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一方の生物が他方の生物から栄養やサービスを持続的かつ一方的に収奪する関係 ウィキペディアから
寄生(きせい、英語: parasitism)とは、共生の一種であり、ある生物が他の生物から栄養やサービスを持続的かつ一方的に収奪する場合を指す言葉である。収奪される側は宿主または寄主と呼ばれる。
また、一般用語として「他人の利益に依存するだけで、自分は何もしない存在」や「排除が困難な厄介者」などを指す意味で使われることがある。 「パラサイト・シングル」や経済学上における「寄生地主制」などは前者の例であり、後者の例としては電子回路における「寄生ダイオード」や「寄生容量」といった言葉がある。
寄生は生物間相互作用の一様態であり、共生すなわち「複数種の生物が相互作用を及ぼしつつ同所的に生活する」ことに含まれる。寄生を十分に定義するのは難しい(後述)が、ひとまずは以下の定義が挙げられる。
寄生といわれるのは、生物Aと生物Bがあって、以下のような関係がある場合である。
こういった関係にある場合、AがBに寄生しているといい、BをAの宿主(しゅくしゅ、やどぬし)または寄主(きしゅ)という。
たとえば、ヒトの腸内でヒトが摂食し、消化した食物を吸収して生活するカイチュウ、髪の毛や衣服に住んで、血液を吸収するシラミなどは、典型的な寄生者である。他方、カやアブは、ヒトの血を吸うが、すぐに離れていき、短時間しか接触を持たないので寄生者ではない。
しかし、判別の困難な例が多々ある。たとえば樹木の葉を食べる毛虫などの食葉性昆虫はこの定義に当てはまってしまうが、通常の植食者と見なされ、寄生者とは呼ばれない。しかし、植物の組織を変形させて虫こぶを形成し、その中に生息して内部組織を摂食する昆虫は寄生者と呼ばれる。
他の昆虫に寄生するハチやハエでは、宿主が成熟するときまでにその体を食い尽くして殺してしまうものが多い。これは捕食の変形と考えられ、捕食寄生という。
また、寄生とは明らかに異なるものも慣用的に寄生と呼ばれることがある。その例の一つが「卵塊への寄生」である。クモやバッタ、カマキリなどは卵塊や卵のうを作るが、ここに潜り込んで卵を食べて成長するものがあり(カマキリモドキ、マメハンミョウなど)、これらも寄生と言われる。しかし、起きていることは単なる卵の捕食である。
寄生生物は体機能の多くを寄生対象に依存する形になるため、特に対象の内部寄生の種では近い仲間の非寄生性種に比べ、植物だと葉も根も欠いたり、動物では付属肢や感覚器、臓器さえ欠くなど体制は大幅に退化的である。フクロムシや五口動物のように当初は門レベルの類縁さえ判然としなかったほど退行的特殊化しているものもあるが、一方では寄生生物が生物体のもつバリア機能をかいくぐるための生理機能や、宿主の体内と外界を行き来する生活環はしばしば複雑に進化している。また宿主にとりつく以前の段階では自由生活の体制である方が有利で、寄生虫には生活環の段階ごとに大規模な変態を行うものが多く、変態の機能が発達していない脊椎動物には内部寄生の事例は知られていない。
一口に寄生と言っても、様々な形態や様式があり、それによって用語も様々である。
まず、寄主を殺すものと殺さぬもので大別される。
寄主から発生する寄生者の数に違いがあり、さらに寄生者が寄主となる場合もある。
