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ドワンゴが主催するプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトウェアとの非公式棋戦 ウィキペディアから
将棋電王戦(しょうぎでんおうせん)[注 1]とは、ドワンゴが主催するプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトウェアとの非公式棋戦である。映像メディアが主催する棋戦としてニコニコ生放送による中継と、対局者やソフトウェア開発者などをフィーチャーした事前PVが特徴。
なお、開催までの経緯についてはコンピュータ将棋#歴史を参照のこと。
2010年10月11日、女流棋士の清水市代(当時女流王位・女流王将)とコンピュータソフトのあから2010が対局し、あから2010が勝利した。この結果を受け、当時日本将棋連盟会長だった米長邦雄が、中央公論2011年1月号における梅田望夫との対談で、次は自身が「引退棋士の代表」としてコンピュータ将棋と対局するという表明を行なった[1]。
2011年10月6日、2011年世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフトのボンクラーズと米長が日本将棋連盟、ドワンゴ、中央公論の共催により、「米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ プロ棋士対コンピュータ 将棋電王戦」として対局することが発表された。 対局日は2012年1月14日、対局形式は持ち時間3時間で1分未満の考慮時間は計測せず、途中に1時間の昼食休憩を挟む、ボンクラーズ側のセッティングは消費電力2800ワット内で自由と発表され、会見時に行なわれた振り駒によって先手がボンクラーズと決まった。また、この対局を「第1回電王戦」とし、以後継続的にプロ棋士とソフトの対局が行なわれることとなった。
2011年12月21日に、第1回将棋電王戦に先立ち、米長とボンクラーズの前哨戦「将棋電王戦プレマッチ」が持ち時間15分でインターネット対局対局サイト将棋倶楽部24で行なわれた。電王戦と同じく後手番を持った米長は2手目に△6二玉という奇手を指してボンクラーズの撹乱を狙ったが、85手で先手のボンクラーズが勝利した[2][3]。
2012年1月14日には米長とボンクラーズの本対局が将棋会館で行なわれ、113手で先手のボンクラーズが勝利した。米長は2手目に△6二玉と、前哨戦と同様の手を指した[4][5]。ボンクラーズの駒を動かすアシスタントは米長の弟子である中村太地が務めた。
第1回電王戦の直前の2012年1月5日、2013年に第2回電王戦を実施することが将棋連盟より発表され、3月から4月にかけて開催された。対局ソフトは2012年の世界コンピュータ将棋選手権の上位5ソフト。
第1・3・5局で対戦する棋士には、事前にバージョンを落としたサンプルソフトが提供された。なお、4局目については開発者から直接ソフトは提供されなかったが、改称する前のボンクラーズ(第1回電王戦で米長に貸し出されたもの)が提供されている。持ち時間は各4時間(1分未満切り捨て)・秒読み1分。先後はドワンゴ会長の川上量生の振り駒により決められた。2・3局では、完全にソフト任せでは無く、開発者が序盤に指す1手だけを事前にプログラムしている(定跡の少ない手に誘導するため)。全5局とも、コンピュータ側の駒を動かすアシスタントは三浦孝介初段が務めた。対局の模様はニコニコ生放送で全対局が生中継(総観戦数230万)され、「日本将棋連盟モバイル」(モバイル用棋譜中継ソフト)でも配信された。
太字が先手。勝敗の○●△は、プロ棋士から見た勝敗(○=勝ち、●=負け、△=引き分け)。
対戦成績はプロ棋士の1勝3敗1引き分けとなった。極めて場面数の多い将棋で電脳ソフトがプロ棋士に勝利したことは、全国紙で報じられた[16][17][18][19][20]。
特に第5局において、2013年時点で10人しかいない現役A級棋士である三浦弘行が、約700台のクラスターという巨大マシンとはいえ、コンピュータに敗れたことが注目された。
公立はこだて未来大学複雑系知能学科教授の松原仁は、「プロ棋士の敗北は歴史的な必然であり、人間が悔しがるようなことではない」「今回の勝利も予想通りであり、今トップのプロ棋士と対戦しても、4回に1回は勝てる」と述べた[21]。
