高尾山
東京都八王子市にある山 ウィキペディアから
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高尾山(たかおさん)は、東京都八王子市にある標高599メートル(m)の山。明治の森高尾国定公園及び東京都立高尾陣場自然公園に位置[1]。東京都心から近く、年間を通じて多くの観光客や登山者が訪れる。古くから修験道の霊山とされた。
関東山地(秩父山地)の東縁に位置する山のひとつ。多摩川水系と相模川水系の分水嶺となっている笹尾根の東端にあって明治の森高尾国定公園に指定されており、キャンプやバーベキュー、植物の採取、鳥類の捕獲などが禁止されている。 2020年に東京都内で初めて「霊気満山 高尾山〜人々の祈りが紡ぐ桑都(そうと)物語〜」として、文化庁が認定する「日本遺産」に認定された[報 1]。
山頂には展望台や高尾ビジターセンターがあり、全長1,697キロメートル(km)に及ぶ東海自然歩道の起点でもある。また、高尾山には古くから天狗が存在しているとの伝説もある[要出典]。山腹には、役行者による大火渡りや滝の修行場で知られる文化財を有する高尾山薬王院がある。
山頂から東側は、八王子市や相模原市などを中心とした関東平野の街並や、筑波山、房総半島、江の島まで眺めることができる。また西側は、丹沢山地や富士山を見渡せる。冬至の前後数日間には、富士山の真上に太陽が沈むダイヤモンド富士を見ることができる。関東の富士見百景、「八王子八十八景」、東京都の奥多摩山域の代表的な山の一つで、多摩百山に選ばれている。
東京都心部からの交通の便が良いことに加え、ミシュラン観光ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」での3つ星評価などの影響もあり[報 2]、高尾山の人気が近年高まるにつれ、東側の山麓にあり高尾山の正面玄関である京王電鉄高尾線・高尾山口駅の周辺で、観光施設の集積が進んでいる。
中腹には、高尾山ケーブルカーを運行する高尾登山電鉄の運営によるさる園・野草園[鉄 1]、標高500 mの高所にある「高尾山ビアマウント」(ビアガーデンは夏季限定)、高尾山BBQマウント(手ぶらBBQサービスは春秋限定)などの観光施設がある[鉄 2]。
また明治以降、高尾山薬王院の参拝客に振る舞ったのが起源のとろろ蕎麦が高尾山の名物となっている。行楽客が減少する冬季のイベントとして、京王電鉄により「高尾山の冬そばキャンペーン」が毎年開催されている[鉄 3]。
1971年より毎年春・秋の行楽シーズンのイベントとして、京王電鉄により「高尾山・陣馬山スタンプハイク」が開催されている[鉄 4]。オリエンテーリングのパーマネントコースも整備されており、トレイルランブームも相まって競技に興じる人がよく見られる。
2015年、観光案内と高尾山の自然についての啓発などを目的とした博物館「TAKAO 599 MUSEUM」を開設(施設名は山頂の標高599 mより命名。管理者は京王エージェンシー)[鉄 5]。また同2015年10月、京王電鉄は高尾山口駅に隣接した日帰り温泉施設「京王高尾山温泉 極楽湯」を開業した[鉄 6]。
山頂から見て東側の地下には、高尾山ケーブルカーの下をくぐる形で、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の「高尾山トンネル」(下り線(南から北方向)1348 m、上り線(北から南方向)1329 m)[裁 1] が南北に通っており、南側には高尾山インターチェンジがある。
圏央道の道路トンネル建設に際しては、自然保護団体や一部の市民から強い反対運動が起こり、建設差し止めを求める「高尾山天狗裁判」が行われた。開通後の現在でも景観保護や地下水脈の保全などへの懸念を指摘する声がある一方で、圏央道開通により道路交通の便が改善されたとして、八王子市民や周辺地域の住民から歓迎する声もあり[要出典]、賛否両論と言える。詳しくは「#高尾山天狗裁判」の項を参照。
高尾山は東京近郊の行楽地として有名であるが、元来は修験道の霊場であり、真言宗智山派大本山高尾山薬王院有喜寺の寺域となっている。高尾山という名から真言密教の聖地の一つ弘法大師霊場遺迹本山(ゆいせき)・京都の高雄山神護寺[2]に見立てられたこともあり[出 1]、天然の森林が守られてきた。
中世には、八王子城(慈護寺城)主北条氏康・北条氏照親子がこの山を保護し、氏照による「本山の竹木の伐採を禁じる」という制札が薬王院に残されている。江戸時代には幕府直轄領として八王子代官・大久保長安が山林保護政策をとり、その書状が同じく薬王院に残されている。その後も帝室御料林を経て国有林となり、常に森林が保護されてきた。
明治以降、牧野富太郎をはじめ、多くの研究者により高尾山を最初の発見地として新しい植物が発表されてきた。暖温帯系の照葉樹林帯(カシなどの常緑広葉樹)と冷温帯系の落葉広葉樹林(ブナ・イヌブナ・ナラ・ホオノキなど)・中間温帯林(モミ・ツガなどの針葉樹林)の境界に位置するため植生が豊かであり、都市部に近いわりには自然が良好に保たれている。
