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1979年のSFホラー映画 ウィキペディアから
『エイリアン』(原題: Alien)は、リドリー・スコット監督、ダン・オバノン脚本の1979年のSFホラー映画。オバノンとロナルド・シャセットのストーリーに基づき、商業用宇宙タグ「ノストロモ号」の乗組員が、船内に解き放たれた攻撃的で致命的な地球外生命体である「エイリアン」に遭遇する様子を描いている。出演は、トム・スケリット、シガニー・ウィーバー、ヴェロニカ・カートライト、ハリー・ディーン・スタントン、ジョン・ハート、イアン・ホルム、ヤフェット・コットー。
エイリアン | |
---|---|
Alien | |
監督 | リドリー・スコット |
脚本 | ダン・オバノン |
原案 |
ダン・オバノン ロナルド・シャセット |
製作 |
ゴードン・キャロル デヴィッド・ガイラー ウォルター・ヒル |
製作総指揮 | ロナルド・シャセット |
出演者 |
トム・スケリット シガニー・ウィーバー ヴェロニカ・カートライト ハリー・ディーン・スタントン ジョン・ハート イアン・ホルム ヤフェット・コットー |
音楽 | ジェリー・ゴールドスミス |
撮影 | デレク・ヴァンリント |
編集 |
テリー・ローリングス ピーター・ウェザリー デヴィッド・クロウザー(ディレクターズ・カット版) |
製作会社 | ブランディワイン・プロダクションズ |
配給 | 20世紀フォックス |
公開 |
1979年5月25日 1979年7月21日 |
上映時間 |
117分(劇場公開版) 116分(ディレクターズ・カット版) |
製作国 |
イギリス アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
製作費 | $11,000,000[1] |
興行収入 | $104,931,801[1] |
配給収入 | 14億5000万円[2] |
次作 | エイリアン2 |
本作の成功は、映画、小説、コミック本、ビデオゲーム、玩具などのメディア・フランチャイズを生み出した。また、この作品はウィーバーの女優としてのキャリアをスタートさせ、初の主役を演じた。ウィーバーが演じたエイリアンとの出会いの物語は、続編の『エイリアン2』(1986年)、『エイリアン3』(1992年)、『エイリアン4』(1997年)のテーマと物語の核となった。「プレデター」シリーズとのクロスオーバーにより、『エイリアンVSプレデター』(2004年)、『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(2007年)が製作された。また、前日譚シリーズとして『プロメテウス』(2012年)と『エイリアン: コヴェナント』(2017年)、スピンオフとして『エイリアン:ロムルス』(2024年)がある。
大型宇宙船の薄暗い閉鎖空間の中で、そこに入り込んだ得体の知れないもの(エイリアン)に乗組員たちが次々と襲われる恐怖を描いたSFホラーの古典であり、監督のリドリー・スコットや主演のシガニー・ウィーバーの出世作でもある。
外国人を意味する名詞「エイリアン(Alien)」が、「(攻撃的な)異星人」を意味する単語として広く定着するきっかけともなった[注 1]。公開時のキャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。(In space no one can hear you scream.)」。
エイリアンのデザインは、シュルレアリスムの巨匠デザイナー[3]H・R・ギーガーが担当した。本作以降、続編やスピンオフが製作されシリーズ化した。スコット自身による本作の前日譚として、2012年に『プロメテウス』、2017年に『エイリアン: コヴェナント』が公開された。
1979年5月25日、第4回シアトル国際映画祭で、70ミリフィルムで初公開された。アカデミー視覚効果賞、サターン賞3部門(SF映画賞、スコットに監督賞、カートライトに助演女優賞)、ヒューゴー賞映像部門を受賞し、その他多数の賞にもノミネートされた。2002年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。2014年、イギリスの情報誌『タイム・アウト』ロンドン版にてアルフォンソ・キュアロン、ジョン・カーペンター、ギレルモ・デル・トロ、エドガー・ライトら映画監督、作家のスティーヴン・キング、ほか科学者や評論家150名が選定した「SF映画ベスト100」にて第3位にランクインした[4]。