2013年8月31日第3回電王戦のプレイベントとして、電王戦タッグマッチトーナメントが開催された。出場者は第2回将棋電王戦で対戦した棋士とコンピュータのタッグチームである。結果は佐藤慎一・ponanzaのタッグチームが3連勝しての優勝。決勝戦の三浦・GPS将棋タッグ vs 佐藤・ponanzaタッグの対局は、解説した森内俊之が「今年の名局賞をとりそうな将棋ですね」とコメントした程、白熱した内容であった。
2014年の3月から4月にかけて開催された。対局ソフトは第1回将棋電王トーナメント(後述)の上位5ソフト。
持ち時間はチェスクロック方式の各5時間・秒読み1分。午前10時開始、昼食休憩12時-13時、夕食休憩17時-17時30分。関西在住の棋士には2013年11月30日、関東在住の棋士には12月1日に、第3回電王戦本番用ソフトとハード(Intel Core i7 Extreme4960X EE 3.6GHz 6コア)が貸し出され[注 5]、貸し出したあとのソフトウェアのバージョンアップも禁止されたため、プロ有利な条件へと変更された。
先後は2013年12月10日に、内閣総理大臣であり将棋文化振興議員連盟に所属する安倍晋三の振り駒により決められた。後述のとおり、さまざまな場所で開催されるが、その事について森内俊之は「昔、キン肉マンという漫画で読んだのですが、あちこちの名所で戦うような、そういうのを思い返しました」とコメントしている。主催のドワンゴ会長の川上量生は「電王戦は『週刊少年ジャンプ』の影響を受けていて、ジャンプがなければ電王戦はなかったんじゃないか? 僕はそういう風に思っているんですけど」と発言した[22]。
前回ではコンピュータ側の駒は開発者ではなく奨励会員が指していたが、今大会では協賛するデンソーの子会社デンソーウェーブなどから構成される「チームデンソー」が、自社のロボットアーム「VS-060」をベースに改造した、「電王手(でんおうて)くん」が対局に利用されることになった[23]。ソフトの開発者は後方に設けられた場所で操作する。駒は空気で吸着する事で動かし、成駒にする時は盤から駒台に一旦置き、別の駒台にあらかじめ裏返しておいた駒の中から選択して再度置く。電王手くんは投了時にアームを下げてお辞儀する「投了動作」を行う[24]。後にデンソーウェーブでは「電王手くん」の開発により得たノウハウを元に、人間の近くに設置する汎用ロボットアーム「COBOTTA」を開発した[25]。伊藤電気ではCOBOTTAを利用し、将棋・チェス・オセロで対局できるシステム「Robot Sprout」を一般向けに開発している[26]。
太字が先手。勝敗の○●は、プロ棋士から見た勝敗(○=勝ち、●=負け)。
通算4勝1敗でソフト側の勝ち越し。2014年5月30日に第5局のバージョンのponanzaが『将棋新世紀PonaX』と名前を改め市販のソフトとしてマイナビより発売されたので、一般人でもプロ棋士を上回る実力のソフトとハードが購入可能となった[注 6]。
なお、第2局の「やねうら王」が対局前の3月1日に「棋力および指し手が変わるような修正はせず、あくまで動作の安定性を確保するための修正のみ」という事を条件に、バグ修正が許可されたが、その後、「棋力が大幅に向上した」と佐藤から強い抗議と指摘を受けた。開発者は、「複数のバグを修正したが、その中に棋力に影響をもたらすバグがあり、それを修正したために、棋力が向上してしまった可能性が高い」と説明した[28]。後に開発者の磯崎は、「そんなに簡単に強くならないだろうと甘く見ていた部分があり、対応が後手に回ってしまった。深くお詫びしたい。プロ棋士と将棋ソフト(開発者)の共存共栄を望みたい。佐藤六段には申し訳なかった」と謝罪した。また、ドワンゴ会長の川上は、「ソフトの修正を認めたことや、新しいソフトでの対局を依頼したことは、間違いであった」と謝罪した[29]。3月19日に開かれた第3回将棋電王戦 第2局の対局方法に関する説明会見で、第2局はバグ修正前のソフトと戦う事が発表され、予定通り修正前との対局が行なわれた。
