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昆虫の分類群(コウチュウ目・クワガタムシ科) ウィキペディアから
クワガタムシ(鍬形虫)とは、コウチュウ目・クワガタムシ科に属する昆虫のことである。雄では大顎が顕著に発達する種が多い。世界では約1500種類が知られていて、最大の種類は体長120mmに達する。カブトムシと並んで、子供から大人まで人気の高い昆虫である[要出典]。
クワガタムシの成虫は比較的飼育しやすいことから、古くからペットとしての扱いが一般化していた[要出典]が、近年では、開拓による生息地域の減少や、オオクワガタなどの採集、飼育ブームの過熱、外国産クワガタムシの輸入解禁により様々な環境問題及び社会問題が発生している[要出典]。
科名の和名であるクワガタムシとは、少なからぬ種の雄成虫が持つ巨大な大顎が、平安時代以降の武将が戦闘の際に被っていた兜についている「鍬形」に似ていることに由来する俗称[要出典]であり、そのような大顎を持つ甲虫の総称である[要出典]。
英語では「Stag beetle」と表現され、stagは「雄鹿」、beetleは「甲虫」を意味し、フランス語では「Cerf-volant」と表現され、cerfは「鹿」、volantは「飛ぶ」を意味している。どちらも、クワガタムシの大顎を「鹿の角」になぞらえたものである。また、他のヨーロッパの諸言語、韓国語においても同様に「鹿の角」が由来の呼称が使われている。中国語では「鍬形蟲」と表現され、日本語に近い。
東南アジアが全体の2/3の種類が生息している分布の中心であり、熱帯アフリカがこれに準じる。東南アジア周辺のオセアニアやインド方面にも多い。ヨーロッパや北米では種類数が少ないが、南米に大型種が見当たらない。
日本列島では、39種が分布している(ヤクシマオニクワガタを独立種として、更にマグソクワガタをクワガタムシ科として認めた場合)。日本列島のクワガタムシは、ほとんどが黒または赤みがかった黒であり、地味な印象[要出典]がある。離島の多い日本では、広範囲に渡って分布し、各島で亜種を擁するものも多く、ヒラタクワガタなどは日本列島だけでも12もの亜種で構成されている。九州島にはキュウシュウヒメオオクワガタ、オニクワガタの各亜種が固有に生息している。ただし、標高の高い地域にしか生息できないルリクワガタ属やツヤハダクワガタでは事情が違い、ルリクワガタ属ではルリクワガタは本州島、四国島、九州島と全般的に生息するものの、それ以外で 東北地方にコルリクワガタ、関東地方から甲信越地方にかけてトウカイコルリクワガタ(亜種)、中部地方西部から近畿地方にかけてキンキコルリクワガタ(亜種)、瀬戸内地方にニセコルリクワガタ、甲信地方にホソツヤルリクワガタ、四国島と九州島の一部にミナミコルリクワガタ(亜種)と、分布域ごとに亜種に分化しており、ツヤハダクワガタの亜種でも似たような分布を示している。全体的な分布としてはやはり南寄りで、本土に広く分布するものの中でもヒラタクワガタ、ネブトクワガタ、ルリクワガタ属などは北海道島には分布しない。逆に南方の離島には種、亜種共に固有種が多数生息している。また、チビクワガタ属は、南の離島にもともと多いが、本土では天敵が少ないためかやや増加傾向にあると考えられる[要出典]。
