宮城峡蒸溜所

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宮城峡蒸溜所

宮城峡蒸溜所(みやぎきょうじょうりゅうしょ、: Miyagikyo Distillery)は、宮城県仙台市青葉区ニッカ1番地(北緯38度18分35秒 東経140度38分59.5秒)にある、アサヒグループホールディングス機能子会社であるニッカウヰスキーウイスキー蒸溜所である。敷地面積は20万m2[1]

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宮城峡蒸溜所(2011年6月)
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正門(2007年3月)
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地図

正式名称は「ニッカウヰスキー株式会社仙台工場」(: Nikka Whisky Sendai Distillery)である[2][3]が、「ニッカウヰスキー仙台工場」「ニッカ仙台工場」「ニッカウヰスキー仙台工場宮城峡蒸溜所」「ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所」「仙台宮城峡蒸溜所[4][5]」などとも表記される。

概要

北海道工場余市蒸溜所と並ぶニッカウヰスキーの原酒工場であり、スコッチ・ウイスキーの本場であるスコットランドの風土に例えて「ハイランド余市とローランド宮城峡」と表現されることもある[† 1]標高は余市が約1.5m、宮城峡が約235m[6])。また、余市は「男性的」、宮城峡は「女性的」とも評価される[7][8]

仙台工場では「宮城峡」をはじめとしたシングルモルトウイスキーのほか、グレーンウイスキー(主原料:トウモロコシ)を製造する。当工場で製造されたグレーンウイスキーの熟成やブレンドされたウイスキーの再貯蔵は、栃木県の栃木工場で行う。

作並温泉定義如来にも近く、毎年17-18万人が工場見学に訪れており[9]、仙台市西部(旧宮城町)の観光拠点の1つともなっている。工場見学の業務等は(株)仙台ニッカサービスが担当している[2][10]

なお、宮城県は1人当たりのウイスキー消費量が、東京都に次いで全国2位である(2012年度)[11]

沿革

要約
視点

1964年昭和39年)5月4日に開始されたGATTケネディ・ラウンド[12]において、高度経済成長を実現した日本に対しイギリスなどから輸入洋酒関税が高過ぎると圧力を受けた[13]。外圧に抗しきれなくなった日本政府は、1971年(昭和46年)1月1日から洋酒の完全自由化を、1972年(昭和47年)4月1日からはウイスキー等の関税引き下げを実施することになった[12][13]。また、世界的な固定相場制から変動相場制移行の中で英ポンド為替レートは、1967年(昭和42年)まで1ポンド=1,008円の固定レートだったが、1973年(昭和48年)には年平均で1ポンド=約650円へと下落[14]。その結果、輸入量が増大して「第三次ウイスキー戦争」とも呼ばれる状況に陥いることになる[12][13]。さらに、1967年(昭和42年)から団塊の世代1947年1949年生まれ)が飲酒可能年齢20歳に達し始め、国内の酒販市場拡大が期待された。

このような状況を前にニッカウヰスキーでは、製品の拡大を図るために1967年(昭和42年)から竹鶴威が中心となり本格的に北海道工場(余市蒸溜所)の他に新たな原酒工場(蒸溜所)の候補地を探した[13][15]。その際の条件は以下のものである。

  • 余市がある北海道より南に位置すること[† 2]
  • 付近に水のきれいな河があり、できれば平坦な土地であること。

調査の結果、仙台市都心部から西に約20kmにある、新川川広瀬川の合流地周辺が上述条件を満たしており、さらに両河川の温度差によりがよく発生する場所でもあり、ウイスキーの貯蔵にも適していることが判明[16]。同年5月12日に創業者の竹鶴政孝が訪れ、新川の水でブラックニッカの水割りを作って飲み水質を絶賛、すぐさまこの場所に建設を決定した[17]。わずか2年後の1969年5月に竣工を迎えた。