西暦2122年[注 2]、搭乗員7名を乗せた宇宙貨物船ノストロモ号は他の恒星系で採掘された鉱石を満載し、地球へと帰還する途上であった。乗組員達はハイパースリープから目覚め、到着も間近と思われた。しかし、船を制御するAI「マザー」が、知的生命体からのものと思われる信号を受信し、その発信源である天体に航路を変更していたことが判明する。困惑する乗組員達だが、科学主任のアッシュによると会社との雇用契約書には「知的生命体からと思しき信号を傍受した場合は調査するように」と明記されているという。やむなくノストロモ号は牽引する精製施設をいったん切り離して軌道上に残し、発信源の小惑星に降り立つ。
船長ダラス、副長ケイン、操縦士ランバートの3人が船外調査に向かい、謎の宇宙船と化石となった宇宙人を発見。その宇宙人には体内から何かが飛び出したような傷痕があった。調査を進めるうち船の底に続く穴があることを発見。ケインがそこに降りると、巨大な卵のような物体が無数に乱立する空間へ辿り着く。その一つに近付いた際、彼の身に予期せぬ事態が発生する。その頃、船に残った通信士のリプリーが信号を解析した結果、それは遭難信号などではなく、何らかの警告であることが判明し、彼女は不安に駆られる。
3人は船に帰還したものの、異変を感じたリプリーは防疫を理由に船内に入れることを拒む。しかし、アッシュの判断によりエアロックが開けられた。そこでリプリー達が見たものは、サソリのような生物(フェイスハガー)がヘルメットのシールドを溶かし、ケインの顔に張り付いた姿だった。アッシュが調べた結果、フェイスハガーは彼に酸素を供給しており、ケインは昏睡状態となっていた。すぐに除去しようと体の一部を外科装置で切ろうとすると強酸のような体液が流れ出し、船の床を溶かし下層まで穴が空いた。危険だと判断し引き剥がすのは断念したが、フェイスハガーはその後、自然にケインの顔から剥がれ落ちて死んだ。リプリーはすぐにその死骸を捨てるべきだと主張するが、アッシュは貴重な地球外生命体のサンプルなので死骸を地球に持ち帰るべきだと主張し、ダラスもそれに同意した。リプリーはこのような大事な決定をなぜアッシュ1人に任せるのかと彼に詰め寄るが、会社の意向だと押し切られ、彼女は不満をあらわにする。
船は小惑星を離陸したが、地球まではまだ10ヶ月も旅をしなければならなかった。その後ケインは意識を取り戻し、何事もなかったかのように回復したかに思われた。しかし、乗組員たちとの食事中に突然激しく悶絶し、やがて彼の胸部を食い破って奇怪なヘビのような生物が出現、驚愕のあまり呆然とする乗組員の間を駆け抜け逃走する。ケインはフェイスハガーによって体内に幼体(チェストバスター)を産み付けられて、その出現によって死亡したのだった。
恐るべき事態が発生したことを認識した乗組員達は船内を捜索するが、その間に脱皮し、より大型に成長したエイリアンは機関士のブレットを襲い、通気口へ身を潜める。乗組員達はアッシュのアドバイスに従い、エイリアンをエアロックへ追い込み、宇宙空間へ放出する事に決定。追い立てるためにダラスが単身通気口に進入するが、エイリアンの能力は彼らの想像を遥かに上回っており、返り討ちに遭う。
船長を失った一同は団結力を失う。リプリーと機関長のパーカーはダラスの立てた作戦を続行しようと主張するが、ランバートは船を棄てて脱出艇で逃げることを提案する。しかし、脱出艇に4人全員が乗ることはできなかった。そんな中、リプリーは議論に参加しないアッシュの態度に疑念を抱き、直接マザーに詳細を問いかけるが、科学主任のみ閲覧可能と拒否される。悪い予感に苛まれながら秘密解除の操作を行って命令を確認すると、会社が秘密裏に「生きているエイリアンの捕獲と回収」を最優先事項としていたこと、さらに「乗組員の命が犠牲となってもやむを得ない」とプログラムされていることを知り、アッシュに怒りをぶつける。
真相を知ったリプリーにアッシュが襲いかかり殺害しようとするが、駆けつけたパーカーとランバートが阻止し、アッシュは「破壊」された。彼の正体は、会社が乗組員たちを監視するために送り込んだアンドロイドであった。リプリー達はアッシュを応急修理して尋問したところ、会社は最初からエイリアンの捕獲と回収を目的として乗組員を雇っており、その為にはいかなる犠牲も顧みないつもりであること、エイリアンは「完璧な生命体」であり、生き延びられる可能性はないと告げた。
