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高速道路無料化(こうそくどうろむりょうか)とは、有料であった高速道路の料金を無料にすることである。本記事では、日本において民主党がマニフェストのひとつとして掲げた政策、与党時代の2010年度から翌年度まで実施した社会実験、東日本大震災の復興目的として実施した無料措置について記述する。
ほかに、有料道路が建設費の償還完了や、運営事業者から地方公共団体への譲渡により、無料化されることもある。このような道路については無料開放された道路一覧を参照。
民主党は、「地方を活性化するとともに、流通コストの削減を図る」ことを最大の目的として、2003年(平成15年)の第43回衆議院議員総選挙以降一貫して「高速道路無料化」をマニフェストに掲げている[1][2][3][4][5]。
これらのマニフェストの中で特に重要なのは、2009年(平成21年)8月の第45回衆議院総選挙マニフェスト[5]である。このなかの「マニフェスト政策各論」の項番30は、次のように述べている。
30.高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る
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マニフェストの3ページには、工程表が示され、高速道路の無料化については、2010年度と2011年度は段階的実施とされて斜めの線で表現され、2012年度からは完全実施のための必要額1.3兆円が明記されている。このため「2010年-2011年度の斜線の表現の意味」と「マニフェストは事実上修正されたのではないか」について、馬淵澄夫国土交通副大臣が、2010年(平成22年)8月2日の記者会見において、記者から問われる事態となっている[6]。
上記の複数のマニフェストによると、維持・管理および債務返済の財源としては、「道路予算の一部振り替えと渋滞・環境対策の観点から例外的に徴収する大都市部の通行料でまかなう」としている。なお、2003年6月に菅直人民主党代表(当時)は、無料化の財源の私案として「車1台につき年5万円の課税」[7]を一例として挙げたが、マニフェストに明記されたことは一度もない。
自民党は民主党の無料化案は非現実的であると一蹴している。しかし一方、麻生内閣は2009年から「生活対策」に基づき、一定期間の高速料金の引き下げ(「高速上限1,000円」など)を開始している。2009年の衆議院議員選挙において、高速道路無料化を公約に掲げた民主党が圧勝した。無料化が実現すればアメリカのフリーウェイやドイツのアウトバーン(アウトバーンは大型車は有料)などの先進国の主要道路と同様に、基本的に車種を問わずに無料となる予定だった。
しかしながら、JR各社をはじめとする鉄道やバス、船舶業界からの反発が根強い上[8][9]、民主党が連立政権を組む社民党は「(ガソリン税の暫定税率撤廃と同様に)地球温暖化対策に逆行する上、余計な財源が必要」として、民主党に再考を求めており[10]、また、行政刷新会議の中でも事業仕分けリストの中に取り上げられ[11]、更に民主党の支持基盤であるJR総連・JR連合からも鉄道利用者の減少→整理解雇の危惧から見直しの声があり[12][13]、完全実施に向けては業界やユーザーからの理解が必要とも言える。
2009年11月15日に開催された全国知事会で前原誠司国土交通大臣は、2010年度から実施される無料化社会実験において、国の財政状況の急激な悪化の他、渋滞の増加や新幹線などの公共交通機関への影響が懸念されることから「主要都市間を結ぶ基本路線は除外する」と発言し、東名や名神、首都高や阪神高速などの都市高速などは引き続き料金徴収を継続することを示唆した。
東京湾アクアラインや本四高速についても、フェリーやこの道路を走行する路線バス、本四備讃線などの公共交通機関への影響が懸念されるため「何らかの措置を考えて取り組む」と述べ、料金割引など無料化以外の施策を検討する意向を示した。また初年度無料化実施路線について、前原国交大臣は「実施地域は固まっているが、費用をどのくらい充てられるかで路線は変わってくる」と述べている。
