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特定の菌類のうちで、比較的大型の子実体あるいは、担子器果そのものを指す ウィキペディアから
キノコ(茸、菌、蕈、英: Mushroom)とは、比較的大型の(しばしば突起した)菌類が、胞子整形のために作り出す複雑な構造(子実体)、あるいは担子器果そのものをいう俗称である[1]。ここでいう「大型」に明確な基準はないが、肉眼で確認できる程度の大きさのものをキノコと呼ぶ場合が多い。語源的には、「木+の+子」と分析できる。
しばしば、キノコという言葉は特定の菌類の総称として扱われるが、本来は上述の通り構造物であり、菌類の分類のことではない[1]。子実体を作らない菌類はカビである[1]。植物とは明確に異なる。
目に見える大きさになる子実体を持つキノコは、担子菌門 Basidiomycota あるいは子嚢菌門 Ascomycota に属するものが多い[2]。
食用、精神作用用にもされるが毒性を持つ種もある。日本では既知の約2500種と2、3倍程度の未知種があるとされ、そのうちよく知られた毒キノコは約200種で、20種ほどは中毒者が多かったり死に至る猛毒がある[3]。また、日本では約300種が食用にされ、うち十数種が人為的にキノコ栽培されている[4]。
キノコの本体(実体)は、カビと共に菌類という生物群に含まれる。菌糸と呼ばれる管状の細胞列で、体外に分泌する酵素で有機物を分解吸収することで生長し、胞子を作り繁殖を繰り返す。
日本菌学会の『菌類の事典』では、子実体、あるいは担子器果がいわゆるキノコであり、有性生殖器官を作る菌糸組織構造物であり、菌などの分類群を指す名称ではないと説明される[1]。
つまり厳密にキノコと言えばより大きい、傘状になるものを指す。しかし不正確だが、それを作る生物の種そのものを指す場合もあるということである。つまり、定義としては子実体はすべてキノコ、あるいはそれを作る生物はすべてキノコ、ということである。後者の場合、たとえば枯れ枝の表面などに張り付いていたり埋もれていたりする微小な点状のものもキノコと見なす。キノコである生物がカビに見えたり酵母状だということである。このような点状の子実体を持つものは和名も「カビ」とも呼称される例がある。
目に見える大きさになる子実体を持つ菌は、担子菌門 Basidiomycota か子嚢菌門 Ascomycota に属するものが多い[2]。しかし変形菌などの、かつて菌界に分類されていたが、現在は菌類以外に分類されている生物の子実体もキノコとして取り扱われる場合がある。栄養素の吸収の仕方から、動植物の遺骸を栄養源とする腐生性の木材腐朽菌、腐朽菌と植物の生きた根と共生が必要な菌根菌、昆虫類に寄生する冬虫夏草菌と分類される。キノコを含め菌類は生態系のサイクルの「分解」という重要な部分を担当している。キノコがあることで植物を構成するリグニン等は分解され、複雑構造のタンパク質は簡単な構造を持った物に変化し、再度植物の生長のために使われる。
子実体は胞子を散布するための器官であって、通常は「キノコ」の本体ではなく、その役割から言えばむしろ維管束植物でいう花に近い(ただし子実体と花が互いに相同な器官というわけではない)。いわゆるキノコの生物としての本体は基質中に広がっている菌糸体である。
ただし、生活環において二次的ホモタリズム(性的に異なる二個の核が、一個の有性胞子にすでに含まれている状態)を示す種(たとえばツクリタケやハタケキノコなど)では、担子胞子は発芽した時点でただちに重相菌糸(n+n)となり、他の菌糸と融合することなしに正常な子実体を形成する。さらに、単相菌糸と重相菌糸との間で交配を行うこと(ダイモン交配あるいはブラー現象と称される)によって遺伝的撹拌を行う菌もある[5]。
