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マルチコプター(英語: multicopter)とは、ヘリコプターの一種であり、3つ以上のローターを搭載した回転翼機のことである。「マルチローターヘリコプター」や単に「マルチローター」とも呼ばれ、中でもローターが4つのものはクワッドローターと呼称される。また、今日では特に無人航空機(ドローン)を指すことが多い。
機体中央から放射状に配置された複数のローター(回転翼)を備えており、各ローターを同時にバランスよく回転させることによって飛行する。上昇・下降はローターの回転速度(回転数)の増減によって行い、前進・後進・旋回などは、各ローターの回転数に差をつけ、機体を傾けることで行う。ローターは固定ピッチ[要曖昧さ回避]のものがよく使われ、右回り、左回りのものを交互に配置することで、回転の反作用を打ち消しあっている。
主に無線で遠隔操縦するラジコンヘリコプターや自律飛行が可能な無人航空機(ドローン)として使われている他、有人ドローン・空飛ぶクルマ等の有人航空機としての研究も行われている。
ガソリンエンジンを備えた有人クワッドコプターの研究はヘリコプター創生期から行われており、1907年にフランスのBreguet-Richet Gyroplaneが地上60センチメートルの浮上に成功し、最初に浮上した回転翼機とされている。1922年にはアメリカ陸軍によりde Bothezat helicopterの実験が行われた。ヘリコプター実用化後の1958年にも、アメリカ陸軍がタービンエンジン駆動のカーチス‐ライト VZ-7の実験を行っている。その後はティルトローター機として1963年にX-19、1966年にX-22の実験が行われた。
1994年3月7日に日本航空協会の公式試験で人力ヘリコプターであるYURI-Iがクワッドローターを装備して高さ20cm、滞空時間19.46秒を記録した。日本におけるクワッドロータの初期の事例である。
電動の小型マルチコプターは日本では1980年代に名古屋大学等の研究機関や一部の愛好家の間で開発が進められてきたが[1][2]、当時は軽量、高容量のバッテリーや高出力の電動機の入手が困難で尚且つ、姿勢の変化に応じた連携制御が必要だったため、一般の愛好家が飛ばすことは困難だった。1989年7月にキーエンスからジャイロソーサーが発売され、これが契機となり、これまで垂直離着陸機を飛ばした経験のない者でも容易に飛ばせるようになった。この当時、搭載されていたジャイロスコープはモーターでコマを回転させる形式だった。
2000年代以降はスマートフォン等に使用されるMEMSジャイロスコープや加速度センサーが大量生産されて廉価になり、これらを搭載したマルチコプターが普及した。2010年、フランスのParrot SA社が「AR.Drone」を発売した。それまで、もっぱら産業機器であったドローンが一般人でも簡単に入手、飛行させられるというインパクトは大きく、この製品が今日のドローンブームの火付け役となり、特に2010年代はドローンにカメラジンバルを導入した中国のDJIの製品が世界のシェアの7割超を占めた[3][4]。
2013年12月 米Amazon.comがマルチコプターでの配送サービス「Amazon Prime Air」構想を発表した。[5]
2015年11月 千葉県香取市にあるTHE FARM(ザファーム)にて第1回となる「Drone Impact Challenge 2015 (ドローン インパクト チャレンジ2015)」が開催され、[6]総勢61名のパイロットが参加した[7]。ニコニコ生放送にて生放送も行われた[8]。
2016年03月 千葉県千葉市美浜区にある幕張メッセでイベント「Japan Drone 2016」が開催され、イベントの内の1つとして屋内レース「ドローン インパクト チャレンジ2016」が開催された[9][10][11]。「Japan Drone 2016」の来場者数は8,023人。次回開催は2017年03月23日~25日 幕張メッセを予定[12]。
