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日本の気象庁が1 m超3 m以下の津波に対して発表する警報 ウィキペディアから
津波警報(つなみけいほう)とは、地震の発生により気象庁から発表される津波に関する警報の一種。津波の予想される高さが1m超3m以下の場合(発表基準)において、予想される津波の高さ「3m」として発表される[1]が、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震規模がわかるまで数値ではなく「高い」と表現される[1]。
日本の気象庁が発表する津波の情報 | |
主情報 | 詳細情報 |
大津波警報 | |
津波警報 | 津波情報 |
津波注意報 | |
津波予報 |
気象業務法(昭和27年6月2日法律第165号、以下本節では単に「法」)は「気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象、津波、高潮、波浪及び洪水についての一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならない」(法13条1項)とし、「気象庁は、前二項の予報及び警報をする場合は、自ら予報事項及び警報事項の周知の措置を執る外、報道機関の協力を求めて、これを公衆に周知させるように努めなければならない」(法13条3項)とする。
津波警報の発表と解除について気象庁は直ちに警察庁、国土交通省、海上保安庁、都道府県、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)又は日本放送協会(NHK)の機関に通知しなければならない(法15条1項)。気象庁から通知を受けた警察庁、都道府県、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の機関は、直ちにその通知された事項を関係市町村長に通知するように努めなければならないとする(法15条2項)。津波警報について通知を受けた市町村長(公衆及び所在の官公署に対する周知)、国土交通省(航行中の航空機に対する周知)、海上保安庁(航海中及び入港中の船舶に対する周知)、日本放送協会(放送による周知)は法による周知義務を負っている(法15条3項〜6項)。
混乱防止の観点から気象庁以外の者が津波の警報を出すことを原則として禁じている(法23条)。ただし例外規定が設けられており、政令により「津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けることができない辺すうの地の市町村の長が津波警報をする場合及び災害により津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けることができなくなった地の市町村の長が津波警報をする場合」については例外的に市町村長が津波の警報を出すことを認めている(法施行令8条)。なお、法23条の規定に違反して独断で津波の警報を出した者は最高50万円の罰金に処せられる(法46条6号)。
なお、防災行政上、「発表」と「発令」は明確に区別されており、気象庁は津波警報や津波注意報を「発表」している[2][3]。内閣府の避難勧告等に関するガイドラインでも、気象庁の津波警報等については「発表」、それに基づく市町村からの避難指示については「発令」としている[4]。
津波警報は予想される津波の高さが1m超3m以下である場合において予想される津波の高さ「3m」として発表される[1](なお、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「高い」と表現される[1])。予想される津波の高さが3mを超える場合においては大津波警報が発表される[1](数値で発表される場合、「5m」「10m」「10m超」に区分されるが、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「巨大」と表記される[1])。一方、予想される津波の高さが1m以下であるときは津波注意報が発表される[1]。
発表基準 | 予想される津波の高さ | ||
---|---|---|---|
数値での発表 | 巨大地震(M8超) | ||
大津波警報 | 10m<予想高さ | 10m超 | 巨大 |
5m<予想高さ≦10m | 10m | ||
3m<予想高さ≦5m | 5m | ||
津波警報 | 1m<予想高さ≦3m | 3m | 高い |
津波注意報 | 0.2m≦予想高さ≦1m | 1m | (表記しない) |
以上の津波注意報・津波警報・大津波警報の区分は2013年3月7日改正されたもので[1]、以前は津波警報は「津波警報(津波)」と「津波警報(大津波)」に区分されており「大津波警報」の名称は2013年3月7日の改正で正式採用されることとなったものである[5]。2013年3月7日改正前は津波警報での予想される津波の高さは「1m」と「2m」に区分されていたが、東北地方太平洋沖地震後の改善の議論を経て「3m」という形に集約されることとなった(歴史も参照)。
