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鉄道を主題とした写真の撮影をすること ウィキペディアから
鉄道撮影(てつどうさつえい)とは、鉄道を主題とした写真・動画の撮影をすることである。特に列車を専門にしている場合は列車撮影とも呼ぶ。また、鉄道趣味の中心として鉄道車両などの撮影を楽しむ鉄道ファンのことを、現代では一般的に撮り鉄(とりてつ)と呼ぶ[1]。
鉄道趣味としては最も古くから行われてきた基本的な形態の一つである。日本においては、明治時代に撮影された「岩崎・渡邊コレクション」が、当時の鉄道を克明に記録した資料として伝わっている[2]。昭和初期に創刊された鉄道趣味雑誌も、写真撮影に主眼を置いていた。さらに趣味から進んで、書籍や新聞などのメディア媒体に使う鉄道写真を専門に撮影することを職業としている鉄道写真家も存在する。
撮影対象は、鉄道車両、駅舎や橋梁などの構造物、風景写真としての鉄道撮影、沿線の生活や日常風景、鉄道関係者や利用者などの人物にわたるまで、多岐に及ぶ。撮影の目的や手法も多種多様である。写真撮影の愛好家は、以前はフィルム式の一眼レフカメラを用いるのが代表的であったが、現在ではデジタルカメラを用いるのが一般的である。動画撮影にはビデオカメラを使用する。また高画質カメラ付きスマートフォンの普及に伴いスマートフォンでの写真・動画撮影も増えている。
撮影手法も様々で、駅近辺や駅構内で撮影する、あるいは同じ列車を追跡して何度も撮る(通称追っかけ)などの手法がある。
20世紀の社会主義国家の中には鉄道や施設を機密とし、鉄道撮影を禁止する法律を設けた国もあったが、冷戦が終結するにつれて規制は緩和された。21世紀の現在でもロシアのように治安維持を目的に鉄道撮影に制限を加えている国もある[3]。また、2022年ロシアのウクライナ侵攻後のポーランドなど準戦時体制を敷く国家の中には、新たに鉄道撮影の禁止もしくは制限を加えようとする動きがある[4]。
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鉄道撮影は古くから存在し趣味として発展を遂げてきた一方で、特に近年になって一部の撮影者によって様々なトラブルが発生しているのも事実である[1][5]。
フリーライターの杉山淳一は、鉄道ファンの自浄作用は期待できないとした上で、違法行為や受忍限度を超える行為に対しては身柄を拘束し法的措置を講じるべきだと主張している[6]。
マスメディアによりこうしたトラブルがニュースなどで取り上げられることは多いが、鉄道趣味誌でも撮影マナーに対する注意喚起がページを割いてなされる場合もある。また、SNS上でも、「撮り鉄は犯罪者」「撮り鉄は反社会勢力」などという過激な表現が出るようになった[7]。
ジャーナリストの梅原淳は、昔は著名な鉄道愛好家が線路に降りたうえで撮影し[注 1]、その写真が雑誌に掲載されることが多く、このため車両のみが映る写真がお手本と見なされたことも悪い影響を及ぼしていると評しており、鉄道趣味誌も人垣の中から撮影された写真を載せるなど、価値観の変化を創造する努力が必要であると指摘している[9]。
その『鉄道ファン』誌では「マナーの問題はファンの自主性を最優先すべき」という方針から、トラブルに関する読者投稿を敢えて載せなかったことを明らかにしている[10]。その後同誌は、後述する2010年の「あすか」の列車妨害事件に際しては、公式サイトで注意喚起の記事を掲載するとともに「マナーに関する特集を企画している」とした[11]が、この特集は未だに出ていない。
一方『鉄道ダイヤ情報』などの撮影をメインとした雑誌では写真撮影に関する注意事項が必ず掲載されるようになったほか、JTB時刻表の2015年9月号の特集「いつまで会える!?国鉄色を撮りに行こう!」の記事中で撮影マナーに言及する[12]、写真雑誌の『アサヒカメラ』で鉄道写真のマナーを考える特集が掲載される[13]など、これらの問題が顕在化しつつある近年では変化が見られる。
川島令三は、マナーの悪さについて、撮り鉄や乗り鉄のマナーやイロハは顧問教諭や監督、先輩方から教わるのが通例だが、学校での鉄道や旅行関係の部活動廃止や縮小統合で、指導者や教える人が居なくなっていると自著[要出典]で述べている。