2016年04月 楽天はドローンによる荷物配送サービス「そら楽」を05月に始めると発表した。第1弾としてゴルフ場で導入される。使われる機体はローター6つのヘキサコプターで最大積載量は約2kg。目的地までの飛行や荷物のリリース、帰還までを完全自動で自律飛行する。[13]
2016年7月3日、兵庫県加東市で日本国内初の賞金つきドローン(マルチコプター)レースが開催された。一周200mの専用コースを3周、操縦者はゴーグルをつけてドローン(につけたカメラ)の視点で操作。およそ50人が参加し、時速100kmを超えて飛ぶレースとなった[14]。
2016年8月、ヘキサコプターのドローンにて地雷を探知し処理まで行うサービス「Mine Kafon Drone」が、開発に必要な資金をKickstarter上にて募ったところ、目標金額の7万ユーロに対して倍以上の資金援助が集まった[15][16]。
2016年11月、第56回全日本模型ホビーショーで京商より発表されたモデル、「DRONE RACER」が発売された。高度維持機能を持つ低空飛行用クアッドコプターとなり、R/Cカーで使われるホイラープロポで操縦できるよう設計されている[17][18]。
2017年には、KDDIが実証実験としてLTEを利用した「スマートドローン」と呼ばれるオクトコプターにて目視外長距離飛行(総距離6.3 km)を行い、課せられた任務として「棚池への薬剤散布」を行った。飛行途中に「ドローンポート」と呼ばれる箇所に着陸して無人充電を行い、機体の行動半径を拡大させた。日本政府がめざしている過疎地でのドローン宅配などでの利用が期待されているが、安全性の担保が当面の課題とされた[19]。
一般的にマルチコプターは垂直方向に3個以上のローターを備える。ローターの数が2個以下の場合には姿勢を制御する為にサイクリックピッチ機構のような回転中に連続的にローターの角度を変える機構が必要になるが、ローターの数が増える事により、各ローターの回転数を増減する事で姿勢を制御できる。シングルローター式のヘリコプターよりも姿勢安定性が良い。各モーターの回転数の制御は、搭載されたジャイロスコープで傾きを検出して補正する方向にモーターの回転数を変える。 一方、複数あるローターのどれか一つでも停止すると墜落してしまうため、本質的にはシングルローター式のヘリコプターに安全性で劣る。 またローターの回転数のみで制御可能という簡素な構造を生かすために一般的にサイクリックピッチ機構や可変ピッチ機構を持たない。また機敏・精密に回転数を制御するために、回転モーメントが増大するローターの大型化にも制約がある(通常航空機のローターやプロペラは定速回転し、ピッチのみで制御を行う)。このため、エネルギー効率が悪く、特に高速水平移動は苦手とする。 そのため軽量な機体を精密に制御するような用途を得意とし、重量物を高速で搬送するような用途は苦手とする。
ローターのことをプロペラと記述することも散見されるが、推進力を主に発生させる装置ではないため適切ではない。
自律飛行が可能な無人機タイプには、フライトコントローラー(Flight Controller:FC)が搭載されている。この部品は、ドローンの「脳」[20]、「心臓部」[21]、「中核」[22]などと称されることもあるほどに重要な部品で、コンピュータと、ジャイロセンサーや加速度センサー、気圧センサー、GPSなどが一つのボードに納められている。各センサからの情報を源にコンピュータが機体の姿勢を監視・安定化させつつ、操縦に応じて機体の傾きや進行方向を制御するために用いられる[23]。
フライトコントローラーのハードウェアとしてはNaze32とCC3Dが良く使用される[24][25][26]。 そのハードウェアに制御アルゴリズムを実装したファームウェアをインストールして使用する。 基本的にはそれぞれのハードウェア専用のファームウェアを用いるが、異なるハードウェアでも共通で利用できるファームウェアもある。 代表的なファームウェアとしては以下のものがある。