気象庁はあらかじめ、津波を発生させる可能性のある様々な地震を想定し、それぞれの地震による津波発生パターンをシミュレーションし、約10万件の津波予報データベースを保存している[6]。データベースに登録されているのは、日本付近の様々な位置の震源断層における、様々な震源の深さ・マグニチュードの地震に対応した、予報区ごとの津波の高さと到達時間である。震源断層の向きは過去の地震を参考に決め、断層の傾きは45°の逆断層としてシミュレーションしている[7]。
実際に地震が発生したときには、まず震源の位置と規模を求め、それに最も近いパターンを津波予想データベースから検索して、地震発生後約3分で津波警報・注意報の発表をする[1][7]。また、「津波到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報」として、津波予報区ごとの津波の到達予想時刻と高さを発表する。同時に「各地の満潮時刻・津波の到達予想時刻に関する情報」として、地点ごとに津波の到達予想時刻と満潮時刻の情報を発表する。さらに津波が観測された場合には、「津波観測に関する情報」として、実際の到達時刻と津波の高さを発表する。
以上のように津波情報伝達においてはかなりの迅速化がされているものの震源が海岸にほど近い地点であった場合は地震発生から1〜2分以内にあるいは発生後揺れが収まらないうちに津波が到達することもあり、今後も警報・注意報の発表が津波到達時刻に間に合わない事例の発生が考えられる(現実に、津波警報等の発表の時点で第1波の到達予想時刻が「すでに到達と推測」となっていたケースは、津波予報データベースを構築した1999年以降でもいくつか存在する)。それゆえに海岸付近の住民は揺れを感じたら津波警報の発表を待つまでもなくすぐに津波の襲来を考えて、安全な高台に避難することが第一優先といえる。気象庁でも「震源が陸地に近いと津波警報が津波の襲来に間に合わないことがあります。「揺れたら避難」を徹底しましょう」としている[1]。
気象庁では、津波警報[注釈 1]が発表された場合に想定される被害は「標高の低いところでは津波が襲い、浸水被害が発生する。人は津波による流れに巻き込まれる」[1]とし、とるべき行動は「沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所に避難してください。津波警報が解除されるまで安全な場所から離れないでください」[1]としている。また、中央防災会議の津波避難対策検討ワーキンググループが取りまとめた報告では、津波警報の場合に避難が必要な範囲について「標高の低い場所や沿岸部にいる場合など、自らの置かれた状況によっては、津波警報[注釈 1]でも避難する必要がある」と記載されている[8]。
テレビ番組・中継内での各種情報(終了した番組・中継を含みます)は、DVDやBlu-rayなどでの販売や公式なネット配信、または信頼できる紙媒体またはウェブ媒体が紹介するまで、出典として用いないで下さい。 |
津波警報が発表された場合には緊急警報放送が行われる(放送法施行規則82条)。
大津波警報 | 津波警報 | 津波注意報 | その他 | ||
---|---|---|---|---|---|
(現在の表示方法) 統一基準採用後の 表示形式 [注釈 2] | NHK 及び 民放各局 |
■紫色
ライン幅を |
■赤色 |
■黄色 |
|
統一基準採用前の 旧表示形式 | NHK | ■■ 赤白色 | ■ 赤色 | ■ 黄色 | |
NNN | ■ 紫(桃)色 | ■ 赤色 | ■ 黄色 | ||
ANN | ■ 赤色 | ■ 橙色 | ■ 黄色 | 一部解除された部分を■水色で示す。 | |
JNN | ■ 赤色 | ■ 紫(桃)色 | ■ 黄色 | ||
TXN | ■ 橙色 | ■ 赤色 | ■ 黄色 | 一部解除された部分を■水色で示す。 | |
FNN | ■ 赤色 | ■ 紫(桃)色 | ■ 黄色 |
民放各局でも津波警報[注釈 8]、津波注意報が発表された際には日本地図の海岸部分に津波予報区ごとに色分けして警報・注意報発表の旨を伝える。2011年夏期以降はNHK・民放各局の統一基準により、大津波警報を 紫色、津波警報を 赤色、津波注意報を 黄色、地図背景を 灰色、海を 濃い青色としている[15](色の統一の経緯については津波警報の#歴史も参照)。
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CS放送では、チャンネルにより対応が異なっている。
上記以外のチャンネルは原則として左上(チャンネルによっては右上)に津波警報[注釈 10]発表中を示すアイコンを表示するのみである。
ただし以下のように、CS放送でも一部のチャンネルでは津波警報を画面表示した例がある。