バブル景気期になると、仙台工場が所在する宮城町は仙台市に編入合併され、住所が「宮城郡宮城町」から「仙台市」に変更となった。すると、蒸溜所名に「仙台宮城峡」を用いる製品が生まれ、「仙台宮城峡蒸溜所」「宮城峡蒸溜所」という名称が使われ始めた。酒販小売免許の需給調整要件の廃止やウイスキーの関税撤廃が進む中[12]2001年(平成13年)にニッカウヰスキーがアサヒビールの完全子会社となると、余市蒸溜所が国内初のSMWS認定 (No.116) されたのに伴って仙台工場も2000年代前半より商品名、SMWS認定 (No.124)、商標を通じて「宮城峡蒸溜所」として訴求するようになった。

なお、1992年(平成4年)のガーデンハウス「赤レンガ」のオープン以降、敷地内のニッカ池周辺や新川川の河原などで花見芋煮会が行われるようになり、一般客にも開放されるようになったが、環境保護のため2006年(平成18年)1月[18]に取りやめた。

関連年表

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シングルモルト宮城峡

設備

蒸溜所内には様々な設備があり、施設内を無料で見学・試飲[† 5]できるツアーも毎日9時 - 11時30分・12時30分 - 15時30分に組まれる[35]

乾燥棟(キルン塔)
大麦麦芽を乾燥させる棟。「パゴタ屋根」と仏教用語で呼ばれる独特な景観は、蒸溜所のシンボルでもある。
蒸溜棟(単式蒸溜器)
単式蒸溜器はスチームでじっくりと焚くタイプの蒸溜器。余市とは異なるまろやかな味わいのモルトウイスキーが製造できることから建設当初から導入された[36]
蒸溜棟(カフェ式連続式蒸溜機)
元々は西宮工場[† 6]に設置されていたものを1999年に移設した[37]
仕込棟
ウイスキーを蒸溜する以前の糖化・醗酵工程を行う。
ゲストホール
見学者がウイスキー等を試飲する施設。仙台工場の製品や限定品、お土産なども販売している。
製樽棟
ウイスキーを貯蔵するための樽をすべて手作りで製造する施設。
貯蔵庫
2014年現在25棟。
ニッカ池
仙台工場の施設に囲まれた、敷地の中程にある池(北緯38度18分30.7秒 東経140度39分0.9秒)。白鳥がおり[38]鎌倉山北緯38度19分06.9637秒 東経140度38分37.9637秒)を借景している[39]

地理

要約
視点
 :宮城峡蒸溜所

地形

概要 画像外部リンク ...
画像外部リンク
名取川水系流域界[40]
閉じる

仙台市域における奥羽山脈の東縁は作並-屋敷平断層[41][42]およびその南北延長線と考えられ、そのさらに東側には丘陵地が広がる[43]。当地はその奥羽山脈東縁から始まる、広瀬川沿いの谷底平野(おおむね旧・宮城郡作並村)、および、新川川沿い谷底平野(おおむね旧・名取郡新川村)が各々の東端で結合したV字状をしており、東西約4km、南北約2kmの小盆地を形成している(両河川とも名取川水系)。奥羽山脈東縁を成す盆地の西側は標高600-700m級、盆地の北・東・南を囲む丘陵(陸前丘陵の一部)は標高350-500mほどで、両河川は合流して盆地東側の丘陵峡部を貫き、「鳳鳴四十八滝」と呼ばれる峡谷を形成して愛子盆地へと流れ出る。盆地内の平地は河岸段丘となっており、生活の場となっている段丘面の標高は230mから300m以下。

仙台工場(標高:約235m[6])はこのV字状盆地の東端の、広瀬川(北緯38度18分38.4秒 東経140度39分4.3秒)と新川川(北緯38度18分27.4秒 東経140度38分48.4秒)との合流部付近の河岸段丘上に広がる。仕込み用の水は、奥羽山脈の面白山を源流とするこの新川川の伏流水を使用している[44][45]