本州島南方の島では、伊豆諸島の八丈島に固有種が多く、独立種ハチジョウノコギリクワガタとハチジョウコクワガタ、ハチジョウヒラタクワガタ、ハチジョウネブトクワガタの固有亜種、スジクワガタ、チビクワガタが生息している。一方八丈島以北の島は本土のものとあまり変わらず、伊豆大島から三宅島にかけてのイズミヤマクワガタ(亜種)のほかには御蔵島、神津島の極めて特殊な生態のミクラミヤマクワガタくらいで、本土のものと特に亜種が分かれず分布しているものもある。その先の小笠原諸島にはオガサワラネブトクワガタ、オガサワラチビクワガタが生息するが、大型種は見られない。対馬のクワガタムシは日本列島よりも朝鮮半島との関係が強い。朝鮮半島に広く生息するチョウセンヒラタクワガタ、キンオニクワガタのほか、ヒラタクワガタの亜種ツシマヒラタクワガタが対馬にも生息しているといった状況である。周辺の離島にもゴトウヒラタクワガタ、イキヒラタクワガタという亜種が点在している。日本付近でクワガタムシが最も栄えているのは南西諸島である。屋久島にヤクシマコクワガタ、ヤクシマスジクワガタ、ヤクシマオニクワガタ、ヤクシママダラクワガタの特産亜種亜種、その周辺の三島列島硫黄島と口之永良部島にノコギリクワガタ2亜種、トカラ列島にトカラノコギリクワガタ、トカラコクワガタの特産亜種とトカラ、ガジャジマ、ナカノシマのネブトクワガタ3亜種、奄美群島にはアマミシカクワガタやスジブトヒラタクワガタ、更には以南の奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島、与那国島など多数の島々にマルバネクワガタ属4種2亜種やヒラタクワガタ6亜種、ミヤマクワガタ1亜種、リュウキュウノコギリクワガタ5亜種(基亜種含む)、アマミコクワガタ4亜種(基亜種含む)、ネブトクワガタ6亜種が集住している。徳之島にはヤマトサビクワガタが生息する。そのほかには大東諸島にはヒラタクワガタの亜種とダイトウマメクワガタが、硫黄島にはフィシコリスマメクワガタが生息している。
クワガタムシは、卵→幼虫→蛹→成虫という一生をおくる完全変態の昆虫である。総じてその生活を森林に依存し、幼虫は樹木をはじめとする何らかの枯死植物体を摂食して成長するため、カミキリムシ、タマムシ、ゾウムシ、キクイムシ、一部コガネムシなどとまとめて、食材性甲虫と類別されることもある。
成虫は、一般に夜行性のものが多く、灯火にも飛来するが、ルリクワガタ類やヒメオオクワガタのように、冷涼な高緯度地方や高い標高の地域に生息するものでは、日中活動するものもいる。 成虫の食物は、大型種ではマルバネクワガタ属などを除くと、樹液や腐敗した果実などのように糖分とそこに繁殖した酵母菌を多く含む餌に集まる種が多い。こうした食物に集まる大型種を含む系統群(タクソン)自体が、このようなパッチ状に点在する餌資源を雌雄の出会いの場とすることで雄による雌を巡る激しい資源防衛(雌自身、或いは雌のやってくる餌場の独占)のための闘争行動を行うグループとして進化したと考えられ、これによって闘争の武器になる身体の大型化、雄の大顎の長大化といった一連の形態の進化が生じたと考えられている。さらにこうした繁殖戦略を持つクワガタムシでは、闘争による資源防衛の成功率が高くなるためには巨大な体躯が必要となるが、これを形成するのに必要な成長量が幼虫時代に確保できなかった雄でも、小柄で身軽な体を活かして餌場の周辺を資源防衛の勝者の目につかないようにうろつき、餌場の主が気がつく前にやってきた雌にアプローチして交尾に成功する性質も同時に進化した。つまり、雄の繁殖戦略自体が成長の履歴や自らの置かれた相対的な状況に応じて切り替えられるようになっているのである。これらのクワガタムシの雄が、しばしば個体によってからだの大きさに大きな変異があり、それに連動して大顎の形態にも大きな変異が生じる性質は、この行動上の繁殖戦略が形態面に反映したものと考えられている。こうした資源防衛戦略による大型化は複数のタクソンで複数回生じたと考えられており、例えば同じクワガタムシ科の中でもクワガタ属やノコギリクワガタ属などを含むタクソンと、ミヤマクワガタ属などを含むタクソンは、互いに独立にこの性質を獲得したと推測されている。このような食性のクワガタムシは飼育下では、昆虫ゼリーと言われる専用の人工餌が開発、市販されているので、これを与えるのが便利である。また、リンゴやバナナを与えてもよい。他に新芽や若枝に集まって大顎で傷をつけて出てきた汁を吸うもの、一生朽木の中で過ごし、朽木内の他の昆虫を捕食しているもの、成虫になってからの摂食活動(後食)をほとんどしないものも知られている。