第5局後の記者会見で棋士が貸出ありのレギュレーションで4敗した事について質問された菅井は「自分の場合ははっきり力負けだったので研究があまり活かせなかったですね。コンピューターに対してだけの必勝法というのはもうちょっと一生懸命がんばれば探せてたのかもしれませんが、あまりそれに意味を感じなかったのでそれも敗因のひとつかなと思ってます」と答えた。佐藤は「4敗の内の1敗は私なので責任を感じています。私も菅井さんと同じような意見でして、必勝法を探すというよりも堂々とぶつかって勝ちたいなという気持ちがすごく強くて……。ただ負けてしまったのでそのやり方は間違っていたのかなと思っています」と答えた[30]。
羽生善治は2014年9月のインタビューで「今年、電王戦でプロ棋士が負け越したことについてよく聞かれますが、勝敗そのものにはあまり意味はないと思っています」「そもそも人間同士の対局が、コンピュータ将棋のような指し回しにならないのは、多分に心理的な要素が働いているからです。コンピュータ将棋のように、その瞬間瞬間に対応しているのではなく、互いにこう指したいという大局的な意図が先にあるから、そこに駆け引きの妙味も生まれてくるわけです」と述べた[31]。
2014年9月20日、9月23日、10月12日と3日間に分けて電王戦タッグマッチトーナメントが開催された。出場棋士は佐藤慎一四段、久保利明九段、屋敷伸之九段、森下卓九段、加藤一二三九段、高橋道雄九段、中村太地六段、佐藤紳哉六段、菅井竜也五段、西尾明六段、船江恒平五段、阿部光瑠四段。前回優勝の佐藤慎一とA級棋士の久保はシードされて10月12日からの登場。結果はponanzaとタッグを組んだ西尾明の優勝であった[34]。
2015年の3月から4月にかけて開催。持ち時間は各5時間・秒読み1分。昼食・夕食休憩(合計1時間30分)がある。出場棋士は、本番と同じソフトおよびハード(Intel Core i7 Extreme5960X EE 3.0GHz 8コア)で練習対局が行なえる。また、「5対5の団体戦はこれで最後」と発表された[37]。電王戦FINALで使用されるハードは、コンピューター将棋の通常探索のときの性能で考えるなら、第3回将棋電王戦で使用されたハード(Intel Core i7 Extreme4960X EE 3.6GHz 6コア)とあまり変わらない[38]。
コンピューター側の指し手は「電王手(でんおうて)さん」が利用された。前回利用された「電王手くん」は産業用ロボットを、今回の「電王手さん」は医薬・医療用ロボットを改造しており、駒を空気で吸着していた電王手くんとは違い、人間と同じく爪状の部分で挟んで動かし、成駒にする際にも駒台に一旦置くことなく裏返す事が出来る。「電王手さん」に光沢がある理由は、滅菌のための過酸化水素ガス洗浄などへの耐性を考慮して表面塗装を廃し、入念な磨き上げ処理と3層のメッキ加工を施したからである[39]。
2014年10月12日に行なわれた出場棋士発表会で報知新聞の記者が出場棋士全員に対して「勝つ為に戦うのか? それとも自分が強くなる為に戦うのか?」「両方はナシでお願いします」と質問している。全員が「勝つ為に戦う」と回答した[40]。
2014年11月26日に対戦カードが発表され、先後を決める振り駒も行なわれ、ガルリ・カスパロフが務めた[41]。
ガルリ・カスパロフは「文明は発達が止まる事はない。コンピュータが人間を超える事は必然なんだ。そしてそれさえも人間の知性の勝利と言える。チェスも将棋もその真理はひとつ。2つの知性の闘いだという事だ。コンピュータに敗れようとも、人間に知性がある限りチェスも将棋も続いていく。知性の闘いは揺るがない」「人間が1試合でも勝てる限り、人間vsコンピュータは終わらない。なぜならこの実験は、人間が100パーセント中の100パーセントを発揮した時、最強の人間はそれでもコンピュータを倒せることを証明するためのもの。たった1試合でも勝てれば、それは大きな勝利だ」と述べた[42]。
将棋連盟は、当時竜王だった糸谷哲郎(八段、26歳、2014年12月に竜王就位)の出場を考え内諾を得ていたが、稲葉の出場となった[43]。
週刊新潮2014年12月4日号のコラムで渡辺明は、今回の出場棋士に対して「コンピューター将棋に詳しい世代かつ、活躍中の精鋭棋士という顔ぶれになった。これよりも明らかに上位というメンバー構成は容易ではなく、もし結果がでなければ、タイトル保持者が出るしかないという雰囲気になるだろう。5番勝負であるから2勝3敗は誤差の範囲内つまりははっきり負けとは言えないが、第3回のように1勝4敗以上の差がつけば敗北を認めざるを得ない」と述べた。
