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爬虫綱有鱗目ヘビ亜目に分類される爬虫類の総称 ウィキペディアから
ヘビ(蛇、英: snake[3][4])は、爬虫綱有鱗目ヘビ亜目(Serpentes)に分類される爬虫類の総称[5]。トカゲとは類縁関係にあり共に有鱗目を構成している[6]。体が細長く、四肢は退化しているのが特徴[7]。ただし、同様の形の動物は他群にも存在。
適応放散により地上から地中、樹上、海洋に至るまで生活圏を広げており[8]、南極大陸・極地を除く全大陸に分布する[5][6](右の図)。毒蛇は熱帯・亜熱帯に多い[9]。
大きさも最大10mといわれるアミメニシキヘビやオオアナコンダから、10cm程のメクラヘビ類まで、様々な種類がある。なお世界最大の毒蛇は、全長5m以上になるキングコブラとされる。
胴と尾の区別は、一般に総排出口から先が尾とされる。骨格を見れば胴体と尾の境界はある。すなわち、胴体には肋骨があるが、尾にはない。
俗に顎を外して獲物を飲み込むとされるが、実際には方形骨を介した顎の関節が2つあり、開口角度を大きく取ることができる。さらに下顎は左右2つの独立した骨で形成され、靭帯で繋がっている。上顎骨や翼状骨も頭骨に固定されておらず、必要に応じて前後に動かすことができる。歯も喉奥に向かって反り返り、これらにより獲物を咥えながら顎を動かすことにより獲物を少しずつ奥に呑みこむことができる[10](後述のように歯の他に牙を持つものもいる)。
鱗には厚さ数ナノメートルの剥がれない脂質が潤滑油として分泌されており、これは2015年12月9日付の「Journal of the Royal Society Interface」誌で発表された研究論文によって明らかになっている[11]。
穴を掘ることができるヘビは、変形した頭や尻尾、荒い鱗など、形態が特殊な形状となっていることが多い[12]。
視力は人間などに比べると弱い。それは、目全体を1枚の透明な鱗で覆っているためで、そのためにまばたきの必要もなく[13]、脱皮の際には目の部位も脱皮する[14]。現存する種にも目が退化したものは多い。ただし、立体的な活動を行う樹上棲種についてはこの限りではなく、視覚が発達し大型の眼を持っている種もいる。
また口内にはヤコブソン器官という嗅覚をつかさどる感覚器を持つ(ヘビ固有の器官ではない)。本科の構成種が舌を頻繁に出し入れするのはこの器官に舌が付着させた匂いの粒子を送っているためである。また一部の種では赤外線(動物の体温)を感じ取るピット器官という感知器官を唇にある鱗(上唇板、下唇鱗)や目と鼻孔の間に持つ。耳孔や鼓膜は退化しているため、地面の振動を下顎で感知する。
ヘビの進化的起源には不明な点が多いが、有鱗目のうち、トカゲ亜目の一部から進化したと考えられている[15][16]。1億4500万年前から1億年前の白亜紀前期に派生したと推測されている[10]。Parviraptorなどジュラ紀の初期のヘビ類とされた化石はいくつか知られるものの[17]、これらが実際にヘビに関連しているかについては否定的な意見もある[18]。
トカゲ類の中ではオオトカゲ下目に近いとする説がもっとも有力であったが、近年の分子系統解析から、オオトカゲ下目+イグアナ下目から成るクレードと姉妹群を成すことがわかっており、有毒有鱗類と呼ばれる[19]。(かつてはヘビと同じく四肢の退化したヒレアシトカゲ科やミミズトカゲ亜目を姉妹群とする説もあった[15]が、分子系統解析からこれらは否定され、肢の消失は有鱗類の複数の系統で独立に起こった平行進化であることが確定した。)
ヘビの祖先がどのような生活をしていたかについては、水生だったとする説と陸生・地中生だったとする説が対立しており[10][15][16][20]、決着は着いていない。水生説では、ヘビがモササウルス科[20] やドリコサウルス科[10] のような海生オオトカゲ類に近縁であることから、オオトカゲから派生して海中で自在に動けるように進化したと考える[10][15]。特に、約9800万年前の地層から見つかったパキラキスがオオトカゲ類の特徴を残す祖先的なヘビであるとする研究は、水生説を強く支持している[16][20]。パキラキスは前肢を持たず後肢のみを持つヘビで、形態的な特徴から水生であったと考えられる。しかし、パキラキスが祖先的であることを疑う意見もある[20]。
