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噂(うわさ)は、その内容が事実であるかどうかを問わず、世間で言い交わされている話のこと。類義語として流言、飛語(蜚語)、風説、デマ、ゴシップなどがある。語源は「浮沙汰(うわさた)」である[1]。デマの流布行為は名誉毀損・信用毀損罪や偽計業務妨害罪に問われる可能性もある[2]。
流言(りゅうげん)とは、正確な知識や情報を得られず、明確な根拠も無いままに広まる噂のこと。俗説、風説、流説ともいう。ある一部での話が連鎖的に広まり、それがやがて全体に広がっていく形態を取る。白川静によれば、中国の古代の歴史書書経に既に流言の例が見られるという[5]。日本での流言の古い歴史は1600年ごろまでさかのぼる。
飛語(蜚語・ひご)も、根拠のない無責任な噂を意味する言葉で、流言と合わせて流言飛語(流言蜚語)という四字熟語を構成する。
デマとはデマゴギー(独: Demagogie)の略で、語源としては政治的な目的を持って行われる民衆操作のための宣伝や扇動のことだが、より広い意味で使われる場合がある。現代日本語では、政治的かどうかに関わらない「流言」に相当する意味で「デマ」が使われる[6]。1990年代後半以降は、インターネットにあるブログや電子掲示板やSNSから広まる事例も増えている。[要出典]
ゴシップ(gossip)とは、巷で伝聞される興味本位の噂話のことを指すが、特にマスメディアにおいては芸能人などのゴシップを、「不祥事」・「醜聞」(しゅうぶん)を意味する「スキャンダル」(scandal)という表現で伝えることが多い。この類のネタにした記事を「ゴシップ記事」、さらにこのゴシップ記事の類を多数掲載している新聞・雑誌のことを「ゴシップ紙」「ゴシップ誌」と呼ぶことがある。
流言の発生は、「情報の重要さ」と「情報の不確かさ」(嘘と本当の間に極大値を持つ)の積で与えられるとされる。
流言や噂が発生する動機は、曖昧な状況に対する主観的解釈(自己の内的世界の投影)であり、発生そのものを抑止するのは原理的に困難である[7]。
さらに、流言が発生するにはある条件を満たしているとより広がりやすくなる傾向があるとされる。
噂が広がる要因の一つに“話をする人”が挙げられる。その人に信用がある、または情報をよく知っているなどの条件が重なれば、聞き手はそれが本当であると信じてしまう(検証せずに鵜呑みにしてしまう)、次々と伝播していく。さらに、「これはためになる」と思い込むことから、良かれと思って(=善意で)自分の周囲の人や知人に広く伝播させてしまう傾向が強い。パソコン通信時代、「LHAにウイルスが混入」「○○地方から当たり屋グループが」「輸血で必要なためB型Rhマイナスの人を探しています」などといった書き込みが伝播したこともある。いずれも善意の情報を装ったものであり、のちのチェーンメールのプロトタイプとも言える。
流言の伝え手、受け手側の心理的な要因として、「不安」と「批判能力」が重要である。一般に、人々の不安が高い状態(例:災害発生直後など)では、流言に対する被暗示性が高くなり、流言は受け入れられやすくなり、また伝達されやすくなる。また、受け手側でも、不安が強い人ほど流言を信じやすくなるという傾向がみられる。一方、流言を受け取っても、批判能力の高い人の場合には、他の情報源にあたってチェックするなどの情報確認行動をとることにより、真偽を見分け、流言の伝播を食い止めることができる。1938年10月にアメリカでSF「宇宙戦争」のラジオドラマ放送をきっかけとして起こったパニック騒ぎでは、批判能力(ここでいう批判とは日本のネット上で用いられる「無責任な誹謗中傷」の意味ではなく、自分の判断が正しいかを確認する能力を意味する)の低い人ほど、番組で連呼された「火星人襲来!」を事実と勘違いしてパニックに陥りやすかったという調査結果が報告されている(実は聴いている放送を他局に変えればそのような事実はないことがすぐに確認できたのである)。
また、社会的情勢が不安定である場合、噂が広がりやすいとされる。例えば、石油ショック・不況といった何らかの社会情勢の不安定化、大地震などといった天変地異、伝染病の流行などがその契機になると見られており、人間の、危機や不安に対する自己防衛本能、最悪の場合を想定してそれに備えようとする本性との関連が指摘される。