もはや会社との契約を守る意義のなくなったリプリー、ランバート、パーカーの3人は本船を切り離して自爆装置で爆破し、脱出艇で逃れて救助を待つ計画を立てる。しかし、彼らが二手に分かれて脱出の準備をしている間に、エイリアンは通気口から這い出ており、ランバートとパーカーに襲いかかる。悲鳴を聞いたリプリーが駆けつけるが、そこには2人が無惨な姿で残されていた。
たった1人残されたリプリーは、深い悲しみと恐怖に襲われながらもノストロモ号の自爆装置を起動し、猫のジョーンズを連れて脱出艇に乗り込もうとするが、その入口を目前にして通路上にエイリアンがいることに気づく。大慌てで脱出を中断し、自爆装置の解除を試みるが僅差で間に合わず、カウントダウンは止まらなかった。決死の覚悟でリプリーは脱出艇の入口に戻るが、そこには誰もいなかった。エイリアンが通路から立ち去っていることを何度も確認し、ジョーンズと共に脱出艇へ搭乗、ただちに発進させる。直後にノストロモ号は大爆発し、全ては終わったかに思われたが…。
役名 | 俳優 | 日本語吹替 | ||||
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フジテレビ版 | レーザーディスク版 | VHS・DVD版 | テレビ朝日版 | DCDVD・BD版 | ||
ダラス | トム・スケリット | 前田昌明 | 西沢利明 | 富山敬 | 大塚明夫 | 郷田ほづみ |
リプリー | シガニー・ウィーバー | 野際陽子 | 田島令子 | 幸田直子 | 戸田恵子 | 幸田直子 |
ランバート | ヴェロニカ・カートライト | 鈴木弘子 | 榊原良子 | 安永沙都子 | 鈴木ほのか | |
ブレット | ハリー・ディーン・スタントン | 青野武 | 北村弘一 | 穂積隆信 | 千田光男 | 樋浦勉 |
ケイン | ジョン・ハート | 仲村秀生 | 櫻片達雄 | 納谷六朗 | 牛山茂 | 森田順平 |
アッシュ | イアン・ホルム | 富田耕生 | 田中信夫 | 羽佐間道夫 | 岩崎ひろし | |
パーカー | ヤフェット・コットー | 飯塚昭三 | 渡部猛 | 郷里大輔 | 麦人 | 大川透 |
マザー | ヘレン・ホートン(声) | 久保田民絵 | 榊原良子 | 叶木翔子 | 佐々木優子 | 小宮和枝 |
日本語版制作スタッフ | ||||||
演出 | 山田悦司 | 藤山房伸 | 福永莞爾 | 松岡裕紀 | ||
翻訳 | トランスグローバル | 木原たけし | 石原千麻 | たかしまちせこ | 石原千麻 | |
調整 | 杉原日出弥 | 荒井孝 | 菊池悟史 | |||
録音 | 紀尾井町スタジオ | 東北新社 | ||||
効果 | リレーション | |||||
プロデューサー | 岡原裕泰 | 圓井一夫 | ||||
解説 (初放送時) | 高島忠夫 | 淀川長治 | ||||
制作 | トランスグローバル | 東北新社 | ACクリエイト | 東北新社 | ACクリエイト | |
初回放送 | 1980年10月10日 『ゴールデン洋画劇場』 ノーカット 21:00-23:30 | 1992年8月30日 『日曜洋画劇場』 正味約102分 21:02-22:54 |
※20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンの「吹替の帝王」シリーズ第7弾として、上記の全5種類の吹替版を収録したBlu-ray Disc「エイリアン 日本語吹替完全版 コレクターズ・ブルーレイボックス」が2014年11月5日に発売された。劇場公開版(117分)とディレクターズ・カット版(116分)の2種類の本編が収録されており、劇場公開版にはテレビ版2種とLD版、VHS・DVD版の4種類、ディレクターズ・カット版にはDVD・Blu-ray Disc版の吹替版が収録されている。LD版の日本語吹き替えが収録されるのは、本作が初となる。特典としてテレビ版吹替台本2冊、幸田直子/大塚明夫のインタビュー集が付属している。また、製作35周年とH.R.ギーガー追悼記念として、シリーズ4作、本作のメイキング集とアーカイブ集、『プロメテウス』の2D版、3D版、特典ディスクを収録した9枚組「エイリアン H.R.ギーガー・トリビュート・ブルーレイコレクション」も発売されている。特典としてH.R.ギーガーアートカードセット、オリジナルコミック、オリジナル劇場ポスターセット、H.R.ギーガー追悼ブックレットが封入。コマーシャルはテレビ朝日版でダラスを演じた大塚明夫がナレーションを担当している。
