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調理用の刃物 ウィキペディアから
包丁(ほうちょう、庖丁[1])は、多義語であるが (cf. wikt)、一つには「包丁刀/庖丁刀(ほうちょうがたな)」の略称で[2][3][4]、調理に用いる刃物の総称[5][6][7][8][9][3][4](その日本語名称)であり、係る語意においては包刀/庖刀(ほうとう)ともいう[10]。
英語では "kitchen knife" が最も近い語で、日本語にはこれを音写した外来語「キッチンナイフ[11]」もある。
漢語(中国語)で「庖」は「台所」を意味する。一方、古代の漢語における「丁」は、担税を課することに由来し、「園丁」や「馬丁」という熟語があるように「その職場で働く成年の男性」の意味合いで用いられていた。「庖」と「丁」の合成語である「庖丁(拼音:páodīng)」は「台所で働く成年の召使男性」を指すものであった。日本語「庖丁/包丁」の語義の一つには「料理人」「料理役」「料理番」があるが。
また、『荘子』の「養生主篇」に、とある庖丁が魏の恵王の御前で見事な刀捌きを披露し、牛一頭を素早く解体して見せ、王を感銘させたという言い伝えがある[12]。この“庖丁(料理人)”の使用した調理刀を、のちに「庖丁」と呼ぶようになったという。
日本語にもこの語が移入され、当初の読みは漢音の「ハウテイ(現代仮名遣い:ホウテイ)」か呉音の「ベウチャウ(現代仮名遣い:ビョウチョウ)」とされていたが、いつしか転訛して「ハウチャウ(現代仮名遣い:ホウチョウ)」となった。
奈良時代から平安時代初期にかけての日本では、調理用の刃物は他と区別されることなく大和言葉で「刀」全般を意味する「かたな」の名で呼ばれていた[13]。漢語名も他と区別されることなく「雑用のこがたな(※小刀)」全般を意味する「刀子(トウス)」[14][13]の名で呼ばれていた。
日本語において、庖(台所、厨房)で働く専門の職人を「庖丁者(ほうちょうじゃ)」または「庖丁人(ほうちょうにん)」と呼ぶようになったのは、平安時代末期ごろと考えられている[15][16][17]。『徒然草』の第231段には、園の別当入道(その の べつとう にゅうどう。藤原基氏、園基氏)の話として「園の別当入道 さうなき庖丁者なり〔略〕(解釈:園の別当入道は並ぶ者の無い料理人である)」と記されている[15][16]。他方、「庖丁師(ほうちょうし)」も「庖丁者」「庖丁人」の同義語ではあるが[18]、明応9年(1500年)頃(戦国時代中期)に成立した『七十一番職人歌合』の57番に見られる「はうちゃうし(庖丁師)」を詠んだ和歌「おほ鯉のかしらを三にきりかねて かたわれしたるあり明の月〔略〕(書き下し:大鯉の頭を三つに切りかねて、片割れしたる在明の月。〔略〕 解釈:大きな鯉の頭を三枚におろし損ねて。[おろし損ねた大きな鯉の頭のように]半分に割れた有明の月よ。〔略〕)」が例に挙げられているように[18]、前2者より遅れて現れたと思われる。
庖丁者・庖丁人が用いる刀を「庖丁刀(ほうちょうがたな)」と呼ぶようになったのも「庖丁者」および「庖丁人」が成立したのと同じ頃で、『今昔物語集』の巻26に見られる一節「喬なる遣戸に庖丁刀の被指たりけるを見付て」あたりが初出とされている[2]。さらに「庖丁刀」の略語としての「庖丁」が用いられ始めたのも同じ『今昔物語集』の巻28に見られる一節「鞘なる庖丁」あたりからとされている[17][注 1]。
常用漢字が制定されて以来現在の日本では、「庖」は常用漢字外のため、「包」を代用字として書き換えて用いることが、どちらかと言えば多い。一方、現代中国語では「庖丁」という語は、日本の庖丁を指す語以外の、旧来の意味では死語になっており、「菜刀」または「廚刀(簡体字:厨刀)」と呼ばれている。
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包丁という道具を概念として捉えた場合、考古学でナイフ形石器と呼ばれる遺物はこの部類に含まれる。
稲作などと共に発達してきた石包丁(いしぼうちょう)は、穀物の穂を摘み取る農具が主な用途であった。は磨製石器であることが多いがえ、打製石器のものもある。
金属器時代の包丁のほとんどは金属製である。現在は鉄を主材とした合金製が主流で、そのほとんどはステンレス製であるが、チタン合金製などもいくらか普及してきた。
