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飲料の一つ ウィキペディアから
コーヒー(オランダ語: koffie[2] /ˈkɔfi/ 、英語: coffee)は、コーヒー豆と呼ばれるコーヒーノキの種子を焙煎して砕いた粉末から、湯または水で成分を抽出した飲料である。日本語での漢字表記は「珈琲」[3]。
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 17 kJ (4.1 kcal) |
0.7 g | |
0.2 g | |
ビタミン | |
リボフラビン (B2) |
(1%) 0.01 mg |
ナイアシン (B3) |
(5%) 0.8 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 1 mg |
カリウム |
(1%) 65 mg |
カルシウム |
(0%) 2 mg |
マグネシウム |
(2%) 6 mg |
リン |
(1%) 7 mg |
他の成分 | |
水分 | 98.6 g |
ビオチン(B7) | 1.7 µg |
カフェイン | 0.06 g |
タンニン | 0.25 g |
浸出法:コーヒー粉末 10 g/熱湯150 mL | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
歴史への登場は酒や茶には遅れるが、世界各地でよく飲まれている飲料である[4][5]。家庭や飲食店、職場など多くの場面で飲用される[6]。コーヒー中のカフェインなどの興奮作用から知的労働者には最適な嗜好品とされている[7]。世界各国において、コーヒーを提供する場のコーヒー・ハウスやカフェなどの喫茶店は近代、知識人や文学、美術など様々な分野の芸術家の集まる場として、文化的にも大きな役割を果たしてきた[8]。カフェインに代表される薬理活性成分を含むことから医学・薬学の面から研究の対象となっている[9]。さらに、貿易規模が大きい一次産品とされるため、経済面でも重要視されている[10][11]。
コーヒーはコーヒーベルトと呼ばれる北回帰線と南回帰線の間の約70カ国で生産されており、そのコーヒー農園でコーヒーノキの栽培と果実の収穫が行われる[12]。さらに引き続いて、生豆を取り出すコーヒー豆の精製と呼ばれる加工作業までが、コーヒー農園で行われることが多い[13]。精製された生豆は生産国で集積され、選別・等級付けされてから消費国に輸出される[13]。生豆は消費地においてコーヒー独特の香味を生み出すために焙煎される[13]。また、場合によっては複数の焙煎豆を混ぜる[13]。これはブレンドと言われ、風味を求めて行われる[13]。その後粉砕により細かい粉状にされてから、水や湯で抽出されて、飲用に供されるコーヒーが出来上がる[13]。
コーヒーがいつ頃から人間に利用されていたかは、様々な説があり、はっきりしていない[14]。しかし、エチオピアがコーヒーの原産地とする説は最も有力で、自生するコーヒーノキも多い[15]。焙煎した豆から抽出したコーヒーが登場したのは13世紀以降と見られる[16]。
最初は一部のイスラム修道者だけが用いる宗教的な秘薬であり、生の葉や豆を煮出した汁が用いられていた[17]。しかし、焙煎によって嗜好品としての特長を備えると[18]一般民衆へも広がった[19]。1454年には一般民衆の飲用が正式に認められ、中東・イスラム世界全域に拡大した[20]。
伝播ルートはエチオピア→イエメン→メッカ(アラビアコーヒー)→オスマントルコ帝国(トルココーヒー)→ヨーロッパ→世界中に広まったと推定されるがはっきりはしていない。各間の伝播には「直接伝わった」のか「記録が無いだけで、その間に何か中継があったのか」もはっきりしていない。アラビアコーヒーで最古記録はイエメンの修道院で15世紀半ばである[21]。だが、記録が残っていないだけでアラビアコーヒーの歴史はそれよりずっと古いと推測されている[21]。メッカからレバント地方およびアラビア全域に広まった。また、オスマン帝国には同帝国イエメン総督だったオズデミール・パシャ(en:Özdemir Pasha)とも伝わったとの説もあるが、パシャ提督経由なのか、メッカ経由なのか、レバント経由かもはっきりしない。
