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2022年2月24日に開始されたロシア連邦によるウクライナへの全面侵攻 ウィキペディアから
2022年のロシアのウクライナ侵攻(ロシアのウクライナしんこう、ロシア語: 2022 Вторжение России на Украину、ウクライナ語: 2022 Російське вторгнення в Україну)は、ウクライナ紛争の中でロシア連邦が2022年2月24日に開始したウクライナへの全面的な軍事侵攻である[31][32]。
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ロシア政府は特別軍事作戦(とくべつぐんじさくせん、специальная военная операция)[33][注 5][注 6][37]、日本政府はロシアによるウクライナ侵略(ロシアによるウクライナしんりゃく)[38][39][40]、国際連合の第11回緊急特別総会では「вторжение Российской Федерации в Украину, Russian Federation’s Invasion of Ukraine, Agression contre l’Ukraine」または「Агрессия против Украины」[41][42][43][44][45][46]、EUとイギリス政府は「российской агрессии против Украины, російської агресії проти України, l'agression de l'Ukraine par la Russie, Russlands Aggression gegen die Ukraine, Russian aggression against Ukraine」[47][48]と呼称している。
2014年、ロシアは国際的にウクライナ領と認められているクリミア半島の編入を宣言するとともに、ウクライナ南東部のドンバス地方にて、親露派分離勢力への支援を始め、対立・紛争が続いていた[49]。
2021年初頭にはウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーによって「クリミア奪還後の『ウクライナへの再統合』方針」を定めた大統領令が発令された[50]。また、及び北大西洋条約機構(以降、NATO)とウクライナ軍の合同軍事演習開始[51]以降、ロシアは長期にわたりベラルーシ側を含むウクライナ国境周辺への軍事力の増強を図っていた[52]。
同年12月3日、アメリカ合衆国の『ワシントン・ポスト』紙が、情報機関からの報告書の内容として「ロシアが2022年早々にも最大17万5000人を動員したウクライナ侵攻を計画している」とスクープ[53][54]。12月17日にロシアは、ウクライナがNATOに加盟しないことや、NATOに対し軍備の後退・縮小などを要求する条約草案を発表した[55][56][57][58]。
2022年2月18日、第46代アメリカ大統領のジョー・バイデンはついに、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンがウクライナ侵攻を決断したと確信していると述べた[59]。2月21日、プーチンが安全保障会議で閣僚らを一人ずつ順番に登壇させ、「ドネツク人民共和国[注 7]」と「ルガンスク人民共和国[注 8]」を独立国家として承認すべきか意見を求める映像が国営放送で放映された。対外諜報活動を担うロシア対外情報庁(SVR)長官のセルゲイ・ナルイシキンはこの時言葉を詰まらせ、プーチンに何度も問いただされた[60]。同日、ロシアは「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」への国家独立承認と友好協力相互支援協定への署名[61][62]をし、ウクライナ東部のドンバスへロシア軍を派遣。各国メディアはウクライナへ侵攻する可能性を連日報道した[63][64]。
同年2月24日、プーチンがウクライナへの「特別軍事作戦」を開始すると述べた演説[65][66]が各メディアに対して公表された。それに伴い首都キーウをはじめ、ウクライナ各地への攻撃が開始された[67][68][注 9]。ロシア側は国連憲章第51条の集団的自衛権を主張した[72]。これを受けてウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは同日、「戒厳令」(2022年の戒厳令〈ウクライナ語版〉)を発布[73][74]。さらに、18歳から60歳までの男性を原則出国禁止にする「総動員令」に署名し、戦争状態に入った[75][76][77]。
ロシア軍は当初キーウ攻勢でベラルーシからキーウ方面に[78]、北東部攻勢でチェルニーヒウ州とスームィ州へ向けて[79][80]、南部攻勢でクリミアから[81]、そして東部攻勢でルハーンシク州およびドネツィク州へ侵攻を開始した[82]。ロシア軍のキーウへの侵攻は3月には膠着状態となり、4月にはロシア軍はキーウ周辺から撤退を始めた[83]。北東部攻勢では5月にはウクライナ軍の反撃によりロシア軍は国境まで撤退した[84]。南部攻勢および東部攻勢では、ロシア軍が3月にヘルソンを占領し(ヘルソンの戦い)[85]、5月にはマリウポリを包囲の後占領した(マリウポリの戦い)[86]。その後もロシア軍の攻勢は続き、6月24日のセヴェロドネツィク陥落[87]、7月3日のリシチャンシク陥落によりロシア軍はルハーンシク州全域を占領した[88]。
ウクライナ軍は8月に南部で[89]、9月には北東部・東部で反撃を開始[90][91]。北東部ではイジュームを含むハルキウ州の大半を奪還し[92]、東部ではリマンを奪還した[93][94]。これに対し、9月30日にロシアはウクライナ4州の併合を宣言し[95]、10月5日には併合手続きを完了したと発表した[96]。10月8日、クリミア大橋が爆発[97]。3名が死亡し、橋の一部が崩落した[97]。ロシア軍はウクライナ全土にミサイルやドローンによる攻撃を実施した[98]。11月10日、ロシア軍は侵攻後に占領した唯一の州都であるヘルソンを含むドニエプル川西岸から撤退することを決定し[99]、同月11日に全部隊の撤退を完了した[100]。同月15日、ポーランド東部、ウクライナ国境付近のプシェヴォドゥフにミサイルが着弾[101][102]。2名が死亡した[101][102]。
現実空間における陸戦兵器や空襲、ミサイル攻撃等による軍事的な侵攻と、サイバー攻撃、情報戦、国際機関、国家および民間企業・団体により事業や取引の停止という経済制裁が組み合わさった今までにない規模で行われているハイブリッド戦争となっている[103][104][105]。サイバー及び情報戦でも諜報活動は国家レベルに限らずオープン・ソース・インテリジェンス(オシント)を駆使した民間会社や、SNS、オンラインアプリ、ハッカー技術などを駆使した世界各国の一般市民によるリモート草の根「参戦」が加わっている[106][107][108]。この状況について、イギリスの『ガーディアン』紙は「『第一次情報大戦』の様相を呈している」と報じた[106][107]。
