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電気鉄道の集電方式の一つ ウィキペディアから
第三軌条方式(だいさんきじょうほうしき)は、電気鉄道の集電方式のひとつ。
法令[注釈 1]上の名称はサードレール式である。
走行用のレールとは別に、並行して第三の給電用レール(第三軌条(サードレール))を敷設し、それを車両に取り付けた集電靴(コレクターシュー)が擦って集電する方式である。
架空電車線方式に比べ建設コストが低く、架線柱や架線により景観を損ねないのが利点である。
反面、線路敷の低い位置に裸の給電レールを敷設するため、人の立ち入りが容易な路線や駅では感電の危険を伴ううえ、保線作業時においても短絡や感電の危険性が高いため、日本では原則として直流を用いるものは750ボルト以下、交流を用いるものは600ボルト以下の低圧で用いること、また人が立ち入る可能性の低い地下鉄道または高架専用敷鉄道に限る旨が国土交通省による省令、規則、告示で定められている。
構造的には、架空電車線と比べて硬質で柔軟性に乏しい鉄製レールを用いるため、離線や摺動騒音を生じやすく、分岐器や踏切の上では給電が途切れる欠点を有する。
また、曲線走行時には摩擦による振動や騒音が大きく、高速運転に適さないのも欠点である。近鉄けいはんな線で95 km/h運転が行われているほか[1]、イギリスでも160 km/h運転をしている区間もあるが、一般的に200 km/h以上の高速鉄道には向かない。イギリス国内のユーロスターが架空線方式の高速新線(CTRL)に切り替えられたのも、フランス国内との速度差が大きいうえ、英仏海峡トンネルの出口で集電方式の切り換えが発生するという不都合があったからである。
1990年代前半には騒音の低減も狙うべく、日本で新幹線のような高速運転を可能とする研究も鉄道総合技術研究所で行われていたが、低電圧は高速運転に不向きで、高電圧は地表に近い位置での使用が危険であるため断念されている。
第三軌条は地上の低い位置に設置されているが、走行用レールが地表とほぼ同電位であるのに対し、第三軌条は地表に対して公称電圧に等しい電圧を有している。また、第三軌条は車両の重量を支持しないため走行用レールと同じ種類のレールを使用する必要はなく、走行用レールよりも細いものや、強度は劣るが電気抵抗の低い低炭素鋼レールが用いられている。
第三軌条は地表上低い位置に設置されるため、線路を横断する形の平面交差にあまり向かないのも欠点である。ロンドン南郊やベルリンSバーン、シカゴ・Lの郊外地上区間など、踏切のある路線も存在するが、第三軌条の特性の面から大半の路線は立体化されている。なお、日本でも東京メトロ銀座線の上野駅から分岐する上野検車区の地上部出入庫線に一般道路との踏切があるが、この踏切から線路内に人が立ち入らないように、線路側にも電車の通過時のみ開閉する遮断柵が設けられているほか、道路との交差部には第三軌条を設置していない。
日本では一部の地下鉄および、第三軌条方式の地下鉄と直通運転している路線だけに用いられているが、欧米ではロンドン近郊の旧国鉄路線など、地上の路線にも広く採用されている。フランスのピレネー山脈には、"Train Jaune"(トラン・ジョーヌ、黄色い列車)と称する、フランス国鉄(SNCF)の経営による第三軌条集電の小型電車を使用する山岳ローカル線のセルダーニュ線も存在する。
第三軌条方式は建設コストの面から、小断面のトンネルで建設しようとする場合に有利で、地下鉄などトンネル断面を小さくしたい場合に採用された。近年は地上路線との乗り入れが普及したことや、小断面のトンネルが冷房使用時の廃熱において不利になったため、剛体架線などを使用した架空電車線方式を採用する地下鉄が多く、日本の鉄輪式リニアモーターカーによる地下鉄も、全て架空電車線方式である。
駅のプラットホームや線路敷と道路が近接する場所など、係員以外の者が線路敷に立ち入る恐れのある箇所には、感電の危険性と線路内立入禁止である旨を警告表示するよう規定されている。世界的に見て使用電圧は大半の路線が直流900ボルト未満で、1,500ボルトもしくは3,000ボルトを多用する架線集電式より低い。日本では直流750ボルト以下、交流600ボルト以下と規定されている。