『エイリアン』の原案はダン・オバノンによって生み出された。南カリフォルニア大学在学中の1974年、ジョン・カーペンターと組んで『ダーク・スター』を製作したオバノンは、より本格的なSFホラーの製作を望んでおり、オリジナルの脚本を温めていた。それは当初は『メモリー』という題で、「宇宙船が未知の惑星に降り立ち、謎の生命体を発見、乗組員がそれに寄生され、やがて体内から怪物が誕生する」という概要であった。当初は38ページに満たない未完成の稿で、怪物の姿が漠然として決まらなかったことから展開に行き詰っていた[9]。
そんな折、オバノンに接触してきたのがロナルド・シャセットである。彼はフィリップ・K・ディックの短編作品『追憶売ります』の映画権を取得していたものの、まだ仕事がなかった。『ダーク・スター』を見てオバノンを同好の士と考えたシャセットは、彼に会いたいと手紙を書く。大学のキャンパスで『メモリー』を読んだシャセットは「『メモリー』を完成させたら、自分がロジャー・コーマンの元に持ち込むので、自分の『追憶売ります』を翻案する作業の手助けをして欲しい」と共同作業を提案した[10][注 11]。
この頃、『デューン/砂の惑星』を企画中であったアレハンドロ・ホドロフスキーから、オバノンに同作の特殊効果担当の依頼が舞い込む。彼は許諾し製作チームに加わった。これにより『メモリー』の脚本は一時に宙に浮くこととなる。チームには宇宙船のデザインにクリス・フォス、コスチュームデザインとしてジャン・ジロー、さらにシャッダム四世役に指名されていたサルバドール・ダリの推薦により、後にH・R・ギーガーが加わっていた。しかし、資金難から製作半ばにして中止となり、オバノンも無一文となってしまう。ショックから胃の病を発症した彼はシャセットの家に転がり込み、一週間もふさぎ込んでいたが、未完のままの『メモリー』を完成させるようシャセットに提案され、再び脚本を練り始めた[11][12]。
オバノンは『メモリー』とは別に『グレムリン』という脚本を構想していた。それは「東京から帰るB-17の中にグレムリンが侵入し、乗組員を一人、また一人と殺していく。怪物を倒さない限り乗組員は故郷へ帰れない」という骨子であった。その要素を応用してはどうかというシャセットの助言を受け、オバノンは『メモリー』に適用させた。すなわち舞台を爆撃機から宇宙船へ、グレムリンを異星人の怪物に変更したのである[12]。完成したそれは宇宙空間における『テン・リトル・インディアンズ』と呼べる内容となった。この時点で脚本の基本的な流れは完成稿と同一であったが、乗組員が発見するのは遺棄船ではなく「ピラミッド」であることや、卵ではなく「胞子ポッド」から出てきた寄生体に襲われる、宇宙船の名前が「スナーク号」であるといった差異がある[13]。また、題名は『スタービースト』へと変更された[14]。
『スタービースト』の内容はロジャー・コーマンの目を引いたが、企画が形になる前に、二人の友人であった独立系映画監督のマーク・ハガードが彼の脚本を評価し、出資者探しを買って出ることになった。オバノンは視覚的な側面からプレゼンテーションを行うために、『ダーク・スター』で知己であったロン・コッブにイラストを依頼する。コッブはこの時点ではまだ『スタービースト』を『ダーク・スター』のような低予算映画になるだろうと楽観視しており、何枚かのイラストを提供した[12]。商業的な映画に相応しいものとして、オバノンは思案をめぐらせ、『エイリアン』というタイトルをひねり出した[15]。
1976年、ハガードはゴードン・キャロル、デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒルの3人によって設立された映画制作会社「ブランディワイン・プロダクションズ」と契約を成立させ、『エイリアン』の脚本は買い取られた。[16][12]ヒルは脚本の内容を酷評しながらも一部のシーンに可能性を見出し、他の二人と共に20世紀フォックスの製作主任であったアラン・ラッド・ジュニアにこの脚本を売り込む。スリラーに定評のあるヒルが売り込んだということでラッドは少しだけ興味を示したが、彼自身はこの映画が作られる見込みはほぼないと考えており、映画化決定の許可は下りなかった。[17]
