かんがい施設遺産(かんがいしせついさん、英語:Heritage Irrigation Structures)は、インドのニューデリーに本部を置く国際かんがい排水委員会(ICID)が、灌漑の歴史・発展を明らかにし、灌漑施設の適切な保全に資することを目的として、建設から100年以上経過し、灌漑農業の発展に貢献したもの、卓越した技術により建設されたもの等、歴史的・技術的・社会的価値のある灌漑施設を登録・表彰するために2014年に創設した制度。なお、灌漑は二文字とも常用漢字の表外字のため、担当所管の農林水産省では「かんがい」と平仮名表記を正式なものとしている。
2019年に正式名称にワールドを冠し、World Heritage Irrigation Structuresと改称した。直訳すると「世界遺産のかんがい施設」になり、世界遺産と混同しやすくなるため、農水省では世界かんがい施設遺産とした。
2024年時点で19ヶ国に177件が登録されている[1]。
2014年
稲生川
雄川堰
深良用水
七ヶ用水
立梅用水
狭山池
淡山疏水
山田堰
朝倉三連水車
通潤用水
木蘭陂
サリートポン
アブハヤ・ウェア
2015年
上江用水と旧分水施設
隧道になる上江用水
曽代用水
入鹿池
久米田池
它山堰
ランシット運河
2016年
照井堰用水
内川
安積疏水
長野堰の円筒分水
村山六ヶ村堰疎水
大河原堰
拾ヶ堰
源兵衛川
足羽川用水頭首工
明治用水
南家城川口井水
満濃池
常盤湖
幸野溝
百太郎溝
碧骨堤
アスワンダム
デルタ・バラージュ
2018年
- 日本
- 韓国
- インド
- Large Tank(Pedda Cheru)
- Sadarmatt Anicut
- スリランカ
- Elahera Anicut
- Kantale Wewa
北楯大堰
五郎兵衛用水
大和川分水築留掛かり
白川用水(渡鹿用水大井手)
2019年
十石堀
見沼代用水東縁
見沼代用水(新川用水と備前前堀川)
見沼代用水(中島用水路)
倉安川(吉井水門)
百間川
都江堰
霊渠
カンタレー・ウェア
ソラボラ・ウェア
スーサの水流システム
パンペルドゥートダム
セオドア・ルーズベルトダム
2020年
[注釈 7]
- 日本
- 韓国
- 中国
- 天宝陂(天宝陂)、福建省
- 竜首渠引洛古灌区(龍首渠)、陝西省
- 白沙渓三十六堰、浙江省
- 桑園囲、広東省
- インド
- イラン
- Zarch Qanat …世界遺産ペルシア式カナートの構成資産
- Moon Qanat …世界遺産ペルシア式カナートの構成資産
天狗岩用水
備前渠用水
常西合口用水
K.C.Canal
2021年
- 日本
- 韓国
- 康津の蓮貯水池
- 青山島クドゥルチャンノン…2014年に農業遺産にも登録
- 中国
- インド
- Dhukwan Weir
- Grand Anicut Canal
- Kalinggarayan Anicut and Kalingarayan Channel System
- Veeranam Tank
- スリランカ
- Dam and Old Sluices of Parakrama Samudraya
- Ethimale Tank Bund
- Maduru Oya Ancient Dam and the Sluice
- イラク
- モロッコ
- Khettaras…現地ではフォガラと呼ばれるカナート[注釈 8]
2022年
- 日本
- 中国
- 通済堰、四川省…2014年に登録された浙江省の通済堰とは別
- 興化垛田、江蘇省…2014年に農業遺産にも登録
- 松陽松古灌区、浙江省
- 崇義上堡棚田、江西省
- インド
- Baitarani Irrigation Project
- Lower Anicut
- Rushikulya Irrigation Systems
- Sir Arther Cotton Barrage(Dowleswaram Barrage)
- スリランカ
- Kala Wewa
- Padaviya Tank