オスマン帝国からはバルカン諸国[22]、ヨーロッパには16世紀に存在が知られるようになり[23]、17世紀中にヨーロッパ全土に伝播した[24]。北米には1668年、ヨーロッパからの移民によって伝わった[25]。
日本へは18世紀末にオランダ人が長崎の出島へ持ち込んで伝わった[16]。最初の記録は、1804年の大田南畝による随筆『瓊浦又綴』(けいほゆうてつ)[26][注 1]。
コーヒー文化が広まるにつれ、抽出法が工夫され始めた。挽いたコーヒー豆を煮出して上澄みを飲むトルココーヒー式の淹れ方からフランスで、まず1711年に布で濾す方法が開発され、ネルドリップの原型となった[27]。これに湯を注ぐ器具として、1800年頃にドゥ・ベロワのポットが考案され、現在のドリップポットに至る[28]。この他にも、フランスでパーコレータ[29]、ドイツでコーヒーサイフォン[30]やペーパードリップ[31]、エスプレッソ発祥のイタリアでエスプレッソマシン[32]などが開発された。
イギリスでは1650年にオックスフォードに最初のコーヒーハウスが開業した後、17世紀にはロンドンを中心にコーヒーハウスが社交や議論、情報交換の場として隆盛を極めた[33]。ロイズの前身もコーヒーハウスである[34]。しかし、18世紀半ばにイギリスのコーヒーハウスの隆盛は紅茶の普及により廃れた[35]。
フランスでは1669年には駐トルコ大使がルイ14世に献上したことがきっかけになって上流社会で流行し、さらに一般にも広まって多くのカフェが作られた。1867年ごろには、朝食時にミルクと砂糖を入れたコーヒーを飲む習慣があった[36]。
ウィーンでは、1683年、オスマン帝国による第二次ウィーン包囲が失敗した際に、オスマン軍が塹壕に残していったコーヒー豆をゲオルク・フランツ・コルシツキーが戦利品として拝領し、ウィーン初のコーヒーハウスを開業したのが始まりといわれている[37]。
イスラム世界では、長らくイスラム教の戒律[要曖昧さ回避]との関わりから一般民衆の飲用を認めない主張が続いた[38]。1454年にファトワが出された後も、反対意見は根強かった[39]。そのため、1511年、厳格なイスラム戒律主義者だったメッカ総督がコーヒーを「大衆を堕落させる毒」として飲用を禁じ、焼き捨てを命じたメッカ事件が起きている[40]。
メッカからコーヒーが伝わったオスマン帝国では、17世紀初頭に世界初の近代的なコーヒー・ハウスが首都コンスタンティノープルで開業した[41]。コーヒーハウスは中上流階級の社交場となり、コーヒーが伝わった先のヴェネツィアでも同様なコーヒーハウスが開業して[42]、ヨーロッパ中に広まった[43]。
日本では江戸時代から長崎を通して貿易品として輸入されていたが、ビタミンの効用を求めて薬としての効果を期待されたもので、水腫に効果があるとされていた[44]。1807年の樺太出兵では野菜が摂取できないことによる兵の水腫病が問題になり、幕府から貴重なコーヒー豆が支給されたという[44]。1867年、万国博覧会に出席する徳川昭武の随員としてパリを訪れた渋沢栄一は「食後カッフへエーという豆を煎じたる湯を出す砂糖牛乳を和して之を飲む頗る胸中を爽やかにす」と『航西日記』に記しており、これが嗜好品として飲まれたコーヒーの最も古い記述とされる[36]。また昭武が記した『徳川昭武幕末滞欧日記』には複数のコーヒーを飲んだ記述や、紅海を移動中に見たモカの街について「優れたコーヒーの産地である」と書いた箇所がある[36]。1888年4月13日、東京下谷に最初の喫茶店「可否茶館」が開店した[45]。
中国では西洋より比較的コーヒー文化が広まるのが遅かった。大衆がコーヒーを体系的に認識したのは1980年代以降であり、また急速に広まったのは2020年代である[46]。しかし、2021年の都市部で飲まれた1人当たりのコーヒーの杯数は年間約4杯に達している[47]。
1990年から2019年にかけて消費量も生産量も約500万トン増えている[12]。2017年における1人当たり年間消費量の上位国はアイスランド(9.26 kg)、ノルウェー(8.84 kg)、スイスとボスニア・ヘルツェゴヴィナ(ともに6.33 kg)、カナダ(6.29 kg)、ブラジル(6.26 kg)の順で、日本は3.64 kg(12位)である[48]。
