区間外乗車(くかんがいじょうしゃ)とは、JR線で特例とされるものの一つである。本特例に基づき、旅客は別運賃を要さずに当該区間を乗車することができるが、区間外乗車中は途中下車することはできない。
旅客営業取扱基準規程(東海旅客鉄道は旅客営業取扱細則)に記載されている。2024年4月1日からは旅客営業規則第160条に記載される。
旅客営業取扱基準規程(東海旅客鉄道は旅客営業取扱細則)第149条(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の2)により、当該区間の区間外乗車をすることができる。
- 例:「大阪駅からJR難波駅まで(大阪環状線今宮駅関西本線経由)」の普通乗車券では、本特例に基づき、今宮駅と新今宮駅の間を区間外乗車することができる (改札を出ない限り折り返し乗車をしてもよい)。なお、先乗列車と後乗列車の両方が今宮駅に停車する場合でも可能。
本特例に基づき、区間外乗車ができる区間は次の区間である[1][2]。
- 旅程第150条(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の3)では、特定都区市内発着又は東京山手線内発着となる普通乗車券を所持する旅客が列車に乗り継ぐため、同区間内の一部が復乗となる場合は、当該区間の区間外乗車をすることができる。
- 例:「岡山駅から東京都区内まで(新幹線経由)」の普通乗車券で、岡山駅から東京駅まで新幹線に乗車し、東京駅から有楽町駅まで普通列車に乗車する場合、本特例が適用される(東京駅・有楽町駅間は東海道本線を折返し乗車することになるが、同区間を区間外乗車することは可能)。
- 同条2項では、大阪市内発着の乗車券で、塚本駅・加島駅間(尼崎駅経由)および加美駅・新加美駅間(久宝寺駅経由)を区間外乗車できることが定められている。
- なお、大阪市内発着の乗車券と同様の現象が考えられる横浜市内発着の乗車券では、戸塚駅・本郷台駅間(大船駅経由)を区間外乗車することはできない。
- 2019年11月30日からは、横浜市内発着の乗車券で、鶴見駅・武蔵小杉駅間を区間外乗車できることが定められている[3]。
いわゆる「分岐駅通過の特例」である。
旅程第151条(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の4)は、列車が次の左側の駅を通過するため左側の駅と右側の駅との間を折り返し乗車する場合は、当該区間内において途中下車をしない限り、旅客は別運賃を要さずに、当該区間の区間外乗車をすることができることを定めている。なお、定期券の場合は本特例は適用されない。
- 例:「旭川駅から新札幌駅まで(函館本線[白石駅]千歳線経由)」の普通乗車券で、旭川駅・札幌駅間を特急カムイに乗り、札幌駅で普通列車に乗り換える場合は、本特例に基づき、白石駅と札幌駅の間を区間外乗車することができる (改札を出ない限り折り返し乗車をしてもよい)。なお、先乗列車または後乗列車のいずれか、もしくは両方が白石駅を通過する場合でなければ本特例は適用されない。
2023年(令和5年)現在、区間外乗車ができる区間は次の区間である[4][5]。
海田市駅・広島駅間の取扱い
旅程151条の2(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の5)は、「矢野以遠(坂方面)の各駅と三原以遠(糸崎方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線に乗車(広島・東広島間を除く) する場合は、規則第16条の2第2項の規定にかかわらず、三原・広島間を同一の線路とみなして、広島・海田市間において、途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。」と定めている。これにより、この区間の分岐駅通過を行う場合、通常は本特例が適用される。
- 例:「岡山駅から呉駅まで(新幹線[海田市駅]呉線経由)[† 1]」の普通乗車券では、海田市駅から広島駅までの区間で、本特例が適用される。この場合、広島駅で途中下車できない(運賃計算距離:174.9km)。
一方、旅客営業規則第16条の2第2項では三原駅・広島駅間は新幹線と在来線を別線扱いすると定めている[† 2]。このため、分岐駅通過の特例を使わずに乗車券を購入することが可能である。
- 例:「岡山駅から呉駅まで(新幹線[広島駅]山陽本線[海田市駅]呉線経由)」の普通乗車券では、分岐駅通過の特例が適用されない。このため、広島駅で途中下車することができる(運賃計算距離:187.7km)。
小倉駅・博多駅間の取扱い
この区間は、旅客営業規則(旅規)第16条の2第3項に基づき、新幹線と在来線は別線扱いである。しかしながら、旅程第43条の2により、以下に掲げる各駅相互間を乗車する旅客が新幹線(小倉駅・博多駅間)に乗車する場合、西小倉駅・小倉駅間又は吉塚駅・博多駅間において途中下車ができないものの、当該区間の営業キロを除いた乗車券を購入することができる。この場合、旅程第151条の3に基づき、分岐駅通過の特例が適用される。(旅程第43条の2および第151条の3第2項)
