(ひじょうじたいせんげん)または(きんきゅうじたいせんげん)とは、自然災害、感染症のパンデミック、原子力事故などの災害や、戦争、テロ、内乱、騒乱など、健康・生命・財産・環境などに危険が差し迫っている緊急事態に際し、国・地方政府などが法令などに基づいて特殊な権限を発動する ために、或いは、広く一般・公衆に注意を促すために、そのような事態を布告・宣言することである。
措置には、警察・軍隊の動員、公共財の徴発、緊急命令や法律に優越する政令の発布、憲法上の人権保障を停止し令状によらない逮捕・家宅捜索などの許容の他、報道や集会の自由など自由権の制限が有り得る。1930年代のドイツで政権を掌握したナチ党のアドルフ・ヒトラーはこれを悪用して「ドイツ国民と国家を保護するための大統領令」を出し、結果としてドイツ国はヒトラーによる独裁国家(ナチス・ドイツ)となった。日本やアイスランドなど一部の国では殆ど強制力のない要請などにとどめる例もある。
名称について
文脈により異なる名称が使われる。法律・行政上の専門用語としては日本法における規定の文言が「緊急事態」「緊急事態宣言」に統一されている(#日本も参照)。また小説や映画等の作品やニュース等での一般的な用語としては「緊急事態」「緊急事態宣言」の他に「非常事態」「非常事態宣言」も使われる。
各国の法制
米国
アメリカ合衆国では、大統領が非常事態を宣言すること自体は珍しいことではなく、「外国からの脅威がある」として大統領の権限で資産凍結を行う際に宣言される(例えば、2018年11月には、反政府デモを武力で弾圧した中米ニカラグアの混乱をアメリカの安全保障上の脅威と見なし、治安や民主主義を損なう人物の資産を凍結するためにドナルド・トランプ大統領により宣言された)他、テロや感染症に対応するためにも宣言される[2]。アメリカ合衆国では、1979年の対イランの資産凍結を含め、約30件の宣言が2019年2月現在で有効とアメリカのメディアで報じられている[2]。
欧州
欧州社会憲章では、緊急事態において憲章規定から逸脱できる免責条項を定めている。
欧州社会憲章 F章 戦争または緊急事態時の免責
1. In time of war or other public emergency threatening the life of the nation any Party may take measures derogating from its obligations under this Charter to the extent strictly required by the exigencies of the situation, provided that such measures are not inconsistent with its other obligations under international law.
1. 国民の生命を脅かす戦争またはその他の公的緊急事態において、締約国は、その緊急事態の状況によって厳密に要求される範囲で、この憲章に基づく義務を損なう措置を講じることができる。ただし、そのような措置が国際法が定める他の義務と矛盾しないことを条件とする。
欧州人権条約の第15条も、緊急事態において条約規定から逸脱できる免責条項を定めている。ただしその場合においても、生存権の侵害、拷問や残虐な刑罰、強制労働、罪刑法定主義の否定は禁じている。
フランスでは2015年のパリ同時多発テロ事件でフランソワ・オランド大統領により発令され、2017年10月31日まで延長された[3][4]。
日本
日本では、1954年(昭和29年)まで旧警察法第62条に基づいて「国家非常事態」を布告する権限が内閣総理大臣に与えられていたが、その後の法改正により、現警察法に基づく緊急事態の布告に改められた他、災害対策基本法に基づく災害緊急事態の布告、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型インフルエンザ等緊急事態宣言(詳細は「緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置」を参照)などがあり、いずれも内閣総理大臣が発令する。
国家非常事態宣言の一覧
ここでは、先述したようにほぼ同義である「緊急事態宣言」「非常事態令」等の名称の宣言についても記述する。