幼虫は、同じコガネムシ上科に属するコガネムシ科の幼虫に似ているが、ほとんどのコガネムシ上科の幼虫では尾節に開く肛門が横に裂けて排泄時には上下に開くのに対し、クワガタムシ科の場合には肛門は縦に裂けて排泄時には左右に開き、この左右に座りだこ状の突起があるため区別できる。また、コガネムシ科の幼虫は腐植土などの比較的壊れた植物繊維質の餌を好むが、クワガタムシ科の場合には繊維質の残っている固めの餌を好む(次項参照)。幼虫期間は2年のものが多いが、飼育下では栄養素が高濃度で供給されるため、1年程度で成虫になる種類も多い。オオクワガタ、ノコギリクワガタ、ルリクワガタ類などでは夏-秋に産卵されたものは幼虫で1年目の冬を越し、翌年の秋に羽化して成虫になり、そのまま蛹室内で越冬する。低温でじっくり幼虫に餌を食べさせたほうが大型個体になりやすいと信じられている。
餌は、幼虫では木材が腐朽した朽木などの腐植質であるが、食性は大きく白色腐朽(白腐れ)材食、褐色腐朽(赤腐れ)材食、軟腐朽材食(黒腐れ)、シロアリによって生成した腐植食の4タイプに大別される。白色腐朽材食を獲得したタクソンは比較的新しく現れたものであるが、最も資源量が多いタイプの朽木を餌としており、地球上で最も繁栄しているグループである。クワガタ属やノコギリクワガタ属などが含まれるタクソンで、近年のクワガタムシ飼育ブームでも主要な対象種になっているものはこれに含まれるものが多い。古い型のクワガタムシでもキンイロクワガタ属などのように、一部この性質を獲得しているタクソンが散見される。木材粉砕物と栄養添加物を混合してビンに詰め、水蒸気で高温高圧滅菌して、その中でキノコの菌糸を純粋培養した、いわゆる菌糸ビンによる飼育の対象となるのは、この型のクワガタムシである。オオクワガタのように比較的乾燥した堅い朽ち木を好むものや、ヒラタクワガタやノコギリクワガタのように湿り気の多い、場合によっては枯れ木の根株の地下部のような土壌中に埋没した部分を好むものまで、様々な環境を好むのものが分化している。褐色腐朽材食のクワガタムシはマダラクワガタ属など古い型のクワガタムシに多い。白色腐朽材食のクワガタムシの幼虫が褐色腐朽材も問題なく食物にできるのに対し、褐色腐朽材食のクワガタムシの幼虫は白色腐朽材から栄養を摂取する生理的能力を持たないことが知られている。軟腐朽材食のクワガタムシはミヤマクワガタ属・ツヤクワガタ属・マルバネクワガタ属などに多く、これらの種の幼虫は腐植質を多く含む土中に住む。シロアリ食害腐植食のクワガタムシとしてはネブトクワガタ属などが知られ、これらの種の幼虫は、シロアリの摂食によって分解が進み、窒素化合物などの栄養素が濃縮された土状の朽木を餌とする。
幼虫の齢期は3齢までで、この段階で十分摂食して成長すると、蛹室と呼ばれる部屋を作って体色が濃くなり動かなくなる前蛹状態になり、脱皮によって蛹になる。ここから更にもう一度脱皮(羽化)して成虫になるが、羽化したての成虫には色がついておらず、特に大顎の根元や前翅は、色づき硬化するのに時間がかかる。多くの昆虫と同様、この硬化はキノン硬化と呼ばれる酵素反応で、外骨格を構成するキチンから成るシートに大量に埋め込まれたタンパク質分子が、相互にハイドロキノンと反応して架橋され、これによって物理的に硬くなると同時に褐色に着色する。同時にハイドロキノンからはメラニン色素も合成され、色はさらに濃くなる。
クワガタムシの天敵は、野生では、多くの鳥類が、成虫の捕食者としてあげられる。
