葉痕
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葉痕(ようこん、英: leaf scar)は、葉が落ちた後に茎面に見られる印痕のことである[1][2]。葉印(よういん)とも[1][3][2]。

多年生植物において、形成されてから一定の期間が経過した葉は基部に離層を分化して茎から離脱する[1]。その脱落後には葉痕が見られる[3]。茎の二次肥大成長が進行するにつれ、コルク組織や不定根に覆われたり、樹皮が剥がれ落ちて葉痕は消えていく[1][2]。それらが発達せずに茎が肥大すると、葉痕は横に長い形となる[2]。
形状
葉痕は種によってさまざまな形態を示す[1][2]。葉が茎に接した面の形や位置を示す良い証拠となっている[1][2]。多くの場合、葉痕には維管束の配列状態が反映されている[1][3]。維管束の断面は斑点として保存されており、その数や分布も分類形質となる[2]。
多くの樹木では楕円形や角の丸くなった三角形の葉痕を残す[1]。ほかに、円形、半円形、三日月形のものも知られる[1]。また、鱗片葉の葉痕の多くは線形である[1]。
シダ類でも、離層を形成するヘゴ科の種では葉が脱落した後に、茎の表面に逆さの「丸八」字状の葉痕を残す[4][5]。マルハチ Sphaeropteris mertensiana の和名は、この葉痕の特徴から名付けられた[2]。
葉痕と冬芽
落葉樹の葉痕は、その腋芽である冬芽とともに観察される[6]。
スズカケノキ Platanus orientalis(スズカケノキ科)の葉痕は環形であるが[1][7]、これは葉柄内芽を形成する植物で見られるものである[7]。葉柄内芽(ようへいないが、intrapetiolar bud)は、腋芽が葉柄の鞘部に包まれることで形成される芽で、葉柄が落下後に環状の葉痕を残し、その中心に冬芽が現れる[7]。ほかにユリノキ(モクレン科)、ハクウンボクおよびコハクウンボク(エゴノキ科)、フジキやユクノキ(マメ科)、ウリノキ(ミズキ科)、キハダ(ミカン科)などにみられる[7]。
また、ニセアカシア(マメ科)のような隆起した葉枕を持つ植物では、葉痕の内側に冬芽が形成され、外観では見えない隠芽(いんが、concealed bud)となる[7]。サルナシやミヤママタタビ(マタタビ科)も葉痕の内側に隠芽を持つが、同属のマタタビの冬芽はわずかに裸出し、半隠芽(はんいんが、semiconcealed bud)と呼ばれる[7]
枝痕

葉痕と似た現象として、枝が脱落した痕を茎面に残す植物もある[1]。これは枝痕(しこん、twig scar)と呼ばれる[8][9]。枝痕は冬季や乾季のような生育不適期に枝先が枯死することによって形成される[9]。枝痕の大きさや位置にはさまざまな変異が見られる[10]。もともとあった枝が落ちるため、最上位の側芽が頂芽のように振舞うことになり、これを仮頂芽(かちょうが、pseudoterminal bud)という[9]。
日本産広葉樹のうち、枝痕を形成するものは互生の種に多い[8]。例えば、シナノキ属 Tilia、ブナ属 Fagus、クマシデ属 Carpinus などが挙げられる[10]。ヤナギ属 Salix やクリ属 Castanea では、仮頂芽の基部の葉痕と相対する位置に比較的大きな枝痕を形成する[10]。ハンノキ属 Alnus、カバノキ属 Betula、ハシバミ属 Corylus では仮頂芽の基部に枝痕ができる[10]。
対生のものでは、ミツバウツギ属 Staphylea、 キハダ属 Phellodendron、カエデ属 Acer のうちタカオモミジ、ハウチワカエデ、チドリノキなど、カンボク Viburnum opulus で枝痕が見られる[10]。対生葉の場合には、対生する腋芽の間に直接、または瘤状突起の先端に枝痕ができる[10]。
小葉植物の器官脱離
フウインボク Sigillaria sp. の化石
リンボク Lepidodendron sp. のスケッチ
化石小葉植物であるリンボク類は二次木部を形成する木本植物である[11]。リンボク Lepidodendron やフウインボク Sigillaria、レピドフロイオス Lepidophloios などが知られる[11]。
葉枕
葉枕(ようちん、leaf cushion)は、リンボク類の葉(小葉)の基部にみられる肥厚部である[12]。リンボク類では、葉は葉枕を茎上に残して脱落し、茎に鱗状に配列したまま化石化している[12][13]。そのため、葉序が明らかとなっている[12]。また葉枕の形や相互の位置と、葉痕の表面の様子は種を区別する分類の標徴形質となっている[12][13]。
横断面は菱形や卵形となる[12]。フウインボクでは、六角形から広楕円形の葉痕を作った[11]。フウインボクの和名は、この葉痕の特徴から名付けられた[2]。
リンボク類の葉痕には1本の維管束痕(葉跡)があり[注釈 1]、その側方にパリクノス(parichnos)と呼ばれる対になった小さな痕跡が見られる[13]。パリクノスは茎の皮層から葉身に伸びており、ゆるやかに結合した柔細胞によって構成されている[13]。これは通気組織としての働きを持っていたと考えられている[13]。2対のパリクノスを持つものも知られる[13]。
リゾモルフ
リンボク類の基部には、二又分枝する地下性器官であるリゾモルフ(rhizomorph、担根体)があった[13][15]。これはスティグマリア Stigmaria とよばれる器官属で知られる[14][15][16]。スティグマリアには螺旋状に細根(rootlet)が並ぶが、多くは基部から脱落し、スティグマリア表面にはその脱落痕(rootlet scar)が見られる[17][15][16][18]。
脚注
参考文献
関連項目
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