『ハムレット 』(Hamlet )は、シェイクスピア 作の悲劇 。
『ハムレット』の原書
(第2四折版)
『ハムレット』の原書 (第1二折版〈ファースト・フォリオ 〉)
舞台とされたデンマークのクロンボー城 内に掲げられている「ハムレット」の石版(2005.08)
全5幕から成り、1601年頃に書かれたと推測される[1] 。「デンマーク の王子ハムレット が、父王を毒殺して王位に就き母を妃とした叔父に復讐する物語」である[2] 。
正式題名は「デンマークの王子ハムレットの悲劇」(The Tragicall Historie of Hamlet, Prince of Denmarke あるいは The Tragedie of Hamlet, Prince of Denmarke )である。
本作に続いて作られた『オセロ 』『マクベス 』『リア王 』と共に、「シェイクスピアの四大悲劇」 の一つとされ、「1人の知識人の精神史を描いたものとして世界の演劇史上に特筆すべき作品」と評される[1] 。
およそ4000行で、シェイクスピアの戯曲 の中で最長である[3] 。
主人公のハムレットについては、イギリスのロマン主義 を代表する詩人・批評家でシェークスピアをリスペクトした[3] コールリッジ [4] による「悩める知識人」像が最も主流だが[3] 、「近年においては自己克服をした行動人ハムレットという解釈も有効である。」[5]
『ハムレット』の話はハムレット伝説といわれる[6] 北欧の伝説が元になっており、デンマークの歴史家サクソ・グラマティクス が12世紀 に書いた『デンマーク人の事績 』(Gesta Danorum )にハムレット王子の原話が出ていて[1] 、モデルになったアムレート (Amleth )の武勇が伝えられている。
シェークスピアに直接影響を与えたのは、イギリスの劇作家トマス・キッド (英語版 ) が書いた『スペインの悲劇 (英語版 ) 』という1587年ごろ初演された戯曲とされている[7] [8] 。
また、研究者が「原ハムレット 」と呼ぶ現存しない戯曲があって、1580年代末にロンドンで初演されて人気があった作者不明の作品がおそらくシェークスピアの『ハムレット』の直接の下敷きであろうとされている[1] [9] 。「原ハムレット」の作者をトマス・キッドと推定する説がある[1] [8] [9] 。
ハムレット(Hamlet):デンマーク王国の後継者。
ガートルード(Gertrude):ハムレットの母親。クローディアスと再婚している。
クローディアス(Claudius):ハムレットの叔父。ハムレットの父の急死後にデンマーク王位についている。
先王ハムレットの亡霊(King Hamlet, the Ghost):先代のデンマーク王。ハムレットの父。クローディアスの兄。
ポローニアス(Polonius):デンマーク王国の侍従長。王の右腕。
レアティーズ(Laertes):ポローニアスの息子。オフィーリアの兄。
オフィーリア (Ophelia):ハムレットの恋人。ポローニアスの娘。
ホレイショー(Horatio):ハムレットの親友。
ローゼンクランツとギルデンスターン (Rosencrantz and Guildenstern):ハムレットの学友。
フォーティンブラス(Fortinbras):ノルウェー 王国の後継者。
オズリック(Osric):廷臣。ハムレットとレアティーズの剣術試合で審判を務めた。
王が急死する。王の弟クローディアス は王妃と結婚し、後継者としてデンマーク王の座に就く。
「父王の死」と「母の早い再婚」とで憂いに沈む王子ハムレット は、従臣から「亡き王の亡霊が夜な夜なエルシノア の城壁に現れる」という話を聞き、自らも確かめる。父の亡霊 に会ったハムレットは、実は父の死は「クローディアスによる毒殺」だったと告げられる。
復讐を誓ったハムレットは狂気を装う。王と王妃はその変貌ぶりに憂慮するが、宰相ポローニアス は、その原因を「娘オフィーリア への実らぬ恋」ゆえだと察する。父の命令で探りを入れるオフィーリアを、ハムレットは無下に扱う。
やがて、「王が父を暗殺した」という確かな証拠を掴んだハムレットだが、母である王妃と会話しているところを隠れて盗み聞きしていた宰相ポローニアスを、王と誤って刺殺してしまう[10] 。