また、周囲の環境条件などに応じて、有性生殖を行う世代(テレオモルフ Teleomorph)と無性生殖を行う世代(アナモルフ Anamorph)とを随時に形成する菌群も数多い[6]。たとえば、食用菌としてなじみの深いヒラタケの近縁種であるオオヒラタケ(P. cystidiosus)のアナモルフは Antromycopsis 属に分類されており、通常の子実体の柄の基部に形成され分生子と呼ばれる無性胞子で繁殖する[7]。また、クロハツなどの他のきのこの上に発生するヤグラタケ、あるいは木材腐朽菌として知られるマメザヤタケにおいては、一個の子実体がテレオモルフとアナモルフの両方の機能を有している。
なお、休眠体としての菌核(菌糸が密に合着した塊を指す:スクレロティウム)や、分生子の一種であるが厚い細胞壁を持ち、休眠体として機能する厚壁胞子なども、アナモルフとして扱われる。一種類の菌で、複数のタイプのアナモルフを有する場合は、そのおのおのを指してシンアナモルフ(Synanamorph)と呼び、また、テレオモルフとアナモルフとの両者を併せてホロモルフ(Holomorph)と称する[8]。
キノコの多くは植物やその遺骸を基質としているが、中には動物の糞などの排泄物や死骸を基質とするものや、他種のキノコを基質にするものもある。また、植物の根と菌根と呼ばれる器官を形成して共生し、植物から同化産物を供給されて成育するものもある。通常目にするキノコの多くは地上に発生しているが、トリュフのように完全に地下に埋没した状態で発生するものもある。地域としては森林や草原に発生するものが多い。
一般にキノコは日陰や湿ったところに生えると言われ、実際にそういうところで目にする場合が多い。しかし、キノコの側からすれば、これはやや異なる。というのは、地下性のものを除けば、キノコの形成には光が必要な場合が多いのである。これは、キノコが胞子を外界に飛ばすためのしくみであることを考えれば当然と言える。朽ち木の中の閉じた空洞で胞子を飛ばしても仕方がないので外に開かれた場所にキノコを作る必要がある。しかし菌糸の生育できる場所が湿ったところである場合が多いので、その中で明るい開けたところに出てきてキノコを作っても、周囲に比べるとやはり暗く湿ったところにならざるを得ない、というのが本当のところである。真っ暗なところで形成されたキノコは、びん栽培のエノキタケに見られるように、モヤシのようにしか育たないことがある。また、マンネンタケやマツオウジのように、鹿の角状に不規則に分岐した奇形となり、かさを形成しない例も知られている。しかしながら、このような奇形化には、光条件だけではなくガス条件(二酸化炭素の濃度)や他の生物の影響なども関与していることが多い。
落雷した場所に、きのこがたくさん生育するという話は、古代ギリシアの哲学者、プルタルコスが『食卓歓談集』(岩波文庫など)に記すほどの経験則である[9]。これを説明する仮説としては、電流によって菌糸が傷ついた箇所から子実体が成長するという説、電気刺激によって何らかの酵素の活性が増大するという説[10]、落雷の高電圧により窒素が固定(窒素固定)され、菌糸の養分となる亜硝酸塩等の窒素化合物が生成されるとする説[11][12]などがある。
日本工業大学教授の平栗健史は「雷が落ちたときの音の衝撃波が菌糸に刺激を与えている」という仮説を立て、近い115デシベルの音をシイタケにあてる実験を行ったところ、落雷と同様に発芽から収穫までの期間が短縮され収穫量が倍増するという結果を得ている[13]。
キノコの形態は多様である。担子菌に属するキノコは、シイタケなどのように、柄の上に傘が広がり、その裏面にひだがあるという、いかにもキノコらしい形態をしたものも多いが、それだけでなく、サルノコシカケ類などのように柄のないもの、ホコリタケ類やトリュフなどのように球形に近いもの、コウヤクタケ科のキノコなどのようにほとんど不定形のものまである。また、腹菌類に属するキノコには、奇抜な形のものが多い。キクラゲなどのキノコは寒天か膠のような質感をもつので、まとめて膠質菌 (Jelly fungi) といわれることもある。
