Loading AI tools
感染症、自己免疫が原因で起こる炎症 ウィキペディアから
脳炎(のうえん)は、脳の炎症性疾患の総称。急性脳炎は脳実質に生じた炎症によって、発熱、頭痛、意識障害、麻痺などの急性症状を呈した状態をさす。脳炎様の臨床症状が存在するにもかかわらず脳実質に炎症が見られない場合は病理学的に脳炎に含めず脳症に分類する。脳症の病理学的な特徴は炎症ではなく脳浮腫である。
かつては両者の区別が難しいことから脳炎・脳症とまとめて述べることが多かった。詳細な病歴、臨床所見の把握、MRI検査、血液、髄液検査、ウイルス、細菌検査、長時間脳波検査、有機酸分析、アシルカルニチン分析などを駆使して診断に至る。しかし十分な検索ができず急死する例もある。
発熱の原因が中枢神経と疑われるとき、髄液検査を行い細胞数の増加があれば神経感染症と考える。神経感染症では感染部位によって名称、症状が異なる。
名称 | 英語名 | 症状 |
---|---|---|
脳炎 | encephalitis | 頭痛、発熱、痙攣、意識障害、神経局所症状 |
髄膜炎 | meningitis | 頭痛、発熱、嘔吐 |
髄膜脳炎 | meningoencephalitis | 脳炎症状と髄膜炎症状 |
硬膜炎 | pachymeningitis | 頭痛、発熱、脳神経症状 |
脊髄炎 | myelitis | 発熱、対麻痺、膀胱直腸障害 |
中枢神経系の感染症は早期発見、効率的な方針決定、速やかな治療の開始が生命予後を左右するため医療にとって最も重要な疾患の一つである。これら明瞭な臨床症候群は急性細菌性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎、脳炎、局所性感染症である脳膿瘍や硬膜下膿瘍および感染性血栓性静脈炎が含まれる。いずれもそれまで健康であった人々に発熱や頭痛などの非特異的な前駆症状を引き起こし、最初は比較的良性の病態と考えられる。しかし、ウイルス性髄膜炎以外はやがて意識状態の変化、局所性神経症状または痙攣発作が出現する。早期治療のポイントはこれらの病態を早急に鑑別し、病原体を同定し適切な特異的な治療を開始することである。まずは感染部位がくも膜下腔にある(すなわち髄膜炎である)のか、病変は脳組織全体に分布しているのか、あるいは大脳半球、小脳、または脳幹に限局しているのかを確認することが必要である。ウイルス感染により脳組織が直接受ける場合は脳炎とよばれ、細菌または真菌または寄生虫による局所性感染が脳組織に及んでいる場合には被膜形成の有無によって脳膿瘍、または脳実質炎とよばれる。
大きく分けると免疫介在性脳炎と感染性脳炎に分かれる。
ウイルス性脳炎としては多くのウイルスで画像上の特徴などがあることが多い。単純ヘルペス脳炎が最も多い。 単純ヘルペス脳炎、日本脳炎(視床や基底核に病変がある)、狂犬病、水痘帯状疱疹脳炎(小脳炎や脳血管炎)、EV71による菱脳炎(間脳、橋、延髄、脊髄、小脳)、ムンプス脳炎、エンテロウイルス脳炎、EBウイルス脳炎(両側基底核)、ニパウイルス脳炎、HHV-6脳炎(骨髄移植後の辺縁系脳炎)、CMV脳炎(AIDSに合併)、進行性多巣性白質脳症(JCウイルスによる)、亜急性硬化性全脳炎などが知られている。
マイコプラズマ脳炎、猫ひっかき病、赤痢アメーバ、熱帯熱マラリア、結核、リステリア、トキソプラズマなどの病原体でも脳炎が起こることがある。
慢性脳炎には進行性多巣性白質脳症、亜急性硬化性全脳炎、進行性風疹全脳炎が知られている。
