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暑熱障害による諸症状 ウィキペディアから
熱中症(ねっちゅうしょう、英: heat illness[7][8])とは、暑熱環境下においての人間の身体適応の障害によって起こる状態の総称である[9]。人間以外の動物も同様な状態になる(「人間以外の例」参照)。
日常生活の中で起きる「非労作性熱中症(ひろうさせいねっちゅうしょう)」と、スポーツや仕事などの活動中に起きる「労作性熱中症(ろうさせいねっちゅうしょう)」に大別できる[10]。また、高温での長風呂・サウナなどでは浴室熱中症(浴室内熱中症)となる場合もある[11][12][13]。
日本において熱中症の定義は曖昧であり様々な定義が存在する、広義では暑熱障害の意味であり、狭義では最も重症な病態である熱射病と同じ意味で使われる場合がある。そのため様々な不都合が生じている、そこで日本医学会は2008年7月28日に熱中症定義を整理し熱中症を「暑熱障害による症状の総称」とし症状別に分類したがその定義も定着はしていなかった[14][7]。2015年(平成27年)に日本救急医学会から『熱中症診療ガイドライン』が発表され、国内における基準となっている(「治療」参照)。
本質的には、脱水による体温上昇と、脱水と体温上昇に伴う臓器血流低下と多臓器不全で[15]、表面的な症状として主なものは、めまい、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗(または汗が出なくなる)などがある。熱中症の体温上昇は体温調節機構による制御が行き届かないことによる高体温(うつ熱)であり、感染症に対する防衛反応など中枢制御された体温上昇である「発熱」とは別のメカニズムによる[16][17]。また、熱中症が原因で死亡することもある。特にIII度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、発症した場合は程度によらず適切な措置を取る必要があるとされている。また死亡しなかったとしても、特に重症例では脳機能障害[18]や腎臓障害の後遺症を残す場合がある。
屋内・屋外を問わず、高温・多湿が原因となって起こり得る。湿球黒球温度21 - 25℃あたりから要注意になる。日本の国立衛生研究所[要曖昧さ回避]の資料によると、25℃あたりから患者が発生し(段階的に増え)、31℃を超えると急増する。
湿球黒球温度によるリスク度の判断は1954年、アメリカ海兵隊のサウスカロライナ州パリス・アイランド訓練所で導入された。
この湿球黒球温度を日本では「暑さ指数」と呼び、これが33以上になると予想される日は環境省と気象庁が都道府県単位で熱中症アラートを発令しており、発令地域では外出自粛を呼びかける自治体もある[19]。
分類 | 症状 | 対応例 | 従来の分類 |
---|---|---|---|
I度 (軽症) |
眼前暗黒、気分が悪い、手足の痺れ 四肢・腹筋[要曖昧さ回避]の痙攣、こむら返り、筋肉痛、硬直 血圧低下、皮膚蒼白 | 日陰で休む 水分補給 衣服を緩めるとともに体を冷やす | 熱痙攣、熱失神 |
II度 (中等症) |
強い疲労感、頭痛、吐き気、倦怠感 脱力感、大量発汗、頻脈、めまい、下痢 | 医療機関での治療(輸液)、管理 | 熱疲労 |
III度 (重症) |
深部体温上昇 脳機能障害による意識混濁、譫妄状態、意識喪失[注 1] 肝臓機能障害・腎臓機能障害 血液凝固障害 | 救急車で救命医療を行う医療施設に搬送して治療、管理 | 熱射病 |
III度 (重症) (JAAM2024) |
Ⅳ度に該当しない従来のⅢ度 | 入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療 | Ⅲ度(JAAM2015) |
IV度 (最重症) (JAAM2024) |
深部体温 40.0℃以上かつ | Active Coolingを含めた早急な集学的治療 | Ⅲ度(JAAM2015) |
qIV度 (quick Ⅳ度) (JAAM2024) |
表面体温 40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS ≦8(もしくは JCS ≧100)【深部体温の測定不要】 | 深部体温測定を行い、速やかに重症度を判断する。Ⅳ度と判断された場合、早急に Active Cooling を含めた集学的治療を実施する。 | ー |
III度熱中症の診断基準は、
の3つを満たすもの。血液凝固は体温の過度の上昇によって体タンパク質が壊れて内出血をした結果、内出血を止めるために血液が凝固するために起こる。言い換えれば、熱射病になった後に起こる症状である。
日本語 | 英語 | 備考 | ||
---|---|---|---|---|
熱中症 | heat stress disorder, heat disorder ,heat illness, heat attack | 暑熱障害による症状の総称 | ||
(軽症) | 熱失神 | heat syncope | 皮膚血管の拡張により血圧が低下し、脳血流が減少して起こる一過性の意識消失 | |
【同】熱虚脱 | heat collapse | |||
熱痙攣 | heat cramp | 低Na血症による筋肉の痙攣が起こった状態 | ||