しかし、1977年に同社配給の『スター・ウォーズ』[注 12]や、コロンビア ピクチャーズの『未知との遭遇』が公開、大ヒットしたことで状況は一変した。SF映画は売れないB級という定説が覆され、一大ブームが到来した。そんな時、20世紀フォックスの手元にあった唯一のSF脚本が『エイリアン』であった。こうして同年10月31日[18]に、『エイリアン』の製作許可が降りた[17]。
ヒルとガイラーがまず行ったのは脚本の手直しであった[12]。当初7名いたクルーは全員男性だったが、2名が女性に変更され、全員の名前が変更された。原案にあったシーンはほぼそのままであったが、台詞の口調を抑えたものにするといった変更がなされた。また、アッシュをアンドロイドにしたのも二人のアイデアであった。リプリーにあたる役を女性にするよう提案したのはラッドであった[19]。結局改稿は8回にもおよんだ[20]。
これらの改変にオバノンは終生不満を漏らしたものの、視覚デザインコンサルタントとして映画に携わることはできた。またシャセットはエグゼクティブプロデューサーに任命された[21]。しかしラッドはオバノンを重要人物とみなさず、一時は映画のセットに立ち入ることすら許可しなかった。そのためオバノンは原案者でありながらこっそり現場に忍び込むこともあったという[22]。
しかし肩書きがどうであれ、オバノンにとって一流のスタッフとの仕事がエキサイティングな経験であることは確かであった。1977年7月11日[18]、オバノンはギーガーに電話をかけ、新しい映画製作に携わっていることを伝え、要となる未知の生物のデザインを依頼した[23]。オバノンが1000ドルの小切手と共にギーガーに送った手紙には、まず人間に幼生を産み付ける第1形態、人間の体を突き破って現れる第2形態、そして成長した第3形態へと変化するアイディアが記されており、初期段階からエイリアンのアイデアは固まっていた[24]。
監督は当初ヒルが自ら務める予定であったが、SF映画向きではないことを理由に辞退し、『ロング・ライダーズ』の監督を務めることになった。そこでブランディワインは監督候補を捜し始め、ピーター・イェーツ、ロバート・アルドリッチ、ジャック・クレイトン、そしてリドリー・スコットの4名が候補に挙がった。イェーツは20世紀フォックスに推されていたが、彼は格下のB級映画とみなし断った他、アルドリッチもクレイトンも内容に価値を見出さず就任を拒否した。なお、原案者であるオバノンは監督候補には入っていなかった[19]。
その中でスコットは、当時既にCM映像監督として成功を収め、自身の制作会社である「リドリー・スコット・アソシエーツ(RSA) 」を設立し活躍していたが、映画監督としてはまだ『デュエリスト/決闘者』を作ったのみだった。同作で共同プロデューサーであったイヴォール・パウエルは熱心なSF愛好家でもあり、その撮影中スコットにSFコミック雑誌『メタル・ユルラン』を貸して読むよう薦めた。『2001年宇宙の旅』を除けばSFに関心はなかったスコットであったが、その世界観に魅了され、特にジャン・ジローの『アルザック』を好んだ[25]。
パウエルから「監督第2作目の作風が今後作る3作分の内容に影響を及ぼす」とアドバイスされたスコットは、次なる作品として『トリスタンとイゾルデ』を題材に選び、パラマウント映画の下で企画を進めていた[26]。彼の脳裏には『トリスタンとイゾルデ』の中で『メタル・ユルラン』の荒涼とした様式美溢れる世界観を実現させようという構想があった。だが、当時公開されたばかりの『スター・ウォーズ』を初週に鑑賞し衝撃を受ける。そこにはまさに彼が撮りたいと思っていた映像表現が存在していた為であった。スコットは同作を絶賛しつつも、ジョージ・ルーカスに先を越されたことに強い挫折感を味わった[27]。
一方、カンヌ映画祭で『デュエリスト/決闘者』を観覧し、スコットの才能を評価した人物がいた。フォックス・ヨーロッパの社長サンディ・ライバーソンである。彼はフォックス内で使えそうな企画を探し、監督の定まっていない『エイリアン』の企画を発見、スコットの手元に送って監督してみないかと誘いをかける。『メタル・ユルラン』のようなSFのデザインを表現したかったスコットにとってまさに格好の題材であること、さらに機能的で無駄のない粗筋や、地位による待遇の違いに嘆く労働階級の姿が描かれている点なども好印象であった。1978年2月[18]、ライバーソンの仲介でラッドと面接したスコットは正式に監督として契約を結んだ。当初組まれた予算は420万ドルに過ぎなかったが、スコットは自ら絵コンテを描いて会社と交渉し、850万ドルの予算を勝ち取った[28]。またパラマウントに対しては『トリスタンとイゾルデ』の企画から手を引くことを告げた[29]。