窯業製品の包丁は、ファインセラミックス(※粘土などを成形・焼成して作られる陶磁器やガラスといったセラミックスをさらに精製した製品[19])が京セラで開発され、以降この素材を用いた製品が次第に普及するようになった。
旧来の金属包丁や陶製包丁(※太平洋戦争中の金属類回収令発布以降の日本で用いられた)と区別して、これを「ファインセラミックス包丁( - ぼうちょう)」「セラミック包丁」などという。英語では "ceramic knife" といい、日本語にもこれを音写した外来語「セラミックナイフ」がある。
なお、1984年(昭和59年)に京セラが発売して以降、ファインセラミック包丁の最大手に成長した[19][20]。京セラの市販品やプレスリリース情報からは、「ファインセラミックス包丁」「セラミック包丁」「セラミックナイフ」「ファインセラミックナイフ」が用例として確認できる。
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形や大きさが特殊なものには名称が与えられている場合がある。また、包丁の枠ではなく広く刃物の枠でその特徴を捉えた名称も、包丁の名称として用いられる例がある。
あくまで日本視点での分類ではあるが、日本の料理と西洋の料理を区別してそれぞれが用いる包丁を「和包丁」「洋包丁」と呼んで区別した。
和包丁(わぼうちょう)とは、日本料理に用いる包丁の総称である[22]。技術面では、日本古来の鋼と軟鉄を接合して作られた包丁と定義される[21]。軟鉄の地金と鋼を鍛接した構造のものが多い。片刃のものが多く[22]、右利き用の片刃包丁の場合、右手に包丁を持つと刃先は左側に偏る特徴がある[25]。砥石で研ぐとき軟鉄が先に減って自然と鋭い刃が付くのも特徴[21]。また、柄は打ち込んであるため、腐蝕しても簡単に打ち変えることができる[21]。菜切り包丁・出刃包丁・刺身包丁など、多くの種類がある[22]。和包丁は構造的に刃部と柄の接合強度が弱い。これは日本刀の柄と同様、湿潤気候下で錆びやすい鉄製品ゆえ分解整備性を優先したことや、近代以前に高価だった鉄の使用量を削減するためだが、獣肉食の普及とともに堅い腱(スジ)や太い骨の継ぎ目などを断ち切る性能に劣る点から洋包丁の普及に繋がった。現代では和包丁伝統の製法や形式に、洋包丁の柄の構造を採り入れるなど改良形態も作られている。
中華料理で用いられる包丁は、現代中国語で「菜刀」もしくは「廚刀(簡体字:厨刀)」という。基本的には、方頭刀(※後述)型の身幅が大きくて四角い万能包丁を指し、多くはこのタイプを意味するが、実際にはそれ以外の形の包丁も存在する(※後述)。
日本語では「中華包丁(ちゅうかぼうちょう)」という。また、方頭の刃を有する刀を中国語でも日本語でも「方頭刀」ということから、広く知られている方頭刀型の中華包丁をこの名で呼ぶこともある。なお、中華包丁には戦後(第二次世界大戦後)に普及した日本製も存在する[27]。形は中国の方頭刀型と似通っているが、和包丁に特有の鍛造技術を活かした日本独自のものとして開発されてきた[27]。
英語では、中華包丁全般を "Chinese chef's knife" といい、方頭刀型は "Chinese cleaver(チャーニーズ クリーバー)" と呼ばれる。
中華包丁は、刃の厚さを基準に厚刃・中厚刃・薄刃の3種類に分けることができる[27][28]。厚刃は職人が使う分厚く重いタイプで、骨付き肉や魚の硬い骨を叩き切ることができ[27]、間違えば指を切り落としかねない威力がある[28]。中厚刃は鳥の骨やちょっとした魚の骨なら切ることができる万能型[27][28]。薄刃は柔らかい肉や野菜・魚の身などを切るのに向いており、飾り切りなどにも用いられる[27]。
中華料理ではほとんどの食材を中華包丁のみで処理する。
主に西洋料理で用いられる包丁を、日本語では洋包丁(ようぼうちょう)[24]、あるいは、西洋包丁という。多くが両刃である。刀身の全てが鋼で作られている[21]ものが基本形。鋼の板をプレス機で打ち抜いて製造するのが一般的である[21]。近年は、ステンレス製や、ファインセラミックス製のものもある。
洋包丁は、全体が鋼で作られているもの(全鋼)と、鋼(刃物鋼)の両側面を軟鉄で挟んだ割込み(ないし三枚)構造のものが一般的である。和包丁は、軟鉄の地金と鋼を鍛接した二層構造の物が多い。二層構造の包丁は研ぐと地金の部分は白く曇るため「霞」と呼ばれる。一方で、鋼のみで作られた和包丁もある。焼き入れ時に峰側に"土置き”することでマルテンサイト変態を阻害して硬軟差をつけたものが「本焼き」と呼ばれるもので、高級品である。和包丁のなかでも菜切包丁のような両刃のものは洋包丁と同様に「割り込み」構造をもつ。
