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生命に関わるような災難に遭うこと ウィキペディアから
遭難(そうなん)とは、生命に関わるような災難(危険)に遭うことである。特に山や海等において、生命を失うような危険に遭遇することを言う[1]。
山岳遭難とは、山において生死にかかわるような難・危険に遭遇することを指す。日本の山岳においては、道迷い、滑落、転倒、怪我、急激な天候の変化、雪崩などによって毎年多くの遭難者が出ており、死者も多数出ている。これらは季節を問わず見られる。また八ヶ岳や白馬岳など整備され人気のある山でも起きている。人気のある北アルプスでは特に多数発生している[3]。
山岳遭難の個々の遭難は、海洋遭難に比べるとあまり大きく報道されない[3][※ 1]が、海洋遭難よりも圧倒的に数が多く日本だけでも毎年2,000件以上の山岳遭難と数百名におよぶ死者・行方不明者が出ており、非常に深刻な状態にある。
日本で近代に始めて記録されたものは、作家で登山家の春日俊吉(1897-1975)によれば、1891年9月に東京英和学校(後の青山学院)の学生・安東準平(24歳)が友人ら2名と木曽駒ヶ岳に登山した際に下山中に雨に打たれたことで体力を消耗して濃ヶ池近くの草むらに倒れ込みそのまま亡くなったのが記録に残る最古の遭難であろうとしている[4]。
警察庁の統計によると、2021年(令和3年)に日本国内で発生した山岳遭難の件数は2,635件、遭難者数は3,075人(うち死亡・行方不明 283人、負傷 1,157人、無事救助 1,635人)であった。過去10年間で見ると増加基調であり、2019年と2020年は減少したが2021年で再び増加した。発生件数が最も多い県が長野県で257件、第2位が北海道で197件、第3位が東京都で157件であり、全遭難発生件数2,635件のうち82%が遭難現場から携帯電話や無線機等の通信機を介しての救難要請であった。2021年の山岳遭難者数のうち77.9%が登山(ハイキング・沢登り・岩登り・スキー登山を含む)、11.3%が山菜・茸採り最中の遭難であり、態様別で見ると道迷いが41.5%、転倒が16.6%、滑落が16.1%であった。遭難者数を年齢別で見ると、40歳以上が78.4%、60歳以上が48.3%を占めており、このうち死者・行方不明者では40歳以上が92.9%、60歳以上が71.7%を占めていた。また複数行動中に遭難した場合に死者・行方不明者となる割合6.1%に比べて、単独で遭難した場合に死者・行方不明者となる割合は13.6%であり、単独行で遭難した場合には致命的な結果となる可能性が2倍以上高いことが判明している[5]。
遭難の原因には様々なものが考えられるが、主なものを挙げると
等がある。
気象が関わっている、あるいは主たる要因だ、と判断される遭難は「気象遭難」と分類されている。基本的には事前に気象予報および天気図を確認する必要がある。自分自身でラジオなどを聞いて天気図も描けるようになっていることが望ましく、登る予定、あるいは登っている山の気象を、自分で描いた気象図を用いて、把握・予想する必要がある。入山後もラジオなどを用いて気象情報を収集し、場合によっては計画を中断し下山する必要がある。具体例としてはトムラウシ山遭難事故などがある。
なお、擬似好天には注意を要する。悪天候と悪天候の間に短時間だけ天候が改善し[6]、あたかもすっかり好天になったかのように錯覚させるのでこの名がついている。冬の日本海側に見られる現象で、長くは続かずすぐに荒れた天気となる。擬似好天を継続的な好天と間違え、登山を決行したために起こった遭難も報告されている。
道迷いによる遭難を「道迷い遭難」と言う。「道迷い遭難」については、羽根田治が具体的な事例を挙げて分析しており[7]、様々な要因で起きうる[※ 2]。
滑落による遭難を「滑落遭難」と言う。 足を踏み外して滑り落ちることであり、しばしば死に直結する。途中に固い岩などにぶつかったり、数百m以上落ちれば死の危険が大きく、また落下距離が小さくても頭部を打ったりして死亡する事もある。切り立った尾根や、傾斜のきつい斜面の登山道、濡れた岩場や雪渓を歩く時などは特に注意が必要となる。滑落者の救助に向かった者まで滑落し、二次遭難が起きることもある。