第三軌条は走行する列車の車体(車両限界)よりも外側に設置されるのが一般的で、レール幅を狭めて枕木などの構造物をコンパクトにできる狭軌の走行用レールを第三軌条と組み合わせる利点は小さい。台車の横幅が大きい方が第三軌条に近く、集電しやすくなる。こうした理由から、歴史的に狭軌を多く採用してきた日本でも、現在ある第三軌条方式の路線はすべて標準軌を採用している[2]。
路面電車でも第三軌条による地表集電方式が用いられている例がある。給電用レールは細かい絶縁区間に分割され、歩行者や他の路面交通の安全のため車両の真下の部分にのみ通電されるようになっている。19世紀末に登場したものの、安全性に問題があり、すぐに姿を消したが、2003年にフランスのボルドーで再度実用化された。路面電車の第三軌条集電方式にはこのほかに地中の溝に給電用レールを敷設する地中溝(コンデュイット)方式が存在した。
1893年(明治26年)に開業したアプト式時代の信越本線横川駅 - 軽井沢駅間(通称「横軽線」)が、第三軌条方式の最初の例である。電圧は直流600ボルトで、下面接触方式であった。横軽線に多数存在するトンネルは蒸気機関車用の規格で作られており、架空電車線化するためにはトンネル断面を高さ方向に拡張する工事が必要であった。その工事費用は莫大なものとなることが予想されたため、低予算で実現可能な第三軌条方式が採用されたのである。
なお、横川駅および軽井沢駅構内は、機関車付け換え作業や貨車入換作業時の安全性を考慮して架空電車線方式を採ったため(こちらも直流600ボルト)、機関車はいずれも集電靴とパンタグラフ(初期はポール)の双方を装備したハイブリッド集電方式としていた。また、機関車がいずれもロッド駆動であったこともあり、電車とは異なり、機関車の集電靴はいずれも車端部に装備されていた。
レールの上側と下側のどちらを集電靴が擦るのかは、国によってもさまざまである。
日本では、前項で紹介した信越本線の横軽以外は、すべて上面接触である。一方、ドイツでは、ベルリンSバーンなどのように下側に接触しているものもある。
四軌条方式(Four rail system)はロンドン地下鉄のみで見られるもので、通常位置の第三軌条から集電した電力を、走行用レールではなく、その間に設置した第四軌条(フォースレール)に返す方式。
三相交流給電ゴムタイヤ式のモノレールでも第四軌条まで、同方式自動案内軌条式旅客輸送システムでは第五軌条まで必要になる事がある。
日本で最初に第三軌条方式を採用した信越本線では前述のように架空電車線方式と併用したハイブリッド集電の機関車としていたが、1963年(昭和38年)に架空電車線方式の新線に切り替えられ消滅したため、他の集電方式と併用して運用されている路線や両電化方式を行き来できる電気機関車や電車は現在ない。2025年日本国際博覧会に合わせ、近畿日本鉄道が同社の奈良線(架空電車線方式)とけいはんな線(第三軌条方式)、Osaka Metro中央線(第三軌条方式)を直通できる専用の特急車両を開発する構想を発表している[3]。また、両電化方式が混在するアメリカのニューヨーク近郊のメトロノース鉄道における専用車両について、日本の鉄道車両メーカーである東急車輛製造と川崎重工業が、イギリスのロンドン近郊における専用車両については日立製作所が納入した実績がある。
日本国外では上述のメトロノース鉄道以外にも区間がいくつかあり、イギリス国鉄クラス313電車など、両方の集電方式に対応した電車や電気機関車が活躍している。
普段はディーゼル発電機によって発電した電気で走る電気式ディーゼル機関車として運用されているが、排出ガス規制のある地下のターミナル駅に乗り入れる際にはエンジンを止めて第三軌条方式(もしくは架空電車線方式)によって集電した電気によって走る電気機関車とすることで乗り入れを可能とした車両がある。
複数の電化方式に対応した高価な専用車両を用いなくとも、直通運転や効率的な運用ができるよう、同じ区間が架空電車線方式と第三軌条方式の両方の方式で電化された箇所もあり、主に大きなターミナル駅構内やその周辺に多い。
両者は景観上は大きな違いはないが、第三軌条方式の場合は軌道内に立ち入ると感電する可能性が非常に高いために、安全対策面では経費が掛かる。
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