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運行中の車両に対し、走行中・停車中を問わず、フラッシュ(ストロボ)を焚いたり照明を使用して撮影することは運転士の視覚に刺激を与えることから、運転の支障となり非常に危険であるとの理由で現在ではほとんどの鉄道事業者により禁止されている[38]。東京メトロや東京都交通局などフラッシュ撮影禁止を明示している鉄道事業者も多い[39]撮影にあたってのお願い 東京都交通局。「局施設でのロケ撮影にあたってのお願い」だが、文中に「駅ホーム上での照明器具等(フラッシュ・ライト)を⽤いた撮影は、乗務員への影響が大きいことから⼀切お断りさせていただきます。」とある。また、フラッシュ撮影は危険行為のため乗務員から注意を受けることがある [40][41]。
鉄道撮影者同士が撮影場所をめぐって大声で罵り合う行為がしばしば見られ、俗に「罵声大会」[42][43]と呼ばれている。動画投稿サイトやSNSが普及し、そうした光景が動画で拡散されるようになった[43]。危険な行為を注意した駅員に対して反抗的態度をとる、いわゆる「逆ギレ」する撮影者も存在しており[43]、このような撮影者がいる場合は撮影者間でも注意がしづらくなるなど、自浄作用の発揮が難しい。こうした罵声は沿線住民や通行人にまで浴びせられることもある[2]。
注意されたことを逆恨みして業務妨害を働いた事例も存在する。2023年1月には、走行中の横浜線や東海道線の車両ドアを合鍵で施錠した高校生2名が逮捕され[44]、2023年7月には、走行中の埼京線のドアを施錠して運行を遅れさせたとして高校生3名が逮捕された[45]。犯行動機はいずれも、撮り鉄行為を駅員や運転手に注意されたことに対する腹いせだと報じられている[44][45]。
2006年(平成18年)には、東日本旅客鉄道新潟支社が、当時では異例ともいえる鉄道ファンへの注意喚起の案内を公式ウェブサイト上で2度にわたり公開したことがある[46]。
2017年(平成29年)1月、京王電鉄は列車撮影時における禁止行為(フラッシュ撮影、三脚・脚立の使用、黄色線から出ての撮影など)を書いたポスターを駅に掲示した[47]。他にも、駅構内や公式サイトで撮影に関する注意や禁止行為を明示する鉄道事業者が増えている。
同年5月2日、TRAIN SUITE 四季島の運行開始列車が上野駅から発車する際、乗車口の13番線ホームは乗客と報道関係者以外立ち入らせず、その対角となる14番線には回送列車を留置させ、14番ホームからの撮影を遮蔽した[48]。
2021年(令和3年)12月13日、四国旅客鉄道は、これまでのトラブル事例を踏まえた内容の、撮影マナーを啓発する文書を公式サイトで発表した[49][50][51]。
2024年(令和6年)2月、東日本旅客鉄道は、公式ウェブサイト内にて、鉄道施設内などでの撮影マナーについての案内を掲載し[52]、駅構内のデジタルサイネージなどでも掲示を始めた。また、同社は個人での営利目的での撮影は遠慮するようにと案内しているが、法人での商用利用は、グループ会社のジェイアール東日本企画への相談を案内している[53]。 また同年、北海道旅客鉄道も、公式ウェブサイト内にて同様の案内を掲載している[54] [55]。
鉄道事業者によっては、ファンによるトラブルを避けるため、引退車両のラストランなどのセレモニーイベントを実施しない例や、申し込みや抽選による限られた人数での撮影会や部品即売会のみを行う例もある。
鉄道撮影者の中には、移動手段として列車ではなく自家用車で沿線へ出向き、撮影を行っているファンが多数派であることから、鉄道事業者にとって鉄道撮影者は自社の収益拡大に期待できない面もある。また、公共インフラであり、通勤・通学利用が中心で、鉄道ファンでない利用客が大多数を占める鉄道業界において、鉄道ファンと非鉄道ファンとの間での対立によるトラブルを避けたいことからも、鉄道会社と鉄道撮影者との関係は一般的に良好とはいえない[2]。[要出典]
しかし、日本においては、沿線の少子高齢化や人口減少、モータリゼーションが進み、さらに新型コロナウイルス感染症での利用客減少が見られるようになった2020年代に入り、鉄道撮影者を自社の収益アップにつなげる動きもみられている。2021年(令和3年)11月には、鉄道撮影者向けのコンテンツとして、「JR東日本スタートアップ」と「ミーチュー」との協業で、「撮り鉄コミュニティ」と呼ばれるサービスを立ち上げた。クラウドファンディング形式での有料会員のメニューでは、「特別撮影会」という有料会員限定サービスを設け、JR東日本管理の下で列車撮影ができるようにしている[56][57]。
