この項目では、虫のハエについて説明しています。
魚のハエについては「ハヤ 」をご覧ください。
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ハエ (蠅・蝿)は、ハエ目 (双翅目)に属する昆虫 のうち、ハエ亜目 (短角亜目)環縫短角群(かんぽうたんかくぐん)ハエ下目 (Muscomorpha )に属する種 の総称である。日本 だけで、60ほどの科 と、そこに属する3,000種近い種が存在する。
概要 環縫短角群 Cyclorrhapha ハエ下目 Muscomorpha, 分類 ...
環縫短角群 Cyclorrhapha ハエ下目 Muscomorpha
ニクバエ の一種
Sarcophaga carnaria
分類
節
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成虫 は一般に小さな胴体、よく発達した前翅 、後翅が変化した平均棍 を持つ。飛翔 能力は昆虫類の中でも非常に高い部類で、空間に完全に固定されたかのようなホバリングや、高速での急激な方向転換など、複雑で敏捷な飛翔をこなせるものが多い。「短角亜目」という名の通り触角 は通常短い。
羽化 の際には蛹 の背中が縦に割れずに環状に開く。このためさなぎの縫い目が環状になっているとの意で「環縫短角群 」、あるいは単に「環縫群 」「環縫類 」とも呼ばれる。アブ は通常ハエとは別の直縫短角群 を指す呼称だが、「アブ」と名のつくもののうちハナアブ科 やアタマアブ科 などはハエの仲間であり、逆に「ハエ」と名のつくもののうち、アシナガバエ科 やオドリバエ科 などはアブの仲間である。
ハエの幼虫 については「蛆 」で詳述する。
他のハエ目昆虫と同じく、卵 - 幼虫 (蛆 ) - 蛹 - 成虫 という成長段階を踏む完全変態 の昆虫である。
卵
多くは卵生 で、成虫が幼虫の生息場所となる環境に卵を直接産みつける。ただし、ニクバエ 科の全てやクロバエ 科、イエバエ 科の一部などは雌体内で胚 が発育し、幼虫を直接産み付ける卵胎生 である。
幼虫が寄生 生活をするヤドリバエ 科の一部では、直接幼虫が育つ宿主 に産卵せず、植物上に産卵 し、孵化 した幼虫が宿主の接近を待つものもいる。
幼虫
1齢で孵化し、3齢が終齢である。いわゆる蛆 (ウジ)であり、無脚 でかつ頭蓋 (とうがい)など頭部器官 はほとんど退化 している。その代わりに複雑強固な咽頭 骨格 が発達している。咽頭骨格の先端には口鉤(こうこう)というかぎ状部が発達し、底部にはろ過器官(pharyngeal filter )が見られる。
ハエの幼虫 の多くは腐敗 、あるいは発酵 した動植物質に生息し、液状化したものを吸引し、そこに浮遊する細菌 、酵母 といった微生物 や有機物 砕片といった粒状物を pharyngeal filter によってろ過して摂食する。さらに一部のものは寄生 や捕食 によって、あるいは動物の新鮮な死体から動植物組織を体外消化して直接吸引、あるいは体液を吸収する。
微生物 によって分解されつつある生物組織を摂食する腐食性から捕食、寄生といった生きている生物組織を直接摂食する生食性に移行した種では、pharyngeal filter を失う傾向にある。口鉤は大顎 に起源し、基物に引っ掛けることで歩行、腐敗有機物の攪拌、動植物組織の破壊、獲物や宿主の皮膚の穿孔などに用いられる。
シリアカニクバエ Parasarcophaga crassipalpis (Macquart, 1839)の終齢幼虫。
シリアカニクバエ終齢幼虫の咽頭骨格側面。熱湯固定した幼虫を
乳酸 で透明化して撮影。
シリアカニクバエ終齢幼虫の咽頭骨格腹面。左右の腹角の間に膜状に pharyngeal filter が広がってそれが食道につながる
蛹(さなぎ)
老熟した終齢幼虫は幼虫時代を過ごした摂食場所を離れ、多くは土中に潜り蛹 となる。ハエ類の蛹形成の際は、終齢幼虫が脱皮 せずに、幼虫の体が短縮してコメの様な形になり、そのまま幼虫の外皮が硬化するのが特徴である。硬化した外皮の内側で、真のさなぎがさらに一回り小さく収縮して形成される。こうした二重構造の蛹を囲蛹(いよう)と呼ぶ。
羽化 に際しては硬化した幼虫の皮膚の前方体節が環状に分離し、蓋のように外れることで成虫が脱出する。これが環縫短角群の名前の由来である。
多くの上科があり、このうち同系統の上科をまとめる2つの「節」に分かれる。
分類体系は『日本動物大百科9昆虫II』(平凡社 、1997年)に準拠。
系統樹
形態情報に基づくもの
