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薬物などを用いる、スポーツの不正行為 ウィキペディアから
ドーピング(英: doping)は、スポーツの競技で成績を良くするため、運動能力・筋力の向上や神経の大きな興奮などを目的として、薬物を使用したり[1]物理的方法を採ったりすること、及びそれらを隠蔽する行為を指す。
ゲノム編集などによる肉体改造(遺伝子ドーピング)[2]、興奮とは逆に交感神経を抑制して、あがりなど精神的動揺を防ぐ薬物の使用も含まれる。競技力向上を意図しない服薬や飲食物、サプリメントの摂取による「うっかりドーピング」を含めて[3]、オリンピックや競馬など多くの競技で禁止されている。現代では世界反ドーピング機関(WADA)[2]などにより規制と厳重な検査が行われており、発覚すれば違反行為として制裁を科される。ドーピングの極端な事例では、安全な範囲を超えて能力を増幅させるため、運動時の身体の損傷が大きくなり、選手が深刻な後遺症に悩まされる場合もある。
マインドスポーツでは認知機能など脳機能を向上させる目的での使用例もあり、規制が行われている。
「ドーピング (doping)」は、英語の dope(英語発音: [ˈdoup] ドープ)に由来する動名詞で、「dope」の語源は諸説ある。最も一般的に知られている説は、南アフリカの原住民が儀式舞踊を演じる際に飲用していたとされる「dop」というアルコール飲料に由来するというものである[4]。なお、dop を「カフィール族という部族特有の風習」とする説[5]が広まっているが、これは俗説である。
もう一つの説は、オランダ語で「濃いディッピングソース」を意味する doop に由来するというもの[6]。この単語が米語に輸入され、様々な変遷を辿った上で「競技上のパフォーマンスを向上する目的で作られた薬剤の調合」という現在の意味になったという。ちなみに、当初は「麻薬(曼陀羅華の種子と混ぜた煙草の煙)を用いて相手を朦朧とさせた上で盗みを働くこと」を意味するスラングであった。
ドーピング騒動が繰り返されることで、その競技の公正への信頼性に疑念を抱かれ、場合によっては純粋にプレーする選手にも疑惑の目が向けられるなどの弊害が生じる可能性もある。実例としては陸上競技の男子ハンマー投では、アテネ、北京のオリンピック2大会連続でメダル獲得選手がドーピング違反で摘発されたが、繰り上がりでメダルを獲得した国のハンマー投競技関係者ですら、喜びではなく競技への信頼性が損なわれることを懸念する声が並ぶ状態となった。
ドーピング騒動が繰り返されると国家への信頼が落ち[注釈 1]、オリンピック招致などの国際大会招致等に悪影響をもたらすこともある。2020年夏季オリンピックの開催地選考ではマドリードとイスタンブールの両都市にはトルコ・スペイン両国がドーピングに関する批判を受けていたことで、ドーピングに関する質問が相次いだ[9]。
禁止物質及び禁止方法は、世界ドーピング防止規程に基づき、WADAが1年に1度以上改定して公表することになっている「禁止表」と呼ばれる一覧表に列挙されている。現在、禁止表は基本的に毎年10月に公表され、3か月後の翌年1月1日から有効となっている。
市販の医薬品やサプリメントでも禁止物質が多数含まれているため、服用する際には成分表をよく確認するか、JADAと薬剤師会が認定するドーピング防止規程に関する専門知識を持った薬剤師であるスポーツファーマシストに相談するなど、十分に注意する必要がある。代表的な例としては鼻炎薬のエフェドリン、胃腸薬のストリキニーネ、漢方薬の麻黄、のど飴の南天(ヒゲナミン[10])、育毛剤のテストステロンなどがある(茶やコーヒーなどに含まれているカフェインは2004年に禁止物質から除外され、監視プログラムに移行している[11]。)。
禁止物質を含まない成分で作られたサプリメントの中には、JADAが「JADA認定商品」として認定して、そのサプリメントの安全性を保障しているものがある。ただし、成分表に禁止物質に関する記載がなく、WADA/JADA等の機関の認定を受けた製品であっても、何らかの理由で製造過程において禁止物質が混入し当該製品が汚染され、それを競技者が服用したことによって検査で禁止物質が検出された場合には「結果責任として、競技者に過誤又は過失があったとみなす」とされている[12][13]。このような状況では「認定機関による検査実施時と同一ロットで製造された製品以外は一切服用できなくなる」として、ドーピング問題を扱う弁護士から「あまりにも厳しすぎる」という意見も出ている[13]。
禁止物質は3つに分類されている。
競技会外検査で禁止されている物質の「S0.無承認物質~S5.利尿薬および他の隠蔽薬」に加えて、以下のS6.興奮薬~S9.糖質コルチコイドも禁止される。
監視プログラムとは、検査はされるが検出されてもドーピング違反にはならない物質。禁止表の改定の際に、ここから禁止物質へ移されることや、逆に禁止物質からここへ移されることがある。スポーツにおける濫用のパターンを把握するために監視される物質。
2018年監視プログラムでミトラギニン、テルミサルタンが除外された。
