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無綫電視(むせんでんし)は、香港の民放テレビ局である。法人の名称は電視廣播有限公司 (Television Broadcasts Limited、日本語訳:テレビ放送株式会社)。略号はTVB。香港初の地上波テレビ局として1967年に放送を開始、1972年に全面カラー放送化を達成。1991年にはステレオ放送を開始した。
香港域内向けにアナログ放送の広東語と英語各1チャンネルの放送を行うほか、無料地上波デジタル放送や有料放送チャンネルが数チャンネルあり、さらに国外の華僑・華人向けに、衛星放送、ケーブルテレビや自社開発のIPTVである「MyTV Super」と「TVB Anywhere」を通じて放送を行っている。
1965年、香港政庁は、新たに地上波テレビ放送免許を与えることを計画し、放送事業者の募集を行った。6事業者が免許申請した結果、TVBの前身である香港電視が免許を獲得した。広東語で放送する翡翠台と、英語を中心に放送する明珠台の2チャンネルで、1967年11月19日に放送開始した。「無線テレビ」を意味する無綫電視という中国語の通称は、先行したテレビ局・麗的映声(後の亞洲電視 〈ATV〉)が、無綫電視の放送開始当時、有料の有線放送だったこととの対比から来ている(「綫」は、線の異体字)。
当初は免許取得の条件として、一定の割合で海外の放送局の番組を購入して広東語に吹き替えて放送することになっており、香港で制作される番組は少なかったが、1980年にその条件が撤廃されてからは地元制作番組が増加した。この年に、経営権が香港の映画制作会社ショウ・ブラザーズの社長で、会社創業者でもあった邵逸夫に移ってからは、経営の主力を映画から無綫電視に移し、局舎の移動や放送設備の更新を行い、番組制作能力の向上が図られた。
1973年には麗的映声が無料の地上波テレビに転換し麗的電視となり、1975年には佳藝電視 (CTV) が開局する。香港には三つの地上波テレビ局が存在するようになり、視聴率争いも激烈を極めた。佳藝電視は1978年に倒産。無綫電視は、亞洲電視や1993年に開局したケーブルテレビ局有線電視の番組の影響を受け、さまざまな問題や批判を受けながらも、長年にわたって香港で視聴率トップの座を維持している。
一方、制作費の増加や世界的な経済不況の影響で経費削減を余儀なくされており、制作部門を中心に人員削減が行われている。
報道姿勢については、2009年6月4日の六四天安門事件20周年で大規模な市民集会が行われた際、特別番組を編成した亞洲電視に対して、定時のニュース番組で扱うだけにとどめた報道姿勢に、香港市民から批判の声が上がった。中国共産党に配慮した報道内容に変貌しつつあるとの批判がある。
社会的には、TVB有料放送への加入を誘う高齢者を狙った悪質なセールスが社会問題となった。2009年7月にはTVB有料放送と強制的に契約をさせられた加入者が自殺する事件まで発生した( 参考報道記事)。政府では、契約時の契約方法の変更などの対策を実施する方針を明らかにしている。
さらに2010年3月には、CEOの陳志雲ら経営陣5人が、背任の疑いで廉政公署に逮捕されたが、有罪とならずに経営陣に復帰する事件が発生した[1]。
2014年香港反政府デモが盛んになると、無綫電視の政府寄り偏向報道や民主派側に立つ表現をタブーとする局の姿勢が顕著になり、市民からの反感および批判が激しくなっている。
亞洲電視が、いわゆるゴールデンアワーに海外製作ドラマや時事討論番組やドキュメンタリー番組を中心に放送し、ドラマとバラエティ番組が中心の無綫電視にとっては脅威となる番組がなかったためか、無綫電視製作の番組も、コンセプトや出演者が似たり寄ったりのドラマや、料理関係の番組、または主に日本や台湾などで放送された番組を放送権を購入してリメイクするか[2]、あるいは内容を少し変更して別の番組としたもの[3]、あるいはゲーム番組が放送され、マンネリ化や内容の低俗化が指摘されている。