系統樹 は以下に準拠。
McAlpine , J.F., "Phylogeny and Classification of The Muscomorpha," Manual of Nearctic Diptera, J. F. McAlpine and D. M. Wood (eds.), Vol. 3, Ottawa: Canadian Government Publishing Center, 1989 pp. 1397-1518 ISBN 0-660-12961-2
分類群の和名 は以下に準拠。
無額嚢節 Aschiza
成虫が囲蛹(いよう)や土中から脱出するのに使われる嚢状器官である額嚢(後述)を欠き、その点で原始的形質を保持しているとされる。
ヤリバエ上科 Lonchopteroidea
代表的なものにノミバエ 科 Phoridae があり、様々な環境や生活型に進出して繁栄している。ノミバエ 科の幼虫は腐敗した動物質や下水道 浄化槽 の汚泥 に発生してしばしば衛生害虫になるもの、キノコ を食べるもの、狩蜂の巣に寄生するものなどが知られている。サトイモ科 テンナンショウ 類の送粉者 としても重要。また、ノミバエ科の成虫は特定生物 の一種であるヒアリ などの天敵としても有名。
ハナアブ上科 Syrphoidea
ここに属するハナアブ 科 Syrphidae は有弁翅亜節に並んで大型種が多い。また種の多様性が高く美麗種も多いので、日本でもプロの研究者のみならず、これに注目して調査、研究を進めているアマチュア研究家が増加しつつある。
幼虫の生活型も多様で、有機物 に富んだ汚水に生活するもの、樹洞に溜まった水の中で長期間かけて成長するもの、朽ち木中で育つもの、多年生草本の地下部に穿孔し腐敗させて摂食するもの、植物上でアブラムシ などを捕食するもの、アリ の巣に寄生するものなどが知られる。
成虫の大半は花に集まり、花蜜や花粉を摂取する。虫媒花の送粉者として重要で、シマハナアブ Eristalis cerealis (Fabricius,1805)では農作物の送粉者として人工増殖法も開発されている。
ハナアブ上科には他にアタマアブ 科 Pipunculidae がよく知られ、農業害虫であるウンカ 、ヨコバイ 類の寄生者として重要である。
シリアカニクバエの羽化直後の成虫の頭部に反転した額嚢
額嚢節 Schizophora
成虫の触角上方の額に逆V 字状の切れ込みがあり、羽化直後の体が柔らかいときにのみこれが開き、体液で膨らむ風船 状の器官、額嚢が反転突出する。羽化に際してこのグループに属すハエは額嚢を断続的に突出させて囲蛹の蓋を押し開け、また土中からの脱出のために土を押しのける。地上脱出後は額嚢は頭部に格納され、外骨格の硬化に伴い二度と反転突出することはなくなる。
弁翅亜節 Calyptratae
大型のいわゆるハエらしいハエで、日常生活で「ハエ」として認識されているのはたいていこの仲間である。
シラミバエ上科 Hippoboscoidea
成虫が鳥類 や哺乳類 といった恒温動物 の寄生者として特殊化したグループで、体外寄生して吸血する。蛹生類 (ようせいるい)とも呼ばれ、幼虫は雌成虫の体内で卵から孵化すると体内で分泌される栄養物質を摂取して成長し、蛹化(ようか)寸前に産み落とされ、直ちに蛹になる。
宿主に到達した成虫が終生そこに留まるシラミバエ 科 Hippoboscidae 、コウモリバエ 科 Streblidae 、クモバエ 科 Nycteribiidae の他に、アフリカのみから知られ、短時間の吸血時以外は自由生活をするツェツェバエ 科 Glossinidae が知られる。ツェツェバエ 科は「睡眠病」または「眠り病」とも呼ばれるアフリカ・トリパノソーマ症 の病原体を媒介することで知られる。
モモエグリイエバエ Hydrotaea dentipes (イエバエ科)のオス
イエバエ上科 Muscoidea
大型のハエらしいハエの中で、主として腐敗植物質、草食・雑食性動物の排泄物を主たる発生源とするものが多いグループ。
フンバエ 科 Scatophagidae はヒメフンバエ Scatophaga stercoraria のような幼虫が食糞 性の種がよく知られるが、幼虫が生きた植物の葉などに穿孔する種も多い。成虫は小昆虫を捕食する種が多い。
ハナバエ 科 Anthomyiidae にも生きた植物に幼虫が穿孔して成長する種が多いが、キノコや動物の糞で成長する種も少なくない。農作物の顕著な害虫として知られるダイコンバエ 、タマネギバエ 、タネバエ の幼虫は宿主植物を腐敗させつつ食害するが、その一方で施肥された油粕 などの腐敗有機物にも産卵が行われ、幼虫が成長することが知られている。ハナバエ 科の一部の種も成虫が小昆虫を捕食する。