「コーヒー」はアラビア語でコーヒーを意味するカフワ(アラビア語: قهوة:qahwa)が転訛したものである。元々ワインを意味していたカフワの語が、ワインに似た覚醒作用のあるコーヒーに充てられたのがその語源である[50]。一説にはエチオピアにあったコーヒーの産地カッファ(Kaffa)がアラビア語に取り入れられたものともいわれている[51]。
この語がコーヒーの伝播に伴って、トルコ(トルコ語: kahve)、イタリア(イタリア語: caffè)を経由し、ヨーロッパ(フランス語: café、ドイツ語: Kaffee、英語: coffee)から世界各地に広まった。日本語の「コーヒー」は、江戸時代にオランダからもたらされた際の、オランダ語: koffie(コーフィー)に由来する[2]。かつては前述の『航西日記』のように現地(フランス)の発音をそのまま書き取った記述もあった[36]。
中国で現在使われている「咖啡」の現在知られている最も古い記録は『華英辞典』(1819年)である[52]。中国の文献での王偏の「珈琲」の現在知られている最も古い記録は『海国図志』50巻本(1844年)である[52]。なお、中国語においても、訳語に関して19世紀に試行錯誤があったとされるが[53]、現在では口偏の「咖啡」(kāfēi)とよく表記される[54]。
日本では漢字で「珈琲」のほか「可否」「架非」「加非」「咖啡」などの字も当てられてきた[3][55]。当て字「珈琲」の知られている最も古い日本の資料は、江戸時代末期の医蘭者宇田川榕菴(1798年 - 1846年)自筆の『蘭和語彙集』(年代不詳[56])である[52]。これ以外にも、「可否」(可否茶館)、「カウヒイ」(大田南畝『瓊浦又綴(けいほゆうてつ)』)、「哥非乙」(宇田川榕菴『哥非乙説』)[57]などの表記も過去には用いられた。「珈琲」が宇田川榕菴による造語とする俗説がある。この俗説の初出は奥山儀八郎編「日本珈琲文献略解(七)」『長崎談叢』第27輯(長崎史談会)(1940年)である[52]。「珈琲という字はコーヒーノキの枝を女性の髪飾りにたとえたものである」という解釈もまた、奥山によるものである[52]。
コーヒー豆はブラジルやコロンビアなどの中南米や、ベトナムやインドネシアなどの東南アジア、エチオピアやタンザニア、ケニアなどのアフリカ諸国で主に生産されている[4][5]。また有名銘柄の産地としてハワイ、イエメンなどでも生産されている[58]。また、インドや中国などでも生産されている[10]。また日本でも九州の鹿児島県徳之島や沖永良部島、沖縄、小笠原諸島では個人農園で栽培している[59][60][61][62]。
コーヒー豆の種類は、主に生産地で分類されている。品種名は、国名(コロンビア、ケニア、コスタリカ等)、山域(キリマンジャロ、ブルーマウンテン、エメラルドマウンテン等)、積出港(モカ、サントス等)、栽培地名(コナ、マンデリン、ジャワ等)などにちなむ。この他、種名や栽培品種の名を付加した名称(ジャワ・ロブスタ、ブルボン・サントス)や、選別時の等級を付加した名称(ブラジル No.2、タンザニアAA)なども用いられている[63]。
スペシャルティーコーヒーの概念も普及しつつある。日本スペシャルコーヒー協会によると、スペシャルコーヒーとは生産地、生産者、収穫後の生産処理方法、流通経路、焙煎・抽出・提供の一連の流れが品質管理されているコーヒーのことを言う[64]。アメリカなどの審査機関から高評価を受け、生産者から直輸入がされているものが多い[65]。
コーヒーの原料となるコーヒー豆は、3メートルから3.5メートルほどの常緑低木で、ジャスミンに似た香りの白い花を咲かせるコーヒーノキの果実から得られる。
コーヒーチェリーと呼ばれる果実は赤または紫、品種によっては黄色の硬い実で、成熟に9ヶ月ほどかかる。通常は1果実に2粒の種子が入っている。まれに1果実に1粒の種子が入っている「ピーベリー」と呼ばれる種子がありこれは珍重される。コーヒー豆となる種子だけでなく、果肉部分にも若干のカフェインが含まれており、食用にされることがある。
コーヒーノキは、エチオピア原産のティピカ種(Tipica)に由来するアラビカ種(Coffea arabica)と、コンゴ原産のロブスタ種(カネフォーラ種、C. canephora)、リベリカ種(C. liberica)があり、合わせて「コーヒーの3原種」と呼ばれる。
