M113装甲兵員輸送車 (M113 armored personnel carrier) は、アメリカ合衆国 で開発された装甲兵員輸送車 である。
履帯 を装備し、不整地・荒地の走破能力が高くなっている。整地 では高速走行も可能である。また、限定的ではあるものの、沼 や小川 などでの浮行能力を備えている。
M113には多数の改造型・派生型が存在し、さまざまな戦闘 や援護作戦 に使用される。すべての派生型を含めると約80,000両以上が製造され、世界中でもっとも幅広く使用された装甲兵員輸送車の1つとなった。
M113は、M44 を嚆矢としてM59 とM75 を設計の基礎とし、フォード とカイザー・アルミニウム・アンド・ケミカル (Kaiser Aluminium and Chemical Co.) により1950年代 後半から設計が開始され、1960年 に採用された。
製造の主契約者はカリフォルニア州 サンノゼ のFMC となり、イタリア のOTO メララ 社ほか各社の特許ライセンス を用いている。その後、M113の主契約はUDI と結ばれたが、買収された現在は、BAE システムズ・ランド・アンド・アーマメンツ が製造している。
特にベトナム戦争 で多用され、メディアにも多く登場して有名となった。湾岸戦争 やイラク戦争 でも活躍している。
バイエルン州 ホーエンフェルス の多国籍共同準備センターで行われたアライドスピリット演習に参加するアメリカ軍 第4歩兵連隊 第1大隊のM113-OSCV。
M113は、アメリカ軍 で最初の「戦場のタクシー(Battle Taxi )」の概念のもと、機械化されつつあった戦場において兵員 を輸送 する現代的な装甲車 として設計された。2名(車長 と操縦士 )で運用でき、加えて11名の兵員を輸送することができる。後部には大型の昇降ランプが設けられ、兵員の迅速な降車展開 を可能にしている。主兵装はシンプルで、車長用キューポラ に搭載された、1丁の12.7mm重機関銃M2 のみである。副兵装は作戦 に応じて柔軟に決定される。
M113の車体 は、鉄 鋼 を使用した場合と同じ程度の強度を持つ、航空グレードのアルミニウム A5083(12-38mm厚)を使用して製造されており、13トン以下という大幅な軽量化に寄与している。これにより、空中投下 や水上浮航も可能である。ただし、このアルミ合金 装甲 は、RPG-7 やGAU-8 などの対戦車兵器 、地雷 に対する脆弱性が明らかになっており、増加装甲 の追加などの対策が取られている場合が多い。
当初はガソリンエンジン 搭載であったが、A1モデルからはデトロイトディーゼル ・2ストローク V型6気筒 ディーゼルエンジン を使用している。同エンジン は既にGM 社の民生車両用に74万台の生産実績があり、M113の高信頼性と低コストに貢献している。燃料 タンク は車内後部左側にあり、A2/A3型は後部ランプ左右に外部燃料タンクを装備している。
M113の航続距離 は480km、整地 での最大速度は64km/h、トーションバー・ サスペンション で、ロードホイールは5輪となっている。履帯 は、中央にゴム パッドの付いたタイプになっており、また、ドイツ陸軍 では独自の形状の履帯を使用している。
改修
アメリカ陸軍 のM113A3。2007年 にイラク 国内で撮影。バー・アーマーが追加装備された仕様
M113は、アルミ合金装甲を有しており、その能力は概して合理的かつ効果的で、増加装甲 型ハンヴィー よりも良好に防御できる。さらに、後に実戦を経るに従い増加装甲が施されている。たとえば、爆発反応装甲 、増加装甲板、RPG-7 対策のかご型装甲などである。また、ベトナム戦争 や中東戦争 で効果を発揮した機関銃 タレットへの装甲板取り付けなどの現地改造もみられる。このほか、バンド式履帯 は高頻度のメンテナンス を要求するため、カナダ軍 など多くの軍隊 では、道路にダメージを与えるにもかかわらず、鋼 製の履帯を使用している。
ベトナム戦争中は地雷 による被害が多く、車内床面に土嚢 を積むなどの対策が取られた。また、兵士 達は車内で地雷の被害に遭うよりは、外部から攻撃のおそれはあるものの、地雷の爆発 からは距離が稼げる車体上に乗って身を晒す 方を選んだ。また、操縦士 が高い位置に座って延長したハンドル で操縦し、兵士達はほとんど車外に出ていた例もあった。