カメラ搭載型は、空撮や調査などで、人や従来の航空機が立ち入れない未知の視点からの撮影を可能にした。撮影している映像はFPVによって地上でリアルタイムでモニタリングが可能であるが、電波法の制約から出力や帯域が大きく制限されている。 写真やビデオ等の可視カメラの他、赤外線カメラを搭載するタイプもある。 映像制作用の場合、カメラはブラシレスジンバルに搭載されることで揺れのない映像を撮影できるようになった。
連続写真による写真測量型やレーザー計測器を搭載した、測量船用の機体も存在する。
物資の輸送に特化した高いペイロード、長い航続距離を誇る機体も開発されている。
以前のラジコン空撮はカメラの揺れが大きいため動画には適さず、写真の撮影がメインであった。しかしDJI社が発表したZ15という新しいカメラジンバル(カメラのスタビライザー・安定化装置)により、ほとんど揺れのない安定した映像を撮影できるようになった。このようなブラシレス、ダイレクトドライブ方式のジンバルは、他にFREEFLY社からMōVIというものが2013年のNABで発表された。
火山噴火時の状況を把握するために、マルチコプターを使用し、自動航行による火口観測や、観測用ローバーを山頂に運ぶなどの用途で使用されている。東北大学と、株式会社エンルートとの共同研究で、浅間山や新燃岳でのフィールド実験が行われている。
自律飛行可能な利点を活かし、人が立ち入れない場所での調査が期待されている。
大手セキュリティ会社、セコムが小型飛行監視ロボットとしてクァッド型のマルチコプターを開発した。
会場やコース上空からの空撮では、2015年1月22日、スポーツ放送初のマルチコプターによる中継を、米国スポーツチャンネルESPNがX-Gamesの中継で実施した[33]。日本では、2015年9月6日、インターネットとCATVによるトライアスロン大会の生中継で、マルチコプターによる空撮が加わった[34]。
現在、一般の店などで大量販売される遊びや趣味用マルチコプターは、従来のシングルローター(いわゆる「ヘリコプター」型)に比べ安定性が高く操縦しやすい。プロ用と比べ小型・軽量で、全長は、10cm以下から30~40cm程度が多いが80cm程のものもある。機体材質は合成樹脂(いわゆる「プラスチック」や「発泡スチロール」状)が多い。世界的に中国メーカー製の製品シェアが高まっており日本国内では日本のメーカー製の製品も販売されている。熱心な愛好者には、各パーツ、制御ユニット、モーター、ローター、バッテリー、FPVシステム、機体の材料(合成樹脂や炭素繊維)などを個別に入手し自作、飛行実験や趣味的飛行を楽しむ人もいる[35]。
各国でドローンを使用した宅配便の計画が進行中で一部では実験的に運用されている。また医薬品のような緊急性を要し、尚且つ軽量の荷物が主流で自動体外式除細動器(AED)を緊急輸送する試みも進められつつある[36]。
以前は無線操縦ヘリコプターを使用していたが、操縦には技量が必要だった。高精度衛星測位を利用した自律制御式のマルチコプターによる種子や肥料の散布、防除が進められつつある[37]。
動力集中式の搭乗機では、部品数が多くなり、動力を伝達する機構が複雑になる事などから実用性には乏しく、ヘリコプターの黎明期に数機種が開発され、飛行実験には成功したものの、クアッド・ティルトローターのように上述の理由により開発が中止されることが多く、実用機には採用されていない[38]。電動マルチコプターのドローンが実用化されてからは、有人電動マルチコプターの研究も行われるようになった。
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
個人レベルでも購入・操作できるようになってきたため、日本では、首相官邸無人機落下事件や文化財などの建築物の撮影や地域の祭などの催しで許可なく使用したり、操縦の不注意で衝突・落下が起きるなど、安全管理が問題になった[39][40][41][42][43][44][45][46]。このような事態を受けて、マルチコプター等を含む無人航空機に対する規制を適用する改正航空法が2015年9月4日に可決成立、同年12月10日に施行された[47][48][49]。単発と双発以上で操縦・整備の資格が異なるエンジン駆動式ヘリコプターとは異なり、現状特に有人マルチコプターにおいて、電動機の数が一基の機体との間で、操縦・整備の資格が異なる事は無い(法的に電動有人ヘリコプターのカテゴリーが存在しない)。