NATO加盟国はウクライナに大量の兵器・弾薬・装備などを供与しているが、バイデンは5月31日、「ロシアとNATOの戦争やプーチンの追放は求めない」「軍事支援はウクライナに外交交渉力を持たせるため」「この戦争は最終的に外交的解決しか道はない」と表明している[109][110][注 10]。アメリカサイバー軍はロシアへのサイバー攻撃実施を公式に認めているが、ホワイトハウス報道官のカリーヌ・ジャン=ピエールはアメリカとしてこの戦争に直接参戦せず、ロシアとの全面衝突を避けるというこれまでのアメリカ合衆国連邦政府の方針の転換ではないという見解を示している[112][113]。
2022年2月27日には、ロシア大統領が戦術核として核兵器の使用に踏み切る可能性を示唆した[114]。4月初め、キーウ近郊のブチャやボロディアンカなどでロシア軍が撤退前に大量虐殺を行っていたとされる疑惑が発覚した。[115][116]こうした残虐行為を欧米諸国を中心に強く非難し[117][115]、ロシアに対する経済制裁も強化された[118]。
同年3月、国際刑事裁判所(ICC)は、加盟国のうち39か国の要請を受け、ウクライナ侵攻におけるロシアによる戦争犯罪の捜査に着手した[119][120]。2013年から2014年にかけて発生した市民運動「ユーロマイダン」でのヤヌコーヴィチ政権によるデモ弾圧、クリミア侵攻などでの人権侵害も捜査対象となる[121]。ウクライナ検察当局もロシア軍の残虐行為の証拠収集と保存を進めており[122]、4月5日、同国の検事総長であるイリーナ・ベネディクトワはロシア軍による約5,000件の戦争犯罪を捜査していると明らかにした[123]。これに対してロシア大統領府報道官のドミトリー・ペスコフは「大胆なフェイクだ」などと述べ、ロシア軍の関与を否定している[124][125][注 11]。
ロシア国民による抗議運動は2月24日の侵攻直後から国内全土で始まったが[126]、政府は激しい弾圧を行い、同年3月13日の時点で、約14,900人が逮捕されたとされている[127][128]。プーチンは「我々(特にロシア民族はそうなのだが、いかなる民族も)は、屑どもと裏切り者を愛国者と常に見分けることができ、誤って口の中に飛び込んだ小虫のように吐き出すことができる」と述べた[129][130]。外部からの情報を遮断するため、プーチン政権はメディアへの検閲を強めるとともに[131][132]、3月4日、「虚偽の情報を広げた場合に刑事罰を科す」とする法律を発布した[133]。ウクライナへの侵攻はあくまで「特別軍事作戦」とされ、この法律により「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法とされた[37][注 12]。これに伴い、国境なき記者団が発表している世界報道自由度ランキングにおけるロシアの順位は大幅に後退することになった。
親露路線とされるベラルーシ、ロシア南部のチェチェン共和国は積極的にロシアの立場を支持している[135][136][137][138]。
中国は経済制裁に対し一貫して消極的で、中立の立場を保持しているが[139][140][141]、2022年4月7日の国連総会でロシアを国連人権理事会から追放する決議案が採択された際は、イラン、ベラルーシ、シリア、北朝鮮などと共に反対した[142]。なお、中国はこの「戦争の決定的な支援者」とされ、国際社会から非難されている[143]。武器調達の約半分をロシアに頼るインドは、国連で採決に持ち込まれた5回の対露非難決議案の全てに棄権した[144][145]。中国と同じく中立的立場をとるものの、3月に入ると安価なロシア産原油の輸入を一気に増加させた[146]。
2022年10月、中央情報局(以降、CIA)は、盗聴したロシア内部の会話をバイデン政権に提出した。内容はウクライナによって、クリミア奪還を行われた際、ロシアが秘密裏に核兵器使用を議論する会話であったと報告した[147]。核兵器が使われれば、担当したロシア軍部隊を米軍が直接通常兵器で攻撃することが検討された事も明らかになった[147]。
2024年4月現在[update]、ウクライナ国内では推定354万人以上の避難民が発生し、またウクライナ国外に逃れた難民は、2024年6月現在[update]655万人以上になっている[148]。避難民をもっとも受け入れているのはポーランドである[149]。
1991年12月8日、当時ソ連構成共和国であったロシア共和国、ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国はベロヴェーシ合意によりソ連の消滅と独立国家共同体の設立を宣言した[150]。その後、同年12月25日にはソ連最後の最高指導者であるミハイル・ゴルバチョフが辞任し崩壊[150]。その後、ロシアとウクライナはそれぞれ独立国家として関係を維持した[150]。1994年、ウクライナはNPT(核拡散防止条約)に署名し、ソ連が残した核兵器の廃棄に同意した[151]。その見返りとして、アメリカ、イギリス、ロシアはブダペスト覚書においてウクライナの「領土保全」を支持することに同意した[152][153]。1999年、ロシアはイスタンブールサミットに署名した。このサミットで「同盟条約を含む安全保障協定を自由に選択・変更できる、すべての参加国の固有の権利」を再確認した[154]。ソ連崩壊後、10月政変、アブハジア紛争、第一次チェチェン紛争など周辺地域の政情不安と安全保障上の懸念により、新たにポーランド、ハンガリーなどの東側諸国がNATOに加盟した[155]。東側諸国のNATO加盟についてロシアの歴代指導者は、「西側諸国はNATOが東方拡大しないことを約束していた」と主張した[155][156]。それにもかかわらずNATOが東方拡大したことが、ウクライナが侵攻を受けた原因だとジョン・ミアシャイマーは指摘した[157][158]。しかしソ連最後の指導者であるミハイル・ゴルバチョフもインタビュアーからベーカー米国務長官とのNATOの東方拡大をしない約束について質問されたさい、ゴルバチョフは「NATOの拡大というのは話題はまったく出てこず、そのころは話題にならなかった。私は全責任を持ってこれを発言する。」と答えている[159]。
2008年に公開されたラトビアのドキュメンタリー映画ソビエト・ストーリーは、ソビエト連邦の知られざる悪を暴き、ロシアに対する好感度の低下を招いた。この映画はロシアによって強くボイコットされた。
1991年ウクライナ独立後も歴史的経緯からクリミア半島およびウクライナ東部では8割に迫るほどロシア語話者が多い地域であった。2010年ウクライナ大統領選挙においても東部出身で親露派のヤヌコーヴィチ氏への支持率は南東部で高かった。大統領の親露的な対応は後述のユーロマイダン革命に繋がった。
2014年のユーロマイダンによるヤヌコーヴィチ解任後、ウクライナの一部地域において親露派による騒乱が勃発した[160]。リトル・グリーンメンはウクライナの戦略的に重要な地域やインフラストラクチャーを支配した[161]。ロシアはクリミア併合の賛否を問う国民投票を実施し、クリミア半島がロシア領になることが決定され、2014年3月18日にロシアへ編入された[161]。クリミア併合に続き2014年4月にはドンバス戦争が勃発[162]。親露派によりドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の建国が一方的に宣言された[162][163]。