M113は、地雷の外に、RPG-7等の対戦車兵器に対しても非常に脆弱であった。特に、車体後部に被弾した場合の乗員の生存性に難があった。
A2型より古いM113やその派生車両の燃料タンクは、兵員室の左後方に配置されており、容量360リットルの燃料タンクは薄いアルミ製で、中身は軽油である。一般に「ガソリンと比べれば、軽油は燃えにくくて安全」だと思われているが、決して「安全な燃料である」とは言い切れない。M113の燃料タンク内にある軽油は、エンジンの主燃料の外に、燃料噴射インジェクターの冷却という役割があり、冷却して暖まった軽油は再びタンクに戻り、循環している。それにより、タンク内の軽油の温度はおよそ53℃になる。アメリカ陸軍で使われていた軽油であるDF-2の引火点は52℃である。つまり、M113の燃料タンクが破損し、軽油が漏れ出た場合には、ガソリンと変わらぬ引火性がある事になる。車内に漏れ出た軽油に引火しようものなら、車内はあっという間に火の海となる。さらに、RPG-7のような成形炸薬弾のメタルジェットに貫かれた場合には、アルミ合金装甲は瞬間的に高温で燃焼する。メタルジェットが燃料タンクに突入すると、急激な内圧変化により燃料タンクが破裂したり、破孔から軽油が霧状になって車内へ飛散する。暖められた軽油が霧状になり空気と混ざったところに、アルミ合金とメタルジェットにより発生した火球や火花が接触し、車内は瞬く間に爆発的な火炎に飲み込まれてしまう。A2以降の車両では、燃料タンクを車体後部外側に移設する事で、車内における燃料火災のリスクを排除している。
多くのM113が現役で稼働しており、アップグレード改修を受けている。M2ブラッドレー歩兵戦闘車 など、近代の戦闘装甲車 は高価であり、輸送できる兵員の数も6~8名程度と少ない。また、重量が重いためC-130 輸送機 での空輸が困難であり、戦場から基地 へ帰還するのは、M2よりもM113の方が早い場合もある。
ソ連 から独立したウクライナ では、西側 製の兵器 の近代化改修案もいくつか提示しており、M113についても、ウクライナ国内で開発した武装 モジュール 「ZTM-1」を搭載する改修案が作成されている。これは、自動制御の30mm機関砲 システムで、国産の装甲車 MT-LB やBTR-4 などへの搭載が検討されているものと同一である。この他、防御システムとしてT-80 やT-90 などにも搭載されている「シュトーラ 」が装備される。また、動力系も刷新されることになっており、ウクライナ製の新しいディーゼルエンジン が搭載される。改修作業の窓口はO・O・モローゾウ記念ハルキウ機械製造設計局 で受け持っている。
M113
アメリカ陸軍 のM113
1961年に制式化。最初の量産型。クライスラー 75M V8ガソリンエンジン (出力209hp) 搭載[1] 。ベトナム戦争へ投入されて問題点が明らかとなり、後述のA1型の開発に繋がった[1] 。
M113 ACAV(Armored Cavalry Assault Vehicle)
M113 ACAV(ベトナム戦争時)
1963年に開発された装甲騎兵戦闘車型。ベトナム戦争 で運用された。
本来、装甲兵員輸送車として開発されたM113を、乗車戦闘の可能な歩兵戦闘車 的運用を可能にする改修であり、車長 用キューポラ 周りに湾曲した装甲版と、12.7mm重機関銃M2 に防盾を追加。更に、車両によっては車体上にM40 106mm無反動砲 や防盾付きのM60機関銃 を追加装備したり、金網 や土嚢 で防御力を強化するなどの工夫がなされていた[1] 。
また、車体前面の波切版は本来水上航行用だが、ベトナム戦では波切版を展開し、荷物置き兼、中空装甲板とする運用がなされていた例も多い。M113および後述のM113A1をベースに改修が行われた[1] 。
M113A1
1964年 に制式化。最大の変更点として、クライスラー製ガソリンエンジン から、デトロイトディーゼル 6V-53ディーゼルエンジン (出力215hp) に換装されている[1] 。この改修により、被弾時の火災の危険性が減少した。多くの派生型でも、M113A1相当の車種には -A1 の型式が付けられている[1] 。
M113A2
1979年 に制式化。冷却システムとサスペンション を改良し、転輪のトラベル長を増大した。また車体後部昇降ドアの両サイドに装着可能な外装式の燃料タンクの開発、車体前面へのスモークディスチャージャー装備なども行われた[1] 。
M113A3