インターネット社会になると、社会に衝撃を与える大事件や社会的に耳目を集める事件が発生した場合、「義憤」に駆られた人物の強い「正義感」によって容疑者自身や親族、所属する団体の情報を暴いて公表する事例が多数みられるようになる。しかし、それらの情報は限られた情報からの憶測と思い込みの積み重ねで推測されたもので、誤った情報であることも多く、全く無関係な人物や団体に抗議のメールや電話が殺到し、新たな事件となり「正義感」に駆られた人物が逮捕される事案もみられるようになった。
噂を抑制するには、当事者以外の信頼できる第三者によって正しい情報を報じる方法が有効とされており、箝口令のような言論統制は逆効果になる例が多い[7]。しかし、「事実よりもウソを好む」人間もおり、噂の性質によってはこの方法にも限界がある[7]。
平安時代末期、平氏政権下に日宋貿易により大量に銭が輸入されると、たちまち全国で使用されるようになった。平氏政権は銭の使用を推進させたが、貴族の保守派には海外から流入する銭の使用を快く思わないものも少なくなかった。そのようなさなかに海外からもたらされたと思われる病が大流行し、多くの死者が出た。人々はこの病を「銭の病」と呼んで、銭が病をうつす媒体となっていると噂した。
1923年9月1日の関東大震災発生後、実際よりも大袈裟な、朝鮮人(厳密には大韓帝国は1910年で消滅、1945年に解放されるまで日本領となっていたため、国籍上は日本人であった)による略奪や暴徒化に関する流言があった。当時は報道手段が新聞や週刊誌、ニュース映画しかなかったため(ラジオ放送開始は大正末期の1925年である)一般市民が最新情報を入手しにくく、流言が広がりやすい環境下にあり、またそれ以前から三・一運動により、朝鮮半島出身者が治安上の脅威と考えられていたことによる。詳細は「こちら」を参照。
その時に流れた主なうわさを以下に示す。
具体的な情報ではなく、平時ではただの噂で終わるが、震災による極度の混乱と“日頃から「異国人」である朝鮮系に抱いていた恐怖心や憎悪・蔑視”などが重なり虐殺事件へと発展した。震災後の混乱に対する自力救済のため各地で結成された自警団により、不逞鮮人と間違われた無関係の朝鮮人や日本人、中国人も含む多数が殺害された[8]。多くの朝鮮人が各地の警察署に保護され難を逃れた。埼玉県本庄町の本庄警察署では、警察署を襲撃した民衆が朝鮮人を殺害した事件が発生している。
流言の発生源のひとつは警察を統括する内務省であったとする説[9]、横浜市の極右翼団体「立憲労働党」総裁・山口正憲が発生源であると言及している本もある[10][11]。また、何者とはわからないが横浜方面で発生したものであると記述されている本もある[12]。このように関東大震災時の流言に関してはその直後から各種の調査や考証が行われているが、詳細な経緯については不明な点が多い。
日本国内で最も広範に広まった流言に、オイルショックによるトイレットペーパー騒動がある。
1973年10月、第四次中東戦争によりOPEC加盟6カ国が原油価格7割引き上げを決定すると第1次石油ショックが到来し、通産大臣だった中曽根康弘は10月19日に紙などの節約を呼び掛けたが、この頃から紙不足になるとの噂が広まった[13]。
1973年11月1日午後1時半ごろ、大阪千里ニュータウンの大丸ピーコックストアの宣伝用の特売広告に、(激安の販売によって)「紙がなくなる!」と書いたところ、突然300人近い主婦の列ができ、2時間のうちにトイレットペーパー500個が売り切れた。
当時は戦争という背景もあり、原油価格の高騰により紙が本当に無くなるかもしれないという不安心理から、各地で噂が飛び火し、行列が発生したため、マスコミにも大きく取り上げられ、混乱は全国に連鎖的に急速に拡大した。影響は紙だけでなく洗剤や砂糖などの他の日用品にも波及した[13]。
高度経済成長で大量消費に慣れていた人たちが、初めて「物不足の恐怖」に直面したために起こった騒動とも言われている。ただし、原油価格の高騰と商品全般の価格高騰に関係はあっても、元々が原油と紙との製造・流通過程における直接的な関連はないのでこの流言がなければ過剰な需要による品不足になる可能性は低かったと考えられる。
