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漁業に用いられる船舶 ウィキペディアから
漁船(ぎょせん、英: fishing vessel)とは、漁業に用いられる船舶である。
漁船の大きさや構造や材質は、地域、漁法、目的とする魚、漁場などにより、大きく異なる。
大きく「漁猟船(ぎょろうせん)」「母船(工船)」「運搬船」その他に分類することができる。 漁猟船とは魚を獲るための船のことである。母船とは洋上基地として機能し 漁猟船が獲った魚を受け取る大型の船のことである。母船が魚を加工するための船内工場を備えている場合は「工船」と呼ぶ。運搬船とは、獲った魚を海上で受け取ってまとめて港まで運搬するための船である。
漁猟船は、魚の獲り方(漁法)によって分類名がつけられている(例:「流網漁船」「刺網漁船」 等々)。また、獲る魚によって分類名がつけられることもある。
遠洋漁業には、漁獲を直接水揚げ港に運んだのでは非効率であることから、直接漁猟には携らず専ら漁獲をとりまとめ洋上基地として各種支援をおこなう少数の母船、および漁猟をおこなう多数の漁船、からなる「船団」によって漁業をおこなうものがある。母船の船内に獲った魚の加工設備を備える場合があり、「○○工船」と呼ぶ。
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漁船を最も特徴づけるものが漁業設備である。一般には建造時に設備するが、後に増設や撤去等を行うこともある。漁業種類と漁業設備の対応例を以下に挙げる。
上記の設備、とくにいか釣り漁業やサンマ棒受け網漁業に用いられる集魚灯などについては大量の電源供給を要することから、推進機関とは別に発電機を設備している漁船も見られる。 発光ダイオードを使ったLED集魚灯の場合、従来の集魚灯よりも重油使用量が10-20%程度で済むという。
一つの漁船で複数種類の漁業を季節に合わせて行う場合、上記の漁業設備を季節ごとに撤去又は設備する例も多く見られる。中には上甲板上の設備を大きく変えるため、毎回総トン数を変更する漁船もある。
過去に行われた母船式遠洋漁業や、遠洋かつお・まぐろ漁業では冷凍設備を有するが、沿岸漁業ではそのような設備はほとんど見られなかった。しかし近年の高鮮度による付加価値志向により、滅菌海水による水氷の積載や冷蔵設備を有する沿岸・沖合漁船も増加している。
旅客船や貨物船との大きな違いとして、漁船は一定した航路を走らず複雑な航跡を示すことから、複雑な動きに適した構造で設計される。また、揚網作業などでバランスを崩しやすいことから、復原性が重視される傾向にあり、台風多発海域での操業を前提とした船は船体が特に強靭に作られている。各漁業の形態によりその最適とされる構造は異なるため、漁船であれば全ての漁業に用いられるものではなく、例えば定置漁業であれば、揚網を行い易いように平たくブルワークの低い形態の船体を、かつお釣漁業では大きな船体を用いる傾向にある。しかし一隻で複数の漁業を兼業することも多い。
内水面漁業の場合、海面漁業における3級船相当の漁船を用いることが多いが、広い湖では5トン級の漁船も用いられている。
もともとは漁船の動力は、手漕ぎであったり、帆(風の力)であったりした。
戦後直後の日本近海の漁船では焼玉機関が主に用いられていた(現在は存在しない)。
近年の漁船の推進機関(機関)は主に以下の3種類に分類される。
漁船は旅客船や貨物船と異なり細かい動作が多く、網を引いたりするため負荷に強い機関でなければならない。近年は一部で電気推進機関の利用も試みられている。
動力付きの漁船の保有数に関する2016年の国際統計によると[3]、上位4国は以下のようになっている。なお、この統計数は、動力を備えていない手漕ぎの小さな漁船は含まれていない。
日本の2023年に漁業に利用された漁船は109,247隻(うち無動力2,436隻)であり、減少傾向にある[4]。
2007年時点で、アメリカ合衆国の排他的経済水域内で操業許可をもっている米国船籍の漁船は25,000隻から27,000隻とされていた(2007年『諸外国(EU、米国、ノルウェー)の漁業と漁業政策の概要』)[5]。