アメリカ海兵隊 のM113A3。2006年 にイラク 国内で撮影。バー・アーマー、新型機銃 シールドなどが追加装備された仕様
Enhanced(battlefiled)survival
1987年 に制式化。多数の改良が加えられている。
サスペンションに破片防護ライナーが付き、装甲 化された外部燃料 タンク が付き、ターボチャージャー 装備エンジン による出力強化とトランスミッション 改良が施され、さらに、オプションで後付けアルミ 装甲板の取り付けが可能となった。
アメリカ合衆国
M1064 自走120mm迫撃砲。
2009年 に
イラク 国内で撮影。バー・アーマー、新型機銃シールドなどが追加装備された仕様
M48 チャパラル 自走地対空ミサイルランチャーシステム
M548をベースに開発されたMIM-72 地対空ミサイル の自走式ランチャー。車台部分の型式名がM730 である[1] 。
M58 Wolf 煙幕発生キャリア
自走煙幕発生器として、持続的な煙幕 を発生させることができる車両[1] 。煙幕は、可視では90分間、赤外線 では30分間、持続して遮蔽できる。
M106 自走107mm迫撃砲
107mm迫撃砲 を搭載した自走 迫撃砲 。搭載したまま射撃できるように、屋根はハッチ式となっている。
M125 自走81mm迫撃砲
81mm迫撃砲 を搭載した自走迫撃砲。車体はM106との互換性がある。
M130 SLUFAE 地雷処理ロケット車
M548をベースにXM130 345mmロケット弾の多連装発射機を搭載した地雷処理車両 。"SLUFAE"とはSurface-Launched Unit, Fuel-Air Explosive.(地上発射型燃料気化爆発装置)の略号である。XM130ロケット弾は100ポンド(約45.4kg )のBLU-73/B燃料気化爆薬 弾頭を備え、推進装置はズーニー・ロケット弾 のものを流用した。これを30連装の蜂の巣 様の発射筒に装填して用いる。射程は最大で150mである[2] [3] [4] 。
1976年から1978年にかけて開発と試験が行われたが、非装甲車両のため最前線で用いるには装甲防御が不足しており、また射程が短すぎて実用的ではないとされ、開発は打ち切られて制式採用はされないままに終わった。
M132 自走火炎放射器
小型砲塔 に火炎放射器 と同軸機銃 を搭載したもの。車体後部に、火炎放射器用の燃料 タンク と加圧タンクを搭載している[1] 。
M150 自走TOWミサイルランチャー
BGM-71 TOW 対戦車ミサイル のM220発射機を搭載する車両。アメリカ軍では後述のM901 ITVが主流となったが、M150相当の車両もイスラエルや台湾など輸出先で運用されている[1] 。
M163 VADS(Vulcan Air Defense System)
M168 20mmガトリング砲 (M61 バルカン 航空機関砲 の地上仕様)と追尾レーダー を搭載し、自走式対空砲 としたもの。
M474 TEL(Transporter Erector Launcher)
パーシング I 核ミサイル を運搬する移動発射機、弾頭 運搬機、プログラマー試験ステーションおよび動力ステーション運搬機、無線端末運搬機の4種として使用された。
M548 装軌貨物輸送車
非装甲の貨物運搬車(カーゴ・キャリア)。ベトナム戦争 時には、荷台にM45対空機関銃架 を搭載したガントラック に改造された車両もあった。
M577
後の戦闘 指揮車 のはしりと言える車両。移動指揮車ではあるが、基本的には駐車した後に天幕 を張るなどして、指揮所として運用される。車体後部の屋根は、指揮官 が立ち上がっても支障のないように嵩上げされている。なお日本では田宮模型 のプラモデル の商品名で「コマンドポスト」と名付けられているが、車種名であるCommand Post System Carrierからとられたもので、M577固有のニックネームではない。
M579 Fitter 装甲回収車
装甲回収車 として、車体にHIAB社のクレーン を取り付けたもの。米軍では使用されず、オーストラリアやイスラエルで運用された。
M667 ランスミサイル運搬車
M548をベースに開発された、MGM-52 ランス (Lance 、戦術核ミサイル)運搬車。
M688 ランスミサイル再装填車
M667にミサイル装填用クレーンを装着した再装填用車両。
M752 ランスミサイルランチャー