水生説に対して、ヘビが中耳と鼓膜を失っていることや、進化過程で一度網膜が退化したとみられること、脳頭蓋が骨で保護されること、瞼が無く眼が透明な鱗で覆われていることなどは、ヘビの祖先が地中生活をしていたことを強く示唆する[15]。ただし、固い地面を掘り進んでいたとすれば生じたはずの頭蓋骨の強化(ミミズトカゲ類には生じている)はヘビには見られず、地中起源だとしたら軟らかい土壌に住んでいたか[15]、既にある穴や割れ目を利用する半地中生だったと考えられる[16]。化石では、後肢と椎骨を残すナジャシュ、四肢を完全に失ったヘビの中では最古であるディニリシア、頭部にトカゲの特徴(上顎の骨が頭骨に固定されている)を残し地中生だったと推測されるコニオフィスが陸生であることが、陸生説を支持している[10][21]。
2015年には四肢を残す初期のヘビ類としてテトラポドフィスが記載された[22]。しかしながら、この化石は分類が不確実であり、いくつかの研究はこの標本は実際にはドリコサウルス科の一種である可能性が示された[23][24]。化石はブラジルからドイツに不法に輸出されたものとみられており、他の研究者は実際の標本が研究できないことがその分類の混乱を引き起こした[25](当該化石は2024年にブラジル国立博物館に寄贈された)[26]。
体形に合わせて内臓も細長くなっており、2つの肺のうち左肺は退化している。原始的なヘビほど左肺が大きい傾向にある。
一部のヘビには、総排出腔の両脇に後ろ足の名残として蹴爪が見られる。
四肢を失う進化(退化)自体はそれほど珍しいものではなく、両生類の無足類もまさに同様の進化を経た分類群である。現生のトカゲ類においてもアシナシトカゲやヒレアシトカゲのように四肢が無いかほとんど無いいくつかの群がある。鳥類ではモアが前肢(翼)を失い、哺乳類ではクジラやイルカの後肢が退化している[27]。
四肢に関しては、生まれる前の胚の段階で、2本の脚の原基(肢芽)が確認されており、ソニック・ヘッジホッグ遺伝子の制御を行う遺伝子スイッチ「エンハンサー」の3因子に変異が起きて足を形成せず破壊してしまっている[28][29]。メクラヘビやニシキヘビ科など一部の原始的なヘビに腰帯の痕跡器官を持つ種類がある。一部のニシキヘビには大腿骨も残っている[28]。なお、肩帯のある種類は現存しない。
初期のヘビ類であるパキラキスやEupodophis、Haasiophisやナジャシュなどは後肢を残していた。
移動するための四肢を失ったとはいえ、ヘビはその細長い体によって地上や樹上、水中での移動を可能にし、高い適応性を示している[16]。地上での移動方法にはいくつかの種類があり、代表的なのは以下のものである。
ヘビといえば「長い体」の次に「毒」が連想され、実際、有毒な爬虫類の99%以上はヘビが占めている(ヘビ以外にはドクトカゲ科2種のみとされてきた)。全世界に3000種類ほどいるヘビのうち、毒を持つものは25%に上る。威嚇もなく咬みつく攻撃的で危険な毒蛇もおり、不用意に近づくのは危険である。
毒蛇は上顎にある2本の毒牙の根もとに毒腺があり、毒液を分泌する。クサリヘビ科の種では牙の中は注射器のように管状で毒牙の先に毒液を出す穴がある。コブラ科では牙が管状ではなくその表面に毒液が毛細管現象で流れる溝がある種が多いが、毒牙がほぼ管状になっている種もある。従って、この二者を明確に分けるのは毒牙が管状か否かではなく、毒牙が折り畳み式か否かであり、前者を「管牙類」、後者を「前牙類」と呼ぶ。なかには口を開けて毒牙から毒液を噴射するクロクビコブラやリンカルスのような種類もいる(両者の毒牙は牙前方中ほどに毒腺の穴があいており、2mほど先の標的に正確に毒液を命中させることができる)。クサリヘビ科でもマンシャンハブのように毒液を噴射するものがいる。
