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かつて香港で無料地上放送を行っていたテレビ局 ウィキペディアから
亞洲電視(亞洲電視有限公司、Asia Television Limited)は、香港で最初に開局したテレビ局で、かつて無料地上放送を実施する香港のテレビ2社のうちの1社であった。略称は亞視、ATV。日本では「アジア・テレビ」[1]とも呼ばれたことがある。1959年に有料の有線放送として開局し、中華圏初のテレビ局となった。1973年に無料のカラー地上放送に転換。長期にわたる経営不振の末、2016年に放送免許が失効し停波した。2017年末に新たに亞洲電視數碼媒體有限公司(Asia Television Digital Media Limited)としてインターネット放送事業を開始した。
亞洲電視の前身である麗的映聲 Rediffusion Television(RTV)は、宗主国イギリスの民間ラジオ局リディフュージョンが、香港初のテレビ放送局として1957年5月29日に開局した。
当初は1チャンネルのみで、ケーブルによって各家庭に配信する有料放送であった。視聴料は毎月25香港ドルで、放送開始時の契約者数はわずか640であった。
1966年には、自前の俳優養成組織「電視藝員訓練班」を設立した。黄秋生(アンソニー・ウォン)、黎明(レオン・ライ)、張家輝(ニック・チョン)など数多くのスターが巣立っている。
1967年11月19日に無綫電視(TVB)が開局したことにより大きな転機を迎える。無綫電視はその名の通り無線方式による無料放送であり、アンテナ以外に特別な設備を必要とせず、一部番組でカラー放送を行い、開局早々視聴者の人気を集めた。それに対してRTVは、有料放送でしかも白黒方式のままの放送であったため、契約視聴者は激減した。大幅な放送内容の見直しを行い、バラエティ番組を増やし、中継を中心とした競馬番組を放送するなどした結果、1969年には視聴契約は10万を超えるに至った。1971年に自前の放送チャンネルを持たない香港電台がテレビ番組制作を開始し、麗的映聲からも放送された。
しかし有料・有線・白黒のままでは無綫電視に対抗できないことは明らかで、さらに3局目のテレビ局が開局することも決まった。会社側では放送方式を無線方式の無料カラー放送の開始を決定し、1973年12月に変更することを8月に発表した。同時に、局名も「麗的電視」(RTV)に変更した。しかし設備変更を短時間で終えるのは困難なことから、1973年11月に1か月間放送を休止してカラー放送への切り替えなどの設備更新を行った。
1975年に第3のテレビ局佳藝電視(CTV)が開局し、視聴率競争が激化した。3年後に佳藝電視は経営不振により倒産した。同局のスタッフや所属俳優の多くは麗的電視に移籍してきた。この結果、番組内容が充実し、高視聴率の番組も出るようになった。無綫電視もそれまで放送していた番組を打ち切って新たな番組を放送して対抗した。
1980年代になり、麗的電視の経営状況が悪化。1981年3月には、麗的電視の親会社である英国の会社の経営も悪化したため、経営から手を引くことを決め、オーストラリア企業に売却された。翌1982年には地元香港の企業に再売却され、局名も現在の「亞洲電視(ATV)」に変更された。
1983年には中国大陸のテレビ局が制作したドラマが香港で初めて放送され、人気を呼んだ。1987年には局舎が火事に見舞われ、放送機器が損傷して放送に支障を来し、ライバル局無綫電視の支援を仰ぐという事件も発生した。
1989年には親会社が再度変わり、新コーポレートアイデンティティを導入。1990年前半にかけては、香港のテレビ史上に残る番組を少なからず制作、無綫電視の視聴率を上回る番組も出現し、亞洲電視は全盛期を迎える。
1998年には新たな経営陣が参入して、経費削減のために番組制作方式の改革を行い、社員の整理も行われた。自社制作の番組は減少し、外部から購入した番組が増えた。結果的に視聴率と社内意識のさらなる低下を招くという悪循環に陥った。経営状況の悪化で、経営者も次々と交代した。
2000年代に入ると、ドラマやバラエティ番組の制作が減少するなど、長期にわたって低迷した。2008年にはPCCWと城市電訊からCEOを招き、経営内容の改善を図った。CEOの1人として加わった王維基(現香港電視網絡社長)が、従来の亞洲電視の中国大陸寄りの報道姿勢を改め、香港市民の考えに沿った内容の報道を目指すと発言した。中国大陸資本のオーナーの反感を招き、わずか10日ほどで辞職に追い込まれた。