M667に起倒式ミサイル発射器を搭載した自走ミサイルランチャー。
M727 ホークミサイルランチャー
M548をベースに開発された、MIM-23 ホーク (Hawk 、地対空ミサイル)発射車両。
M730
M548をベースに開発された、MIM-72 地対空ミサイル 発射システムであるM48 チャパラル (Chaparral )の車台部分の型式名。
M806 装甲回収車
装甲回収車 の派生型で、後部コンパートメント にウインチ を装備している。
M901 ITV (Improved TOW Vehicle)
M113の車体に、BGM-71 TOW 対戦車ミサイル を2基搭載した装甲砲塔を搭載した自走対戦車ミサイル。
M981 FISTV (Fire Support Team Vehicle)
砲兵 観測車。M901 ITVとほぼ同じ形状の砲塔(観測塔)に、照準 ・観測 システムを搭載した、砲兵隊向けの火力支援 戦闘車。
M1015 電子戦車両
M548をベースに、電子戦 用の装備を搭載した車両。
M1059 Lynx 煙幕発生キャリア
自走煙幕発生器。M157煙幕発生装置 を使用している。
M1064 自走120mm迫撃砲
M106(107mm)の置き換え用として、120mm迫撃砲 を搭載したもの。基本車体はM106とほぼ同じ。
M1068 標準統合コマンドポストシステム (Standard Integrated Command Post System Carrier)
M577の改良版。
XM734 MICV (Mounted Infantry Combat Vehicle)
M113をベースにした試作 歩兵戦闘車 。車体両側面に片面4基ずつのガンポート とビジョンブロックを、車体後面に2基のガンポートとビジョンブロックを備えている。車長用キューポラ に7.62mm機関銃 連装のM27動力銃塔を装備している。
XM765
XM734から発展した試作歩兵戦闘車。兵員室 側面上部が傾斜している。M139 20mm機関砲 を装備している。発展してAIFVになる。
AIFV(Armored Infantry Fighting Vehicle)
M113A1をベースに、装甲と戦闘能力を向上させた後継車両として開発された歩兵戦闘車。25mm機関砲塔をはじめ、武装 にいくつかのバリエーションがある。アメリカ軍 はより強力なM2ブラッドレー歩兵戦闘車 を採用し、AIFVは採用しなかったが、M2より低価格であるため数ヶ国が採用している。
OSVM113/BMP-2
国家訓練センターで敵車両役を演じる車両で、BMP-2 に似せた外観となっている。
オーストラリア
M113 FSV
FSVは "Fire Support Vehicle"、火力支援車両の意。
アルビス・サラディン装甲車 (FV601)の砲塔 を搭載したもの。
M113 LRV
LRVは "Light Reconnaissance Vehicle"、軽偵察車両の意。
M113に、2丁の機関銃 を搭載したキャデラックゲージ製の小型銃塔を備えたもので、装甲兵員輸送車 としても使用される。
M113 MRV
MRVは "Medium Reconnaissance Vehicle"、中型偵察車両の意。
M113 FSVに似ているが、FV101 スコーピオン の砲塔を搭載した威力偵察 型。
M113 AS4
M113をベースに車体長を6mまで延長、転輪が1組追加され6組になっている。エンジンはMTU 6 V 199 TE 20に換装。電動式で昼夜間サイトを備える銃塔にM2HB QCBを搭載し、車体全周に増加装甲 を装備するなどした改良型。乗員は2名+兵員10名。2022年6月にウクライナへ14両を供与。
カナダ
M113 ADATS ミサイル・システム
エリコン 社製ADATS ミサイル・システム を搭載したタイプ。車体上に捜索レーダー ・レーザー測距器 ・赤外線 テレビカメラと4連装ランチャー を2基装備した発射機を搭載する。
M113 TUA(TOW Under Armour)
装甲 化されたBGM-71 TOW 対戦車ミサイル 発射器を搭載したタイプ。米軍 のM901 ITVとは発射機の形状が異なる。同様の発射機は、同じカナダ軍 のLAVIII にも搭載されている。
TLAV
