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ヒトの肥満度を表す体格指数 ウィキペディアから
肥満は、糖尿病、高血圧、脳血管障害、虚血性心疾患などの重要な危険因子である[2]。また痩せは、栄養不良や慢性進行性疾患などで生じることがある。どの程度の肥満や痩せがあるかを正確に評価して把握することは、それらの疾患の予防や治療のために役立つ。そして、この評価に基づいて、対策を実行し、効果を判定することは意義が大きい。そのための簡便な指標が望まれる。肥満の評価には、本来は、体脂肪率や体組成の計測が行われるべきであるが、それらの計測は通常は困難である(普及している体脂肪計は、両足の間の電気抵抗を測定するに過ぎない)。このため、身長と体重から、簡便に計算されるBMIが使用される。BMIの最も良い点は、たいていの人において、体の総脂肪量とよく相関することである[3]。
スポーツ界では、選手の過度な減量を防ぎ体重による有利・不利の差を少なくする目的で、スキージャンプやノルディック複合といったスキー競技の一部でBMIを用いた体重制限ルールを設けている。
体重の単位には (キログラム)、身長には (メートル)を用い、BMI の単位は である。体重が 、身長が の人のBMI(カウプ指数)は、
で表される。例えば身長 ()、体重 の場合、
となる。
BMIの計算式は世界共通であるが、肥満の判定基準は様々ある。
状態 | BMIの指標 | |
---|---|---|
低体重 (痩せ) | 未満 | 低体重 |
普通体重 | 以上、 未満 | 標準 |
肥満 (1度) | 以上、 未満 | 肥満 |
肥満 (2度) | 以上、 未満 | |
肥満 (3度) | 以上、 未満 | 高度肥満 |
肥満 (4度) | 以上 |
BMIは、満3か月-5歳の乳幼児に対して使われる。小児では、もっぱらカウプ指数と呼ばれる。
年齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
乳児(3か月以上13か月未満) | ||
幼児(満1歳-5歳) |
日本では、新生児〜生後3か月未満の乳児にはBMI(カウプ指数)は使わない。
状態 | 指標 |
---|---|
やせぎみ | 未満 |
ふつう | 以上、 未満 |
ふとりぎみ | 以上 |
日本では、乳幼児健康診査に際しては、身長と体重を、別々に、パーセンタイル曲線(成長曲線)で、評価している[10]。
世界保健機関WHOのワークショップは、乳幼児肥満の判定に、BMIを採用している(判定には、BMIのパーセンタイルを用いる)[11]。また、米国疾病予防センターCDCも、小児の肥満については、BMIを求めて、BMIのパーセンタイル曲線(File:BMIBoys_1.svg)で評価している[12]。
妊婦の体重管理にも用いられ、妊娠週数によって正常範囲も異なる[13]。
日本肥満学会では、妊婦のBMI値が、妊娠初期(5 - 16週)では 、中期(17 - 28週)では 、末期(29 - 40週)では を超える妊婦を肥満妊婦と判定する[14]。
週齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
16 | ||
20 | ||
24 | ||
28 | ||
32 | ||
36 | ||
40 |
この両方の基準を比較すると、妊娠17週の場合には、両者の過体重の基準は、BMIで ほど異なっている。身長 の妊婦の場合には、過体重の基準は、 ほども、異なっている。
『産婦人科診療ガイドライン2011』によれば、「妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少ない。したがって、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスが乏しく、慎重な姿勢が求められる。厳格に体重増加を指導する根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける」としている。また、National Collaborating Center for Women's and Children's Health(英国)のガイドラインでは、初診時に身長体重を測定して評価を行い、栄養状態に問題がある場合のみ定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では体重を測定すべきでないと述べている(定期的な体重測定にはメリットはなく、妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎないとしている)[15]。
「体重/身長2」からなる指数は、ベルギーの数学者、統計学者で社会学者であるアドルフ・ケトレーによって1835年に開発された[16]。その後、ドイツ(オーストリア)の衛生学者イグナーツ・カウプ (Ignaz Kaup) によって小児の発育指数として利用されるなどして普及し、1972年のKeysらの研究[17]によってこの指数が体脂肪率とよく相関することが明らかにされたことによって、身体組成研究分野における重要な指数として位置付けられ、以後、BMIと呼称されるようになった。1985年には、GarrowとWebsterの研究[18]によって、肥満度の代替指数としての有効性が検証された[19]。
喫煙しないアメリカ合衆国の白人男性及び白人女性のBMIごとに、10年後の相対的死亡リスクについては、右図のように、BMI:20-24.9が最も死亡リスクが低い[21]。