禁止方法M1.~M3.は競技会時検査及び競技会外検査の両方で禁止されている。
ドーピング、すなわち競走成績を向上させる目的で薬物を競走馬に投与する行為は近代競馬が行われるようになった当初から行われていたとされる。古典的なドーピングの手法としてはアルコールやカフェイン、覚醒剤などの投与が挙げられる。
日本の競馬においては競馬法第31条で「競走馬の競走能力を一時的に高める薬品又は薬剤を使用した者」への刑事罰を規定し、中央競馬では日本中央競馬会の競馬の施行等に関する規約第56条・第59条・別表2で禁止薬物が規定されている。
薬品によってはドーピングの対象となるかどうかについて、主催者によって異なる判断がなされる場合もある(たとえば欧州では自然界に存在しない化学物質全般が対象となるのに対し、日本やアメリカ合衆国では対象とされない化学物質もある)。そのため競走馬が外国に遠征をした際に、遠征元の国では禁止されていない化学物質が遠征先の国で禁止薬物として検出され、処分が下される例もある(治療薬としての投与であるが、例として2006年ドバイワールドカップにおけるブラスハット、同年凱旋門賞におけるディープインパクト)。
競走馬に対して第三者が故意に禁止薬物を摂取させ、ドーピング検査によって失格に追い込もうとする企てがなされた事例も過去に存在する。日本におけるこの種の代表的な事例としてはバスター事件がある。またステートジャガー事件について、この種の事例だったのではないかという見解がある。2018年に発生した岩手県競馬組合の事例でもこの可能性が疑われたため、容疑者不詳のまま刑事告発に至っている。
競走後ただちに競馬場内にある検体所に移動し尿を採取する(上位入線馬のみ)。その検体は即日で競走馬理化学研究所に送られ、検査を行う仕組みである。禁止薬物が検出された場合は直ちに関係者に事情聴取を行い処分を決定する。場合によっては刑事告発もなされる。
The Global Drug Reference Online(Global DRO)は、競技者及びサポートスタッフに対し、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の現行の禁止表に基づき、禁止物質についての情報を提供するシステム。イギリス、カナダ、アメリカ、日本で販売されている商品名での検索が可能になっている。競技者及びサポートスタッフは検索した際にPDFファイルで出力することで、いつ検索したか、どのような情報を得ていたのか、という証拠を残すことができる[14]。
医学的アドバイスや治療方法を推奨したり、提供しているわけではなく、掲載されている商品や物質を推奨したり、掲載されていない商品や物質についてアドバイスをしているわけではないため[15]、最終的にその商品や物質を使うか否かの判断は競技者及びサポートスタッフに委ねられる。薬に関する問い合わせは 公認スポーツファーマシスト や 薬剤師会アンチ・ドーピングホットライン を使うよう明記されている[15]。
病気をかかえ、治療のために禁止薬物や禁止方法を使用しなければならない競技者のためにTUE(治療目的使用に係る除外措置、英: Therapeutic Use Exemptions)という手続きがある。事前に申請手続きを行い、TUE委員会の審査を経て認められれば、禁止物質や禁止方法を使用できる。通常は使用前に申請を行って承認を得ることになっているが、緊急治療など不測の事態に限っては、使用後の申請でも例外的に認められることがある。どちらの場合も申請すれば全例で禁止物質の使用が認められるわけではないこと、審査には相応の期間がかかる事に留意するべきである。アスリートが、公平、公正に競技に参加する権利。
JADAまたは国際競技団体(International Federations, IF)の検査対象者登録リスト(Registered Testing Pool, RTP) へ登録された競技者(Registered Testing Pool Athlete, RTPA)には、競技会外検査に対応するために居場所情報を提出することが義務付けられている。居場所情報は、四半期ごと、世界ドーピング防止機構(WADA)によって制作されたWEBベースのシステム「ADAMS」で提出する。日本代表チームの合宿情報は、四半期分をJADAに提出する。
居場所情報未提出や検査未了が、12か月の間に3回累積すると、ドーピング防止規則違反となる可能性がある。
競技会時検査について述べる。
競技者へ検査対象となったことを通告し、検査室へ入るまで競技者と行動を共にする担当者は、シャペロン(Chaperone)と呼ばれ、特別な資格は必要ない[17]。
競技会主催者側で検査が円滑に実施できるよう準備し、競技の進行を妨げず規定に則った検査が行われるよう調整し、検査室内の手続きが公正であった事を確認するため競技団体代表者が配置される。
ドーピング検査員(ドーピング・コントロール・オフィサー、Doping Control Officer; DCO)と採血専門員(Blood Collection Officer; BCO)は、JADAによる講習や実地訓練を受け、資格認定を受けている[17]。