カナダ軍が保有していたM113A2 341両に対し、兵員輸送車寿命延長プログラム(Armoured Personnel Carrier Life Extension (APCLE) program)が実施され、183両は車体が50cm延長され、ロードホイールが片側6個となった。残りの158両については、通常のM113A3相当の改修を受けた。これらの改修には、大出力エンジン への換装、サスペンション 強化、鋼 鉄 製増加装甲 板の付加、バー・アーマーの追加装備、12.7mm重機関銃M2 とMk19 自動擲弾銃 を装備したキャデラック・ゲージ製銃塔 の装備、などが含まれる。APCLE改修を受けた車両はTLAV (Tracked Light Armoured Vehicle)と呼称され、様々なバリエーション車両が開発、運用されている。
MTVE
TLAVをベースに開発された戦闘工兵車 。MTVEは、"Mobile Tactical Vehicle Engineer"の略。車体前部にプラウ・ブレードを装備している。
MTVR
TLAVをベースに開発された装甲回収車 。MTVRは、"Mobile Tactical Vehicle Recovery" の略。ウインチ およびクレーン を装備している。
イスラエル
イスラエル国防軍 は、約6,000両のM113シリーズを保有するアメリカ に次ぐ大量使用国である。イスラエルにおけるM113シリーズの正式な愛称は"Bardelas"(ヘブライ語 でチーター の意)である("Bardehlas"などと表記される事も)。プラモデル の商品名などに使用されていた"ゼルダ"(Zelda)という愛称も有名で、導入初期に使用されていたようであるが、イスラエル軍内部では、現在この名前はほとんど使用されていない様である。また、M113シリーズの各タイプ毎に愛称が付けられており、通常型では"Nagmash"という名称が広く使われている事から、M113シリーズ全体の愛称を"Nagmash"と記述する資料も有る。"Nagmash"とは、ヘブライ語で"armored personnel carrier"を意味する"Noseh Guysot Meshoryan"の頭文字を繋げたアクロニム である。
イスラエル軍のM113シリーズ全体に共通する特徴としては、エンジン 排気管が車体右側面の下方向に延長されている事、車体周囲にラックや雑具箱が増設されている事、サイドスカート・浮航用設備などは取り外されている事などが挙げられる。
2014年のプロテクティブ・エッジ作戦 (ガザ地区への侵攻作戦) ではゴラニ旅団 のM113が攻撃を受け7名の兵士が死亡し、これを受けてイスラエルでは国防軍内で使用の続けられているM113の代替として"オフェク"重装甲兵員輸送車 や"エイタン"装輪式装甲兵員輸送車 の開発を進めている[5] [6] [7] 。
M113 Nagmash
M113 Nagmash
イスラエル軍でAPC(装甲兵員輸送車 )として使用される通常型。車体側面(場合によっては後面や前面にも)に独自の荷物ラックが装着されている。1972年 に導入され、翌年勃発した第四次中東戦争 に投入された。当時のイスラエル軍では"オール・タンク・ドクトリン"と呼ばれる戦車 重視の戦闘教義 が採用されていたが、エジプト軍 のAT-3 サガー 対戦車ミサイル により大損害を受け、戦車に随伴する歩兵 の重要性が見直され、反抗作戦 ではM113 Nagmashがマガフ 戦車と共にエジプト軍に突撃する事となった。
M113 Nagmash Vayzata
M113 Nagmash Vayzata
1987年 制式化。APCタイプの車両にラファエル 社製のトーガ(TOGA)と呼ばれるパンチングメタル状の中空装甲 を装備したタイプ。1982年 のレバノン侵攻 時、PLO の装備するRPG-7 対戦車ロケット砲 による攻撃に対し、M113のアルミ 製車体の防御力が低いことが問題となり、成形炸薬弾 に対する防御を高めるため、中空装甲が採用された。2006年 の南レバノン侵攻 にも用いられた。
M113 Nagman
トーガ・アーマーを装備したM113 Nagmash Vayzataの車長 用キューポラ 周囲および兵員室 天面ハッチの左右に、強化ガラス付き防弾 板を設置したタイプ。レバノン 南部でのヒズボラ との戦闘 に投入された。
M113 Kasman Meshupar
M113 Kasman Meshupar