その後、台湾の旺旺グループを経営し、中国大陸に広く事業を展開して中国共産党の要人とも関係の深い蔡衍明(Tsai Eng-Meng)が株式を取得し、実質的な経営者となった。蔡による経営権掌握直後の2009年2月には、社員207人を解雇した。その一方、同年の農暦新年前日に放送される特別番組は支出を抑えるため「中国中央電視台春節聯歓晩会」の放送権を購入の上放送した。
2009年には、蔡が経営する旺旺中時グループ傘下の台湾中天電視の番組の放送が始まった。制作費不足が解消し、凍結されていた番組制作も再開した。香港の視点で香港で起きている社会問題や時事、ゴシップをブラックジョークで取り上げるトークバラエティ番組「香港亂噏」を放送するなど、中国政府(中国共産党)に対しても中立姿勢を強めた。ドラマの無綫電視に対し、亞洲電視は知識・教養・文化路線の番組を強めるなどの視聴者層の差別化を図り、YouTubeと連動させた番組作りを取り入れるなど新たなスタイルが注目された。
CMスポンサーに中国企業が多いことなどから、まるで「CCTV10台(中国国営テレビ中国中央電視台第10チャンネル)」だと揶揄された一方、2009年の六四天安門事件20周年では、無綫電視の地上波ニュースが追悼集会などを控え気味に報道して香港市民から批判されたのに対し、亞洲電視では特別番組を組むなど積極的に放送した。
2010年になって、中国大陸の企業家である王征(Wang Zheng)が、株式を購入して亞洲電視の経営に参加する姿勢を見せ、蔡衍明と対立した。香港永住権がない蔡の亞洲電視株保有比率が問題となり、結局蔡は敗北して資本を引き上げ、中天電視由来の番組も放送終了した。2000年代からの一連の騒動は、以前から中国寄りの放送内容と批判されていた亞洲電視にとって大きな痛手となり、次第に視聴者からの支持を失っていった。
2011年、亞洲電視は無綫電視に対し、発表された番組視聴率は正しい結果ではなく、不当な操作を行ったものであるとの記者会見を行い、問題解決を訴えた。これは、同年4月17日に亞洲電視で放送された2011年度の香港電影金像奨の番組視聴率が、同時間帯に無綫電視で放送されたテレビドラマの視聴率に比べて低く、前年に無綫電視が放送した際の視聴率よりも大幅に低いことから、正しい視聴率調査をしているか疑問があるとしたものである。
2011年7月6日、亞洲電視本港台で18時に放送されたニュース番組「六點鐘新聞」で、中国国家主席・中国共産党総書記を務めた江沢民が死去したとのニュースを放送し、世界各国で亞洲電視を引用してこの「訃報」を伝えた。しかし中国政府から直ちに否定され、翌日に亞洲電視は撤回・謝罪に追い込まれた。香港政府は厳重注意と罰金を科し、亞洲電視では当時の報道部責任者を解雇した。
2012年に中華人民共和国への帰属意識を養う「德育及國民教育科」導入に対して、中高生が中心となった反対運動が起こると、亞洲電視本港台の時事評論番組「ATV焦点」は9月3日放送分で、香港の政府や秩序を破壊する「破壊派」と評した。放送直後から香港市民による抗議が殺到し、わずか2日間で4万7千件にも達した。前年の江沢民死去の誤報を受けて、大公報出身で中国共産党寄りの雷競斌が亞洲電視報道部門の責任者となっており、この番組内容も雷の意向によるものとされた。香港通訊事務管理局は、番組内容が著しく公平性に欠けるとして、亞洲電視に対して異例の警告を行った。
2012年11月12日、亞洲電視の内部団体が香港政府庁舎前で催した「關注香港未來」というイベントの生中継を実施した。その内容は香港政府が検討している新たな無料放送局への免許交付への抗議活動であった。放送開始直後から免許交付賛成派の市民が多数集まり、現場は騒然となり、免許申請に関係する立法会議員が団体関係者に問いただそうとした際には、亞洲電視職員との間でもみ合いになった。香港市民から「電波の私物化」との批判が殺到したため、香港通訊事務管理局では亞洲電視に対して注意を行った。
2013年10月には、新たに有線電視系の奇妙電視(香港開電視)とPCCW系の香港電視娯楽(ViuTV)の2社に対して無料放送の免許交付方針が示され、正式に放送が開始されると無綫電視と亞洲電視の両局に大きな影響が及ぶ可能性が指摘された。奇妙電視は1年以上が過ぎても放送開始になる見込みが立たなかったものの、香港電視娯楽は2016年4月6日、ViuTVとして放送を開始した。