航空法では「無人航空機」の定義として、「飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(200g未満の重量(機体本体の重量とバッテリーの重量の合計)のものを除く)」としている。
なお、総重量200グラム未満等であるために「無人航空機」に該当しないものであっても、「模型航空機」として[50]、空港やその周囲などにおける「制限表面」に係る規制、およびその他の航空法による規制は、依然として適用される(「制限表面#打ち上げ等の禁止等」、「制限表面#その他の規制空域」を参照)。
次のいずれかに該当する空域における飛行は、事前に申請し、国土交通大臣による許可制とする。
私有地の上空であっても、上述の規制空域(A - C)に該当すれば、自らの土地でありまたは土地の所有者等から許可を得た場合であっても、航空法による国の許可が必要である。ただし、屋内や、ゴルフ練習場など網や幕等で6面が囲われた空間内では、航空法による国の許可は不要である。
規制空域(A - C)に該当しない空域では、航空法による国の許可は不要である。ただし、別途の法令(後述)や自治体の条例による規制を受ける場合がある。
その他、航空法等に規定される飛行禁止区域、民間訓練試験空域、自衛隊・在日米軍の制限に係る空域(射爆撃場や、横田空域その他)等は考慮する必要がある(「制限表面#その他の規制空域」を参照)。
やむを得ず規制空域(A - C)において無人航空機を飛行させようとする場合には、当該飛行させようとする者が自ら関係各機関と事前に調整しその了承を書面で得た上で、さらに国土交通大臣の許可を得る必要がある。A空域については空港、ヘリポート管理者または空港事務所と事前に調整しその了承を得た上で国の許可を得る。B空域については、該当空域の管制機関と事前に調整しその了承を得た上で国の許可を得る。管制機関は概ね、該当空域が民間訓練試験空域である場合航空交通管理センター、進入管制区である場合は管轄空港事務所等、それ以外は各管轄航空管制部となる。[52]
空域の種別や国土交通大臣による許可の有無を問わず、無人航空機の飛行方法については次の規制が適用される。ただし、飛行方法について特別に国土交通大臣の承認を受けたときは、この限りではない。
捜索、救助等のための特例として、都道府県警察、国若しくは地方公共団体又はこれらの者の依頼により捜索若しくは救助を行う者が、航空機の事故その他の事故に際し、捜索、救助目的のために行う無人航空機の飛行については、前述「飛行空域の規制」および「飛行方法の規制」は適用されない。なお、この場合も「制限表面#打ち上げ等の禁止等」、「制限表面#その他の規制空域」の諸規制(飛行通報含む)を遵守する事が推奨されており、また警察、自衛隊または災害対策本部等と適宜協議、連絡する事が推奨されている[55][56]。
無人航空機を含め航空機を落下させたために他人の生命、身体や財産に損害を与えた場合には、損害賠償責任が生じる。
無人航空機操縦者技能証明制度が2022年より開始した。
アメリカでは2015年2月に連邦航空局(FAA)が商用目的の「小型無人航空機システム規則案」を発表した[68]。
小型無人航空機システム規則案では、重量55ポンド(25 kg)未満の無人航空機について連邦航空局(FAA)の耐空証明証は不要とする一方、航空機登録及び航空機表示は必要としている[68]。
なお、連邦政府による規制に先駆けて約半数の州が法規制を行っている[68]。
イギリスでは航空令(Air Navigation Order, 2009)により20㎏未満の無人航空機を「小型無人航空機」と定義する[68]。20㎏未満の無人航空機は耐空証明や登録は不要だが、原則運航許可と操縦士資格が必要である[68]。
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