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フィログロッスム属[1][2](フィログロッスムぞく、学名:Phylloglossum)は、極めて退化した特殊な形態を持つ、ヒカゲノカズラ科の小葉植物の一属である[3][4]。分布はオーストラリア周辺(タスマニア島・ニュージーランドを含む[4])に限られる[3][5][6][7]。フィログロッスム・ドルムモンディイ[4] Phylloglossum drummondii ただ一種からなる[8][9][10][11]。
フィログロッスム属 | ||||||||||||||||||||||||
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フィログロッスム | ||||||||||||||||||||||||
分類(PPG I 2016) | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Phylloglossum Kunze (1843) | ||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||||||||
フィログロッサム属[12](フィログロッサム[6])やフィログロッソム属[5]とも表記される。
属名の Phylloglossum はギリシア語で葉を意味する φύλλον (phúllon) と舌を意味する γλῶσσᾰ (glôssă) の合成語であり、葉の形に由来する[10]。種形容語の drummondii はオーストラリアで植物を採集したイギリスの植物学者ジェームズ・ドラモンド (James Drummond; 1784–1863) への献名である[10]。
フィログロッスム属は特異な形態で、多くの固有派生形質を持っている[13]。これらは化石においても現生においても、他の小葉類には見られない特徴であり、形態学的な解釈を難しくしていた[14]。
地上生で[8][10]、高さは 15–50 mm(ミリメートル)[4][15]。地上部は葉と胞子嚢穂を1個形成する枝のみからなる[4]。主軸は普通分枝しない[16][13]。シュートと根が分枝するのは極めて稀で、もし分枝した場合、同等二又分枝である[13]。
茎の長さは 6–9 mm で、大部分は地下にある[15]。茎には非常に単純化した円柱状の原生中心柱を持つ[14]。他のヒカゲノカズラ科にみられるような横走する茎は持たない[10]。
葉(小葉)は線形で[10][4]、多肉質[4][15]。全縁で、長さ 7–20 mm、幅 0.5–1.0 mm[10]。1個の全植物体で植物体の基部にロゼット状に[10]、数枚の葉のみをつける[4][6]。
小型で、地中に原茎体(プロトコム、プロトコルム、protocorm)とも考えられている塊茎(tuber)状の構造を持つ[16][8][6][13][15]。これは栄養生殖器官で、適切な環境条件で通常の植物体へと成長する[3]。塊茎は3–4 mm の卵形で、色は白または淡いピンク色[15]。
葉のない柄を持つ明瞭な胞子嚢穂を形成する[14][10]。これは狭義のヒカゲノカズラ属 Lycopodium に見られるような、葉を付けた小梗を持つものとは相同でないと考えられる[14][10]。胞子嚢穂は単一で頂生する[10][15]。胞子嚢穂は長さ 3–9 mm、幅 2–5 mm[10]。
胞子葉は長さ 1.2–3.0 mm、幅 0.7–1.5 mm[10]。卵状三角形で、先端は鋭形から鋭尖形[15]。基部は楯着する[10]。胞子嚢は胞子葉の基部に付着し、1.0–1.5 × 1.0–1.5 mm の腎臓形[15]。胞子葉は初め圧着するが、成熟すると開出する[10]。
分布はオーストラリアの西オーストラリア州南西部地域、南オーストラリア州南部、ビクトリア州、タスマニア州北東部および、ニュージーランドの北島に限られる[17][11]。ニュージーランド南島ではかつては生息したと考えられており、マールボロ地方とバンクス半島で古い採集記録があるが、現在では絶滅したと考えられている[15]。
冬から春にかけてだけ湿地となり、夏は乾燥する地域に自生する[6]。好条件になった時のみ地上に現れる[8]、一年生植物である[14][15]。山火事により裸地となった土地で最もよく見られ、低木林のパッチの間や粘土質の平坦地、酸性土壌のような開けた土地に生えているのが観察される[8][15]。超塩基性土壌や、強く風化したりポドゾル化した砂岩のような土壌でも見られる[15]。
地中の塊茎(原茎体)で乾季を凌ぎ、乾季が終わると、茎頂分裂組織から数枚の線形の小葉を形成したあと、胞子嚢穂を伸長させる[6]。
植物体全体がミズスギの若い胞子体に類似していることから、原茎体は他のヒカゲノカズラ科植物の若い胞子体の足の周辺組織に相同であると考えられている[6]。特殊な環境のみで胞子嚢穂を形成するように進化した幼形成熟だと推定されている[6][5]。
また特異な形質は、一年生で季節性の温帯の湿地という生息環境に適応した結果だと解釈されている[14]。
同形胞子性の小葉類から構成されるヒカゲノカズラ科はかつて、ほとんどの種をヒカゲノカズラ属にまとめ、ヒカゲノカズラ属とフィログロッスム属の2属のみを認める分類が行われてきた[1][3][18][7][19]。フィログロッスム属はその極端に特殊化した形態から、150年前から独立した属として認識されてきた[10]。しかし、この方法では非常に多様なボディプランの種をヒカゲノカズラ属一属に含んでしまい[18][1]、分子系統解析においても旧ヒカゲノカズラ属は側系統群となっていた[20][21]。そのためヒカゲノカズラ属を細分化する試みがなされてきた[18][1]。
現在ではヒカゲノカズラ属が細分化され、ヒカゲノカズラ科に3亜科16–17属を認める分類体系が支持されている[22][21]。
フィログロッスム属はヒカゲノカズラ科のうち、コスギラン亜科に含まれる[9][13][10]。コスギラン亜科はコスギラン属、ヨウラクヒバ属、そしてフィログロッスム属の3属からなり、単系統性が支持されている[9]。Christenhusz et al. (2011) のようにコスギラン属をコスギラン亜科の範囲に拡張し、フィログロッスム属とヨウラクヒバ属をこれに含める考えもあるが[23]、その体系では特異な形質を持つフィログロッスム属をコスギラン属に含むことになり、分類形質の均一性が損なわれてしまう[7]。また、Øllgaard (1987) はフィログロッスム属を除くコスギラン亜科(ヨウラクヒバ属と狭義のコスギラン属)をコスギラン属として扱ったが、これではコスギラン属が側系統群となってしまう[13]。そのため、Field et al. (2015) によりコスギラン亜科に3属を認める分類体系が推奨され、現在ではこの3属を独立して扱うことが主流となっている[9][7][21]。なお、コスギラン亜科はコスギラン科 Huperziaceaeとして独立した科に置くこともある[18]。
コスギラン亜科のうち、コスギラン属とヨウラクヒバ属は明瞭な有柄の胞子嚢穂を持たず、フィログロッスム属のみ無葉の小梗を持つ胞子嚢穂を形成する[13]。また、コスギラン属やヨウラクヒバ属で知られるような、皮層を貫通して内生発生する根は、一年生で短命なフィログロッスム属の茎では観察されていない[13]。
Chen et al. (2021) による分子系統解析に基づくヒカゲノカズラ科現生属の内部系統関係を示す[21]。分子系統解析によりPPG I (2016) で認められた3亜科の単系統性は強く支持される[13][21]。Field et al. (2015) の分子系統解析では、ヒモヅル属の分岐位置などは異なるが、コスギラン亜科の系統関係に関してはよく保存されている[13]。地上生のフィログロッスム属は、着生種からなる属であるヨウラクヒバ属と姉妹群をなす[13][21]。
ヒカゲノカズラ科 |
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Lycopodiaceae |
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