2014年になると、2015年末で期限切れとなる放送免許の更新を香港政府に申請した。政府は免許更新について、累積債務の軽減策や、大株主の間で争われていた裁判の推移を見て判断するとされた。2014年11月には、資金不足によって全社員約700人分の11月分給与が未払いとなる問題が発生した。報道部門では、11月分の給与が年内に支払われなければ、1月1日から英語ニュース番組の放送中止と、広東語ニュース番組の時間短縮を行うと表明し、12月31日で約200人の報道部員のうち、30人ほどが退職すると発表した。
12月29日になって、11月分の給与の半額が支払われたが、残り半分と12月分は未払いのままとなった。先にニュース番組の時間短縮を表明した報道部門は予定通り実施する方針を発表し、朝のワイドニュース番組『亞洲早晨』などの番組が、年明け1月1日から放送中止となった。
一方経営陣は「会社の買収に向けて数社と協議しており、新たに出資してくれるホワイトナイトが現れることを期待している」と表明。免許更新に向けて、事態打開に向けての姿勢を見せていた。
2015年1月26日、亞洲電視への出資について4社と交渉を行ったが、いずれも不調に終わった。香港政府で放送を管理する商務及經濟發展局は、3月末に迫った放送免許更新期限を控え、推移を注意深く見守っていると発表した。
2015年4月1日午後、亞洲電視は新たな出資者が現れたと発表したが、商務及經濟發展局は同日18時30分、亞洲電視の無料テレビ放送免許の更新を許可しないと発表した[2][3]。その結果、2016年4月1日をもって亞洲電視は放送停止に追い込まれることとなった。亞洲電視では、今回の決定を不服として、裁判も辞さないと発表した[4]
新たな出資者獲得の道も断たれた結果、資金的には極めて厳しい状態で、2016年4月までの放送継続すら危ぶまれていた。一部報道によれば、閉局日を前倒しにする案のほか、インターネット放送局香港電視網絡から、同局が撮影したドラマを亞洲電視の放送枠を買い取って放送するという形の資金援助を行う申し入れがあったとされる。
2015年秋になり、中国大陸で放送事業を営む資産家が、新たな出資者となることが発表された。給与支払いの度重なる遅延が発生し、報道部員の退職によって人員不足が生じた結果、2015年9月には、朝・昼のニュース番組放送を中止していた[5]が、給与が支払われたことで、放送を再開した。
出資者は一旦切れる放送免許をあらためて取得して放送再開を目指すとしたが、その後も状況改善には至らず、2015年末に再び給与支払い遅延が発生した。その後も状況改善しないまま、農暦新年直前の2016年2月6日からは、全てのニュース番組が放送中止になり、放送条例に違反する状態が発生した。社員(所属タレントを含む)の多くがこの時点で退職し、社員は400人程度に落ち込み、番組制作が困難になった。
2月20日になって、夜のニュース番組のみ放送再開したが、このころには、元の出資者から早期の会社清算を求める訴えが法院に提出され、審理されることとなった。弁護士からは、亞州電視の銀行口座には27万香港ドルしか残っておらず、これ以上の放送継続は困難との声明も出された。
3月3日に、関係者が出廷して法廷審理が行われたが、この時点では放送停止等の勧告は出されなかった。しかし弁護士からは「銀行からの新たな借金も困難となり、4月1日の免許期限までの放送は難しくなった。3月4日付けで、全社員を解雇の上、放送停止し、清算手続きに入る」と発表。3月4日には、予定通り全社員への解雇通知が行われ、18時をもって放送停止するという噂も流れたが、4月1日の免許期限まで放送が続けられるよう、出資者が追加出資を行う方針を発表した。会社に残留している社員によって放送は継続された。
4月2日午前0時、停波。放送を終了し、59年の歴史に幕を閉じた。停波に際しては、放送終了のメッセージなども表示されないまま、放送中の番組[6]が突然放送中断される形で、あっけない幕切れであった。
香港におけるテレビ放送局の倒産・放送停止は佳藝電視に続いて2局目で、世界的に見ても珍しい事例となった。
亞洲電視が使用していた周波数は、4月から放送を開始した『香港電視娯楽(ViuTV)』と、香港電台(RTHK)[7]が使用している。
2016年、それまでの出資者が会社清算を申し立てたが、新たな出資者が負債を含めた株式購入を申し入れ、2017年4月に譲渡が完了。12月12日に香港高等法院によって再建案が認められたのを受けて、12月18日にインターネットテレビ局として試験放送を開始、2018年1月29日より正式放送を開始した。かつて使用していた亞洲電視の放送施設を使用して番組制作を行い、かつて亞洲電視に所属していたタレントが出演している。
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