- Thakkam Anicut
- イラク
- Al-Adhem Dam
- White Bridge
- オーストラリア
香貫用水
寺谷用水
井川用水
興化垜田
デスリッジ水車
アーサー・コットン卿堰
2023年
- 日本
- 中国
- 祁門堰、安徽省
- 紅沢湖、江蘇省
- 火泉泉、山西省
- 白尼堰、湖北省
- インドネシア
- Notog Weir
- The Kepajaran Main Intake
- The Talang Barrage(Talang Dam)
- タイ
- Bang Nok Khwaek Lock
- Damnoen Saduak Canal
- インド
- Balidiha Irrigation Project
- Jayamangal Anicut
- Prakasam Barrage
- Srivaikuntam Anicut
- イラク
- The old regulator Al-Hussainya
- トルコ
山形五堰(御殿堰)
北山用水
本宿用水
建部用水(井堰先)
プラカサム堰
主宰する国際かんがい排水委員会が年一回開催するHIS審査委員会において外部の研究者を交えて審議される。
日本からの推薦には農林水産省の農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室海外企画班が担当所管の窓口となっている。
水文学を推進するユネスコは水資源管理の観点から、国連食糧農業機関は世界重要農業遺産システム(農業遺産)の観点から、かんがい施設遺産を支援している。
ユネスコや国際連合未加盟のため世界遺産などの各種遺産事業に参加できない台湾(中華民国)だが、国際かんがい排水委員会へは加盟しており、烏山頭ダムの登録の可能性がある(築100年経過の条件から2020年まで待たなければならない)。
農林水産省では文化財としての価値を有する農業水利施設等の土地改良施設を対象に、農村地域における生活空間の質的向上を図りつつ、土地改良施設の整備を契機に地域一体となった農業水利施設の維持・保全体制の構築を目的とする「地域用水環境整備事業」を推進。
また国土交通省は歴史まちづくり法により、農村地域の水路・ダム・ため池等の農業水利施設の保全管理または整備と地域用水の多面的な機能の維持増進に資する施設の整備を行うことを目的とする「地域用水環境整備事業」を展開している。
さらに農水省は、日本農業遺産も含めた農事関連遺産を観光資源として活用すべく、郷土料理や自然散策を組み合わせたモデルコースを策定し、かんがい施設遺産からは長野県の拾ヶ堰と熊本県の菊池のかんがい用水群(世界農業遺産・阿蘇の草原の維持と持続的農業との組み合わせ)が選ばれた[2][3]。
注釈
朝倉の水車は平成29年7月九州北部豪雨により破損したが、その後復旧したことから、2017年の国際かんがい排水委員会の会合では登録抹消などの措置をとらないことを確認した
2015年は宮城県大崎市の内川、山梨県北杜市の村山六ヶ村堰疏水、長野県茅野市の滝之湯堰・大河原堰(再申請)、長野県安曇野市・松本市の拾ヶ堰、静岡県三島市の源兵衛川、三重県津市の南家城川口井水、山口県宇部市の常盤湖も立候補していたが審査継続となり、全て2016年に登録となった
本来は文字通り「岩木川の淵に築いた土手状の堰(取水堤)」のことだが近代化改修で現存せず、現在では用水路そのものの名称となっている。流域で水を貯える津軽富士見湖(廻堰大溜池)も関連資産として対象に含まれる。
2023年9月8日に発生したマラケシュ-サフィ地震(英語版)によって被災が確認された
龍ヶ池に設けられた揚水施設。1909(明治42)年着工、1913(大正2)年完成。犬上川・彦根台地と宇曽川・荒神山台地に挟まれた乾低地を水田開墾するため、東に聳える鈴鹿山脈の高取山を水源とし琵琶湖に注ぐ地下水系を汲み上げるための井戸。現在は新しいポンプ設備が作られたが、揚水場と同時に整備された用水路は今でも使われている。国内のかんがい施設遺産で機械構造物が登録されたのは初めて。