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球技のひとつ ウィキペディアから
卓球(たっきゅう、英: Table tennis)は球技の一種である。2人あるいは2組のペアのプレーヤーがテーブルをはさんで向かい合い、対戦相手のコートへとプラスチック製のボールをラケットで打ち合って、得点を競う。
他のネット型球技と同じく「ボールを交互にリターン(返球)し合い、相手がリターンできないようリターンをした者が得点する」という典型的な形式のラケットスポーツである(⇒#ルール)。一方で、ボールの回転(スピン)の影響が大きく、スピンを利用した多様な打法があり(⇒#打法)、打法に特化した多くのプレースタイルがある(⇒#戦型)。こういったプレーの多様性から、ラケット等の用具も様々な特徴のものが開発されている(⇒#用具)。
卓球は、ジュ・ド・ポームなどの中世のテニスゲームをもとに、1880年代にイギリスで考案されたとされる[注釈 1][1]。1891年に、ゲーム用品・スポーツ用品メーカーのジャック・オブ・ロンドン社が「ゴシマ」という商標で、現在の「卓球用具一式」のような商品を発売している[注釈 2][注釈 3][1]。同社は1900年に、これまでコルク製であったボールをセルロイド製[注釈 4]に改良した。このボールを打つ際の音にちなんで「ピンポン (Ping Pong)」と命名して売り出したところ製品はヒットし、瞬く間にイギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国を中心に普及した[注釈 5][1]。この際に「ピンポン」とともに「卓球(Table Tennis)」の呼称も一般化し[1]、これが現在の競技名となっている。
卓球の発祥国であるイギリスにおいては、当初は二つの協会が並立するも[注釈 6]、ほどなく統合されて英国卓球協会(現・卓球イングランド[2])となり、1922年には同国で卓球の「標準ルール」が定められ、競技スポーツとしての発展が進んだ[1]。
1900年代頃には、欧州でゴム製のラバー[注釈 7]が開発され、ラバーを貼り付けたラケットが主流となった[3]。この当時は、それほど強い打球ができなかったことやコートを仕切るネットが高かったこともあり[4]、卓球は守りに徹した方が有利なスポーツであった。たとえば、1点を取るのに2時間以上かかったという記録も残っている[注釈 8][4]。
卓球が国際的な競技スポーツとなるに際して、統一されたルール下での国際大会を円滑に運営するために、国際卓球連盟 (略称: ITTF[5])が1926年に発足している[1]。同年には、ロンドンで最初の世界卓球選手権が開催され、男女の各シングルス部門ではローランド・ヤコビとメドニヤンスキ・マリア(ともにハンガリー代表)がそれぞれ初代のチャンピオンとなった。
この頃に、各国でも卓球の国内管理組織が設立されている。たとえば、ドイツでは1925年にドイツ卓球連盟[6]が、スウェーデンでは1926年にスウェーデン卓球協会[7]が、フランスでは1927年にフランス卓球連盟[8]が、日本では1929年に日本卓球会(現在の日本卓球協会 (JTTA))[9]が、アメリカでは1933年に現・USAテーブル・テニス[10]がそれぞれ設立されている。
日本への普及については、1902年に東京高等師範学校教授の坪井玄道がフランスから用具一式を日本に持ち込み、坪井の普及活動を契機に国内へ広まったとされる[11]。一方で、山田耕筰の著作によると、より早い1901年には「岡山で卓球をした」という記録もある[注釈 9][12]。
1937年には、日本では初となる国際試合が行われた。この際に、日本選手はハンガリーの元世界チャンピオンと対戦している。当時の日本卓球界にはまだラバー(上記)が普及しておらず、ラバーが貼られたラケットを用いる選手とは初の対戦であった[3]。日本選手はラケットに何も貼っていない状態[注釈 10]でありながらも、好成績を収めた[3]。
第二次世界大戦後には、卓球は競技スポーツとしての発展が進み[注釈 11]、東アジアでの普及・発展が特に進んだ。中国では中国卓球協会、台湾では中華民国卓球協会[13]、韓国では大韓卓球協会[14]といった組織が各国等でそれぞれ発足している。また、大州ごとの各国協会間の連携組織として、1957年にヨーロッパではヨーロッパ卓球連合が、1972年にアジアではアジア卓球連合等がそれぞれ設立されており、世界の各地域での国際公式大会の主催等をしている[注釈 12]。
やがて、1988年のソウルオリンピックよりオリンピック競技に採用された。その一方で、約100年の歴史をもつITTFも、エンターテイメント性の高い興行であるWTT[注釈 13][15]への移行を推進するなど、より一層の普及を図っており、今なお世界的に多分野・多方面への広がりをみせているスポーツである[注釈 14]。
ここでは特に断りが無い限り、ITTFによる標準ルールのうち、非身体障害者による競技を想定したシングルス(1名対1名の試合)の規定について説明する。(他のルールについては以下の記事、節を参照)
ここではルールの理解に必要な最低限の用具の規定を概説する(詳細は用具節内の各説明を参照)。
卓球台(台、テーブルとも)は平らな上面(プレーイングサーフェス; 奥行2.74 m・幅1.525 mの長方形)をもつ塗装された木製の板である(⇒#卓球台)[注釈 15]。プレーイングサーフェスは、競技場の床から76 cmの高さに設置されており、短辺をエンド、長辺をサイドとそれぞれ呼ぶ[注釈 16][16][17]。プレーイングサーフェスは、エンドに平行なネットによって2つのコートに等分されている。試合で対戦する各プレーヤーは、それぞれのエンドのコートにつき、ネットをはさんで向かい合う[注釈 17][18]。ネットはプレーイングサーフェスから15.25 cmの高さとなるよう、2つの支柱によって張られている(ネットと支柱を合わせてネットアセンブリと呼ぶ)[注釈 18][19]。標準ボール(単にボールとも)は直径40 mmの、重量2.7 gのプラスチック製の球であり、光沢のない白色か橙色のものを用いる(⇒#ボール)[20][21]。ラケットは木製のブレードにラバーを貼った用具であり、プレーヤーはラバーの面を用いて打球する(⇒#ラケット、#ブレード、#ラバー)[注釈 19]。
卓球の試合は奇数のゲームから構成され[22]、たとえば、最大で7ゲームを行う試合は「7ゲームマッチ」と呼ばれる。各ゲームは、両プレーヤーとも0点(0-0)のポイントスコア(単にスコア、得点とも)からスタートする。ゲームにおいてプレーヤーは、サービスから始まるラリー[23](ラケットによる相手コートへのボールの打ち合い)を行い、ラリーにおいて以下の要件を満たすことでポイントスコアを得る[24][注釈 20]。
ひとつのラリーが終わったら、得点者の確認後、同様に次のラリーを行う。これを繰り返して11点を先取したプレーヤーが、ゲームの勝者となる[注釈 24][26]。
ひとつのゲームが終了すると、ゲームの勝者にゲームスコアが1つ与えられて、次のゲームを同様に行う[注釈 25]。このようにゲームを繰り返して行い、規定のゲームスコア数(最大ゲーム数の過半数)を先取したプレーヤーが、その時点で試合の勝者となる。たとえば、7ゲームマッチでは4ゲームの先取で試合の勝者となる[注釈 26]。
以下に、本概要で述べた試合の手順・規定について詳細を示す。
試合[注釈 27]の実施に先立って、挨拶、審判とプレーヤーの3者で試合に用いるラケットの確認[27]及びコイントスを行う。コイントスの結果によって、試合開始時のサービス実施者や使用エンド(コート)等の諸条件を定める[注釈 28][28][29](日本では、コイントスに代えて、くじやじゃんけん (拳)の実施も行われる[17])。つづけて、プレーヤー間で2分以内のラリー練習を行う[注釈 29][30]。
試合は第1ゲームから始まる。各ゲームでは、勝者が決まるまで、ラリー(サービス、レシーブと以降のリターン)によるポイントスコアの獲り合いを以下の通り行う。
ゲームでは、以上のようにサービスから始まるラリーが繰り返される。ひとつのゲームにおいては、2点差以上を付けて11点を先取したプレーヤーが、そのゲームの勝者となる。ただし、ポイントスコアが10-10となった際は、さらに競技を進めて2点差となる得点を先取したプレーヤーがゲームの勝者となる[注釈 24][26]。ゲームの進行に際しては、両プレーヤーのサービスの機会や使用コートの均等化のため、以下の交替制が定められている。
試合においては、各ゲームの勝者にはゲームスコアが1つ付与される。プレーヤーは、試合の勝者が決まるまでゲームを繰り返し、ゲームスコアの獲り合いを行う。ゲームの終了時点で最大ゲーム数の過半数[注釈 49]のゲームスコアを得た者は、試合の勝者となる[52]。勝者の決定をもって、卓球の試合は終了となる(実施したゲーム数が最大ゲーム数に達していない場合でも、この時点で試合終了となる[注釈 50])。
以上が標準的な卓球の試合進行である。大会のような競技会においては、ひとつの試合が終わった後は、勝者が別の者と次の試合を行ったり(トーナメント戦の場合)、勝者・敗者ともにそれぞれ別の者と試合を行ったりする(リーグ戦の場合)。大会で予定された必要な試合のすべてが終了した時点で、各大会の規約等にそって優勝者や入賞者等[注釈 51]が決まり、大会は終了する。
試合の進行に付随するその他のルール・慣例等を以下に述べる。