日本においては、日本ドーピング防止規程に基づいて、医師と法律家で構成される「日本ドーピング防止規律パネル」が聴聞会を開いて、ドーピング違反をした競技者の主張を聞き、判断をして競技者に課す制裁措置を決定する。
JADAに加盟する団体の競技者がドーピング違反をした場合は、日本ドーピング防止規程に基づいて制裁措置が課せられる。特定物質[注釈 4]を含むドーピング違反であれば、競技者が「特定物質の使用が競技力向上を目的としたものではないことを証明」できれば制裁措置が軽減されることがある。JADAに加盟していない団体の競技者のドーピング違反は、その団体の独自の規程により処分内容が決定される。
JADAに加盟する団体の競技者が制裁措置の内容に不服がある場合には、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)またはスポーツ仲裁裁判所(CAS)に制裁措置決定から21日以内に不服申立てを行い仲裁により解決をする。
日本におけるドーピング問題は、近年まであまり問題視されることはなかったが、同時に禁止薬物についての認識が薄いという問題もあった。1984年のロサンゼルスオリンピックでは、男子バレーボール選手の検体から禁止薬物の成分(興奮剤)が検出された。風邪薬として服用した漢方薬に禁止薬物の成分(興奮剤)が含まれていたことが原因であったが、この時はトレーナーが薬を手配し、本人にその認識が全くなかったことからトレーナーには処分が下されたが、選手本人は免除されている。
日本においては1985年の神戸ユニバーシアードが契機となり、国内に初のドーピング検査機関が設けられた(現在はLSIメディエンスが唯一検査業務を担っている)。ドーピング問題はこれまでの所、さほど深刻なものとなってはいないが、それでもドーピングで出場資格停止・競技成績抹消を課される選手が年間数例程度出ている。
国民体育大会(国体)(2024年からは国民スポーツ大会)を主催する日本スポーツ協会はJADA(後述)加盟団体の一つで、2003年の静岡国体から、ドーピング検査を実施している。アンチ・ドーピング 使用可能薬リスト を公開し、処方薬・市販薬のホワイトリストを例示している[18]。
日本におけるスポーツ競技団体(プロ・アマチュア・プロアマ統括団体)の多く[19]は2001年に設立された公益法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)に加盟し、国際オリンピック委員会(IOC)や世界アンチ・ドーピング機構(WADA)、各国の国内オリンピック委員会(NOC)等のドーピング・コントロール機関と連携しながら、競技会検査や競技会外検査の実施をしている。
しかしプロスポーツ団体である、日本野球機構(NPB)、日本ゴルフツアー機構、日本相撲協会、日本ボクシングコミッションはJADAに加盟していない。それぞれ独自にJADAとは異なる基準で対処しているため、JADA基準でもクリーンと言えるかどうか不明である。
アマチュア競技を統括する全日本野球協会、日本ゴルフ協会、日本相撲連盟、日本ボクシング連盟は、JADA加盟団体である。
産業技術総合研究所は2018年、「ドーピング検査標準研究ラボ」を設置した。2020年東京オリンピックに向けた検査体制強化の支援を求めたWADAの要請に対応した。ドーピング規制の進展で禁止薬物が数百種類にも増えているため、定量核磁気共鳴分光法などの分析・検出技術を高度化する[20]。
以上のような経緯を受けて、2006年にNPBがシーズン中に啓蒙期間として罰則なしのドーピング検査を104人に実施したところ、その中に陽性事例があったことを長谷川一雄コミッショナー事務局長が発表(ただし悪質ではないと主張。氏名は公表せず)[25]。
2007年以降、同機構は機構内にアンチ・ドーピングガイドを掲げ[26]、独自の方針でドーピング検査を実施・公表している。違反者は、NPB医事委員会の報告の後にNPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会で審議され[27]、その結果により譴責・10試合以下の公式戦出場停止・1年以下の公式戦出場停止・無期限出場停止のいずれかが科される[28]。これまでに、リッキー・ガトームソン(20日間出場停止)、ルイス・ゴンザレス(1年間出場停止)、ダニエル・リオス(1年間出場停止)、井端弘和(譴責)[注釈 5]、ジャフェット・アマダー(6か月間出場停止)、ジョーイ・メネセス(1年間出場停止)、サビエル・バティスタ(6か月間出場停止)の7人が制裁を受けた[29]ほか、吉見一起が疲労回復目的で「ニンニク注射」と呼ばれる点滴を受けていたことが判明したが、NPBは「吉見選手に対する治療は医学的に正当な適応による治療行為の範疇に入る」として不問とした[30]。
