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PPG I分類体系[1][2] (PPG いち ぶんるいたいけい、PPG I classification)は、現生シダ植物の包括的な分類体系である[3]。現代的で包括的な分類を行うために設立された、シダ植物を専門とする研究者からなる団体であるシダ植物系統グループ[4] (The Pteridophyte Phylogeny Group, PPG)[注釈 1] (2016) によって発表された[3][5]。胞子生殖を行う維管束植物はまとめてシダ植物と呼ばれてきたが、現在では2つの明確に異なった単系統群である小葉植物 (lycophytes) と大葉シダ植物 (monilophytes) を含む側系統群であることが分かっている[3]。PPG I体系とも呼ばれる[1]。
古くから系統学によりシダ植物の分類が行われてきた[6]。近年では進化系統樹を推定する能力が向上し、より自然分類に近づいてきた[6]。被子植物では古く1998年から包括的な分類体系を築く試みがなされており[注釈 2]、本分類体系はそれを大まかに踏襲したものとなっている[3]。被子植物では花の形質が主要な科や属を分類する根拠となっているが、シダ植物ではどの形態形質が分類上最も重要であるか合意が得られていないため、科や属の分類は大きく変化してきた[7]。
PPG I (2016) では、小葉植物および大葉シダ植物について、研究者コミュニティに基づく (community-based) アプローチを用いて、属レベルまでの最新の包括的な分類体系を構築した[6]。単系統性を第一の基準として分類を行うが、シダ植物の系統の理解のため広く受けられている既存の分類を保存することも目的としている[6]。この分類体系では、小葉植物および大葉シダ植物を合わせて2綱、14目、51科、337属、11,916種に分類した[6]。まだシダ植物の系統において未解明な点もあり、今後もさらなる改善が行われる[6]。
生物の分類において、学名の安定性は非常に重要であり、分類と階級を決定する際には、既存の分類を考慮することが重要である[3]。かつ、自然分類群に基づくことも同様に重要で、進化を反映し結果的に安定性が増すことになる[3]。側系統群を維持することも有用ではあるが、属レベル以上では単系統のみからなる分類体系を構築することを目指した[3]。種レベルでは単系統群のみで分類を行うのは難しく、特にシダ植物では倍数体形成による種分化 (polyploid speciation) が多く行われ、3分の1近くが倍数体の増加によると推定されている[3][8][9]。
進化系統樹をリンネ式階層分類に反映させることは困難であるものの、歴史的にそうした分類は長く行われ、現在も広く使われている[3]。そのため PhyloCode で推奨されているようなアプローチは安定性の観点から破壊的であるため行わない[3]。また、化石分類群を組み込むのにも多くの課題があるため、現生の小葉植物および大葉シダ植物のみ取り扱う[3]。一部の化石植物は容易に組み込むことができるが、ほとんどの絶滅植物の系統関係はかなり不明確である[3]。多くの化石分類群は明確な進化的系統を表しており、それらを本分類体系に含めるには、範囲の修正に加え、ほぼ確実に新科、新目、新綱を認める必要が生じる[3]。一般に本分類体系では、広く受け入れられている既存の分類と、小葉植物と大葉シダ植物の系統に関する理解と矛盾しないような分類を維持している[3]。単系統であることが分類群を認識する第一基準であるが、安定した単系統と判断されるグループの範囲を定義するデータが不十分な場合は、名前の変更を最小限にとどめる保守的なアプローチを採用している[3]。つまり現在認められている分類群の中には最終的に非単系統であることが明らかになるもの含まれている[3]。第二基準として形態学的な判別の可能性と相同性、年代と多様性の両方における階層的な同等性を考慮し、決定している[3]。
この分類体系は完成したものではなく、現在までに分かった最良のデータから導き出され、その分類群に最も精通している人々によって形成された仮のものである[3]。PPG I (2016) はシダ植物とその系統分類に関する最近の文献を参照するための資料として、また将来の研究の指針となる枠組みとして、さらに議論を深める助けとなることをその理念とする[3]。