高尾山は、東京都心から電車で約1時間という交通アクセスの良さと登山道の歩きやすさや、ケーブルカーなどを使って気軽に登山できることなどから、老若男女問わず登山者数が多い。年間の登山者数は約260万人を超え、世界一の登山者数を誇る[5]。多くの人が山に入れば登山道は荒れ、それに拍車を掛ける老若男女の手にするストックだ。このため土が踏み固められ、草木が生えなくなる裸地化が深刻な問題となっている。この対策として登山道に階段を採用しているので、訪れる登山者には足ごしらえをしておくことを求められている[都 1]。
山頂へは登山道(自然研究路など)が良く整備されており、年齢と体力に応じて各種ルートを組み合わせてハイキングが楽しめる。なお、高尾山の標高は低いが登山口の標高も低いため、標高差は小さくはない。総じて、山頂までの所要時間は全行程徒歩で1時間半から2時間程度である。
東方向(高尾山方面) | 西方向(陣馬山方面) | |||||
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陣馬山 | - | 堂所山 | : | 1時間10分 | 1時間20分 | |
堂所山 | - | 景信山 | : | 1時間 | 50分 | |
景信山 | - | 城山 | : | 55分 | 1時間 | |
城山 | - | 高尾山 | : | 50分 | 1時間 |
山頂域(5号路より上部の地域)は大見晴園地と呼ばれている[都 4]。眺望がよく関東の富士見百景に選定されている[1]。初日の出の名所として知られ、例年1,500 - 2,000人が訪れ、入山規制が行われるほどにぎわう[報 5]。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、2020年12月31日午後5時から2021年1月1日午前7時まで山頂域は閉鎖されることになった[都 4][報 5]。
周辺は非常に多くの種類の植物が自生しており、田中澄江により花の百名山に選定されている。代表する花としてフクジュソウを紹介している[出 3]。
高尾山にはブナ(イヌブナが黒っぽい幹なのでクロブナとも呼ぶのに対して、こちらをシロブナと呼ぶことがある)も見られるが、イヌブナの方が数が多い[9]。ブナに比べ材質が劣るのでイヌブナと呼ばれるが、実はブナと同じように食用になり、鳥やリスの好物である。ブナと異なり、太い幹の周辺から「ヒコバエ」(幹の根元から生える枝)が多数出るのが特徴である。一般に、ブナはより寒冷地に、イヌブナはより温暖地に分布し、高尾山以外の周辺の山にはブナは皆無である。また、現存[いつ?]する高尾山のブナはいずれも樹齢200年を越える大木ばかりで、実生や稚樹、若木などはまったく見られない。
薬王院境内を中心にスギの巨木が成育している。東京都指定天然記念物に指定されているスギ並木[八 5] や飯盛スギ[八 6]などといった樹齢700年とも1,000年とも語られる[誰によって?]巨木が何本も存在し、高尾山のシンボルとして古くから維持管理がなされてきた。こうした先人の努力は、薬王院への祈願が成就した参拝者が、杉苗料として金銭を奉納する慣習と残されていることからも窺い知れる。
薬王院の境内外は国有林となっており、ここにもスギ林は広がっている。一丁平に向かう歩道の脇には、江戸時代に韮山代官であった江川英龍が植えた人工林(江川スギ、2009年(平成21年)の段階で樹齢147年)が現存[いつ?]している。
番号 | 和名 | 科名 |
---|---|---|
1 | アカコミヤマスミレ | スミレ科 |
2 | アケボノミヤマシキミ | ミカン科 |
3 | アケボノオオフジイバラ | バラ科 |
4 | アサカワソウ | イネ科 |
5 | アズマナシ | バラ科 |
6 | イトホロシ | ナス科 |
7 | ウスゲヌスビトハギ | マメ科 |
8 | ウスベニアカショウマ | ユキノシタ科 |
9 | ウスベニニリンソウ | キンポウゲ科 |
10 | エダウチミゾシダ | オシダ科 |
11 | オオツクバネガシ | ブナ科 |
12 | オオツルウメモドキ | ニシキギ科 |
13 | オンガタイノデ | オシダ科 |
14 | オンガタヒゴタイ | キク科 |
15 | キイロミミガタテンナンショウ | サトイモ科 |
16 | キランニシキゴロモ | シソ科 |
17 | ケタニタデ | アカバナ科 |
18 | ケヒメカンスゲ | カヤツリグサ科 |
19 | コボトケスミレ | スミレ科 |
20 | サツキヒナノウスツボ | ゴマノハグサ科 |
21 | シロバナオオジャノヒゲ | ユリ科 |
22 | シロバナヒナスミレ | スミレ科 |