卓球におけるダブルスは、各チーム2名のペア同士の計4名で試合が行われる競技である。基本的にはシングルスと同じルールで行われるが、以下に示すいくつかの規定・条件が加わる。大きな特徴としては、各チームはペア内では、最後にリターンしたプレーヤーではないプレーヤーが、次のリターンを行わなければならないという点があげられる。すなわち、ペアのプレーヤーは必ず交互にリターンしなくてはならない。詳細を以下に示す。
以上のことから必然的に、ダブルスにおいては、誰が誰の打球をリターンしなくてはならないかは固定化される。このリターンする打球順については、ゲームが進むごとに次のように交替となる。
以上のようにダブルスの打球順は複雑であるが、この結果として、相手のペアの2名について両者からの打球を受ける機会は、試合全体で均等化されている。また、ダブルスのみの規定として、以下のようにサービスのコースについて制限がある。
世界卓球選手権や全日本卓球選手権などの大会では、男子2人または女子2人のそれぞれのペア同士で行われるダブルス(男子ダブルス、女子ダブルス)に加えて、男子1人・女子1人ずつのペアで行う混合ダブルス(ミックスダブルス)が行われている。
上で述べた通り、ダブルスにおいても、サーバーのペアは2回のサービス実施(2回のラリー)ごとに交替する。以下に、プレーヤーA(以下単に「A」と記す)とプレーヤーB(同「B」)のペアと、それに対するプレーヤーX(同「X」)とプレーヤーY(同「Y」)のペアの打球順序の交替の例を示す。ここで、Nは0以上の整数であり、サービスは第1球目、レシーブは第2球目と数えている[71]。以下同じく、レシーブに対するリターンは3球目であり、3球目打球へのリターンが4球目…となって、ラリーが継続する。
ゲーム進行 | サーバー(4N+1球目打者) | レシーバー(4N+2球目打者) | 4N+3球目打者 | 4N+4球目打者 |
---|---|---|---|---|
第1, 2ラリー | A | X | B | Y |
第3, 4ラリー | X | B | Y | A |
第5, 6ラリー | B | Y | A | X |
第7, 8ラリー | Y | A | X | B |
第9, 10ラリー(第1, 2ラリーと同じ) | A | X | B | Y |
以下同様に継続 | … | … | … | … |
上の表の通り、ひとつのゲーム内ではリターンするべき打球をする相手は一貫して固定されている。また、ひとつのゲーム中では、打球順は常に…→A→X→B→Y→A→…のように循環していることも分かる。[注釈 62]
以下に、第一ゲームの打球順が上の表の通りであった場合の、以降の各ゲーム開始時の打球順の例を示す。上記の同じゲーム内における場合とは異なり、エンドの交替(ゲームの開始、あるいは、最終ゲームでのいずれかのペアの5点先取)が起こると、リターンするべき打球を打つ相手も交替する。この交替の結果として、先ほどの打球順の「循環」は…→A→Y→B→X→A→…のように逆転するようになる。
ゲーム進行 | サーバー(4N+1球目打者) | レシーバー(4N+2球目打者) | 4N+3球目打者 | 4N+4球目打者 |
---|---|---|---|---|
第1ゲーム開始時 | A | X | B | Y |
第2ゲーム開始時(選択例1) | X | A | Y | B |
第2ゲーム開始時(選択例2) | Y | B | X | A |
第3ゲーム開始時(選択例1) | A | X | B | Y |
第3ゲーム開始時(選択例2) | B | Y | A | X |
以下同様に継続[注釈 63] | … | … | … | … |
ここでは可能な2つの選択例をそれぞれ示した。第2ゲームの初めのサーバーはXでもYでもよい。このとき一方で、レシーバーのペアは、Xの打球はAが、Yの打球はBが、それぞれ必ずリターンしなくてはならない。第3ゲーム以降も、各ペア内において、ゲーム開始時のサーバーは自由に選んでよい[注釈 64]。各ゲーム内で固定し、かつ、エンドの交替ごとに交替するものは、リターンすべき打球をする相手(誰が誰の打球をリターンするか)である。
以上のように、卓球はあくまでもシングルスやダブルスといった「個人または2人ペアによる競技」である。一方で、国・地域や競技団体などのチームとチームの「対戦」として、団体戦も多くの大会で開催されている。卓球における団体戦は、各チームに登録された選手がシングルスやダブルスの試合を複数回行うことで実施される。
団体戦は開催される大会等により様々な方式が採られ、試合順・構成は必ずしも統一されていない。世界卓球選手権等では、対戦する各チームは3人の選手で構成されている。この3人から試合出場順(オーダー)を決めて、シングルスによる最大5回の試合を行い、先に3勝した側が勝ちとなる方式が採用されている[72]。北京オリンピックの団体戦等では、同じく1チームは3人の選手で構成されるが、4試合のシングルスと1試合のダブルス(4単1複)を実施する方式であった[注釈 65][73]。日本国内の大会でも、参加者数や競技実態をふまえた様々な形式の団体戦が実施されている[注釈 66][17]。
卓球の世界的な標準ルールは、1926年に発足の国際卓球連盟(ITTF)が管理・管轄している。歴史の項で示したように、現在の卓球とはまだスタイルの異なる競技であったとともに、用具の開発も黎明期にあった。このような状況において、卓球を国際的な競技スポーツとするため、様々なルール整備が行われた。現在の卓球に近い競技となった後も、以下に示したように、技術や用具の変遷に応じて、卓球の健全な普及のために、ルール等の改正が行われている。
卓球における用具とは、卓球台やその付随品などの競技環境設備のほか、ラケットや競技用服装等といったプレーヤーが身につけて使用する道具・服飾類を総称したものである。卓球の打球等の運動は非常に繊細であり、ボールの軌道やスピン、バウンドは用具によって大きな影響を受ける[注釈 74]。そのため、卓球の公的管理組織(ITTFやJTTA等)によって、その規定が詳細になされている。以下では、各用具について概説する。
卓球におけるラケットは、サービスやリターンの際にボールを打球するものであり、ブレードとラバーから成る。ブレードは主に木材(単一の木板あるいは合板)から作られている[注釈 75][注釈 76]。ラバーは表面がゴム製であり、打球する面にはラバーが貼られていなければならない[83]。様々な特徴を有した多くのラケットがあり、プレーヤーは目的に合うラケットを選択することができる。ただし、一つの試合中においてプレーヤー個人がラケットを変更することは、原則としてできない[注釈 77][84]。なお、用具のなかでもラケットは特に繊細であり、保管には温度・湿度・日光などの条件に注意を払う必要がある[注釈 78]。
打球時にボールがラケットから受ける力は、打球面に対して垂直(ラケット面の法線方向)および平行(同接線方向)の二つの力に分けて理解される。K・ティーフェンハッバ(カールスルーエ大学)とA・デュリー(パリ=サクレー大学)による打球の運動モデルは、ボールに対するラケットの法線方向・接線方向それぞれの反発係数をパラメーターとして、打球の速度やスピンの挙動をよく説明している[85]。いまひとつのパラメーターは振動特性である。川副嘉彦(埼玉工業大学)によるシミュレーションモデルと実測の検証によると、打球時に振動が少ないラケットは、エネルギーの散逸が起こりにくく、結果として球威が高くなる[86]。これに加えて、打球面の動摩擦係数も打球に影響を及ぼす(ラバーの項で後述)[87]。これらの力学的パラメーター(各反発係数、振動特性、動摩擦係数等)は球質に強く影響するため、用具メーカーはラケット(ブレードおよびラバー)の開発に際して、これらの指標を重視している。製品においては、消費者(主にプレーヤー)に分かりやすいように、各パラメーターやそれに代わる数値等の表現[注釈 79]が用いられている。
世界各国・地域でラケットには様々な呼び方があり、日本やITTF等の国際協会では「ラケット」、アメリカ合衆国では「パドル」、ヨーロッパでは「バット」と呼ばれる。
公式試合に使用可能なラケットには、レジャー向けの廉価なラバー付きラケット[注釈 80]や、競技レベルの選手向けの市販製品ラケット[注釈 81]、選手自身の好みでカスタマイズした特注ラケット等がある。日本国内の公式試合に使用するラケットには、目視できる箇所にメーカー名やJTTAの公認証の表示が義務付けられている[注釈 82]。
卓球には異なる握り方のラケット(主にシェークハンドとペンホルダーの二種)がある。現在はシェークハンドが比較的多数を占めている[71]。一方で、中国式ペンホルダーを使っての両ハンド攻撃を得意とする選手が世界ランキングの上位に名を連ねることもあり、一概にどちらが優位であるかを結論できない。
シェークハンドラケットは、握手(英: shake hands)するように握るラケットである。両面にラバーを貼って使用する。ラバーは表面と裏面で異なる色のものを貼らなければならない[77]。グリップの形状は、ストレート、フレア、アナトミックなどの様々な形状にさらに分類される[注釈 83][71]。一般に、図のような円弧状の打球面のラケットが使われている[注釈 84]。フォアハンド面(手のひらの側)とバックハンド面(手の甲の側)の各面それぞれを比較的容易に打球したい方向に向けることができる。伝統的にヨーロッパ出身の選手は主にシェークハンドを使用している[注釈 85]。近年、特にフォアハンドとバックハンドの両面(両ハンド)での攻防を重視するプレーヤーは、シェークハンドを選択する傾向にある。