子嚢菌の場合、よく見かけられるのはチャワンタケと言われる、お椀型が上を向いており、その内側で胞子を作る型のものがよく知られる。アミガサタケは太い柄の上にお椀が多数並んだものである。しかし、多くの種はごく小さな球形のキノコを作り、あるいはそれを基質中に埋まった形で作るため、ほとんど目につかない。 地中性のものでは、球形や楕円形のものが多く、内部に胞子の塊を作る例が多い。形態からはその属する分類群がわからない場合もある。
当然ながらキノコを形成しているのは菌類の細胞である。キノコを生じる菌類はすべて糸状菌である。その構造は、菌糸と呼ばれる1列の細胞列からなる。いかに大きなキノコであっても、それらはすべてこのような微細な細胞列によって構成されている。ただしキノコにあっては通常の細胞だけではなく、ベニタケ科の多くに見られる類球形の細胞など、平常の菌糸体には見られない独特の形態を持つ細胞を含むことが多い。そのようなものでは、一見は柔組織のような形になるものもあり、偽柔組織と呼ばれる。
日本語のキノコを表す漢字には、「茸」・「菌」・「蕈」がある。いずれも訓読みは「きのこ」・「たけ」である。
キノコの和名には、「松茸(マツタケ)」や「椎茸(シイタケ)」など名称に「タケ」とつくものが多い。「榎茸(エノキタケ)」や「天狗茸(テングタケ)」のように、通称では「ダケ」と濁って表記されるものもある。「榎茸」について言えば、下記の出典では「エノキダケ」を読み仮名としている。
また、石川県ではキノコのことを「コケ」と呼ぶ習慣がある[14]。
キノコ類の同定は簡単ではない。上の各部名称に記されたようなさまざまな特徴によって分類され、それを頼りに同定するのであるが、元来キノコは菌類であり、カビと同じような微細な組織からなる生物であることを忘れてはならない。それが多数積み重なって肉眼的な構造を取ってはいるが、カビと同様に微生物としての目に見えない部分の特徴が実は重要であり、たとえば胞子や担子器などを顕微鏡で見なければ本当に正しい同定はできないものと考えるべきである。
もちろん、熟練した人は顕微鏡を使わずとも正しい同定ができることがあるが、これはその地域に出現するであろう類似種や近似種の区別をすでに知っているからである。菌類図鑑もいろいろあるが、外形の写真だけの図鑑での同定は基本的には正しくできない可能性があるものと考えなければならない。
真菌学的に化学薬品で同定する場合は、メルツァー試薬や水酸化カリウム、アンモニアなどを使用して、呈色反応を観察することで行う。
菌類にとって、キノコを形成することの意義は、前述したように胞子の散布にある。多くのキノコでは、空中に胞子を放出し、風による拡散を行なっている。かさの下に側面から強い光を当てると、胞子がかすかな煙のように落下するのを確認できる場合がある。
一方で中には、昆虫その他の動物を誘引して胞子の散布を行なっていると考えられているものもある。スッポンタケやキヌガサタケは糞便臭や腐敗した果実臭などを放ち、ハエ類が集まる。食用きのことして珍重されるトリュフの類では、昆虫類だけではなくノネズミやモモンガあるいはイノシシなどの哺乳類による媒介もあると推定されており、ヒトクチタケは強い樹脂臭によって特定の昆虫類を誘引しているという。
キノコを食べる動物はヒト以外にも多い。日本国外では、リスなどがキノコを木の枝先にかけて乾かし、冬期の食料として利用する例も知られている[15]。また、北アメリカ東部ではオオアメリカモモンガ(Glaucomys sabrinus)がキノコを摂食するという[16]が、日本産のモモンガではまだ確実な例が知られていない。 さらに、北アメリカに分布するカリフォルニアヤチネズミ(Clethrionomys californiacus)・ヨーロッパ北部のヨーロッパヤチネズミ(C. glareolus)は、地中に子実体を形成するショウロを掘り起こして食べるという[17]。日本でも、北海道で捕らえられたミカドネズミ(Myodes rutilus mikado)の胃の内容物から、少なくとも4-8種のきのこの胞子や組織断片が見出されている[18]。
