14]、咽頭痛 (40 %[2])[1]、鼻汁・鼻詰まり[14]など局部症状(カタル症状)、および発熱[14]、倦怠感[14]、頭痛[14]、筋肉痛 (50 %[5]) など。
鼻汁は通常、風邪の初期はさらさらとした水様で、徐々に粘々とした膿性に変化する。
高齢者では、肺炎に至っても発熱は微熱程度のこともある[15]。
抗体を持たない者に風邪ウイルスを鼻投与する、ある実験で、25 %の者がほぼ無症状で終わった例がある。これが無症候性感染/不顕性感染と呼ばれる現象であり、風邪をめぐる未解明の謎の一つである [16] 。
原因の7 - 8割がウイルスである[17]。日本の研究ではかぜ症候群の原因は8 - 9割がウイルスとも言われ、一方で非感染性因子によるものも少数ではあるが挙げられている[7]。
アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は、以下のケースでは医療機関に受診すべきと勧告している。
風邪の多様な症状は、様々な病因によって発生し、稀に淋病が喉粘膜に発生することでも、風邪によく似た症状が出る。この他にも風邪と紛らわしい初期症状を示す病気は数多くあり、これらを風邪として扱ってしまいがちなことが、普通感冒の重症化の場合に加えて[25]、「風邪は万病のもと」と言われる所以となっている[26]。
なお、情報源がアメリカの場合に発熱が「まれ」とされることについては、英語での用法も参照のこと。
風疹、麻疹、流行性耳下腺炎などは、症状が非常に特徴的であり、疾患名が特定しやすいので、風邪には含めない(ただし流行性耳下腺炎は、俗に『おたふくかぜ』と称する)。
他にもあらゆるウイルス、マイコプラズマ、クラミジア、細菌が風邪の原因となり[7]、その数は200種類以上といわれる。風邪となる病原は非常に多く、またライノウイルスを例に挙げると、数百種類の型が存在するためワクチンを作ることは事実上不可能であり、どのウイルスまたは細菌が原因なのか診断するのも困難である。
逆に言えば、病原となるウイルスまたは細菌が特定できた場合は、それらはそれぞれの疾患名で呼ぶべきであり、風邪という症状名で呼ぶのは適切ではないということになる。例えばインフルエンザウイルスによる風邪に関しては、特に症状が重いことと、検査方法が確立していることから、原因が特定され、その場合は「インフルエンザ」という疾患名で呼ばれることとなる。
細菌性の感染かウイルス性の感染かは血液検査を行い、CRP値と白血球数を参考にする。
風邪の原因となるウイルス・細菌の種類は極めて多く、原因が特定されない場合が多いが、原因が特定できた場合においては、その原因によって疾患名が確定する。また「風邪は万病の元」と言われるが、あらゆる疾患の初期症状は「風邪」として片づけられることも多く見られる。そして疾患が進むと、風邪症状の範疇には収まらない、その疾患の特有の症状が発現することになる。
このため、数日で軽快しない場合は、「あらゆる疾患」が鑑別にあがる。
以下にあるのはその一部分である。
過労を避け睡眠を十分にとり、健康的な生活を送ることが防御機構のはたらきに重要である[27]。
ハーバード大学医学部からの2021年1月の報告によると、ビタミンA、ビタミンD、およびビタミンEは、風邪、喘息、慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患の軽減と予防に関連している[28]。
2014年のシステマティック・レビューでは、手洗い、消毒用アルコールによる手指の消毒、マスク、また亜鉛のサプリメントにて有益である可能性があったが、研究報告にバイアス(偏り)がある可能性もあった[29]。プロバイオティクス(乳酸菌など)も有益である可能性があり、6つのランダム化比較試験の結果には矛盾があったが、プール解析(結合解析)は風邪の減少を示していた[29]。マスクの着用、水やポビドンヨードによるうがい、朝鮮人参、週5日の運動、ニンニク、ホメオパシー、ビタミンC (0.2 - 3 g)、ビタミンD、エキナセアでは、予防の利益は判明しなかった[29]。
2013年のコクランレビューでは、1日200mg以上のビタミンCは、風邪の発症率に変化はないが、重症度を下げ、罹患期間が成人で8 %、小児では14 %短縮し、マラソン選手など極度に肉体疲労する人々では予防効果はあった[32]。2014年のコクランレビューは、3か月毎日のニンニクは風邪の発症率を低下させており、罹患期間に差はなかった[33]。ビタミンCの摂取量が低い人々に対する1000mgのビタミンCは、偽薬に比較して、風邪の発症率を減らし風邪の期間を59 %減少させていた[34]。