このうち現在栽培されているコーヒーノキはアラビカ種とロブスタ種がほとんどで、中でも生産量の7-8割はアラビカ種が占める。20世紀前半まではリベリカ種の栽培も盛んだったが、病害に弱く品質面でも劣るため、21世紀前半の現在では生産量も1割以下となっている。 なお、ロブスタ種についてはコンゴより1年早く1897年にガボンで発見され、正式学名の由来となった。
コーヒーは大きく、アラビカ、ロブスタ、リベリカの3原種に分類され、それぞれに特徴がある[66]。
代表的なコーヒー豆の味や特徴を挙げる。産地国を名としないものは括弧書きで産地国を付記する。なおレギュラーコーヒーに使われるものはアラビカ種またはロブスタ種が主流の雑種である[注 2]。
他にもマンデリン、ジャワコーヒー、インドコーヒーなどの品種が存在している。アジア地域でも、東アジアや日本の沖縄県・小笠原・鹿児島県で、少量だが栽培が行われている[75]。
収穫されたコーヒーの果実からコーヒー豆を取り出す工程をコーヒーの精製と呼ぶ。コーヒーの精製には主に乾式(乾燥式・非水洗式)と湿式(水洗式)の2種類がある。単純作業のため、コーヒーの精製は生産地で行われる。精製を済ませたコーヒー豆は生豆と呼ばれ、カビなどの発生を防ぐために水分含量が10 - 12%になるよう乾燥して保管され、消費地に輸出される。
この他、乾式と湿式を組み合わせた半湿式(半水洗式)や、ジャコウネコなどの動物に食べさせて、その糞から取り出すもの(コピ・ルアク)などがある。
精製された生のコーヒー豆は次に焙煎されて、初めて実際に我々が口にするコーヒーの香りと味を生み出す。多くの場合、この工程は消費国でなされ、ロースターと呼ばれる大手のコーヒー豆卸業者が行うほか、コーヒー豆小売りを行う販売店や喫茶店などで自家焙煎される。また家庭で生豆から焙煎することも可能であり、日本では新型コロナウイルスによって家庭内での「おうちカフェ」ブームが広がった[76]。
日本の家庭ではフライパンや焙烙(ほうろく)、ギンナン煎りに用いる金属製の手網などで焙煎することがあるが、プロの多くは焙煎機(コーヒーロースター)と呼ばれる専用の機械で行われる。これらの焙煎方法は加熱原理と熱源の違いによって以下のように分類される。
上記が同時に進行するような焙煎方法もある。
コーヒーが焙煎される時豆の温度は約200 °C程度まで到達する。一般的な焙煎方法ではおよそ10 - 20分程度の加熱時間を必要とする。
焙煎の度合いのことを焙煎度といい、焙煎度の低いものを浅煎り、高いものを深煎りと呼ぶ。浅煎りされたコーヒー豆は薄い褐色で、深煎りへと進行するにつれて黒褐色へと変化し表面に油がにじみ出てくる。浅煎りと深煎りの中間にあたるものを中煎りと呼ぶこともあるが、これらは相対的な呼び名であって明確に定められているものではなく、販売店舗などによっても異なる。また、日本では以下の8段階(浅煎り→深煎りの順)の焙煎度を用いる場合もある。
一般に、浅煎りは香りや酸味に優れ深煎りは苦味に優れると言われているが、嗜好の問題であるため、総合的に見てどちらかが優れているということは特にない。通常使われる焙煎度は、ミディアムからイタリアンである。
コーヒー豆はその消費目的に応じて数種類混合されることがある。これをブレンドと呼ぶ。ブレンドされたコーヒーはブレンドコーヒーと呼ばれ、これに対して一種類の焙煎豆のみからなるコーヒーをストレートコーヒーと呼ぶ。
ブレンドは焙煎前に豆を混合するプレミックスと焙煎後に混合するアフターミックスがある。プレミックスは調和の取れた味になり大量生産にも向いている[77]一方で、個々の豆の焙煎の加減を調整しづらい。それに対してアフターミックスは豆の焙煎状態を最良にしやすいが、別々に焙煎する分手間が掛かる[78]。
ブレンドは複数の違った持ち味を持つコーヒーを混ぜることにより、ストレートコーヒー単品だけではなし得ない味を、提供者側の意図にあわせて作り上げるための工程である。しかしながらその法則には定まったものがあるわけではなく、各ロースターが独自に考案したブレンドのレシピに従って行われる。インスタントコーヒーなど工業的生産の場では、香味等の品質を保つため8つ以上のタイプの豆が混合される。
一方でストレートは使うコーヒー豆を生産国だけでなく、地域や農園単位で限定して、それを売り物にすることもある。産地ごとに異なるコーヒーの味や香りを、相性が良い菓子や料理と組み合わせて楽しむ「フードペアリング」という飲み方も行われている[79]。