(中等症) | 熱疲労 | heat exhaustion, heat prostration | 大量の汗により脱水状態となり、全身倦怠感、脱力、めまい、頭痛、吐気、下痢などの症状が出現する状態 | |
(重症) | 熱射病 | heat stroke, heatstroke | 体温上昇のため中枢神経機能が異常を来たした状態 | |
日射病 | sunstroke | 上記の中で太陽光が原因で起こるもの |
重症度 | 意識 | 体温 | 皮膚 | 発汗 | |
---|---|---|---|---|---|
熱失神 | Ⅰ度 | 消失 | 正常 | 正常 | (+) |
熱痙攣 | Ⅰ度 | 正常 | 正常 | 正常 | (+) |
熱疲労 | Ⅱ度 | 正常 | 〜 39℃ | 冷たい | (+) |
熱射病 | Ⅲ度 | 高度な障害 | 40℃〜 | 高温 | (-) |
病態生理学に基づいた国際分類では下記のような用語が用いられている。
熱失神(ねつしっしん、英:heat syncope)。
熱痙攣(ねつけいれん、英:heat cramps)。
熱疲労(ねつひろう、英:heat exhaustion)。
熱射病(ねっしゃびょう、英:heat stroke)。 かつては高温多湿の作業環境で発症するものを「熱射病」、日光の直射で発症するものを「日射病(にっしゃびょう、英:sun stroke)」と言い分けていた。その発症メカニズムは全く同等のものであり、最近では「熱射病」に統一されつつある。
Bouchama基準[注 3]
世界的には2002 年のNew England Journal of Medicine で示されたBouchama基準[22](軽症群を Heat exhaustion(軽症)、重症群をHeat stroke(重症)と呼称)が標準になっている[23]。
根本的には環境温度を熱中症を発症する温度以下にすることである。しかし、熱中症を発症の危険性がある温度環境下で過ごす場合は、人に対する対策が必要である。
特に運動中に際して冷たい飲み物を飲み、極端な運動を避け、涼しい風呂やシャワー、体に水をかける、明るい色のゆるい服装、熱い時間帯の直射日光を避け、酒の飲みすぎを避ける[38]。
外気温が35度を超えると、外部から熱も入ってくるようになる[39]。水分を摂るのは、人間は汗を出して体温調整しているので水分が必要になるということである[39]。28度というのはあくまで室内温度の目安であって、エアコンの設定温度のことではなく、設定した温度にならないこともあれば、28度でも西日が入り暑いということもある[39]。
厚生労働省による『H27熱中症予防リーフレット』[40]などによれば、下記の例が予防策として上げられている。
運動時における予防策として日本体育協会により下表のような「熱中症予防のための運動指針」が掲げられている。
湿球黒球温度 (WBGT) | 湿球温度 (℃) | 乾球温度 (℃) | 熱中症予防のための運動指針 | |
---|---|---|---|---|
31 - | 27 - | 35 - | 運動は原則中止 | 特別の場合以外は禁止。 特に子供の場合は中止すべき。 |
28 - 31 | 24 - 27 | 31 - 35 | 厳重警戒 激運動中止 | 激しい運動や持久走などは避ける。 積極的に休憩を取り、水分補給。 体力の無い者、暑さに慣れていない者は運動中止。 |
25 - 28 | 21 - 24 | 28 - 31 | 警戒 積極的休憩 | 積極的に休息をとり、水分補給。 激しい運動では、30分おきぐらいに休息。 |
21 - 25 | 18 - 21 | 24 - 28 | 注意 積極的水分補給 | 死亡事故が発生する可能性がある。 熱中症の兆候に注意。運動の合間に水分と塩分を補給。 |
- 21 | - 18 | - 24 | ほぼ安全 適宜水分補給 | 通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分補給を行う。 市民マラソンなどではこの条件でも要注意。 |
上記のようにその場その場で周囲の温度や体温が過度に上がらないようにしたり、水分補給や休息を心掛けたりする以外に、夏に向けて身体を暑さに慣らしておく「暑熱順化」(暑熱馴化)も有効である。具体的にはややきつめの運動を毎日30分程度、数日間から2週間続けることで、発汗により体内の熱を逃がしやすくする[53]。暑熱順化は長い期間行わずに休み続けると元の体質に戻るため、その場合は再度暑熱順化のための時間を設けて慣らす必要がある。
脱水尿色チャートを使うと、尿の色によって簡易的に脱水状態を知ることができる[54][55]。
状態 | 水分摂取の行動 |
---|---|
問題無し | 普段通りに水分摂取 |
問題無し | コップ1杯の水分を摂取 |
脱水 | 1時間以内に 250ml の水分を摂取 屋外あるいは発汗していれば 500ml の水分を摂取 |
脱水 | 今すぐ 250ml の水分を摂取 屋外あるいは発汗していれば 500ml の水分を摂取 |
脱水 | 今すぐ 1000ml の水分を摂取 この色より濃い、あるいは「赤色」「茶色」が混ざっていたら直ちに医療機関へ |
※厚生労働省 職場の安全サイト「尿の色で脱水症状チェック」の記載を参考(表示環境によって色調が異なる)。
鑑別が必要な疾患として注意が必要なのは糖尿病、高血圧の既往歴を有する場合で、低血糖発作、心筋梗塞や脳梗塞などの血管梗塞の症状を誤認して適切な対応が遅れる例が報告されている[62]。