昆虫にもキノコを食べるものは数多い。森林土壌中の微小な節足動物の8割は菌類の菌糸体を食べる菌食者(Mychophagous, Fungivores)である[19]。科の名や属の名に「キノコ」の語を冠しているものに、コウチュウ目に属するオオキノコムシ科・デオキノコムシ科・コキノコムシ科があり、それらに所属するものの多くがキノコを餌として、そこに生活している。他にゴミムシダマシ科にもキノコを食べる種類が多数知られている。ハエ目にはキノコバエ科・チャボキノコバエ科・ツノキノコバエ科・ホソキノコバエ科・クロキノコバエ科などがある。
熱帯域に分布するいわゆる高等シロアリ類や、南北アメリカ大陸に生息するハキリアリの仲間は、キノコを育て菌胞を餌として利用する物がある[20]。
ヤスデ類もさまざまなキノコの子実体上で見出され、子実体そのものを食べるほか、枯れ葉などの上に繁殖したキノコの菌糸を葉ごと摂食する。
ナメクジやカタツムリ・キセルガイも、しばしばキノコを餌として利用している。特にナメクジは、食用キノコの露地栽培や林地栽培を行う生産者にとって、厄介な存在になっている。
菌類に寄生する菌類を菌寄生菌と言うが、その中には特にキノコを攻撃する例もある。特に有名なのはヤグラタケで、ベニタケ類のキノコに生じる。ヤグラタケ自身も標準的なキノコの形なので、大きなかさの上に小さなかさが並ぶという、特徴的な外見を呈する。また、タケリタケは未成熟のキノコについて、太い茎と展開しないかさとを持つ特異な形態に変形させる。
タンポタケやタマノリイグチなどは、地中性の子実体に寄生するので、発生状況を一見しただけでは菌寄生菌であると判断しにくく、宿主を切り離さないように掘り起こす必要がある。
カビの類でもキノコを攻撃するものがいくつかある。接合菌類に属するタケハリカビやフタマタケカビが有名で、前者ではキノコの上にまち針が並んだような、後者ではきのこ全体が綿をかぶったような姿になる。また、アワタケヤドリはタケリタケの一種の無性世代であるが、特にイグチ科の大型きのこの上に発生し、多量の無性胞子を形成して宿主を黄色い粉塊状におおう状態が野外でしばしば観察される。
以上はキノコの子実体そのものに寄生するものであるが、ボタンタケ(Hypocrea spp.)およびその無性型であるトリコデルマ(Trichoderma spp.)は、主として木材上に見出され、材の内部に生息する他のきのこの菌糸の内容物を吸収している。ときに、シイタケ栽培上で大きな害を生じることがある。また、真の菌類の一員ではないが、また、変形菌にもキノコを餌とする例がある。特に、ブドウフウセンホコリは有名で、別名をキノコナカセホコリという。
食べることを基準に分ける表現としては、食用、不食(まずい、非常に硬く食用にされないもの、毒性が不明なものもある)、毒(または猛毒で間違って食べられるもの)に分けられる。 2019年現在、食用菌の生産量は世界で一年間に約5000万トンとなっており、そのうちの7割以上が中国で生産されている[21]。
先史時代の人々がキノコを食用にしていたかどうかを明らかにする証拠はないが、キノコに関心を持っていた証拠はいくつも存在する。日本においても古くから身近な存在であったことが縄文時代の遺跡から出土した、「きのこ型土製品」によりうかがい知ることができる。
食用としての歴史は古く、古代エジプト人はキノコを好んで食べた。キノコはごちそうにも強烈な毒にもなるため、特別な敬意が払われた。古代ギリシアのキノコ研究ではヒポクラテスがキノコの生薬としての治療効果を論じている。また、クラロスのニカンドロスやディオスコリデスがキノコ栽培の手引書を残している。なお、最も古いトリュフの記録は紀元前5世紀にアテネの居留外国人が独創的なトリュフ料理と引き換えに市民権を得た、という記録である[22]。
古代ローマ時代にも色々なキノコ料理があった。中でも珍重されたのは「皇帝のキノコ」と呼ばれるセイヨウタマゴタケで、クラウディウス帝は好物のタマゴタケ料理に仕込まれた毒で毒殺された[注 1]。古代ローマでは大プリニウスが食用キノコと毒キノコの見分け方に関する詳細な記述を残している。