ペンホルダーラケットは、ペンを持つように握るラケットである。ペンホルダーラケットはさらに日本式ペンホルダーラケットと中国式ペンホルダーラケットに大別できる。いずれも表面[注釈 86]にラバーが貼られる。表面のみにラバーを貼る場合は、ラバーを貼っていない裏面[注釈 87]での打球は認められない[88][注釈 88][45]。一方で、裏面にラバーを貼ることもできる。たとえば、試合中やラリー中にラケットの表裏を反転して、球質の異なる打球とすることができる(反転打法)[注釈 89]。他に、裏面打法[注釈 90]を行うプレーヤーもいる[71]。ラバーの色の規定はシェークハンドと同様である[注釈 91][注釈 92][77]。シェークハンドに対して比較的、フォアハンド側やミドル(身体の正面付近)、台上の打球に対処しやすい。歴史的にアジアでは、ペンホルダーが主流であったが、1990年代以降にシェークハンドを使用する選手が増加し、ペンホルダーの選手数を上回ってきている。一方で、主に片面のみにラバーを張るペンホルダーは、シェークハンドより重量が軽く、また、決定打の威力も出しやすいため、女子プレーヤーやフットワークに優れたプレーヤーの選択肢でもある。
ブレードは平らな木板とグリップからなるラケットの主要構造部分である[注釈 94]。ブレード面は硬質な平面でなければならず[90]、その材質は厚みの85パーセント以上の部分が天然の木でなくてはならない[注釈 95][91]と、ITTFは規定している。一方で、ブレードの大きさ(面積)は特に定められていない[90][注釈 96][92]。
競技レベルの卓球では、正確なボールタッチによる打球のコントロールが要求され、ブレードの特性は重要である。この特性のひとつは反発係数であり[85]、これは打球の弾むスピードを支配する。もうひとつは振動特性であり[86]、これは打球時のラケットの微小変形・振動のし易さの指標である。一般に、硬いラケットほど反発係数が高く、よりスピードのある打球が可能となる[93][注釈 97]。表記はまちまちだが、各メーカーはブレード製品の上記の特性を様々な数値等で表示している[注釈 98]。
ブレードの主要素材は木材である。一枚の板からなると単板製のブレードと、異なる特性の複数の板材を組み合わせた合板製のブレードに区別できる。ブレードの特性は、素材は使用される木材の特徴のみならず、その製造工程等によっても変化する。
先述の通り、ブレードは厚みの15%以内であれば天然の木以外の材料を使用することが認められている[91]。用いられるブレード材の一部として、炭素繊維、アリレート、ケブラー、ガラス繊維、チタン、ザイロンなどの特殊素材やそれらの複合材[注釈 108]が使用されている[注釈 109]。ブレードの合板構成のなかに特殊素材が用いられることで[注釈 110]、木材のみのラケットよりも反発係数が一般に高くなる[71]。また、ブレード面の比較的広い範囲で反発特性・振動特性が均一で、最適打球点(いわゆるスイートスポット)が広いとされる。一方で、特殊素材を含むブレードでは、木材のみのラケットに比べて、緩急を付けにくいという短所もあるとされる。
現代の卓球では、ラバーは重量化とスピードグルーの使用禁止に伴って、ブレードにおいて軽さと高い反発特性の両立が求められている。そこで用具メーカーは、軽いが吸湿性のある桐材の有効利用を模索し、これを簡便に乾燥させて造るブレードの製造法を確立した。桐材を低温で加熱処理して含有の水分を除き、ブレードの軽量化し、さらに、吸湿性を低減した。この製法によるブレードは、高い反発係数と振動特性を得つつ、広いブレード面での均一な特性を有しており、特殊素材製のブレードのような性質であるとされる。
卓球のラバーは、粒の配列構造を片面に有するゴム製のシートであり、ラケットにおけるボールの打球面である。ゴム製のシート単独からなるツブラバー[注釈 111]、および、ツブラバーとスポンジ製のシートを接着剤で貼り合わせたサンドイッチラバーの二種に大別できる[17][83]。
ラバーにおいては、既に述べた反発係数がその特徴に影響を及ぼす[85]ほか、動摩擦係数も大きくラバーの性質を左右する[87]。以下に示すラバーの分類において、各ラバーの反発係数と動摩擦係数は著しく異なっており、それらは競技の実践上で打球の特徴となって表れる。一般に、反発係数の大きなラバーはスピードの速い打球を生み出し、動摩擦係数の大きなラバーは回転を強くかけることができる[注釈 112]。ボールが平面でバウンドする際には、ボールが滑らずに(接触面で瞬間的に拘束されて回転しながら)バウンドするケース、および、ボールが接触面で滑ってバウンドするケースの2パターンに分類できる[94]。どちらのパターンが主となるかは、打球の速度・スピンのほか進入角度にも依存するが、これらに加えてラバーの性能でも決まる(反発係数と動摩擦係数が高いほど滑らない)。一般に、滑らないバウンドの仕方において、ラケットのスイングに沿った(打球者が通常意図する)スピンがかかることになる[注釈 113]。
他のラバーの性質としてラバーの硬さがあり、ラバー硬度という指標で表記される。硬さの表記にはISOに準拠した硬度[注釈 114]やその他の値[注釈 115]など複数の表示が採用されており[注釈 116]、プレーヤーがラバーを選ぶ際に参考とされる。一般に、硬いラバーは威力のある打球をしやすく[注釈 117]、柔らかいラバーは打球のコントロールがしやすいとされる[注釈 118]。
ラバーの厚さはITTFの規則で定められており、ツブラバーにおいては、ゴムシート部の厚さは2.0 mmを以内でなくてはならない[83]。サンドイッチラバーにおいては、ツブラバー部分の厚さは2.0 mm以内[95]、ツブラバー層とスポンジ層の厚さの合計は4.0 mm以内と定められている[注釈 119][83]。他に、粒の形状やアスペクト比に関しても規定が詳細に定められている。ラバーには多くの種類が存在するが、公式戦の出場には主幹する卓球連盟等の認証が必要である。たとえば、ITTFが管轄する国際大会等では、ITTFの公認ラバーリスト[注釈 120]に掲載されているラバーに限り使用が認められている[注釈 121][96]。2006年4月以降[注釈 122]の日本国内の公式大会においては、JTTAあるいはITTFによって公認されているラバーの使用が認められている[17]。
ラバーの特性は、特に最表面のゴムシートの特性に大きく依存しているほか、スポンジ層との組み合わせ等によって複合的に決まり、多様なラインナップがある[注釈 123]。以下の各項にてラバーの構成部材について述べる。
多くのラバーに共通する基本的な構成と特徴は以上の通りである。ラバーの性質に加えて、ブレードの特性(主に反発係数、振動特性等)も打球に影響するため、プレーヤーに合うラケット(ブレードとラバーの組み合わせ)を求めるには、情報収集や試行錯誤が必要となる。
なお、ラバーの長期的な耐久性はあまり高くない。使用せずとも少しずつ酸化等でゴムが変質し、練習等での反復使用によりラバーの性能(反発特性や動摩擦力)は徐々に変化してくる[注釈 132]。用具メーカーが推奨するラバー交換の目安(ラバーの寿命)は、一般の選手で1カ月、練習量が少ない選手でも2 - 3カ月とされる[98]。短期的な視点では、プレー中にラバーに埃などが付着し、表面の性能が変化する。これらの付着物を拭き取ってラバーの性能を回復するため、専用のラバークリーナーも市販されている[注釈 133]。
以下に、各タイプのラバーについてそれぞれ解説する。
裏ソフトラバーは、ゴムシートの平らな面を外向きにして(粒側を内側に向けて)スポンジ層と貼り合わせたサンドイッチラバーの一種である。ボールとの接触面積が広く、動摩擦係数が大きくなるため、ボールに回転をかけやすい。一般的なほとんどの打法を実践しやすいため、現在においても最もよく使われているタイプのラバーである。[71]
表ソフトラバーは、ゴムシートの粒の面を外向きにして(平面の側を内側に向けて)、スポンジと貼り合わせたサンドイッチラバーである[注釈 140]。ゴムシートの粒の側が最表面であるために、ボールとの接触面積が小さい。このため、高い反発係数を有しつつも、動摩擦係数は比較的に低めになり、いわゆる「球離れが早い」跳ね返り方をする。裏ソフトラバーと比べると、相手の打ったボールの回転の影響を受けにくい[注釈 141][71]。基本的に前陣速攻型のプレーヤーやカット主戦型のプレーヤーが用いる場合が多い。シートの粒形状や特性により回転系・スピード系・変化系等に分類される[注釈 142]。
裏ソフトラバーよりも製品のラインナップは比較的少ないが、裏ソフトラバーのケースと同様に、従来よりも高弾性なテンション系表ソフトラバーなどの新たな開発品も製品化されている[71]。反発係数の大きなスポンジを採用した回転系テンション系表ソフトラバーも市場に現れるなど、表ソフトラバーの特徴を活かした新たな用具の開発も進められている。
後述のラージボール卓球の競技では、ルールにより表ソフトラバーのみが使用を認められている。ラージボール競技用に開発された表ソフトラバーも存在し、これらは硬式用と比べて柔らかいものが多く、ボールが変形しにくいという特徴を有している。
粒高ラバー(ツブ高ラバー)は、構造上は表ソフトラバー(上記)と類似しており、ゴムシートの粒の側を外側に向けたラバーである。表ソフトラバーとの違いは、その名の通り、粒の高さが高く、粒が柔らかいといった特徴である。スポンジの有る粒高ラバーと、スポンジの無い一枚の粒高ラバーの二種が、主に市販されており、これらを総称して、粒高ラバーと呼ぶ[注釈 143]。