日本にも分布するヤマカガシの仲間はアオダイショウなどと同じナミヘビ科だが、上あごの奥の牙と首筋の皮膚の2ヶ所から毒を分泌する。これらの仲間は無毒とされてきたが最近になって[いつ?]毒ヘビとして認識されるようになった。実際に日本で人が死亡した例もある。ナミヘビ科の有毒種は毒牙の位置から「後牙類」と呼ばれる。
最も強い毒をもつのはオーストラリアに生息するナイリクタイパンである。その他、非常に攻撃的なタイパンやアフリカ最強の毒蛇であるブラックマンバ、タイガースネーク、アマガサヘビ、幾つかのウミヘビなど。
「頭が三角形のヘビは毒蛇」といわれるが、必ずしも正しいとは言えない。確かに毒を持つクサリヘビ科のヘビ、ハブやマムシは、頭が三角形のような形。ほかのクサリヘビ科のヘビも三角形のような形である。だが、コブラ科のナイリクタイパン、ブラックマンバ等の頭は、三角形というよりは、いわゆる「蛇の頭」形。日本に生息する猛毒を持つナミヘビ科の、ヤマカガシも頭は三角形ではない。また、日本の、毒を持たないヘビ、アオダイショウやシマヘビは、毒の代わりに威嚇するため、頭が三角形に広がることがある。
また、無毒のヘビであっても咬まれれば唾液に含まれる細菌等の影響で感染症を起こす場合がある。さらにこれらのヘビの歯は、くわえた獲物を逃さないよう先端が内側(のど)に向かって曲がっている上に細いため、無理矢理引きはがすと皮膚に食い込んだまま折れてしまう危険がある。
クサリヘビ科に代表される「出血毒」は、消化液(唾液)が変化したもので体の各部に皮下出血を起こし、組織を破壊されて死に至る。これは蛋白質が消化されたために起こる症状である。
コブラ科の構成種に主に見られる「神経毒」は文字通り中枢神経を冒して、咬んだ動物を麻痺状態にし、ヘビはその間に獲物を捕食する。強毒種では出血毒と神経毒の両方の作用がある。毒ヘビに咬まれたときは血清による治療をうける必要がある。
森林、草原、砂漠、川、海等の様々な環境に生息する。環境に応じて地表棲種、樹上棲種、地中棲種、水棲種等、多様性に富む。変温動物なので、極端な暑さ寒さの環境下では休眠を行なう。
膀胱はなく腎臓から排出された老廃物は、ほとんど水分のない粒状の固形物の形で尿管を通り総排出腔から排出される。
呼吸は、人間などのように横隔膜がないので、肋間筋(intercostal muscle)によって肺の膨張圧縮を行う。
寒い地域では、ヘビは冬眠する[31]。繁殖期や冬眠になると群れを作る。また、キューバボアは集団で戦略的な狩りを行う[32]。
ヘビイチゴなどのように植物性のものを食べるという話はあるが、食性は全てが動物食で、主食はネズミ、リス、ウサギ、カエル、鳥類など種類によって異なる。大型の種類ではシカやワニ、ヒト等を捕食することがあるが、変温動物で体温を保つ必要がないため、食事の間隔は数日から数週間ほどである。獲物を捕食するときは、咬みついてそのまま強引にくわえ込む、長い胴体で獲物に巻き付いて締め付ける、毒蛇の場合は毒牙から毒を注入して動けなくする等の方法がある。
通常、動くものしか食べず、人間が与える動かない餌はピンセットで口の中に入れないと食べない[33]。なので、カエルがヘビに睨まれて動きを止めるのは理にかなった捕食回避行動である[34]。
コブラ類を初めヘビを食べるヘビも多い(自らも相手も体が細長いので食べ易い上、栄養を多く摂取できるからだと考えられている。多くのウミヘビ類がアナゴやウナギ等をよく食べるのも同じ理由であると考えられている)。
舌ににおいの分子を吸着させ、口の中の鋤鼻器(ヤコプソン器官)で匂いを確認するため、舌をチロチロと出す動作を行う。また、一部の種は、夜間でもピット器官によって熱を感知して獲物を判断する。 外耳がないため、空気中の音をとらえることは出来ず、内耳で地面の振動を感知する。
脱皮する。だいたい1-2か月に1回の頻度で、活動の多い夏に多く、冬には頻度が低下する[44][45]。まれに失敗して、脱皮不全を起こし、脱皮できない場所が壊死したり感染症を起こすなどがある。また、ストレスや環境が合わない場合は短期間で脱皮を繰り返すようになる[46]。
