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信号を送り出す場所や施設 ウィキペディアから
送信所(そうしんじょ)とは、信号を送り出す場所や施設のことであり、無線通信分野においては広義に無線局(英語: radio station)のことであるが、日本の電波法の範囲においては、より細かく無線局の一部、すなわち電波を送る(送信する)ための電気的設備を主として置いた施設のことを示す。
以下、日本の放送局(放送業務を行う無線局)などにおけるものを中心として述べる。なお、ここでは地上波放送の送信所について説明し、衛星放送の地球局(アップリンク局)は衛星放送に譲る。
日本の「無線設備」および「無線局」の定義は以下の通りである。
すなわち送信所とは無線局の中で、電波を送るための電気的設備(送信設備 : 電波法施行規則第2条35)を主として置いた施設を示している。特に大電力送信を必要とする無線局では、他の施設と独立して設けられることが多い。またこういった無線局では受信のみを主目的として別に施設を置く場合も多く、送信所に対してこれを受信所と呼んでいる(受信所は電波法施行規則第5条による)。
無線局に好適な土地を得やすいアメリカなどでは、大電力送信を必要とする無線局などであっても必要な全ての設備を1か所にまとめて設置、1か所でひとつの無線局として送信所、受信所といった区別がなされない場合が多いが、地形変化に富む日本では好適な土地を確保することは困難であり、送信所として電波を送るための電気的設備をひとまとめにして独立させ、後述の通信所や演奏所などと離れた場所に施設することが一般的である。
固定局(電波法施行規則第4条1)などで、大出力の送信装置(電波法施行規則第2条36)と大規模な送信空中線系(電波法施行規則第2条37)を必要とする場合には、アンテナ展張のための広い敷地を確保し、また基本波障害(高調波ではなく送信する電波そのものによる他局への電波障害)を防ぐ目的などから、人里離れた郊外に施設を置くことが多い。しっかりとした受信設備も必要であることから、さらに受信所が別の場所に置かれることも多い。
今日では送信所は常時無人とされ、その操作は通信所(演奏所の場合もある)からの遠隔操作によるものが多い。通信所は通常、業務に便利な人里に設置され、送信所に置かれた無線送信機(リニアアンプ、パワーアンプ)を操作するための操作端末はここに置かれる。操作端末(エキサイター)・無線受信機(レシーバー)は有線・無線の専用回線などで結ばれている。通信所には無線通信士、陸上無線技術士などの無線従事者が常駐、監督および操作端末を操作することにより、無線局の運用を行う。
なお日本のアマチュア局(電波法施行規則第4条24)についても近年、その空中線電力が最大1kWまで許可されるようになり、最大限運用するためには中規模の無線局(電波法施行規則第4条6)の送信所と似たようなものが要求されるようになってきている。
放送用の送信所は地域の状況により、また放送会社毎にその仕様はかなり異なる。以下、概ね共通するところについて、日本民間放送連盟編集の『放送ハンドブック』(東洋経済新報社、原著1991年5月)および『放送ハンドブック改訂版』(日経BP社、原著2007年4月)にあるところを基に述べる。
放送に割当される放送用電波(放送波)には、短波放送などを除き、その歴史的経緯[注 1]や業務内容(放送対象地域が原則的に都道府県単位、いわゆる広域放送と呼ばれるものでも地方単位であるなど)から長距離伝送用の周波数は基本的に割当されない。加えて放送にはシステムの高い信頼性が求められることから、放送局(電波法施行規則第4条2)の送信所はその放送区域の割に大規模なものとなる。例えば中波ラジオ(AMラジオ)放送であれば、100kWの大電力に100mクラスの送信鉄塔(送信アンテナ)[注 2]、極超短波 (UHF) を用いて実施される地上波デジタルテレビジョン(地デジ)放送では10kWの大電力に600m超えのタワー頂部に置いた送信アンテナ[1]でようやく関東地方や東京都及びその近隣を放送区域とするといった例がある。また放送は不特定多数への一方通行の情報伝達、すなわち送信のみであることから送信所は他の無線局のものよりもその規模の大小を問わず、概してはっきりしたものとなっている[注 3]。これがいわゆるコミュニティFMや中継局になると、初級のアマチュア無線局の上限と同じ10~20W程度で運営されている社が多い。
なお放送の場合、上述、通信所にあたるところが演奏所になる。
放送局の送信所(放送所といわれることもある)では、演奏所からの映像・音声信号を無線あるいは有線回線によって受け取り、送信装置を用いて電波としてアンテナから輻射する[2]。なお放送波の送信に用いる送信装置のことを特に放送機(英語: broadcast transmitter)と呼ぶことが多い。
日本の地上波放送会社はテレビジョン、ラジオともに一般に放送対象地域の多くを放送区域とする親局(本局などともいう)と、地形的条件などにより親局でカバーしきれない放送対象地域内の地域にサービスを行う中継局(中継放送局、中継放送所などともいう)を持ち、放送対象地域全域を放送系としてカバーしている。すなわち親局、中継局ともに送信所ではあるが、概ね大規模な送信設備を持つところを送信所、これ以外を中継局と呼び分けていることが多い[注 4]。中継局は送信所としての機能を持つが、入力となる回線に違いが見られ、親局と比較して概して小規模である[3]。