中世のヨーロッパでは、雷から生まれる、花も実もないのに何も無いところから発生するなど謎めいた存在であることから、生命の神秘を探る錬金術の研究対象ともなった。イスラム世界ではイブン・スィーナーがベニテングダケを使った毒キノコの解毒剤の研究を行った。西洋での最も古いキノコ図鑑はフランシスクス・ヴァン・ステルベークの『Theatrum fungorum』(1675)やピエール・アントニオ・ミケーリの『新しい植物類』(Nova plantarum genera iuxta Tournefortii methodum disposita)(1729)である。次いでオリヴィエ・ド・セールは『農業論』の中で、ハラタケの床栽培についての手引を記述している[23]。
日本では1985年の記載で、約300種が食用にされ、うち十数種が人為的に栽培されている[4]。
シイタケ、エノキタケ、シメジ類、マイタケ、ナメコ、ツクリタケ(マッシュルーム)のように、非常によく食べられており、栽培も行なわれている食用キノコがある。最近では、エリンギやヤマブシタケの栽培も増えている[いつ?]。また、マツタケのように、人工栽培には成功していないが、大量に輸入されていたり、トリュフのように高価で珍重されるキノコもある。キヌガサタケは高級な中国料理の材料として扱われていたが、すでに中国で栽培されている。菌床栽培された食用キノコを洗いすぎると吸水し水っぽくなったり栄養や旨みが失われるため、洗いすぎず食べることが肝心。
食用キノコにはビタミンB2を含むものが多いが、同一の種でも生育環境(栽培条件)により栄養成分の含有量は大きく異なる[24][25]、そのため収穫後の子実体への効果を期待し様々な成分の添加が研究されている[26][27]。また、シイタケには呈味性ヌクレオチドであるグアニル酸が含まれ、だしを取るのに利用されている。キノコの旨み成分の多くは加熱により増えるため、ほとんどのキノコは生で食べても旨みは感じられない。
従来から、可食種とされているクリタケ、ナラタケ、エノキタケ、シイタケでは加熱が不十分な場合、中毒症状を起こすおそれがある。また、体質によっては消化不良を起こし、下痢をする場合がある。さらに、コウジタケ、アイタケ、ホテイシメジでは、ビタミンB1を破壊する作用が報告[28] されており、調理方法には注意が必要である。食用となるキノコの一覧は後の「#種類」を参照のこと。
一方、ハタケシメジ、マイタケなどでは有効とされる成分を抽出し、健康食品として販売されている例があり、さらにはカワリハラタケ(アガリクス)がβ-グルカンなどを豊富に含む健康食品として販売されているが、これらは副作用被害も報告されている[29]。
ただし、これらキノコの薬理作用については、その有効成分などを含めて不明な点が多い。健康食品として販売されるキノコ加工品の中には、癌などの難治性疾患が治るという宣伝文句が付けられている場合があるが、医学的にその安全性が確認されかつ有効性が立証されているものは未だなく、かつ日本では医薬品として登録されていないものの薬効をうたうことは医薬品医療機器等法違反となる。
学名 | 和名・一般的な名称 | 画像 | 人工栽培 | 分布 |
---|---|---|---|---|
Agaricus bisporus | ツクリタケ マッシュルーム |
実用 | 北半球の温帯に分布。 | |
Boletus edulis | ヤマドリタケ ポルチーニ |
未実用 | 北半球の亜高山帯や亜寒帯の主にトウヒ林に分布。 夏~秋に子実体形成。 | |
Cantharellus cibarius | アンズタケ ジロール |
未実用 | 北半球の温帯に分布。 夏~秋に子実体形成。 | |
Lentinula edodes | シイタケ | 実用 | 環太平洋の温帯~亜熱帯のブナ科の枯れ木に分布。 春~秋に子実体形成。 | |
Morchella esculenta | アミガサタケ モレル |
実用 | 北半球の温帯に分布。 春に子実体形成。 | |