出場棋士に関して、タイトル保持者が出るのかといった点が注目されたが、「将棋ファンだけでなく、将棋界全体やタイトル戦を主催するスポンサーへの責任や配慮がついてまわる」といった問題があり、渡辺は「(電王戦に)出たいか出たくないかで言えば出たくない(笑)」、羽生善治は「私に聞かないでくださいって、いつも言っているんですけど(笑)」「そういう声が大きければ、実現する方向に向かっていくことにもなりますし」、森内俊之は「出るということになれば万全の準備をして、確実に勝つという方向になると思うんですけど」と述べている[44]。
電王戦FINALへの道・小手試し
太字が先手。勝敗の○●は、プロ棋士から見た勝敗(○=勝ち、●=負け)。
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 飛 | 一 | |||||||
金 | 王 | 二 | |||||||
桂 | 歩 | 銀 | と | 三 | |||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 四 | ||||
歩 | 香 | 五 | |||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 六 | |||
桂 | 銀 | 銀 | 角 | 七 | |||||
金 | 金 | 玉 | と | 八 | |||||
香 | 飛 | 香 | 九 |
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 桂 | 金 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 一 | ||
飛 | 王 | 二 | |||||||
歩 | 歩 | 歩 | 銀 | 歩 | 歩 | 歩 | 三 | ||
歩 | 歩 | 歩 | 四 | ||||||
歩 | 五 | ||||||||
歩 | 歩 | 歩 | 六 | ||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 銀 | 七 | |||
銀 | 飛 | 玉 | 角 | 八 | |||||
香 | 桂 | 金 | 金 | 桂 | 香 | 九 |
通算3勝2敗でプロ棋士が勝ち越し。電王戦で初めてプロ側が勝ち越す結果となった[59]。第5局で阿久津がアマチュアの山口直哉が指したハメ手のような形をなぞったことについて、開発者の巨瀬は「すでにアマチュアが指して知られているハメ手をプロが指してしまうのは、プロの存在意義を脅かすことになるのでは」「一番悪い手を引き出して勝つというのは、何の意味もないソフトの使い方」と批判した[60]。これについて日本経済新聞は「観戦者を魅了するのがプロだという美意識と、勝ちにこだわる勝負師としての態度を両立するのは難しい」と報じた[61]。阿久津は「普段指していない戦法だが、団体戦ということもあり一番勝率の高い形を選ぶべきだと思った」「素直にうれしい感じではないが、(団体戦勝利は)とりあえずよかったと思う」と語っている[62]。
棋士の勝又清和は今回の勝因を「コンピューターとの対戦も3度目になり経験を積むことでソフトの癖や弱点が分かってきた」と分析した。日本将棋連盟のモバイル編集長・遠山雄亮も「ソフトが強いということを認識し、心構えができていたからこそ」と述べた[63]。
日本経済新聞によれば、現役プロで最も将棋ソフトに詳しいといわれる千田翔太でさえ、特別な対策をせずに電王戦に出場するような強豪ソフトと真っ向から戦った場合で「勝率は7パーセント」である。千田の2014年度の公式戦の勝率は.738で、タイトル戦挑戦にあと一歩まで迫ったこともある将来を嘱望される若手であり、単純比較はできないが、羽生善治らトップ棋士でも千田を相手に90パーセント以上勝つことは難しいため、「ソフトは既に人間を超えている」との推論が出てもおかしくない。そんな恐るべきソフトを相手に棋士たちは勝ち越したと同紙は報じた[64]。
早稲田大学教授の瀧澤武信は、「シリーズを振り返ってみると、プロ棋士がコンピューターの指し筋を研究し尽くして、弱点をついた、人間対コンピューターらしい戦いだったと思う。単純な読みの深さでは人間はコンピューターにかなわないが、戦い方によっては勝つことができることを示したともいえる。ただ、コンピューターもこうして弱点が見つかれば対策を練ることができるので、今後も人と戦うことの意味は大きい」と話した[65]。