香港特区政府は、このような状況を改善し、放送局間の競争を促進するため、2009年に新たに2局の無料放送(地上波ではない)の免許発行を行う計画を発表した。2013年には、有線電視系の奇妙電視(香港開電視)とPCCW系の香港電視娯楽(港娯・ViuTV)に免許を交付する方向が固まった[4]。無料放送を実施するためには常に番組製作と放送を続ける体力が必要とされるなか、港娯については2015年4月1日付けで12年間の無料放送免許が交付され、2016年4月6日から広東語で、2017年3月31日から英語でそれぞれ無料放送を行っている。2016年の段階で放送開始の見通しが立っていなかった奇妙電視は、2017年5月14日から広東語で、2018年7月30日から英語で正式に放送を開始した。
亞洲電視の番組制作能力が低下したことから、無綫電視の一人勝ち状態となる「一台獨大」状態が続いた。このため無綫電視の香港芸能界に対するゴリ押しも目立つようになり、2008年には、四つの大手芸能プロダクションとの間で、音楽著作権料の交渉が決裂し、無綫電視がプロダクション所属歌手を自局製作番組に出演させないことを発表した。出演禁止は長く続き、2012年に解決するまで、多くの歌手が無綫電視の番組からは姿を消し、亞洲電視の番組に出演した。一部の番組では当該プロダクションが著作権を持つ楽曲の差し替えも発生した。
2013年には、無綫電視と所属芸能人との間で結ばれていた契約条項に含まれる「無綫電視以外の放送局の番組から取材を受ける場合は、広東語以外の言語で対応する」などの芸能人に不利な出演契約の変更を芸能人側が裁判に訴え、無綫電視側が敗訴したことは、多くの芸能人に歓迎された。
2015年4月には亞洲電視に対する地上波放送免許の更新が認められず、亞洲電視が使用していた周波数は2016年4月以降、香港電視娯楽と香港電台(港台・RTHK)に引き継がれた。
2016年10月、中国大陸のメディア王で中国共産党党員[5] の黎瑞剛が無綫電視の副会長およびショウ・ブラザーズ会長に就任した[6][7]。
視聴率は現在も高いものの、近年は視聴者離れが指摘されている
ライバル局であった亞洲電視(ATV)が、2000年以降の中国資本参入による混乱で長期低迷状態に陥った頃から「一台獨大」と呼ばれる1強状態となった。競争相手の弱化により、TVB製作番組や出演者のマンネリ化や、番組内容の低俗化が見られるようになり、報道姿勢が香港政府・中国共産党寄りに変わったことから、知識層や若者層のTVB離れが進み、主な視聴者層は習慣的にTVBのチャネルを選択する低所得者層や高齢者層、在宅の主婦層などとなっていった。
2014年香港反政府デモが盛んになり、TVBの政府寄り偏向報道や民主派側に立つ表現をタブーとする局の姿勢が明確になると、もともと知識層および若者層に広がっていたTVB嫌悪の傾向がさらに顕著となった。2015年1月に『明報』が調査したアンケート集計結果によると、デモに反対する政府支持層の80%以上は、TVBを主な情報源とする低所得者層や高齢者層であり、反対に高学歴者や若年層が多いデモ支持層はTVBを全く見ないという結果が出ている。
2015年4月1日、ATVの2016年4月以降の放送免許更新が打ち切られたことで、一時は香港の地上波放送は実質的にTVB1局のみの状態に陥る可能性が高くなり、さらなる視聴者離れが懸念されていたが、2016年4月2日に香港電台(RTHK)、4月6日には香港電視娯楽(ViuTV)が相次いで地上波放送を開始した。
本社は、2003年に落成した電視廣播城 (TVB City) にある。新界の将軍澳にあって、スタジオや衛星放送用送信設備などを備えており、公開番組の収録なども行われている。
自社にタレント養成所を持ち、これまでに数多くの有名俳優や歌手を輩出している。香港の俳優や歌手の場合、一部の大物を除いて、亞洲電視か無綫電視のどちらかと専属契約を結んでいるため、いかに著名なタレントを多く抱えるかが重要となっている。現在映画界で活躍している俳優にも無綫電視出身者が多く、チョウ・ユンファ(周潤発)やアンディ・ラウ、周星馳などが代表格である。無綫電視が主催しているミス・コンテスト香港小姐(ミス香港)出身の女優も多い。