ウイルスの鼻投与153人で、2週間の(寝具にいるが眠っていないと下がる)睡眠効率の悪さは発症率を上昇させていた[35]。同じく鼻投与164人で、睡眠状態を計測するアクチグラフによって計測し、7日間の睡眠時間の短さは風邪の発症率を増加させていた[36]。その理解のための調査では、52人を睡眠不足にさせると、免疫応答の低下を示す測定値が減少し、7日後に正常化し元に戻った[37]。
社会と交流を持ったり、社交的支援があったり社会性が高い方が、風邪の発症リスクが低下するという研究が過去に行われてきた[38]。客観的な社会指数と主観的な孤独感を計測した鼻投与213人では、主観的な孤独感の方が風邪を予測していた(問題は社会的な役割の数である)[39][40]。また社会性が高い人は、実際にウイルスに感染した際に撒き散らすウイルス量も少ないという結果になった[40]。
795人に風邪ウイルスを鼻投与した研究において、24歳までの親では差がなかったが、それ以上の年齢で、子を持つ親の方が風邪への抵抗性が高く、子供の数が1-2人より3人以上で高く、また同居しているほど高かった[41]。139名に同様にウイルスを鼻投与し、不安、敵対的、抑うつ的な感情様式の人々よりも活気があり穏やかといった健康的な感情様式の場合にライノウイルスやインフルエンザウイルスに感染しにくかった[42]。
幼児期に保育施設に通っていた場合、後年あまり風邪を引かない、という相関があるとされているが、詳しい要因・機序は不明である[43]。
一般に7日から10日で治癒する。快癒させる薬はない[44]。2009年の350人でのランダム化比較試験では、医師が共感的に対応した方が重症度が低く風邪の期間が0.9日短く[45]、2011年の719人での追試も似たような結果となった[46]。
西洋医学でも東洋医学でも、安静にして睡眠をしっかり摂ることは、風邪の治療に一番良い。発熱に対しては体力の問題や脱水が危惧される場合のみ冷却し、脱水には注意するが過剰にカロリーを摂取する必要はない。早期にこれらの適切な一般療法を施し、悪化させないことが重要である[47]。
西洋医学系の医師は、個々が訴える辛い症状を緩和する薬(対症療法)を採用し、総合感冒薬・解熱薬・鎮痛薬・鎮咳去痰薬を、複数処方することが多い。[要出典]
アメリカ家庭医学会 (AAFP) ガイドラインは、成人の風邪に対し、以下の治療は効果を示さない (Not effective) としている[11]。
しかし、2020年11月、ハーバード大学付属のベスイスラエルディーコネスメディカルセンターの老年医学の副主任であるスザンヌサラモン博士によると。ビタミンC、亜鉛ロゼンジ、チキンスープが役立つかもしれないと示唆した。風邪の症状の発症を感じたら、毎日のビタミンC摂取量を1,000mgから2,000mgの範囲に増やすことで風邪の症状を大幅に軽減する可能性がある[48]。
抗生物質(狭義の抗菌薬)は、抗細菌作用しか持たないため、風邪の約9割を占めるウイルス感染には効果がない。基本的に風邪は自然軽快し、抗生物質は副作用や薬剤耐性菌出現の原因となるため、投与しないことが推奨されている[49]。一方で、世界保健機関の2015年調査では、抗生物質を風邪やインフルエンザの治療に使用できると誤答した人は64%にのぼった[50]。
ただし「風邪」と呼ばれる状態は、患者の思い込みを含めて多様な病態を含みうる概念であり、基礎疾患の有無や鑑別によっては抗生物質を投与すべき場面もある[49]。
コクランのシステマティック・レビューでは、普通感冒および化膿性鼻炎への抗生物質の投与に有意な効果はなく、有害作用のリスクが有意に高まることが報告されている(アメリカ家庭医学会によるエビデンス評価は最良A)[51][11]。
抗ウイルス薬の処方は、風邪の原因ウイルスが多種に及ぶため現実的な効果はないが、いくつかの予備試験ではベネフィットが示されている[52][53]。
発熱は一種の生体防御反応であり[54]、微生物の侵入による外因性・内因性発熱物質の産生により、深部体温が上昇すると免疫機能が亢進し、病原体に対する抵抗力が高くなることが示されている[55]。また発熱がウイルスの増殖を抑制するともいわれ、高熱の場合を除き解熱薬の安易な投与は控えるべきである[54]。解熱鎮痛剤の一種であるロキソプロフェンは有意ではないものの、炎症を押さえ、平均で風邪の治癒を1日遅らせる[56]。