全身の冷却が行われる。応急処置として体表面体温の低下のために冷却輸液、氷嚢や蒸散冷却、胃洗浄などが用いられる。同時に脱水、脱塩を補正し、血液中の電解質バランスを正常にするための輸液、人工透析も行われる。
2015年(平成27年)に日本救急医学会から『熱中症診療ガイドライン2015』[58]が発表された。前述「熱中症の重症度分類」表 II度とIII度は医療現場での対処が行われ、中枢神経症状、肝・腎機能障害、血液凝固異常などの臓器障害を呈しているならば入院治療が必要となる[63]。更に、基礎疾患の既往、服用薬歴、意識レベル、自力歩行の可否、食事の摂取状況などさまざまな視点から治療方針の判断が行われる。特に、III度重症患者では短時間で深部体温を平常体温にまで下げる必要があるため、水冷式のジェルパッド、心停止後症候群治療時に使用される低体温療法用装置、血管内冷却カテーテルが用いられ[64]、有効性が報告されている。
2024年(令和6年)に改訂版の『熱中症診療ガイドライン2024』が発表された[65]。
重症度分類では、Ⅰ~Ⅲ度の診療アルゴリズムについては、熱中症診療ガイドライン2015 を踏襲しつつ、新たにⅣ度が追加され、また表面体温だけでも迅速に対応するきっかけとなるよう、qⅣ度も併せて提唱された(対してⅣ度は深部体温にて定義される)[注 4]。重症度分類2015において、Ⅲ度(2015)に分類されるものには、軽度の意識障害(JCS≧2)から DIC を含めた多臓器不全までが含まれており、その程度は幅広い。そのため、同じⅢ度(2015)の重症度であっても、その程度に応じて必要な治療が異なってくる可能性があり、2024版ではⅣ度が設定された。
また、熱中症診療ガイドライン2015では、「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」「従来の冷却法(氷囊、蒸散冷却、水冷式ブランケット)」「ゲルパッド法」「ラップ法」などと記載されていたが、2024では、何らかの方法で熱中症患者の身体を冷却することを、「Active Cooling」として、包括的な記載に統一した。
Active Cooling:何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること。ただし、Passive Cooling(冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩すること)は含まない。
重度の熱中症になった場合、深部体温が上がって高発熱状態になった段階で徐々に脳細胞が死滅するとされる。仮に救命できたとしても、間脳の視床下部に存在する体温調節中枢に永久的な障害を残す場合もある。もしも体温調節中枢に障害が残ると、以後、極端な高温や低温に対する耐性が低くなる。この他、幻覚、視力低下、構音障害(吃り、呂律が回らない)、運動障害、意識障害、肝機能低下、痙攣などの後遺症が残った例もある[66]。一度死滅した脳細胞が再生することはないため、全快の見込みはほぼ望めない。
日本では、年々増加傾向にある[67]。消防庁によると、2018年(平成30年)4月30日-9月30日の約5カ月間の熱中症による救急搬送者は9万5073人で、過去最多であった[68]。
発症者を年齢層別で見てみると65歳以上の人が半数以上で、年齢が高いほど発症率が増している[15]。
年齢帯ごとに発生が多い場所(特徴的な場所)は次のとおり。
日本において、熱中症については厚生労働省[71][72]、文部科学省、環境省[73]でそれぞれ指導・対策が公表されている。
高温多湿地域であるアフリカ大陸ギニア出身のオスマン・サンコンは、「『熱中症』に該当する症状はギニアで聞いたことがなく、日本に来て初めて知った」と発言した(2013年)[74]。しかしながら、2024年の研究報告では、ギニアを含む熱帯アフリカ地域において過去に行われた研究100件のデータを解析したところ、この地域での高気温は、脱水症状、不快感、熱中症などの罹患率や、それらによる死亡との関連は明らかであるとしている[75])。
インドでは南部を中心に、毎年、熱中症による死者が数百人の規模で発生する。2015年5月、テランガーナ州、アーンドラ・プラデーシュ州では過去20年来最悪の熱波に襲われ、1,800人以上の死者を出した[76]。
厚生労働省の集計によると、熱中症による職業別死傷者数(2015~2019年合計)は以下のように建設業と製造業が多くなっている[77]。
イヌは汗腺が少ないため、日本においては、特に5月から10月にかけて熱中症にかかりやすい[85]。散歩の際には地面から体までの距離が人よりも近く、舗装道路からの反射熱がイヌに大きな影響を及ぼすため、注意が必要である[85]。
ラクダは乾燥地帯の気候に順応しているが湿潤環境には弱く、日本で熱中症となった事例もある[86]。
ウマは寒冷地に生息する動物であり、基礎体温が37〜38度と高く筋肉量も多いため、高温多湿な気候では熱中症になりやすく死亡事例(アスクビクターモアなど)もある[87][88]。ハードバージが晩年の使役馬時代に過酷なホースショーで熱中症になり死亡したことがきっかけで、競走馬の養老施設や助成制度(功労馬繋養展示事業)が作られる契機となった。
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