さらに、宰相の娘オフィーリアは度重なる悲しみのあまり狂い、やがて溺死する。宰相ポローニアスの息子レアティーズ は、父と妹の仇をとろうと怒りを募らす。
ハムレットの存在に危険を感じた王は、復讐心を持ったレアティーズと結託し、毒剣と毒入りの酒を用意して、ハムレットを剣術 試合に招き、秘かに殺そうとする。しかし試合のさなか、王妃が毒入りとは知らずに酒を飲んで死に、ハムレットとレアティーズ両者とも試合中に毒剣で傷を負ってしまう。
死にゆくレアティーズから真相を聞かされたハムレットは、王を殺して復讐を果たした後、事の顛末を語り伝えてくれるよう親友ホレイショー に言い残し、この世を去ってゆく。
オフィーリア ジョン・エヴァレット・ミレー 画(1852年 ・テート・ギャラリー 収蔵)
第一幕
第一場 - エルシノア城 。その前の防壁の上。
第二場 - 城内。国務の間。
第三場 - ポローニアスの館。その一室。
第四場 - 防壁の上。
第五場 - 防壁の上、別の場所。
第二幕
第一場 - ポローニアスの館。その一部屋
第二場 - 城内の一室。
第三幕
第一場 - 城内の一室。
第二場 - 城内の大広間。
第三場 - 城内の一室。
第四場 - ガートルード妃の部屋。
第四幕
第一場 - ガートルード妃の部屋。
第二場 - 城内の一室。
第三場 - 城内の、別の一室。
第四場 - ガートルード妃の部屋。
第五場 - 城内の一室。
第六場 - 城内の、別の一室。
第七場 - 城内の、別の一室。
第五幕
ハムレットには三つの異なる印刷原本が存在しており、二つの四折版(quatro)をQ1とQ2、もう一つの二折版 (folio)をF1と呼ぶ。
Q1(1603年、約2150行):短縮版を役者の記憶に基づき再現(マーセラス役の俳優を買収か?)した海賊版とされているが、現在では真正であり、Q2の原型ではないかと考えられている(安西徹雄 の訳により光文社 から2010年 に出版されている(ISBN 4334752012 ))。
Q2(1604年 - 1605年、約3700行):草稿版。真正かつ完全なる原稿であり、海賊版に対抗して(現在の説ではQ1の改訂版として)出版された。
F1(1623年、Q2の230行を削り、80行追加):演出台本版。劇団保管の演出台本にQ2を参考にして制作された。
Frailty, thy name is woman.
これは、ハムレットが夫の死後すぐに義理の弟であるクローディアスと再婚した母・ガートルードに対する批難の台詞である。日本語では、坪内逍遥 などが「弱き者よ、汝の名は女」 と訳したものがよく知られている。
しかし、この訳文では弱き者とは即ち保護すべき対象を指し、レディーファースト の意と誤解をしばしば招くことがあり、坪内も後に「弱き者」を「脆(もろ)き者」と再翻訳している。なお、この台詞は当時の男性中心社会の中で、女性の貞操観念のなさ、社会通念への不明(当時のキリスト教社会では、義理の血縁との結婚は近親相姦 となりタブー であった)などがどのように捉えられていたかを端的に表す言葉としても有名である。また、語呂の良さから、様々な場所で引用の対象とされる(例:松原正 作の戯曲『脆きもの、汝の名は日本』)。
To be, or not to be, that is the question.
これは劇中で最も有名な台詞である。明治期に『ハムレット』が日本に紹介されて以来、この台詞は様々に訳されてきた。『ハムレット』は、読者の視点によって多様に解釈できる戯曲であるが、この現象はその特徴を端的に現していると言える。
この「To be or not to be, that is the question. 」という台詞は、有名ではあるが、訳すのが非常に困難だとされている。初期の日本語訳の代表的なものには、坪内逍遥の「世にある、世にあらぬ、それが疑問じゃ」 (1926年)などがあり、また、これまでの訳では「生きるべきか死ぬべきか」 という訳が多いが、この劇全体からすれば「(復讐を)すべきかすべきでないか」という意味に解釈できる。
他に、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」 (2003年、河合祥一郎 『新訳 ハムレット』角川文庫)などがあり、たった一文に対して翻訳者ごとに異なった40以上もの翻訳文が提示されている。
Get thee to a nunnery!