幼虫はウマノオバチ、アカスジツチバチといった寄生蜂の獲物となり、オオゴキブリの成虫・幼虫、コメツキムシ、ヒラタアブの幼虫等に捕食される。各種菌類に侵され死亡する例も多い。半土化した腐植質内に棲んでいる場合はモグラも脅威である。逆に立ち枯れに穿孔しているオオクワガタ等は、コゲラ、アオゲラをはじめとするキツツキの常食の一つになっている。
また、生息環境破壊者という点から、またその場所に元々いない虫の放虫や常識の範囲[要出典]を超えた乱獲採集、過激[要出典]な材割り採集による生息地の環境破壊の面からも、人間は重大な天敵となっている。
頭部・胸部・腹部に分けられるのが、背面から見た場合、しばしば前胸背板が胸部に、後翅の部分が腹部に該当すると誤解されるが、前胸とは胸部の一部分であり、中胸・後胸・腹部が翅の下にあることは腹面から見ればわかる。
大顎は、クワガタムシの最大の特徴でもある。これはもともと採食器官としてほぼすべての昆虫にあるものが闘争用に発達したものである。餌場やメスの取り合いにおいて使用されると考えられている。飼育下においては、闘争心の高い種などでは、目の前の動く物体を全て攻撃対象とみなしてしまうことがよくあり、大顎の間で木片を動かしてやれば挟むし、メスさえも死に追いやることが稀ではない。そのためそのような種ではペアリングの際には注意を要する[要出典]。クワガタ属のものは大顎の力が強いことが知られているが、それよりも奇抜な大顎を持つチリクワガタ属はあまり力が強くなく、ダーウィンには過剰適応の例とされた。一般に腐朽度の低い朽ち木に産卵する種類の方が力が強いようである。大顎は中空で構造力学的に理に適った形をしているが、カラス、アオバズク、ネコ等に襲われたノコギリクワガタやミヤマクワガタはしばしば大顎を折られている。コクワガタやヒメオオクワガタの大型個体も、大顎の片方、あるいは両方を欠損している個体が時折みられる[要出典]。
派生的な真性クワガタ族 (True Lucanidae group) では成虫は性的二形の顕著なものが多く、通常雌よりも雄が大きい。雄では発達した大顎を持つ種類が多く、大顎の形状も分類上の重要なポイントとなっている。比して、雌ではほとんどの種が黒っぽく同じような外観をしている。背中に模様のある派手な種ではメスにもまったく同じ模様とは限らないものの持つものもあり、識別が多少簡単にはなるが、それ以外の大勢では頭楯の形状や前翅の点刻の深さなどで判断し、オスに比べてとても難しいことは言うまでもない。多くの原始的な種は小型であり、性的二形が見られない、または弱い種類が多い。このような種では、他のオスだとわかる明確な指標のない多くの甲虫類と同じように、雌雄の判別がすぐにできないこともある。一方で、比較的原始的と考えられるグループでもニジイロクワガタやチリクワガタのように性的二形がはっきりしているグループも存在する。
性的二形のはっきりしているグループでは、同種のオス間にでも、大顎の形状や体のサイズに大きな変異 (Variation) が見られる。これらの違いは、主に幼虫時代の栄養状態や環境条件によって生じるが、遺伝的な要素も関与することが知られている。東京大学大学院総合文化研究科の小澤高嶺、岡田泰和、太田邦史らによって、2016年12月13日「カブトムシなどの昆虫の武器の大きさが環境に応じて変化するしくみ」が発表され、その発表によると、個体の差を生み出すしくみの一つとして、同一ゲノム情報を持つ細胞に「エピゲノム」という機構がさまざまな個性を与えるという。同研究では武器をもつ甲虫「オオツノコクヌストモドキ」をモデルとして、幼虫時の栄養によって大きく影響を受ける大アゴのサイズが、エピゲノムに関わる因子によってどのように制御されているかを調べた[1]。
大顎の形状に関しては、便宜的に