分類は田原(2022)を参考[47]。分類群の和名、種数は中井(2021)を参考[48]。また和名、種数については田原(2022)も参考とした[49]。
有鱗目における系統的位置は以下である[50]。
有鱗目 |
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Squamata |
ヘビ類 |
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Serpentes |
現代では一般的にヘビの容姿は、外見上四肢がなく、ニョロニョロと動いたりトグロを巻いている様子が恐怖の対象としてみられることがある。また毒蛇やニシキヘビ科、ボア科の数種に関しては場合によっては人命を奪うこともあり畏怖の対象ともなっている。反面そういった理由から、場合によっては人間に対して無害な種であっても駆除されることもある。しかし、それとは逆にペットとして飼育されることも増えていて、色彩変化の改良品種なども作出されているほどである。
四肢を持たない長い体や毒をもつこと、脱皮をすることから「死と再生」を連想させること、長い間餌を食べなくても生きている生命力、四肢のない体型と頭部の形状が陰茎を連想させる事などにより、古より「生と死の象徴」「豊穣の象徴」「神の使い」などとして各地でヘビを崇める風習が発生した。最近でもヘビの抜け殻(脱皮したあとの殻)を「お金が貯まる」として財布に入れるなどの風習がある。また、漢方医学や民間療法の薬としてもよく使われる。日本でも白ヘビは幸運の象徴とされ特に岩国のシロヘビは有名である。また、赤城山の赤城大明神も大蛇神であり有名であるといえる。
民俗学者の吉野裕子によれば、「日本の古語ではヘビのことを、カガチ、ハハ、あるいはカ(ハ)等と呼んだ。これらを語源とする語は多く、鏡(ヘビの目)、鏡餅(ヘビの身=とぐろを巻いた姿の餅)、ウワバミ(ヘビの身、大蛇を指す)、かかし(カガシ)、カガチ(ホオズキの別名、蔓草、実の三角形に近い形状からヘビの体や頭部を連想)などがあり、神(カミ=カ「蛇」ミ「身」)もヘビを元にする」という[54]。ただし、カガチはホオズキの古語、鏡の語源は「かが(影)+み(見)」、カカシはカガシが古形であり、獣の肉や毛髪を焼いて田畑に掛け、鳥や獣に匂いをカガシて脅しとしたのが始まりであって、それぞれヘビとは直接の関係はないというのが、日本語学における通説である[要出典]。
ヘビは古来、世界的に信仰の対象であった。各地の原始信仰では、ヘビは大地母神の象徴として多く結びつけられた。山野に棲み、ネズミなどの害獣を獲物とし、また脱皮を行うヘビは、豊穣と多産と永遠の生命力の象徴でもあった。また古代から中世にかけては、尾をくわえたヘビ(ウロボロス)の意匠を西洋など各地の出土品に見ることができ、「終わりがない」ことの概念を象徴的に表す図象としても用いられていた。ユダヤ教やキリスト教、イスラム教(アブラハムの宗教)では聖書の創世記から、ヘビは悪魔の化身あるいは悪魔そのものとされてきた。
ギリシャ神話においてもヘビは生命力の象徴である。杖に1匹のヘビ(クスシヘビ 薬師蛇、Zamenis longissimus とされる)が巻きついたモチーフは「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、欧米では医療・医学を象徴し、世界保健機関のマークにもなっている。また、このモチーフは世界各国で救急車の車体に描かれていたり、軍隊等で軍医や衛生兵などの兵科記章に用いられていることもある。また、杯に1匹のヘビの巻きついたモチーフは「ヒュギエイアの杯」と呼ばれ薬学の象徴とされる。ヘルメス(ローマ神話ではメルクリウス)が持つ2匹のヘビが巻きついた杖「ケリュケイオン」(ラテン語ではカドゥケウス)は交通などの象徴とされる。「アスクレピオスの杖」と「ヘルメスの杖(ケリュケイオン)」は別のものであるが、この二つが混同されている例もみられる。
古代エジプトの歴代ファラオは、主権、王権、神性の象徴として蛇形記章を王冠に戴いた。