2009年12月25日には、2010年1月末までに無料化実施路線を決め、6月を目処に無料化社会実験を実施すると明らかにした。具体的な対象路線は2010年2月2日に計画案として発表され、2010年6月15日に開始日と併せて正式発表された。無料化社会実験の実施内容については後述する。
東名高速道路の建設開始当初、高速自動車国道(日本道路公団)は、原則として建設時の借入金が返済されるまで無料開放をしないとの位置付けであった。このため各路線ごとの借入金がそれぞれの路線の収益により返済された後は、無料開放される予定であった。だが田中角栄内閣によって、高速料金全国プール制が導入され、全国の高速道路の収支を合算することとなったため、東名高速をはじめとする利用者の多い路線の収益で、他の赤字路線の借入金を返却する状態となった。赤字国債によって建設費を賄ったこともあり、無料化は度々先送りされた。
2002年8月7日に、道路関係四公団民営化推進委員会は高速道路の無料開放を断念し、日本道路公団民営化に伴う高速道路の恒久有料化を決定した。この委員会決定通りであれば、高速道路の無料開放の可能性は消滅するが、最終的には道路公団民営化の方針で、2005年の民営化後45年以内に借入金を返済し、日本高速道路保有・債務返済機構を解散することが日本高速道路保有・債務返済機構法で義務化され、最終的には高速道路の全面無料化を実施し、残った借入金を税投入で償却する事とした[14]。民営化時の借入金は、約40兆円に相当すると言われている。
しかし、「45年以内」とされた期限は笹子トンネル天井板落下事故を機に、巨額の更新費を確保する必要があるとして2014年に「65年以内」に延長された。さらに2021年には再延長するべきとの答申案が出された[15]。
なお新直轄方式の高速自動車国道や、一部の高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路、一部の地域高規格道路、その他の自動車専用道路として、無料開放されている路線もある[16]。
無料開放した場合に想定されるメリットとデメリットもいくつか挙げられている。
高速道路の原則無料化の方針のもと、社会実験を通じて影響を確認しながら、2011年度(平成23年度)より段階的に無料化を実施するため、地域経済への効果・渋滞や環境への影響を把握することを目的として、高速道路無料化社会実験が2010年(平成22年)6月28日から開始された。
2011年(平成23年)2月9日には実験区間を拡充する案が発表されたが、その後、同年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の復旧・復興費用をまかなうために、同年6月19日限り(20日0時)で終了した。ただし、これは廃止ではなく「一時凍結」とされている。
予算は、2010年度で1000億円。2011年度は当初1200億円だったが、一時凍結により1000億円が復旧・復興費用へ回された。
国土交通省の高速道路の無料化社会実験のページにおいて、交通量実績と地方自治体の声が公表されている。また、第8回高速道路のあり方有識者検討委員会の配布資料において、検証のたたき台がまとめられている[25]。
期間限定の社会実験であるため、既存の料金所が撤去されたり実験区間と有料区間の境に本線料金所が新設されたりすることはない。実験開始前(実験区間が有料であったとき)と同じ方法で通行する。
ETC車は、ETC車載器にETCカードを挿入したままにしてETCレーンを通過する。ETC車以外は、入口発券・出口精算方式の入口料金所では通行券を受け取り、出口料金所でその通行券を係員へ提出する。単純支払い方式(均一料金精算)の料金所でも一旦停止が必要である。均一料金精算の料金所において一旦停止をさせるのは、係員が車種の判定を確実に行うためである。自動収受機の場合は、自動収受機のボタンを押すか通行券を挿入し対処する。有料区間の料金が必要な場合は、現金、クレジットカードまたはETCカードを使って精算を行う。