などと分けられる。 大歯型のものが人気があるが、全ての型を標本箱に並べて変異を楽しむことも多い[要出典]。全ての種にこれらの型の全てが見られるわけではない。もちろん大顎の発達があまりない種では変異もないし、クワガタ属でも変異が連続的であり劇的な違いは見られないが、身近なクワガタで言えばノコギリクワガタがよく知られる。長歯型では強く湾曲する大顎は、原歯型では直線状で短く、内歯も目立たなくなる。尚、この類の用語はきちんと定義された学術用語ではないため、愛好家によって違う変異の体形に使われていることがあると記しておく。また、全体の大きさと大顎の形とは必ずしも対応しない場合があり、ツヤクワガタ属や一部のノコギリクワガタ属にこの傾向が見られる。大顎の向かい合う方向に生えている突起を内歯(ないし)といい、先端部分を外歯(がいし)という。根元から数えて第一内歯、第二内歯と呼ぶ。内歯の数、位置、形状は重要な種の識別要素である。
脚(または肢)は、前胸・中胸・後胸に各一対生え、根元から基節(きせつ)・転節(てんせつ)・腿節(たいせつ)・脛節(けいせつ)・跗節(ふせつ)に分けられる。腿節の根元の体との接続部分を転節、転節のついている一番根元の関節を基節という。飼育下では跗節がよくとれるため、慌てる飼育初心者も多いが、出血の恐れもなく、また脚が6本もあるので1本くらい取れただけでは大きな支障はないが、転倒した際に起き上がることが困難になるので、全く支障がないとは言い切れない。ただ標本としての価値が下がるため、標本収集を目的とする者は採集したものを、跗節が取れるのを嫌い、持ち帰って飼育せずそのまま酢酸エチルで殺すことも多い。生体でも通常より値段は下がるため、主に累代飼育を目的とするものは種親の欠陥を気にせず購入するが、欠陥箇所によっては交尾や産卵に支障をきたす場合があるため、注意が必要である。
翅は、他の甲虫類同様、前翅は硬化し柔らかい部分を守る働きもしている。鞘のように後胸・腹部や後翅を覆っているため、上翅(じょうし)或いは鞘翅(しょうし)ともいう。飛行時には前翅を開き、後翅に血液を通し広げて飛ぶが、大型種の場合飛ぶのは至極不器用で、また柔らかい部分が剥き出しになるため鳥に狙われやすい。あまり飛ばない種も多く、小規模な島嶼に住む種やマルガタクワガタ属の中には後翅が退化したり飛翔能力を失ったりした種もいる。このような種は灯火やバナナトラップなどに集まりにくいため、ルッキングでの採集が基本となる。飛行後、後翅をうまく畳めなくなってしまい、前翅からはみ出た状態になったり、前翅自体がきちんと閉まらなくなることがある。これは飼育下で狭いケースに入れられたクワガタムシが飛ぼうとしたときにも起りやすく、この場合、後翅が何かに引っかかって状態が悪化することがよくある。
その他の器官については、口器は、多くの種では小顎のGaleaと、下唇のparaglossaがブラシ状になっており、樹液や傷んだ果実のような半液状の餌を摂取するのに適している。ブラシ状の小顎は下唇基節に収納することができ、樹液や果液を吸う時は左右に動く。また、多くの種では雌の大顎が咀嚼機能を失っていないため、植物の茎や果実の表面に傷をつけて汁を吸ったり、小昆虫を捕食して動物性タンパク質を摂取したりする。これに対し、チビクワガタ属やツノヒョウタンクワガタ属のように小型で集団生活をするグループでは、雌雄何れも咀嚼型の口器を有し、昆虫等の動物質を主な餌とすることが知られている。触角は、基本的に10節に分かれ、根元から数えて第一節は長く、第二節との間で曲げることができる。これがクワガタムシ科と他の科を識別する要素のひとつになっている。
日本列島には13属46種55亜種のクワガタムシが生息している。
分類学の始まったヨーロッパでは、大型種はヨーロッパミヤマクワガタだけで、後はパラレリピペドゥスオオクワガタのような小型種が多い。ヨーロッパミヤマクワガタの属するミヤマクワガタ属Lucanusは、クワガタムシ科の学名Lucanidaeにも使われており、大航海時代に発見された海外の種は全てLucanus属に入れられていた。