ふと足をひねったことによるねんざでも、歩行が困難になってしまうと、安全な場所まで移動できず過酷な気象にさらされる結果を生み、生命にかかわることがあるので、そうなった場合でも生還できるような準備をしておく必要がある。
雪崩に巻き込まれないための方法を事前に習得しておく必要がある。詳細は雪崩を参照。
登山の際に事前に出来る遭難の対策としては、まず第一に山をあなどらないこと、具体的には同行する経験者の確保、またそれのみならず各人が事前の調査を充分に行うことや、各人が必要な装備を持参すること、事前に体力を養成しておくこと、などがある。
グループに最低1名(できれば複数名)山の経験者を確保した上で、リーダー役らが事前に目的地の調査をし、メンバーにその情報や必要な装備を伝えておくことが基本となる。自分の力量にあった山選びが必要で、日本の長野県では2014年に長野県山岳総合センターが長野県山岳遭難防止対策協会の監修により、一般的な登山ルートに対して、無雪期かつ天候良好時の代表的な登山ルート(100ルート)の体力度と難易度による評価(「信州 山のグレーディング」)を行った[8]。
各メンバーは、基礎知識として地形図および天気図の読み方、応急処置法(登山用としては、主として、簡単な止血法、骨折時の添え木の当て方、心肺蘇生法など)を身につけておく必要がある。単独での習得は困難なため、事前にする学習ミーティングなどを開くのが望ましい。 できれば、各人が遭難の過去事例について調べ、要因や対処・生還方法について認識を深めておく[※ 3]。
ひとりひとりが、夏であっても必ず充分な防寒具を持参する、(防寒具もかねて)山用のレインウェアを持参する、充分な行動食および非常食を携帯することは基本の遭難対策である。山は平地より気温が低く風も強いので体感気温は低く、(歩みが止まると)刻々と体温を奪われる。充分な防寒具が無いと、簡単に低体温症に陥る。
低体温症では、体温が35度になった辺りから脳機能の低下を引き起こし、判断力が通常ではなくなり、34度以下でほぼ足の左右すら把握できず動けなくなり、32度以下辺りで死亡する。体が冷えると震えで熱を発生するが、その限界点が35度前後で、更に冷えると内臓を温めるために体の震えは収まるが、体表の冷たい血流が内部を巡回する為に、体温低下が加速し、想像を超える早さで内臓機能低下を引き起こす。低体温症の回避には、十分な防寒着および行動食摂取による熱発生が必要になる。
遭難時は動けぬまま夜を迎え夜明けまで低気温を耐えなければならないことになる可能性が高い。真夏でも夜間はきわめて低気温になり、北アルプスや富士山などでは氷点下にもなる。防寒具は山岳遭難時に生きのびるために必須である。使い捨てカイロもいくらか助けになる。さらに、日帰り予定であっても遭難対策としてレスキューシート(アルミ蒸着ビニール製の身体を包む保温用シート)あるいはツェルト(簡易式のテント)のいずれかを携帯しておくと、いざという時に命を救ってくれることがある。
登山では行動食・非常食(チョコレート、飴玉、ビスケットなど)も必携である。これをしっかり携行しているどうかが生死を分けることも多い。
他に応急処置用具を携帯するのも役立つ場合がある。
事前や入山時に、入山届(登山計画書。行動計画や持参した装備の申告)を提出しておけば、遭難の際にも辿ったであろうルートや装備等がわかり対処がしやすくなる[3]。かつては登山道の入口のポストに投函する方式が一般的であったが、2020年代以降はオンライン形式やメールによる提出が可能となる範囲も増えた[9]。
体感気温が下がりそうだと予想される場合は、早め早めに防寒具を着足すことで低体温症を回避する。気温・体温が下がりすぎると、防寒着を着用することすら困難になるので、早め早めに内側の防寒着を増やしておく。
リーダーは進退の判断が要求される状況で「勇気ある撤退」が遭難回避の最も重要なポイントとなる。 山岳遭難では、女性よりも男性の遭難の率が高いことを示すデータがある。男性があえて無茶をしたがり短気なところがある一方、女性は慎重で、また粘り強いのが山岳遭難防止という点では有効だという[3]。