23 | シロバナフクシマシャジン | キキョウ科 |
24 | シロミノアオキ | ミズキ科 |
25 | ジンバイカリソウ | メギ科 |
26 | ジンバホウチャクソウ | ユリ科 |
27 | タカオイノデ | オシダ科 |
28 | タカオコバノガマズミ | スイカズラ科 |
29 | タカオシケチシダ | オシダ科 |
30 | タカオスゲ | カヤツリグサ科 |
31 | タカオスミレ | スミレ科 |
32 | タカオヒゴタイ | キク科 |
番号 | 和名 | 科名 |
---|---|---|
33 | タカオフウロ | フウロソウ科 |
34 | タカオホオズキ | ナス科 |
35 | タカオホロシ | ナス科 |
36 | タカオヤブマオ | イラクサ科 |
37 | タカオワニグチソウ | ユリ科 |
38 | タルミヤシャブシ | カバノキ科 |
39 | トガリシオデ | ユリ科 |
40 | トラノオジソ | シソ科 |
41 | ナガバノアケボノスミレ | スミレ科 |
42 | ナガホハナタデ | タデ科 |
43 | ヒナゲシオカスミレ | スミレ科 |
44 | ヒレノブキ | キク科 |
45 | フイリイナモリソウ | アカネ科 |
46 | フイリタマアジサイ | ユキノシタ科 |
47 | ベニガクウツギ | ユキノシタ科 |
48 | ボウズシラヤマギク | キク科 |
49 | ボウズチカラシバ | イネ科 |
50 | ホウチャクチゴユリ | ユリ科 |
51 | ホシザキイナモリソウ | アカネ科 |
52 | ホソバノミミガタテンナンショウ | サトイモ科 |
53 | マルバカシワバハグマ | キク科 |
54 | ミドリミツバウツギ | ミツバウツギ科 |
55 | ミヤマクマザサ | イネ科 |
56 | ムラサキイチリンソウ | キンポウゲ科 |
57 | ムラサキオニシバリ | ジンチョウゲ科 |
58 | ヤエキツネノカミソリ | ヒガンバナ科 |
59 | ヤグルマカエデ | カエデ科 |
60 | ヤブザクラ | バラ科 |
61 | ヤマミゾソバ | タデ科 |
62 | ヨウラククサアジサイ | ユキノシタ科 |
63 | レモンエゴマ | シソ科 |
ナイキの靴で「タカオ」というものがある。アメリカからナイキの開発者が「ある程度整えられたフィールド」を歩くための靴を開発するために高尾山へやってきたとき、重い頑丈な靴を履いた人ばかりを見た。そのような靴は、急斜面や荒れた路面を重い荷物を背負って歩くために作られたもので、高尾山のような、ゆるい、ある程度整えられた道を歩くのには適していなかった。そこで、頂上までの距離が短い高尾山のようなハイキングコースを歩くために作られたのが「ナイキ タカオ」である[報 6]。 発展モデルとして「テング」も発売されている。
1984年、首都圏の自動車交通状況の改善、特に東京都心部の中央環状線を中心とした首都高速道路の渋滞緩和を目的に首都圏中央連絡自動車道(圏央道)構想が国(建設省)から提起され、そのルートが高尾山にかかることが示されると、自然保護団体や一部の八王子市民から強い反発が起こり、1988年には「高尾山の自然をまもる市民の会」(以下「市民の会」)が結成され、自然保護を中心とした建設反対運動が組織された[報 7]。
2000年には6つの自然保護団体と住民1060人[裁 2]が原告となり、国と日本道路公団[裁 3]に対して工事の一部差し止めを求める住民訴訟が提起され[報 8] 、高尾山の天狗伝説にちなんで「高尾山天狗裁判」と呼ばれた[報 9]。
この反対運動には朝日新聞の「天声人語」執筆担当や日本エッセイスト・クラブ理事長なども務めたコラムニストの辰濃和男[裁 4]なども支援した。
2008年1月27日投票の八王子市長選挙では、「市民の会」事務局長の橋本良仁[裁 5] が6万3540票(得票率42.81パーセント)を獲得した[裁 6]が、現職市長(当時)の黒須隆一に敗れた[裁 7]。
「高尾山天狗裁判」は圏央道の事業認定取り消しを求める別の裁判と一括審理になった後、2010年9月1日に東京地方裁判所(八木一洋裁判長)は原告側の請求を退け、2002年に着工していた高尾山トンネルを含む圏央道の建設を認めた。原告団は控訴したが、圏央道開通後の2012年7月9日に東京高等裁判所はこれを棄却し、東京地裁判決の原告敗訴が確定した。
その後も「市民の会」は活動を続け、訴訟時に指摘した地下水脈の減少による井戸の枯渇など[裁 8]について高尾山で調査・監視活動を継続するとともに、この訴訟の経験を公開・公刊し[裁 9]、2000年からは道路建設や自動車公害に反対する各地の住民運動組織が加盟する「道路住民運動全国連絡会」(道路全国連)の事務局業務も担当している。
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