寄生とは本来種間関係を表す用語だが、生体間の直接の栄養授受という意味で「雌の体の上に雄が寄生する」と表現することもある。深海性のアンコウ類には、雄が雌より極端に小さく、雌の体表に噛みつくような形で固定されているものがある。雄は小さい間に雌に出会うと、雌にとりついて、そのまま寄生生活にはいる。これは深海という個体数や生息密度の限られる環境下で、繁殖時の出会いの機会を確保するための適応と言われる。これらの中には、雄の体の循環系や消化器系といった器官が退化して、ほとんど雌の体と同化してしまうミツクリエナガチョウチンアンコウなどの種も存在する。他にも、寄生性の甲殻類やユムシ動物のボネリムシ、コケ植物の一部などにそのような例がある。このような雄を矮雄という。
また、胎生の動物においては胎児は母親の胎内にあって母親から栄養等の補給を受けているから、胎児は母親に寄生しているということもできる。同様な関係は種子植物の本体と配偶体の間にも成立する。
寄生生物が宿主に体して与える影響には、さまざまなものがある。
基本的には、寄生者にとって、宿主の死は自分の生存を危険にさらすので、好ましいことではない。しかし宿主を死に至らしめる寄生生物も存在する。
寄生によって宿主が重大な病気や命に関わる被害を受ける場合がある。このような現象は、寄生者が微生物である場合が多い。それに対して、ある程度以上の大きさの寄生者は宿主にそれほどの損害を与えない場合が多い。これは寄生者にとって、宿主間の移動がその生活上で最も困難な部分であるためであろう。逆に、微生物の大きさであれば、宿主間の移動は空気感染や接触感染など比較的簡単であるから、宿主を殺すことは寄生者の生存にとってさほどの負担とならないのであろう。微生物が寄生者であり、その寄生によって宿主が生活上の負担を強いられる場合、その寄生者を病原体と呼ぶ。
微生物であっても、宿主の死はやはり危険なことに違いはない。したがって、宿主への被害は世代を経るうちに小さくなる例がある。梅毒はコロンブスが中央アメリカからヨーロッパへ持ち帰ったころは、数週間のうちに重症化して命にかかわったというが、現在では何年もかかって重症化するようになっている。
大型の寄生虫では、日本住血吸虫が宿主の命にかかわる例であるが、そのような例は他には多くない。フィラリアは犬の場合は致命的でありえる。人の場合は象皮病を引き起こす。これも宿主の生活上は大きな負担である。
特に、本来の宿主でない生物に寄生虫が迷入すると、寄生関係のバランスが崩れて寄生虫は生き延びても生活環を次の段階へ移行できなかったり、宿主に芽殖孤虫症やエキノコックス症など致死的な重篤疾患をしばしば引き起こす。エイズやエボラ出血熱など、新種のウイルス感染症も同様のことが当てはまる。
それ以外の大抵の寄生虫では、宿主にさほどの負担をかけない例が多い。サナダムシなど、体長が最大で10mに達するが、大抵の場合健康を害することはないと言う。人間に寄生する物でも、精々肛門から同生物が出てきた際に精神的なショックを受ける程度で、食糧難の時代には栄養摂取を阻害するとされていたが、現代日本の食糧事情では無視出来る範疇とも、中にはダイエットとして意図的に寄生させる人もいる程である(種類によっては害のあるものも確認されているため、そのような方法は勧められない)。
昆虫が植物に寄生する場合、植物組織が異常に成長してこぶを作る場合がある。このようなものを虫えい(虫こぶ、gall)と呼び、原因昆虫の食料および生育の場となっている。菌類が寄生してこぶ(菌えい)が生じたり枝葉が異常成長する(天狗巣)例もある。
寄生者が宿主に働きかけて、特殊な行動を取らせる例がある[2]。
吸虫類のロイコクロリディウム(Leucochloridium)である。この寄生虫は成虫の宿主は小鳥であるが、幼生はオカモノアラガイという陸産貝類に寄生する。貝の中で幼生が成熟すると、幼生は貝の目に移動する。そうすると、貝の目の柄は大きく膨らみ、その中で幼生が動くと幼生の縞模様が派手に動いて見える。オカモノアラガイは普段は物陰に隠れているのに、このときは葉の表に出てくる。それによって幼虫の姿が鳥の目につき、鳥がやってきて目をつつくと、幼虫が飛び出し、それを鳥が食べることで鳥の体内に侵入する。