停戦を実現するためにミンスク協定(ミンスク1、ミンスク2)が調印されたが、戦争を止めることはできなかった[164]。ミンスク協定を巡って認識のずれも生じた[165][166]。ノルマンディー・フォーマットの参加国であるウクライナ、ドイツ、フランスは協定をロシアとウクライナとの間の合意だと主張したが、ロシアはウクライナとドネツク・ルガンスク両人民共和国との間の直接交渉による合意だと主張した[165][166]。
2021年10月26日、ウクライナ東部の紛争地域ドネツィク州グラニトノエにて、ウクライナ軍は親露派武装勢力に向けてトルコから調達したドローンのバイラクタル TB2による攻撃を初めて実戦で行った[168]。ウクライナ国防省の主張によると、親露派側からの砲撃でウクライナ軍側に死傷者が2人発生したことに応戦したものである[168]。ドローン攻撃により親露派は死傷者こそ出なかったが、122ミリ榴弾砲1門が破壊された[168]。
同年7月に強化されたドンバス戦争の停戦協定により、ドローンを含む航空戦力の使用は禁止されているため、ロシアは停戦協定違反としてウクライナを即日非難し、協定に関わったドイツも翌日にウクライナを非難した[168]。
同年10月29日、ゼレンスキーは欧米諸国から忠告を受ける中、「領土と主権を守っている」という声明を発表した[169]。国際関係研究者の北野幸伯は「ドローン攻撃は、ロシア大統領・プーチンに『親露派を守り、ウクライナのNATO加盟を阻止するために軍事行動をする』という大義および口実を与えることになった」と指摘した[170]。
同年12月9日、プーチンは、ロシア国外のロシア語話者に対する差別について「大量虐殺だ」と述べ[171][172]、ウクライナを非難した[173][174][175]。
同年12月21日、プーチンはアメリカとNATOに対し、「ロシアの安全保障」という名目で、ウクライナをNATOに加盟させないことに関する法的拘束力のある約束を交わすことを要求した[176]。また、ロシア政府は、「ウクライナ政府はミンスク合意を履行していない」として非難した[177]。それに対し、アメリカ側は「ウクライナにはウクライナの主権がある」「ウクライナがNATOに加盟するかしないかはウクライナ政府が選ぶことであり、それについてロシアが口出しするのは間違っている」と主張した[178]。
国境付近へのロシア軍の増強にもかかわらず[179]、ロシア政府は、ウクライナ侵攻計画を繰り返し否定した[180][181][182]。
こうしたロシアの否定に対して、米英両国は、ウクライナ国境近くでのロシア軍の動向の衛星写真やロシアの侵略計画、侵攻後の殺害(暗殺)または拘留される主要なウクライナ人のリストが存在することなどの情報を公開した[183]。
2022年1月に入ると、ウクライナ各地の公共施設に対する匿名電話やメールによる爆破予告が多発した。稀に爆発物や不審物などが発見されることはあっても、大多数は虚偽通報であった[184]。
1月14日、ウクライナ保安庁(SBU)は一連の爆破予告虚偽通報はロシアによるハイブリッド攻撃の一端であると発表した[185]。
2022年2月15日、プーチンはマスコミに「ドンバスで起こっていることはまさに大量虐殺である」と語った[188]。
しかし、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)、ウクライナへのOSCE特別監視ミッション、欧州評議会を含むいくつかの国際機関は、ロシア側の主張を裏付ける証拠を発見することはできなかった[189][190][191][192]。後に大量虐殺の主張は、ロシアによる偽情報として欧州委員会によって却下された[193]。駐宇アメリカ大使館は、ロシア側による「大量虐殺」との主張を「非難すべき虚偽の情報」と指摘し[194]、アメリカ国務省報道官のネッド・プライスは、ロシアがウクライナに侵攻するための口実としてそのような主張を行っていると述べた[188]。
2月17日、ドンバスでの戦闘は大幅に激化した。2022年の最初の6週間の1日あたりの攻撃回数は2回から5回であったが[195]、ウクライナ軍は2月17日に60回の攻撃を報告した。 ロシアの国営メディアはまた、同じ日に分離主義者(親露派勢力)に対する20回以上の砲撃を報じた。ウクライナ政府は、分離主義者がスタニツィア・ルハンスカで大砲を使って幼稚園を砲撃し、3人の民間人を負傷させたと報告した。 ルガンスク人民共和国は、ウクライナ軍により迫撃砲、グレネードランチャー、機関銃の発砲を受けたと報告した[196][197]。
2月18日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国は、それぞれの首都からの民間人の強制避難を命じたが、完全な避難は完了するのに数ヶ月かかるとされた[198][199][200]。ウクライナのメディアは、ウクライナ軍を挑発する試みとして、ドンバスでロシア主導の過激派による砲撃が急増したと報じた[201][202]。
同日、「ドンバスでのロシア人の虐殺」は事実では無いと指摘したアメリカ政府当局者の質問に関して、アントノフは駐米ロシア大使館のFacebookページに次のような声明を投稿した[203][204]。
ここでは、アメリカの二重基準だけでなく、かなり原始的で粗野な皮肉を見ることができます。アメリカの主な地政学的目標は、ロシアを可能な限り東に押し戻すことです。そのためにはロシア語を話す人々を現在の居住地から追い出す政策が必要です。 したがって我々は、アメリカ人がウクライナでのロシア人の強制的な同化の試みを無視するだけでなく、政治的および軍事的支援を強く容認することを望んでいます。
後に捕虜となったロシア軍将校は、2月20日から22日にかけて従軍拒否書を出した者が複数人いたと証言しており、軍に作戦が指示されたのはこの時点とされる[205]。
調査ウェブサイト「ベリングキャット」を含むいくつかの調査報道機関は、ドンバスで主張された攻撃、爆発、および避難の多くがロシアによるものだという証拠を発表した[206][207][208]。
2月21日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の同意を受けて、プーチンはロシア軍部隊(戦車などを含む)をドンバスに派遣するよう命じた。ロシア側はこの行動を「平和維持ミッション」と呼称している[209][210]。その日未明、いくつかの独立したメディアがロシア軍がドンバスに侵攻していることを確認した[211][212][213][214]。
同日、ロシアの防諜と治安維持を担うロシア連邦保安庁(FSB)は「ウクライナの砲撃により、ロストフ州のロシアとウクライナの国境から150m離れたFSB国境施設が破壊された」と発表した[215]。これとは別に南部軍管区の報道機関は「ロシア軍がその日の朝、ウクライナから2台の歩兵戦闘車で国境を突破した5人の妨害工作員を、ロストフ州ミティアキンスカヤ村の近くで殺害した」と発表した[216]。ウクライナは両方の事件に関与したことを否定し、それらを偽旗作戦と断定して批判した[217][218]。さらに、ドネツクの北30キロメートルにあるザイツェベの村で、2人のウクライナ兵と1人の民間人が砲撃により殺害されたと報告された[219]。