粒高ラバーは、構造上の性質から、打球時に大きく粒がしなるように変形する[注釈 144]。反発係数も動摩擦係数も低いことが特徴である[注釈 145][87]。粒が柔らかいほど、打球に変化をつけやすい。自発的にボールに回転を与えるのは難しい一方で、相手の回転の影響も受けにくい[71]。そのため、相手の回転を利用したり、そのまま回転を残してリターンしたりしやすい(参照: スピンに応じた打法)[注釈 146]。粒高ラバーでの打球では、自身の打法と相手の打球の質の双方に影響をうけるため、扱う側も予測しない回転や変化が表れることもある。使用者の技量にもよるが、粒高ラバーによるドライブ打法等も可能である。
粒高ラバーは、主にカット型や前陣攻守型のプレーヤーが変化を付けるために用いる。反転型ペンホルダーラケットに貼って使用する場合もある。いすれも、戦型によって粒高ラバーは用途が異なり、好まれる製品も異なる[注釈 147]。
かつては、シート表面にアンチ加工(摩擦を低減する加工)を施されたアンチ粒高ラバーが存在していた。2008年以降にアンチ粒高ラバーの使用が禁止されたことにより、以前と比べて粒高ラバーの性能は相対的に低下しており、プラスチック製ボールの移行後はさらにこれが顕著となっている[注釈 148]。一方で近年は、従来の粒高ラバーよりも高弾性化したテンション系粒高ラバーも登場している[71]。
ツブラバー[17](一枚ラバーとも)は、表ソフトラバーからスポンジを除いた構造のラバーである[注釈 149]。第二次世界大戦以前のラバーとしては、このツブラバーしかなかった。反発係数も動摩擦係数も低めのラバーであるが、安定した打球を打てるという利点がある。現在、このラバーを用いる選手は非常に少ない。かつては、このツブラバーの構造の表裏を裏返したラバー(裏ソフトラバーからスポンジを除いたものに相当)も存在したが、この裏返したラバーは現在のルールでは使用が禁止されている。
アンチラバーは、一見しての外見は普通の裏ソフトラバーだが、動摩擦係数が極端に少なくなるように設計されたラバーである[注釈 150]。アンチラバーを用いて裏ソフトラバーと同様の打法を試みても、ボールに回転かかる回転量は小さい[71]。
かつては、同色の裏ソフトラバーと組み合わせることで、ラバー外観の酷似性とそれに反した性質差を利用し、ラケットを反転させて相手に打球の変化を分かりづらくさせるスタイルに主に使用されていた。しかし、両面に同色のラバーを貼ったラケットが使用禁止となった(1983年のルール改正)後は、アンチラバーの使用者は激減した。
上述の通り、競技用のラケットの多くは、ブレードとラバーが別々に市販されており、両者を接着してラケットとして完成させる必要がある。ブレードにラバーを接着する接着剤について、現在使用が認められているのは、水溶性接着剤や接着シート、固形接着剤である。かつては、ゴムを有機溶剤で溶かした接着剤が広く使用されていた。しかし、有機溶剤が人体に有害であるため、2007年4月1日よりの日本国内の小学生の大会から段階的に、有機溶剤を含む接着剤の使用が制限されはじめた。2007年9月1日以降は、有機溶剤を含む接着剤は日本国内のすべての大会で禁止された。国際大会では2008年9月1日より禁止となった(詳細はスピードグルーや補助剤の節を参照)。
現在、日本国内においては、JTTA公認の接着剤の使用が認められている。一方で、2009年時点おいてITTFは、特定の接着剤を公認していない。公式大会等では、仮に意図して有機溶剤を用いてなくても、試合後のラケット検査で残留溶剤が検出された場合は失格となる。これを防ぐには、ラバーのパッケージを開けてから72時間程度放置した後に、非有機溶剤系の接着剤(日本ではJTTA公認品)を使用して、ラバーをブレードに貼ることが良いとされる。
スピードグルーは、ラバーをブレードに貼り付ける接着剤の一つであり、有機溶剤を多く含む。ラバーに塗ると、溶剤分子がスポンジの中で拡散して、ラバーのスポンジが膨張する。この状態でラバーをブレードに貼ると、スポンジの膨張分だけラバー全体が面方向に引っ張られて常に伸長負荷がかかり、ラバーの反発力と摩擦力が高くなる[注釈 151]。ラバーに負荷がかかり劣化が早まるデメリットがあったものの、スピードグルーは世界的に普及し、主に攻撃型の選手に広く普及していった。
しかしルールの変遷で述べたように、現在は、スピードグルーは使用が禁止されている。スピードグルーの問題を提起したのは、ITTF会長(当時)の荻村伊智朗であった[48]。このときは、選手のスピードグルー使用による見学者の中毒事故等の事例が知られていた[48]。荻村は、卓球の普及という観点から、次の理由をあげ、スピードグルーの使用禁止を提案した。
こうしてまず、スピードグルーの成分であるトルエンの規制が実施された[注釈 152]。しかしながら、この規制によりスピードグルーのラバーへの効果が低下したため、逆に、スピードグルーの効果を高める「重ね塗り」や「蒸らし」といった溶剤を多用する用法が編み出された。このように、スピードグルーの使用と規制は、イタチごっこの状態が長らく続いた。
やがて、卓球選手のスピードグルーによるアナフィラキシーショックの事故[99][100]が起こり、健康上の問題が再度議論されるようになった。こうした経緯から[注釈 153]、荻村の遺志[注釈 154]を継いだ日本委員のリードによって[48]、ITTFはスピードグルーの使用禁止をついに決断し、北京五輪終了後の2008年9月1日をもって[注釈 155]、公式ルール[101]にて禁止とされた。
前述の通り、有機溶剤を含む接着剤の使用が禁止されたことで、毒性のない水溶性接着剤(主成分は水、天然ゴム、アクリル)が普及した。一方で、スピードグルーの使用が禁止となることを見越して、「ブースター」と呼ばれる接着力のない補助剤や水溶性グルーが卓球用品メーカーから販売されていた。補助剤のラバーへの使用によって、スピードグルー同様にラバーの性能を向上させることができた。揮発性の有機溶剤を含まず鉱物油を主成分としているため、取り扱いが比較的容易で、かつ、効果が持続しやすい、といったメリットがあった。
これについてITTFは、補助剤の塗布はラバーを加工・改造する行為であり「用具のドーピング」にあたるとして、ルール改正を行い、事実上、補助剤を使用禁止とした[注釈 156][80]。日本ではJTTAも、ITTFのルール改定通知に基づき、2008年10月1日以降に開催される全ての大会において、ブースターを含む補助剤類についても使用禁止すると発表した[102][103]。禁止対象の補助剤類を販売していた卓球用具メーカーも、2008年9月末をもって販売を中止することを発表した。
補助剤の規制は速やかに進んだ一方で、スピードグルーの禁止から僅か1ヶ月で補助剤も禁止されたため、補助剤を発売してきたメーカーは、多くの在庫を抱えるようになり、経営を圧迫したとされる。また、大会運用の不備面として、禁止化の直後のヨーロッパ卓球選手権では、ラケットの検査機器が新ルールに対応できなかったことから、従来通り補助剤を使用する選手もいる状況になっていた。
グリップ部のテーピング等も含めて、ラケットの操作性・保持性に好ましい素材のブレード部への付与等は(他のルールを侵さない範囲で)認められている[104]。このうちのサイドテープは、競技中に予期せずラケットが卓球台にあたったときに、ラケットの側面(サイド)を破損しないためにつける保護テープである[注釈 157]。金属製のサイドテープもあり、ラケットの総重量や重心位置を調節することも出来る。
一般的に卓球(硬式卓球)で使用されているボール(試合球、ピンポン球とも)は、直径が40 mmで、重量は2.7 gである[20]。ラージボール卓球のものは、直径が44 mmで、重量は2.2 - 2.4 gである。ボールの色は白と橙色の二色がある。硬式卓球ではどちらの色のボールを使用してもよいが、ラージボール卓球では橙色のみが用いられる[注釈 158]。ボールの品質はプレーの精度に大きく影響する一方で、完全な球構造のボールを高精度で大量製造することは技術的に難しい。そこでボールの製造においては、同じ製造ラインで作られた球をすべて検査して、個々の真球度に応じてグレード付けする方法を採っている[注釈 159]。真球度が最高のものは3スター (スリースター)とグレード付けされている[注釈 160]。JTTA主幹のものを含む多くの大会では、3スターのボールが使用される[注釈 161][105][17]。
歴史をみると、硬式卓球の試合球のサイズは、2000年のルール変更で、直径38 mmから直径40 mmへと大きくなっている。このボールの大きさの変化によって、以下の影響があったとされる。
ボールの素材にも変化があった。かつてはセルロイドが主流だったが、2010年代に非セルロイドの材質のもの(各種プラスチック素材)に移行している[注釈 162][106]。セルロイド製のボールは燃えやすく、火災の危険性があったためである。危険物として航空機への持込を断られた事例(アテネ五輪前)もあり、IOCがITTFにボールの材質変更を求めたともいわれる[107]。なお、ボールの材質の変更に際しては、ITTFは以下の理由を挙げている[106]。
日本では、2014年から日本卓球教会の定めるルールとして、非セルロイド素材で製造する事が義務付けられ、以降、プラスチックボールが用いられるようになった[注釈 164][17]。プラスチックへの材質変更による影響として、次の変化があったとされる。
また、ブラスチックボールの導入初期は、メーカーによって性能のバラツキが大きく、また、壊れやすいという指摘もあった[109]。