2016年4月から5月にかけて開催。第3回将棋電王トーナメントの優勝ソフト・ponanzaと、2015年6月に新設された第1期叡王戦の優勝者・山崎隆之叡王(八段)による対局である。
手番の先後を入れ替えた二番勝負を2日制で行なう。持ち時間は各8時間(チェスクロック使用)・秒読み1分[66][67]。初日・2日目とも60分の昼食休憩を挟むほか、2日目のみ30分の夕食休憩がある[67]。封じ手は棋士側が行い、封じ手の意思表明後2日目の対局開始までの間コンピュータの思考は停止しなくてはならない[67]。千日手・持将棋・立会人裁定による引き分けの場合、2日目の15時までに成立した場合は先手・後手を入れ替えて指し直し(通常のプロ棋戦での千日手の場合同様に持ち時間の調整も行われる)、それ以降の成立の場合は引き分けとして指し直しは行わない[67]。また、出場棋士は、本番と同じソフトおよびハード(Intel Core i7 6700K 4GHz 4コア)で練習対局が行なえる。
振り駒はPepperが行った[68]。また、第1局の観戦記は『ものの歩』作者の池沢春人が担当し、2016年5月に「観戦漫画」として「週刊少年ジャンプ」誌上で掲載されたのち、電王戦特設サイトでも掲載される予定[69]。
コンピューター側の指し手は「新電王手(しんでんおうて)さん」が利用された。前年の「電王手さん」に比べ、成るための時間を短縮したり、可能な限り消音といった改良が施されている。
太字が先手。勝敗の○●は、プロ棋士から見た勝敗(○=勝ち、●=負け)。
朝日新聞は「ポナンザの2連勝で幕を閉じた。快勝した第1局に続き、第2局もつけいる隙を与えない完勝だった」と報じた[70]。
先崎学は「これから書く数行は、職業棋士として気が重いし、できれば曖昧にぼかして済ましたい」と前置きしながらも、「今のプロ棋士で、コンピュータより人間――我々プロ棋士が強いと本気で思っている者は、ほとんどいない」と述べた[71]。
電王戦でのコンピュータの進歩を目の当たりにした将棋界は変化が起こった。パソコンやスマートフォンでソフトを見て、対策を講じるカンニングを行うことが可能となっているため、2016年10月に日本将棋連盟は電子機器を対局室に持ち込んだり、対局中に外出することを禁止すると発表した。羽生善治は「性善説で動いているということが将棋界のいいところでもありましたが、そうとばかりも言っていられない時代になったのかなと思います」と述べた[72]。(将棋ソフト不正使用疑惑も参照。)
スポーツニッポンの我満晴朗(がまんはるお)は2016年現在のソフトの実力はプロ棋士に並んだどころか、すでに上回っているというのが残念ながら実情だと述べた。また、電王戦でプロが負け越しているという事実と前述の電子機器の禁止について触れ「(日本将棋連盟が)ソフトの優位を公に認めた『敗戦宣言』と受け取れる」と述べた[73]。
2016年12月31日開催。棋士軍とソフト軍による3対3の対局。棋士からは森下卓九段、稲葉陽八段、斎藤慎太郎六段が出場した。ソフト側は第3回電王トーナメントバージョンのponanza、nozomi、大樹の枝(apery)が出場した。対局開始は17時、持ち時間は3時間(チェスクロック方式)、秒読み3分、19時半から30分の夕食休憩。振り駒無し、棋士軍の先手。棋士側の指し手は合議により決定し、森下卓九段が指した。ソフト側の指し手は各ソフトの候補手を基に多数決で決定し、多数決で指し手が決まらない場合は将棋電王トーナメント上位ソフト(ponanza)の候補手を採用する。棋士軍の思考中にソフト軍は思考しない。2つのソフトが同じ候補手を示し、次の指し手が決まっても、3つ目のソフトが候補手を示すまでソフト軍は指さない。そのため、棋士軍はソフト軍が指す前に次の手がわかる局面があった。棋士軍の椅子の移動時間も考慮時間に含まれた。棋士軍は継ぎ盤の使用を禁止された。ソフト軍のマシンスペックは公表されていない。結果は156手でソフト軍が勝利した。ソフト軍、棋士軍ともに合議制によって棋力が上がったかは不明である。
2017年に開催。第4回将棋電王トーナメント優勝ソフト・ponanzaと、第2期叡王戦に優勝した佐藤天彦叡王(名人)の対局である。電王戦では初となるタイトルホルダーの出場であり、公開の場で行われるタイトルホルダー対コンピュータ将棋の対局としては、2007年3月の渡辺明竜王対Bonanza以来10年ぶりである。佐藤は「これまでの電王戦を見てもソフトが非常に強いので大変な戦いになる。しっかり頑張りたい」と述べた[74]。持ち時間は2日制8時間から1日制5時間に変更、その他のルールは第1期と同様。
