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日本の漫画家 (1936-2021) ウィキペディアから
さいとう・たかを(本名:齊藤 隆夫〈さいとう たかお〉[1]、1936年〈昭和11年〉11月3日 - 2021年〈令和3年〉9月24日)は、日本の漫画家[注 1]。和歌山県和歌山市生まれ、大阪府堺市出身[2]。東京都中野区、岩手県花巻市在住。
貸本漫画時代に劇画の分野を確立した人物の一人であり、一般漫画の世界に転向後も『ゴルゴ13』をはじめとする数々のヒット作品を生み出した、劇画界の代表的人物である。また「さいとう・プロダクション」を設立し、各スタッフの分業体制により作品を制作するという方式を確立した。
1936年(昭和11年)、5人兄弟の末子として和歌山市に生まれるが、生後まもなく転居し、のちに大阪府堺市に移り住む。さいとう自身は43歳になるまで和歌山で生まれたことを知らなかった[3]。
父親はさいとうが幼い時に家を出たため、母親が理髪店を営みながら女手一つで子供5人を育てた[4]。小さい頃は図画工作(美術)科目とケンカが得意の、いわゆる不良少年であり、将来の夢はボクサーか画家になることであった。中学時代には府の絵画展で金賞を獲得している。
1952年に堺市立福泉中学校を卒業し、実家の理髪店で働き始める。当時は漫画に興味がなく将来の夢は挿絵画家だったが、挿絵業界は今後狭まっていく、あるいは自分の考えている方向とは違う方に行くだろうという漠然とした不安感[5] から、当時はまっていた映画や進駐軍が持ち込んだ「10セント・コミックス」に影響を受け[6]、ストーリー漫画を志す。
同時期に手塚治虫(誕生月日が同じである)の『新寶島』を見て衝撃を受け、「紙で映画が作れる!」と興奮したという[4]。当時のさいとうは手塚の影響を受け、柔らかなタッチの絵を描いていた。
1953年には家業である理髪店を姉と継ぐが、1955年に仕事の合間に2年近く掛けて描いたストーリー漫画『空気男爵』を、大阪の貸本出版社日の丸文庫に持ち込む。等倍の紙に漫画を描いたため、社長の山田秀三にダメ出しされるが、一年かけて書き直し、デビューが決まる。それ以降、日の丸文庫の看板漫画家として単行本を次々と発表する。
1956年には漫画に専念するために家業の理髪店を辞めるが、母親は激怒して漫画を親の仇であるかのごとく嫌うようになった。さいとうによれば、自身が漫画家として大成した後も「母親は漫画家という職業を死ぬまで嫌い、病床に置かれた僕の本に一度たりとも触れなかった」と述べている[7]。なお、1987年にNHKで放送された「わたしの青春ノート」では「漫画に反対していた母が18歳の時に亡くなり、理髪店を叩き売った」と述べている。
同年には、辰巳ヨシヒロや松本正彦らと同じアパートで共同生活を送りながら漫画を描き始めた。当時、さいとうは高校生だった川崎のぼるをアシスタントとして働かせていたが、さいとうの人使いが荒かったことから、川崎は早々に逃げ出している。
1958年(昭和33年)先輩漫画家の久呂田まさみに連れられて上京、東京都国分寺市のアパートに居を構える。1959年、国分寺に居住していた日の丸文庫系劇画家のさいとう・たかを、辰巳ヨシヒロ、石川フミヤス、K・元美津、桜井昌一、山森ススム、佐藤まさあき、松本正彦ら8人で劇画制作集団「劇画工房」が結成される。人気劇画家の制作集団とあって貸本出版社からの執筆依頼が殺到して多数の貸本劇画短編集を出版するが、組織論や仕事配分、ギャラの分配などで揉め、翌年1960年春に劇画工房は短期で分裂した。
「劇画工房」の分裂後、佐藤まさあきや川崎のぼる、南波健二、ありかわ栄一ら、ガンアクション系の劇画家5人で新・劇画工房の設立を計画するが、頓挫。その計画を元に1960年(昭和35年)、東京都国分寺市に自らの漫画制作会社「さいとう・プロダクション」を設立した。さいとうの組織論に共鳴していた石川フミヤスらがスタッフに加わり、さいとうの兄の斉藤發司がマネージャーを務めることになる。以後、多数の貸本劇画を出版する。中でも『台風五郎』はシリーズ化され人気を博した。
1962年(昭和37年)、貸本劇画家有志と「劇画集団」を設立。メンバーはさいとう・たかを、横山まさみち、永島慎二、南波健二、石川フミヤス、ありかわ栄一、旭丘光志、都島京弥、いばら美喜、山田節子、武本サブロー、影丸譲也、他。もっとも、この団体は漫画制作を目的とした新・旧劇画工房とは違い劇画家の親睦のための団体であり、一般読者会員にも会報などを発行していた。
貸本業界が傾き始めた1963年、ボーイズライフ連載の『007』のコミカライズを機に一般漫画誌に本格進出。1967年には時代劇アクション劇画『無用ノ介』(『週刊少年マガジン』)を連載。劇画路線の『マガジン』を代表するヒット作となった。