津波警報のシステムは1952年4月1日より開始された。開始当時、発表に要する時間は数十分であり、警報により伝達される内容も、部外者には分かりにくい電報書式だった。この書式は、予報対象区それぞれに対し、ツナミナシ、ツナミオソレ、ヨワイツナミ、オオツナミ、ツナミカイジョ、を伝達するものであった。このシステムにより伝えられた津波警報の実例は、1983年の日本海中部地震のものがある。同地震では地震の発生から14分で大津波警報が発表されたが、一部の沿岸にはそれよりも早く7分後に第一波の津波が到達した。また、緊急時の情報伝達の表現自体も問題となった。具体的には、同地震において「5区(東北地方日本海沿岸・陸奥湾) 大津波」を意図していた“ゴクオオツナミ”との表記が、対象自治体の一部により「極大津波」と誤解された。
1985年になると、放送局(主にNHK)が緊急警報放送を行うようになった。これは、津波警報が発表されると緊急警報放送を行うものである。このシステムの下での警報は、1993年に起こった北海道南西沖地震において実施された。しかし同地震では5分で津波警報(大津波)が発表されたものの、奥尻島には津波警報発表とほぼ同時、またはそれよりも早く津波が到達した。さらに、実際の発表時には、津波の高さに関して高をくくり、犠牲になった住民も多数いた。これは、放送局が「気象庁からの予報文をそのまま読むことが規定されていた」ためである[注釈 11]。これらの地震津波による被害は甚大で、さらなる時間短縮および予報文の変更が求められた。
これらを踏まえ気象庁は1999年4月1日、独自開発した新しい津波の予報システムを導入した。それは、あらかじめコンピュータで様々な規模の地震をシミュレーションしてデータベース化し保存しておくというものである。データベース化される内容は、津波がどの地域にどれほどの時間でどれくらいの高さで到達するかという計算結果である。そして地震が起きた際には、即座に当該地震の規模・震源の位置を割り出し、上記データベースから当該地震と最も似たパターンの地震を検索し、津波の発生の有無を特定する。そして、当該地震において津波の到達が予測される場合には、修正を加えて発表する、というものである。これにより発表に要する時間は3分程度に短縮された。また、本予報システムの導入に併せ津波予報区[注釈 12]が18から66に細分化された。加えて、発表される津波の高さも8つの区分に見直された。一方、放送局から送出される気象庁からの予報文も見直された。具体的には、「場所によっては予報より高い津波が来襲する」とか「津波は1回目よりも2回目以降の方が高くなることがある」など、素早い避難を促す文言が、放送局側によって付け加えられることとなった。
前述の1999年の導入時には、地震の規模、震源の位置の割り出しに1、2分はかかるため、これ以上の時間短縮は難しいとされていた。そのなかで、2006年10月2日からは、緊急地震速報の技術を活用することにより最速2分以内に津波警報等を発表することが可能となった(一部の地域のみ)。この運用が行われた11例[注釈 13]のいずれにおいても、NHKは地震発生後の報道特別番組への切り替えの前に津波注意報及び津波警報を報じ始めた[注釈 14]。さらにそのうちの6例[注釈 15]の場合は津波警報・注意報発表と同時に緊急警報放送を実施することができた。
2007年11月28日からは、細かな海底地形を考慮するなどして、津波データベースが一層更新されている。それでも、気象庁が使用しているシミュレーションの予測精度には限界がある。その一つの要因が、計算の前提となっている地震として「傾斜角45度の逆断層型」のみが想定されている点である。このため、実際の地震が「横ずれ断層型」であった場合には、予測される津波高さが過大となり、実測される津波は小さくなる。実際、2002年に発生した石垣島近海での地震において、津波高さ予測は2mであったものの、実際には潮位が微小に変化しただけとなった。別の要因として、気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードの違いを挙げることができる。気象庁マグニチュードよりモーメントマグニチュードが小さくなるような地震では、一般に、実測される津波が津波高さ予測よりも小さくなる。
これを受け、2007年7月2日より、津波警報の早期解除を行える運用を開始した。この解除は、地震発生後に予報システムにて津波警報を発した後、地震発生後10から20分程度の間に地震発生メカニズムを解析を進め、津波の第1、2波の監視した結果に応じて判定される。なお横ずれ断層の解析の対象海域が当初は南海・東南海・東海海域のみであったものの、2008年3月27日からは、千島海溝、日本海溝の周辺海域にまで拡大されている。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、実際に観測した津波の高さが、津波警報で予測した津波の高さを大きく上回る事態となった。その原因について気象庁は、「国内のほとんどの広帯域地震計が振り切れたためCMT解を計算できなかったこと[注釈 16]」「迅速に地震の規模や震源域の広がりが推定できる手法を開発していたものの東北地方太平洋沖地震の発生に間に合わなかったこと」を挙げている[16]。