競技を行うにあたり、卓球台は競技場の床面に設置される水平な台を使用しなければならず、サイズや高さ、材質、物性がルールで規定されている(サイズなどの詳細はルールを参照)[18]。また、経年による反り返りを防ぐために3層構造になっている。三層の中心の層には、細長い板がフローリング床のように横の継ぎ目をずらして配置され、変形を防ぐ設計となっている。プレーイングサーフェスの反発性能として、全面での均質なボールの跳ね返りが規定されている[注釈 165][110]。
卓球台(プレーイングサーフェス)の色は、1980年代まで主に緑色(正確には「黒に近い深緑」[111])が使用されたが、卓球のイメージを明るくする目的で [112][113][注 1]で、荻村伊智朗(当時ITTF会長)の発案により、青色の卓球台が製作された。この卓球台は、1991年に千葉市で開催された第41回世界卓球選手権や1992年のバルセロナオリンピックで用いられ、以降、世界中に普及し現在に至っている。
競技領域とは、大会等の試合会場にて確保・設営される、卓球競技が実施される空間領域のことである。卓球台(ネットアセンブリを含む)を中心として、コート番号の表示、適切な床面、審判席、スコアカウント器、タオルボックス、打球止めのフェンス等のほか、ボール一式など必要な用具が備えられている。プレーヤーの競技ができる範囲として、競技領域の奥行は14 m以上、幅は7 m以上、かつ、高さは床面から5 m以上の空間が確保されている[17][115]。参考までに、卓球台自体は2.74 m×1.525 mの領域に過ぎないが、卓球台の20倍以上に及ぶ競技領域の確保には、バスケットボールやバレーボール等の全コート面の四半ほどの広さが必要となる。また、建築基準法施行令第21条による天井高さは「2.1メートル以上」であるが、当該施行令が想定するような空間の多くは上記の高さの要請を満たさず、公式な卓球競技は実施できない(もちろん、練習や娯楽・文化としての卓球ではこの限りではない)。
卓球における競技用服装[17](英: playing clothing[116])[注釈 166]は、上が襟付でポロシャツに類似した形状のものやTシャツ状のもの、下はハーフパンツ・スカートが基本である。日本国内の公式試合で使用が認められるのは、JTTAの公認品のみである[注釈 167][17]。また、プレーヤー同士が類似した色の競技用服装を着ていた場合は、片方のプレーヤーが着替えなければならない[注釈 168][17]。JTTA主幹のものを含む日本国内の試合では、ゼッケンの着用も必須である[17]。
かつての卓球の競技用服装は、単色のポロシャツ形状のものが多かったが、近年はテニスやバドミントンと似た素材・デザインで、軽く撥水性が向上したものが多い。ショーツは股下が短いものが多く、女性に不評であったが、近年では男性用でも太ももにかかるくらいのものが増えるなど、時代に応じて変化している。また、アンダーシャツやスパッツの着用も認められている[17]。
また、事前の確認が必要であるが、個人がデザインした競技用服装も、前述の要件を満たせば使用可能である。2007年1月に行われた全日本卓球選手権では、四元奈生美がワンショルダーとミニスカートという斬新な競技用服装で試合に出場し、注目を集めた。
シューズに関しては、ある程度の水準の大会までは特に規定がなく、一般的な体育館用シューズであれば何を履いてもよいとされる。ほか、ヘアバンドやリストバンド等も規定の範囲で使用可能である。
卓球におけるロボットマシーンは、全自動で一定の(あるいは、規則的/ランダムな)回転やコースの飛球を対面のコートに周期的に送り続ける機械装置であり、実戦等での対戦相手の打球を疑似的に連続再現するための練習用の用具である[117][118]。
卓球の練習法のひとつに多球練習がある。人と人による多球練習において、文字通り多くのボールを一度に用いて、一方の者が相手の練習者に様々な球質のボールを相手コートへ連続的に送り込み(球出し)、練習者はこのボールを連続でリターンし続けてトレーニングを行う[注釈 169]。ロボットマシーンは、この多球練習の球出しの役割を人間に代わって行うことができる(すなわち、練習者が独りだけの状態であっても、多球練習ができる)。
なお、本項で述べるロボットとは根本的に異なった、人間のプレーヤーのようなラリーを行うことのできるロボットも工学の研究対象として開発されている(卓球の普及の項を参照)。
卓球における打法は、第一球目のボールを打ち出す技術(サービス)、および、その後(第二球目以降)のラリーにおいてボールを打ち返す技術(リターン)に分けられる。いずれも、主にフォアハンドとバックハンドに大きく分類される。台から離れた位置からの打法に加えて、台上(プレーイングサーフェスの上)で打球に対応する為の台上技術の存在[注釈 170]も、卓球の特徴の一つである。
かつてはフォアハンド打法主体のプレーが主流であったし、事実として今なお、より強力な威力(速度・スピン)の打球ができるのはバックハンドではなくフォアハンドでの打法である[119]。しかし時代とともに、新打法や厳しいコースを突く戦術等が開発され[注釈 171]、ラリーのスピードは全体的に速くなった[120]。現代では、この速いラリーに対応するために、フォアハンドとバックハンドを速やかに切り替えて両ハンドによる強打で攻める戦術が発展している。
以下では、特に断りがない限り、右利きのプレーヤーの打法について述べる。左利きのプレーヤーについては、下記の内容において適宜左右を反転させて読解することで、同様の打法を理解・実践できる。
打法の多くはボールの回転(スピン)を利用する[121]。打法におけるスピンの制御は、打球の挙動ひいてはリターンの成否、得点・失点につながる重要な要素である[121]。スピンは、縦回転(上回転/下回転)、横回転(順横回転/逆横回転)、コークスクリュー回転(ヘッドコークスピン/フットコークスピン)[注釈 172]の独立した3軸方向の回転に分類できる。実際の打法によるスピンは、この3軸回転のなかのいずれか、あるいはそれらの複合されたものである[94]。どの軸方向にもほとんど回転のかかっていない無回転(ナックル)の打球も存在する。
理想的な質点は重力の存在下で放物線の軌道を描くが、卓球のボールの飛跡はスピンの影響を顕著に受ける。たとえば、スピンと空気の存在に由来する抗力と揚力(マグヌス力等)によって、放物線から外れた軌道となる[121]。また、スピンを有する飛球が卓球台やラケット面でバウンドすると、多くの場合は、回転するボールと接触面の摩擦によって、逸れた方向へ飛び出すようにボールが跳ねる。
一例をあげると、あるプレーヤーが上回転をかける打球をすると、このボールは下方向に向かって徐々に放物線軌道よりもずれていく。このボールが相手コート上でバウンドすると、ボールは前進方向へ加速を受けて跳ねる[94]。このボールを相手が正面から静止したラケットで打球しようとすると、ボールはラバーの表面で上方向へ跳ね上がるように反射する[注釈 173]。
打法によって生み出されるスピンは以上のような効果を有しており、リターンを試みる際はこれらの点に注意する必要がある[注釈 174]。以下の表に、ボールの回転とその揚力による軌道・反射の変化についてまとめた(表中の「方向」は、A・デュレ(パリ=サクレー大学)とR・セイデル(アディダス)による検討[94]等における座標系に準じており、いずれも打法の打球者からみた方向を示している[注釈 175])。
スピンパラメーター SPは、上術のボールの回転がバウンド時等に与える影響を定量化する為の、スピンの強さの指標である。バウンドの検討対象とする平面(プレーイングサーフェスやラケット面)に平行な速度やスピンの成分について、打球の速さを m/s、スピンの回転数を Hzとしたとき、以下の式で定義される(式中のは円周率であり、はボールの半径0.020 mである)[注釈 179]。
スピンパラメーターの値は正と負の両方を取り得るが、対象とするバウンド面上でボールが加速を受ける回転方向のものを正として、デュレとセイデルの検討[94]では打法ごとについて表に示した値が報告されている。一般に、ボールの回転数が大きいほど、また、ボールの速度が遅いほど、スピンパラメーター[注釈 180]は大きくなる。スピンパラメーターが1を超えると、スピンの効果が打球速度のそれを上回り、ボールは対象面上において前進方向へ加速を受けることができる(例: ドライブ打法による前進するバウンド)。反対に、スピンパラメーターが-1より下回っていると、対象面との接点の反対側において、ボールは進行方向と逆向きに局所運動している(例: カット打法によるボール)。また、ボールが飛行中に受ける揚力(マグヌス力)ひいては軌道の変化の度合いも、スピンパラメーターの値に依存する。
サービスにおける打球などを含めて、無回転のボールを打球すると、スイングの方向に応じたスピンがかかる[94]。スイングでボールに与えるエネルギーの相当量がスピンの発生に用いられるため、無回転のボールに回転をかけて狙いの方向へ飛ばす為には、ラケットのスイングや打球面の角度の調整に注意を払う必要がある[122]。
次に、強いスピンがかかったボールに応じる例として、プレーイングサーフェスに対して大きな正のスピンパラメーターをもつ打球(ドライブ打法等の上回転の打球)をリターンしなくてはならない局面での、打法の原則を示す[注釈 181]。
以上では縦方向の回転(上回転/下回転)を例として取り上げたが、他の回転方向のスピンについても、これらの原則は同様である。[注釈 185][122][71]