PPG の設立は、2015年次世代シダ植物学会議 (2015 Next Generation Pteridology conference) を含む国際会議でのコンセプトの宣伝、アメリカシダ学会(American Fern Society; AFS)や国際シダ植物学会(International Association of Pteridologists; IAP)を含む学会ウェブサイトやメーリングリストへの投稿を通じて始まった[10]。初期参加者の間で非公式な議論が繰り返された後、コミュニティの関与を強化し、議論を促進するためにメーリングリストが作られた。プロジェクトが進行するにつれコミュニティは拡大し、2016年には PPG は94名のシダ植物学者からなる国際的なコミュニティとなった[10]。本分類体系は、コミュニティ主導型 (community-derived) で、過半数の支持を得たものである[10]。
議論に参加する意思のある専門家からなる小委員会 (subcommittee) のメンバーによる最初の話し合い、小委員会による草案の作成、PPG コミュニティの全メンバーによる草案の議論、修正案の作成、そして正式投票 (formal vote) または賛成 (simple acclamation) による修正案の承認、という手順で行われた[10]。最高次の分類群については、PPG 全体で対話が開始され、様々な選択肢の長短について議論した結果、綱と亜綱を用いる体系が認められることとなった[10]。後に、主要な単系統群に適用される通俗名の決定も同様の手法で行われた[10]。
目、亜目、科の決定について、初めに組織小委員会が最初の提案を作成した[10]。この提案は、電子的にすべてのメンバーと共有され、アンケートを実施することで、その妥当性を評価し、さらなる議論が必要な分野を明らかにした[10]。その結果を受けて、メンバー全員で議論を行い、その後意見が一致しない部分について代替案を提示した修正投票が作成され、全ての目、亜目、科で過半数の支持が得られた[10]。上位分類が決まった後、PPG のメンバーに特定の単系統群の属の分類の検討が必要かをオンライン調査し、全会一致の合意が存在する場合、属の分類を検討した[10]。注意を要すると判断されたクレードについては、その系統の専門家によって構成される小委員会が設置され、小委員会長のもと代替となる属の分類について議論し、合意を得て、PPG全体による承認を得るための提案を行った[10]。綱、亜綱、目、亜目、科、属の体系が決まったのち、小委員会長は、各分類群について、以下の内容をまとめた[10]。
本分類体系は分子系統解析以前の分類体系における科と属の連続性を可能な限り維持している[11]。これは分子系統解析を反映したPPG I 以前の Smith et al. (2006)、Christenhusz et al. (2011)、Rothfels et al. (2012) などを引き継いでいるのに対し、Christenhusz & Chase (2014) などの認める分類群を減らした分類体系とは異なっている[11]。Christenhusz & Chase (2014) では、属間雑種を回避するために、差異より類似性に注目し、姉妹群となっている属をより広い属に吸収して分類していた[5]。
また、最上位の階級に関して、Ruggiero et al. (2015) では小葉植物と大葉シダ植物をそれぞれ亜門(Lycopodiphytina, Polipodiophytina)として扱い、その下にそれぞれ単一の綱(Lycopodipsida, Polipodiopsida)を置いた[11][12]。本分類体系では最上位を綱とし、それより上位の階級を置くことを推薦していない[11]。また、Ruggiero et al. (2015) と本研究は大葉シダ綱 Polipodiopsida の下位に4つの亜綱を置くことで一致している[11]。これは Smith et al. (2006) や Chase & Reveal (2009) のようなそれぞれを綱とした分類体系と異なっており、逆に Tree of Life Web Project (Pryer et al., 2009) を踏襲している[11]。分子系統解析からも、形態における解析においても大葉シダ植物が単系統群であることは確実であり、これを1つの綱とすることで問題はないという立場をとっている[11]。