同日、ルガンスク人民共和国のルガンスク火力発電所は未知の勢力から砲撃を受けた[220]。ウクライナのニュースは「火力発電所の閉鎖を余儀なくされた」と報じた[221]。
2月22日、バイデンは、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する経済制裁を発表した[222]。NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグとカナダ首相のジャスティン・トルドーは「さらなる侵略」が起こったと述べた。ウクライナ外相のドミトロ・クレーバは、「侵略に大きいも小さいも無い。侵略は侵略だ」と強く批判した。一方、EU外交・安保政策代表のジョセップ・ボレルは「本格的な侵略ではない」と述べ、「ロシア軍がウクライナの地に到着しただけだ」と述べた[223]。
同日、ロシア連邦院は全会一致でプーチンにロシア国外での軍事力の行使を許可した。ウクライナ側では、ゼレンスキーが予備軍の徴兵を命じたが、動員は停滞していると報道された[224]。
2月23日、ウクライナは、ドンバスの占領地を除く全国で非常事態を宣言すると発表した[225]。同日、駐宇ロシア大使は大使館から避難し、掲げられたロシア国旗を降ろした[226]。また2月23日中に、ウクライナ政府と議会のウェブサイトは、銀行のウェブサイトとともに、DDoS攻撃に見舞われた[227]。
2022年2月24日午前5時頃(ウクライナ時間)、プーチンはウクライナ東部で「特別軍事作戦」を開始すると発表[注 13][229][230]。プーチンは国民向けのテレビ演説の中で、特別軍事作戦の目的を「ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するため」と述べた[65]。また、ウクライナの領土を占領する計画はないとし、ウクライナ国民の民族自決の権利を支持すると述べた[66][231]。
この発表から数分以内に、キーウのほかハルキウ、オデッサといった主要都市やドンバス地方で爆発が報告された[232]。これらの爆発の結果、ウクライナ東部の空域で民間航空の飛行は制限され、地域はEU航空安全機関によって全体が活発な紛争地帯と見なされた[233]。
これに対し、ロシア国防省報道官のイゴール・コナシェンコフは10日の記者会見で、「ロシア国防省は昨日(9日)、市内の民間人を安全に避難させるための『静寂体制』を宣言した。マリウポリ近郊でロシア航空隊は地上目標には一切攻撃を加えていない」「キエフの民族主義政権の代表の発言と病院の写真を分析すると、『空爆』と言われるものは全て、西側の聴衆に反ロシアの扇動を維持するために演出された挑発であることは疑いようもない」「マリウポリ第3病院付近で演出された爆発は、欧米の一般大衆を欺くためのもので、専門家であればこんなものには騙されない」と述べた[256]。また、ラブロフも10日の会見で「病院はすでに過激派に占拠され、その拠点になっていた」などと主張した。加えて、駐英ロシア大使館は10日、「産科は長らく閉鎖されており、ウクライナ軍や、ネオナチなどの過激派に使われていた」「女性は、妊婦を演じた役者だ」「写真も、著名なプロパガンダ写真家に撮影された」などと根拠を示さずに投稿。妊婦の写真に「フェイク」のスタンプを押した画像も併せて投稿した。Twitterは同日中にこれらの投稿を削除。英国放送協会(BBC)によると同社は削除理由を「暴力事件の否定に当たる」と説明したという。ウクライナ国連大使のセルギー・キスリツァも11日の安全保障理事会で、ロシア側の主張を退けた。妊婦と赤ちゃんの写真をタブレットで議場に見せた上で、「女性は昨夜元気な女の子を出産した。名前はベロニカです」と述べ、実在する妊婦だったことを示した[257]。
UNHCRによると、ウクライナ国外に逃れたウクライナ難民の人数は2022年5月13日時点で、約610万人に達した[148]。IOM(国際移住機関)が集計したウクライナを逃れた外国人数は2022年4月16日時点で約21万5,000人に達した[290]。
一方で戦況を避けるために居住地以外の国内の場に避難した人は2022年3月17日の時点で648万人に達した[291]。
2022年3月20日には国内外の避難民を合わせると1,000万人となり、ウクライナの人口約4,200万人の約4分の1の人が、居住地を追われたことになる[291]。
国外の避難先は2022年4月14日時点で、ポーランドで2,720,622人、ルーマニアで726,857人、ロシアで484,725人、ハンガリーで447,053人、モルドバで41,949人、スロバキアで329,597人、ベラルーシで22,827人などとなっている[292]。
4月1日にはUNHCRの支援のもと、EU諸国とモルドバ政府が協力しモルドバに避難してきたウクライナ難民の希望者が欧州各国へ移動できる無料航空便の提供を始めた。第一便はドイツ行きで、次にオーストリア行きが続いた[293][注 15]。
ウクライナ副首相のイリナ・ベレシュチュクは2022年6月20日、ロシアがウクライナ住民約120万人を強制連行し、このうち約24万人が子供(約2000人の孤児を含む)という情報機関の集計を明らかにした[295]。
ロシア国防省は2022年5月18日時点で、ウクライナから子供の30万人を含む計193万人超がロシアに退避したと発表している[296]。ロシア側は強制性を一貫して全面否定している[295]。
イギリスのニュースサイト「iNews」によると、連行先はヨーロッパロシアだけでなく極東ロシアまで全土に点在するという[296]。
米国のCNNは、激戦地から退避したウクライナ住民は、親露派支配地域の「選別収容所」に平均3週間滞在させられて、「激戦地で死ぬ」か「ロシアへ行くか」を迫られ、ロシア国内への移動を選ぶと、運が良ければ住宅の供給や現金の支給がある一方で、着の身着のままで放置される事例もあると報じた[296]。
イギリスのBBCは、「選別収容所」ではウクライナ側のスパイと疑われると拷問を受けることもあると報じた[296]。
国際刑事裁判所は、住民の強制移住を人道に対する罪と位置付けているため、「強制連行」が立証されれば、ロシアは戦争犯罪として訴追される可能性がある[296]。
ウクライナ検察はジェノサイド条約で禁止されている子供の強制連行に絞って実態解明を進める方針を明らかにした[296]。
2023年3月17日、ロシア軍がウクライナの子供の違法連行を行ったとされたためプーチンに対して国際刑事裁判所から逮捕状が出された[297][298][299]。