卓球では必ずサービス(いわゆるサーブ)から一連のラリーが始まる[注釈 186]。サービスは、これを戦略の起点としてゲームを組み立てる、最重要技術のひとつである。サービスは、フォアサービスとバックサービスに大きく分類され、さらに、それぞれにショートサービスとロングサービスがある[注釈 187]。特にサービスにおいては、ボールの回転は重要な要素である。縦回転・横回転・コークスクリュー回転や、これらの複合回転あるいは無回転(ナックル)のサービスといった、多くのバリエーションの球質を出すためのサービスが存在する。一見同じモーションのサービスであっても、微妙なラケットの角度や向き・速度等の変化の技巧で、回転の質・量やスピードの異なる球種を出すことができる。
時代ごとのルール改正[注釈 188]により、レシーバーは相手のサービスの性質(回転や速さ、コース等)を見抜きやすくなる傾向にはある。しかし逆にこのことで、さらに高度なサービス技術が発達してきたという側面もある。代表的なものとしては、フェイクモーションやラケットの視覚的秘匿[注釈 189]、フォロースルー、バーティカルサービス等がある。また、トッププレーヤーになると、レットによるサービスのやり直しを利用する者もいるほか、巧みなサービスの一連の動作で、相手のレシーブのタイミングを外したり、相手のペースを乱したり、高度なサービス戦術を採るプレーヤーが多い。
フォアサービスは、自分の体に対して利き腕側(右利きであれば、身体の右側)からのラケットのスイングで、ボールを打ち出すサービスである。サービスに適したスイングを行いやすいよう、サービス時のみラケットのグリップ法を変えることもある[注釈 190]。シングルスの試合では、自陣のバック側の位置からサービスを出すことが多い[注釈 191]。以下に、フォアサービスの応用技術例を示す。
バックサービスは、主に利き腕の反対側(右利きの場合、身体の左側)からラケットをスイングして・打球されるサービスである。身体に対して、どの位置でボールをインパクトするかはプレーヤーによって異なる(フォア側まで振り抜いて打つプレーヤーもいる)。両足のスタンスをラリー時と同じに保ってサービスを出せるため、サービス後に早くラリー時の体勢へ戻すことが出来るという利点がある。
以下では、フォアサービス・バックサービスを問わず、その他のサービスやその付随技術を解説する。
本節以降では、レシーブを含めたラリーにおける打法技術について、それぞれ概説する。ラリーにおいても、打法はフォアハンド打法とバックハンド打法に大別される。フォアハンド・バックハンドともに、前陣(台上や台に近い位置)・中陣(台から少し離れた位置)・後陣(台から離れた位置)の位置取りや相手の打球の質によって、各打法の詳細は異なる。なお、フォアとバックの中間的な位置はミドルと呼ばれる[注釈 193]。
フォアハンド打法は、身体の利き腕側の飛球に対して、ラケットを外側(右利きの場合、右側)から身体の中心に向けて弧を描くように振り、このスイング動作でボールを捉えて打球する技術である。利き腕を動かせる空間的あるいは身体的な自由度が高く、スイングを大きくできるので、威力のある打球が可能である[119]。
バックハンド打法は、身体の利き腕とは逆側の飛球(右利きの場合は左側の飛球)を打つ打法である[注釈 194]。利き腕が体幹等と交差するため、フォアハンドと比べてスイングは小さくなる。打球の威力は出しにくいが、身体の前で素早く打球できるといった特徴がある。相手の打球をリターンして再度相手へ返すまでの時間を短縮しやすいため、速いラリー展開に持ち込む場合に有効である。
フォアハンド打法主体の時代には、利き手側の逆足(右利きの場合は左脚)をやや前に出すスタンスが基本であった。近年、フォアハンドとバックハンドによる両ハンド打法が求められるにつれ[注釈 195]、両足をほぼ平行にしたスタンスから、フォアハンドとバックハンドの両打法を行うスタンスが標準的となっている[注釈 196][124]。
ロング打法は、卓球台からそう離れていない位置(前陣・中陣)への飛球に対して、特に意識した強い回転をかけようとせずに、身体の外側から中心に向けてラケットを斜め上に振り抜き、ボールをやや摺り上げるようにして前方の相手コートへとリターンする打法である[注釈 197]。フォアハンドロング打法とバックハンドロング打法とがあり、それぞれ、後述の様々な打法の基礎となる標準的なスイングである。強振しないロング打法(特にフォアハンドロング)は、専ら練習においてラリーを長く続ける目的で行われることがあり、卓球入門者の基礎固めや中・上級者のウォーミングアップとして、利用される打法である[71]。フォアハンドのロング打法は、単にフォア打ちとも呼ぶ[71]。なお、この打法では、回転は特に強くかけないが、摺り上げるようにスイングして打つ為にゆるやかな上回転がかかっており、利き腕に由来する若干の横回転がかかることがある[122][119]。
ドライブ打法は、ロング打法から派生した、ボールに強い前進回転(トップスピン)を与える打法である[注釈 200]。基本のロング打法をある程度身に付けてから習得する技術である[71]。ドライブ打法でリターンするにあたっては、ボールのやや上側を擦るように打ち、かつ、より上に振り上げるようなスイングで打ち抜いて、強い前進回転をかける打球を行う。
以下に示した様々なドライブ打法(スピードやスピンの制御の仕方等)が確立されている。弱点とされたミドルへの打球に対するリターンにおいても、肩甲骨打法[120]等のそれを克服する打法がトッププレーヤーを中心にして普及している。また、ラケット等の用具の発展や練習環境の変化に伴い、従来はパワーに難のあった女子プレーヤーにおいても、一通りの代表的なドライブ打法を習得するプレーヤーが増加し、多くの戦型のプレーヤーに幅広く用いられるようになった。
ドライブ打法によるボールは、放物線運動から下方向に沈み込むように加速を受ける(いわゆる「弧線の弾道」を描く)ため、強振しても、相手コートに安定して入りやすい。このように、回転量の少ないスマッシュより比較的安定性が高いほか、打法の多様さから、ドライブ打法を中心とした戦術は現在広く用いられている。
スマッシュは、ロング打法のスイングを基本にして、ボールを正面から弾くように、ラケットのフラット面で叩き付けるように強振する打法である[71]。決定打として打つプレーヤーが多い。ドライブより小さなスイングでより速いボールを打つことができる。世界のトッププレーヤーの中には、初速が時速280km以上のスマッシュを打つ者もいる。球離れの早い表ソフトラバーを使用するプレーヤーが多用するほか、高く浮いた飛球への強打やロビング(後述)への対応で使用することが多い。一方で、ドライブのように相手コート内で沈むような打球にはならず、直線的な弾道となため、相手コートに正確にリターンすることは一般に難しい。
相手にスマッシュを打たれてしまった場合は、打球にスピードがあるため、ラケットに当てることさえ難しい。しかしながら、応用技術にて示す打法等によって、リターンすることは不可能ではない。
カット打法は、カット主戦型のプレーヤーが特に使用する、大きい旋回半径で斬り下げるようなスイングが特徴的な打法である。上で述べた、主に前方上方向にスイングする様々な打法とは大きく異なり、下向きに切るスイングでボールに強い後退回転(下回転、バックスピン)を与える[71]。ドライブ打法類の上回転のボールが下方向に沈み込むように加速を受けるのに対して、下回転での速い速度のボールは、一般にリターンが安定しない[注釈 203]。一方で、強い下回転のかかったボールを攻撃的打法で強く打ち返すことは、触球時に意図せず落球させてしまうなど、難度が高い。こういった理由から、カット打法は、下回転をかけることを主目的に、ドライブ打法類と比べて緩やかな速度のボールを打つことに特化し、カバーできる空間的範囲の広さを恃んで、中陣・後陣に下がって相手の強打をリターンする守備的な戦術に用いられる。
カット打法は、後方でボールを身体の比較的近くまで引き付けて、フォアハンドでもバックハンドでも、ボールを拾うように、相手の球威も利用しつつ、切り下げて相手コートへと返る打球を行う。相手の球質によって、カット打法のスイングは細かに変える必要があり、小さな回転のボールに適したI字型スイングや、強い上回転のかかったボールに適したL字型スイングなど臨機応変な対応が求められる[注釈 204][120]。カット打法の上級者となると、下回転(バックスピン)のほかに、斜め下回転、横回転、コークスクリュー回転をカットボールに織り交ぜたり、巧妙に無回転のナックルボールを繰り出したりするプレーヤーもいる[120]。
一般に用具には速い球速が追及される傾向がある一方、カット主戦型向けのラケットはコントロール性能などの安定性を重視して設計されている[71]。また、カット打法で使用するラバーは裏ソフトラバーのみでなく、粒高ラバーないし表ソフトラバーを組み合わせて貼って、速度・スピン・コースに大きな変化を付けるような用い方も少なくない[注釈 205]。
台上技術は、競技の場の構造に「台」が存在する卓球に特有の技術である。基本的には、飛距離の短い打球[注釈 206]をプレーイングサーフェス上で打ち返してリターンする打法である。台が構造上の障害となってラケットを強く振り抜けないため、台上技術による打球は球威が比較的弱く、これを決定打とすることは難しい[注釈 207]。そのため、以下に示す打法を戦術的に利用して、決定打を打てる機会をつくることが重要となる[注釈 208]。特に、馬琳(中国)の台上技術は、戦略的に練られた回転・コースと激しい球質の変化に優れており、これにより相手のリターンの手段を限定・強制させ、試合を優位に運んだとされる[119]。