焙煎されたコーヒー豆は、抽出される前に粉状に細かく挽かれる。この工程をコーヒーの粉砕(グラインド)という。粉砕にはコーヒーミルあるいはグラインダーを用いる。場合によっては乳鉢や石臼などが用いられる。コーヒーは焙煎された豆のままで販売されるか、工場で粉砕された後で販売される。粉砕されると表面積の増加から空気酸化による品質低下が早まると言われているため、家庭用のコーヒーミルで抽出直前に挽いている人もいる。
粉砕されたコーヒーは粉の大きさに応じて、細挽き、中挽き、粗挽きと呼ばれる。粉砕粒子度合いと抽出法については、アメリカ商務省の推奨規格やそれを規定した専門書(具体的数値はコーヒーミルを参照)などがある。しかし多くの場合はそれらに直接従うことは少なく、当事者の経験や大まかな伝聞によって粒子度合いを決めていると考えられる。これらの挽き具合は、そのコーヒーがどのように抽出されるか、またどのような味にすることを望むかによって調整される。例えばエスプレッソではほとんど微粉に近い粉状になるよう極細挽きにして用いられる。このためエスプレッソ用のコーヒーミルは臼刃式が用いられる。
コーヒーは、コーヒー生豆を焙煎した炒り豆とこれを挽いたものの両方を指すレギュラーコーヒーと、レギュラーコーヒーの抽出液を乾燥させた水溶性の固形物であるインスタントコーヒーに大別できる。コーヒーの淹れ方や飲み方は地域によって多様であり、また個人の嗜好によっても大きく異なる。
焙煎されて粉砕されたコーヒーの粉(レギュラーコーヒー)に、湯または水を加えることで中の成分を抽出し、飲用のコーヒーが出来上がる。この時の抽出方法、すなわちコーヒーの淹れ方には様々な方法や器材が存在する。それぞれの淹れ方は用いる器具の名前で呼ばれることが多い。
コーヒーの風味は、焙煎の度合いや挽き加減(細かく、粗く等)、淹れ方や用いる器具などにより異なる。それぞれの持ち味と嗜好の問題であるため、万人にとっての最善の方法は存在しない。ただし一般に、焙煎、挽いた粉の保管、抽出後のいずれの段階でも酸化が進むので、各段階での時間経過が短い方が香りも味わいも優れている。
抽出の手間を掛けずに手軽にコーヒーを飲むためのものとして、インスタントコーヒー、缶コーヒー、リキッドコーヒーが工業的に生産されている。
日本における、缶コーヒー製品などの「コーヒー」表示は、「コーヒー飲料などの表示に関する公正競争規約」に基づく区分により、製品内容量100グラム中の生豆使用量によって、次の3種類に区分される。
製品に乳固形分を3%以上を含むものは「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」に基づき「乳飲料」となる(カフェ・オ・レ、カフェ・ラッテ、コーヒー牛乳など)。
お湯で溶かして飲むタイプのコーヒー。公正競争規約上は中にコーヒー豆を含まず、コーヒー抽出液のみを原料とする製品に限られる(中にコーヒー豆を含むと「レギュラーコーヒー」扱いになる)。このため、2010年代に入り中にコーヒー豆を含む製品を含んだ総称として(特にネスレが他社との差別化のため、2013年9月出荷分から)「ソリュブルコーヒー」という呼称も使われるようになった。「ソリュブル」とは“溶け易い”の意。
抽出・調味されたコーヒーを缶に充填したタイプのコーヒー。しばしば貯蔵中のコーヒーの劣化が問題となってきた[92]。
ペットボトルや紙パックなどの容器に充填したタイプのコーヒー。ボトル入りのものはボトルコーヒーともいう。日本のデスクワークなどの場においては、蓋を閉めなおして数回に分けて飲めるペットボトル入りの需要が増えている[93]。コーヒーを一杯分ずつ小分けにしたものとしてポーションコーヒーがある。
代用コーヒーとは、コーヒー豆以外の原料を使って造られたコーヒーを模した飲料である。
代用コーヒーについての最古の記録はフリードリヒ2世統治下のプロイセンで見られる。コーヒー豆の輸入超過を抑制し、国内ビール産業の保護を目的とした1777年のビール・コーヒー条例によって、コーヒーに高い関税が掛けられることになった。その結果、庶民がコーヒーの代用品を飲む様になったと記されている。また、南北戦争中の米国や、第一次・第二次世界大戦の時にコーヒー豆の輸入が滞った地域(日本など)、冷戦時の東欧諸国でも代用コーヒーが飲まれた。
日本における代用コーヒーの登場は日中戦争が激化していた1939年頃であり、輸入量が減ったコーヒーを増量するために広まった。日本では代用コーヒー(コーヒーに増量するためにコーヒー以外の原料を追加したもの)とイミテーションコーヒー(コーヒー以外の原料を主材料としてコーヒーに似せて作られたもの)を区別することがある[94]。