津波警報がオオカミ少年効果をもたらして被害を拡大したことも指摘された。三陸海岸では10年以上にわたって実際に来襲した津波高さが低く[17]、特に住民に影響を与えたと言われるのが直近の2010年のチリ地震で、この際には東北地方太平洋沖地震の初動の予測と同じ3mの警報が出されていた地域もあったものの、実際の被害は軽微であった。こうした事態が相次いだことで被災地域では津波警報の信用が低下し恐れられなくなっていた[18][19][20]。
このことから気象庁は、M8を超える巨大地震と判断できるときには、当該海域で想定される最大マグニチュードの値に基づいて大津波警報や高さ予想を出すと発表した[21]。
具体的には、M8に近い規模までの地震については、予想される津波の高さ予測を「細分化されすぎ」ていた8段階から、予測誤差を考慮した防災対応とリンクさせやすい5段階程度に変更し[注釈 17]、M8を超える巨大地震と判断できるときには過小評価のおそれがあることから数値として発表するのではなく、定性的な(具体的な高さを明示しない)「巨大な津波のおそれ」と一般的表現としたり、東北地方太平洋沖地震も含め過去の津波被害を引用するなど、津波警報発表地域の住民に災害が具体的にイメージできるような表現とすることを検討していた。また、「津波観測情報」における第一波観測の情報についても、巨大地震になれば最大波は第一波の10倍以上に匹敵するおそれもあるため、避難行動に抑制がかからないような内容で発表することを検討していた[22]。
これらの検討を踏まえて2013年3月7日正午をもって従来の津波警報は改正されることとなった[1]。
気象庁が発表する津波警報には「大津波警報」、「津波警報」の2種類がある一方、市町村から発令される避難指示・避難勧告の対象範囲は、ほとんどが最悪ケースを想定して過去最大の津波による被害想定地域に設定(1段階に限定)されている。この結果、津波警報と避難指示・避難勧告の対応関係に齟齬が生じている。つまり、津波警報が発表された場合も大津波警報が発表された場合も、同じ地域に避難指示・避難勧告が発令されてしまう。このような齟齬が続くと、津波警報に基づく避難指示・避難勧告はオオカミ少年効果をもたらし続ける(津波警報や避難指示・避難勧告の信用が低下する)ことになり、肝心の東南海・南海地震のときに避難をしなかったり避難が遅れたりして、多くの犠牲者を出すという悲劇につながりかねないことから、「大津波警報」、「津波警報」という津波警報の種類に応じた避難対象地域(ゾーニング)の必要性が指摘されている[23]。なお、津波警報-避難勧告間と同様の齟齬は津波注意報(居住区からの避難は不要)の場合にも生じている。
このような「防災情報に対する過剰対応の問題」や「津波警報の種類に応じた避難対象地域の必要性」については東日本大震災以前から政府内でも言及されており[24]、大津波警報・津波警報に対する2段階などの避難対象地域を示したハザードマップ[25][26]を作成し周知するなど[27]、今後解決すべき課題が残っていることが政府の中央防災会議においても指摘されている[28]。
2022年1月15日に発生したフンガ・トンガ噴火では、当初気象庁は日本への津波の影響はないとしていたものの[29]、津波警報の発表基準の1mを超える潮位変化が観測された[30]。この潮位変化は、通常の津波の伝播速度から予想される到達時刻より数時間早く観測するなど、通常の津波とは異なる性質を有していたものの、防災上の観点から津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけることとし、太平洋側の広い範囲に津波警報・注意報が発表された[31]。気象庁はその後の解析で、この潮位変化は噴火に伴って発生した大気擾乱が気圧波として伝播し、その気圧波との共鳴や海底の地形との増幅などの要因により潮位変化が起こったと推測されるとした[32][33]。
この事例を受けて気象庁は、同年4月に大規模噴火が発生した際の情報発信の運用改善を発表した。具体的には、当面は「遠地地震に関する情報」を活用して情報発信を行い、ラム波と呼ばれる300m/s程度の最も速い気圧波によって想定される潮位変化の時刻を発表することとした[32][34]。
現在の津波警報システムでは、指定地点毎の到達予想時刻と最大波高の予測は行えるが、海岸全体での最大波高や浸水域の予測は困難である。この問題を解決するため、次世代の警報システムが開発途上である。
新システムでは、各種観測データからリアルタイムで波源を推定し到達する津波が及ぼす被害までを計算しようとするもので、いくつかの機関により実用化に向け開発が行われている。一例は、国交省と港湾空港技術研究所のリアルタイム津波ハザードマップである。このシステムは、事務処理など汎用的に使用されているCPUでは無く浮動小数点演算を得意とするGPUを演算処理に使用し、GPS波浪計の数分間の観測データから波源域を推定し更に浸水域のハザードマップを作成するものである[35]。
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