植物でも、ヤッコソウはスダジイの根に内部寄生するが、寄生された根は地表付近に出て広がり、そのためヤッコソウの花が地上に出やすくなる。
フクロムシの場合、寄生されたカニ等の甲殻類は雄であっても雌化する。すなわち、胸部に折れ曲がった腹部が幅広くなり、卵をここに抱える雌と同じ形になる。フクロムシの虫体はカニが抱卵する時に卵の入る場所に発達するので、このことは、カニに対してフクロムシの虫体が卵塊であるようにカニに錯覚させ、カニに卵塊を守る行動を取らせるための操作である可能性が示唆されている。
ハリガネムシは宿主を水辺へ向かうように誘導し、水の中で体外に出る。ハリガネムシは宿主の生殖機能を喪失させる、脳に影響を与えるタンパク質を注入する、水辺への誘導には寄生したカマキリの偏光を識別できる視覚を利用するなど、宿主の改変と能力の利用を行っている[2][3]。
寄生者は必ずしも栄養などを収奪するだけの存在ではなく、宿主にいくらかの利益をもたらす場合がある。例として、ヒトの寄生虫であるサナダムシは、腸内に留まり、経口摂取した栄養を奪うだけの存在だが、同時にこの「異物の存在」が免疫系を刺激し、健全な体機能の維持に役立つという研究例もあり、この場合においてヒトとサナダムシの関係は寄生か共生かと云う点で議論の的になり得る。
また、寄生生物が生活状態の細胞組織に侵蝕を行える機能を、アブラムシ等の口器から植物の篩管液を単体抽出したり、ウイルスのもつ細胞遺伝子の書き換え能力を遺伝子操作への応用などで人為的活用が行われている。
固着性の動物には、動物体表面に付着するものがある。これは当然単なる付着であるが、中には固定のために根状の構造を動物体内に侵入させるものがある。これが寄生生活への一つの経路とも言われる。
腐生植物はかつては死物寄生を行っているとされ、植物遺体に寄生すると見なされたが、寄生という概念は多く生物間相互作用を指すものであるため、この用語は現在ではあまり一般的ではない。その後は腐生植物という用語が使われたが、これらの植物は直接的には菌根菌から栄養を得ていること、および菌根菌は必ずしも腐生性ではないことから菌従属栄養植物と呼ぶ方が正確である。これらの植物は栄養的には菌類に寄生している。
特にラン科では菌寄生性にさまざまな発達が見られ、同科の種子は生育に必要な栄養分をまったく持っておらず、少なくとも生育初期段階には菌根に寄生していると言える(ムヨウラン類はこれをさらに推し進め完全な腐生性に移行したものと考えられる)。生育後は十分な光合成能力を持つと考えられるランでも、移植すると枯死してしまう、原生地以外の土壌では栽培できないものが知られており、こうした種は原生地の別の植物と共に育てることが可能という例もあり、他の植物と菌根の共生系に何らかの形で寄生的に依存しているものと考えられる。
菌類において、生きた生物から直接栄養を得ているものは寄生性菌類と呼ばれる。また、ワムシや線虫などの動物を捕食するものもある。例えば食用きのこであるヒラタケも線虫捕食能を持つ。接合菌綱トリモチカビ目の捕食性菌類は、基質上の菌糸の上で小動物を捕らえ、そこから栄養を吸収して生活している。ところがこのグループには、そのような小動物を宿主としてその体内だけに菌糸体を発達させる寄生性のものも含まれ、捕食と寄生の接点の一つと考えられている。
白癬菌(水虫)は、生きた動物の角質を侵蝕する寄生菌だが、不活生な死細胞組織を分解吸収しているに過ぎず、腐生菌との区別は曖昧なところもある。
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