感染性心内膜炎
心臓の内側に細菌が感染し、これによる心臓弁の穿孔等の炎症性破壊と菌血症を起こす疾患 ウィキペディアから
感染性心内膜炎(Infective endocarditis)は、心臓の内側に細菌が感染し、これによる心臓弁の穿孔等の炎症性破壊と菌血症を起こす疾患。「亜急性細菌性心内膜炎:Subacute Bacterial Endocarditis:SBE」などとも呼ばれていたが、細菌以外(真菌などの微生物)も原因となるので、この名となった[1]。
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概念
多くの場合、大動脈弁閉鎖不全症(AR)や僧帽弁閉鎖不全症(MR)、あるいは心室中隔欠損症(VSD)や動脈管開存症(PDA)のように、「血流ジェット」(=血流の乱れ)を生じる疾患を有することが素地となる。また、弁置換後や、チアノーゼ性の複雑な先天性心疾患(ファロー四徴症など)の患者も高リスク群とされている。
しばしば抜歯、あるいはカテーテル処置などにより、循環血液中に細菌が侵入すること(菌血症)が契機となる。このとき、上記のような素地となる疾患によって血流ジェットが生じ、心内膜が傷ついていた場合、ここに付着した細菌が感染巣(疣贅)を形成し、感染性心内膜炎を引き起こすこととなる。起炎菌としては、口腔内常在菌である緑色連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が多く、弁尖などを破壊することによる心不全がもっとも危険である。
診断基準
感染性心内膜炎の診断には、デューク大学が1994年に発表した基準が基礎となる。
大基準 | 1. 微生物学的証拠 2回の血液培養で、感染性心内膜炎に典型的な微生物を検出[注釈 1] |
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2. 心内膜侵襲の証拠 新たな弁逆流、または典型的なエコー所見: 動揺性疣贅、膿瘍、弁穿孔、人工弁の新たな弁輪部裂開 | |
小基準 | 1. 感染性心内膜炎をおこしやすい心臓の素因 (僧帽弁逸脱、大動脈2尖弁、リウマチ性あるいは先天性心疾患、静注薬物使用) |
2. 発熱 | |
3. 血管現象: 主要血管塞栓、敗血症性肺塞栓、細菌性動脈瘤、頭蓋内出血、ジェーンウェイ班、結膜出血 | |
4. 免疫現象: 糸球体腎炎、オスラー結節、ロート斑、リウマチ因子 | |
5. 血液培養陽性: 大基準を満たさない場合 |
上記の大小基準をもとに、次のようにして判定する。
- 確定 (definite)
- 大基準 × 2 を満たした場合。
- 大基準 × 1 + 小基準× 3 を満たした場合。
- 小基準× 5 を満たした場合。
- 可能性あり (possible)
- 大基準 × 1 + 小基準× 1 を満たした場合。
- 小基準× 3 を満たした場合。
経過と症状
経過
感染性心内膜炎は、原因菌によって、急性と亜急性の異なる経過をたどる。
症状
感染性心内膜炎の症状は、感染症状と心症状、塞栓症状に大別される。
- 感染症状
- 発熱
- 頭痛
- 全身倦怠感
- 脾腫など
- 心症状
- 塞栓症状
治療
治療としては、原因菌に感受性のある抗菌剤を4週間ほど静脈注射する。弁疣贅が大きい場合は手術で切除することもある。
また、もっとも重要なことは、基礎疾患を有する患者に対しては、菌血症を生じうる状況に先だって抗菌剤を投与して、発症を予防することである。
関連項目
- 全身性エリテマトーデス:感染性心内膜炎と全身性エリテマトーデスの症状は多くが似ているが両者の治療法は大きく異なり、IEの治療法はSLEには害を及ぼし、SLEの治療法はIEには害を及ぼすため、安易に感染性心内膜炎と決めつけず、両者の判別、総合的判断をすることが重要となる。
参考文献
- 杉本恒明, 矢崎義雄『内科学 I (第9版)』朝倉書店、2007年。ISBN 978-4254322316。
- 医療情報科学研究所『病気がみえる〈vol.2〉循環器』メディックメディア、2008年3月。ISBN 978-4896322132。
脚注
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