以下の分類は、2006年にSmith によって発表された、クワガタムシ科全体を4亜科に分ける分類に従う。
クワガタムシを対象にした採集には以下のものがある。それぞれ有効な種、有効でない種があり、目標とする種によって使い分ける。それぞれの採集方法の詳しい解説はトラップを参照のこと。
夏期にはホームセンター・スーパー・デパートなどで売られている。昆虫専門店やペットショップには通年専門ブランドの高品質用品が売られている。
クワガタムシは、カブトムシと共に非常に人気のある昆虫の一つである。一昔前には、定期的に手入れされた里山の雑木林には普通に見られた。木を蹴ると、クワガタムシが驚いて脚を縮めて擬死落下する性質を利用して採集をしていたというのは有名な話である。子供たちはクワガタムシに指を大アゴで挟ませて我慢比べをしたり、昆虫相撲をさせたりと、親しんでいた。
こうして最近までクワガタムシはアマチュアの収集家や研究家は多かったものの、プロの研究者はほとんどおらず、十分マニュアル化された飼育繁殖技術はほとんどない状態であった。
1986年に月刊むしの「オオクワガタ特集号」に、詳しい採集方法や、累代飼育法が公開された。それまで一般には謎の昆虫だったオオクワガタは、商業目的による乱獲も進んだ。当時公的機関の研究者は、害虫でも益虫でもなかったクワガタの飼育方法を知るものはほとんどいなかったが、オオクワガタの累代飼育技術を、アマチュア研究家の小島啓史が月刊むしで公開し続け、1996年に著書「クワガタムシ飼育のスーパーテクニック」で日本産の主な種の繁殖飼育技術を公開したため、子供の頃クワガタムシに親しんだ世代を中心にオオクワガタのみならずクワガタ全体の飼育ブームが起きた。
特にオオクワガタは成虫の見栄えがよい大型種であるが、乱獲により野外での採集が困難になっており希少性が高かったこと、飼育技法の公開により、簡単に飼育下で繁殖可能であることが明らかになったこと、さらに成虫の寿命が長く数年に及び、ペットとしての愛着を持ちやすかったことなどがブームの背景となった。さらに飼育下でいかに見栄えよく大きな成虫を育てるかという競争が起き、ブームをより加熱させた。
こうして加熱したブームはより広がりを見せるようになり、様々な種の飼育繁殖を試みる愛好家も増えてより多様な飼育技術が考案され、また当初は愛好家自ら自作していた飼育資材を製造販売する専門業者も増加するに至った。
こうして、以前はハイレベルのアマチュア研究家でなければ出来なかった累代飼育が初心者でも簡単に楽しめるような環境が形成され現在に至っている。
こうした飼育ブームの過熱により、一部愛好家の圧力などによってそれまで植物防疫法によって生体での輸入が禁止されていた海外産のクワガタムシやカブトムシの輸入が解禁され、今日では数多くの海外産のクワガタムシやカブトムシが国内で飼育、繁殖されるに至っている。しかし、問題も多い。
様々な政治的判断や妥協[注釈 1]で、解禁リストに加えられた種の中には、農作物に対する害虫となりうる危険が非常に高い種[注釈 2]が含まれてしまっており、また日本国内への持ち込みに際して監視の目もあまり強くないこともあり、解禁リストにない種でも平然と店頭で売られている実態もある。
また、飼育繁殖された海外産、或いは国内の他地域産のクワガタムシ、カブトムシが野外放虫されることにより、日本国内の生物群集、ひいては生態系の攪乱(遺伝子汚染)も懸念されている。実際に、東南アジアから大量に輸入されるオオヒラタクワガタは、日本在来のヒラタクワガタと亜種レベルでの相違しかなく、これらの交配個体と見られるクワガタムシが幾多も見つかっている。これは、モラルの低い愛好家の存在はもちろんのこと、全くの素人であっても海外種をデパートなどで簡単に入手し、飼育できてしまうがために、このような問題に関する知識に乏しい者が悪意なく「自然に返してやる」といった実情も指摘されている。