ショート打法とは、台上(あるいは台上の近くを含む前陣)において、相手の打球のバウンド直後を身体の中心あたりで捉えて、ボールを押し返すように、ラケットを前に押し出して打球する技術である[注釈 209]。ショート打法は、ペンホルダー・シェークハンドともに、バックハンドにおいて基本となる技術である[注釈 210][71]。一方で、相手の球質によっては、フォアハンド側であっても、以下の応用技術を中心に、フォアハンドによるショート打法の派生技術が用いられる。
ツッツキは台上の短いボールに対して、カットよりもコンパクトなスイングでボール[注釈 211]の底部を突くようにして打球する打法である。台上から出ないボール(そのままでは台上で2度バウンドする短い飛球)や長めのボールに対して、ラケット面をやや上に向けて下回転を掛けたリターンとすることが多い[71]。ミスをしにくい打法だが、相手の攻撃を受けるリスクが比較的高い。一方で技術次第では、強烈な下回転や横回転を入れたり、長短の変化をつけたりすることができ、相手のミスを誘うこともできる。また、回転を掛けない無回転のツッツキでリターンすることもできる(ナックル)。
ストップは、主に相手の短い下回転系のボールに対して、バウンド直後の打球を捉えて、相手のコートで2バウンド以上するように短く手前にリターンする打法である。台上の短いサービスに対するレシーブなどで主に使われる。低いストップに対しては、空間的制約からドライブ打法が不可能であるため、防御技術として有効である[注釈 212]。上級者のストップ打法によるリターンでは、上回転系のボールを返したり、強烈な下回転を掛けたりすることも可能である。ストップ打法の飛球をストップで応じてリターンすることを「ダブルストップ」という。また、後ろへ下がった相手からのリターンに対して、ネット際に小さく落とすようなストップ打法を「ドロップショット」と呼ぶ場合もある。
フリックは、相手のショートサービスまたは台上への短い打球に対して、台上で前進回転を与えつつ払うようにリターンする打法である[71]。フリック打法に際しては、フリックした球を相手にカウンター強打されないように、テイクバックのない非常にコンパクトなスイングで素早く打球がなされる。技術が向上すれば、台上での強打ともいえるほどのスピードのある打球を打つことも可能で、レシーブから直接得点を狙うこともできる。
プッシュは、ショート打法において強く押し出すように打つ打法ある。主に、ペンホルダーのミドルやバックハンド側の攻撃として用いる[71]。シェークハンドのバックハンドの強振に比べて威力は出しにくい[注釈 213]が、打点が早く、やり方によっては同等以上に打ち合うこともできる。
チキータはピーター・コルベル(チェコ)が発案した打法であり、横回転をかけるバックハンドの台上ドライブ打法である[123]。チキータバナナ[注釈 214]のようなカーブを描くことから、このように呼ばれるようになった。チキータ・レシーブとも称する。ペンホルダーの裏面打法[注釈 215]あるいはシェークハンドでの打法として適している[123]。チキータ打法ではコンパクトなスイングでも強打ができ、フリック打法とともに台上での強打技術として重宝されており、現代卓球の主要なレシーブ技術となっている。なお、チキータのスイングから打球する逆横回転系のチキータは逆チキータと呼ばれている。
ここでは主に、上記の打法に対して応じる技を中心に解説する。トッププレーヤーのリターンの間隔(打球から相手の打球までの時間)は最短で0.2秒ほどと言われ、これは人間の物体運動に対する全身応答までの最短時間である0.3秒より短い。したがって特に、カウンターのような強打に強打で応じる打法では、必然的にこの時間の不足分(0.1秒)を越える早い応答が必要になる。これに対処する為にトッププレーヤーは、先手先手で相手のリターンを先読みして、打球を「待ち伏せ」することで、この不足分の時間を作り出している。なかでも劉詩雯(中国)は、自身の打球モーションを終えて次の打球の予備動作へ入るタイミングが他のプレーヤーより抜きん出て早く、上記の「待ち伏せ」に特に優れた選手と評されている。[119]
ブロックは、相手のスマッシュやドライブ等の強打に対して、前陣・中陣にかまえて、バウンドの上昇期や頂点で当てるようにリターンする守備的打法である[71]。ブロック打法では、相手の球威を殺す為、回転の影響を特に受ける。そのため、裏ソフトラバーでブロック打法を行う場合は、ラケット角度を的確に調整する必要がある。ブロックは、相手の強打を返すことが目的のため、スイングはあまり大きくとらない。
相手の球の威力を「殺して返す」、「そのまま返す」、「自分の力を上乗せして返す」など、リターンの球質に変化をつける技術もある。技術レベルにもよるが、プレーヤーによっては、相手の強打をブロックして、台上で2バウンドさせるほどまでに威力を殺すことが可能である。横回転をかけたサイドスピンブロックなどで球質を変化させてミスを誘うことができるなど、相手が打ってきた球を悉くブロックして相手のつなぎ球を狙い撃ちするという戦術を取るプレーヤーもいる。粒高ラバー等の使用者では、サイドスピンブロックやカットブロック(下回転をかけるブロック)等の技術によって、相手の打球のスピンを利用・反転してリターンすることもできる。
カウンターは、相手の強打をさらに強打で撃ち返す技術全般を指す。基本的には、上記のブロック技術において、テイクバックをやや大きく取り、飛球に合わせて振り抜くスイングとすることで威力のあるカウンターとなる[71]。カウンターに際しては、体勢が整わない相手を打ち抜くことや、相手の球威を利用することが目的である。このように、応じ技であるため、定まった打法は特になく、カウンタードライブのような特に攻撃的なカウンターもあれば、カウンターブロックのような守備的な側面をもった打法もある。いずれも、相手の強打を狙い打つ打法であるため、難度は高いが、成功すれば得点力も高い、ハイリスク・ハイリターンな技術である。
ミート打ちは、主に表ソフトラバーのプレーヤーが使う攻撃方法であり、相手の回転がかかったボールに対して、スマッシュのように強くはじいてリターンする打法である。相手の回転に合わせてのラケットの角度の微調整が肝要であることから、ミート打ちの一部を角度打ちと呼ぶこともある[71]。ラケットをコンパクトに振り切り、ボールを擦らず打球するので、あまり回転がかからず威力自体はそれほど強くないが、早い打点で打つため、相手のリターンへの動作が時間的に間に合わず、ミート打ちを決定打とすることもできる。
カット打ちは、ツッツキやカットの下回転を利用してリターンする打法である(スピンに応じた打法)[71]。打つべき相手の打球がツッツキである場合は、ツッツキ打ちとも呼ばれる。相手の下回転を利用する打法のため、打点やタイミングの正確さが要求される。カット打ちによって、強く前進回転を掛けてリターンする方法もある。
カット打ちは、打ち損じた場合に打球スピードが遅くなり、浮いしまった打球を相手に強打されるリスクがある。しかし、高島規郎によって8の字打法[注釈 217]が考案されたことにより、カット打ちの欠点がほぼ解消されている。この打法と類似の技巧として楕円打法[注釈 218]があり、カット打法とは反対の、ドライブ打法に対するリターンに応用されている[119]。
ロビングは、相手の強打等によるボールを高く打ち上げるように打球して、長い滞空時間でリターンする打法である[71]。相手のミスを誘うものだが、繰り返し相手からスマッシュなどの強打を受けやすい。ロビング打法では打球が高くあがる分、卓球台でのバウンド時に回転の影響を受けやすい。そのため、上下回転やコークスクリュー回転などの強烈な回転(ボールの回転を参照)をかけてロビングすることで、相手にとって打ちにくい球としてリターンすることが可能である。
フィッシュは、中陣・後陣でにおいて、ロビングよりも低い弾道で相手のボールを返す打法である。フィッシュ打法は、ブロック打法(上記)よりも打球点を遅くして、頂点を過ぎところで打球する打法とされる。相手の攻撃をしのぐ、いわゆるつなぎ球だが、ロビングに比べて相手にリターンされにくくすることもできる。このように、相手の攻撃をフィッシュでしのいで、相手が攻めあぐねたところで、一気に反撃をするといった戦法も用いられる。
多くの場合、ひとりのプレイヤーがすべての打法を望む競技レベルまで習得することは難しい。プレーヤーは、自身の適正や好みによって、習熟する技術をある程度選ぶ必要がある。その結果として卓球には、攻守や前陣・中陣・後陣のプレー領域、その他に特化したプレースタイルがあり、戦型と呼ばれる[128]。グリップよるラケットの分類にあるように、ラケットにはグリップごとに長所短所があり、戦型をシェークハンドとペンホルダーのそれぞれのグリップによるものに分類することもできる。以下の各項にそれぞれの戦型の概要を示した。また、戦型ではないがそれに類したプレーヤーの分類として、左利き(サウスポー)であることがあげられる[119]。大多数である右利きのプレーヤーとはボールの回転やフォア・バックの打球位置等が左右反転するため、左利きのプレーヤーと対戦する際には異なった戦術を採る必要がある[119]。
シェークハンドラケットは、フォアハンドとバックハンドの双方(両ハンド)で強振・強打を行いやすい。一方で、ミドル(身体の近く、フォアとバックの選択に迷う位置)への強打には比較的弱い。これらの特性を活かして、主に以下の戦型が多くのプレーヤーによって実践されている。
