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日本のJRグループの座席予約システム ウィキペディアから
マルス(英語: MARS : Magnetic-electronic Automatic Reservation System)は、日本国有鉄道(国鉄)・JRグループの座席指定券類の予約・発券のためのコンピュータシステムである。
JRの指定席券を主として、乗車券類・企画券などの座席管理・発行処理および発行管理(精算業務)を行う巨大なオンラインシステムであり、ホストシステム、端末ともに「マルス(端末)」と呼ばれることが多い。
名称について、元々は "Magnetic electronic Automatic seat Reservation System"(磁気的電気的自動座席予約装置)の略とされていたが、その後 "Multi Access seat Reservation System"(旅客販売総合システム)の略となり、現在では再び"Magnetic electronic Automatic seat Reservation System"の略となっている。ローマ神話の軍神マルスにかけたネーミングでもある。アルファベットでは"MARS"と書くが、一般には片仮名で「マルス」と表記される。
マルス1(マルスワン)が電子計算機技術のオンラインリアルタイムシステムへの応用の可能性を示したこと、現代でも実際に使われているシステムへの発展の基礎となったことが評価され、2008年(平成20年)10月、電気学会の電気技術顕彰制度「第1回でんきの礎」モノ部門に選定された[1][2][3]。
また、2009年(平成21年)には情報処理学会により「情報処理技術遺産」として認定された[4]。
マルス501の中央装置(ホストコンピュータ)は、2013年までは東京都国分寺市にあったが、その後住所を明らかにしない形で別の場所に設けられたシステムセンターに移転している[5]。このセンターは、震度7の横揺れにも耐えうる免震構造と、特定非営利活動法人日本データセンター協会(データセンターの業界団体)による施設基準の格付けで最高水準(ティア4[6])の信頼性を確保したセキュリティ設備を備えている[5]。大規模地震などの災害が発生してもサービスを継続的に提供できるようになり、安全性と信頼性が高まった[5]。国鉄分割民営化以後は鉄道情報システム株式会社(JRシステム)が保有・運営している。
中央装置で一括管理する集中型を採用しており、中央装置は歴代日立製作所の大型コンピュータ・超大型コンピュータが採用されている。2020年(令和2年)時点で使用しているマルスは「マルス505」である。
もともとは鉄道切符(乗車券・特別急行券・急行券・座席指定券・特別車両券・寝台券など)の発売のために開発されたシステムだが、現在では乗車券類だけでなく、宿泊券、遊園地や展覧会などイベントの入場券等の販売も行えるようになっており、かつては航空券を取り扱ったこともあった。
JR鉄道駅のみどりの窓口や旅行代理店に設置される端末(MR端末、東日本旅客鉄道(JR東日本)ではMEM端末。MEX端末はJR東日本の子会社であるJR東日本情報システムがJR東日本向けに開発した端末が主流)とは、鉄道情報システムが管理するJRネットなどを経由してホストと接続されている。また、JTB(旧日本交通公社)、日本旅行、近畿日本ツーリストなど、大手旅行代理店の旅行業システムともオンラインで接続されており、旅行業側の端末でJRの指定券などを発売することが可能である。
端末で管理されている座席は、JRの新幹線や特急列車や、急行・快速・普通列車の「座席指定席」を中心に、「ドリーム号」などJRバス各社およびこれらと共同運行する高速バスの座席指定席などである。バスの座席については、JRシステムなどで新たに開発された座席予約管理システムである「高速バスネット」に移行する方策が採られている(詳細は後述)。また2015年(平成27年)6月30日までは日韓共同きっぷを発売していた関係で、大韓民国のKTXの座席も管理していた。
乗車券原紙については、偽造防止のため、原紙表面へJRマークと字模様(旅客鉄道会社別にアルファベットなどで一文字 … 北海道:北 / 東日本:E / 東海:C / 西日本:W / 四国:S / 九州:K。JRの駅以外のマルス〈JR貨物が過去に行っていた旅行代理業『JRエフツーリスト』を含む〉で発券される場合は当該地域のJR旅客会社の字模様が入ったものを使用)と「JRロゴ」が浮かび上がる潜像が施されており、カラーコピーをした場合において、真券と偽造券の識別が簡単に出来るように工夫されている。
磁気定期券原紙については、前述のようなドラム型のロール紙タイプではなく、樹脂製の横85ミリメートルにカットされた用紙が用いられており、乗車券原紙以上の偽造防止策が施されている。また有効期限内であれば、劣化による券面の印字が不鮮明な場合などは購入駅で無償で交換してもらうこともできる。
旅行会社ではJR定期券の発売は行わないので旅行会社向け端末では削除されている[9]。
マルスシステムに接続して各種切符を発券する端末は、駅員が操作するタイプ(鉄道情報システム(JRS)製品:MR型、JR東日本情報システム(JEIS)製品:ME型)と、顧客自身が操作するタイプ(MV型)の2つに分類できる。