中国神話や、江戸時代の官学であった道学では、蛇神が道祖として信仰されてきた。明治維新後の日本では高島易断で主祭神[55] として信仰が残るのみ。また中国の香港特別行政区では道教寺院を通して一般に信仰され、中国本土では中華民族人文の始祖として尊ばれている。三皇の初代が、魚釣を教え魚網漁鳥網猟や八卦(易)、そして結縄や瑟を発明した蛇身人首の伏羲。その妹にして妻である女媧は、泥と縄で人類を創造し、天を修復し、笙簧を発明した蛇身人首の女神。伏羲と女媧は大洪水に遭い、人類は、瓢箪の中に避難していた二人を残して絶滅してしまったとも伝えられている。なお、漢字文化において古くは無足の動物を蟲と称し、代表的な動物がヘビで、その他、蛭やナメクジやミミズやウミウシも蟲に属した。そのため、足無しと呼ばれた足の不自由な人が知恵者として崇拝されるようになると、ヘビと同一視されるようになったという解釈もある。
また、インド神話においてはシェーシャ、アナンタ、ヴァースキなどナーガと呼ばれる蛇身神が重要な役割を果たしている。宇宙の創世においては、ナーガの一つである千頭の蛇アナンタを寝台として微睡むヴィシュヌ神の夢として宇宙が創造され、宇宙の構成としては大地を支える巨亀を自らの尾をくわえたシェーシャ神が取り囲み、世界を再生させるためには、乳海に浮かぶ世界山に巻き付いたヴァースキ神の頭と尾を神と魔が引き合い、乳海を撹拌することにより再生のための活力がもたらされる。これらの蛇神の形象は中国での竜のモデルの一つとなったとも考えられている。
日本においてもヘビは太古から信仰を集めていた。日本では、縄文時代の遺跡からもヘビをかたどった土偶が出土している[56]。縄文時代中期の遺跡からはヘビをモチーフとする文様の施された土器がしばしば出土し、なかには頭部をマムシに特徴的な三角状に仕立てたものもある[57][58][注釈 1]。ヘビは、日本では古来より、ネズミを捕食するところから穀物神、それが転じて田の神、ヘビと龍との習合から水神、さらに財宝をつかさどる弁財天の表象・化身ないし神使として神聖視されてきた[56]。中国の逸話を集めればヘビは富の象徴にほかならない[59]。これは商業神へとつながる要素である[59]。民俗学のフィールドワークや古代の史書からは地神としての性格も有する[59][注釈 2]。
また、豊穣神として、雨や雷を呼ぶ天候神として、また光を照り返す鱗身や閉じることのない目が鏡を連想させることから太陽信仰における原始的な信仰対象ともなった。もっとも著名な蛇神は、頭が八つあるという八岐大蛇(ヤマタノオロチ)や、三輪山を神体として大神神社に祀られる大物主神(オオモノヌシ)であろう。弁才天でもヘビは神の象徴とされる場合がある。大神神社や弁才天では、神使としてヘビが置かれていることもある。ヘビの姿は、男根、剣、金属(鉄)とも結びつけられることから男性神とされる一方、豊穣神・地母神の性格としては女性と見られることも多く、異類婚姻譚の典型である「蛇女房」などにその影響を見ることができる。この他、ヘビそのものを先祖とする信仰(トーテム)もみられ、『平家物語』の記述として、「緒方維義の祖先は明神の化身たる大蛇という伝説(緒方家における祖神信仰)があり、その話から武士達が集まった」と記される。他に建御名方神、豊玉毘売命、玉依毘売命、阿遅鉏高日子根神なども龍蛇神である。
精神分析の始祖であるジークムント・フロイトは夢分析において、ヘビを男根の象徴であるとした。これに対してカール・グスタフ・ユングは、男性の夢に登場するヘビは女性であると説いた。また、ユングはフロイトが多くのものを性に結び付けて解釈する傾向に対しては批判的であった。
1960年代に5歳から12歳の子どもを対象として行われた「怖いと思うもの」を尋ねる調査では、467人のうち約50パーセントの子どもが動物を上げ、その中で最も多かった回答はヘビ類だった[60]。このように、多くの人に見られるヘビ類への恐れは本能であるという説と、学習の結果であるという二つの説がある[60]。本能由来説の裏付けとして、マーモセットやチャクマヒヒなどの観察研究により霊長類全般にヘビへの忌避行動が見られる事が挙げられている。一方でマカクやキツネザルを対象とした学習由来説を裏付ける研究もあり、結論には至っていない。1928年に心理学者メアリー・カバー・ジョーンズ夫妻が提出した論文『成熟と感情:ヘビに対する恐れ』によれば、2歳までの子供は長さ1.8メートルのヘビやボアコンストリクターを恐れなかったが、3歳児は警戒を見せるようになり、4歳児以上では恐怖を示したという[60]。