NPBの実施方法として言われているのは、「指定した試合」[31]でベンチ入りメンバーでくじ引きをして各チーム2人ずつの尿を試合後に関係者立会いの元で採取し、専門機関に分析させる方法である[32]。もっとも、対象となる試合は年間25~30試合程度・100人程度であり、「例えクロの選手がいたとしても、検査対象に当たる可能性は極めて低い」とされている[32]。元千葉ロッテマリーンズ捕手の里崎智也は、検査のくじがあたったのは引退するまで1度だったと述べている[32]。2017年度シーズンから血液検査も実施される[33]。それでも2022年9月時点では平良海馬が「野球選手はドーピングに引っ掛かるから風邪薬なんか簡単には飲めないんだよ」とYouTubeチャンネルの配信でリスナーからの「風邪薬は何を飲んでいるか?」との質問に対して回答している[34]。
これに対して、MLBでは、メジャーリーグベースボールのドーピング問題が1990年代後半から2000年代前半にかけて問題視されたため、2004年から対策に乗り出した。2009年の1年間で3722人の検査を実施したとの報道がある[35]。筋肉増強などの目的でステロイドに代わって普及したhGH(ヒト成長ホルモン)は従来の尿検査では検出が難しいとされてきたため、2013年1月10日、MLB機構と選手会がシーズン中でもhGHを摘発するための抜き打ちの血液検査を実施する事で同意し、現在は血液検査まで課されることになっている。
2018年1月9日、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は、国内で初めての「他者からの薬物の混入」によるドーピング違反発覚を発表した[40]。このような行為をパラドーピングという[41]。
2017年9月に開催されたカヌー・スプリント日本選手権(石川県小松市)で、鈴木康大がライバル選手をドーピング違反に陥れるため同大会で優勝した小松正治の飲み物に禁止薬物である筋肉増強剤メタンジエノン[注釈 6]を混入させ、ドーピング検査で陽性となっていたことがわかった[40]。同年12月13日付で、鈴木には約8年間の資格停止および日本カヌー連盟からの除名処分が決定した。小松の同大会での成績は抹消され、同年10月20日付で通知された暫定的資格処分は科さずに救済した[40]。なお、鈴木はドーピングとまた別に、小松や実力が同程度の選手5~6人に対してGPS機器の窃盗やパドルの破壊などの妨害活動を行ったと自白した。
この報道を受け、元陸上選手の為末大がTwitterで「誰かから渡された飲み物は飲まないこと」「ペットボトルは必ず開けた時に音がするか確かめるよういわれた」とツイートしている[42]。
2018年6月16日に開催された、レスリング全日本選抜選手権(東京駒沢体育館)で、男子グレコローマン77kg級準優勝[43]の阪部創(自衛隊体育学校[44])から、競技会検査において実施されたドーピング検査で禁止物質(S5.利尿薬および隠ぺい薬)であるアセタゾラミドが検出された[45]。その後B検体からも検出されたため、同大会を含めた暫定的資格停止期間の開始日である8月16日までに獲得したすべての個人成績が失効し、メダル・得点・褒章が剥奪された[45]。
競技者が検査機関に持ち込んだ当該医薬品からアセタゾラミドが検出されたことから、競技者に過誤も過失もないことが認められ、暫定的資格停止は2019年2月22日に取り消され、資格停止は課されないこととなった[45]。競技者は2019年6月の全日本選抜選手権で復帰戦に臨んだが、初戦で敗れた[46]。
同年3月4日、沢井製薬は、胃炎・胃潰瘍治療剤「エカベトNa顆粒66.7%『サワイ』」にアセタゾラミドが混入した疑いがあるとして、自主回収すると発表した[47]。同年4月22日、沢井製薬、原薬を販売した陽進堂が連名で提出した報告書をJADAが公開した[48]。陽進堂の業務提携先で原薬製造元であるインドのNAKODA社の製造ラインで、生産設備を共有しているエカベトナトリウムにアセタゾラミドが残留し、最終製品までキャリーオーバーしたことが原因との調査結果を発表した[49]。
国内のアンチ・ドーピング規則違反決定は、JADAが一般開示している[50]。
第1種ブラックリスト
次のような行為を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストに登録され、登録された選手および関係者は永久追放処分とし、理由を問わず生涯除外されない。
第2種ブラックリスト
IOCの第2種ブラックリストの登録はドーピング検査で陽性反応または検査拒否を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストの対象外であることを条件に、登録された選手および関係者は無期限の出場停止、期限付きの出場停止、各国の立法によっては懲役刑または罰金刑、追加処分保留などがあり、処分完了後は除外される。但し懲役刑または罰金刑に関してはIOCの審査により第2種ブラックリストに登録される可能性がある。
覚醒剤などの違法薬物の使用や、医師等の処方が必要な管理薬物の不正入手などによる場合は当然違法であり、薬物の種類によっては単純な所持だけでも厳罰になることもある。一方で一般に医師などにより処方された薬物を自分自身に投与することは、たとえそれが本来の目的外の使用であり、結果として健康に良くない行為であったとしても個人の自由の範疇にある限り、違法性を問うことは難しい(愚行権)。