発動例の追記について: 記述されていない発動例を追加する場合は、必ずその出所を確認するようにしてください。政府(臨時政府、暫定政府を含む)以外から発表されたものは追記しないでください。 |
1940年代
1960年代
1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
- 2010年
- 2011年
- 2012年6月10日 - 宗教対立の激化( ミャンマー)[25]
- 2013年
- 2014年
- 2015年
- 2016年
- 2017年
- 2018年
- 2019年
- 1月1日 - 治安悪化( ブルキナファソ)[71]
- 2月9日 - ベルーシャ・グバにおけるホッキョクグマの出没回数増加( ロシア)[72]
- 2月16日 - メキシコとアメリカの壁建設を目指しドナルド・トランプが発令したもの( アメリカ)[73]
- 2月17日 - 洪水に伴う金鉱の浸水( ジンバブエ)[74]
- 3月11日 - パンの値上げに反対する暴動( スーダン)[75]
- 3月18日 - サイクロン「アイダイ」による壊滅的被害( マラウイ)[76]
- 3月19日 - 同( モザンビーク)[77]
- 4月23日 - スリランカ連続爆破テロ事件( スリランカ)[78]
- 5月7日 - 干魃( ナミビア)
- 6月19日 - デング熱の流行( ホンジュラス)[79]
- 7月7日 - セント・アンドリューにおける殺人事件の急増( ジャマイカ)[80]
- 8月1日 - ジカ熱・デング熱の同時流行( ペルー)[81]
- 8月14日 - エヴィア島における大規模山火事( ギリシャ)[82]
- 8月15日 - バナナの病気の流行( コロンビア)[83]
- 8月18日 - 牧畜民と農耕民の衝突( チャド)[84]
- 8月23日 - 大規模森林火災( ボリビア)[85]
- 8月30日 - ハリケーン「ドリアン」直撃( アメリカ)[86]
- 9月5日 - 麻薬組織による兵士殺害事件( グアテマラ)[87]
- 10月4日 - ストライキ過激化( エクアドル)[88]
- 10月18日 - チリ暴動( チリ)[89]
- 10月24日 - 政権転覆計画( ボリビア)[90]
- 11月13日 - ガザ地区からのロケット弾攻撃( イスラエル)[91]
- 11月22日 - 洪水( コンゴ共和国)[92]
- 11月24日 - バス爆破テロ( チュニジア)[93]
- 11月26日 - アルバニア地震( アルバニア)[94]
2020年代
- 2020年
- 1月26日 - キングストンの治安悪化( ジャマイカ)[95]
- 1月〜8月 - 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大
- 1月31日 - イタリア[96]・ ミクロネシア連邦[97]
- 2月7日 - マーシャル諸島[98]
- 2月23日 - 韓国[99]
- 2月24日 - アフガニスタン[100]・ キルギス[101]
- 2月26日 - リトアニア[102]
- 3月2日 - フランス[103]
- 3月6日 - グアテマラ[104]
- 3月7日 - アイスランド[105]
- 3月11日 - ハンガリー[106]・ ボリビア[107]
- 3月12日 - アルゼンチン[108]・ チェコ[109]・ ベネズエラ[110]・ ラトビア[111]
- 3月13日 - アメリカ[112]・ ウルグアイ[113]・ エストニア[114]・ スペイン[115]・ パナマ[116]・ ブルガリア[117]
- 3月14日 - エルサルバドル[118]・ ポーランド[119]・ ホンジュラス[120]・ リビア[121]
- 3月15日 - カザフスタン[122]・ スロバキア[123]・ セルビア[124]・ フィリピン[125]・ ペルー[126]・ 南アフリカ[127]・ モルディブ[128]・ レバノン[129]
- 3月16日 - アルメニア[130]・ エクアドル[131]・ コスタリカ[132]・ スイス[133]・ スーダン[134]・ パラグアイ[135]・ フィンランド[136]・ ルーマニア[137]
- 3月17日 - エスワティニ[138]・ コロンビア[139]・ サントメ・プリンシペ[140]・ ナミビア[141]・ パラオ[142]・ ルクセンブルク[143]