株式を香港証券取引所に上場している。長年、香港の映画会社ショウ・ブラザーズの創業者の1人である邵逸夫が筆頭株主で、1980年以来会長(行政主席)職を務めてきた。2000年代後半から、邵が会長退任と持ち株の売却を考えているとたびたび報道されていた。邵は102歳を迎えた2009年末をもって会長職を退き、非執行会長(非執行主席)となって、代わりに邵の夫人である方逸華が後任の会長に就いた。その後も持ち株の売却についての動向が注目されていた。2011年に株式の多くを新たな株主や団体に売却した結果、大株主の座からも退いた。邵は2014年1月7日に106歳で死去したが、一族は引き続き一部の株式を保有している。
TVBはイギリス領時代に中国共産党に対して批判的な報道が多かったが、2009年ごろに報道大改革を行い、香港政府および中国政府寄りの報道姿勢を強めている。
基本的には、中国政府に都合の悪い事件や社会問題についての報道であっても、現場中継を交えて放送されており、報道の自由は保たれているものの、中国政府の発表や中国政府首脳による演説や外遊などを、ニュース番組の冒頭で逐一報道するようになり、その一方で政府批判のトーンを弱めるなど、偏った報道姿勢になりつつあると批判を招いている。
2009年6月4日に香港のヴィクトリアパークで開かれた大規模な六四天安門事件の20周年追悼集会では、亞洲電視が特別番組を編成したのに対し、無綫電視の翡翠台では、わずかな時間のみの報道にとどまったこと[8] から、視聴者や新聞報道により批判され、国営テレビ中国中央電視台 (CCTV) と同じ立場にあるとして「CCTVB」と揶揄された。生放送の中継リポーターの後ろに無綫電視のスローガンをもじった紙を掲げて批判する市民が立ち、そのままニュース番組で放送されたが、直ちに無綫電視公式サイトからはこの映像が削除された。
一方、2009年に発生した新疆ウイグル自治区での騒乱事件に際しては、無綫電視の記者が中国当局に連行された上で取り調べを受ける事件が発生し、それに対して放送記者が中国共産党の姿勢に対して抗議のデモを行うなどしている。
2017年度に行われる行政長官選挙の普通選挙を求める民主派学生による「2014年香港反政府デモ(香港占拠)」では、デモ参加者を連行した香港警察の警察官が建物の陰で参加者を暴行する現場を撮影、早朝には放送されたが、その後、上層部の指示によって報道内容が言い換えられた。そのため、報道部門をはじめとする有志が抗議文を公開した(報道部門の記者やカメラマンも暴行を受けて機材が破損するなどした)。しかし無綫電視では、その後抗議文を提出した社員有志に対して処分を行った。
2019年に逃亡犯条例改正案を発端に起こった民主化デモでは、警察がデモ隊に催涙弾を投げる場面などがほとんど放送されなかったり、デモに参加したり支持したりするような言動を行った社員を大量解雇している。
無綫電視は、1日の全番組を中国広東省各地のケーブル局を通じて配信しており、本土側の視聴者も多いといわれている。中国共産党への批判や民主化問題、中国各地での騒乱事件(チベット・ウイグル問題を含む)など中国当局にとって好ましくない話題では、中国人の被害や共産党政権がとった対策などは放送されるが、当局や中国人側の問題については、その部分を香港政府の政府広報に差し替えて配信している。こういった場合、差し替えられた部分は、唐突に番組が中断されてCMが流され、再びニュースに戻るという不自然な放送となっている。時間帯によっては、香港で流されているCMを地元放送局がその地区のCMに差し替えて放送しているが、切り替えのタイミングが合わずに番組の冒頭が欠けるなどの問題もあり、中国本土の視聴者からは、なぜニュースや番組をカットするのかと批判を受けている。ただしこれには香港と中国の政治体制とメディア規制の違いが複雑に絡み、中国での配信は中国の規制が適用される事象の一つである。