ところが現実には、プロスポーツやオリンピックなどの公的大会では、選手が自己の意思により正当な手続きを経たものであったとしても、ドーピングはその行為をもって大会参加や入賞資格の剥奪理由とされ、あるいは解雇の対象とされる。この場合、他者危害の原則(他人に危害を加えない限り自己のことは自己で決定する権利を持つ)を逸脱した(かのように見える)ドーピング規制が現実の財産権の侵害(解雇など)や名誉の毀損(タイトル剥奪など)をもたらすことになり、ドーピング規制の倫理的・法的根拠が問題となる。
倫理学者の加藤尚武は、3つの面からドーピング規制を説明する[54]。
以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report[57]』より
尿検査 | 血液検査 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
競技時検査 | 競技外検査 | 競技時検査 | 競技外検査 | ||||||||
分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF |
99,130 | 260 | 1,073 | 61,739 | 111 | 247 | 2,250 | 0 | 2 | 5,375 | 1 | 4 |
尿検査 | 血液検査 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
競技時検査 | 競技外検査 | 競技時検査 | 競技外検査 | ||||||||
分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF | 分析検体数 | ATF | AAF |
11,004 | 0 | 47 | 11,560 | 0 | 9 | 680 | 0 | 2 | 796 | 0 | 2 |
血液検査 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
hGH検査 | HBOCs検査 | HBT検査 | |||||||||
競技時検査 | 競技外検査 | 競技時検査 | 競技外検査 | 競技時検査 | 競技外検査 | ||||||
分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF |
903 | 0 | 3,565 | 1 | 422 | 0 | 1,335 | 0 | 270 | 0 | 600 | 0 |
競技時検査 | 競技外検査 | ||
---|---|---|---|
分析検体数 | AAF | 分析検体数 | AAF |
2,045 | 71 | 1,627 | 21 |
以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report[58]』より
禁止物質、禁止方法 | 陽性反応検出数 | 割合 |
---|---|---|
S1.蛋白同化薬 | 1479 | 48% |
S6.興奮薬 | 474 | 15% |
S5.利尿薬および他の隠蔽薬 | 389 | 13% |
S9.糖質コルチコイド | 252 | 8% |
S4.ホルモン調節薬および代謝調節薬 | 145 | 5% |
S3.ベータ2 作用薬 | 122 | 4% |
S2.ペプチドホルモン、成長因子および関連物質 | 91 | 3% |
S8.カンナビノイド | 73 | 2% |
S7.麻薬 | 26 | 0.8% |
P2.ベータ遮断薬 | 25 | 0.8% |
M2.化学的および物理的操作 | 3 | 0.1% |
P1.アルコール | 0 | 0% |
M1.血液および血液成分の操作 | 0 | 0.0% |
陽性反応が検出された回数が多い禁止物質の主な内訳(物質名、陽性反応検出数)
以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report[59]』より
2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 |
---|---|---|---|---|---|
6,082 | 6,610 | 10,795 | 18,223 | 23,877 | 22,849 |
スポーツと薬物との関わりは紀元前からのものである。古代オリンピックにもあぶった牛の骨髄のエキスを飲む、コカの葉を噛むなど、天然由来の薬物を摂取した選手たちの記録が残っている。ロシアについてはロシアにおけるドーピングも参照のこと。
頭脳を使うマインドスポーツにおいては、脳機能を高める目的でスマートドラッグが使用されることがあり、競技によっては禁止されている。
アデロールはナルコレプシーとADHD治療薬であるため容易に入手可能であり、Cloud9に所属するコリー・フリーセンなどが使用を公言している(eスポーツにおける不正行為)[84]。
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