- 3月18日 - オーストラリア[144]・ 北マケドニア[145]・ ポルトガル[146]・ レソト[138]
- 3月19日 - ドミニカ共和国[147]・ ハイチ[148]
- 3月20日 - サモア[149]・ トンガ[150]・ バハマ[151]・ ブラジル[152]・ マラウイ[153]・ モロッコ[154]
- 3月21日 - ジョージア[155]
- 3月22日 - マダガスカル[156]
- 3月23日 - セントルシア[157]
- 3月24日 - シエラレオネ[158]・ コンゴ民主共和国[159]・ セネガル[160]・ パプアニューギニア[161]
- 3月25日 - グレナダ[157]・ ニュージーランド[162]
- 3月26日 - タイ[163]・ バヌアツ[164]・ フィジー[165]
- 3月27日 - アンゴラ[166]・ アンティグア・バーブーダ[157]・ ギニア[167]・ セントクリストファー・ネイビス[157]・ ニジェール[168]
- 3月28日 - 東ティモール[169]
- 3月30日 - メキシコ[170]
- 3月31日 - 赤道ギニア[171]・ ボツワナ[172]
- 4月1日 - トーゴ[173]・ ベリーズ[174]・ モザンビーク[175]
- 4月5日 - ウクライナ[176]
- 4月7日 - 日本[177][注釈 2][注釈 3]
- 4月8日 - エチオピア[179]・ リベリア[180][注釈 4]
- 4月10日 - コートジボワール[181]
- 4月13日 - ガボン[182]
- 4月21日 - モンゴル[183]
- 7月25日 - 北朝鮮[184]
- 8月11日 - ブータン[185]
- 日付不明[186][187] - オーストリア・ キリバス・ ナウル
- 2月2日 - バッタの大量飛来( ソマリア)[188]
- 6月2日 - 原油の流出( ロシア)[189]
- 6月25日 - イナゴの大量飛来( アルゼンチン)[190]
- 8月5日 - ベイルートの爆発事故( レバノン)[191]
- 8月7日 - 燃料の流出( モーリシャス)[192]
- 8月23日 - 大規模山火事( アメリカ)[193]
- 9月7日 - 洪水( スーダン)[194]
- 9月11日 - 性犯罪の増加( リベリア)[195]
- 10月以降 - 新型コロナウイルス感染症の再拡大
- 10月13日 - 反政府デモ(キルギス)[199]
- 10月15日 - 反政府デモ( タイ)[200]
- 2021年
- 2022年
- 1月5日 - 反政府デモ( カザフスタン)[214]
- 2月14日 - 新型コロナウイルス規制に対する抗議のため発生したデモ( カナダ)[215]
- 2月24日 - ロシアがウクライナ東部の親ロ派占領地域への派兵を決めたのを受け、ロシア軍の再侵攻に備えて警戒態勢を引き上げたため( ウクライナ)[216]→詳細は「ロシア・ウクライナ危機 (2021年-2022年)」および「2022年ロシアのウクライナ侵攻」を参照
- 4月1日 - 反政府デモ( スリランカ)[217]
- 5月6日 - 反政府デモ( スリランカ)[218]
- 7月13日 - 反政府デモ( スリランカ)[219]
- 8月26日 - パキスタン洪水 (2022年)( パキスタン)[220]
- 12月14日 - 反政府デモ( ペルー)[221]
- 12月26日 - ニューヨーク州の記録的寒波( アメリカ合衆国)[222]
- 2024年
連邦制諸国や地方分権の進んだ国では、地方政府に非常事態を宣言する権限を与えていることがある。また、特別法は発動しないものの、国際機関や軍、実効支配を確立している武装組織などが注意喚起を目的に宣言を行うことがある。
国際機関
国際機関である WHOは、2005年以降大規模な疫病の流行に対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言することとしている。発動例は同項目内の「#通告・指定」を参照。
地方政府・地方公共団体
- アメリカ:州知事 (アメリカ合衆国)・首長に災害に伴う地域内非常事態を宣言する職権がある。主に以下の例がある。
- イギリス
- インドネシア