代用コーヒーは、各種食用植物を煎って[要曖昧さ回避]粉末にして、湯で抽出したものが主に飲まれた。原料はタンポポの根、ゴボウ、ジャガイモ、サツマイモ、百合根、サクラの根、カボチャの種、ブドウの種、ピーナッツ、大豆、ドングリ、アーモンド、大麦、トウモロコシ、チコリ、玄米、根セロリ、パンの耳、綿やオクラの種子などが挙げられる。
代用コーヒーはあくまで代用品として考案されたものなので、コーヒーの安定供給が続いている地域・時代ではその消費量は少ない。しかし、代用コーヒーのほとんどはカフェインを含んでいないため、カフェインの摂取を避けている人がコーヒーの代わりに飲む場合がある。また大豆コーヒーなどは大豆の栄養価が評価され、健康食品として販売されている。価格については、代用食品ではあるものの、本物のコーヒーよりもかなり高額な場合が多い。
コーヒー豆を容易に入手できる地域・時代であっても、コーヒー豆を使わない類似の飲料を楽しむ食文化も存在する。例としては、大麦を原料とするカッフェ・ドルゾなどがある。現代の日本でも、大豆コーヒーやスペイン風のコーヒー風大麦飲料[95]などが商品化されている。
2020年代からは、合成生物学によりコーヒーと同じ分子組成を持つ人工コーヒーの開発プロジェクトが進行している[96]。
コーヒーノキを培養しコーヒーを製造するプロジェクトもある[97]。
コーヒーには飲む以外に様々な用途がある。
この他、コーヒーの実自体をスープに入れたり、粥のようにしたりして食べるという行為が、10世紀頃には行われていたことがある。この方法でコーヒーを摂取しても眠気覚ましなどに効果があったと言われている。
コーヒーの世界市場規模は2018年の小売金額で880億ドルと推計されている(イギリスの調査会社ユーロモニターインターナショナルによる)。ネスレが24.9%のシェアを持つ最大手で、オランダのヤコブ・ダウ・エグバーツ(10.2%)などが続く[99]。
日本の丸紅(総合商社)の予測では、2021~2022年度は世界生産量1億6681万袋(60キログラム入り)を消費量(1億7849万袋)が上回る。コーヒー豆相場の下落期に中米などに多い手摘み農家がキャッサバ、果実、コカなどに転作した影響が出つつある。また気候変動(地球温暖化)で2050年頃にアラビカ種の生産地が半減する懸念がある「2050年問題」が指摘される一方で、現在は気温が低い高地などでコーヒー栽培が可能になる面もある[100]。
2019年現在、全世界ではコーヒー豆が世界70か国以上で1000万トン近く生産されている[12]。1990年から2019年にかけて、コーヒー生産量は約450万トン増えた[12]。しかし、2050年には環境や人的な問題もあり、世界コーヒー研究所(WCR)によると約1090万トン生産が減る見通し[12]。2009年から2012年にかけて、エチオピアやウガンダ、タンザニアなどのアフリカ地域でのコーヒー生産が増加している[101]。2020年現在のコーヒー豆生産量上位10か国を以下に示す[102]。
2010年代半ば以降、新興国の所得向上や食生活の欧米化により世界のコーヒー豆消費量は右肩上がりである。今後も増加傾向が続くと予想されている[100]。北欧諸国はコーヒー消費量の多い国であり、フィンランドの消費量は世界最大で、10位のカナダの2倍に迫り、アメリカの3倍に迫る[103]。一人当たり年間消費用トップ10を以下に示す[104]。
コーヒーの生豆には多糖を中心とする糖類、アミノ酸やタンパク質、脂質の他、コーヒーに含まれるポリフェノールであるクロロゲン酸、アルカロイドであるカフェイン(豆重量の1%程度)やトリゴネリン、ジテルペンであるカフェストールやカーウェオールなど、特徴的な成分が含まれている。コーヒーの脂質の75%は中性脂肪で結合している脂肪酸の種類は、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などがその主成分で、他の植物との大きな違いはない。
