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鞘翅目ホタル科に分類される昆虫の総称、発光することで知られる昆虫 ウィキペディアから
ホタル(蛍、螢)は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル科 Lampyridae に分類される昆虫の総称[1]。発光することで知られる昆虫であり、ホタルという名もその様から「火(ホ)を垂(ル)」として呼ばれるようになったが、ほとんど光らない種が多い[1]。
ホタル科 Lampyridae | ||||||||||||||||||||||||
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ゲンジボタル Nipponoluciola cruciata | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||||||||
Firefly | ||||||||||||||||||||||||
亜科 | ||||||||||||||||||||||||
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極地や砂漠などの乾燥地を除いた全世界に分布していており、2000種以上が生息しているとされる[2]。幼虫時代を水中で過ごす水生ホタルと、陸上の湿地で過ごす陸生ホタルがいる[3][4]。ただし水生ホタルは世界で10種類ほどしか知られておらず、そのうち日本にはゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種類が生息している[2]。
日本で「ホタル」といえば一般的にはゲンジボタル Nipponoluciola cruciata を指すことが多い[5]。本州、四国、九州と周囲の島に分布し、北海道に移入分布する。九州地方では5月上旬から、東北では7月頃から羽化する[6]。
本州、四国、九州では、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタル、クロマドボタル、オバボタル、オオオバボタル、スジグロボタル、ムネクリイロボタル、カタモンミナミボタルのおおむね9種類が観察される[7]。日本では50種ほどのホタルが確認されているがほとんどは南西諸島に分布しており、沖縄などでゲンジボタルより扁平なマドボタルを見ることができる。
台湾では60種以上が生息しており、初夏にホタルを鑑賞する観光行事も行われている[8]。
ゲンジボタルの成虫が初夏に発生するため、日本ではホタルは夏の風物詩と捉えられており、夜の蛍の発光を鑑賞する「蛍狩り」が行われる[注釈 1]。日本を含む東アジアにおいて、蛍の成虫は必ずしも夏だけに出現するものではない。例えば朝鮮半島、中国、対馬に分布するアキマドボタル Pyrocoelia rufa は和名通りに秋に成虫が発生する。西表島で発見されたイリオモテボタル Rhagophthalmus ohbai は真冬に発光する。南西諸島に数種が分布するヒゲボタル類も秋から冬に成虫が現れる[9]。
成虫の体長は数mmから30mmほどで、甲虫としては小型から中型である。体型は前後に細長く、腹背に平たい。特に前胸は平らで、頭部を被うことが多い。よくある色合いは全体に黒っぽく、前胸だけが赤いというものである。その体は甲虫としては柔らかい。オスとメスを比べるとメスのほうが大きい。メスは翅が退化して飛べない種類があり、さらには幼虫のままのような外見をした種類もいる。光でコミュニケーションする種では触角は糸状で細いが、フェロモンを使う種では鋸歯状だったり、クシ状だったりするものもいる。成虫期間は約1-2週間。
幼虫はやや扁平で細長い。頭部は胸部に引っ込めることができる。胸部に短い三対の歩脚があり、腹部の後端に吸盤があって、シャクトリムシのように移動する。
多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってマイマイやキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズ、ヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本に棲むゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種の幼虫は淡水中に生息し、モノアラガイやカワニナ、タニシやミヤイリガイなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である(実際、『ファーブル昆虫記』に登場するホタルは陸棲で、カタツムリを捕食する)。また、スジグロボタルの幼虫は普段は陸上で生活するが、摂食時のみ林内の小さな湧水や細流の水中に潜り、カワニナを捕食していることが知られている。ゲンジボタルやヘイケボタルなど水生の種では、幼虫・成虫ともに水草やスイカのような香りがある。