ペンホルダーラケットは、フォアハンドで特に威力のある打球が可能であるが、バックハンドでは相対的に守勢に回らざるを得ないことが多い。一方、台上での技術を含むミドルへの打球に対して対処しやすい。ペンホルダーの使用者はこれらの特性から、主に以下の戦型を採っている。
ラージボール卓球[注釈 219]とは、JTTAが卓球の普及を目的として考案し、ルール・用具規格等を1988年に制定した、新しい体系の卓球競技である。一般的な卓球(硬式卓球)で使われているボール(直径40 mm)よりも大きなボール(直径44 mm)を使って行われる。ボールが大きい等のルールの違いから、空気抵抗の効果が増大するため、ボールの速度および回転量が従来の卓球よりも減り、ラリーが続きやすいなどの特徴がある。高齢者等でも手軽にできる生涯スポーツとして考案されたものであるが、近年は、ラージボール卓球へ参入する若年層を含む硬式卓球経験者も多くなっている。このような競技人口の増加に伴い、全国各地で多くの大会が開催されている。
硬式卓球との主な違いは、以下の通りである。
歴史で述べた通り、日本への卓球の伝来・普及は、1902年からの坪井玄道によるものとされる[3]。それよりしばらくの間は、日本独自の用具とルールの発展があった[3]。初の卓球統轄機関として大日本卓球協会が創立された1921年(大正10年)頃は、軟式卓球(日本式卓球)のルールによる競技が行われていた。硬式卓球との主な違いは以下の通りである。
この日本独自の軟式(日本式)卓球は、ラージボール卓球の普及や硬式卓球のルールの変遷などをうけて、2001年(平成13年)度をもって幕を閉じた。
ここまでの節で特に解説のなかった卓球関連用語を本節に示す。
はじめにヨーロッパで普及が進み、ITTFなどの国際団体も初期はヨーロッパ諸国主導で設立・運営された。次いで、東アジアで普及が進み、日本、中国、韓国といった強豪国が現れた[71]。とりわけ中国は、世界トップの卓球先進国となっており、オリンピックの卓球競技等の国際大会では、上位入賞者をほぼ独占する状況である。選手個々人について、1991年10月以降のITTF世界ランキングでは、大会成績等のポイントを機械集計して順位付けされたものが随時発表されているが、ここで一位となった選手のほとんどが中国人選手である[注釈 225][71]。このように、スウェーデンやドイツといった卓球伝統国を除けば、世界レベルの大会の上位者(特にシングルス)は主にアジア勢が占める傾向がある。一方で、ダブルス(男女各部門や混合ダブルス)や団体戦等では、多くの国々にも戦果を挙げるチャンスが十分ある状態であり、パラ卓球も含め各々の選手が向上心をもって卓球競技に臨んでいる。
大衆スポーツや生涯スポーツとして、娯楽・文化としての卓球は各国それぞれで普及が進んでおり、映画などの創作作品にも卓球がテーマ化・題材化されている。工学に目を転じると、TOPIOやフォルフェウス[注釈 226]などの高度なロボット開発も進んでいる。
競技スポーツとしては、傾向として、東アジアとヨーロッパの一部で卓球が盛んである。以下に述べる中国の帰化選手が世界各地に移り住んで選手・指導者として生活を営んでいるため、元・中国人の代表選手や指導者が多い国もある。
娯楽スポーツ・生涯スポーツとしての卓球は、他のスポーツと比べ、ゲームをプレーするにあたっての敷居(最低限のルールの理解、スキルの習得、場所・道具・プレーヤーの確保)が比較的低い[71]。それほど服装は問われず、力のない女性や子供、高齢者でもできること、ケガの心配も比較的少ないことから、気軽に遊ぶことが出来るスポーツの一つである。そのため、老若男女問わず親しみやすく、実践しやすいスポーツとして主に卓球の盛んな国々で愛好されている。しかし卓球部員はいわゆるジョック(陽キャ)ではなくナード(陰キャ)として扱われる(これは偏見であり、タモリの根暗発言が原因でこのような状況が出来てしまったとの意見がある)ことが一般的であるが、欧米ではこのような偏見は無い。ただし、欧米でも中国人をはじめとした黄色人種に人気のあるスポーツであるというイメージはある。
他の視点から楽しむ目的で卓球から派生させたスポーツも多く、ラージボール卓球はもちろんのこと、ハードバット卓球[注釈 236]やアルティメット卓球[注釈 237]、スリッパ温泉卓球、ヘディス、ビアポンといったものが考案・実施されている。
卓球は、誰もが怪我のリスクなくできるスポーツであることから、療法としての役割も期待されている。NPO法人日本卓球療法協会が設立され、卓球の用具を活用し、心身の健康の維持・向上・予防を図る目的で活動が行われている[148]。
大会 | 年次 (開催回) | 種目 | 優勝者 |
---|---|---|---|
IOC 夏季オリンピック 卓球競技 | 2020年 (第32回)[149] | 男子シングルス | 馬龍(中国) |
女子シングルス | 陳夢(中国) | ||
混合ダブルス | 水谷隼・伊藤美誠(日本) | ||
男子団体 | 中国代表 | ||
女子団体 | 中国代表 | ||
ITTF世界卓球選手権 | 2023年 (第57回)[150] | 男子シングルス | 樊振東(中国) |
男子ダブルス | 樊振東・王楚欽(中国) | ||
女子シングルス | 孫穎莎(中国) | ||
女子ダブルス | 陳夢・王芸迪(中国) | ||
混合ダブルス | 王楚欽・孫穎莎(中国) | ||
2022年 (第56回)[151] | 男子団体 | 中国代表 | |
女子団体 | 中国代表 | ||
WTTグランドスマッシュ | 2023年 (第2回)[152] | 男子シングルス | 樊振東(中国) |
男子ダブルス | 樊振東・王楚欽(中国) | ||
女子シングルス | 孫穎莎(中国) | ||
女子ダブルス | 王曼昱・孫穎莎(中国) | ||
混合ダブルス | 王楚欽・孫穎莎(中国) | ||
WTTカップファイナル | 2022年 (第2回)[153] | 男子シングルス | 王楚欽(中国) |
女子シングルス | 孫穎莎(中国) |
大会名 | 優勝者のRP[注釈 240] | 備考 |
---|---|---|
世界卓球選手権 | 2,000点[164] | 1926年初開催の世界大会。現在は奇数年に個人戦、偶数年に団体戦が交互開催される |
ワールドカップ | 1980年初開催の国際大会(毎年開催)。2021年よりWTT主催大会へ移行 | |
ワールドツアーグランドファイナル | 以下のワールドツアーの一年を締めくくる大会。2021年よりWTT主催大会へ移行 | |
ワールドツアー | 1996年初開催の国際オープン大会(毎年開催)。2021年よりWTT主催大会へ移行 | |
荻村杯国際卓球選手権大会 (ジャパンオープン) | 1989年に始まった毎年開催のワールドツアーのひとつ | |
世界ユース卓球選手権大会 | 2003年に始まった毎年開催される18歳以下の国際大会 | |
世界ベテラン卓球選手権 | 国際スウェースリング・クラブ[165][166]による40歳以上の国際大会 |
大会名 | 優勝賞金[注釈 240] | 優勝者のRP[注釈 240] | 備考 |
---|---|---|---|
WTTグランドスマッシュ | 100,000 USD[168] | 2,000点[168] | ランキングポイントでITTFの世界卓球選手権と並ぶメジャー大会 |
WTTカップファイナル | 55,000 USD[169] | 1,500点[169] | ITTFワールドツアーグランドファイナルに相当する大会。 |
WTTチャンピオン | 35,000 USD[170] | 1,000点[170] | ITTFワールドツアーに相当する大会。 |
WTTスターコンテンダー | 10,000 USD[171] | 600点[171] | ITTFワールドツアーに相当する大会。 |
WTTコンテンダー | 5,000 USD[172] | 400点[172] | ITTFワールドツアーに相当する大会。 |
企業名 | 主な展開ブランド名 | 備考 |
---|---|---|
タマス | Butterfly(バタフライ) | 日本の企業 |
日本卓球 | Nittaku(ニッタク) | 日本の企業 |
VICTAS | VICTAS(ヴィクタス)、TSP(ティーエスピー)[注釈 244] | 日本の企業。旧社名は「ヤマト卓球株式会社」であった |
ヤサカ | Yasaka(ヤサカ) | 日本の企業 |
アームストロング | Armstrong(アームストロング) | 日本の企業 |
三英 | SAN-EI(サンエイ) | 主に左記ブランドの卓球台を製造 |
上海紅双喜 | 紅双喜 DHS(こうそうきディーエイチエス) | 中国の企業 |
XIOM | XIOM(エクシオン) | 韓国の企業 |
スティガ | STIGA(スティガ) | スウェーデンの企業 |
ドニック | DONIC(ドニック) | ドイツの企業 |
ティバー | THIBHAR(ティバー) | ドイツの企業 |
Schöler&Micke | andro(アンドロ) | エーベルハルト・シェーラーとヴィルフリート・ミッケによるドイツの企業 |
ジュウイック | JUIC(ジュウイック) | 日本の企業 |
コルニヨー | cornilleau(コニヨール、コルニヨー) | フランスの企業 |
ESNドイツ卓球テクノロジー | ※自社ブランドなし | ドイツの企業。各社向けのラバーを開発・製造(OEM)している。[173] |
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