各部の名称は、日本語の場合、日本刀を始めとする古来の刀とほとんどの部分で共通している。
材質は、和包丁の場合、朴の木(ほおのき)が一般的であるが、ほかに桜材や紫檀、黒檀などもある。楕円や、利き手に応じて栗の実の形に削られるが、八角断面に成型される場合もある。洋包丁は合成樹脂や強化木製が多く、ローズウッドやマホガニー材のものもある。
桂の有るタイプと無いタイプがある。洋包丁では刀身と柄が一体構造となったものも多い。
和包丁は木製の鞘を用いる場合がある。鞘に収める場合は、刃を完全に乾燥させてからでないと、中で錆が進行する可能性がある。
使用後は水などで汚れを洗い流し、水分を完全に拭き取っておく。水分を残すと、刃が腐蝕する金属でできているものや木製の柄があるものでは腐朽が起こる。しばらく使わない場合は、完全に乾かし、古新聞など油を含んだ紙(※新聞紙はインクが油を含む)で刃を包んでおく。
両刃の洋包丁の場合、刃の角度は20度から40度程度[要出典]であり、砥石に対する角度はその半分となる。刃の角度が鋭角であるほど切れ味は良くなるが、刃の耐久性は低下する。研ぐ際には包丁を持つ右手で刃が砥石に当たる角度を一定に保持することが重要である。左手は指先で研ぐ箇所を砥石に押さえつける。切っ先から根本にかけて押さえる場所をずらしつつ刃全体を満遍なく研いでいく。一方の面が十分に砥げた場合、刃を裏面から触ると返りが出ていることが確認できる。反対側の面からも同様に研いで、その後両面を少しづつ研いでいき、どちらの面にも返りが出ないようになれば研ぎは完了である。
片刃の和包丁の場合は鎬があるため角度は決めやすいが、漫然と研ぐと柔らかい地金の部分が減りやすいため角度が寝てしまいがちである。刃の鋼の部分を意識して研ぎ、それに合わせるように地金を研ぐようにすると良い。鋼と地金では砥石の上での抵抗が違うため、研がれている箇所は感触から判別できる。裏側はあまり研がず返りを取る程度にする。裏を研ぎすぎると鋼が薄くなり、包丁の寿命を縮めるため、注意しなければならない
砥石は粗さにより、荒砥、中砥、仕上げ砥に大別される。荒砥は欠けを取るなど大きな修正が必要な場合に使用され、中砥で基本的な研ぎを行い、より繊細な切れ味を得るためにはその後に仕上げ砥が使用される。合成砥石の場合、粒度の数値が大きいほどきめの細かいものになる。砥石は表面が平らであることが重要である。砥石は使用につれ中央の部分が減って凹みがちであるが、そのような状態では正しい刃の角度を得ることは難しい。凹んだ砥石は砥石同士を磨り合わせて平らに修正しなければならない。
洋包丁の手入れにはスチール棒 (en:Honing steel) が使用されることがあるが、これは刃先の微細な鋸歯を立て直して切れ味を回復させるものである[32]。比較的柔らかい鋼材の包丁に有効で、刃先を数回こすりつけて研ぐように使用するが、砥石とは異なりあまり刃を削らない[32]。セラミック製やダイヤモンドの粒子をコーティングしたものもあり、使用法は同様であるが、これらは伝統的なスチール棒とは作用がやや異なり、砥石と同様に刃を削るものである[32]。
包丁はまな板とともに、食中毒菌に汚染されやすい。ふきんで包丁をぬぐっただけでは、見た目にはきれいでも、細菌が大量発生していることもある。また刃だけでなく、柄は食品をさわった手で握るので、意外と汚染されている。こまめに洗浄し、熱湯をかけて消毒する[33]。
和式の包丁では、柄の刃を差し込んである部分に水がしみ込み、細菌の巣となりやすい[33]。長年のうちには中子が腐蝕してくることもある。そこで柄の差し込み口の隙間に蝋をたらして埋め、水の浸込みを防ぐ「柄埋め」という処理で、これらを防ぐ。
ここでは、大きな流通実績のあるブランドを挙げる。包丁のブランドは、一企業に属するものもあれば、生産地あるいは企業が複数で立ち上げたものや、有名デザイナーの名を冠したものなどもある。
調理用の刃物以外にも日本語で「包丁/庖丁」の名をもつ特殊刃物が複数ある。それらは調理用の刃物を意味する語「包丁/庖丁」からの派生語である。
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