地方自治体の首長などの公選役職者がロシア側に強制的に連行される拉致が多発し、その後殺害される事例も起こった[300][301]。拉致や殺害の際は首長だけでなく家族も犠牲になる事例も見受けられた[301]。メリトポリ市長のイヴァン・フェドロフは2022年3月11日に拉致されたが5日後無事解放されたため、拉致の様子をメディアに証言し、勤務先から突然黒い袋を頭に被せられ、刑務所の独房に連れていかれたと答えた[302][303]。また尋問の際ロシア兵はウクライナの内情を全く理解しておらず、同市のネオナチの存在や、ロシア語話者を防御しているなどと言及したという。同氏は30年間一人もネオナチに出会ったことがなく、住民の95%がロシア語を解する土地柄なのでロシア語話者が妨げられるような環境でない事を説明したという[300]。市長のフェドロフは市庁舎外部に設置されていた防犯ビデオに拉致の様子が捉えられていた、証拠があったことから解放されたと思っていることを述べ、2022年3月31日の時点で29人の公選役職者が未だロシア側に拘束されているとした[300]。
侵攻以後のTwitterなどのSNSでの投稿の内、アメリカの戦闘機F-16をロシアの戦闘機とする動画や、2020年の軍事パレードの練習風景の映像、2016年制作のロシアのパラシュート部隊の映像、2011年のリビア国軍の戦闘機がベンガジで反政府組織に撃墜された際の映像、発電所への落雷を空爆の映像と称したこと、中国語話者が2020年ベイルート港爆発事故の映像を「プーチン大王がウクライナを攻撃」と説明したことについてBBCは、全てフェイクニュースやデマであるとした[304]。
日本でも一部メディアが海外記事元の真偽不明な記事を取り上げた事例も発生している。『中日スポーツ』は2022年2月25日付で、イギリスのタブロイド紙『デイリー・メール』が情報元とした「チェルノブイリ原発、再び放射能汚染の危機か ロシア軍が反応炉と核廃棄物の貯蔵施設を破壊、放射能レベル上昇の報道も」との記事[305]を、また、3月11日にロシアの政府系メディアであるスプートニクを情報元とした「米国がウクライナで「日本の731部隊似」の研究 露通信社報じる」との記事[306]をそれぞれ自社サイトやYahoo!ニュースなどに配信した。これに対してジャーナリストの藤代裕之は、「取材による新たな情報がないまま掲載した『こたつ記事』だ」としてメディア・リテラシーの面で批判している。Yahoo!ニュース及び『中日スポーツ』はスプートニク発の記事を削除した[307]。
AFPによると、東欧のソーシャルメディアでは「ウクライナ難民は働かずに高額な給付金を受け取っている」など、ウクライナ人への反感を煽る出所不明の情報が蔓延しており、真に受けて敵意を向ける人々も現れている[308]。東欧では急激なインフレにより経済的な不安が高まっており、それらの偽情報の根底にあるのは「難民は困窮する地元住民から資源を奪っている」というものであるとしている[308]。ドイツ社会民主党員で政治学者のゲジネ・シュワンは、これらはロシアのプロパガンダの特徴であると指摘[308]。「ロシアは何かが起きた時、誤解させて反感をたきつけるのが非常にうまい」「プーチンは、自分が行っている戦争が怒りを買っていると分かっている。そのため、ウクライナ人を非道徳的と表現することで、侵攻を正当化しようとしている」と説明した[308]。
ロシア語のサイトやSNSには「東京に新たな広告が登場した」としてウクライナを揶揄するフェイク広告が拡散している[309]。広告には「話題を変えよう!美味しい寿司について話そう!」というキャッチコピーと共に、寿司職人がウクライナの民族衣装を着た女性の口を塞ぐイラストとウクライナ国旗、実在する寿司店のロゴが描かれている[309]。テレビ朝日は広告が掲載された現地とみられる場所を確認したがそのような広告は確認できず、複数の通行人も「見たことがない」と証言している[309]。また、ロゴが使われた寿司店も「当社と致しましては、特定の国や人種に対する差別的思想や民族的敵意について、一切持ち合わせておりません。画像等については、当社と一切の関係がありません」と否定している[309]。
ロヒンギャ問題やQアノン問題などを追うルポライターの清義明、アメリカのユダヤ系のニュースメディアである「フォーワード」、ワシントン・ポスト等は、ロシアによる侵攻を問題視しつつ、ウクライナのおける極右民族主義(ウルトラナショナリズム)、ネオナチの政治組織・軍事組織とウクライナ政府による長年の汚職問題がホワイトウォッシュされているとして、ウクライナ政府側のプロパガンダにも警鐘を鳴らしている[310][311][312][313][314]。
2022年3月1日キーウテレビ塔をロシア軍が砲撃し、5人が犠牲となった。そのうちの一人がウクライナのテレビ局LIVEの撮影技師エウヘン・サクンである。[315][316]。サクンはロシアによるウクライナへの侵攻のニュースを担当しており、遺体は携帯していた記者証によって確認された[315][317]。
3月13日、ウクライナ内務省によると、「ピーボディ賞」受賞歴があるアメリカのジャーナリストでドキュメンタリー映画監督のブレント・ルノーが、爆撃が激化していたキーウ郊外のイルピンで避難する難民を取材中に射殺された[318]。過去にはアメリカ紙『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿していたことから、同紙の記者ではないかと情報が錯綜したが、同紙は取材を依頼しておらず、死亡時に携帯していた取材証はやはり過去に寄稿していたイギリス紙『タイムズ』のものだったが、同紙も今回は取材を依頼していなかった[318]。その後、アメリカ雑誌『タイム』が同社の映像作成部門であるタイム・スタジオズの企画で取材を行っていたことを表明した[319]。同行していた赤十字国際委員会の「人道ビザドール賞」受賞歴があるフォトジャーナリストのホアン・アレドンド[320]も銃撃を受けたが生き延び、検問所を通過したところで車中で銃撃にあった事を証言した[318]。
3月15日、FOXニュースは、ウクライナで取材中だった同社のカメラマン、ピエール・ザクシェフスキとウクライナ人女性記者のオレクサンドラ・クブシノワが死亡したと伝えた[321][322]。14日にキーウ郊外のホレンカで車に乗っていたところ銃撃を受けたという。一緒にいた同社のジャーナリスト、ベンジャミン・ホールは片脚の半分、もう一方の脚の足首から下、そして片目を失う重傷を負った[323]。アメリカの非営利組織「ジャーナリスト保護委員会」によれば、ウクライナ人のビクトル・ドゥダルとも取材中に死亡したという[316][324]。
3月23日、ロシアの調査報道サイト「インサイダー」は、同サイトのオクサナ・バウリナが、キーウ近郊の地区を取材中にロケット弾の攻撃を受け、死亡したと伝えた[325]。バウリナは以前、アレクセイ・ナワリヌイが運営する「反汚職闘争基金」で働いていたことがあり、ロシアを離れていた[326][327]。
4月3日、ウクライナ国防省は、マリウポリでロシア軍の包囲下を記録していたリトアニアの映画監督マンタス・クベダラビチュスが、ロシア軍の攻撃で死亡したと発表した[328]。
4月16日、ウクライナ最高会議はウクライナで死亡したジャーナリストら21人のリストを公表した[329]。
4月28日、キーウ訪問中の国連事務総長であるアントニオ・グテーレスがゼレンスキーと面会した直後に起こったロシア軍によるキーウへの複数発のミサイル攻撃で、そのうち一発が集合民間住宅の低層階を直撃し、そこに在住していたラジオ・リバティー所属ジャーナリストのヴィラ・ヒリチュが翌日瓦礫の中から遺体で発見された[330][331][332]。ロシア国防省は、長距離高精度ミサイルでロケットと宇宙開発関連の製造工場を攻撃したと主張しており、民間施設は攻撃していないとしている[330][331]。