これは、ハムレットがオフィーリアに向かって言った台詞であり、特に論議を呼ぶ場面を構成する。大きく分けて二つの解釈がある。
当時、尼寺では売春 が行われており、隠語 で淫売屋を表現する言葉だった。ハムレットはオフィーリアに単に「世を捨てろ」 と言っただけでなく、「売春婦 にでもなれ」 と罵ったのである。
文字通り、俗世間を離れ女子修道院 (尼僧院)に入ってほしいと願った。この場面では、ポローニアスがハムレットを背後で伺っているが、オフィーリアには穢れた政治に関わらず昔のままに清らかな存在でいて欲しいと願った。
尼寺を単純に「売春宿」と解釈するかしないか、については研究者の間でも議論があり、決着がついていない。ただし、「尼寺」を「売春宿」と解釈する研究者は少ないと言われている。
シェイクスピアの文句を題名にした作品一覧#ハムレット も参照されたい。
牧師 - 仲恭司
オズリック - 仲恭司
従者 - 小谷野啓
船乗り - 小山武宏
使者 - 青柳三十六
貴族 - 平田広明
コーニーリアス - 青柳三十六
ヴォールディマンド - 石波義人
レナルドー - 宮本充
従臣 - 水野龍司
イギリス使節 - 仲野裕
翻案による上演
土肥春曙(どいしゅんしょ)と山岸荷葉が翻案した『ハムレット』(1903年 、東京本郷座 )
1948年版
ローレンス・オリヴィエ が監督し、自らハムレットを演じている。共演はジーン・シモンズ / ベイジル・シドニー (英語版 ) / アイリーン・ハーリー (英語版 ) / ピーター・カッシング / クリストファー・リー 。音楽はウィリアム・ウォルトン 。白黒 で重厚な雰囲気を持つ不朽の名作と言われ、第21回アカデミー賞 にて作品賞 ・主演男優賞 を始めとした5部門を受賞。
1964年版
グレゴリー・コージンツェフ 監督によるソ連 映画。ヴェネツィア国際映画祭 で審査員特別賞を受賞し、イギリス版をしのぐと評判になった。日本では長い間観ることが難しかったが、現在はDVDが発売されている。音楽はドミートリイ・ショスタコーヴィチ による。
1969年版 ヒロイン にマリアンヌ・フェイスフル を起用
1990年版
フランコ・ゼフィレッリ 監督。ハムレットを演じたのはメル・ギブソン 。ヘレナ・ボナム=カーター 、グレン・クローズ 、イアン・ホルム 、ピート・ポスルスウェイト 共演。
1996年版
ケネス・ブラナー が監督し、自らハムレットを演じている。舞台は中世ではなく19世紀のデンマーク王国に置き換えられ、劇中では産業革命 の産物である蒸気機関車が出てくるシーンがあるものの、シェイクスピアの世界を豪華に、また台詞を1つもカットせずに4時間にわたって描き出した。共演はケイト・ウィンスレット 他、豪華キャストが出演。
2000年版
マイケル・アルメレイダ 監督作品。舞台を現代のニューヨーク に移し、デンマーク王国もマルチメディア 企業に置き換えられているが、台詞はそのままとなっている。ハムレットはイーサン・ホーク が演じている。ジュリア・スタイルズ 、カイル・マクラクラン 共演。
女帝 [エンペラー] (2006年)
馮小剛監督による香港・中国の合作映画。チャン・ツィイー 主演で中国王朝時代に置き換え、主人公をガートルート側に置いている。
英語で演技の下手な役者のことを「ham」と呼ぶ。これには諸説あり、OEDによると19世紀後半のアメリカで黒人の低レベルな役者を指してhamfatterと呼んだことにちなんでいる。これを短縮して、hamが下手な役者、あるいは素人を意味するようになった。hamfatterとは当時のあるミンストレルのタイトルThe Ham-Fat Manに由来しており、ハムレットとは関係が無いと言ってよい。
また、俗説として「ハムレット」に関係しているとするものがある。それは、
下手でもハムレット役を演じれば人気が出るから
下手な役者はこの役を解釈しきれずオーバーに演じることから
下手な役者ほどハムレット役をやりたがる
などである。
ウラジーミル・ナボコフ の『ロリータ 』の主人公であるハンバート・ハンバートは、小説の本編において自らを何度も「ハム」と呼んでいる。
毎年夏、デンマーク東端にあるクロンボー城 内ではHAMLET SOMMER(ハムレット演劇)が上演されている。
オリジナルの上演では、シェイクスピア自身が、亡霊(父ハムレット)を演じたと言われている。
バイロン の詩劇『マンフレッド 』の冒頭に、『ホレイショーよ、天と地の間にはお前の哲学が夢見る以上のものがあるのだ。』(There are more things in heaven and earth, Horatio, than are dreamt of in your philosophy.)という第1幕、第5場166-167行のハムレットの台詞の引用がある。
日本の音楽グループであるP-MODEL の曲に「To be, or not to be」に因んだ『2D OR NOT 2D』という曲が有る。
日本語訳テキスト
題名は特記したもの以外は全て『ハムレット』。下記の多くは電子書籍 も刊
笹山隆 「キッド 」『世界大百科事典』平凡社、コトバンク。2021年3月2日閲覧。
「ハムレット 」『世界大百科事典』平凡社、コトバンク。2021年3月2日閲覧。
このシーンにおいて「ねずみかな」という台詞があるが、本当にねずみと思っていたわけではない。
「ハムレット 」(土肥春曙に言及した箇所)『世界大百科事典』平凡社、コトバンク。2021年3月3日閲覧。
Maron (2014年7月3日). “KUNIO11『ハムレット』 ”. KUNIO official website . 2021年5月19日 閲覧。
英語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。
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