体温の上昇が極端に激しい場合、体力の消耗や脱水の危険回避のために医師が解熱鎮痛剤を使用することは正しい[54]。小児は体温調節中枢(視床下部)による体温調節機能の発達が未熟であり、高体温となりやすい。乳幼児の場合は、体温の上昇は熱性けいれんの危険性があるため、大人以上に注意を払う必要がある。しかし受診せずに解熱剤を使うことは厳禁で、小児科医にとって「熱さましは親の敵」と言われる[57]。小児に限らず、医師の関与なき解熱剤の使用は危険である[58][13]。
アメリカ胸部医学会 (ACCP) による、2017年のシステマティック・レビューは、風邪の咳を緩和する治療を調査し、ハチミツでは1歳以上の場合に有効性を示す複数の研究があり(1歳以下の乳児は、乳児ボツリヌス症になるため禁止)、亜鉛トローチでは有効とする弱い証拠があり、抗ヒスタミン薬や鎮痛薬、NSAIDsでは効果を裏付けるデータはなかったため、咳のためには、市販薬は推奨できないとした[59]。2018年にBMJが掲載した調査によると、システマティック・レビューを検索した結果からは充血除去薬は効果が小さいが鼻症状に有効性があることが示された[44]。
第二世代抗ヒスタミン薬(鎮静作用がない)では効果なしか不明で、鼻症状に効果が確認されているのは第一世代抗ヒスタミン薬(鎮静作用あり)である[44]。特に充血除去薬と解熱鎮痛薬を併用した場合、副作用の可能性があり、不眠、眠気、頭痛、胃腸症状が起こりえる[44]。
よく知られていない副作用では、充血除去薬の長期使用が薬物性鼻炎を起こすことがあり、薬によって安全な使用期間は異なるが最大3 - 7日が推奨される[44]。錠剤と鼻スプレーのどちらが効果的かを示す研究は見つからない[44]。エキナセア、ビタミンC 、亜鉛ロズンジ/ロゼンジ(トローチ)は鼻の症状に効果はない[44]。
2014年のシステマティック・レビューでは、抗ヒスタミン単独では意味のある恩恵はなく、充血除去薬では大人で小さな利益であり、充血除去薬との併用では大人では有益であり、抗生物質では利益はないが有害事象を増加させていた[29]。
2013年のコクランによるシステマティック・レビューでは、治療のためのビタミンCでは結果が一貫していなかった[32]。ビタミンC 1,000 mgと亜鉛10 mgの併用では、2つのランダム化比較試験の合計94人から症状緩和のために偽薬より有効であった[60]。2018年の9研究のメタアナリシスは、両方のグループで発症前からビタミンCを服用しており、風邪の発症後に日に1から6グラムをさらに追加して服用したグループでは、平均10時間の風邪の期間の短縮がみられた[17]。
急性期 | 亜急性期 | 回復期 | |
---|---|---|---|
丈夫 | 西洋薬 | (自然治癒が多い) | |
ふつう | 西洋・漢方を併用 | 漢方薬 | |
虚弱 |
東洋医学において風邪にもっともしばしば用いられる、漢方処方の流れを以下に示す[62]。
急性期・亜急性期には西洋医薬との併用が有効である[62]。
東洋医学において、小児がかぜをひきにくくなる、というのは、体の免疫機能が高められていることを意味する。かぜをひきにくくする、ということは虚弱体質の改善と関係があると考え、次のような漢方処方が代表的なものだとも言われている[63]。
アメリカ家庭医学会 (AAFP) ガイドラインでは、4歳以下の児童に対してはOTC風邪薬(総合感冒薬)を用いてはならないとしている(Should not be used, エビデンスレベルB)[11]
またAAFPは、児童の風邪に対し以下の介入は効果を示さない (Not Effective) としている[11]。
2018年にBMJが掲載した調査によると、システマティック・レビューを検索した結果からは子供で効果を確認したものはなく、注意を要することが示された[44]。6歳未満には推奨できない[44]。
風邪に対する民間療法には様々なものがあり、中には相矛盾するものもある。一般的には免疫活動を活発化させると良いと考えられているが、必ずしもそれに繋がらないものもある。
日本語の「風邪」の語源は定かではない。俳句では冬の季語として扱われる。 日本はもともと予防のためにマスクをする人が多いが、これは他の国の人々には奇妙に思われていた[74]。
英語の cold は「発熱がない病状」と認識されることが多いため、日本人が発熱時に cold と伝えると軽症に見られ、また日本の医療で cold に対して投薬されることが日本以外から見て過剰診療とされることもある[75]。
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