日本肥満学会では、BMI: 22の体重を標準体重(統計的に最も病気にかかりにくい体重)としている[22]。
例えば、肥満と糖尿病は関連があり、40 - 59歳の男性で、糖尿病が強く疑われる人の割合は、BMI18.5 - 22で5.9%、BMI22 - 25で7.7%、BMI25 - 30で14.5%、BMI30以上で28.6%であった。なお、加齢を重ねていない20-39歳の男性ではこのような大きな差は出ていなかった[23]。
厚生労働省の研究班(研究代表者=辻一郎東北大教授)による40歳代のBMIと平均余命を調査した研究で、太り気味 (25 ≦ BMI < 30)の人が最も長命である結果が得られた。「太り気味の人」に次いで、普通体重 (18.5 ≦ BMI < 25)の人、肥満 (BMI≧30)の人、やせた(BMI < 18.5) 人、の順で平均余命が高いことが判明した。なお、同じ研究で、医療費の負担は太っているほど重くなることも判明し、肥満の人が40歳以降にかかる医療費の総額はやせた人の1.3倍かかっていたという[24]。BMI 30 以上ではほぼ全ての人が脂肪肝であるが[25]、BMI 25 未満で且つ人間ドックの血液検査値に異常が無い群でも約30%が脂肪肝であったと報告され[26]、インシュリン抵抗性と食後高血糖が影響している可能性が指摘されている[27]。
2011年に『The New England Journal of Medicine』に発表された論文によれば[28]、日本人を含む100万人のアジア人を調べて、BMIが22.6 - 27.5の人が最も死亡リスクが少ないことを報告している。
2013年1月に、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した研究結果によれば、BMIで「過体重」に分類されたグループのほうが、「普通体重」とされたグループよりも死亡リスクが6%低かった[29]。一方で、BMIが35を超えると死亡率は普通体重に比べて29%増加する。
スウェーデンの男性160万人以上を対象とした調査結果からは、思春期の BMI は、将来の心不全リスクと正の相関があり、BMIの上昇とともにHF発症率が急峻に上昇するとの報告がある[30]。
ケトレーは統計学的手法によって「平均人(フランス語: l'homme moyen、英語: average man)」を示す指数として「体重/身長2」の関係を見出したが[16]、相似則に従えば重さ(体重)は長さ(身長)の3乗と相関するはずであり、事実、胎児の発育段階では相似則が保たれるため3乗と相関するローレル指数が適合する。しかし、成人では頭部の重量比率などが胎児や乳幼児とは大きく異なり、また、筋肉量に応じた放熱に必要な体表面積を確保するために相似にならない[19]。なお、アリの足は細くゾウの足は太いなど、生物は大きさに対して対称ではない。
多様な肥満の病態を、身長と体重の関係のみに抽象して算出されるBMIには、自ずから限界がある。
体型が全く同じ相似形であっても、身長が大きくなればBMIはそれに比例して大きくなる。BMIは体重(体積にほぼ比例する)を身長で2回割ったものであるから、長さの次元を持っているといえる。体型が同じでも、身長(長さ)が増大するとBMIも増大する。BMIは大人では22くらいが正常値であるが、3歳児では16くらいが正常値である(BMIは、カウプ指数と同じ)。BMIは身長の低い人では数字が小さくなるので、肥満を過小評価することになる。また過去数十年間に、大人の平均身長は増加傾向にあったが、BMIは肥満の経年変化を過大評価することになる。
体脂肪率は考慮されていないため、例えばトップ・アスリートやボディービルダーのような、筋肉質で高体重で体脂肪率は低い場合は「肥満」と判定され、逆に隠れ肥満のような、体脂肪率は高いが低体重である場合には「痩せ」と判定されてしまう。また、メタボリックシンドロームと判定された人が、運動を行って脂肪を筋肉に変えると、体重は増加し、BMIは増加して、肥満は悪化したと判定されてしまう。よって、激しい運動を伴う職業に従事する者に用いる場合には、体組成計で体脂肪率を測定した方が有効性は高い。
若年や高齢の男女を同じ指標で評価しているが、若い人ほど水分含有量が多く、女性の方が水分含有量が多い。同じ体型でも、水分含有量が多ければ、体重は軽く、BMIは小さい。
加齢の影響で、変形性脊椎症により、背骨(脊椎)の間の軟骨が磨り減ると、身長は短く計測される。また、背骨(脊椎)の圧迫骨折により円背が生じると、身長は短く測定される。いずれの場合も、体重は一定でも、BMIは増加する。
BMIには、上記のような問題が残されているものの、計算式が簡便なこともあり、成人の肥満の指標として多用されるものの一つとなっている。
BMIを改良した指標としてボディ・シェイプ・インデックス (A Body Shape Index: ABSI)がある[31]。腹囲をBMIの3分の2乗と身長の2分の1乗をかけた値で割ったものである[31]。この指標は体脂肪の分布も考慮に入れるために腹囲を計算式に入れている[31]。
英オックスフォード大学の数学者Nick Trefethen教授は、予てより従来のBMIでは低身長の人が痩せ、逆に高身長の人は肥満という結果になりうることを指摘しており、身長の2.5乗を用いる新しい式を2013年に提唱した[32]。
1.3を乗じることで従来の「18.5 - 24.9は平常値」「18.5未満は低体重」「25 - 29.9は過体重」「30以上は肥満」との基準値をそのまま使えるようになっている。
肥満の度合いの指数にはローレル指数がある。
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