- 南小倉駅以遠(城野駅方面)の各駅と博多南駅又は博多駅以遠(竹下駅又は新鳥栖駅方面)の各駅相互間
- 柚須駅以遠(原町駅方面)の各駅と小倉駅以遠(門司駅又は新下関駅方面)の各駅相互間
- 南小倉駅以遠(城野駅方面)の各駅と柚須駅以遠(原町駅方面)の各駅相互間
これは、旅程第152条(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の6)に基づくものである。当該区間を折り返して運転する急行列車[† 3]に乗車する場合、旅客は同区間の運賃・料金[† 4]を要さずに乗車することができる。
- 例:「大分駅から博多駅まで(日豊本線[西小倉駅]鹿児島本線経由)」の普通乗車券および特急券で、大分駅から博多駅まで特急ソニック、にちりんシーガイアに乗車する場合。本特例に基づき、西小倉駅と小倉駅の間を区間外乗車することができる(当該区間を同じ列車で通過する場合に限る)。
当該区間は、次に掲げる区間である。なお、右に●が記された区間は、分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例も適用される区間である。また、☆が記された区間は、特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例も適用される区間である。
- 2024年3月現在主な列車が運行されている区間(括弧内は主な列車)
- その他の区間
- 札幌駅・白石駅間 ●
- 羽前千歳駅・山形駅間 ●(2024年3月31日削除)
- 北山形駅・山形駅間 ●(2024年4月1日追加)
- 宮内駅・長岡駅間 ●
- 日暮里駅・上野駅間 ☆
- 金山駅・名古屋駅間 ●
- 倉敷駅・岡山駅間 ●
- 備中神代駅・新見駅間 ●
上記のように多数設定されているが、2019年(令和元年)現在定期列車があるのは、西小倉駅・小倉駅間のみである。
これは、旅程第110条(2024年4月1日からは旅客営業規則第160条の7)に基づくものである。一般には、列車特定区間と呼ばれる。当該区間を直通する列車(一部は急行列車[† 7])に乗車する場合には、途中下車しない限り、より短い経路の距離で運賃・料金を計算する。
- 例:特急はまかぜを大阪駅から鳥取駅まで利用する場合、実際の乗車経路(東海道本線[神戸駅]山陽本線[姫路駅]播但線[和田山駅]山陰本線)の営業キロで運賃・料金を計算せず、本特例に基づく経路(東海道本線[尼崎駅]福知山線[福知山駅]山陰本線)の営業キロで運賃・料金を計算する。なお、尼崎・和田山間を同一急行列車で途中下車しない場合に限り、本特例は適用される(姫路駅など途中駅で下車する場合は、本特例は適用されない)。
当該区間は、次に掲げる区間である[9]。
- 赤羽駅以遠(川口駅方面)の各駅と池袋駅以遠(目白駅方面)の各駅との相互間を、東北本線及び山手線経由で直通運転する列車に乗車するときは、東北本線及び山手線経由で乗車しても、赤羽線経由で運賃・料金を計算する。
- 例えば、赤羽駅から新宿駅まで特急スーパービュー踊り子に乗車する場合、本特例が適用される。なお、同列車で大宮・横浜間を利用する場合など、電車大環状線を通過する場合は、旅規第70条(東京付近の特定区間を通過する場合の特例)が適用される。また、普通旅客の場合(湘南新宿ラインを利用する場合など)、旅規第70条(東京付近の特定区間を通過する場合の特例)もしくは、旅規第157条2項(大都市近郊区間の選択乗車)が適用される[† 8]。
- 代々木駅以遠(新宿駅方面)の各駅と錦糸町駅以遠(亀戸駅方面)の各駅との相互間を、山手線、東海道本線及び総武本線経由で直通運転する急行列車に乗車するとき (成田エクスプレス号など)は、山手線、東海道本線品川・東京間及び総武本線東京・錦糸町間で乗車しても、中央本線及び総武本線御茶ノ水・錦糸町間で運賃・料金を計算する。
- 例えば、成田空港駅から新宿駅まで特急成田エクスプレスを利用する場合、本特例が適用される。なお、同列車で成田空港・八王子間を利用する場合など、電車大環状線を通過する場合は、旅規第70条(東京付近の特定区間を通過する場合の特例)が適用される。
- 尼崎駅以遠(塚本駅方面)の各駅と和田山駅以遠(養父駅方面)の各駅との相互間を、山陽本線、播但線及び山陰本線経由で直通運転する急行列車に乗車するとき (はまかぜ号など)は、山陽本線、播但線及び山陰本線で乗車しても、 東海道本線、福知山線及び山陰本線経由で運賃・料金を計算する。
- この特例により、播但線経由の特急はまかぜを利用しても、福知山線経由の特急こうのとりを利用した場合と運賃・料金に差は生じない。
- 岡谷駅以遠(下諏訪駅方面)の各駅と塩尻駅以遠(洗馬駅又は広丘駅方面)の各駅との相互間を中央本線(辰野駅経由)で直通運転する急行列車に乗車するときは、中央本線を辰野駅経由で乗車しても、中央本線のみどり湖駅経由で運賃・料金を計算する。