1973年、愛知県小坂井町(現・豊川市)を中心として騒動となった事例。女子高校生達が国鉄飯田線(当時)の車内で自分達の就職先の話をしていて、豊川信用金庫に就職が決まった女子高生を、他の友人たちが「豊川信用金庫は危ないよ」とからかった(金融機関を狙う強盗による防犯上の危険性を指しての発言だったという。なお、その時点では豊川信金は経営的には安定していた)。この友人の話を不安に感じた女子高生は親戚に相談を持ちかけ、その親戚は別の親戚に豊川信金について問い合わせた。ここから話の内容が「豊川信金が危ない」という噂に変質し、街中に広まり始めた。そして、豊川信金に預金を持っていた人物の目の前で、偶然仕事の都合で大金を豊川信金から引き出す旨の電話をした者が現れたことで、この人物は豊川信金が実際に倒産寸前であると勘違いし、この噂を善意で知人らに喧伝した。この結果、取り付け騒ぎが勃発し、豊川信金から全体として約20億円が引き出された。
2011年の東日本大震災でも多くの流言が発生している。「チェーンメール#チェーンメールが招いた悪影響」を参照。この地震に起因する流言を分析した松永英明によれば、震災発生後1か月で80個のデマが広がり、大別して11種類に分けられるという。内訳は「情報の混乱によるデマ」「科学的・医学的知識の欠如によるデマ(疑似科学を含む)」「偏向報道によるデマ」「政治家を貶めるデマ」「外国の支援を政府が妨げているとするデマ」「政府批判デマ」「その他企業・個人を批判するデマ」「人種差別デマ」「日本ユニセフ・アグネス・チャン(・日本赤十字社)を批判するデマ」「被災地の誤報」「好意的すぎる予断」「洒落がデマと化したデマ」などに分けることができるという[14]。特に、この地震のデマはツイッター上で流れた不正確な情報を大量にツイートする人がいたことから広まるケースが多かった。さらに国内マスコミに不信感を持つ人々が海外メディアの誤報をインターネットに転載したため、デマに拍車がかかった。外国メディアの中には「福島第一原発では核兵器開発が行われていた」「東日本は今後300年、焦土と化す」など、珍妙な報道をするものもあった[15]。
東北学院大教授の郭基煥が2016年9 - 10月に仙台市青葉区・宮城野区・若林区に住む20 - 69歳の日本国籍の770人から取ったアンケートによると、51.6%が被災地で外国人の犯罪があるという噂を聞き、聞いた者のうち信じた者は86.2%だった。その一方で外国人犯罪を見た者は0.4%、外国人犯罪ではないかと思われる現場を見た者は1.9%だった。情報源(複数回答)は68.0%が家族や地元住民による口コミ、インターネットが42.9%であった。年齢や性別で大きな差はなかった。宮城県警は流言を否定するチラシを避難所に配った。郭基煥は、災害教育にデマ対策も位置付けるべき、と述べた[16]。
デマが犯罪の構成要件に該当することがある。
1703年に発生した元禄地震では、翌年に流言飛語の取締を命じる町触が出されている。
人の信用(支払意思や支払能力に対する社会的評価)を低下させる危険性を作り出すような、虚説の流布(デマ)は、信用毀損罪(刑法第233条)に問われる[50]。なお、金融商品取引法(旧証券取引法)にも「風説の流布」での処罰規定がある。
また、虚偽の風説や偽計による業務の妨害は、業務妨害罪(刑法第233条・234条)に問われる[50]。2016年4月に発生した熊本地震では、動物園に関するデマ情報をTwitterに投稿した神奈川県在住の会社員の男が、動物園に対する業務妨害で、熊本県警察に逮捕された[51]。2024年1月に発生した能登半島地震では、SNS投稿による虚偽の救助要請で石川県警の機動隊員に捜索活動などをさせて業務を妨害したとして、埼玉県の会社員の男が偽計業務妨害で石川県警察に逮捕された[52]。
このほか、人の社会的評価を低下させるような危険性を生じさせた場合には、名誉毀損罪に問われる(成立要件につき名誉毀損罪を参照)。2017年6月5日に、神奈川県の東名高速道路で発生した、東名高速夫婦死亡事故をめぐり、事件とは無関係の会社をインターネット上の書き込みで誹謗中傷したとして、福岡県警察は2018年6月に、11人を名誉毀損罪で書類送検した[53]。
中華人民共和国では、大地震について流言を広めた者が処罰されており、四川大地震のネット書き込みで17人が処分されている[54]。
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