自分や自分のパーティが遭難しかかっている、あるいはすでに遭難した、と気づいた場合には、気持ちを落ち着かせ、パニックを回避することが重要になる。過去の多くの事例では、同じ状況であっても、自己や周囲の状態を冷静沈着に把握していたほうが生還する率が高い。
複数で行動している場合は、基本的には、あらかじめ決められた経験豊富なリーダーが判断・決断する責任を負う。人命を最優先し、個々の、特に弱っているメンバーには細心の注意を払う必要がある。パーティー内に経験豊富なサブ・リーダーがいる場合は、共同で情報を整理し知恵をあわせて判断を下すこともできる。決断内容は全員と共有し、互いに協力して動けるようにする必要がある。各人がバラバラに行動すると困難が増し、全員に生命の危機が迫る。
何らかの重大な困難(極端な荒天、メンバーの怪我、滑落、落石 等々)に遭遇すると、多くの場合パーティ全員が歩みを止めることになり、運動量が減って体温が下がり始める。予備の防寒着を持っているならば早めに着用し、低体温症を回避する。また行動食をいくらか口に入れ、そのカロリーで体温上昇を図る。
様々な状況がありうるが、一般的には遭難した時は前には進まないほうがよい、と言われている。ただし状況[※ 4]により必要だと判断されるならば、ためらわず救助の要請を行う[10]。救助要請の判断の遅れは、事態のさらなる悪化を招きがちである。 WP:NOTMANUAL-->
救助要請を受けた場合は、警察の山岳警備隊や消防の山岳救助隊が担当し地元の山岳会や消防団、航空自衛隊や陸上自衛隊の手を借りることが多い。一部の県では消防防災ヘリコプターを整備しており、上空からの捜索・遭難者の運搬を行うことで迅速な救助を実現している。
ただし、荒天時や夜間はヘリコプターを飛ばすことができない。地形によっては気流の乱れなどを考慮してヘリが近づけないこともある。
北アルプスを抱える長野県では、遭難が多いため救助隊員が常駐している[3]。
救助隊員たちは「救出」作業のプロでありその訓練を受けているが、ひどいダメージを受けた遺体を扱った時の心理的なショックを緩和する訓練を受けているわけではなく、トラウマになることがある[3]。
消防や警察、自衛隊など公的機関の捜索は税金で行われるために本人や家族に請求される事はなかったが、2017年4月、埼玉県がヘリコプターによる救助出動に自己負担を求める条例を可決[11]。今後、自治体により遭難者側の負担の有無や程度に差が出てくる可能性がある。一方、民間団体に出動を依頼した場合、日当が一人3万円〜10万円、民間ヘリコプターを使用した場合、遭難者の発見未発見に関わらず1時間で50万円ほど費用がかかり、後で多額の費用が本人や家族に請求される。
「山岳保険」によって上述の諸費用(の一部)を補償する事ができる。保険会社によって名称は異なるが、旅行障害保険のオプションという形で存在することが多い[要出典]。日帰りのトレッキングにも、掛け捨てのハイキング保険が存在する。
日本では、1960年以降の登山ブームの中で遭難するケースも増加。大型の遭難碑が山々に林立する状態となった。このため谷川岳では遭難碑を一か所にまとめる動きが見られた。1974年、環境省は山々のケルンを必要最小限のものを除いて撤去するよう全国の国立公園管理事務所に指示、この指示についてはケルンに似た大型の遭難碑も含まれることとなったため、遭難碑の建設に抑制が掛けられることとなった[12]。
脚注[3]も参照
海洋遭難とは、荒天、自然物との衝突・座礁、機関の故障、他の船舶との衝突等により、船舶が安全なる自力航行能力を失い救助が必要な状況をいう。一時的な危険の回避行動は通常含まない(避難)。船舶の他にも潜水艦の事故も含まれる。
一般に、「山岳遭難は捜索費用がかかり、海洋遭難は費用がかからない」とされる。これは、山岳遭難と比べると民間でできる事は限られ、捜索のため漁船など民間船舶を借りた場合でも、船を所有する際に必ず加入する「漁船保険」や「マリンレジャーボート保険」に予め含まれる海難捜索の条項により補償されるためである。
「遭難の年月(近代以前のものは旧暦)、場所」「船名(タイプ)」「漂流日数」「飢え渇きをしのいだもの」「生存者数」の順
関連項目が多すぎます。 |
地球の極地の探検中や宇宙船の遭難なども含まれる。下記記事中の事例も参照。
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