キャスティングの選考はアメリカで行われ、スコットとキャロルが面接した。通常このようなSF映画にはB級俳優を配するのが普通であったが、スコットは個性的な役者を集めることで一段高い演出を目指した[30]。SF映画に出ることを懐疑的に思った俳優を引き止めるようなことはせず、ウィリアム・ハート、ジョン・ハード、サム・エリオット、デビッド・ワーナー、ロディ・マクドウォール、ブライアン・デネヒーは出演を見合わせた。シャセットの意向で、多国籍的な雰囲気を出すため配役のうち2人(ハートとホルム)はイギリス人となった[31]。
撮影は1978年の7月5日から10月21日のおよそ3か月半に渡って行われた[18]。オバノンの薦めで『悪魔のいけにえ』(1974年)を見たスコットはこの作品を目安としてデザイナーに指示を与えた。また、もっとも感銘を受けたホラーとして『エクソシスト』(1973年)を挙げ、何度も見直し研究を重ねた[25]。ほか、『2001年宇宙の旅』にも影響を受けている。
スタジオはイギリス、ロンドンの郊外にあるシェパートン・スタジオが使用された。ハリウッドに比べ費用が安く済むこと、イギリスには優れた美術スタッフや、製作に必要なプラモデルメーカーがいることなどが理由であった[21]。撮影のためにスタジオ内のA、B、C、D、Hの5つのサウンド・ステージが使用され、ノストロモ号のセットはCに、遺棄船のセットはHに造られた。Hは当時ヨーロッパ最大級のサウンド・ステージであり、60m × 100mもの広さがあった[45]。
スコット側からは、『デュエリスト/決闘者』に引き続きパウエルが共同プロデューサーとして、撮影にデレク・バンリント、プロダクション・デザイナーにマイケル・シーモアなどRSAに縁のある人物が参加した。
そのほか、編集にはテリー・ローリングス、『スター・ウォーズ』で美術監督を務めたレスリー・ディレイ、セットを製作したロジャー・クリスチャン、衣裳を担当したジョン・モロ、『キングコング』の造形に携わったカルロ・ランバルディ、特殊効果担当として『スペース1999』に参加していたブライアン・ジョンソンとニック・アルダーが加わった。またオバノンはコッブに加えて『デューン』で製作を共にしたフォスとギーガーらデザイナーを企画に呼び集めた。
撮影は徹底した秘密主義の下で行われ、いたるところに「見学者立ち入り禁止」の立て札、張り紙が掲示された[46]。予算圧縮のためフォックス上層部からの圧力に晒され続けたスコットは不安定な精神状態が続き、時には八つ当たりでセットを破壊してしまったこともあった[47]。また、多くのスタッフが当時の製作現場が緊張に満ちて不愉快だったと証言している[48]。後年スコットは「あの時の自分は余裕がなかった。撮影現場に緊張感をもたらした原因の一つは、自分の突き放した態度にもあっただろう」と当時を振り返っている[49]。
監督に着任したスコットにとって目下最大の懸念事項は、主役であるエイリアンのデザインであった。既にコッブがおこしたデザインが存在していたものの、その内容はと言えば、2本足で立ち、鉤爪のついた4本の腕があり、頭部からは触角と目が突き出るように生えているという奇妙な外見で、満足のいくものではなかった[50][51]。
1978年2月8日、オバノンはスコットにギーガーの画集『ネクロノミコン』を見せる。収録作の一つ『ネクロノームIV』に描かれていた機械とも生き物とも似付かぬ存在にスコットは衝撃を受け「このデザインを形にすることができれば映画は成功する」との確信を抱いた[52][53]。スコットはスイスに飛び、ギーガーを招聘。2月14日からギーガーは交渉を開始した。彼は「この映画はエイリアンこそが主演俳優なのだ」と主張し、デザイン料として高額なギャラを要求したため、20世紀フォックスとの間で長い話し合いがもたれた。契約が成立したのは3月30日のことであり、この日から製作に加わることとなる[18]。しかし、ギーガーが描く異質な世界に拒否感を示した者もおり、キャロルは当初「ギーガーは異常だ」と酷評している[24]。