Tricholoma matsutake | マツタケ | 未実用 | 北半球のアカマツ林に分布。 秋に子実体形成。 | |
Tuber spp. | セイヨウショウロ トリュフ |
実用 (菌床栽培不可) |
北半球の亜寒帯から温帯に分布。 夏~冬に子実体形成。 | |
Volvariella volvacea | フクロタケ | 実用 | 世界の温帯~熱帯に分布。 初夏~初冬に子実体形成。 |
キノコの効能については、抗菌、抗ウイルス、コレステロール低下、血糖降下、血圧降下、抗血栓、PHA幼若化抑制、抗腫瘍などが報告されている。きのこに含まれる多糖類であるβ-D-グルカンは抗腫瘍活性があるのではないかと指摘されている。キノコから開発された多糖体制癌剤(免疫療法剤)としてクレスチン、レンチナン、ソニフィランが認可されている[30]。
薬用茸からは多糖類を始めとする免疫賦活作用を有し抗がん作用を持ち得る化合物が幾つか見付かっている。例えば、レンチナン等のβ-グルカンは実験ではマクロファージ、NK細胞、T細胞、免疫系サイトカインを賦活し、免疫賦活剤としての臨床試験も実施されている[31]。
アガリクス(Agaricus subrufescens、しばしば Agaricus blazei と誤称される)、シイタケ(Lentinula edodes )、メシマコブ(Phellinus linteus )、マイタケ(Grifola frondosa )、ヤマブシタケ(Hericium erinaceus )は、β-グルカンを産生する茸として知られており、抗癌剤としての可能性が試験されている[32]。
一部のキノコには、薬用とされるものも存在する。日本薬局方には、マツホド(局方名:ブクリョウ)とチョレイマイタケ(チョレイ)は生薬材料として収載されており漢方方剤の原料として用いられる。この他、霊芝や冬虫夏草などが、局方外で漢方薬の材料とされることがある。シイタケ、カワラタケ、スエヒロタケ等からは抗腫瘍成分が抽出され、医薬品として認められているものもある。
日本では既知の約2,500種と2、3倍程度の未知種があるとされ、そのうちよく知られた毒キノコは約200種となる[34]。
毒は大きく以下の4種類に分かれる[35]。
致命的な毒を持つタマゴテングタケやドクツルタケ、誤食しやすいツキヨタケ、クサウラベニタケなどがよく知られている。特に日本において、一見地味な見た目で美味しそうに見えるキノコで食中毒件数が多いツキヨタケ、カキシメジ、クサウラベニタケは「毒きのこ御三家」とよばれている[36]。
タマゴテングタケやドクツルタケに含まれるアマトキシン類は半日から2日程度の無症候の潜伏期間の後、重篤な胃腸症状を起こし肝腎症候群へと至り死の危険性がある[37]。
オオキヌハダトマヤタケなどに含まれるムスカリンは自律神経に作用し発汗や痙攣を引き起こす。ヒトヨタケやホテイシメジは含有成分がアルコールの代謝を阻害するため食べる前後に飲酒すると悪酔い症状を起こす。
幻覚作用のある毒は、イボテン酸を持つベニテングタケなどや、強い幻覚作用を有するシロシビン(サイロシビンとも)、シロシンを持つヒカゲシビレタケやワライタケなどに大きく分かれ、これらは一般に致命的ではない毒である[34]。後者シロシビンを含むキノコは、乱用性のため麻薬取締法と補足する政令第2条で麻薬原料植物として指定されている[38](マジックマッシュルームを参照)。
毒キノコには、食用キノコと非常によく似た見た目のものもある[36]。また、毒性が弱くても体調によっては深刻な症状となることもある(ツキヨタケのような比較的弱い毒キノコでも中毒死した例はある)。自然界には毒性の不明なキノコが多数存在し、従来から食用とされてきたキノコであっても、実際には毒キノコであることが判明する場合がある。2004年に急性脳炎が多数報告されたスギヒラタケは、その前年の法改正によって急性脳炎の患者が詳しく調べられるようになり、初めて毒性が明らかになった。元々毒キノコだった可能性も指摘されている[40]。ある種の毒キノコ(ベニテングタケ、シャグマアミガサタケなど)は調理によって食用になる場合もあるが、これらは例外であって、ほとんどの毒キノコはどう調理しても食用にならない。「ナスと一緒に食べれば中毒しない」といった話も迷信である[41]。