「宮城峡」という名称は、仙台工場操業時からニッカウヰスキーが使用している[† 1]が、それ以前から当地を指す名称として使用されていたのかは不明。

気候

仙台工場に最も近いアメダス「新川」(北緯38度18分12秒 東経140度38分12秒)の値を以下に示す。

さらに見る アメダス「新川」(標高:265m)の気候, 月 ...
アメダス「新川」(標高:265m)の気候
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
平均最高気温 °C°F 2.6
(36.7)
3.2
(37.8)
6.9
(44.4)
14.0
(57.2)
19.0
(66.2)
21.8
(71.2)
24.9
(76.8)
26.9
(80.4)
22.9
(73.2)
17.5
(63.5)
11.7
(53.1)
6.0
(42.8)
14.8
(58.6)
日平均気温 °C°F −1.0
(30.2)
−0.7
(30.7)
2.2
(36)
8.1
(46.6)
13.2
(55.8)
17.0
(62.6)
20.6
(69.1)
22.1
(71.8)
18.1
(64.6)
12.1
(53.8)
6.3
(43.3)
1.8
(35.2)
10.0
(50)
平均最低気温 °C°F −4.9
(23.2)
−4.8
(23.4)
−2.4
(27.7)
2.1
(35.8)
7.4
(45.3)
12.6
(54.7)
16.9
(62.4)
18.2
(64.8)
13.9
(57)
7.0
(44.6)
1.3
(34.3)
−2.2
(28)
5.5
(41.9)
降水量 mm (inch) 68.1
(2.681)
61.4
(2.417)
84.1
(3.311)
104.9
(4.13)
114.6
(4.512)
150.3
(5.917)
212.4
(8.362)
222.8
(8.772)
208.4
(8.205)
129.8
(5.11)
93.7
(3.689)
82.0
(3.228)
1,531.1
(60.28)
降雪量 cm (inch) 131
(51.6)
117
(46.1)
50
(19.7)
3
(1.2)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
5
(2)
66
(26)
375
(147.6)
平均月間日照時間 87.2 102.3 135.6 171.1 170.3 124.5 105.4 115.2 98.7 121.1 106.3 85.6 1,423.3
出典:気象庁[46]
閉じる

以下は雨温図。比較のため、仙台市都心部近くにある仙台管区気象台の値も示す。仙台と比べて新川は2-3低く、日較差が大きく、降水量が多い。

概要 アメダス「新川」(標高:265m), 雨温図(説明) ...
アメダス「新川」(標高:265m)
雨温図説明
123456789101112
 
 
68
 
3
-5
 
 
61
 
3
-5
 
 
84
 
7
-2
 
 
105
 
14
2
 
 
115
 
19
7
 
 
150
 
22
13
 
 
212
 
25
17
 
 
223
 
27
18
 
 
208
 
23
14
 
 
130
 
18
7
 
 
94
 
12
1
 
 
82
 
6
-2
気温(°C
総降水量(mm)
出典:気象庁新川 平年値(年・月ごとの値) 主な要素
インペリアル換算
123456789101112
 
 
2.7
 
37
23
 
 
2.4
 
38
23
 
 
3.3
 
44
28
 
 
4.1
 
57
36
 
 
4.5
 
66
45
 
 
5.9
 
71
55
 
 
8.4
 
77
62
 
 
8.8
 
80
65
 
 
8.2
 
73
57
 
 
5.1
 
64
45
 
 
3.7
 
53
34
 
 
3.2
 
43
28
気温(°F
総降水量(in)
閉じる
概要 仙台管区気象台「仙台」(標高:38.9m), 雨温図(説明) ...
仙台管区気象台「仙台」(標高:38.9m)
雨温図説明
123456789101112
 
 
37
 
5
-2
 
 
38
 
6
-2
 
 
68
 
9
1
 
 
98
 
15
6
 
 
110
 
19
11
 
 
146
 
22
16
 
 
179
 
26
20
 
 
167
 
28
21
 
 
188
 
24
18
 
 
122
 
19
11
 
 
65
 
14
5
 
 
37
 
8
1
気温(°C
総降水量(mm)
出典:気象庁仙台 平年値(年・月ごとの値) 主な要素
インペリアル換算
123456789101112
 
 
1.5
 
42
29
 
 
1.5
 
43
29
 
 
2.7
 
49
34
 
 
3.8
 
59
43
 
 
4.3
 
67
52
 
 
5.7
 
72
60
 
 
7.1
 
78
67
 
 
6.6
 
82
71
 
 
7.4
 
76
64
 
 
4.8
 
67
52
 
 
2.6
 
57
41
 
 
1.4
 
47
34
気温(°F
総降水量(in)
閉じる

交通

周辺

脚注

関連項目

外部リンク

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