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ヘゴ科[1][2](ヘゴか、桫欏科、学名:Cyatheaceae)は、ヘゴ目に属する薄嚢シダ類の1科である。多くは木生シダとなり、直立する茎に多数の根を生やして幹と呼ばれる構造を作る。世界中の熱帯から亜熱帯にかけて広く分布する[3][2]。
ヘゴ科 | |||||||||||||||||||||
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分類(PPG I 2016) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Cyatheaceae Kaulf. | |||||||||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||||||||
Cyathea Sm. (1793) | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
属 | |||||||||||||||||||||
コケシノブ科に似た薄い葉を持ち、南アメリカのギアナ高地にのみ知られるヒメノフィロプシス属はかつて独立したヒメノフィロプシス科に置かれていたが[4]、現在では極端に特殊化したものだと考えられ、ヘゴ科キュアテア属に内包される[5]。
地上生で、多くの種が木生化する[2]。草原のような風当たりの強い場所では裸子植物のソテツや木生単子葉類のヤシに似た姿となる[6]。
茎は普通直立し、数メートルから十数メートル(m)に達する[2]。そうした種では茎の表面が不定根に覆われ、幹(みき、trunk-like stem)と呼ばれる構造を作る[2][7][8]。幹の直径は非常に太くなることが多い[2]。この幹は葉柄基部や不定根が茎の表面に重なり形成されたものであり、木質植物が形成する真の幹(材)とは異なる[8]。一方クサマルハチやチャボヘゴではほとんど木生にならない[9]。多環網状中心柱を持ち、背腹性は見られない[2]。旧ヒメノフィロプシス属 Hymenophyllopsis では根茎は直立するか、匍匐することもある[4]。
また、先端や葉の基部には大型の鱗片を生じ、毛を持つこともある[2]。モリヘゴ属 Sphaeropteris は鱗片に縁取りを持たないのに対し、それ以外の3属は鱗片に縁取りを持つ[10]。
葉は胞子葉と栄養葉が同形で、大型になり、長さ 5 m に達することもある[2]。葉にも鱗片を持つ[2]。葉身は普通1–3回羽状複葉であるが、ごくまれに2回羽状複生から3回羽状深裂の単葉となるものもある[2][3]。葉脈は単条か、分岐するものもある[2]。普通は遊離脈であるが、一部の種では網状脈のものも知られる[2]。葉軸上の羽軸分岐点には腺を持つものも多い[2]。葉軸向軸側の溝はあっても羽軸に流れ込むことはない[2]。旧ヒメノフィロプシス属の形態は特殊で、コケシノブ科に似た膜状の葉を形成する[2][4]。細胞層は3層ほどで気孔は退化し、長さは大きくても 30 cm(センチメートル)[4]。
葉柄の断面は、細い維管束が背軸側と向軸側にそれぞれ集合する[2]。それ以外の集合が見られることもある[2]。通気組織が2列に並ぶ[2]。葉柄基部に離層を形成するものと、そうでないものがある[2][11]。離層を形成する種では葉が脱落した後に、茎の表面に逆さの「丸八」字状の葉痕(ようこん、leaf scar)を残す[2][7]。
胞子嚢群は葉表面の辺縁近くの脈端か分岐点に付着する[2]。包膜はあるものとないものがあり、包膜を持つものは胞子嚢群全体を覆っている[2]。チャボヘゴ属 Gymnosphaera は包膜を欠く[10]。ただし、旧ヒメノフィロプシス属では胞子嚢群は縁辺よりやや内側に形成され、包膜は二弁状である[2][4]。胞子嚢床は隆起し、球形または円筒形である[2]。胞子の成熟は順熟型[2][12]。胞子嚢柄は短く、4細胞列からなる[2]。環帯は斜め巻きで、普通側糸を持つ[2]。1胞子嚢当りの胞子数は64個または16個で[2]、ヘゴ属 Alsophila は1胞子嚢当り16個の胞子をつくる[10]。胞子は四面体形で三溝[2]。
配偶体は葉緑体を持ち、心臓形前葉体をなす[2]。クッション部の細胞層はウラボシ目と比較してやや厚い[2]。毛または鱗片状の構造物を持つことがある[2]。
熱帯から亜熱帯に広く分布する[3][2]。一部は暖温帯にも見られる[3]。旧ヒメノフィロプシス属は、ギアナ高地(ベネズエラ・ガイアナ・ブラジル)にのみ産する[4]。特に半数は1–2個の山塊に分布が限定される[4]。