ponanza作者の山本一成は前回の第1期電王戦に出場したバージョンに対し、今回のバージョンは約9割勝てるまで強くなったとしている[75]。出場棋士は、本番と同じソフトおよびハード(Intel Core i7 6700 3.4GHz 4コア)で練習対局が行なえる[注 8]。
第2期叡王戦に人間側の絶対王者として見られることが多い羽生善治が参戦したことが話題になった。しかし昨今のコンピュータの進歩の速さを見た識者の中で、観戦記者の大川慎太郎は「羽生三冠が叡王戦を勝ち抜き、来春、将棋ソフトと二番勝負を戦ったとして、1勝できれば御の字という向きもある」と述べている[78]。羽生は準決勝で優勝した佐藤に敗れたため電王戦出場はならなかった[79]。
古作登は「ponanzaは過去の戦いでもプロ棋士に負けておらず、トップアマに100連勝以上する力を示しており、これは名人といえども簡単にできるものではない」と述べる一方で、「ponanzaもソフト代表決定戦では一敗しており、神ではない。佐藤名人は気持ちのブレが少なく、電王戦に対するコメントも落ち着いている。コンディションが整っていれば最高の棋譜が期待できるのでは」とも述べている[80]。
主催するドワンゴと将棋連盟は2月22日、記者会見で今の形式の電王戦は今回で最後になると発表した。ドワンゴ会長の川上量生は「将棋の世界において単純に将棋プログラムと人間の優劣を競うというそういう電王戦は佐藤名人対ponanzaの対局を以て終了したいと思う」とコメントした。ただし、叡王戦は継続して開催するとした[81]。電王トーナメントについては、名称を変えて続けたいとした[82]。
振り駒は2016年にGoogleのアルファ碁と対戦したことで知られる韓国の囲碁棋士、李世乭が行った。李は「素晴らしい企画に参加できて光栄に思います。人工知能と将棋では、ちょっと差ができていると思いますが、今回は佐藤叡王が頑張ってくれるのではないかと思います」とコメントした。また、アルファ碁との対戦について「その当時あまりコンピューター囲碁の棋力をあまり分かっておらず、簡単に受け入れましたが、自分としてはとても恥ずかしい戦いでした」と述べた[82]。
コンピューター側の指し手は「電王手一二(でんおうていちに)さん」が利用された。2本のアームを利用することで、より素早く成ることを実現させている。右腕は駒を掴むこと、左腕は駒の位置を把握し、駒を反転させる役割を持つ[83]。
太字が先手。勝敗の○●は、プロ棋士から見た勝敗(○=勝ち、●=負け)。
第1局では先手のponanzaは初手3八金と、通常の定跡ではあまり指されない手を指した[注 9]。ponanzaはソフト及びハードを事前に佐藤に貸し出しているため、研究対策として初手を22手の選択肢からランダムに選ばれるように設定してあった[84]。
対する佐藤は、8四歩と飛車先の歩を進め相掛かりとなった。ライターの茂野聡士が「この局面、サッカーでたとえられませんか?」と野月浩貴に質問すると、「例えばバルサで言えば、キックオフ時にイニエスタが『休んでいられる』位置にいるようなイメージでしょうか。でもこれは『数的不利でもボールを回す自信がある』という根拠があるからこその一手なんです。ある程度局面が進んでいくと、結果的にこの3八金が馴染んだ位置取りになっていきます」と答えた[85]。
ponanzaは正確な指し手を続けて次第に形勢に差がつき、佐藤は時間を消費して懸命に挽回を図ったが、逆転の機会を作れず投了した。ほとんど時間を使い切った佐藤に対し、ponanzaは1時間あまりの消費だけであった。佐藤は「中盤ではこちらにも手段があったかもしれないが、ちょっとうまくいかなかった。ポナンザはものすごく正確で、非常に指し手に読みが入っている。タイトル保持者の対局ということで応援や期待をファンからいただいたが、結果は残念。先手番の第2局は勝算があるのでしっかり頑張りたい」、ponanza開発者の山本は「力戦になったが、いろんな将棋をポナンザは勉強しているので効果があったのかなと思う。二番勝負なのでこれでタイトル保持者に勝ったとはいえないが、日本の情報科学の開発者が長年目標としてきたことを達成できたという気持ちはある」とコメントした。毎日新聞は「現役の名人をもってしても完敗するほどソフトの強さが光った」と報じた[86]。なお、持ち時間の消費に関しては、佐藤が長考している間にponanzaも指し手を先読みしており、その予想がほぼ当たったためノータイムで指した場面が多かったという[87]。