ヒメイエバエ 科 Fanniidae の幼虫は動物の糞などで発生するが、褐色で比較的硬い外皮に多数の突起を有する毛虫状の外観を有し、一見ハエの幼虫に見えない。雄の成虫はしばしば集団で群飛する。
イエバエ 科 Muscidae には幼虫が動物の糞や腐敗有機物で発生するものが多いが、キノコなど様々な場所で幼虫が成育する種を擁する。幼虫が捕食性の種もある。汎世界的な屋内害虫であるイエバエ Musca domestica は近縁種にはクロイエバエ Musca bezzi など成虫が大型草食獣の体表で涙や傷口からの滲出体液を摂取し、宿主が排泄した糞に産卵して幼虫がそこで成長する種が多い。イエバエはアフリカ でそうした生活史を送っていた種が人家内に進入し、人の生活に伴う廃棄物に依存して生活するように分化して世界中に広がったものと考えられる。今日でも畜舎の牛糞 などからよく発生するなど大型草食獣との親和性の高さを維持しており、ウシ の腸 内にしばしば常在する病原性大腸菌 O157 の媒介種としても注目されている。
ヒツジバエ上科 Oestroidea
大型のハエらしいハエの中で、主として腐敗動物質、肉食・雑食性動物の排泄物を主たる発生源とし、寄生性の種も多いグループ。
クロバエ 科 Calliphoridae の幼虫は動物の糞や腐敗物などで繁殖する。そのため病気の媒介者ともなる。一部寄生性のものもあり、カエル やミミズ 、カタツムリ などへの捕食寄生を行うものも知られる。
Mystacinobiidae 科は Mystacinobia zelandica 1属1種のみが属する。ニュージーランド に固有 の科で、コウモリ の一種ツギホコウモリ Mystacina tuberculata の樹洞中の巣に寄生し、無翅でクモのような姿をしている。ただし吸血性はなく成虫、幼虫とも糞食で、新天地への移動のために成虫はコウモリの体表にしがみつく。かつてはショウジョウバエに近縁ともされたが、分子系統などからはクロバエ科に比較的近いとされ、クロバエ科の亜科 Mystacinobiinae ともされる。
ヒツジバエ科 Oestridae の幼虫は哺乳類 に寄生する。
ワラジムシヤドリバエ科 Rhinophoridae の幼虫はワラジムシ亜目 やカタツムリ など、陸生の節足動物 や軟体動物 に寄生するとされる。
ニクバエ 科 Sarcophagidae の幼虫は肉 で増えるが、寄生性のものも多い。
クロツヤナガハリバエ Zophomyia temula (ヤドリバエ科)。北海道を含む旧北区 に広く分布。寄主は不明。
ヤドリバエ 科 Tachinidae の幼虫のほとんどは他の昆虫類に寄生し、一部はクモ やムカデ などの陸生節足動物などに寄生する。種類が非常に多く、含まれる数亜科をそれぞれ独立の科として扱う場合もある。
Axiniidae 科は D.H.Colless という研究者が1994年に提唱した[11] 新しい科で、オーストラリアとニューギニアに分布するが、独立の科とせず、ワラジムシヤドリバエ科に含める考えがある。幼虫は何に寄生するかは未知である。
ハエはとにかく人間の周りにまとわりつくように飛び回るうるさい存在である。古くから身の回りの衛生を守ることは、ハエを対象としてきた。例えば身の回りの虫除けは往々にしてハエの名を持つ。蠅叩き 、蠅取り紙 、はえいらず などの例がある。ただし、具体的な形でヒトを害するものではないためか、どこかユーモラスな印象もある。
『改訂食品衛生責任者ガイドブック』(日本食品衛生協会 2003年6月1日発行)「ハエの駆除」p43
田中毅弘『ビルメンテナンスが一番わかる』(2015年1月25日)p74
Jason Drew、Justine Josep『The Story of the Fly: ..and How It Could Save the World』ISBN 0980274281 「Fly zappers」の項
「焦土作戦は成功 ハエの幼虫はほぼ死滅」『日本経済新聞』昭和40年7月16日15面
D H Colless, A New Name for a Genus in Axiniidae (Diptera), Australian Journal of Entomology 33: 380-380 (1994)
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