その後、1968年(昭和43年)10月より連載開始の『ゴルゴ13』(『ビッグコミック』)は、さいとうにとっての代表作であり、日本の「劇画」の代名詞となる。『ゴルゴ13』は現在も連載中の長寿漫画であり、1976年(昭和51年)1月に1975年度小学館漫画賞の青年一般部門、2005年(平成17年)1月に2004年度小学館漫画賞の審査委員特別賞を受賞し、2021年(令和3年)7月には「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定された[8]。
21世紀に入ると『ゴルゴ13』『鬼平犯科帳』『仕掛人・藤枝梅安』の3作の長期連載を軸に活動、大ベテランとなっても月産150ページ以上の旺盛な執筆活動を展開した。
しかし、2008年に武本サブロー、2014年に石川フミヤスと、長年にわたって仕事を支えてきたチーフアシスタントが相次いで死去したこともあって、さいとうの作業量が増加した。そのため2015年2月、体力的な負担を理由に『仕掛人・藤枝梅安』の休載を決定した。残り2作品の連載執筆に専念しつつ(これらもページ数を減らしている)、『梅安』再開も模索したが、結局体力の限界を理由に2016年3月『梅安』連載終了を告知した。
そうした状況であったが、最晩年の2021年7月から『ビッグコミック増刊号』(元は『ビッグコミック』本誌と並行して『ゴルゴ13』を連載していたが、上述の事情で新作を休止していた)にて、『ゴルゴ13』のスピンオフ作品である『銃器職人・デイブ』の連載を開始している[9]。
2021年9月24日、膵臓がんのため死去[10]。84歳没。連載中の『ゴルゴ13』については「自分抜きでも続いていってほしい」とのさいとうの遺志に沿い、さいとう・プロダクションと脚本スタッフ、連載元の『ビッグコミック』編集部の協力体制で連載を継続させていくという[10]。
もう一つの連載作品である『鬼平犯科帳』も同年9月30日に連載の継続がリイド社公式サイトで発表された[11]。さいとうが確立した漫画制作の分業制は、自身の死をもって究極の形となった[10]。
株式会社さいとう・プロダクションは、初めて漫画制作に分業体制や脚本部門を置いた漫画制作プロダクションである。
漫画アシスタントは低賃金長時間労働が一般的であるが、さいとう・プロダクションは雇用条件に気を配っており、スタッフの待遇の良さには定評がある。分業で漫画制作することによって、無理なく長期連載を請け負うことが出来ているゆえに可能なビジネスモデルである。
例えば、手塚治虫が手塚プロダクションで漫画作品を描いた場合には、手塚治虫個人の名前だけが作家名として表記されるのが常であったが、さいとう・プロダクションの作品の場合は、最後のページでスタッフ一覧のクレジットタイトルが映画作品と同様に示されている。ただし、単行本ではこれらのクレジットは削除されており、単なる余白となっている。
さいとうが亡くなった現状、作画スタッフがキャラの顔を似せて描こうとすると1時間近くかかるため、大量にストックされている顔をトレースして描いているという。
以下に、『鬼平犯科帳』の制作工程を挙げる[22]。
さいとう・プロには作画スタッフが総勢10名いて、それとは別に下書きを担当するひきの・しんじが鬼平の脚本を読んで、鉛筆で下書きを描くという。それを作画チーフのふじわら・よしひでと、双子の兄である藤原輝美がチェックし、構図を鬼平流にアレンジする。
構図が決まると、「背景」担当の白川修司、「主要キャラ」担当の木村周司、「脇役キャラ」担当の宇良尚子に原稿を渡す。白川と宇良が中心になり、作画をそれぞれ別のスタッフに割り振る。
キャラが描かれて背景がすべて入ったら、最後は仕上げとなり、スタッフ全員でトーン貼り・ベタ塗り・修正を施していく。下書きから原稿完成まで、だいたい7日くらいかかるという。
余談だがさいとうたかをは主人公の目しかかかないと称されることもあるが、これは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』で登場する漫画家[23] と作者である秋本治がさいとうの熱心なファンであることから結びついた都市伝説の類である。
以下はさいとう・プロダクション公式サイト内、制作スタッフ(2021年3月 閲覧)を参照にして記述、このページでの紹介順、さいとう自身と物故者の石川フミヤスは除く
リイド社はさいとう・プロダクションの出版部門が分社化されたものであり、さいとうの兄の斉藤發司がリイド社およびさいとう・プロダクションの代表取締役社長を務めてきた。2016年に發司が死去したことを受け、發司の長男で専務取締役(当時)だった斉藤哲人が社長を引き継いでいる。
設立当時、大手出版社では漫画雑誌の出版がメインで、単行本を出版するということをあまりしていなかったため、その当時からの慣例で、さいとうの漫画は他社の雑誌に連載されている作品であっても単行本はリイド社から出版されている(『ゴルゴ13』は、小学館『ビッグコミック』連載で、単行本はリイド社、小学館でも一部再刊)。
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