インターネット向け放送として、ニュース専門チャンネル互動新聞台(TVB iNews)が、無綫電視ウェブサイト内で24時間放送されており、その中で『香港早晨』や『六點半新聞報道』などの地上波で放送されている番組を同時放送の形で見ることが可能である。HDTVチャンネルである「高清翡翠台」の放送の配信も再開されている。それ以外の翡翠台や明珠台の番組は、インターネット向けには配信されていないが、無綫電視ウェブサイト内の「MyTV」やYouTubeの「TVBチャンネル」で、放送済み番組のダイジェスト版や予告編を見ることができる。
なお2012年後半から、無綫電視公式サイト上で提供されているインターネット配信を視聴できるのは、香港域内のIPアドレスに制限されており、日本から視聴しようとすると、「著作権保護のため、配信不可」とのメッセージが表示され、視聴できなくなっていた。2015年現在、互動新聞台(TVB iNews)のみ視聴可能な状態となっている。
1967年の放送開始以来、日本のテレビ局から数多くのドラマやアニメを購入し、広東語に吹き替えた上で翡翠台とJ2台で放送しており、人気を集めている。
最近では、翡翠台では広東語に吹き替え後のアニメ番組やドラマを放送しているほか、『ナニコレ珍百景』の放送権を購入し、映像素材を使用して新たにスタジオ収録部分を制作して放送した番組『千奇百趣』が人気を呼んでいる。J2チャンネルでは、NHKの『東京カワイイ★TV』のようなファッション関連の番組や、テレビ朝日の『ミュージックステーション』、日本のテレビドラマを、字幕付きで日本語のまま放送している。
一方で、自社制作のバラエティ番組などに明らかに日本など他国の番組などを模倣した番組が多く、一部に批判がある[9]。料理バラエティ番組『美女厨房』 という『愛のエプロン』(テレビ朝日)とほぼ同じ内容の番組では、女性ゲストが食べられないものを作ることで笑いを取ろうとする低俗さと、食べ物を吐き出す、捨てるなど粗末にすることに対して視聴者から苦情が寄せられているが、視聴率も良く、人気番組となっていた。香港の俳優エリック・ツァンが司会を務め、1995年より断続的に放送されているゲーム番組「奨門人」シリーズは、番組スタッフが日本のゲーム番組を研究して番組を制作していると語っており、食物を使ったゲームなども根付いている。
主に香港在住(在港)外国人向けに放送している明珠台では、多くの番組が英語で放送され、最近では標準中国語(普通話)の番組も増えてきつつあるが、かつては英語が母語ではない外国人向けに、各国で制作された番組を広東語に吹き替えずにそのまま放送する時間帯が存在した。
在港日本人向けには、毎週日曜日の午前に、日本の日本テレビ放送網で制作された週間トピックス番組「NNN Weekly Magazine」と、日本テレビ制作のバラエティ番組を吹き替えなしにそのまま放送する『Japanese Hour』という番組が放送されていた。2001年に、明珠台で毎週日曜日に香港公開大学の放送が始まったのを契機に、放送時間変更などを経て、扱っていた日系広告代理店が番組名『Japanese Hour』と協賛スポンサー企業等は変更せずに、番組をそのまま亞洲電視に移動して放送を継続した。その後『JP TIME TV(日語大放送)』と改題し、主に香港・マカオ住民向けに日本の観光情報を紹介する番組にリニューアルされた。2016年4月1日の亞洲電視の地上放送停波後は香港電視娯楽に再び移動して「Go!Japan TV(日本大放送)」として番組を継続している。
ニュース番組『六點半新聞報道』(翡翠台)、『普通話新聞報道』『News At 7:30』(明珠台)に続いて放送される天気予報『天氣報告 / Weather Report』では、香港地区の翌日の天気の概況を、人の行動を描写したアニメーションで伝える。なおアニメーションの登場人物は、天氣先生、英語ではFreddyと呼ばれており、1980年代の初登場以来、香港の住民にはおなじみのキャラクターとなっている。
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J2台
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児童台
明珠台
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