第2局では先手の佐藤叡王が▲2六歩と飛車先の歩を伸ばすと、ponanzaは△4二玉と第1局同様に珍しい手を指して取材陣をどよめかせた。▲2六歩に対して後手のponanzaは9種類の指し手があるらしく、その中の一手を選択した。互いに自陣での駒組みを進めていたが、60手目△6四歩の時点で、評価値はPonanzaのプラス200超え。持ち時間は佐藤叡王が3時間10分、ponanzaが3時間2分とかなり接近していた。このあたりから佐藤叡王の指し手をponanzaが当てるようになり、前局同様持ち時間の使い方が一方的になる。中村太地六段がニコファーレの解説で「ponanzaの陣地はキレイで無駄がない」と語るように、佐藤叡王は敵陣にまったく攻め込めていなかった。ponanzaが危なげなく19時30分、94手までで佐藤叡王が投了。評価値はponanzaのプラス2000を超えていた[88]。
対局後、佐藤康光は「第1期、第2期と結果が出ておりません。今回も佐藤天彦名人ということで、叡王戦で優勝されて、連盟としても自信を持って送り出した棋士ですので、それが連敗という結果となりましたが、棋士は負けず嫌いな部分もありますので、どう受け止めるかは皆様にご判断いただくしかないと思います。ただ、今回も第1期も結果が出なかったことに関して、コンピューターソフトの方が一枚も二枚も上手だったということは認めざるを得ないというふうに思っております。」とコンピュータが名人を上回ったことを否定しないコメントをした[88]。
2013年より、電王戦本戦に出場するソフトを決めるために、毎年11月頃に開催され、優勝ソフトには“電王”の称号が与えられる。優勝賞金は300万円[注 10]。以下、2位から5位までそれぞれ100万円、70万円、50万円、30万円。スイス式による予選リーグの上位12ソフトによる決勝トーナメントが行なわれ、優勝ソフトが電王戦出場ソフトとなる[注 11]。持ち時間は予選リーグが15分・秒読み10秒、決勝トーナメントは2時間・切れ負け。
世界コンピュータ将棋選手権とは違い、サードウェーブデジノスが製造するゲーミングパソコン「GALLERIA」による統一ハードで行なわれる。統一ハードを使用する限りにおいて、仮想化技術を用いた仮想クラスタを組むことなどは可能(過去に第2回の『大合神クジラちゃん』[89]などの例がある)。
2015年からは、準決勝・決勝・3位決定戦について、各ソフト3台ずつのPCを用いて同時並行で3番勝負を行う[90]。2017年からは、決勝トーナメントが持ち時間1時間切れ負けになり、3番勝負は決勝のみになった。
電王戦は2017年限りで終了したが、電王トーナメントについては2017年秋の第5回大会を継続して開催。しかし2018年8月27日に、第5回大会をもって開催を終了し2018年は開催しないことが発表された[91]。
優勝 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 備考 | |
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第1回(2013年秋) | ponanza | ツツカナ | YSS | やねうら王 | 習甦 | 1位から5位が2014年春の第3回将棋電王戦に出場 |
第2回(2014年秋) | AWAKE | ponanza | やねうら王 | Selene | Apery | 1位から5位が2015年春の将棋電王戦FINALに出場 |
第3回(2015年秋) | ponanza | nozomi | 大樹の枝[注 12] | 超やねうら王 | 技巧 | 1位が2016年春の第1期電王戦に出場 |
第4回(2016年秋) | ponanza | 浮かむ瀬[注 13] | 真やねうら王 | 読み太 | 大将軍 | 1位が2017年春の第2期電王戦に出場 |
第5回(2017年秋) | 平成将棋合戦ぽんぽこ[注 14] | shotgun | ponanza | 読み太 | Qhapaq_conflated | 人間との対戦はなし |
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