トーガ・アーマーを装備したM113 Nagmash Vayzataの車体上に、密閉式の箱状の戦闘室"ドッグハウス"を搭載し、車内からFN MAG 機関銃 を射撃できるよう改造されたタイプ。2000年 頃から配備されている。屋根の上に拡声器を装着したり、車体前面に発煙弾発射機 を装備しているケースもある。ガザ地区 やヨルダン川西岸地区 でのパトロールに使用されている模様。本車を"Nagman"と呼んだり、"Nagman 2"などと表記されるケースも有る。
M113 Kasman Maoz
M113 Kasman Maoz
トーガ・アーマーを装備したM113 Nagmash Vayzataの車体上に、密閉式の戦闘室を載せ、車内からFN MAG機関銃を射撃できるよう改造されたタイプ。前述のKasman Meshuparより後に登場した(2004年 -2005年 頃)Kasman Meshuparでは戦闘室に合計15枚の防弾ガラス が使用されているが、Kasman Maozでは6枚となっている。戦闘室自体もやや小型化している。
M113 Nagmash Chatap
工兵 ・修理部隊 で使用される。車体両サイドに各種雑具箱、ラックを増設している。クレーン などは装備されておらず、基本形はAPCタイプと同じである。各中隊 単位で配備されている模様。
M113 Nagmash Chatap Modular
M113 Nagmash Chatap Modular
工兵・修理部隊で使用される。Nagmash Chatapの車体両サイドにモジュール 化された大型の雑具箱を増設した改良型。
M579 Nagmash Machag(Fitter)
M579 Nagmash Fitter
工兵・修理部隊で使用される。HIAB社製大型クレーンを装着している。カナダ やオーストラリア などで使用されているタイプと基本的には同型だが、車体の左右には大量の工具箱やラックが増設されている。各大隊 単位で配備されている模様。
M579 Nagmash Machag Modular(Fitter)
工兵・修理部隊で使用される。Nagmash Machag(Fitter)の車体両サイドにモジュール化された大型の雑具箱を増設した改良型。
M113 Nagmash pikud
M113 Nagmash pikud
無線 通信 機能を強化した指揮 /通信車両。アンテナ が増設され、ワイヤー リールなどを搭載している。
M113 Nagmash Vayzata pikud
M113 Nagmash Vayzata pikud
指揮/通信車両にトーガ・アーマーを装備したタイプ。
M577 Mugaf(Command Post)
M577 Mugaf
米軍 のM577と同型の車両。他のM113シリーズ同様に荷物ラックが装備されている他、Nagmash pikudと同型の大型のアンテナを装備している。
M163 Hovet
米軍のM163 VADS と同等の車両。浮航用フロート は装着されておらず、荷物ラック類が装備されている。土嚢 や偽装網 を搭載している車両も多い。レバノン侵攻では、対空用途よりもむしろ、水平射撃によるPLO拠点への攻撃で活躍した(米軍のM16対空自走砲 の運用と同様)。
M163 Machbet
M163 Hovetに4連装のスティンガー 地対空ミサイル ランチャー を追加装備したタイプ。1990年 頃から改修が行われ、2005年 頃にはほぼ全車の改修が完了した。
M163 Machbet Vayzata
M163 Machbetにトーガ・アーマーを装備したタイプ。
M113 Giref(M113 with TOW Missile Launcher)
M113にBGM-71 TOW 対戦車ミサイル ランチャーを装備したタイプ(M901のような装甲型ランチャーではなく、M151 やハンヴィー に搭載されるタイプと同型の物を使用している)。
M113 Laish(M113 with 81mm mortar)
M113 Laish
アメリカ軍のM125に相当する自走迫撃砲。ソルタム・システムズ でライセンス生産されたタンペラ (英語版 、フィンランド語版 ) 社製81mm迫撃砲 を搭載。"Laish"はライオン の意。
M113 Keshet(M113 with 120mm mortar)
M113 Keshet
ソルタム・システムズ 製のK6 120mm迫撃砲 およびCardom 迫撃砲駐退復座 制御システムを搭載した自走迫撃砲。