- 2019年(令和元年)現在、当該区間を通過する定期急行列車は存在しないが、2017年(平成29年)夏および2018年(平成30年)夏に運転の木曽あずさ号では、本特例が適用される[10][出典無効][† 9]。なお、下諏訪駅方面と広丘駅方面の一部は東京近郊区間に所属するため、同大都市近郊区間相互発着の乗車券であれば、旅規第157条2項(大都市近郊区間の選択乗車)が適用される[† 8]。
窓口や指定席券売機で当該列車の特急券と同時に乗車券を購入する場合、旅客からの申し出がなくても本特例が適用されるようになっている。
旅客が区間外の駅で下車を希望する場合、当該区間の運賃は別途必要になる(原券が下車前途無効の場合は区間変更の取扱いとなる)。このため、旅客は当該区間の往復の旅客運賃(料金)を支払わなければならない[4]。
復路専用乗車券
上記の理由により、一部駅では復路専用乗車券を常備している。これは、旅客が往路の出場時に復路の運賃も支払うために一部駅で発売されているものである。
旅規第156条に定められた大都市近郊区間を、旅規第157条第2項により選択乗車する場合(いわゆる大回り乗車など)、これらの特例が適用されることがある。このため、大都市近郊区間内相互発着でありながら、同じ駅を2度以上通過することがある。詳細は、大都市近郊区間 (JR)#大都市近郊区間と他の運賃制度の特例を参照されたい。
JR以外の鉄道事業者でも類似した制度を定め、旅客の利便性を図っている場合がある。
東武鉄道
小田急電鉄
名古屋鉄道
近畿日本鉄道
阪神電気鉄道
- 杭瀬駅以東の阪神本線と阪神なんば線を乗り継ぐ場合で、大物駅を通過する列車を利用する場合、定期乗車券以外は大物駅 - 尼崎駅間の運賃は不要である。大阪梅田駅 - 杭瀬駅を発着駅とする定期乗車券を購入する場合、尼崎駅経由もしくは大物駅経由かを選ぶことができ、大物駅経由の定期乗車券の場合、当該区間を折り返す場合は大物駅 - 尼崎駅間の往復運賃が必要である[15]。
南海電気鉄道
福井鉄道
注釈
三原駅以遠から広島駅間を新幹線利用する場合も含むため、新在別線でありながら海田市駅を分岐駅として計算することができる
分岐駅通過の特例が設定された後に、山陽新幹線に東広島駅が開業したため。
ただし、時刻表の営業案内[6]やウェブサイト[7]には急行列車に限るとは明記していない。例示した「○○のはなし」は快速列車である。これはJR各社内部において、「○○のはなし」にも折り返し乗車の特例を適用するという文章が発出されているためであり、同文章は旅客には確認することはできないものの、実務上においても係員に乗車券の不足を咎められることはない。
急行料金については旅程第166条、グリーン料金については第170条にて準用。
「○○のはなし」の経路について、幡生駅・下関駅間はJR西日本のウェブサイト上でも記載されているが[7]、同じく折り返し運転となる(新下関行のみ)長門市・仙崎間の扱いについては、旅客営業規則や旅客営業取扱基準規程本文も含めて明記されていないものの、JR各社内部において「○○のはなし」乗車時に同区間にも折り返し乗車の特例を適用するという文章が発出されており、同文章は旅客には確認することはできないものの、係員に乗車券の不足を咎められることはない。なお、2024年4月1日施行の旅客営業規則改正時に同区間は明文化される予定である。かつては同区間には1970年代に、仙崎駅に立ち寄った後に折り返して戻る、厚狭発長門市・仙崎経由の益田行という普通列車が運行されていたことがある[8]。
「36ぷらす3」は2020年10月16日(現行の「月曜日ルート "金の路"」は2022年10月3日)から運行開始しており、折り返し運転となる西小倉・門司港間および江北・肥前浜間の扱いについては明文化されていなかったが、実態は折り返し乗車の特例が適用されていた。これを2024年4月1日施行の旅客営業規則改正により明文化するものである。
ただし、旅規157条の規定は選択乗車であり、運賃計算を最短経路で強制するものではない。また、料金券については大都市近郊区間による特例はない。
指定席券売機で木曽あずさ号の特急券購入と同時に、乗車券を購入した場合、みどり湖経由の乗車券が発売される
同分岐点は1949年までは枇杷島橋駅という駅であり、廃駅後も運賃計算上の分岐点としての扱いが続いている。
名古屋鉄道ウェブサイト(ダイヤ・運賃検索)に基づく
南海電鉄ウェブサイト(ダイヤ検索)に基づく(天下茶屋に優等列車が停車する以前は新今宮での乗り換え扱いだった)
出典
『JR時刻表』第60巻第3号(通巻第707号)、交通新聞社、2022年3月、957頁。
『国鉄監修 交通公社の時刻表』第54巻第1号(通巻第623号)、日本交通公社、1978年1月、171頁。
徳田耕一「名古屋鉄道空港線開業―1月29日名鉄ダイヤ改正」『鉄道ピクトリアル』第761巻、電気車研究会、2005年5月、116頁。
“普通旅客運賃表” (pdf). 福井鉄道 (2019年10月1日). 2022年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月1日閲覧。