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日本のアニメーション演出家、アニメーター (1959-) ウィキペディアから
板野 一郎(いたの いちろう、1959年3月11日 - )は、日本のアニメーター、アニメ演出家・監督。新潟のCGアニメスタジオ・紺吉有限会社に所属・映像創作顧問[1]。神奈川県横浜市南区出身。
小・中学生時代は、横浜市南区に居住する。隣家は、在家得度者で俳人の望月明であった。高校3年のとき、スタジオムサシでのテレビアニメ『惑星ロボ ダンガードA』の動画からアニメーターとしてのキャリアをスタート。幼少期に読んでいた漫画『鉄人28号』『サブマリン707』の影響でメカ好きになり、メカのカットばかりこなしているうちに、いつの間にかメカ専門になったという。同僚の森山ゆうじとのフリー活動やスタジオコクピットを経て、ムサシの先輩だった浜津守の誘いでテレビアニメ『機動戦士ガンダム』に参加し、同作で1979年に原画へ昇格を果たす。
次いでスタジオビーボォーに籍を置き、『伝説巨神イデオン』に参加。この両作品で、安彦良和や湖川友謙(ビーボォー主宰)らベテランから作画技法を学ぶ。独自のアクション演出を磨き、イデオンの「全方位ミサイル発射シーン」や多数のアディゴが乱舞する戦闘シーンなどで注目を集めた。
1982年、スタジオぬえの河森正治に誘われ、同僚の平野俊弘らとアートランドへ移籍し、『超時空要塞マクロス』に参加する。主役メカのバルキリーの斬新なデザインに惚れ込み、メカニック作画監督として個性を発揮。スピーディーでアクロバティックな戦闘シーンは板野サーカス(後述)と称され、メカ好きのアニメファンから注目された。
1985年のOVA『メガゾーン23』は演出を手掛けるきっかけとなった(声優としても1台詞だけ出演)。1986年の続編『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』で監督デビュー(メカ作監兼)。以後、次第にアニメーターとして作画を行なうことは少なくなり、アニメ演出家としての仕事に比重を移した。同年12月にはアートランドから独立し、結城信輝、本谷利明、門上洋子、森川定美を擁してD.A.S.T (Defence Animation Special Team) を結成。OVAを中心に『エンゼルコップ』シリーズなどのアクション作品を監督した。
1994年の『マクロスプラス』で久々に作画を手掛けた後はCGの可能性に目を向け、ゲームや実写特撮作品のCGモーション監修にも活動を広げた。2004年の『ULTRAMAN』や『ウルトラマンネクサス』以降の「ウルトラシリーズ」などに参加している。
2008年には企画から監督まで全面的に手がけた『ブラスレイター』を発表。その後は同作のCG班がGONZOから独立したグラフィニカにアドバイザーとして籍を置き、後進の指導を行っている[2][3]。
最初の師匠である安彦良和とは、『クラッシャージョウ』の現場を辞めて『マクロス』に参加して以来関係が途絶えていたが、安彦の『ガンダム』画集にまつわる仕事[4]でほぼ30年ぶりに再会し、アニメ版『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I』(2015年)の制作に協力している[5]。
板野一郎が演出する立体的超高速戦闘アクション、または、その特徴を踏襲したアクションシーンを指す。『イデオン』の演出がアニメ業界で話題を呼び、メカの軽快な動きをサーカスの空中曲芸に喩えてこう呼ぶようになった。
板野サーカスの呼称は「マイアニメ」1982年11月号で、メカデザイナーの宮武一貴が「ぼくらは"板野サーカス"っていってるんですけど」とインタビューで発言したのが初出。同誌1982年12月号では、板野サーカス特集記事が掲載されている[6]。「サーカス」とは大日本帝国海軍のパイロット源田実が航空機献納式で行った3機編隊のアクロバット飛行が「源田サーカス」と呼ばれたことにちなんでいる[7]。
従来のロボットアニメの戦闘シーンは西部劇や時代劇のような銃や刀を使った「決闘」の様式をとり、ロボットの重厚感やポージング(決めポーズ)を重視した演出が多かった。この好例として、『ガンダム』などの戦闘シーンでの殺陣が挙げられる。これに対し、板野は敵味方が高速で縦横無尽に飛び回る「空中戦(または宇宙空間戦)」を舞台に、目まぐるしいスピード感やアクロバティックな動きで新たな見せ場を作った。