これらは、JR各社のさまざまなニーズに応じることができるように、JR東日本におけるSuica、JR西日本におけるICOCAへの対応など、システムや機能が拡張されている。また、クレジットカード会社の信用照会ともオンラインで接続されており、カード決済による発券の際には、信用照会端末としての機能も併せて持つ。
なお、端末は日立製作所製のほか、一部に日立と同じく芙蓉グループに加盟する沖電気工業製のものも存在する。沖電気製機材はMV30端末やMV50端末、JR東日本のMEM端末、MEX端末、ME-4端末で主に使用されているほか、M型端末は日立製作所とともに2社で製造していた。
JR鉄道駅や旅行会社のみどりの窓口の端末に、駅員や旅行会社係員が端末を操作し、列車や座席、条件等を指定することにより、端末に接続されたプリンターから自動的に切符類が発券される。端末から出力される切符は、ほとんどが磁気化券となっており、発売された切符の内容がマルス端末による自動控除(払戻処理)用と、自動改札機用の情報それぞれにエンコードされ記録されている。発売された切符のうち、定期券サイズで切符に丸印の中に×のマークが入った切符や、自動改札機を通過できない旨明記された切符以外は、原則として全国のJR各駅の自動改札機を通過することが可能である。
端末の種類としてはMR型、ME型になる。
JR発足直後にも「TravelEDI端末」が試験運用されていたが、2000年代に入ってからは利用客が自ら操作できる指定席券の発券や座席の指定機能を持った指定券自動券売機(MV端末)が、主要駅に設置されるようになった。ただし、設置箇所や設置旅客会社の方針により、発売品目や列車は限定されている[10]。
現金のほか、クレジットカードによる決済にも対応している。また、駅員が使用するMR型は、日本標準時10時から1か月先の指定券が発売されるのに対し、MV型は10時10分からの発売となる。旅客向けの名称はJR北海道、JR東日本、JR東海、JR四国、JR九州では「指定席券売機」、JR西日本では「みどりの券売機」である。
端末の種類としてはMV型、ER型になる。MV端末筐体のカラーは会社ごとに異なる(北海道:紺〈対話遠隔操作タイプの『話せる券売機』は橙〉 東日本:薄紫、東海:青、西日本・四国:黄緑、九州:白)。
JR西日本の一部駅には、お客様センターから対話遠隔操作タイプの「みどりの券売機プラス」のほか、e5489・エクスプレス予約受取専用の「みどりの受取機」などが設置されている。また、かつてはJR東日本の一部駅にも対話型端末の「もしもし券売機Kaeruくん」(ER端末)が設置されていたが、インターネット注文から受け取り対応用「えきねっと」に刷新された。
(設置駅によって発売内容が異なる)
(以下係員操作が必要な部分)
マルスが開発される以前は、予約列車の始発駅が属する指定席管理センターにおいて、列車ごとに日別の指定席台帳を作って各列車の指定席を管理していた。駅で切符の申込みを受けた際は、駅員が電話でセンターに問合わせをする。センターでは指定席台帳から空き座席を探し出し、見つけた座席の座席番号を回答し、駅ではその座席番号を指定券に書き写して発券していた。
指定席管理センターでの予約処理はおおよそ以下のとおりであった。
これらの作業にはかなりの技を駆使する必要があった。ベテランになると、1メートルぐらい離れたところからでも所定位置に戻せるという、まさに職人技をもって対処していた。この様子は国立科学博物館のマルス101の展示の前で流されている解説ビデオなどで見ることができる。
しかしこの方式では発券までに最短でも2分程度かかり、普段はさらに電話の順番待ちや台帳の使用待ちなどの時間がかさんで、数十分かかることも少なくなかった[12]。その上、指定席車を連結する特急・急行列車が増加するにつれて申込みも膨大な量となり、遂には捌ききれなくなってしまった。実際に、指定席(券)を必要とする旅客がいるにもかかわらず、発券が間に合わないため、空席を残したまま列車が発車してしまう事態も発生していた。さらに、主たる作業を人手で行っていたために、聞き間違いによる予約指定ミス、書き間違い、回答の言い間違い、転記ミスなど、ヒューマンエラーによる発券ミスを引き起こす要因が数多くあった。
これを改善するため、1956年(昭和31年)ごろから国鉄の営業局・電気局・鉄道技術研究所で基本構想が練られ[13]、翌1957年(昭和32年)には当時の鉄道技術研究所の穂坂衛、大野豊らが、日本が最初に輸入したコンピュータであるBendix G-15のアーキテクチャや、アメリカン航空が当時研究中の座席予約システム「SABRE」などを参考にしつつ、世界初となる列車座席予約システムを機械化する研究を開始した。さらに翌年の1958年(昭和33年)、日立製作所とともにマルスの開発が開始された。また、相前後して、小田達太郎による、サイバネティックスの考え方などの導入といった改革の機運が、国鉄内にあったことも背景にあることが指摘されている[14]。
設計にあたっては、旅客が発券を要求してから実際に旅客に指定席券が渡されるまで30秒で済むこととされ、これによって繁忙期でも発券待ちの列が3人ほどに抑えられると考えられた。
マルス1は最初のマルスで、国鉄の座席予約専用のシステムだった。ハードウェアは専用に設計されたものを用い、記録装置としては磁気ドラム[15] を採用し、ここに4列車、3,600席[16]、最大15日分の予約が入力可能であった。1959年3月の運用開始を予定していたが、すべてが1からの手作りであったため、予定には間に合わず同年8月に完成、国内初のオンラインシステムとして1960年2月1日[16] に運用を開始した。中央装置は東京駅丸の内側の乗車券センター内に設置され、端末は東京都内に10台、名古屋と大阪に各1台の計12台が設置された[16]。当初は下り「第1こだま」「第2こだま」に、その後6月に下り「第1つばめ」「第2つばめ」を加えた4列車[17] の予約業務を行なった。しかし、発券内容を切符として印刷することができず、プリンタで印刷し、それを窓口係員が書き写して切符を作成していた。