アメリカ軍のM1064に相当する車両であるが、M1064にはCardomシステムは搭載されていない。
M113 Nagmash AMEV(Armoured Medical Evacuation Vehicle)
M113 AMEV
装甲救急避難車両(野戦救急車 )。シャーマン戦車 改造の"アンビュタンク "の後継として採用された。
M113 classical(Zelda 2)
M113 classical, レバノン南部, 1995年
1996年 制式化。ゼルダ2(Zelda 2)としても知られる。車体前面および側面にラファエル 社製の爆発反応装甲 を装備して防御力を向上させたタイプ。車体上にはNagmanと同様の防弾版が配置されている。実戦配備数は少ない模様。
M113 HVMS
M113の車体に、60mm高初速砲を備えた小型砲塔 を搭載したバージョン。1980年 頃に開発/試作 されたが実戦配備はされていない模様。
M113 Tamuz
M113 Tamuz 発射機クローズアップ
M113の車体に、回転式のスパイク 対戦車ミサイル発射機を備えた小型砲塔を搭載したバージョン。2011年 頃に実用化された、M113の派生型としては比較的新しい物になる。
Shilem レーダー搭載車
Shilem レーダー搭載車
M548 カーゴキャリアの車台をベースに、大型のEL/M-2310 レーダー を搭載した車両。砲兵 部隊の支援車両の一つ。
シンガポール
M113A2 Ultra Mechanised Igla IFU(Integrated fire unit)
M113A2 Ultra Mechanised Igla WFU(Weapon fire unit)
M113A2 Ultra IFV
シンガポール軍 向けに、M113A1を基本としてA2への標準化・近代化アップグレードを実施したもの。主兵装を40mm自動グレネードランチャー と12.7mm重機関銃 の連装か、イスラエル のラファエル社 で開発された25mm機関砲搭載型のOWS-25 無人砲塔(RWS) の選択式とし、増加装甲 を施した。
M113A2 Ultra Mechanised Igla
M113A2 Ultra IFVと同等の改修車体に、6連装の9K38 イグラ 地対空ミサイル 発射機を搭載した自走式対空ミサイル 発射型。火器管制レーダー を搭載したIFU (Integrated fire unit)バージョンと、管制レーダーを持たないWFU (Weapon fire unit)バージョンが存在する。
M113からの多数の改造型が存在し、また、実戦に投入されない試験用途やプロトタイプ の車両も多数存在する。また、低価格である事から民間の兵器 メーカーが新型火器 システムのテスト或いはデモンストレーション用車両として使用する事も多い。
ベトナム戦争 中は、M54 5tトラック の荷台に走行装置を取り外したM113の車体が載せられ、即席のガントラック となったことがある。ただし、通常のトラック に二重鋼板 の装甲 を施したタイプと異なり、RPG に対する防御では不満が出たとされる。
1970年代 のレバノン内戦 では、APCタイプのM113の車体上に、ZU-23-2 、あるいはZPU-4 などのソ連 製対空 機関砲 を砲架ごと搭載した現地改修車両が使用された。また、リビア では、M113の車体上にソ連製のD-30 122mm榴弾砲 を搭載した車両を製作していたようである。2011年のリビア内戦 では、M577の車体上にBMP-1 装甲車 の砲塔 を乗せた車両が撮影されている。
リンクス指揮偵察車
リンクス指揮偵察車
M113A1のコンポーネントを使用した偵察車両。M113½ C&Rの名称で開発された。M113より若干車高が低く、エンジン室が後部へ移され転輪が1つ減っている。
カナダ とオランダ に輸出された。現在は両国とも退役済み。
FSCV(Fire Support Combat Vehicle)
アメリカ のFMC とドイツ のクラウス=マッファイ とラインメタル が1977年 に共同開発した、火力支援 と兵員 輸送 と偵察 を目的とした、M113のシャーシ を流用した試作車両。開発が中止により量産はなされていない。NBC 防御能力と浮航能力がある。
車体前面は14.5mm弾、車体側面は7.62mm弾に抗堪する装甲がある。