その原点は少年期に観た『人造人間キカイダー』に登場するハカイダーのオートバイからロケット弾が発射されるシーン。学生時代にそれを真似て愛車のフロントフォークにロケット花火を取り付け、海岸で追いかけっこをしながら走行中に一斉に打ち出すという遊びを行っていた。このとき、「攻撃側よりも追撃される側のほうが面白かった」と語っている[8]。その花火と並走した体験をアニメ表現に当てはめたのが、三次元感覚の画面構成である。また、撮影レンズやフレームの変化など、カメラワークの工夫でスピード感をより強調している。
アスペクト社の『SFアニメがおもしろい―機動戦士ガンダムから新世紀エヴァンゲリオンまで―』(EYE・COM Files著、1996年12月、ISBN 978-4-89366-643-7)で、これらについて言及した記述がなされている。
1970年代末、金田伊功が手がけるエフェクトシーンやオープニングアニメーションに魅了されたアニメファンの中から、「金田フォロワー」と呼ばれる若手アニメーターたちが現われた。板野も金田の影響を受けた1人で、「金田さんのいいところを吸収し、その上で自分の表現を探さなきゃと思って、『板野サーカス』が生まれた。金田さんあっての『板野サーカス』だと思っています」と語っている[9]。ダイナミックなパースや爆発を駆使する「金田アクション」、それに影響されたアクロバティックな板野サーカスの技法は、当時に普及し始めたビデオデッキのコマ送りで分析され、後進のアニメーターに影響を与えた。
その流れは2000年代以降においても見られ、『ほしのこえ』を個人制作した新海誠は、「『マクロスプラス』や『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』をコマ送りで見てメカアクションの参考にした」と述べている[10]。また、アニメーターの久保田誓は板野サーカスのファンとして、『アベノ橋魔法☆商店街』(第3話)[11]や『天元突破グレンラガン』(第14話)、『スペース☆ダンディ』(第23話)[12]などで同様の作画を披露している。
ミサイル乱射などのアクション演出は一般化しているが、河森は「美しく見せたりスピード感のあるミサイルを描けるアニメーターはいるが、板野のような“痛いミサイル”を描ける人は少ない」と語っている。
なお、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』のビデオで板野サーカスを観たハリウッド映画関係者が、映画『トップガン』の空撮シーンのヒントにしたという説がある[13]。『マクロス』の熱烈なファンでもあるニール・ブロムカンプ監督は、自身の映画『第9地区』の作中でパワードスーツがミサイルを発射するシーンに、「納豆ミサイル」の表現を盛り込んでいる[14][15]。
デジタルアート集団チームラボは板野サーカスへのオマージュとして、二次元のアニメで描かれた「デフォルメされた空間」を三次元で再現する作品「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点」[16]を製作した。
板野によれば、板野サーカスを完全に会得しているアニメーターは庵野秀明、後藤雅巳、村木靖の3人[17]。庵野はアニメ界の最初の師匠として板野の名を挙げ[18]、「妥協しない創作姿勢を教えられた」[19]「がんばっているんだけど、なかなかあの境地には達しない。超えようと思ったけど、超えられない人ですね」[20]と語っており、実写映画『キューティーハニー』にも一種のオマージュが見られる。後藤や村木は『イデオン』や『マクロス』を見て影響を受けた世代で、『カウボーイビバップ』や『交響詩篇エウレカセブン』でスピード感のある空中戦を描いた。
板野自身は『マクロス ゼロ』完結後の「マクロスシリーズ」作品には参加していないが、『劇場版マクロスF〜サヨナラノツバサ〜』のCGを担当したサテライト、unkownCASE、グラフィニカのクリエイターは板野の指導を受けた教え子たちである[21]。サテライトの八木下浩史(『マクロスF』)と原田丈(『バスカッシュ』)について、板野は「CGの板野サーカスの免許皆伝第1号が原田、卒業生の中の優等生が八木下」[22]と語っている。
『ウルトラマンネクサス』から『ウルトラマンメビウス』に参加していた時期は円谷プロダクションのCGIチームの指導も行っており、その後の特撮作品にも影響を与えている[23]。
主宰していたD.A.S.Tについては2011年に解散を表明しており、「育てるべき人間はもう全員卒業したので、これからは自分の好きなことをやろうと」と語っている[24]。
実体験の応用という点で、アニメ業界人としては異色の肉体派。「バトルアニメーター」の異名をとり、数々のエピソードを残している。
*マクロス関連ゲームの詳細はマクロスシリーズ (ゲーム)を参照。
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