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国立大学の設置・運営をする法人 ウィキペディアから
国立大学法人(こくりつだいがくほうじん、英語: national university corporation)とは、国立大学およびその附属学校を設置・運営する法人。
国立大学法人の業務の範囲は、国立大学法人法第二十二条により、次のように規定されている。
ただし、「研究の成果の活用を促進する事業」に出資する際には、文部科学大臣の認可を受けなければならない。
国立大学法人法には、業務の公共性、透明性及び自主性、評価および終了時の検討、財務および会計の三領域にまたがる独立行政法人通則法の多数の規定が準用される。すなわち、国立大学法人は独立行政法人の一形態であり、政府の施策においても国立大学法人は独立行政法人と同様に扱われている。2009年12月25日の閣議決定「独立行政法人の抜本的な見直しについて」では、全ての独立行政法人の全ての事務・事業について、聖域無く厳格な見直しを行い、見直しの結果、独立行政法人の廃止、民営化、移管等を行うこととされたが、国立大学法人もこの見直しの対象とされている。このほか、中期目標・計画とかかわりなく運営費交付金が定率削減されたり、評価結果とかかわりなく文部科学大臣が「組織及び業務全般の見直し」の方針について指示を下していることなどから、法人化以前に比べて、政府の統制は格段に強まっていると指摘される。国立大学法人法第三条において、「国は、この法律の運用に当たっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」とされているが、この条項は事実上、有名無実にされていると言ってよい。
法人化によって役員・職員は公務員ではなくなり、みなし公務員[1]となった。そのため国家公務員法や人事院規則等の規定が適用されなくなり(非公務員化)、労働基準法、労働安全衛生法等に基づいて各国立大学法人が自主的に就業規則を定めることとなった。このことにより、例えば、国家公務員法等による兼業規制が緩和されたり、産学連携等を容易に行うことが可能となった。
職員(臨時的任用職員やポスドクを除く)の宿舎は、従来どおり国家公務員宿舎の文部科学省割り当てを利用する事が可能である。健康保険、年金保険については、国家公務員共済組合法第124条の3の規定により、職員(国家公務員共済組合法の対象となる)[要校閲]とみなされるため、文部科学省共済組合に加入する(臨時的任用職員やポスドクは、常時勤務を要する職員でないため対象外)。雇用保険については、雇用保険法第6条第6号の「国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの」として厚生労働省令で指定されれば適用除外になったが、雇用保険法施行規則第4条で、国立大学法人職員は指定されなかった。つまり厚生労働大臣が諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認めなかったわけである。このため、雇用保険の加入が義務付けられた分、経済的負担は増加した(ただし退職時には失業等給付が受けられるようになった)。海外出張については、従来は公用旅券の発給が受けられたが、国立大学法人化以降は、政府(各省庁)や国際機関の依頼、もしくは旅費が支給される出張等に限定された。
2016年の第190回国会で、国立大学法人法が改正され、指定国立大学法人制度が制定された[3][4]。指定を受ける国立大学法人は国立大学法人法の本文には盛り込まれず、文部科学大臣が指定する制度となっている。この点は同時期に制定され、法文内に機関が指定されている特定国立研究開発法人制度と異なる。
第3期中期目標期間(2016年度~2021年度)における申請要件は、「研究力」に関する2つの国内ランキング、「社会との連携」に関する3つの国内ランキング、「国際協働」に関する3つの国内ランキングが提示され、それら3つの領域において各々1つ以上が国内10位以内に位置している国立大学法人が申請できるとされた[5]。ここでは東北大学、東京大学、京都大学、東京工業大学、名古屋大学、大阪大学、一橋大学の7大学法人が申請した。結局、2017年6月30日に東北大学、東京大学、京都大学の3大学法人のみが指定され、残る4法人は指定候補とされた[6]。指定候補のうち東京工業大学、名古屋大学の2大学法人が再審査を申請し、2018年3月20日に追加指定された[6]。その後、大阪大学が再審査を申請し、2018年10月23日に追加指定された[6]。2019年9月5日には残っていた一橋大学も指定された。2020年10月15日には新たに東京医科歯科大学、筑波大学の2大学法人が指定された。2021年11月22日には、九州大学が追加指定された[7]。2021年11月現在、旧帝国大学の内北海道大学のみが指定国立大学法人に申請しなかったため不認定状態である。
申請した法人 | 本部所在地 | 指定年月日 |
---|---|---|
国立大学法人東北大学 | 宮城県仙台市青葉区(北緯38度15分15秒 東経140度52分25秒) | 2017年6月30日 |
国立大学法人東京大学 | 東京都文京区(北緯35度42分48.4秒 東経139度45分44.1秒) | |
国立大学法人京都大学 | 京都府京都市左京区(北緯35度1分34.1秒 東経135度46分50.9秒) | |
国立大学法人東京工業大学(現:東京科学大学) | 目黒区(北緯35度36分21.4秒 東経139度41分0.8秒) | 東京都2018年3月20日 |
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学[注 1] | 愛知県名古屋市千種区(北緯35度9分12秒 東経136度58分4.7秒) | |