マルス1において特筆すべき点としては、東京駅など中央コンピュータに近い窓口では、ブラウン管による座席の予約状況を示す表示がおこなわれたことが挙げられる。これは日本において、ブラウン管を使ったコンピュータからの情報表示が実用化された極めて初期のものであった。以後のマルスでは遠方へのサービス等のためにランプによる表示のみとなったが、マルス105ではタイプライタによる出力がおこなわれた[18]。
一方で最初のシステムということで不具合も多く、設置工事中には機器のダイオードが不良となりほぼ全て交換したり、記憶装置の磁気ドラムの破損が発生するなどした。稼働開始後も、記憶されたデータが係員のミスで全面的に破損し、すべての控えを手作業で集計しなければならなくなるなど、様々な失敗や不具合が相次いだ[16]。
現在マルス1の本体は、埼玉県さいたま市大宮区の鉄道博物館に、電気学会から表彰された「電気の礎」プレートとともに展示されている[19]。
1960年代 | 1970年代 | 1980年代 | 1990年代 | 2000年代 | 2010年代 | 2020年代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | ||||||||||
日本国有鉄道 | JR | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス1 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス101 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス102 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス103 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス104 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス105 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス201 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス202 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス301 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス305 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス501 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マルス505 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
= 運用終了 | = 運用中 |
JR北海道では一部の自社内完結の常備用前出し券、入場券、旅行商品などを発券する際は「総販」というローカルシステムで管理・発券していた。MR端末のシステムの一部に組み込まれていて、現在は精算、売上管理用途のみに用いられる。このシステムで発券した切符には「総販」というマークが印字されたほか、連番などの印字方法もマルスシステムとは異なる券面での発行となっていた。また、総販システムでは、発券ごとに国分寺のマルスホストと通信する必要がなく、通信費などの削減に効果をあげている。もちろん、座席指定を伴う新幹線・在来線特急券、指定席券のほか、乗車券などについても、マルス端末機能を使用した発行となる。
JRバスグループでは、列車とは異なるバス特有の事情や、マルスがコンビニエンスストアのマルチメディアステーションやインターネットなどと接続されていないなどの理由から、マルスとは別にジェイアールバス関東、ジェイアール東海バス、西日本ジェイアールバス、JRシステムによって「高速バスネット」が開発され、2006年から稼動しており、「ドリーム号」などの「高速バスネット」での予約や購入には、路線や条件によって運賃を割り引くなどの特典を実施している。これに伴い、マルス枠を廃止する路線も増えてきている。また、JR北海道、JR東日本、JR東海ではマルスでのバス乗車券の発売を終了している。
私鉄でも、有料座席指定特急を運行する事業者では、同様の座席予約システムを構築していることが多い。一例として、近畿日本鉄道は「ASKA(All-round Services by Kintetsu and its Agency)システム」を開発・運用しており、主要旅行会社のシステムとも結合されている。小田急電鉄では、2003年に「MFITTシステム」を導入している。
JRグループの「乗車券類委託販売基準規程」により、以下のように表記される。
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