- ジャカルタ特別州:知事に非常事態宣言の権限が与えられている。2020年3月20日には、当時流行していた新型コロナウイルス肺炎に対して非常事態宣言が行われた[227]。
- 日本:地方公共団体や普通地方公共団体が「非常事態宣言」や「緊急事態宣言」を実施することがある。但しこれらは特別法を発動するものではなく、法的拘束力の無い要請や注意喚起に過ぎない。主には、以下の例がある。
- 宮崎県:2010年(平成22年)5月18日に東国原英夫知事が口蹄疫の流行に対して宣言した例[228]。2021年(令和3年)1月7日に河野俊嗣知事が新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に対して宣言した例[229]。
- 北海道:2020年(令和2年)2月28日に鈴木直道知事が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対して宣言した[230][231]例。
- 愛知県:2020年(令和2年)4月10日および同年8月6日に大村秀章知事が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対して宣言した[232][233]例。
- 岐阜県:2020年(令和2年)4月10日に新型コロナウイルス感染症流行による愛知県独自の「緊急事態宣言」(上記)にあわせ、県独自の非常事態宣言を発出[234]。また同年7月31日に新型コロナウイルス感染症の感染者が増加してきたため、8月末まで県独自の第2波非常事態(非常事態宣言)を発出した[235]。
- 三重県:2020年(令和2年)4月10日に新型コロナウイルス感染症流行による愛知県独自の「緊急事態宣言」(上記)にあわせ、県独自の感染拡大阻止緊急宣言を発出[234]。また同年8月3日から8月16日まで県独自の緊急警戒宣言を発出した[236]。
- 栃木県
- 栃木市:2020年(令和2年)4月18日に大川秀子市長が市内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が県内で2番目に多く、人口10万人当たりの割合が県内で1番高い状況を踏まえて、市独自の非常事態を宣言 。手洗いや咳エチケット、マスク着用や外出自粛を要請。
- 那須地区:2020年(令和2年)4月24日に那須塩原市が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対して宣言。27日には大田原市と那須町が同様の理由で宣言した。28日にはこれら3市町の首長が那須塩原市役所にて対策を協議し、共同非常事態宣言を連名で発表した。道の駅の完全封鎖など足並みを揃えた形で、津久井富雄大田原市長は「共同戦線を張り、3市町で連携していく」と述べた[237]。
- 沖縄県:2020年(令和2年)7月31日に新型コロナウイルス感染症の感染者が増加してきたため、8月1日から9月5日まで県独自の緊急事態宣言を発出した[238][239][240]。
- 福岡県:2020年(令和2年)8月5日、新型インフルエンザ等対策特別措置法第24条第9項に基づき8月8日から8月21日まで感染症対策不十分な店に休業協力要請や県民に対して会食や飲み会制限する「福岡コロナ警報」を発動する[241]。10月8日解除となった[242]が、12月12日再発動[243]。
- 岡山県:2020年(令和2年)12月21日に新型コロナウイルス感染症の感染者が増加してきたため、県独自の医療非常事態宣言を発出する[244]。
- 宮城県:2021年(令和3年)3月18日に新型コロナウイルス感染症の感染者が増加してきたため、この日から4月11日まで、県内全域に県独自の緊急事態宣言を発出した[245]。
- 山形県
- 福井県:2021年(令和3年)4月22日、5月13日までの期間で、県内全域に県独自の緊急事態宣言を発出した[248]。
- 石川県:2021年(令和3年)5月10日、5月31日までの期間で、県内全域に県独自の緊急事態宣言を発出した[249]。
- 石川県:2024年(令和6年)1月6日、能登半島地震についてこれまでにない未曽有の大災害だとして、県庁としての非常事態を宣言した[250]。
軍
武装組織
脚注
関連項目
外部リンク
Wikiwand in your browser!
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.