2010年2月2日に発表された2010年度の計画案によると、同年度中に行われる社会実験として、37路線50区間の合計1,626kmが無料化の対象となる。これは、NEXCO3社の管理道路で、首都高や阪神高速などの都市高速道路、地方に点在する地方道路公社や民間企業が運営する有料道路等を除く高速道路の全延長の約18%にあたる。
2010年6月15日の正式発表では、2010年度中に供用開始予定で無料化社会実験対象区間の延伸部分となる、2区間26km(東九州道の2区間)が対象に追加された。
2011年2月9日に発表された2011年度の計画案では、全日全車を対象にした社会実験に加え、夜間(22時~6時)にETCで利用する長距離の中型車・大型車・特大車を対象にした社会実験が盛り込まれた。全日全車の社会実験は、沖縄道を除き2010年度対象区間では継続とされ(沖縄道は休日のみ継続)、対象区間が追加された。
しかし前述のように、同年3月11日に発生した東日本大震災の復旧・復興のため、無料化社会実験は2011年6月20日から無期限で凍結されることになった。
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による東日本大震災の被災者・被災地復興の支援を目的として、同年6月20日から行われる無料化。災害時における無料開放措置に類するものと位置づけられ、道路整備特別措置法第24条に基づき、料金を徴収しない車両として国土交通大臣の告示により実施される[28]。NEXCOのみならず、地方道路公社の高速道路でない有料道路でも対象になるところがある。
なお、これより前から福島第一原子力発電所事故の避難指示地域からの緊急避難に対する無料措置(福島県内の指定IC発のみ、1回限り)および災害派遣等従事車両に対する無料開放が行われていた。前者は本措置に移行し、後者は本措置とは別に継続される[29]。
まず、被災者が乗車する車両すべてを対象にした「被災者支援」と、トラック・バス等を対象にした「当面の復旧・復興支援」の2つが実施された。
しかし、対象区間のICで出入りすればその走行全体について無料となるため、本来の出発地・目的地が被災地でないトラックが後者の措置を利用し、対象区間の南端に位置する水戸IC・新潟中央IC・白河ICで転回することによりただ乗りすることが問題視された[30][31]。開始当初の国土交通省の発表資料では、(利用全体が無料になるのは)速やかに実施するためであり、料金システムを改修後は対象区間走行分のみを無料とするとしていたが[32]、それはなされないまま当初予定どおり8月31日を以って終了した[33][34]。
被災者支援についても、本措置の利用者数が当初の見込みをはるかに超え、出口料金所で渋滞が発生したり、有料道路事業者の経営を圧迫したりするようになった。被災証明書は発行基準がなく、停電などの比較的軽微な被害であっても発行する市町村が相次いだためである(宮城県と福島県では、被災証明書の発行枚数が全世帯数を超えている[30]。)。青森県道路公社と茨城県道路公社は、国からの支援がなければ継続できないとして、8月31日を以って被災者支援の無料措置も打ち切った[35][36]。 このような事態を受けて、対象者の絞り込みが検討され[33][37]、12月1日から被災地以外へ避難している人のみを対象とする「避難者支援」に変更されることになった[38]。
一方、復興のため人の往来を活発にするべく、被災者に限らない全車種を対象とする無料措置も検討され、2011年度第3次補正予算に250億円が計上された。10月21日、補正予算の概要とともに制度の概略が発表された[39](被災地支援、観光振興)。11月21日、補正予算が成立したことを受け、12月1日からの実施および詳細が発表された。これらは2012年3月31日までの実施となり、4月1日以降については2012年度予算に計上されず、実施されないこととなった[40]。なお、福島第一原発事故に伴う避難者や津波被害で遠隔地に避難した被災者らについては、2012年4月以降も無料措置が継続されるよう検討されていたが、原発事故避難者のみに対象者を絞り、発着ICも原発周辺のICに限定されることになった(原発事故による避難者の支援)[41]。2012年4月28日、対象者と対象ICの見直しが行われた。