ヘビは様々な文化と宗教において題材として取り上げられ、世界中で畏怖と魅惑の対象となってきた。ガボンアダーなどの鱗に見られる鮮やかな模様は、人に嫌悪感をもよおさせることもあれば、人の心を魅了することもある。人類は先史時代からこうした模様に畏敬の念を抱き、さまざまな絵画や造形物に蛇鱗の模様を採り入れてきた。恐怖や興奮に関する心理学研究では、鱗がヘビのイメージの重要な要素であることが示されている。
蛇革は、その網目状や格子状の精巧な繰り返し模様が愛され、財布やバッグ、アクセサリーなどの多くの革製品の製造に用いられてきた[61]。琉球王国発祥の伝統的な弦楽器三線や、ウイグル自治区周辺に見られる弦楽器ラワープ[62]、中国の二胡などに蛇皮が使われる。
しかし、蛇革の頻用は乱獲をともない、ヘビの個体数は危機的状況にある[63]。現在、一部のヘビの取引については、1973年成立のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によって国際的な規制がかかっている[64]。多くの国の動物愛好家は人工蛇革による代用を促進しており、これはエンボス加工された皮革、模様入りの布地、プラスチック、その他の素材から容易に製造できる[61]。
ヘビの鱗はアクションゲームにおいてしばしばとりあげられる[65][66][67][68]。1982年のSF映画『ブレードランナー』では、ヘビの鱗が謎解きの手がかりとして描かれた[69]。また、大衆小説や若者向け小説にも登場し、J・K・ローリング「ハリー・ポッターシリーズ」では、ポリジュース薬を調合するための材料としてブームスラングの乾燥した皮が使用される[70][注釈 3]。
アメリカ合衆国では「大きな者が侵入してきても敢然と威嚇し、踏みつけられれば反撃する」としてガラガラヘビが"Don't tread on me."(私を踏むな)の標語とともに独立自衛のシンボルとされる。これらの意匠はガズデン旗や海軍国籍旗にも用いられる。
ヘビに関連することわざ、慣用句、熟語も多く存在する。以下、五十音順。
ヘビの肉や皮を食用にする地域がある。中国の広東省や広西チワン族自治区では、毒蛇を含むヘビの料理を伝統的に食べている他、近年は他の省でも料理を出す店が増えている。有名なのは蛇スープで、あっさりした美味とタンパク質などの栄養分で珍重される。肉は他に、唐揚げや鍋料理の具にも用いられる。鱗を取った皮も湯引きにして、酢や醤油で味付けして食べたり、油で揚げて食べたりする。日本にも、蛇飯を炊いて食べる地域がある。沖縄ではエラブウミヘビなどを燻製にし、もどして煮込むイラブー汁という伝統料理がある。
陸上自衛隊のレンジャー訓練を初め、陸軍における遊撃戦要員を養成する訓練の多くでは、作戦行動中に食糧が尽きた場合を想定し、教育の一環として用意されているヘビを調理して食べることがある。
日本ではニホンマムシを丸ごと漬け込んだマムシ酒やハブを丸ごと漬け込んだハブ酒が作られており、薬酒と考えられている。中国では百歩蛇などが蛇酒に使用される。東南アジアなどでは、強壮効果を期待して生き血をグラスに注いで飲んだり、肝に酒を注いで飲んだりする習慣も見られる。科学的根拠はない。
蛇毒は、血栓防止薬などとしての利用が研究されている。
ヘビの皮は、なめして、財布やバッグに利用される場合がある。また、三味線の原型となった沖縄・奄美地方の弦楽器三線は、胴にヘビの皮を張っていることでも有名である。
ヘビは足が無いことから「足(金員)が出ない」ことにひっかけ、「脱皮した皮を財布に入れておくとお金が貯まる」などの俗説もある。