5月30日、セベロドネツク近郊でフランスのニュース専門局BFM TVの記者フレデリック・ルクレールイモフが死亡した[333][334][335]。 ルガンスク州知事のセルヒ・ハイダイは「それが空から投下された爆弾なのか、大きな砲弾なのかはわからないが、破片が防弾ガラスを貫通してフランス人記者が死亡した。彼はヘルメットと防弾チョッキを着用していたが、破片は首にあたった」と述べた[333]。
2022年2月28日、キーウ北方約80kmにあるイヴァンキフ博物館では民族画家マリア・プリマチェンコの絵画約25点が侵攻に伴う攻撃によって焼失したとウクライナ外務省が発表した[303]。
3月3日、ユネスコはウクライナ政府との協力の下、武力紛争の際の文化財の保護に関する条約に基づき文化財の破壊と流失を防ぐべく国内の文化遺産への特殊標章(ブルーシールド)の付与作業を調整していることを発表した[248]。
3月8日にはユネスコは文化遺産の破壊を人工衛星によって監視していることを発表した[336]。3月3日に発表していた文化遺産へのブルーシールドの付与作業を世界遺産に登録されているリヴィウ歴史地区から始めるとした[336]。
3月25日、個人運営のレトロコンピュータ博物館「Club 8-Bit」は、多少の書類と現金だけの所持品を持ってマリウポリを脱出した運営者が、爆撃にさらされた地区に所在していた博物館は恐らく戦火を逃れることは出来なかっただろうと報告した[337]。同館には「Apple IIc」「Atari 400」「コモドール64」など、120台以上のレトロコンピュータが所蔵されており、所蔵品は一切持ち出すことは出来なかった[337][338]。
4月2日、ユネスコは2022年3月30日の時点で信仰施設29件、歴史的建造物16件、博物館4件、モニュメント4件の合計53件の文化遺産が侵攻開始以後に破壊されたことを確認したと発表した[339]。またユネスコは、ロシアもウクライナも、武力紛争の際の文化財の保護に関する条約に署名しており、ブルーシールドを付与された文化遺産の武力紛争下での破壊への関与が判明すれば、破壊した者は戦争犯罪を含む責任について追及されるとも述べた[339]。
5月から生神女就寝スヴャトヒルシク大修道院に対して砲撃が続いており、6月4日には木造の僧庵が焼失した。ゼレンスキーはメッセンジャーアプリ「Telegram」上で、ロシアは歴史的遺産を破壊する「テロ国家」であるとして、ユネスコからの追放を求めた[340][341]。
2022年2月24日、ゼレンスキーはウクライナ全土に「戒厳令」と「総動員令」を発令。18歳 - 60歳のウクライナ人男性は、原則出国禁止となり徴兵されることになった[75]。この総動員令と戒厳令を90日間延長する大統領令は同年5月22日、ウクライナ議会により承認された[375]。
総動員令発動後、一般人に軍への招集令状が届いているが、国外脱出を図る男性の拘束も相次いでおり、徴兵を巡ってウクライナ国内で分断も起きている[376]。家族と一緒に生き抜くことを選択した男性は、合法・違法問わずあらゆる手段を使って国境を越えている[377]。ただし、国外へ出る人の経由地となっているリヴィウなどの西部では、キーウや東部からの避難者を「非国民」だと敵視する住民も一部におり、避難者の居場所を徴兵事務所に通報するケースもあるという。また、国境警備隊が、女装したり、荷物に身を潜めたりして国境を越えようとして拘束された男性の事例を、見せしめのようにホームページに掲載したというケースもあった[376]。
3月17日、ウクライナ国境警備当局が、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、32万人以上のウクライナ国民が戦闘を支援するためウクライナに帰国したと発表した[378]。また、すでに3万人を超える女性も戦争に参加しているとされる[379]。
当局の許可があれば出国が可能であり、ラップグループのKalushはユーロビジョン・ソング・コンテストへの出場[380]、映画監督のマクシム・ナコネチュニーはカンヌ映画祭への出演など、著名人らが許可を受け諸外国にウクライナの現状を伝える役割を担っている[381]。
5月には、ウクライナからの男性の出国を認めることを求める請願書がインターネット上で2万5千人の署名を集めたが、ゼレンスキーは「故郷を守ろうとしていない」と、不快感とともに反対の姿勢を示した[382]。
ウクライナにおいても、徴兵逃れが横行していることが報じられている[383]。兵役免除の証明書入手をあっせんする「脱徴兵ビジネス」が確立されている。取材を受けた医大生は、知り合いかその知人のみを対象に、仲介の依頼があれば、仲間の医師がいる徴兵事務所などで検査を受けてもらい、心臓病などを装った診断書を軍に提出。その後、1週間ほどで兵役免除の証明書、通称「ホワイトチケット」を入手できる。費用は5千~1万ドル(68万~136万円)程度で、1人当たりの国民総所得が3540ドルのウクライナでは中間層には手が届きにくい金額となっている。また、11月には成人男性の欧州への違法出国に関わったとして、隣国モルドバの親ロシア派支配地域「沿ドニエストル共和国」の仲介グループの摘発を発表した。費用は1人5500ドルから。ウクライナの国境警備隊の当局者も関与していた。
戦場では、中国製、特にDJIの民間のドローンが多く投入された。ウクライナ軍はドローン監視センターを作り、ロシア軍の動きを偵察した。ウクライナ政府は軍だけではなく、ドローンを持っている一般人にも偵察任務に加わるよう呼びかけ、多くの市民が参加した[384]。ドローンに搭載された熱探知カメラが夜間のロシア兵や戦車を監視した。ウクライナ政府によれば、市民の持つドローンの大半は世界の民生用市場の約70%を占める中国のDJI製であるとし、国外からも支援の一環として大量の同社製品が送られたという。しかし、ウクライナ政府は、DJIのドローンを同時にロシア軍も使用しているとし、副首相がTwitterで「DJIはロシア軍による殺人のパートナーになりたいのか」と書き込んだほか、DJIに対し書簡を送りロシアへの協力をやめるよう要請した[385]。ブルームバーグはロシア政府が中国政府に対し武装ドローンの提供を求めたと報じた[386][387]。その後、DJIは4月26日にロシアとウクライナでの製品の販売とアフターサービスを一時中止した[388]。
ウクライナ当局によると、10月10日のロシア軍によるウクライナ各地へのミサイル攻撃や、10月13日のインフラ施設の攻撃などでイラン製の「カミカゼ・ドローン」が使用されたという[389][390][391]。ゼレンスキーは「10月10日のミサイル攻撃のドローンの一部がイラン製の「シャヘド」と特定した」と発表した[389][390]。イラン製ドローンは航続距離2000キロの徘徊型兵器で、標的を定めて突進し爆発することから「カミカゼ」と呼ばれるという[389][390]。ロシア軍はシャヘド129、シャヘド136、シャヘド191、モハジェル6をウクライナで使用しているという[389][390]。「カミカゼ・ドローン」による攻撃についてイギリス国防省は「複数の機体を同時に攻撃させることで一定の成果を上げている可能性がある」として警戒感を示した[391]。