国立大学法人大阪大学 | 大阪府吹田市(北緯34度49分7秒 東経135度31分26秒) | 2018年10月23日 |
国立大学法人一橋大学 | 国立市(北緯35度41分37.46秒 東経139度26分42.32秒) | 東京都2019年9月5日 |
国立大学法人東京医科歯科大学(現:東京科学大学) | 文京区(北緯35度42分5秒 東経139度45分55秒) | 東京都2020年10月15日 |
国立大学法人筑波大学 | 茨城県つくば市(北緯36度6分41秒 東経140度6分41秒) | |
国立大学法人九州大学 | 福岡県福岡市西区(北緯33度35分49秒 東経130度13分25秒) | 2021年11月22日 |
《表の注記》
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2023年の国立大学法人法の改正で、国によって「特定国立大学法人」と指定された大学には、学長選考・監察会議と学長が協議の上、文部科学大臣の承認を得て学長が任命する委員からなる「運営方針会議」を設置することが義務付けられた[8]。
同改正法では、学長は運営方針会議に大学法人の運営状況について報告する必要があるほか、運営方針会議は学長に解任の必要があると認められた場合、学長選考・監察会議に報告する必要があることが定められている[9]。
2024年時点で、特定国立大学法人には東北大、東京大、東海国立大学機構(岐阜大、名古屋大)、京都大、大阪大が指定されている[8]。
国立大学法人の統合にあたって、国立大学法人法の中で具体的に設置者の国立大学法人名とその設置する国立大学名を規定している別表第一を改正することが必要になる[注釈 1]。
同法が施行された当初は、国立大学法人は1つの国立大学しか運営できなかったために、国立大学法人の統合は、存続する法人(新設合併の場合は新設法人)が設置する大学以外の大学を消滅させることを伴うものであった。
2019年5月17日の通常国会で国立大学法人法の一部改正を規定した「学校教育法等の一部を改正する法律(令和元年5月24日法律第11号)」(文部科学省)の成立に伴い、「国立大学の1法人複数大学制」(アンブレラ方式)が導入された。これにより、統合後の国立大学を1つに限られる制約が無くなった。これまで下記の通り国立大学法人の統合が協議されており[12]、その中から1法人が複数の国立大学を設置運営する形式の統合が実現している。
統合年月日 | 統合前の国立大学法人 | 統合前の国立大学 | 統合後の国立大学法人 | 統合後の国立大学 |
---|---|---|---|---|
2020年4月1日 | 国立大学法人岐阜大学 | 岐阜大学 | 国立大学法人東海国立大学機構 [注 1] |
岐阜大学 |
国立大学法人名古屋大学 | 名古屋大学 | 名古屋大学 | ||
2022年4月1日 | 国立大学法人小樽商科大学 | 小樽商科大学 | 国立大学法人北海道国立大学機構 [注 2] |
小樽商科大学 |
国立大学法人帯広畜産大学 | 帯広畜産大学 | 帯広畜産大学 | ||
国立大学法人北見工業大学 | 北見工業大学 | 北見工業大学 | ||
2022年4月1日 | 国立大学法人奈良教育大学 | 奈良教育大学 | 国立大学法人奈良国立大学機構 [注 3] |
奈良教育大学 |
国立大学法人奈良女子大学 | 奈良女子大学 | 奈良女子大学 |
《表の注記》
国立大学の法人化に際して国からの支援が縮小されることや、運営に国の管理が行き届かなくなることが懸念された。
平成27年に国立大学協会がまとめた国立大学法人の直面する問題点としては、運営費交付金、附属病院、施設整備費補助金、寄付金税制、競争的資金、制度・規制の6項目が取り上げられている。
運営費交付金が法人化後11年間で12%減少した一方、消費税、電気料金、電子ジャーナル料などで諸経費が高騰し、常勤教職員の減少、教員の多忙化による論文数の停滞、学長裁量経費の確保も困難となる悪影響が顕著に出たこと、私立大学とは異なる税制上の扱いのため、寄付金額が伸び悩んでいること、競争的資金の使い勝手の向上が必要といったことが示された[42]。
佐和隆光は滋賀大学学長時に、科学・学術研究の国際競争力が低下したこと、運営費交付金が毎年1%減額されるために、教員人件費の徹底的な節約を実施したことにより、教育の質の低下が起きたこと、外部資金の獲得競争では東京大学の一人勝ちが続くなど、大学間格差が拡大したことを指摘している[43]。
学研の2013年の「国立大学法人化」特集記事は、入試ではこれまで国立大学協会の決定が尊重されていたが、法人化により各大学の裁量が増えた後は、京都大学の入試で後期日程が廃止されたことや、国立大学協会の通知にもかかわらずセンター試験の「地歴・公民」での4単位科目の選択指定が一部大学に留まったことなどを挙げ、受験生にとっては法人化が入試の複雑化・混乱を生じたというマイナス面を指摘している[44]。同記事は、少子化を背景に国立大学の統廃合が避けられないことと相俟って、将来的には法人化を通じて大学は数種の類型に機能分化(種別化)していくと予想する。
法人化前に行われて来た学長選挙と異なり2012年時点で全体の9割ほどの国立大学法人が学長選出に際して教員(一部の大学では教職員)による意向投票が行われているが、これまでに滋賀医科大学、岡山大学、新潟大学、大阪教育大学、山形大学、高知大学、九州大学、富山大学、香川大学、東京海洋大学、京都工芸繊維大学、北海道教育大学で学長選考会議によって意向投票で2位または3位となった候補を学長に選出しており、滋賀医科大学、新潟大学、高知大学、北海道教育大学では訴訟も起きた。2005年から2007年まで文部科学省事務次官を務めた結城章夫が2007年に山形大学の学長に選出されている[51]。
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