これらの成分は焙煎されることによって化学変化を起こし、その結果数百種類にのぼる成分が焙煎豆に含まれる。焙煎の初期にまず生豆中の水分が蒸発し、その後一連の焙焦反応と呼ばれる反応が起きる。多糖やタンパク質はこの過程で加熱分解され、それぞれ低分子の糖類やアミノ酸を生じ、様々なコーヒーの味と香りを生み出す。クロロゲン酸がこれらの分子と共に加熱されることで褐色色素が生じ、コーヒーの色を生み出す。この他、糖類のみの加熱により生じるカラメルや、糖類とアミノ酸によるメイラード反応なども色素の生成に関与する。これらの色素はコーヒーメラノイジンと総称される。コーヒーの揮発性成分としては約900種類の化合物が同定されており、苦みを与える成分となるフェニルインダンは焙煎済のコーヒー内に含まれるその他のどの化合物よりも、アミロイドβとタウの脳への蓄積を阻害する働きを持つことが判明している。
中でもコーヒーの香りに大きな寄与をしている成分としては以下のものが知られている。甘い蜜様の香りを持つβ-ダマセノン、コーヒーの特徴的な香りを持つ2-フリルメタンチオール、トロピカルフルーツ的な香りを持つギ酸3-メチル-3-スルファニルブチル、カラメル様の香気を持つフラネオール、ホモフラネオール、ソトロン、ホモソトロン、木クレオソート様の香りを持つグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、醤油様の香りを持つメチオナール、ナッツ様のロースト香を持つ2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、バニラ様の香りを持つバニリンなどである。ダマセノンはカロチノイドの分解により、グアイアコール類とバニリンはリグニンの分解により、カラメル様の香りの化合物は糖類の分解により、ピラジンなどその他の化合物は糖類とアミノ酸からメイラード反応で生じるとされている。これらの分子はすべて、苦味や酸味、甘味などのコーヒーの味を決定する上でも重要である。
最終的に飲み物であるコーヒーの抽出液には、これらのうち水溶性の比較的高い成分が溶出される。抽出されたコーヒーは0.04%程度のカフェインを含むが、それ以外の多くの成分については詳細が不明なため研究が行われている[96]。
これらの成分はコーヒーの複雑な味と香りを生み出すだけでなく、覚醒作用に代表されるようなコーヒーのさまざまな作用の原因にもなる。
コーヒーを摂取後、数分から数時間に出てくる代表的な作用として次のものが挙げられる。これらの急性作用は遅くとも一日以内には消失するものであり、健常時には特に健康上の問題を引き起こすことはないと考えられている。しかしながら過度に摂取した場合やそのときの体調によっては、一過性に問題を起こすことがある。また、特に消化器疾患、高血圧、パニック障害などの疾患がある場合など、特定の患者や病態によっては、これらの通常は無害な作用が有害に働くことがある。
健康な一般成人の場合、カフェインを1日当たり400mg以上を摂取しないようカナダ保健省は勧告している[105]。
2021年6月24日に Nutritional Neuroscience によって発表された研究では、コーヒーを飲みすぎると(カフェインの有無にかかわらず)認知症のリスクが高まる可能性があることがわかった。ハーバード大学医学部では、1日あたり最大1.2リットルで停止することを推奨している。 1.4リットル以上飲むと脳に害を及ぼす可能性がある。 研究者たちは、コレステロールを増加させる可能性のあるカフェストールが原因である可能性があると指摘している[106]。
コーヒーは発見当初から眠気防止や眠気覚まし、疲労回復などの作用を持つことに注目されてきた薬用植物、精神刺激薬である[注 3]。一方で、コーヒーが過度の刺激剤や興奮剤として働く可能性を指摘し、敬遠する人も存在している。
コーヒーには軽度の習慣性があるとされる。これはカフェインによる作用だと言われている。カフェインにはその苦みに対する感受性が高い人間に軽い依存症を引き起こす働きがあるという。ノースウェスタン大学の研究チームによれば、苦味成分の一種であるキニーネやプロピルチオウラシルに対する感受性が高い遺伝子を持つ人たちには、コーヒーの摂取量が少ない傾向がみられており、研究チームは「コーヒーを飲む人たちは、カフェインによって引き起こされる肯定的な影響(刺激)を学習し、カフェインを好む(検知できる)ようになったと考えられる」と説明している[注 4]。そして研究チームはその習慣性が心理現象である可能性が含まれていることを指摘している[108]。加えて同大学の遺伝科学者チームは「カフェインに対する人の好みはその味によるものではなく、摂取後の感覚から生じている」可能性があるとしている[注 5][109]。