英語では、snake, serpent (< ラテン語: serpens)ともに原義は「爬うもの」の意。このヘビの爬う習性から、ヘビに類する動物を「爬虫類」「爬行動物」と呼ぶようになった。英語で「爬虫類」「爬行動物」を意味するreptile(< ラテン語: reptilia)も、serpentと同じく原義は「爬うもの」である。
漢字の「虫」はヘビを象った字で、虫部の漢字にはヘビに限らず、爬って進む動物全般が含まれている(ヘビ以外の例:蜘、蝸、蛤)。
日本語「ヘビ」(ヘミ)は一説に、「ハブ」「ハモ」「ヒモ」など子音の共通する語彙と同系で、「細長いもの」の底意をもつという。周辺語として「うわばみ」などがある。
20世紀に調べられた日本語の方言では、東日本および九州東部、四国南部のヘビと、ヘッビ(新潟県)、ヘービ、ナガムシ、オカウナギ(長野県佐久地域)[87]、ヘンビ(岐阜県)、ヘミ(福井県)、ハブ(沖縄県)など、ヘビの変音で呼ぶ地域が最も多かった。次いで中国地方、近畿、九州西部を中心にクチナワ(朽ち縄)及びその変音(クチナなど)で呼ぶ地域が広がっていた。
他には、大虫(オームシ)、陸鰻(オカウナギ)、幹虫(カラムシ)、郷回り(ゴーマワリ)、長(ナガ)、長太郎(ナガタロー)、長物(ナガモノ)、縄(ナワ)、巳(ミー)、山鰻(ヤマウナギ)などの呼び方がある。
動物学では、爬虫類と両棲類を研究する爬虫両棲類学にてヘビの研究が行われている。英語では、ヘビを中心に飼育・研究・展示を行っている施設は、serpentarium という[88]。
日本では、財団法人 日本蛇族学術研究所が噛まれ場合の対処を教える毒蛇110番や医療現場への助言などを行っている[89]。また、所有する群馬県太田市藪塚町にあるジャパンスネークセンターは、日本唯一のヘビ専門テーマパークである[90]。各種蛇毒の抗毒素の在庫についてもここが最大の拠点となっており、外国産の毒蛇咬症やヤマカガシ咬症による事故が生じた場合などには抗毒素の手配や輸送が行われる。
日本ではコブラ科やクサリヘビ科などの有毒種、ナミヘビ科とボア科、ニシキヘビ科の一部などの大型種に関しては動物愛護法によって特定動物に指定されているため飼育には地方自治体の許可が必要になる。日本で主に流通し飼育されるのはナミヘビ科の無毒種や弱毒種、ボア科やニシキヘビ科の小型から中型種になる。
ヘビはあまり活発的ではなくとぐろを巻いていることも多いため、全長と同等の飼育スペースはそれほど必要ではない。一般に飼育ケージの大きさは、その個体が巻いているトグロの直径の三倍の幅×二倍の奥行きがあれば最低限可能である。全長100-150cmのナミヘビ類に対し60-90cmの規格水槽サイズのケージでも飼育はできる。比較例としては甲長20cm以下のカメ1匹に対し同サイズのケージが必要とされる。ただし、ボアやニシキヘビなど体形の太い種(=タイトなとぐろを巻けない)や、活動的で体の硬いナミヘビなどについては、もう少し大型のケージが必要になる。近年は冷凍のマウスやラットが専門店等でも販売されており、それらで餌付けできる種(小型哺乳類が食性に含まれる種)については飼育しやすくなったといえる。また人に馴れる生き物ではないが、コーンスネークのように流通する個体がほぼ飼育下繁殖個体であったり、種によっては成体であれば1週間に1回程度の給餌で済むことや、立体活動がそう必要でないこと、変温動物ではあるが繁殖をさせない限り温度管理には神経質にならなくてよいこと、鳴かないこと、抜け毛が無いことなど、飼育をしやすい点も特筆すべきである。
しかし体形が細いため脱走には気をつける必要がある。また神経質な種も多いため環境の変化やストレス等から拒食してしまうこともある。
なお、飼育とは異なるが、日本に生息するアオダイショウは立体的な活動が得意なこともあり、人家の屋根裏等に潜みネズミ等を捕食する。そのため人家とともに生息域を広げ近年でも場所によっては郊外や都市部といった環境にも生息している。アオダイショウそのものも日本に分布するヘビの中では大人しく、本土最大のヘビではあるが大型化しないため飼育に適しているヘビとされる。
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