ロシアは、占領地で以下のようなロシア化政策を進めている[392]。
こうした手法は、ジョージアにおけるアブハジアや南オセチアの分離工作でも使われた[392]。2014年から親露派勢力が実効支配するドンバス地方の一部では2019年、住民へのロシア国籍付与手続きを簡素化して2022年春までに約80万人にロシア国籍を与えており、プーチンは2022年5月25日にウクライナ南部のザポリージャ州とヘルソン州で同様な措置を取る大統領令に署名した[393]。
開戦当初の「ウクライナを占領するつもりはない」という説明と矛盾しているのではないかという報道機関からの質問に対して、ペスコフは2022年5月19日に「生活機能を保障する必要がある」と回答している[392]。
ロシアの占領軍や親露派に対する抵抗活動も発生している。パルチザンはポスター掲示などのプロパガンダの他、ロシア軍の施設にスマートフォンを設置してミサイルの誘導を行うなどウクライナ軍と連携した破壊活動も行っている[394]。オルロフは2022年5月22日にSNSで、ロシア軍が任命した「市長」であるシェフチクの自宅がパルチザンに爆破されたと発表した[375]。
親露派はソーシャルメディアにロシアを支持するメッセージを投稿しており、中にはロシア人から金を受け取っている者や、砲兵陣地などの軍事情報をロシアに流す者もいる。ウクライナ保安庁はこうした市民を探し出し、拘留している[395]。
2022年9月30日、プーチンは「ロシア編入」の是非を問うため占領地で「住民投票」を実施し、ウクライナ東部4州の併合を宣言した[396][397]。4州でロシア側が任命した幹部が「編入」の文書に調印した[397]。ロシアは「『住民投票』により4州の住民がロシアへの編入に賛成した」と主張した[397]。これに対し、ウクライナや国連、西側諸国は見せかけに過ぎないとして非難した[397]。ゼレンスキーは「『偽の住民投票』に価値はなく、現実を変えるものではない」と述べた[397]。ストルテンベルグは「違法に土地を奪う行為だ。NATOの加盟国は今も、そしてこれからも、これらの地域をロシアの一部だとは認めない」と述べた[396]。バイデンは「ロシアは国際法に違反し、国連憲章を踏みにじった。この併合にはまったく正当性がない。アメリカは国際的に認められたウクライナの国境を常に尊重していく」と述べた[396]。
北朝鮮は旧ソ連時代からのロシアの同盟国で、軍事同盟であるソ朝友好協力相互援助条約を締結していた[398]。しかし冷戦終結後の新条約では軍事同盟的な性格は弱められた。だが、2024年6月19日に行われたプーチンと金正恩の首脳会談で包括的戦略パートナーシップ条約が新たに締結された。その中では一方が戦争状態となればもう一方が軍事支援を行うとされており、これは事実上冷戦時代のロシアと北朝鮮の軍事同盟が復活した事となった[399]。
2024年10月18日、ウクライナの情報機関はロシアの訓練場で北朝鮮の軍人がロシアの軍人から軍需補給品を受け取る様子を発表した。これにより北朝鮮が軍を派遣し、ウクライナ侵攻に参戦した疑惑が浮上した[400]。また以前からウクライナには北朝鮮のミサイル技術者が派遣され、ミサイル技術をロシア兵に提供・指導したり、時には自らが攻撃に加わる事もあった。なお従来からロシアへの労働力支援も行われてきたという[401]。今回派兵された北朝鮮軍部隊であるが、これは工兵部隊であるという[402]。そして韓国の情報機関国家情報院によれば1500人余りの北朝鮮軍特殊部隊がウクライナに派兵されたという。とは言えあくまでも韓国政府は「確認できない」と発表しており疑惑の段階である。しかし実際に派兵・参戦が確認された場合は北朝鮮にとって初めての大規模な他国の戦争への参戦であり、ロシアのウクライナ侵攻においては初の第三国の参戦となる[403]。2024年11月6日(2024年11月7日更新)のロイターの報道によれば、11月4日にクルスク州で「北朝鮮兵が初めて戦闘に参加した」とアメリカの当局者が明かしたという[404]。
侵攻開始後の2月25日から27日にかけて実施されたロシアの世論基金「FOM」による調査では、プーチン政権の支持率は71%にのぼった[405]。侵攻前の2月20日には64%であり、前年の2021年の7月から8月にかけては57%ほどだった[405]。また、ドネツク・ルガンスク両人民共和国の国家承認については支持が69%であった[405]。
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が4月21日から27日にかけて行った調査では、「軍事作戦を支持する」と答えた人は74%で、前月と比べて7ポイント減少し「支持しない」と答えた人は5ポイント増え19%となった。「軍事作戦は成功しているか」という質問に対しては、「どちらかといえば失敗」が12%、「完全に失敗」は5%となり、合計で17%の人が「失敗」と答えた。「失敗」と答えた理由で最も多いのは「長引いて終わりが見えない」の48%で、その次が「子どもなどの市民、ロシアの軍人が死亡し、多くが失われている」の31%となっており、戦闘の長期化が世論に影響を与え始めていることを示している[406]。
ロイターやBBC、ニューズウィークなどはロシア軍がウクライナの一般市民に対して壮絶な拷問や殺害を大々的に行なっていると報道している[481][482][483]。
ロシア軍が一時占拠したキーウ近郊のブチャでは多くの民間人とみられる遺体が見つかり、ボロディアンカなど他の地域でも同様の被害がでていることが明るみに出た。タス通信によると、ブチャでの民間人殺害について、プーチンは2022年4月6日、ハンガリー首相のビクトル・オルバンとの電話会談でこれを否定し「ウクライナ政府による粗野で冷淡な挑発行為」と述べ、ロシア軍の関与を否定した。マリウポリ市議会は4月6日、ロシア軍が戦争犯罪を隠蔽するため「移動式火葬場」を稼働させ、殺害した遺体を焼却しているとSNSで明らかにした[484][485]。
ベネディクトワは、「ボロディアンカでは『最悪の人的被害』が起きた」と述べた。ブチャでのヒューマン・ライツ・ウォッチの調査ではロシア軍による公開処刑が行われたとしている。それによると、「広場に40人ほどの住民が集められ、ロシア兵は5人の男性を跪かせ、うち1人を後頭部から銃撃した。その際、司令官は「これは穢れだ。我々は穢れを清めに来た」と発言した」という。さらに、残る4人もその後殺害されたとしている。ウクライナ国防省は、虐殺など戦争犯罪に加担したとする1,600人以上のロシア兵の個人情報を公開した[486]。
ロシア軍の侵攻により国外に逃れたウクライナ難民410万人の大半は女性や子どもが占め、混乱に乗じた人身売買や、ロシア兵による性的搾取、性的暴行などの被害に遭うケースが度々報告され、国連などにより警戒が呼びかけられた[490]。性的被害者には20歳未満の未成年者も含まれる。またウクライナ保安庁は、ロシア兵が「3人で16歳の女の子をレイプした」など、レイプについて家族に語る複数個の電話音声を傍受し、公開している[491]。
直行 | 経由(テクニカルランディングも含む) | |
---|---|---|