多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため、ほぼ1-2週間の間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる。海外には、成虫となっても他の昆虫などを捕食する種がいる。
ホタルのうち尾部などに発光器官を持つ種は、酵素のルシフェラーゼと、ルシフェリンの化学反応で光を発する(後述「発光のメカニズム」参照)。日本の基礎生物学研究所と中部大学はヘイケボタルの、両者に米国マサチューセッツ工科大学を加えた研究チームは米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムを2018年に解読。発光しない生物にもある脂肪酸代謝酵素(アシルCoA合成酵素)が、ホタルの祖先が進化する過程で重複を起こして、1億年以上前に発光能力を得たと推測されるとの研究結果を発表した(ホタルとは近縁のヒカリコメツキの発光原理も同様であるが、進化の過程は別)[10]。
ホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫は毒を有しており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態、ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。ただし、それらは体色が蛍に似るものであり、発光するわけではない。
卵や幼虫の時代にはほとんどの種類が発光する。成虫が発光する種は夜行性の種が大半を占め、昼行性の種の成虫では強く発光する種も存在するが、多くの種はまず発光しない。夜行性の種類では主に配偶行動の交信に発光を用いており、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。このため、「交尾のために発光能力を獲得した」と言う説も有力である。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。成虫が発光する場合は蛹も発光するので、このような種は生活史の全段階で発光することになる。昼行性の種では、光に代わって、あるいは光と併用して、性フェロモンをコミュニケーションの媒体としていると考えられる[4]。
変わった例では以下のような種類もいる。
発光するホタルの成虫は、腹部の後方の一定の体節に発光器を持つ。幼虫は、腹部末端付近の体節に発光器を持つものが多いが、より多くの体節に持っている場合もある。
ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素とATPがはたらくことで発光する。発光は表皮近くの発光層で行われ、発光層の下には光を反射する反射層もある。ホタルに限らず、生物の発光は電気による光源と比較すると効率が非常に高く、熱をほとんど出さない。このため「冷光」とよばれる。
日本には50種類以上のホタルが生息しているが、代表的な種類には以下のようなものがいる[7]。なお、上述のイリオモテボタルは、ホタル科でなくオオメボタル科Rhagophthalmidaeであり、日本からは1種しか知られていない。またベニボタルも和名に「ホタル」とあるがホタル科ではなく、同じホタル上科のベニボタル科 (Lycidae) の昆虫である。
ホタルの生息数は年々減少しており、その原因としては生息環境の破壊や汚染、自然環境の放置、ホタル観賞のマナーの問題などが挙げられる[14]。
環境省の「第2回自然環境保全基礎調査報告書」(1982年)によればホタル減少の原因として、農薬の使用、イワナ漁のための毒流し、ミヤイリガイの駆除[注釈 2]、汚水や排水の流入、工事等による土砂の流入、川砂利の採取、河川や用水路の改修などが挙げられているという[14]。
自然環境については、特に里山の放置による生態系の変化が大きいとされる[14]。ホタル鑑賞者のマナーの問題とは、ホタルを採集してしまったり、光でコミュニケーションをとっているホタルに対して人工的な照明を向けることにより交配ができずに子孫を残せなかったり、ゴミを捨てることによる環境の悪化などが挙げられる[15]。
多摩動物公園昆虫館でホタル飼育技術を確立した矢島稔(日本ホタルの会名誉会長)は、昭和40年代以来、皇居ほか各地のホタル復活に手を貸してきた[16]。現在では自然保護の気運も高まり、自然回復や河川の浄化を含めて、自治体などの取り組みとしてゲンジボタルの保護や放流が行われるようになっている[17]。