ラインメタル製の105mm榴弾砲 を車体前部の中央やや左寄りに固定式に装備している。砲は車体上面が切り欠かれているのでかなりの仰角 を取ることが可能。砲の方位角調整は車体ごとステアリング で行う。105mm砲弾 を42発積載可能。車体左側面に2つ、右側面に1つ、車体後部の搭乗扉に1つの、計4つのガンポート がある。車体上面右側のキューポラ に7.62mm機関銃 MG3 を装備可能。
車体前部左側に操縦士 、その後ろに砲手 、車体前部右側にディーゼルエンジン 、その後ろに車長 を配置する。車体後部に兵員4名が搭乗可能。車体上面に車長用ハッチ(キューポラ )と操縦士用ハッチがある。車体後部中央に兵員用の搭乗扉がある。
全長:6.04m(砲含む)
全幅:2.91m
全高:1.76m(車体)、1.92m(キューポラ含む)
武装:105mm榴弾砲×1、7.62mm機関銃MG3×1
満載時重量:14t
乗員:3名+兵員4名
エンジン:デトロイトディーゼル 6V53T ディーゼル 300ps
シャドウライダー
M113をライセンス生産したトルコが、M113をベースに開発した無人戦闘車両(UGV)にして遠隔操縦車両。FNSS社によって開発され、2021年8月20日に公表された。13.5 tの戦闘重量で、4,500 kgの積載量を持ち、ディーゼルエンジンで、路上最高速度は50 km/h。25 mm機関砲を旋回砲塔に装備。
AMPV はアメリカ陸軍 向けにBAEシステムズ が開発した装軌式 の装甲車 であり、M113とその派生型を置き換える事を目的としている。5種類の型式があり、アメリカ陸軍はそれぞれの型式でM113A3を置き換える為、2013年の時点で2,907両のAMPVを調達する計画であるとしている。AMPVは砲塔 の無いM2A3ブラッドレー に基づいており、M113A3よりも大幅(約78%)に車内容積が増加している。
小説
『征途 』
太平洋戦争後に日本が南北に分断国家となった世界にて、指揮車型のM577が陸上自衛隊 所属車両として登場。劇中ではヴェトナム戦争 に派遣された第1独立装甲連隊の指揮車となっている。
作中の日本は、史実と異なり重戦車と化した61式戦車 の開発による予算不足と対米政策の絡みで、M113を制式化しているという設定。なお、武器有償供与協定 のおかげでM113の価格が下がったため、陸上自衛隊はM113制式化から10年で普通科部隊の大半を完全装甲化することに成功している。
出典
The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023 . Routledge. p. 287. ISBN 978-1-032-50895-5
IDF ARMOURED VEHICLES , by Soeren Suenkler & Marsh Gelbart , Tankograd Publishing , ISBN 3-936519-03-X ,
Modelling the M113 Series , Graeme Davidson , Osprey Publishing , 2005, ISBN 978-1841768229
月刊PANZER臨時増刊 ウォーマシン・レポート 35 イスラエル陸軍 のAFV 1948~2014 , アルゴノート社
IDF ARMOR SERIES No.9 ZELDA M113 IN IDF SERVICE PART 1 - FITTERS , by Michael Mass , Desert Eagle Publishing , ISBN 978-965-91635-5-7 ,
BLUE STEEL 3 M113 Carriers in South Lebanon , Moustafa El-Assad, 2007, www.blue-steel.info
ISRAEL'S FRONT LINE ARMOR IN THE 21st CENTURY, IDF ARMOR SERIES - No.1, Ofer Zidon, Wizard Publications, ISBN 978-9659075713
Train Hard - Fight Easy, IDF ARMOR SERIES - No.2, Ofer Zidon & Nissim Tzukduian, Wizard Publications, ISBN 978-9659075720
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