撮影中のギーガーは常に黒ずくめの服を着ていたため、一部のスタッフは彼を「ドラキュラ伯爵」と渾名した[54]。彼の指揮する美術チームは150人にもなる大所帯で、「モンスター部門」と呼ばれた[55][56]。
ギーガーは異星人の遺棄船やエイリアンのデザインを受け持つことになったが、徹底した完璧主義者であり、自身の作品に強烈な自負を持っていた彼は、製作現場で度々スタッフと衝突し、上層部に対しても自分の要求を曲げなかった。4月5日になってこの対立は決定的となり、20世紀フォックスはそれまでのギャラを支払いギーガーを解雇した。契約成立から僅か1週間のことであった[57]。これについてギーガー自身は、契約では彼のサインした契約書がなければセットの製作はできなかったが、必要なデザインが既に仕上がっており、サイン済みの契約書が手元にある以上もはや用はなかったのだろうと推測している。しかしギーガーは自分がすぐに必要とされることを予見して、チューリッヒでデザイン作業を続行した[45]。
その予測は的中し、指揮者のいない現場は早速迷走をはじめ、本来のデザインとは程遠いセットになっていった。結局、彼の必要性を上層部も認めざるを得ず、5月末になってギーガーは現場に復帰している[58][45]。出来損ないのセットは放置されず、現場の美術スタッフのモチベーションを高めるため、そして新しいセット製作の準備が整うまでの時間稼ぎのため、あえて完成まで製作された後でスクラップ処分になった。これはギーガーにとってはまったく理解に苦しむ出来事であったという[59]。エイリアンスーツの原型造形もギーガー自身が担当しており、彼はエイリアンの体が透明な表皮で覆われているデザインを希望したが、十分な耐久性と透明度を兼ね備えた素材が見つからず断念している。
宇宙服のデザインはジャン・ジローが手がけた。彼は次の仕事のためフランスに帰るまでという条件付であり、参加していた期間は数日程度だった[12]。実物の製作はジョン・モロが担当している[33]。リプリーの衣装に限り、実際にNASAで使われていた軍用フライトスーツの古着を流用している[36][33]。
冒頭におけるタイトルデザインは骨や肉を組み合わせたデザインが考案されていたが使用されなかった[60]。実際に採用された「一文字ずつ完成していくタイトルロゴ」は、広告との整合性を考えスコットが依頼したもので、スティーブ・フランクフルトとリチャード・グリーンバーグがデザインしている[41]。
ポストプロダクションに突入した時点ですら、スコットは満足せず、ノストロモ号のミニチュアモデルの撮影をやり直した[22][107]。10月から11月にかけて撮り直しや追加シーンの撮影が17日間行われた[18][29]。撮影終盤にはスタッフは1日17時間、週に6 - 7日間働き通しであったという[107]。
またオバノンはクレジットの表記について、ガイラーとヒルの名を入れるべきかどうかについて全米脚本家組合(WGA)を巻き込み仲裁調停を引き起こした。WGAはオバノンの主張を支持したものの、周囲のスタッフは二人の名前を入れるべきだと説得した。最終的にオバノンはこれを受け入れ、ガイラーとヒルは脚本家としてクレジットされることになった[108]。
リドリー・スコットは楽曲に組曲『惑星』、それも冨田勲が編曲したシンセサイザー版の起用を望んでいたが、ラッドの勧めでジェリー・ゴールドスミスに依頼することになった[47][109]。
最初にゴールドスミスが作った曲は瑞々しいものだったが、それゆえに没になった。次に作られた曲は静的で不気味なものであり、スタッフを満足させた。作曲に要した時間はわずか10分に過ぎなかった[47]。
目覚めのシーンではゴールドスミスの過去の作品である『フロイド/隠された欲望』の曲が流用されている。また、クレジット画面ではハワード・ハンソンの『交響曲第2番 ロマンティック』が使用されている[47][110]。これを不満としたゴールドスミスはフォックスに説明を求めたが、結局覆ることはなかった[47]。
なお冨田の『惑星』は撮影現場で使用された。テンションの高い演技が必要とされるウィーバーのため、スコットは現場にスピーカーを配置し、『惑星』の「火星」を流して聞かせた。一方、音を後で全て付け直さなければならなかったため、音声係の負担は増大した[111][41]。
ゴールドスミスは試写を独りで観たが、ブレットが猫を追いかけるシーンが最も怖かったと述べている。