エノキタケの廃培地からも発生するコレラタケは「食用キノコを収穫した後に生えるから大丈夫」と誤解され、食中毒を起こすおそれが高い。
毒キノコの中毒件数(1959-1988年、2,096件)の種類別の内訳は、ツキヨタケ30%、クサウラベニタケ20%、カキシメジ5.8%、ニガクリタケ1.8%、テングタケ1.1%の順であり、種類不明が28.5%を占めている。毒キノコの死亡件数(1970-1990年)の内訳は、ツキヨタケ14人、コレラタケ5人、タマゴテングタケ4人、ドクツルタケ3人を数えている[39]。
過去の食中毒事例では、残品がなく鑑別できない場合や、家庭内での発症で共通食が多くキノコとの因果関係を特定できない場合も多く、実際の発症例は統計よりも多いと考えられている[42]。
毒キノコの確実な見分け方は存在せず、キノコの同定の経験に乏しい人が野生のキノコを食べるのは非常に危険である。食用キノコか否かを簡単な基準で見分ける方法は(実際に食べてみるというのを除けば)知られていない。
「たてに裂けるキノコは食べられる」「毒キノコは色が派手で地味な色で匂いの良いキノコは食べられる」「毒キノコでも、ナスと一緒に調理すれば中毒しない」といった言い伝えは何の根拠もない迷信であり、多くの毒は簡単に抜くことができない[36][33]。他に「煮汁に入れた銀のスプーンが変色しなければ食べられる」「虫が食べているキノコは人間も食べられる」といったものもある[34]。猛毒であるコレラタケ、ドクササコなどはたてに裂け地味な色であり、ハエトリシメジのように人間とそれ以外の生物では毒性がまるで異なる(この場合は昆虫などに猛毒で、人間への毒性は微弱)キノコも多数存在する。逆にタマゴタケのように色彩が派手な食用キノコも存在する[50]。銀は砒素に触れると変色するため世界各地で毒殺用心として食器に用いられたが、銀はキノコ毒には反応しない。
日本でこれらのよく知られた俗説が広まった背景としては、一部で流布していた俗説が明治初期の官報に掲載されたためであると言われている。
食用か毒かを判断するには、そのキノコの種、さらにはどの地域個体群に属するかまでの同定結果に基づくべきである。また、実際に起きているキノコによる中毒の多くは、既に毒であることが知られたキノコによるものである。
同定会は、日本で主に秋のキノコ採集シーズンにおいて、各地域のキノコ愛好家団体によって開催されている。公設試験研究機関や大学のキノコ関連の研究室が開催している場合もある。同定会に参加すれば、判定するための試薬や顕微鏡といった資材が利用できる上、複数の経験者により的確な判断が得られることなど、安全さと正確さを確保することができる。また、自分で採集したキノコ以外を観察することもできるので、単なる食・毒の判断にとどまらずキノコ全般や現地の自然環境についての知識を養うことができる。
同定会の前に採集会がセットされているのが通例で、団体で行動することにより山中でのトラブルを避けることができる。山中のトラブルといえば転落事故や熊・イノシシなどによる被害をイメージしがちだが、他には、他人の私有地の中に踏み込み、そこでキノコを採取したことによる財産権の問題である。特に商品価値の高いマツタケが生育する場所では、マツタケの採取権と土地の所有権とが別に管理されている場合もあり、特に注意しなければならない。また、特に狭い地域に多人数が押し寄せてキノコを探しまわり踏み荒らすと発生環境が攪乱され、キノコの発生が減少するにとどまらず、そこの生態系に強い損害を与える危険性がある。
キノコを収穫するだけでなく菌糸体そのものに傷を付けたり好適な基物(切り株・落ち葉など)を破壊したりすると、来シーズンの収穫見込みが減るだけではなく、その区域の自然の多様性を損なうおそれがある。なんでもかんでも引っこ抜くというのは慎むべきである。逆に胞子をまいて食用キノコを増やそうとする行為も見受けられる。これは明確に有害とは言えないが、効果が疑問であり、自然のバランスを崩す行為である。また、人間にとって危険な毒キノコを除去するような行為は有益なようで実際は単なる自然破壊に過ぎない。