シダ植物に2つの綱、ヒカゲノカズラ綱 Lycopodiopsida と 大葉シダ綱 Polypodiopsida を認める[10]。後者は現生種子植物の姉妹群となる[10]。
ヒカゲノカズラ綱には3つの目、ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales、ミズニラ目 Isoëtales、イワヒバ目 Selaginellales を認めている[10]。ヒカゲノカズラ目には1科16属が含まれ、ミズニラ目とイワヒバ目はそれぞれ1科1属である[10]。
大葉シダ綱には4亜綱、トクサ亜綱 Equisetidae、ハナヤスリ亜綱 Ophioglossidae、リュウビンタイ亜綱 Marattiidae、薄嚢シダ亜綱 Polypodiidae が含められる[10]。現生のトクサ亜綱は1目1科1属(トクサ属 Equisetum L.)である[10]。ハナヤスリ亜綱は2目2科12属、リュウビンタイ亜綱は1目1科6属からなる[10]。
薄嚢シダ亜綱は現存するシダ類の大多数を占め、ゼンマイ目 Osmundales、コケシノブ目 Hymenophyllales、ウラジロ目 Gleicheniales、フサシダ目 Schizaeales、サンショウモ目 Salviniales、ヘゴ目 Cyatheales、ウラボシ目 Polypodiales の7目を認めた[10]。このうちウラボシ目は6亜目(サッコロマ亜目 Saccolomatineae、ホングウシダ亜目 Lindsaeineae、イノモトソウ亜目 Pteridineae、コバノイシカグマ亜目 Dennstaedtiineae、チャセンシダ亜目 Aspleniineae、ウラボシ亜目 Polypodiineae)に細分された[10][注釈 5]。 ゼンマイ目には1科6属、コケシノブ目には1科9属が含まれる[10]。ウラジロ目とフサシダ目はそれぞれ比較的小さい3科が含まれ、それぞれ10属、4属からなる[10]。サンショウモ目は2科5属、へゴ目には小さい7科10属に加え、3属からなる大きなヘゴ科 Cyatheaceae が含まれる[10]。
ウラボシ目の各亜目の構成について、サッコロマ亜目は1つの小さな科に1属が含まれる[13]。ホングウシダ亜目はそれぞれ1属からなる2科と7属を含むホングウシダ科 Lindsaeaceae からなる[13]。イノモトソウ亜目は52属からなる大きな1科からなる[13]。コバノイシカグマ亜目は1科に10属を含む[13]。残りの2つの亜目、チャセンシダ亜目とウラボシ亜目は非常に多様性が高く、合わせて現生シダ植物の半分以上を占めている[13]。前者(チャセンシダ亜目)には、59属からなる4つの大きな科と、14属からなる100種に満たない7つの小さい科が含まれる[13]。後者(ウラボシ亜目)には、合計で98属からなる3つの大きな科に加え、10属が含まれる6つの小さな科が含まれる[13]。
上記をまとめると、2綱、14目、51科、337属、11,916種が扱われる[11]。
以下、分類の詳細を示す。各群は系統的に整理され、一般に種の多様性が高くなる順に並べられている[11]。属は各群の中でアルファベット順に並べられている[11]。学名や種数などの情報は PPG I (2016) に従い[14]、和名は適宜出典を付した。
本分類体系に伴い学名を整理するにあたって、以下の命名法上の新提案が行われた[297]。
Christenhusz et al. (2018) では、最近のシダ植物の分類はジェネラリストとスペシャリストの間で意見の食い違いがあり、論争の的になっていると述べた[5]。そこで彼らは、PPG I分類体系はAPG IV のようにコミュニティにより作られたにも拘らず、APG の手法とは異なり、同定が難しい多くの属に細分化しすぎたと論じた[5]。そしてそのような細分化された属は、種を同定してから分子系統解析による結果のみにより認識できるため、属の階級としての意味をほとんど果たさないと主張した[298]。