スコットは脱出艇でのラストシーンの追加撮影のため、4日のスケジュール延長を要求した。会社は難色を示したものの、彼は今までの定石を引っくり返すと会社を説得した[33]。スコットの目論見通り「事態が解決したと見せかけてさらにもう一幕がある」という手法は成功し、以降のホラー映画に新しい定番をもたらした[111]。
本人の意向により、ウィーバーは次に何が起こるのか知らされずに撮影が進められた[112][33]。「全裸のリプリーを目の当たりにしたエイリアンが己との違いに気づき、彼女に見入る」といったシーンも予定されていたものの、アイディアだけで終わった[111][33][注 18]。下着姿で宇宙服を身につけるシーンはその名残である[111]。
結末は当初3種類あり、「エイリアンの存在にリプリーは気付かず(もしくはジョーンズに寄生した状態で)一緒に地球に帰還する」、「エイリアンとともに宇宙の藻屑となる」、「エイリアンを倒し地球に帰還する[注 19] 」のそれぞれが用意されていたが、最終的に3つ目が採用された。
ホラーSFである『エイリアン』には、性的・恋愛要素がほとんどないにもかかわらず、妊娠・出産のメタファーを中心に「濃厚なセクシュアリティが漂っている」ことが指摘されている[114]。
内田樹はこの生殖のメタファーを「体内の蛇」[115]のモチーフをもちいて考察している。それによると本作における「宇宙船のクルーがエイリアンの幼体からその子孫を体内にうえつけられ、それが体を破って外に出てくる」という流れは、ヨーロッパ全域で流布している「体内の蛇」と呼ばれる民間説話をなぞったものであり、この説話をフェミニズムに結びつけたことにオリジナリティがあるという。
本作でのエイリアンは男性社会のメタファーであり、男性器のような頭部を持ち、口から精液のような粘着性の液体をしたたらせている[116]。エイリアンは女性を妊娠させようとする男性の性欲の象徴であり、主人公のリプリーはそれに対抗するフェミニズム志向の女性の役割を果たしている(リプリーを襲ったアッシュにとどめを刺すのも女性のランバートである)。リプリーはそれまでのSF映画のヒロインのような「強い男に付き従う弱い女性」ではなく、男性クルーと対等に渡り合い、会社の陰謀を探り、1人で怪物と対峙する「強い女性」として描かれている。リプリーの姿は1970年代後半に製作された女性の自立や台頭を描いた映画『結婚しない女』『クレイマー、クレイマー』などとともに語られることがあり[116]、また、本作はそれまでのSF映画にはなかった新しい(アクションの担い手としての)役割を女性に与えた先駆的な映画としても語られる[117]。
映画公開当時、男性に依存しない勇敢な女性が自力で(男性性の象徴である)エイリアンを退治するというこの映画を、女性たちはフェミニズムの勝利の物語として賞賛したのだ、と評価されることが多かった[118]。しかし内田は、本作は女性からだけでなく保守的な(反フェミニスト的な)男性からも支持されていることを指摘し、「戦闘的フェミニストの勝利」という劇的な結末を演出するために結末以前の部分では「ヒロインがエイリアンから徹底的に陵辱される」という描写で埋め尽くされていると述べている[119]。映画のクライマックスで下着姿のリプリーに襲いかかろうとするエイリアンは男社会に虐げられてきた女性の縮図であるとされる[116]。
原案でリプリーにあたる役を男性から女性に変更した際、性別を意識した台詞の改変はほとんど行われなかった。ウィーバー自身はリプリーがフェミニズムに関連付けて語られることには慎重であり、「いいキャラクターはいいキャラクター、性別なんて関係ない」と述べている[120]。
2020年12月、ノア・ホーリーがテレビドラマシリーズを製作すると発表された[121]。2023年5月現在、アメリカ・FXで製作が進行中で、リドリー・スコットがプロデューサーを務めると報道されている[122]。FXのジョン・ランドグラフ会長によると「地球が舞台で、21世紀末頃、今から70数年後の話が展開される」という[122]。映画版でシガニー・ウィーバーが演じたリプリーをはじめ、「エイリアン以外の過去の登場人物」は再登場しないことが明かされており、主演は『ドント・ウォーリー・ダーリン』(2022)などに出演したシドニー・チャンドラーが務めるという[122]。
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