生育環境は多様である[3]。森林伐採後の二次植生として群生し、広大なヘゴ林を形成することも多い[3]。多湿の環境は幹の表面を覆う不定根が水分を回収するのに役立っている[8]。湿地性のものも知られるほか、温帯や亜高山帯のものは小型化し、はっきりした木生にはならないものもある[3]。特に旧ヒメノフィロプシス属では、普通標高 1,600–2,200 m のテーブル台地の砂岩質の岩壁や裂罅に生育し、日陰で湿気の多い環境に適応し、葉は薄く、非常に小形となっている[4]。
高さ 10 m を超える大型のシダであることもあり、分類が難しい[11]。日本では長らくヘゴ属 Cyathea の1属とされた[10][11]。Holttum (1964) がオーストラリアと太平洋地域のヘゴ科について詳細な研究を行い、鱗片の形態、包膜の有無、胞子嚢群周辺の鱗片の形質などから亜属を定義した[11]。
PPG I (2016) では3属643種とされたが[14]、Hassler (2024) ではヘゴ属 Alsophila からモリヘゴ属 Sphaeropteris を分離した4属が認識される。このうち日本には3属[15]、8種が知られる[15][10][3]。
タイプ属はキュアテア属 Cyathea。そのタイプ種は Cyathea arborea (L.) Sm. がレクトタイプ指定されている[5]。この種は初め、カール・フォン・リンネによりウラボシ科の Polypodium arboreum L. として記載されたものである[5]。
また、メタクシア属およびロフォソリア属がヘゴ科に内包されたことがあるが[3]、現在ではそれぞれメタクシア科およびディクソニア科とされ、ヘゴ目に含まれる(#系統関係を参照)。また、逆に独立したヒメノフィロプシス科 Hymenophyllopsidaceae に置かれたヒメノフィロプシス属は[4]、現在ではヘゴ科のキュアテア属に内包される[5]。
以下、Hassler (2024) による4属に、中池 (2018) による日本産の種を表示する。
また、かつての全種をヘゴ属に内包する分類では、以下のような分類体系が用いられた[10]。
ヘゴ目に置かれる[14][26]。ヘゴ科はタカワラビ科、ディクソニア科、メタキシア科と単系統群を形成する[2]。
なお、Christenhusz & Chase (2014) ではPPG Iにおけるヘゴ目がすべてヘゴ科にまとめられ、もともとの科はヘゴ科内の亜科とされた[27]。本項におけるヘゴ科はそのうちの1亜科 Cyatheoideae Endl. (1836) とされた[27][28]。しかし、海老原 (2016) や PPG I (2016) などではこれは支持されず、ヘゴ目の1科としての分類が踏襲されている。
以下、分子系統解析に基づくヘゴ目の系統関係を示す。
Korall et al. (2006), Korall et al. (2007), Lehtonen (2011), PPG I (2016) | Nitta et al. (2022) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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最古の記録は中生代ジュラ紀から白亜紀ごろの地層から知られる[2]。胞子化石から、白亜紀には南半球に広く分布していたことが分かっている[29]。
ヘゴは人間とのかかわりが深いシダである[30]。巨大な「幹」や葉は世界各地で様々に利用されてきた[3]。軽くて加工しやすく、水持ちが良いうえに腐りにくいため10年近くも保つ[30]。
ヘゴ科の「幹」はそのまま伐採して、家の柱や垣根などの建造物に利用される[3][30]。彫刻して装飾品にも用いることがあり[3]、細いものは生け花の器などに加工され利用されてきた[30]。
近年では専ら、園芸材料の「ヘゴ材(ヘゴ板)」として利用される[3][30]。洋ランは自生地では樹木や岩石に着生するため、洋ランの栽培に円盤状や板状、棒状や植木鉢状に加工して利用される[30]。また、ほぐしたヘゴの根はコンポストとして用いられる[30]。もともとはラン科植物や着生シダ類、キヅタ属などのつる植物の栽培に利用されてきたが、植木鉢状の加工がなされるようになり、様々な植物を育てる園芸資材として用いられるようになった。
ヘゴは髄に多量の澱粉を含む茎や若い葉は食用とされる[3]。オーストラリアではほろ苦い甘みがあり、まずいカブのような味だという記述がある[3]。カブやカボチャの約2倍に当たる 60 kcal/100 g の熱量を持つとされる[3]。
また、熱帯温室で栽培され、湿潤熱帯を表現する要素として用いられる[31]。そのため、ヨーロッパの植物園では看板植物の一つとなっている[32]。
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