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基幹放送の一種 ウィキペディアから
受信障害対策中継放送(じゅしんしょうがいたいさくちゅうけいほうそう)は、基幹放送の一種である。 ギャップフィラー(gap filler)とも呼ばれる。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
電波法第5条第5号に「相当範囲にわたる受信の障害が発生している地上基幹放送及び当該地上基幹放送の電波に重畳して行う多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで当該受信の障害が発生している区域において受信されることを目的として同時にその再放送をする基幹放送のうち、当該障害に係る地上基幹放送又は当該地上基幹放送の電波に重畳して行う多重放送をする無線局の免許を受けた者が行うもの以外のもの」と規定している。 総務省令放送法施行規則別表第5号第9その他の基幹放送の区分(1)にもある。
当初の定義は「相当範囲にわたる受信の障害が発生しているテレビジョン放送及び当該テレビジョン放送の電波に重畳して行う多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで当該受信の障害が発生している区域において受信されることを目的として同時にその再放送をする放送のうち、当該障害に係る放送又は当該放送の電波に重畳して行う多重放送をする無線局の免許を受けた者が行うもの以外のもの」であった。
当初の定義をみるとわかるが、地上波テレビ放送の難視聴解消を目的として始まったものである。 山間辺地や高層建築物の陰や地下街などの難視聴地域に小規模の中継局を設置し、放送波を受信しそのまま送信する。 つまり難視聴を補償するために行う有線テレビジョン放送での同時再放送相当のことを無線により行うことであり「隙間を埋める」という意味のギャップフィラーと呼ばれる所以である。
中継局を設置するのは、「当該障害に係る地上基幹放送又は当該地上基幹放送の電波に重畳して行う多重放送をする無線局の免許を受けた者」以外の者、つまり日本放送協会(NHK)や民間放送事業者(民放)等の既存の放送事業者ではなく、地方自治体や高層建築物の所有者や視聴者が結成した共同受信組合等である。 これらの団体等が地上基幹放送局の免許を取得して、つまり特定地上基幹放送事業者となって実施する。 定義に「すべての放送番組に変更を加えないで」とあるので、自主放送をすることはできない。 また、放送法第176条第3項には「(前略)受信障害対策中継放送は、これを受信障害対策中継放送を行う者が受信した基幹放送事業者の放送とみなし(後略)」とあり、地上基幹放送では有料放送は実施されていないので、電気料金や設備維持などの費用を除き、視聴の対価としての料金を徴取することもできず、この制度による放送は、基本的に無料で視聴出来る。 この地上基幹放送局の免許申請時の基幹放送の種類を表すコードは、無線局の目的コード及び通信事項コードを規定する総務省告示 [1] に「高精細度テレビジョン放送を含むテレビジョン放送(デジタル放送・受信障害対策中継放送)」をSHVと規定している。 これにより「SHV中継局」とも呼ばれる。
NHKは放送法第20条第5項に「中波放送と超短波放送とのいずれか及びテレビジョン放送がそれぞれあまねく全国において受信できるように措置をしなければならない。」ことが義務とされるが、民放は第92条に「特定地上基幹放送事業者(中略)は、その基幹放送局を用いて行われる基幹放送に係る放送対象地域において、当該基幹放送があまねく受信できるように努めるものとする。」という努力義務に留まる。 このため、中継局の普及が遅れている民放についてのみ開設する事例[2]もある。
#沿革にも見るとおり、テレビ放送がアナログのみであった時期から制度化はされており、1977年(昭和52年)制定の「受信障害対策用SHFテレビジョン放送局の免許方針」 [3] に基づき、高層建築物等による受信障害対策として原因者負担により開設する放送局(現・地上基幹放送局)に適用されていた。 しかし、設置者は既存の放送事業者が設置する中継局と同等の免許手続きや第二級無線技術士(現・第二級陸上無線技術士)以上の無線従事者 [4] による管理とSHF専用の受信機器の頒布を要するので開設された局数は僅かであった。 テレビ放送のデジタル化に際し難視聴対策の一環として、高層建築物以外にも山岳地域や地下街のような遮蔽された空間による受信障害も対象とし、テレビ放送が用いるUHFによることで視聴者に負担をかけないことも求められて、機器や免許にかかる規制が緩和され、一定の条件下では国からの補助も得られることとなり、普及が図られること [5] となった。 更に放送波の受信に既存のCATV網や共同受信施設を利用できるように、既存施設の末端に送信機を接続することも考慮された。