●…対象区間内
▲…2011年8月31日まで対象区間内。9月1日から被災地支援についても対象区間外。
×…対象区間外
◇…観光振興のみ対象
冬…冬期閉鎖
道路名 | 区間 | 被災者 /復旧 |
避難者 | 被災地 /観光 |
管轄事業者 |
---|---|---|---|---|---|
青森自動車道 | 青森東IC - 青森JCT | ● | × | ◇ | NEXCO東日本 |
東北自動車道 | 青森IC - 安代IC | ● | × | ◇ | |
安代IC - 白河IC | ● | ● | ● | ||
八戸自動車道 百石道路 |
下田百石IC・八戸IC - 安代JCT | ● | ● | ● | |
秋田自動車道 | 八竜IC - 湯田IC | ● | × | ◇ | |
湯田IC - 北上JCT | ● | ● | ● | ||
日本海東北自動車道 | 河辺JCT - 岩城IC | ● | × | ◇ | |
荒川胎内IC - 新潟中央JCT | ● | × | ◇ | ||
湯沢横手道路 | 横手IC - 湯沢IC | ● | × | ◇ | |
東北中央自動車道 | 東根IC - 山形上山IC | ● | × | ◇ | |
米沢南陽道路 | 南陽高畠IC - 米沢北IC | ● | × | ◇ | |
釜石自動車道 | 東和IC - 花巻JCT | ● | ● | ● | |
山形自動車道 | 酒田みなとIC - 湯殿山IC[43] | ● | × | ◇ | |
月山IC - 笹谷IC | ● | × | ◇ | ||
笹谷IC - 村田JCT | ● | ● | ● | ||
磐越自動車道 | 新潟中央JCT - 西会津IC | ● | × | ◇ | |
西会津IC - いわきJCT | ● | ● | ● | ||
三陸自動車道 (仙塩道路) |
仙台港北IC - 利府中IC | ● | ● | ● | |
常磐自動車道 仙台北部道路 仙台東部道路 |
仙台港北IC - 山元IC | ● | ● | ● | |
富谷JCT - 利府JCT | ● | ● | ● | ||
相馬IC - 南相馬IC | ● | ● | ● | ||
広野IC - 水戸IC | ● | ● | ● | ||
第二みちのく有料道路 | 下田百石IC - 六戸仮出入口 | ▲ | × | × | 青森県道路公社 |
三陸自動車道 (仙台松島道路) |
利府中IC - 鳴瀬奥松島IC | ● | ● | ● | 宮城県道路公社 |
仙台南部道路 | 仙台若林JCT - 仙台南IC | ● | ● | ● | |
日立有料道路 | 日立市白銀町 - 日立市助川町(日立中央IC) |
▲ | × | × | 茨城県道路公社 |
西蔵王有料道路 (西蔵王高原ライン) |
山形市蔵王温泉字同志平 - 山形市蔵王成沢字羽龍 |
● | × | ◇ | 山形県道路公社 |
磐梯吾妻道路 (磐梯吾妻スカイライン) |
福島市町庭坂字高湯 - 福島市土湯温泉町字鷲倉山 |
● | 冬 | 冬 | 福島県道路公社 |
第二磐梯吾妻道路 (磐梯吾妻レークライン) |
耶麻郡猪苗代町大字若宮字吾妻山 - 耶麻郡北塩原村大字檜原字剣ケ峯 |
● | 冬 | 冬 | |
磐梯山有料道路 (磐梯山ゴールドライン) |
耶麻郡磐梯町大字更科字馬洗場 - 耶麻郡北塩原村大字檜原字湯平山 |
● | 冬 | 冬 | |
あぶくま高原道路 | 玉川IC - 矢吹中央IC | ● | × | ● | |
上表の道路のほか、地方道路公社独自の取り組みとして、みちのく有料道路と青森空港有料道路(いずれも青森県道路公社)でも被災者支援の無料措置が行われた。なお、これら2路線では、2011年6月27日からは罹災証明書(罹災届出証明書を含む)に限定され、被災証明書は対象外になった[46]。
2012年4月8日に開通した常磐道の南相馬IC-相馬IC間については、NEXCO東日本独自の無料措置が同日から、2014年12月6日の相馬IC-山元IC間開通まで実施され全車無料となっていた[47]。
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