撮影地について、鉄道撮影趣味者と土地所有者や沿線の住民・農家などの間でトラブル(撮影に支障する樹木を勝手に折るなど)が起き、その後立ち入りが制限されたことや、侵入者対策として鉄道事業者や土地所有者が大型の安全フェンスの設置などを行った結果、良好なアングルで車両が撮影できるいわゆる「撮影名所」が消滅した場所もある。一例として、東海道本線山崎駅近辺の「サントリーカーブ」[58]、さくら夙川駅近辺の「夙川カーブ」、新疋田駅近辺の「鳩原ループ」などの撮影地が挙げられる。2021年には八王子市の中央本線小名路踏切近くで故人が生前に植えた木を[59]、2022年には伯備線沿線で大山をバックに走行車両を撮影するために、何者かが私有地の柿の木をチェーンソーで無断伐採した事例[60]が発生している。また、木を無断伐採する事例だけではなくゴミのポイ捨てや撮影地周辺での違反駐車も問題となっている。
その一方で、鉄道事業者側が撮影者との共存共栄を図ろうと、鉄道撮影スペースの整備を図る例もある。IGRいわて銀河鉄道では櫻井寛の提案により、約100万円をかけて滝沢駅上りホーム先端に安全に鉄道撮影ができる専用スペース「TRAIN SPOTTER'S」が整備され、2017年(平成29年)10月14日より開放されるなど新たな動きもみられる[61]。この滝沢駅の撮影専用スペースについて、櫻井は「おそらく日本初」としている[61]。なお同日にえちごトキめき鉄道も撮影スペースを二本木駅に設置している[62]。
親子連れの鉄道ファンなどを鉄道撮影者たちは「パン人」(一般人)と呼び、危険な行為や撮影ルールを守らない等のトラブルが多発することから「マナーが悪いパン人多数」とX(旧Twitter)で訴える者もいる[63]。
鉄道撮影者は、沿線の撮影地へ自家用車で出向くことも多いため、経済効果の面では、鉄道会社よりもカメラ・レンズメーカーや自動車メーカー、高速道路会社、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアといった駅ナカ施設外にある小売店など、鉄道会社以外にもたらされやすく、鉄道会社への経済効果は限定的といえる[64]。
2021年12月20日には、Live News イット!が、いすみ鉄道沿線の私有地で不法侵入による列車撮影が行われていると報道した[65]。しかし、番組の取材クルーから「鉄道敷地内で撮影していますね」と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明した[66]。
東京スポーツは、ベテラン撮り鉄の声として、フィルム撮影からデジカメの時代になって費用がかかる趣味でなくなったこと、スマートフォンの普及で撮り鉄の増加と低年齢化が進んだことを挙げた。その上で、以前の撮り鉄は車で撮影ポイントを移動するので列車に乗らず、駅弁も買わないので、鉄道事業者にお金を使わないことから鉄道ファンの中でも肩身が狭かったが、撮り鉄の数が増えてきたため、今ではメジャーな鉄道趣味になってしまった、との見解を掲載している[67]。
ニコンイメージングジャパン[68]、キヤノンマーケティングジャパン[69]、富士フイルム[70]などの製造・販売各社も、撮影時の注意事項やしてはいけない行為などを公表している。タムロンは、2023年8月5日に、「鉄道博物館ナイトミュージアム撮影会&鉄道撮影マナー講座」を開催し、広田尚敬を講師に迎え「撮影マナーの7箇条」を説明した[71]。
2023年11月2日、福岡県警察鉄道警察隊は、撮り鉄への注意喚起の一環として、鉄道運行の妨害となる箇所の事例と、所属警察官が「周囲への妨害とならないように」撮影した鉄道写真の一例を、広報課のXアカウントに投稿した[72][73]。その撮影者は鉄道警察隊係長の警部補で、自身も「撮り鉄」と認めるほどの鉄道写真愛好家であり、今回の投稿も警部補自身が企画したものだった[72]。投稿した写真は通報現場付近の鉄道用地外から、あえて三脚を使わずに撮影したが、その写真に多くの反響があったことに、警部補は手応えを感じている[72]。同年8月には、鉄道警察隊員が撮影した鉄道写真ギャラリーも開設されていた[72][74]。
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