日本神経感染症学会より診療ガイドラインが示されている。急性(時に亜急性)脳炎を示唆する症状・症候、神経学的検査所見を満たしたものが単純ヘルペス脳炎疑いであり、ウイルス学的検査所見によって確定例になる。単純ヘルペス脳炎は脳炎全体の10~20%を占め、起炎ウイルスの判明した散発性脳炎の中では最も多い疾患である。地域差はなく100万人あたり年間2~4人の頻度で起こり日本では年間400例前後の発症があると推測されている。全年代に起こりえるが50~60歳代に発症のピークがある。単純ヘルペスウイルス脳炎の95%がHSV-1によって生じ、約70~80%はHSVの再活性化(または再感染)でおこると推定されている。全単純ヘルペス脳炎の約80%にあたる典型例では側頭葉、前頭葉眼窩回などを選択的に障害する左右非対称急性壊死性脳炎の病理像をとるため精神症状をおこすことが多い。逆に全単純ヘルペスウイルスの20%が非典型例であり、軽症、慢性脳炎、脳幹脳炎などの形をとることがある。約10%程度に再発、再燃が認められ治療上注意が必要である。全年齢における検討では単純ヘルペス脳炎の未治療での死亡率は60~70%であった。抗ウイルス薬、特にアシクロビルの治療によって死亡率は19~28%に減少した。しかし適切な治療にもかかわらず死亡と高度後遺症を含めた転帰不良率は約30~50%と未だに高く、社会復帰率も約半数にとどまる。後遺症としては記憶障害、行動異常、症候性てんかんなどが多い。
神経症候、神経放射線所見を総合していくつかの臨床病型が知られている。
各年齢でみられるが,50歳~60歳にピークを認める。症状は頭痛、嘔気、発熱が多いがこれらは50%程度にしか認めないという報告もある。髄膜刺激症状、急性意識障害(覚醒度の低下、幻覚・妄想、錯乱などの意識の変容)、痙攣、局在神経脱落症状(失語症、聴覚失認や幻聴などの聴覚障害、記銘障害、運動麻痺、脳神経麻痺、視野障害、異常行動など)不随意運動、自律神経障害、SIADHなどが認められることがある。
気道の確保、栄養維持、二次感染の予防などが行われる。
診断基準で疑い例となった時点で抗ウイルス療法を開始する。単純ヘルペス脳炎が否定された段階で抗ウイルス療法を中止する。
痙攣にはジアゼパム、ミダゾラム、フェニトインなどが用いられる。脳浮腫にはグリセオールやマンニトールが考慮される。
脳幹脳炎、脊髄炎に対しては、抗ウイルス薬に加えて副腎皮質ステロイドの併用を考慮する。副腎皮質ステロイドの機序は脳浮腫の軽減、炎症性サイトカインの放出抑制などが想定されている。
転帰不良の要因としては、発症年齢が30歳以上、発症から抗ウイルス薬開始までの期間が4日以上、抗ウイルス薬開始時の意識障害がGCSで6点未満、治療開始時CTにて病巣の検出されること、初回髄液のPCRでHSV-DNAが100copy/ml以上などが指摘されている。
感染症法では五類感染症(全数把握)となっている。急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)として届出が必要である。
非ヘルペス性急性辺縁系脳炎とは頭部MRIで海馬、扁桃体を中心とした辺縁系に異常を認めるものの、ウイルス学的に検査で単純ヘルペスウイルスが否定され、悪性腫瘍の合併もみられない急性発症の脳炎を指す。急性辺縁系脳炎から単純ヘルペス脳炎や傍腫瘍性辺縁系脳炎を除外したものと考えられる。感冒用の先行感染があり、ステロイドパスルが著効を示すことからウイルス感染を契機として免疫応答異常が生じ、大脳辺縁系で急性脳炎が起こると考えられている。髄液中のIL-6が高値を示す。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.