その他にも、海外産の輸入個体に伴って侵入したダニなどのクワガタムシの海外産寄生虫の国内進入が確認されていること、海外で保護生物とされて持ち出しが規制されている種の密輸出の問題が生じ、海外での逮捕者もでていることなどの様々な問題が引き起こされている。
最近ではゲーム「甲虫王者ムシキング」の流行や形や大きさの競争の過熱や高額での取引も話題になったが、子供たちに生き物に対する間違った意識を植え付けることになるではないかと危惧する声が多く発せられた[誰によって?]。
通常海外産のクワガタムシの名前は、例えばフェモラリスツヤクワガタであった場合、後のほうの属名を省略し、単にフェモラリスと呼称することが多いが、有名であったり、属名を省略しても十分長いと感じられる名前を持つクワガタムシには、愛好家の間でのみ通じる略語が作られることがある。
クワガタ属、ネブトクワガタ属などの黒っぽいクワガタムシを黒虫(くろむし)、ニジイロクワガタ、キンイロクワガタ属、ホソアカクワガタ属などの色彩が派手なクワガタムシを色虫(彩虫、いろむし)と呼ぶことがある。厳密な定義はないため、各人によってどのグループまで入れるかの考え方が異なる。
遺伝学で雑種のn代目を指すFnは、繁殖個体n代目という意味になる。繁殖個体はブリード物や新成虫などと呼び、それに対して採集された個体はワイルドなどと呼ぶが、時々F0とすることもある。ワイルドから繁殖させた個体はWF1と表記する。ワイルドではメスの場合自然下で既に交尾を済ませていることがおおいため、改めてペアリングをする手間が省けるが、羽化してからどのくらい経ったのかがわからないため、買ってすぐに死んでしまう可能性があるという欠点もあり、専門店ではブリード物かワイルドかの表示をする。
普段別々に飼育している雌雄を同じケースに入れ、交尾をさせることをペアリングやカップリングという。雌雄セットで販売されている商品は「○○クワガタペア」などの表示がつく。
蛹室の欠陥などで羽化に失敗した個体は羽化不全と呼ばれ、翅がぐちゃぐちゃになった状態になる。羽化してすぐ死んでしまう新成虫も多いが、特に外傷がなければ通常の個体と変わらず生活をするものも少なくない。蛹室が狭く、大アゴが曲がってしまうこともある。これらは成長時の外的な影響によるものであるから奇形とはいえない。そのほかにも羽化不全ほどではないが、前翅に皺ができたり、ディンプルと呼ばれる小さな凹み、窪みができることがある。これらの羽化時の事故は一般に大型個体ほど起こりやすい傾向にある。
大アゴが太くなったクワガタムシ(主にオオクワガタ、ヒラタクワガタ)は重量感があるとされる。こうした人気のある形状をしたクワガタムシは良形とされる。クワガタムシを大量に飼育し、形のよい成虫のみを選抜して血統管理をする飼育家も存在し、こうして作られた血統のものは高値で取引される。オオクワガタでは能勢YG血統・元木スペシャル・森田ゴールド・極太丸・マツノインセクト血統などがその例である。また、元木スペシャルは複眼が白化する現象ホワイトアイの血統を作ることに成功したといわれている。それらの血統は実際にギネス個体が出現したり美形個体が出現している。
ギネスブックとは直接の関係はないが、記録上大顎の先端から尻までの体長が最大であった場合、ギネス個体という。標本にすると体長が減少することが知られていることから、生体は体長に1mm引くなどと決められることもある。なお専門雑誌や個人サイトによって基準が異なるので注意が必要である。
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