その後、PPG I (2016) の運営メンバーを含む Schuettpelz et al. (2018) では、PPG I (2016) 分類体系で認められた属の数は、多すぎではなく歴史的な過程を引き継いでおり、むしろまだ少ないと主張した[299]。Christenhusz et al. (2018) に反論し、「最近のシダ植物の分類が論争の的になっている」というのはあくまでその著者らのみが問題としているのであって、Smith et al. (2006) から始まったシダ類の分類は着実に合意に向かって進んでおり、PPG I (2016) はあくまで国際的なシダ植物学者たちのコンセンサスを明示したに過ぎないとした[299]。Christenhusz & Chase (2014) と Christenhusz et al. (2018) では、308種が Grammitis Sw. に、468種が Hemionitis L. に、388種が Thelypteris Schmidel に移され、これらの1164種の移動だけで、シダ種の11%に新しい学名が付けられた[299]。Schuettpelz et al. (2018) はこの濫造を「1世紀以上にわたる知的進歩をほとんど無視している」と表現し批判した[299]。学名の出発点であるカール・フォン・リンネ (1753年) の『植物種誌』以降、小葉植物と大葉シダ植物の種数は短期間的には逆転することがあるもののほぼ毎年増加しており、これは(自然界から)蒐集された標本の数が増え続けているためだと考えられる[299]。そして種数の増加に加え、シダ植物以外の分類群では種に対する属の割合がもっと低いことを指摘し、Christenhusz et al. (2018) のように属を広い概念として扱うことは「足並みを乱している (out of step)」と主張した[299]。分類には様々な目的があって何れも主観的であるが、系統学に基づいてより精密なレベルの系統関係を反映し、利用可能なデータと分類学的見解を総合した分類体系は、ジェネラリストにもスペシャリストにも最も役立つというのが、ほとんどの分類学者の意見であるとしている[299]。
それに対し、Christenhusz & Chase (2018) は改めて、多くの属に細分化しすぎであるとして PPG I (2016) に対する批判的な論文を発表した[300]。そして、Schuettpelz et al. (2018) が Christenhusz & Chase (2014) を「足並みを乱している」と批判したことに対し、反論した[300]。Christenhusz & Chase (2018) では、「Schuettpelz et al. (2018) の主張は、PPG I (2016) の支持者が批判者を反知性的だと思わせて黙らせようとしているに過ぎず、属の数が多いことが“知的進歩”と等しいと演繹的に仮定したでっち上げである」と厳しく批判した[300]。そして、Christenhusz et al. (2017) の24科212属の安定的な分類体系と、PPG I (2016) の今後変化があるだろう不必要に複雑な51科337属の分類体系では、どちらがより多く利用されるかは時間が解決してくれるだろうとした[300]。PPG I (2016) による単系統である属の分割は「系統情報をより反映するため」望ましいというメッセージを与えているため、そのような考えでは分類の激変は大きな属がなくなるまで終わらないとし、その不安定さゆえ、シダ植物の分類体系においてPPG I (2016) を論理的な次の段階として必要であると自動的にみなすべきでないと締めくくった[300]。
またヒメシダ科 Thelypteridaceae については、特に日本の種に関して、PPG I (2016) の30属を認めると、雑種属であるコウモリホシダ属[215] ×Chrinephrium を認める必要がでてきたり、He & Zhang (2012) や Almeida et al. (2016) の系統解析で用いられた中国産 "Parathelypteris nipponica" の材料は同定が疑わしいためかつて Parathelypteris に含まれていた種の所属が不確かであったりするなど問題点が多いことが指摘されている[216]。そのため、今後予定されている "PPG II" で東アジアの資料を正確に同定して公表することが重要であるとされる[216]。
PPG I (2016) に挙げられている、このプロジェクトの運営メンバーは以下の通りである[301]。
その他の参加者は以下の通りである[301]。
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