キノコによる中毒が疑われる状態になった場合には、食べたものを吐かせ、ただちに医師の診察を受けなければならない。その際には、食べたキノコの残りがあれば持っていったほうがよい。どのようなキノコによる中毒かがわかったほうが適切な治療がしやすいからである。調理したものの残りや吐いたものの中にも手がかりがある場合がある。キノコの種類によっては、摂取から発症までに数日を要するものもある。医師の診察を受ける際には「4日前に山で採集したキノコを食べた」と、より詳細を伝えることで救命率が改善される場合がある。
ベニテングタケの毒性はさほど強くない(近縁種には猛毒キノコがある)[33]。昭和中期の資料では、日本国内でも採れる毒キノコであるベニテングタケを、猛毒あるいは致死性の高い毒キノコと表記しているものがあった。ベニテングタケは他の食用、毒キノコに比べて圧倒的に目立ちやすく、誤食した場合の症状が幻覚性であること、長野県のごく一部にて塩漬けにして食用とされる事例が存在する(詳細はベニテングタケを参照)ことを考慮し、あえて毒性を強調して書くことにより事故を予防したものと見られる。ただし、それによってキノコの色彩の派手さこそが毒性の強さの指標となるという誤った認識を助長し、地味な色彩の毒キノコへの警戒心を弱めてしまった側面は否めない。最近のキノコ類の図鑑や資料において、ベニテングタケについてこのような記述はなく、「毒キノコの中では比較的毒性が弱い」というような正確な記述に置き変っている。猛毒キノコには地味なものも派手なものもあるが、中毒者数から見た日本の代表的な毒キノコはツキヨタケであり、その色彩は地味である。
民族学的には、ベニテングタケをシャーマニズムの幻覚剤などとして用いた仮説が知られている。マジックマッシュルームと呼ばれる幻覚性のあるシロシビン含有キノコを摂取して楽しんだ時代もあったが、マジックマッシュルームでは日本のように法律で禁止された国も出てきた。法令上許可を得ていない者が所持していた場合は罰せられる。こうした文化は伝統的に健康上、精神医学上のデメリットを最小限にするような慎重な使用法の経験の蓄積の上に成り立っていることを忘れてはならない。
キノコ狩りで山間部へ立ち入る際には、キノコに夢中になるあまり、方向を見失って遭難する例は多い(山菜取りの項も参照)。これは日本に限ったことではなく、イタリアなど海外でも見られる事故である[51]。
有用なキノコでは、栽培されてきたものもある。シイタケなどを枯れ木に接種して育てる原木栽培、マッシュルームなどを堆肥を敷いて育てる堆肥栽培などが古くから行われ、現在ではおがくずなどの基質を滅菌して菌を育てる菌床栽培も行われている。また、マツタケなど人工培養が出来ないものでも、その生育地の環境を整えて増殖をはかる林地栽培が行われている例もある。現在も新しい菌種の栽培が試みられている。 野外にかぎらず屋内で栽培される場合も多い。採石場の跡地などを利用して大規模に生産される施設もある。アメリカでは自宅の地下室でキノコを堆肥栽培することが流行した[52]。
その菌種の栽培法に適した栽培法を採用し、菌糸体の成長のための温度を保ち、エノキタケやヒラタケのように培地への菌糸体のまん延と同時に子実体を形成する菌種以外では、熟成期間を要する[4]。日本で食用にされる一般的な食用菌種では25から30度ほどの温度が菌糸体の成長に適しており、子実体の形成には10度前後が適する菌種であったり、15度前後であったりと幅がある[4]。また多くは真っ暗では子実体を形成しないため、最高で500ルクスほどの紫外線を照射し、またこの光という条件は奇形化を防ぎ子実体をよく成長させるために必要である[4]。
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