ノルウェーでは1980年代から減船補助金の支払いによる減船政策があり、その後IVQ方式の導入もあって漁船数・漁業者数ともに大きく減少している[6]。漁船数は、1940年の2万6千隻から1960年代には4万2千隻に増加したが、2006年には7千3百隻にまで減少している[6]。2005年時点のノルウェー漁船の平均船齢は25.1年で上昇する傾向にある[5]。一方で漁船の更新時には大型化や高出力化が図られているため漁獲能力は大きく減少しておらず、統計データを用いた分析では1990年代と2000年代を比較すると漁獲能力はむしろ増加しているとされる[6]。
ノルウェーでは1990年から個別漁獲割当(Individual Quota)方式を採用しており、漁獲可能量を漁業者又は漁船ごとに割り当て、割当量を超える漁獲を禁止することによって漁獲可能量(TAC)の管理を行っている[6]。同時に漁船別割当(IVQ)方式も採用しており、毎年の漁獲割当に関しては漁業者(船主)ではなく漁船に付与されることになっており、漁獲割当の比率等については漁業関係者間の合意を尊重しつつ政府が決定している[6]。
太平洋戦争(大東亜戦争)後の食糧難解決のため、戦後大量の漁船が建造された。しかし、それらの急造漁船はその機能性および安全性などに劣るものが多く見られた。こういった背景から、漁業の振興及び漁船の適正化を図るため、1950年(昭和25年)、議員立法により漁船法が制定された。
漁船は、漁船法では、以下のように定義されている。
1950年の漁船法の定義を採用すれば、漁船法上の漁業種類は刺網漁業、定置漁業といった一般的なもののほか、漁獲物運搬船、真珠養殖船なども含まれる。また、水産系の大学および試験研究機関の有する調査船や漁業取締船は官公庁船として分類されている。
上記の分類から遊漁船は漁船に含まれず、一般には小型船舶登録を受けている。ただし漁船との兼用も可能である。
漁船は漁船登録を受けた上で船名と漁船登録番号を船体に標示しなければならない、と定められている。
漁船登録は漁船法による以下の分類にしたがって漁船登録を行う。
上記の分類は重複することも可能である。例えば、海面と河川・湖沼などの内水面(ないすいめん)と両方で用いる5トン未満の漁船であれば、3級船と6級船の両方で登録する。
漁船登録番号は各都道府県が配布し、必ず船体に標示しなければならない。形式としては以下の例のように、都道府県の識別標(アルファベット)、漁船の等級標(1から7)、横線、漁船の番号を組み合わせる形式を採る(漁船法施行規則付録第二)。
例)HK2-10000
前2文字のアルファベットが所属都道府県を示す(識別標という)。例に掲げたHKは北海道である。次の1文字は1-7の数字が入り、1級船から7級船を示す(等級標という)。横線(ハイフン)の後は各都道府県の配布する登録順の番号である。この番号は漁船の所有者が変わっても県外に出ない限り保持される。
茨城県は、「いばらき」が正式な読みであるため、識別標はIKを付与されるのが本来であるが、石川県とアルファベットが重複しているため、IGが付与されている。
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船名は任意である。例えば「第八幸福丸」といった「第・・丸」という船名が多いが、「丸」を付けなくても良い。「丸」を付けるのは単なる伝統や慣習に過ぎない。また、「第・・」という番号も全くの任意であり、「第八」と言っても8隻同じ名称の船があるとは限らない。むしろ縁起を担いで第八、第八十八、といった形で命名している場合の方が多い。船名に使用できる文字は平仮名、片仮名、漢字およびローマ字(外国語は不可)に限られる。
漁船のトン数は通常の船舶と同様に「船舶の総トン数の測度に関する法律」に基づき算定(測度)されている。漁業許可の一部は使用する漁船についてトン数の制限が定められているため、必要以上の大きな漁船を建造することはない。一般の小型船舶は日本小型船舶検査機構が、大型船舶は国土交通省の各地方運輸局が測度する。漁船については、小型漁船は都道府県が、大型漁船は各地方運輸局が測度している。
船首や船尾に化粧板による装飾が見られた[8]。船首に魔除けとして唐草や目玉があるのが北伊勢地方の特徴で、船尾の千里は各所にみられる。三河地方の漁船は打瀬船のような舳先が垂直となったズンド水押に変わったため、目玉を魔除けとする風習は明治20年頃になくなった[9]。
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