北回り経路 | 日本航空(旅客便→4/19以降往路のみ) フィンエアー(主にヘルシンキ行き) 全日本空輸(4/18以降ブリュッセル線から順次移行見込み) | 日本貨物航空(アンカレッジ経由) 日本航空(ベリーカーゴ臨時便:3/27のみシアトル経由、4/7復路南回り直行検証飛行実施後南回りへ移行) |
南回り経路 | ルフトハンザドイツ航空 スイス インターナショナル エアラインズ エールフランス 全日本空輸(ブリュッセル→4/18以降往路のみ北回り、日本行きフランクフルト線) フィンエアー(一部ヘルシンキ発) 日本航空(4/19以降復路のみ) | 全日本空輸(日本発フランクフルト線:ウィーン経由→順次北回り直行へ移行見込み) KLMオランダ航空(仁川経由) カーゴルックス航空(バクー経由) |
日本航空(JAL)は2022年2月24日以降、羽田空港/モスクワ線を欠航させている[523]。渡航先の治安状況を理由に欠航するのは異例のことである[524]。また、全日本空輸も3月2日のバイオ燃料をはじめとする持続可能な燃料である国産SAFの商用化と普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」の設立会見後、ANA、JAL両社長の会見で「安全が担保できるという情報が取れる状況においては運航」とし「ロシア上空を避けるルートも検討中」としてJAL社長も同意していたが[525]、同日夜にANAは3日の欧州便全便旅客便2便、貨物便6便の計8便をウクライナ情勢に鑑み欠航とし、今後ロシア上空を避けて中国・中央アジア・黒海を経由する南回り航路を検討するとしている[526]。JALはモスクワ線以外の運航を決定したものの、欧州側の制裁抵触の恐れがあるため3月26日までコードシェア運航を単独運航へ変更[527]するとしていた。しかし、3日になりJALも欧州便全便旅客便5便、貨物便3便の同じく計8便をウクライナ情勢により今後発生しうるさまざまなリスクを考慮し、当日に欠航を決定した[528]。
JALも3月4日は羽田=ロンドン線をアメリカのアラスカ州・カナダ北極圏・グリーンランド・アイスランド経由の北回り経路について、上空での偏西風などによる追い風、目的地ロンドンの地理的位置、上空通過経路の地域支配政権のロシアとの関係(国連決議案で棄権したカザフスタン、中国上空の通過が必要)による安全性も総合的に考慮し迂回したことで約3時間遅延運航した[529]。27日以降ヘルシンキ線も同じ経路で運航再開、隔週運航でパリ線ベリーカーゴ臨時便をシアトル経由(往復ともにテクニカルランディング)で運航するとし[530]、27日のみ往復シアトル経由で運航したが、4月7日パリ発日本行きベリーカーゴ臨時便で南回り直行便検証飛行を実施し体制が整ったとして4月19日以降欧州発日本行き復路全便南回り直行便へ切り換えた[531]。
その後ANAは20年夏ダイヤで就航予定していたイスタンブール線の航路で中央アジアを横断しトルコに至るルートに変更した。トルコから先もオーストリア/ウィーン線乗り入れにより比較的容易に変更可能だったこともあり、4日は成田=ブリュッセル線の往路旅客便をロシア上空を避けて中央アジアを飛行する南回りで3時間遅延運航し、復路はワクチン輸送も兼ねた貨物便として運航され、暫く欧州線は同経路を選択していたが、貨物需要が多く迂回することで搭載燃料が増え、旅客貨物など有償運送重量制限が出ることがあるため、16日以降は途中オーストリア/ウィーンでの給油体制が整ったこともあり、便によって往路のみ経由するテクニカルランディング(給油のみ)にするよう運用を変更したことで合計18時間以上かかっていた[532]。その後、4月18日からはブリュッセル線を皮切りに往路北回り直行便へ移行し、順次ほかの欧州線も移行した[533]。
日本貨物航空も3日以降暫く欧州線をロシア領空を通過しない航空ルートの選定・調整を進める間は運休していた[534]が、13日から成田/アンカレッジ/アムステルダム/ミラン/アンカレッジ/成田のルートで往復、アラスカ州アンカレッジ経由のテクニカルランディングで運航されている[535]。また、スプリング・ジャパンの成田/ハルビン線も3月以前は日本海縦断した後ロシア/ウラジオストック経路で中国/ハルビンへ向かっていたが、3月以降は欠航している[536]。
2月27日までにフランス・イギリス・ドイツ・イタリア・オランダなどの欧州各国がロシア航空機の自国領空の通過を禁止することを発表し、ロシアも報復としてこれらの国の航空会社のロシア領空の通過を禁止した[537]。このためロシア領空を通過する日本便も含めた国際便の一部引き返しや欠航をした[538][539]。その中、ルフトハンザドイツ航空・スイス インターナショナル エアラインズ・エールフランスなど一部エアラインはロシア上空を避け黒海・中央アジア・中国を経由し運航するルートで通常便より1時間から2時間の遅延で777-300ERやA350など超長距離運航可能機材を使用して運航している[540][541]。3月9日から運航再開したフィンエアーは当初北回り航路でヘルシンキから北上しスヴァールバル諸島・北極海・アラスカからロシア領空を避け太平洋上を日本へ向かう経路で運航するとしていたが、11日からヘルシンキ発往路は欧州を南下して黒海、中央アジア経路の南回り航路も選択出来るようになったことによって、便によっては往復で違う航路を選択することもできるようになった[542]。また、3月14日から再開したKLMオランダ航空はアライアンススカイチームの日本側提携先もなく羽田乗り入れも出来ておらず、アライアンス提携先がある韓国が迂回経路の中央アジア上に位置することもあり、日本/アムステルダム間往復ともに仁川経由で運航され、エアライン毎に対応も異なる状況となっている[543]。
3月5日、アエロフロート・ロシア航空はヨーロッパ各国の企業からリースしていた515機の航空機を、経済制裁によりリース料支払いが困難になったことで契約が終了した為返却をする必要が出たが拒否した[544]。
また数年経過後、迂回経路選択により飛行距離が増加したことで燃料コストが上がり経営に影響を及ぼすようになり、航空会社によっては各国運航規定で迂回経路を運航すると人員、機材配置が厳しくなるため、路線、機材自体リストラするところが出てきていて、また、中国路線に関しては欧州側はロシア領空迂回が必要になるが中国側は実質的な親露国として侵攻前と同じロシア経路を飛行可能なため不平等な状況となっているため、欧州側エアラインは不満を表明していて会社によっては中国市場からの一時撤退や減便を検討するところも出てきている[545]。
タイのプーケット、コ・サムイ、パタヤ、クラビなどのリゾート地を訪れていたロシア人観光客は、経済制裁のためロシアへの国際航空便の多くが運航停止となったため帰国の目途が立たなくなった上、ロシアの銀行が国際決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたため、ロシアで発行されたVisaやマスターカードでの宿泊施設や新規航空券への支払いが不可能になり、更にはルーブルの急落も相まって2022年3月8日時点で約7,000人のロシア人が立ち往生を迫られた[553]。
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