しかし、ホタル復活を謳いながら実はビオトープが「造園業者が手掛ける箱庭」「人寄せパンダ」に過ぎなかったり、ホタルの養殖販売業者からホタルの幼虫や成虫を購入して放すだけだったりする場合も少なくない[18]。ホタルをめぐってのトラブルも各地で発生しており、解決すべき課題も多い。
なお、他地域のゲンジボタル、または幼虫の餌となるカワニナを放流することは遺伝子汚染を引き起こすため、行うべきではない。
ホタルの研究会として、日本ホタルの会、陸生ホタル生態研究会、全国ホタル研究会、東京ゲンジボタル研究所、NPOホタルの会などがある。
ホタル保全護岸は護岸本来の機能に加え、ホタルやそのエサとなるカワニナの生育に適した環境をつくることを目的とした護岸である。
山口県はホタルで有名で[20]、特にホタルの生息が多いのが、山口市の一の坂川、椹野川、吉敷川および下関市豊田町の木屋川で、天然記念物指定河川となっている[21]。
小規模河川改修事業が実施された一の坂川の護岸は、ホタル保全護岸の代表的なものである。一の坂川は市街地を貫流し、両岸には住宅や道路がせまっているため、拡幅せずに河床の掘り下げによる河積の拡大を図る改修が行なわれた。こうしたことから護岸も急勾配の法面となる等の制約のもとにホタル保全護岸が考えられた。
河川底の掘り下げによりそれまで河に棲息していたホタルの幼虫やエサのニナも取り除かれてしまうため、改修にあたっては再びホタルの棲息条件を整え、改修後あらたに幼虫やカワニナを放流しホタルの復活を図る工法として考えられた。
ホタルの棲息条件を満たすために次のような点が配慮されている。
また、椹野川でのホタル護岸は連結ブロックを利用してホタルの棲息条件を整えた事例がある。
その連結ブロックの利用に当たって連結ブロックの突起の下側を一部削り取り、日陰となる下側に粘土詰めし表面にヨモギ類を植え付ける、連結ブロック間の間隙にも粘土を詰め幼虫の土中潜入および植栽を可能にする、といった改良が行なわれている。
カルスト地形が広がり石灰岩が多く分布する真庭市の北房地域は、川の浸食による渓谷や鍾乳洞などが形成される。地域を流れる備中川の水にはカルシウムが豊富に含まれることから、ゲンジボタルのエサになるカワニナも多く生息し、ゲンジボタルの生育に適した環境が整っており、昔から多くのホタルが飛び交っていた。しかし1955年(昭和30年)頃には農薬の使用や乱獲などにより激減。1959年(昭和34年)には旧北房町が備中川とその支流を天然記念物に指定し保護を開始させた[22]。1970年(昭和45年) 北房町が主体となる「ホタルを育てる会」が結成され、2007年(平成19年)「北房ホタル保存会」に改称された[23]。
2020年(令和2年)、ゲンジボタルやヒメボタルに比べ圧倒的に少ないヘイケボタルの個体数を増やすため、同会会員は北房ほたる公園内の水路にハナショウブの株を植える[24]。2022年(令和4年)、備中川やその支川の約6割、計29.6キロメートルもの区間で生息を確認できた。会員20名によるゲンジボタルの生息マップが調査により作成された[25]。
夜に発光しながら活動するホタル類、特にゲンジボタルは古来から日本で人気のある昆虫の一つで、ホタルを題材とした文化も数多い。ホタル発光研究の草分けとして知られる神田左京は「ホタル」の名が『日本書紀』(彼地多有蛍火之光神)や『万葉集』(螢成)に既に見られると指摘する[26]。
ゲンジボタルを中心とする日本に於けるホタル鑑賞のことを特に「ホタル狩り」という。ホテルなどでの催しとしてホタルを放つ例もある。 また、ゲンジボタル以外が完全に無視されていたわけではなく、陸生のマドボタルなどの幼虫は土蛍(つちぼたる)と呼ばれ、これに言及したものも見掛けられる。なお、ヒカリキノコバエの幼虫がこの名で呼ばれることがある。
江戸時代には参勤交代の大名が地元のホタルを将軍に献上する「献上蛍」の行事があった[27]。
蛍狩りの唄として「ホーホー蛍来いこっちの水は甘いぞ」云々が知られる。横須賀市自然・人文博物館によると、「甘い水」とは農薬や洗剤に汚染されていない水で、ことさら砂糖水のような甘味のついた水分に好んで集まるわけではない。
ホタルは発光する生物の典型と見なされ、生物発光を行なう生物にはホタルイカ、ウミホタルなど往々にしてホタルの名がつけられる。また、蛍狩り等との関連で名がついたものにホタルブクロなどがある。また、ホタルはベイツ型擬態のモデルともなっており、そのために似た体色の別群の昆虫がある。ホタルガ、ホタルカミキリなどはこれに近い。
下記自治体では蛍を自治体の虫として指定している。
日本
台湾
マレーシア
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