空中線電力0.05W以下の地上波デジタルテレビ放送用送信機は、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則により技術基準適合証明の対象とされ、適合表示無線設備として技適マークの表示が必須であり、技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の表示も要する。 ギャップフィラー用送信機を表す記号は、技術基準適合証明番号の4-5字目のOV又はUU(CATV網等接続型) [6] である。なお制度化当初は工事設計認証番号にも記号の表示を要した。
適合表示無線設備を使用すれば簡易な免許手続の対象 [7] となり予備免許や落成検査を経ることなく免許され、「簡易な操作」の対象 [8] にもなり操作に無線従事者を必要としない。 また、定期検査の対象にもならない[9]。 これらは空中線電力が50mWを超えることを否定するものではないが、手続きや管理が煩瑣になるので事実上の上限となっている。 この極微小電力(50mW以下)の中継局をギャップフィラーと呼び放送区域は半径1-2km程度となる。
電波利用料についても、当初は他の放送局と基本的に同額であったが、普及を図るために空中線電力などによる緩和措置が講じられ、最終的に400円に設定されている。
無線従事者の操作範囲については「周波数及び空中線電力の安定度の向上及び調整の自動化が図られ、外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさない技術操作により操作可能」 [10] として、第二級・第三級総合無線通信士と第一級・第二級陸上特殊無線技士による管理が可能となり規制が緩和された。
東日本大震災以後はラジオネットワークの強靭化が叫ばれるようになり、東北総合通信局はコミュニティ放送の中継局について本制度を適用し、地元自治体が開設できることとした。 ただ、FM放送用送信機には適合表示無線設備がなかったので簡易な免許手続の対象にならず、簡易な操作の対象にもならないので第二級陸上無線技術士以上の無線従事者[11]が必要となり、実務上はコミュニティ放送事業者に管理を委託し、その事業者の無線従事者により管理される公設民営方式として運用されることとなる。
この状況に対し空中線電力0.25W以下のFM放送用送信機がギャップフィラー用に位置付けられ、技術基準適合証明の対象になった。 これにより適合表示無線設備として簡易な免許手続ができ、簡易な操作の対象にもなり、定期検査も不要になる。 技術基準適合証明番号においてこの送信機を表す記号は番号の4-5字目のGF[6]である。 免許申請時の基幹放送の種類を表すコードは、告示 [1] に「超短波放送(受信障害対策中継放送)」をSFMと規定している。
FM補完放送開始後は、近畿総合通信局が普及が行き届かない自治体に中波放送を対象に本制度の適用を開始した。 また、放送波遮蔽対策推進協会は再送信の業務を地下街の管理会社に承継して解散したが、東京地区と名古屋地区での実験試験局による県域放送と外国語放送の再送信を承継の際に本制度によるものに切り替えた。 FM補完放送が普及するに伴いFM補完放送を再送信するものも現われた。 コミュニティ放送の中継局への適用も信越・九州・関東・中国の各総合通信局が開始した。
上述の無線従事者の操作範囲の規制緩和は、地上基幹放送であれば種類を問わないのでFM放送にも適用される。
2024年(令和6年)1月31日現在
2023年(令和5年)8月23日現在
電波法に「受信障害対策中継放送」が定義される以前から存在したものを含め記載する。アナログ放送によるもので廃局済みであり廃止日を示す。
年月 | 料額 | 備考 |
---|---|---|
1993年(平成5年)4月[40] | 29,700円 | 他の地上波放送局と同額 |
1997年(平成9年)10月[41] | ||
2006年(平成18年)4月[42] | 25,700円 | |
2008年(平成20年)4月[43] | 6,200円 | 空中線電力0.02W未満の地上波テレビジョン放送局のものを例示、緩和措置として平成22年までは5,400円。 地上波テレビジョン放送局については空中線電力やデジタルとアナログ別に緩和措置があったが詳細は省略。 |
2011年(平成23年)10月[44] | 200円 | 受信障害対策中継放送用地上基幹放送局は空中線電力にかかわらず同額 |
2014年(平成26年)10月[45] | ||
2017年(平成29年)10月[46] | 300円 | |
2019年(令和元年)10月[47] | 400円 | |
2022年(令和4年)10月[48] |
2004年(平成16年)から2009年(平成21年)までモバイル放送による衛星を利用したマルチメディア放送、モバHO!は不感地帯解消にギャップフィラーを置くとしていた。 当時、マルチメディア放送は電波法令に定義が無く超短波放送として免許を受けており、テレビジョン放送ではなかった。 現行制度であれば衛星基幹放送に相当し、地上基幹放送ではない。 技術的には類似していても本項目における受信障害対策中継放送ではない。
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