なお、放送対象地域が法令により狭く限定されるコミュニティFMでは、小規模なアマチュア局程度[注 5]の設備で十分となることが多く、送信所と演奏所を併設している例が多い。
AMラジオ放送用の送信所などを除き、その多くは放送区域を見通せる山上に設置されるが、東京タワー、東京スカイツリー、名古屋テレビ塔、東山タワー、瀬戸デジタルタワー、福岡タワーのように平野部の市街地に数百m高の塔を建設、その頂部にアンテナを配して設置する場合もある。送信所は放送会社単独で所有する場合もあれば、複数の放送会社で共同所有する場合もある[注 6]。
AMラジオの送信所は各局の親局を中心に広大な敷地を必要とするが、空いた敷地を使いメガソーラーを設置する例もある[4][5][6]。MBSラジオが初めて設置した。
演奏所から送信所への信号伝送は電気通信事業者が敷設する専用有線回線、放送会社が自社所有する無線回線(これをSTLという)などで行われる。中継局では、放送波を受信してこれを再送信する方式(放送波中継)、放送前の信号を有線あるいは無線の回線(別の中継局からの信号を受信する方式をTTLという)で受けてこれを送信する方式などがある[3]。
気象条件が厳しく地形変化に富み地域による人口密度差の大きい日本の場合、放送機(放送波送信機)には相当な能力が求められる。すなわち中波ラジオ放送では最大500kW、超短波 (FM) ラジオ放送では最大10kW、地上デジタルテレビジョン放送では最大10kWの大出力を作り出す必要があり、かつその放送形態は「フル・エア」であることから、24時間365日の運用に耐えられる様、すなわち装置の故障程度では放送事故となる放送停止にはならないよう多重化されている。例えば放送機2機を持ち、常時は1機で運用しているがこれに不具合が生じると直ちに待機しているもう1機に切り替える現用予備方式、放送機3機を持ち、常時は2機を運用してその出力を合成(加算)し、1機を待機させておく方式などがある。また近年の固体化、すなわち従来の真空管ではなく半導体による増幅器を用いた放送機では多数の増幅器モジュールの出力を合成する方式が主流となっており、増幅器単体に故障があっても直ちに放送が停止することはない。この場合、故障した増幅器の出力分を他の増幅器で補えるように、定格出力に余裕を持たせた構成とすることも行われている[2]。
なお、放送機の出力はアマチュア局の送信機などとは異なり、後述のアンテナと併せ、所定の放送区域にサービスを行うに足りる必要最小限の出力、すなわち放送区域の端で規定の最低電界強度を達成する値が選定される。つまり空中線電力ではなく、実効輻射電力 (ERP) であり、単純に放送機の出力=空中線電力の大小によるサービスエリアの大小とはならない[注 7]。
中継局ではその放送区域が限定されることから、1kW程度のものから数百mW程度のものまで、状況に応じて様々な出力のものが用いられる。ただし中継局は概ねその保守管理が大変な場所に置かれることから今日、親局のものと同様に装置の故障で簡単に放送が停止しないように工夫がなされたものが用いられるようになってきている[7]。
放送機の出力を放送波として輻射するためのアンテナは、所定放送区域へのサービスを確実とし、かつ所定放送区域を逸脱しないために必要な利得や指向性を持つものが選ばれる。アンテナによってはティルトさせて使用されることもある。大電力送信は放送機が大きくなる分、初期費がかかり、またその維持経費もかかることから不経済であり、できるだけERPを大きく、空中線電力を小さくするように設計されるが、ERPを大きくするためにアンテナを大きくするとまた不経済なものとなるため、その組み合わせは難しい。特に放送区域が隣接する中継局のアンテナは慎重に選定される[8]。日本では地形の関係上、送信所を放送区域の中心に設置することは難しく、送信範囲を特定方向のみ広くする「指向性 (D=Direction)」を付加して送信していることが多い。中波ラジオ放送用のアンテナであればダウンリード(引き下げ輻射線のこと)の数を特定方向に多くしてその方向、あるいは主鉄塔と副鉄塔を設け副鉄塔を導波器としてその方向に強く輻射させる、逆に鉄塔頂部からワイヤーなどを出し、適当となる位置にダウンリードと副整合舎を設け、その方向への輻射をわざと減衰させるといったことがなされる。またFM、テレビジョン放送であれば、複数のループアンテナや八木・宇田アンテナを使用、それぞれに送信電力を分配することによって細かな指向性を作るといったことがなされる。
通常、FM、テレビジョン放送用のVHFおよびUHF帯用のアンテナは、周辺の障害物を避け、見通し範囲を確保する目的から、山や高台の鉄塔上に設置される[2][注 8]。
また中波・短波ラジオ放送用のアンテナは接地抵抗が低い、海や川、池、水田など湿地を中心に建設することが多い。ただし海上や海岸などに設けたこれらのアンテナは塩害を受けやすく、鉄塔の寿命が短くなる問題がある[3]。
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