また一日に300mg以上(コーヒー3杯に相当)のカフェインを常用する人には、カフェイン禁断頭痛と呼ばれる一種の禁断症状が現れることがある。これは最後のカフェイン摂取から24時間以上経過すると偏頭痛様の症状が現れるものである。このカフェイン禁断頭痛は症状が現れてから、カフェインを摂取することで30分以内に消失するが、カフェインを摂取しない場合は2日程度継続する。ただし、これらの症状は麻薬類やニコチン、アルコールと比較して、きわめて軽微なものだと考えられており、規制や年齢制限などは必要ないと考えられている。
コーヒーを長期間に亘って飲用した場合についても、多くの疫学的研究が古くから数多く行われてきた。1980年までには「コーヒーが体に悪い」という視点からの報告が多かったが、それらの研究の多くは1990年代に、より精度を高めた追試によって否定されている。一方、1990年代からは「コーヒーが体に良い」という視点からの研究もなされている[110]。
2015年5月7日、日本の国立がん研究センターなどの研究チームがコーヒーおよび緑茶を日常的に摂取する人が、そうでない人に比較し病気などで死亡するリスクが大幅に低減するとする調査結果をまとめた。調査は19年間にわたる追跡で日本全国の40-69歳の男女約9万人に対し行われ、他の生活習慣などと合わせ質問し、コーヒーおよび緑茶を1日にどれだけ摂取するか、というものであったが、その結果コーヒーを1日に3 - 4杯飲む者はほとんど飲まない者に対し、死亡リスクが24%低かった(緑茶=1日1杯未満の者に対し、1日5杯以上飲む男性で13%、女性で17%低減。死亡リスクにかかわる年齢及び運動習慣などは影響を与えないよう統計学的に調整済み)。19年間では約13,000人が死亡していた。同チームは、調査結果の原因をコーヒーに含まれるポリフェノール、緑茶に含まれるカテキンによる血圧降下作用、両方に含有されるカフェインが血管や呼吸器の働きを高めている可能性を指摘した[113][114][115]。
IARCは、従来コーヒー酸とコーヒー(膀胱癌のみ)を「グループ2B:発がん性があるかもしれないもの」、としていた[116]が、2016年6月に発がん性を示す決定的な証拠はないとの発表を行った。またそれと同時に、65°C以上の熱い飲み物自体が食道癌の観点から「グループ2A:恐らく発がん性があるもの」に分類された[117][118][119]。これにより「コーヒー(飲用)」は、「グループ3:発がん性を分類できない」に分類された。評価文書は準備中である。コーヒー酸の評価は2Bのままである[117]。
国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部(津金昌一郎、田島和雄ら)の調査により、肺ガン抑制効果が確認された。これは約10年間にわたる40 - 60歳代の男女約9万人に対する追跡調査で、計334人が肝細胞がんと診断され、コーヒーの摂取と肝細胞がんになるリスクの関係を統計的に分析した。日常的にコーヒーを飲む人が肝臓がんになる率は10万人当たり約214人で、ほとんど飲まない人の場合は約547人。1日に1〜2杯の人よりも、3〜4杯の人の方がリスクが減ったとされ、研究チームはコーヒーに含まれる抗酸化作用をもつ成分の影響かとしている[120]。ただし、津金昌一郎研究部長は2008年、「いずれにせよまだ研究途上」と語っている[121]。
この他にも、経験的に言われている効用、さらには風説の類いまで含め、多くのコーヒーの作用が語られている。これらの中には、研究結果を誤解したもの、商用の宣伝目的と考えられるものなども含まれているため、他の健康ブームに乗った情報と同様、活用にあたっては注意が必要である。
コーヒーの生産で排出される温室効果ガスは多く、コーヒー1kg生産すると温室効果ガスが28.53kg排出される計算になる。肉生産と比較した場合、牛肉99.48kg、豚肉12.31kg、鶏肉9.87kgと豚肉と鶏肉より多く牛肉に次いで多くの温室効果ガスを排出している[133]。
コーヒーは歌曲の中で取り上げられることも多く、コーヒーそのものを題名に入れた曲も少なくない。
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